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No.35457の一覧
[0] 【ネタ】魔法先生ネギま!351.5時間目的な逆行物の導入だけを書いてみた(多重クロス)[Leni](2016/01/16 17:35)
[1] 第一幕「2025・7/1」(前)[Leni](2014/07/17 12:35)
[2] 第一幕「2025・7/1」(後)[Leni](2012/10/13 11:01)
[3] 第二幕「1997・7/1」[Leni](2012/10/13 14:03)
[4] 【ネタ】逆行物の導入を終えたのになぜか迷子になった野良精霊の動揺を書いてみた[Leni](2012/10/15 15:26)
[5] 導入ですでに話の目的が達成されて書くことがなくなった第四話[Leni](2014/07/17 16:00)
[6] この主人公は魔改造なのか351時間目の順当なアフターなのか(クロスもあるよ)なその五[Leni](2014/07/19 00:40)
[7] 六:スカイウォーカー・フロム・コウガ(前)[Leni](2014/07/21 07:19)
[8] 六:逆行・トリップものは主人公以外に同条件キャラがいると作品の魅力半減するよね(後)[Leni](2014/08/04 12:43)
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[35457] 六:逆行・トリップものは主人公以外に同条件キャラがいると作品の魅力半減するよね(後)
Name: Leni◆d69b6a62 ID:df6b2349 前を表示する
Date: 2014/08/04 12:43

出席番号20番 長瀬楓

基本、放浪人生修行人生の長瀬楓。
修行の結果、生身で宇宙を渡れるようになった。
クラスメイトの危機とあれば真っ先にどこからともなく駆けつける、宇宙時代の頼れる忍者である。





 雷の魔法によって荒らされた夕刻のアキバ・ストリートに風が吹き付ける。ニンジャのツジギリめいた凶行によって作り出された死体から漂う、むせかえるような血の臭いがストリートをより一層非日常へと飾り立てていく。

 そんな非日常の戦いの場に新たにエントリーしたのは、長身長髪の女。赤黒い衣装を身に纏い、首に巻いたマフラー状のメンポを血臭の風でたなびかせている。

 特徴的な糸目の顔は、年の頃二十の半ばほど。だが、彼女が私の知る彼女なら、見た目通りの年齢ではない。大陸に渡り仙人の力を得て、不老不死めいた神秘の力を身に宿しているはずだ。なおその胸は豊満であった。

 彼女は忍者だ。甲賀中忍。あらゆる忍術と体術を極めた、宇宙最強の忍者。長瀬楓だ。

 何故。何故私の知る長瀬がここにいるのか。時虚遺伝詞を操る何らかの忍術で時間を辿り、偶然私と巡り会った? いや、それはおかしい。ここは私の居たあの世界とは別の平行世界なんだ。

 ではこの長瀬はこの世界の未来から来た長瀬なのか? それもまた違う。彼女のマフラー状のメンポの下、忍者装束の襟元には、私に見せつけるかのように白いピンバッジが付けられている。

 かつての戦友の証。ネギま部の部員に与えられた白い羽根のバッジ。『白き翼』の団員証だ。それを持つ長瀬が、幼い千雨でなく私を見て「千雨殿」と言ったのだ。

 私の脳裏に遠い昔の記憶が蘇る。麻帆良学園女子中等部、その卒業の日。長瀬は言った。「誰かの身に危機が迫れば、遠くから拙者が助けに入ろう」ネギ先生が先生でなくなった日に、長瀬は先生の代わりにクラスメイト達の守人となったのだ。

 そんな長瀬が、世界に見切りをつけた私の元へ助けに来てくれたのだろうか。はたして長瀬は私の知る長瀬なのか。

「どうやら間に合わず重傷のようでござるが……、治癒は千雨殿の専門でござったな。あのニンジャは拙者が引きつけておくので、自己治療で頼むでござる」『あっ、おい』問いただす間もなく長瀬は私へ一方的にまくし立てると、前へと向き直った。

 長瀬はするりと一歩前へ出る。その動作に、対峙する女ニンジャが警戒の色を深めた。だが長瀬は気に求めず、すっと背筋を伸ばし胸の前で両の手を合わせた。そして、手を合わせたまま綺麗に腰を折り頭を下げた。これは、オジギだ。

「ドーモ。はじめまして。コウガ・ニンジャです」女ニンジャへ向けて、アイサツをする長瀬。対する女ニンジャは、これまた長瀬と同じように両手を胸の前で合わせ、深々とオジギをした。

「ドーモ。コウガ・ニンジャ=サン。シスター・マリィです」アイサツを返す女ニンジャの声には、わずかな緊張が感じられた。「あんたは……本当にニンジャなのか?」かすかに震える声で長瀬へと問いかける女ニンジャ。

 彼女達二人が交わしたのは、イクサの前のアイサツ。それは、ニンジャが戦いの前に必ず行う礼儀作法であった。この世界の古事記にも書いてある。そのアイサツを長瀬の方から行ったのだ。この世界独自の作法。それを行うこの長瀬は忍者ではなくニンジャなのか?

「いかにも」女ニンジャの問いに対し、長瀬は意気揚々と答えた。「甲賀中忍、長瀬楓」彼女はまさしく私の知る長瀬だった。

 甲賀。それは、私の居た世界の日本にあった忍者の流派だ。ニンジャが古代の神話上の存在でしかないこの世界に、戦国の世に生まれた甲賀流などあろうはずもない。すなわち彼女は忍者なのだ。

「天下の往来でのこの惨状……オヌシがやったでござるか」ストリートに転がる死体の山を一瞥し、長瀬が問う。「ああ、そうとも。私がやった」笑いながら女はそう返した。

「なにゆえこのようなことを」「ははは! あんたもニンジャソウルを宿した身ならわかるだろう。カラテを試したのさ!」なんということか。先刻も彼女は言っていた。ニンジャの力を手に入れたからカラテの力試しをすると。

 彼女は“重甲狩り”シスター・マリィ。指名手配中の犯罪者だ。そんな悪人が、どういうわけか神話存在であるニンジャの力を手に入れたのだ。その結果生まれたのが、このツキジめいた光景だというのだ。

「やはりニンジャソウルは悪しき存在でござるな……。シスター・マリィ=サン許すまじ。ニンジャ殺すべし!」長瀬のその言葉と共に二人は向かい合い、互いにイクサの構えを取った。

 先に動いたのは長瀬だ!「イヤーッ!」拳の届かぬその距離を生かした手裏剣の投擲だ。様子見とばかりにその数はわずか一つ。「イヤーッ!」シスター・マリィはその手裏剣を手刀で軽々と弾いた。そう、彼女の手刀は鋭い矛にして対軍魔法『千の雷』すらも弾き返すほどの無敵の盾なのだ。

「イヤーッ!」続けざまに手裏剣を放つ長瀬。その数は十を超えている。「イヤーッ!」またしても手刀で叩き落とすシスター・マリィ。修行を重ねた長瀬の手裏剣は、今や飛竜すらも一撃で撃ち落とす威力を持っている。それすらもシスター・マリィは軽々と弾いてしまうのだ。

「ふむ、不意打ちでもないと当たらない、か」「私のヌキカラテの前に飛び道具など無力よ」「やれやれ、まるで神鳴流でござるな」そんな会話を続けながらも長瀬は手裏剣を飛ばし、シスター・マリィは手刀で手裏剣を叩き落とす。

 攻守は入れ替わらない。シスター・マリィが手裏剣を避け距離を詰めようとするも、長瀬は軽やかに飛び上がり一定の距離を保つ。

 長瀬が空を駆ける。宙を蹴り何も無い空中を走り回りながら手裏剣を飛ばす。まさしくスカイウォーカー。彼女は空中どころか、真空の宇宙空間ですら足を使って走り回る空の忍者なのだ。

「イヤーッ!」宙を飛び回る長瀬からマシンガンめいた手裏剣の嵐がシスター・マリィへと飛来する。「イヤーッ!」さすがのシスター・マリィもこれには一歩も動けず、手刀を扇風機のように回して迎撃する。

 なおも長瀬は嵐のような手裏剣の投擲を続ける。「イヤーッ!」手裏剣!「イヤーッ!」手刀!「イヤーッ!」手裏剣!「イヤーッ!」手刀!「イヤーッ!」手裏剣!「イヤーッ!」手刀!「イヤーッ!」手裏剣!「イヤーッ!」手刀!

 膠着状態に陥ったかに見えたその瞬間、長瀬がシスター・マリィの背後を取った。長瀬の身体に強烈な気の力が集中していく。彼女の手にあるのは身の丈ほどもある手裏剣。彼女の得意武器、巨大手裏剣だ!

「イヤーッ!」海を二つに割る、そんな気の込められた手裏剣の一撃!「イヤーッ!」しかしなんということか。シスター・マリィは手刀による真剣白刃取りで巨大手裏剣を押さえ込んだではないか。ゴウランガ! 息をつかせぬ力の応酬! これがニンジャと忍者の戦いというものか。

 恐るべき二人のワザマエ。真似事の西洋魔法と風水が使えるだけの私がニンジャに挑んだことが、いかに愚かで無茶であったのかが今の戦いでわかる。ニンジャとはまさに神話の生き物なのだ。

 私がかつて魔法世界を訪れたときのこと。“千の刃”ジャック・ラカンが現代兵器と魔法使いの強さを表にして見せてきたことがある。当時は頭の悪そうな表と一笑に付したものだが、実際に戦いに身において実感できるものがある。表で表せるような絶対的な力量差が私とニンジャの間には存在するのだ。

 この女ニンジャ、シスター・マリィの強さは近代兵器イージス艦を遥かに超え、魔法世界の軍略兵器である鬼神兵に匹敵するほどのものだ。そんな存在に対抗できるのは、それこそラカンのような戦争の英雄か……長瀬のような絶対強者だけなのだ。

 手裏剣と手刀による攻防は長瀬の一方的な攻撃が続いたが、シスター・マリィは傷一つついておらず戦況としてはまだ五分といったところ。

「恐るべきスリケンさばきね。カラテの修練に実際役立つわ」巨大手裏剣をストリートの脇に放り投げながらシスター・マリィが言う。対する長瀬は、空中を歩きシスター・マリィとの距離を保つ。

「カラテのワザマエがオヌシの強みにござるか。しかし貫手など近づかねば恐れるに足らず」「ハハハ! 確かに近づけなければ貫手は当たらない。だが、ヌキカラテだけが私の力ではない!」そう言うや否や、シスター・マリィは天に右手を掲げた。

 宙に手を向けたシスター・マリィの周囲の空間が、突如歪み始める。霊的な魔力の波動が物質界へと干渉していく。「フォームアップ!」シスター・マリィの言葉と共に、彼女の周囲に漂っていた魔力が突如形を成し始めた。

 シスター・マリィの身体に金属がまとわりつく。それは装甲。パンツァーのまとう魔法の金属装甲だ。そう、彼女はパンツァー狩りの犯罪者にしてパンツァーなのだ。

「棺桶ニブチ込ンデヤル!」全身に装甲をまとったその出で立ち。それは先ほどまでの修道女の姿とはまるで違う、スモトリめいた巨漢の牧師の姿であった。「ドッソイコラー!」牧師の踏み込みが地面を揺らす。圧巻! これがパンツァーというものか!

「ドッソイコラー!」装甲の牧師は全身に膨大な量の気をたぎらせ、長瀬に向かって突進を始める。当然長瀬も黙って見ているわけではない。「イヤーッ」後ろに下がって竜をも落とす手裏剣の投擲だ!

「ドッソイコラー!」しかしなんということか。気に満ちた牧師の装甲の前に、手裏剣は浅く突き刺さるだけで止まった。「イヤーッ!」なおも長瀬は手裏剣を飛ばすが、全て気の装甲に阻まれてしまう。「ドッソイコラー!」手裏剣などお構いなしと突進を続けた牧師はとうとう長瀬の眼前にまで迫っていた。

 なんたる胆力。これがパンツァーの力を持ったニンジャなのか。「ドッソイコラー!」全身装甲の牧師はプロレスラーめいた動作で長瀬に組み付こうとする。「イヤーッ!」だが長瀬はそれを華麗な身のこなしで回避。さらに手裏剣をその場に投げ捨て迎撃の態勢に入る。

「イヤーッ!」気がこめられた長瀬のストレートパンチだ! 鋭い一撃は牧師の装甲をたやすくつらぬき、胸に大きな風穴を開ける。「むっ!」直後、私は牧師の異変に気づく。牧師の胸に開いた大きな穴。その中身ががらんどうなのだ。

 長瀬が呟く。「これは身代わりの術――」そのときだ。突然長瀬の足元が破裂した! 地面のアスファルトを貫いて出てきたのは、ボンデージ衣装に似たパンツァー装甲を身に纏ったシスター・マリィだ!「イヤーッ!」「ンアーッ!」不意を打ったシスター・マリィの手刀が長瀬の胸を貫いた!

「これぞ気と装甲を使ったブンシン・ジツ! パンツァースリケンよ!」恐るべしシスター・マリィの計略! 人型に形作った人型のパンツァー装甲を手裏剣として気を目一杯込めて長瀬に投げ、自身は地に潜り隙をうかがっていたのだ。

「なるほど、考えることは同じでござるか」「何!?」胸を貫かれ血を流す長瀬は不適に笑い、胸に突き刺さる手刀を両手で握りしめた。それと当時に、突然シスター・マリィの背後に新たな忍者が姿を現わした。新しい忍者はまさかの長瀬だ。

「イヤーッ!」「グワーッ!」新たな長瀬の蹴りが背に命中し、シスター・マリィを大きく吹き飛ばした。

 彼女の身体はストリートを何度もバウンドし、無人となっていたフートン露店を巻き込んでようやく止まった。シスター・マリィに胸を貫かれたはずの一人目の長瀬の姿はいつの間にか消えている。

「分身に気をこめ武器として使うのは見事でござった。しかし分身は自身と同じ姿でこそ。血を流し肉を持ち言葉を放てば、敵を欺くことなどベイビー・サブミッションでござる」露店の中で倒れるシスター・マリィに向かって淡々と長瀬が告げた。

「ザッケンナコラー!」露店に倒れるシスター・マリィが爆発した。いや、違う。露店の建材とフートンを粉々に吹き飛ばしてシスター・マリィが突進してきたのだ。

「ザッケンナコラー!」ヤクザめいたスラングを叫びながらシスター・マリィが長瀬に迫る。対する長瀬は空中を闊歩し距離を取ろうとする。「スッゾオラー! イヤーッ!」長瀬を追うように今度はシスター・マリィが手裏剣を投擲した。

 いや、よく見てみるとあれは手裏剣ではない。手の平大の十字架だ。あの十字架はおそらくパンツァーの武器である“ツール”。シスター・マリィは十字架を武装デザインの基本とするジーザス系パンツァーなのだ。

「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」投擲投擲投擲! 先刻のお返しとばかりに投擲の嵐が長瀬に迫る。長瀬はそれを両手に構えたクナイで器用に叩き落としていった。「イヤーッ!」十字架を投げながらシスター・マリィは長瀬へと近づいていき、空中を歩く長瀬に向けて大きく跳躍した。

「最後に物を言うのはカラテの力よ! イヤーッ!」恐ろしい程までに練り上げられた気を込めたシスター・マリィの貫手が長瀬の顔めがけて突き入られる。千の雷をも貫く驚異の一撃だ。「イヤーッ」瞬間、長瀬のクナイがきらめく!

 一瞬の交差で傷を負ったのは、「グワーッ!」シスター・マリィの方であった。長瀬へと突き出した手に深々とクナイが突き刺さっている。

 シスター・マリィは血を吹き出す手の甲を押さえながら、アスファルトに着地する。長瀬もそれを追うように地面へと降り立った。

「ザッ……ザッケンナコラー! イヤーッ!」シスター・マリィは再び突進し傷を負っていない手で手刀を繰り出す。「イヤーッ」「グワーッ!」しかしまたもやクナイが手刀に突き刺さる!

 両の手の甲から血を垂れ流すシスター・マリィ。長瀬の見事なカウンターがシスター・マリィの貫手を破ったのだ。「ザッケンナ、ザッケンナコラー!」だが、長瀬はどうやってあの大魔法すら貫く手刀に込められた気の防御を突破したというのか。

「オヌシの手刀は指先に気を集中させる。だが指先に集中させるあまり、それ以外の場所の気は薄くなっているでござるな」うっすらと見開いた冷たい視線でシスター・マリィを見据えながら長瀬が言う。「なれば、あとはオヌシより速く動くだけで守りを崩すことができる」

「ザッケンナ、ザッケンナ! キサマのカラテが、私のカラテより速いってのか!」「いかにも」「ザッ……ケンナコラー!」前動作もなしに突如キックを放つシスター・マリィ。彼女が初めて見せる蹴り。手刀と同じように爪先に強烈な気が込められている。

 しかし、「グワーッ!」蹴りが届くよりも先に、長瀬のクナイがシスター・マリィの太ももに根本まで突き入れられた。「イ、イヤーッ!」それでも負けじと逆の足でキックを放つシスター・マリィ。だが。「グワーッ!」またもや突き刺さる長瀬のクナイ!

「私の、私のカラテが……ニンジャの力を手に入れたのに……? ザッケンナ、ザッケンナザッケンナスッゾオラー! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」追い詰められたシスター・マリィは、傷ついた両手両足を使って手刀足刀の乱打を長瀬に向けて浴びせかけた。

 軽やかな動きでシスター・マリィの攻撃を全て避けていく長瀬。「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」血を四方へとまき散らしながら攻撃は続くが、長瀬はその全てを回避。そして回転するような動きでシスター・マリィの背後を取る。

「イヤーッ!」「グワーッ!」長瀬の蹴りがシスター・マリィの背骨に深々と突き刺さる。さすがのシスター・マリィもこの強烈な一撃にはもんどり打って倒れるしかなかった。

「カイシャクしよう。ハイクを読むでござる、シスター・マリィ=サン」どこからか取り出した巨大手裏剣をシスター・マリィの首筋へと突き付けながら長瀬が言った。戦いは完全に長瀬が圧倒していた。

「ぐがが、私は、私は!」両手両足に力を込めるシスター・マリィだが、長瀬が首に当てた巨大手裏剣にどういう力が働いているのか、シスター・マリィは全く起き上がれない。

 やがて観念したかのように手足から力を抜くシスター・マリィ。そしてぽつりと言葉を漏らした。「ニンジャの王国、私は行けない、インガオホー」「イヤーッ!」ハイクを詠み終えたシスター・マリィの首を長瀬は巨大手裏剣で切断した。「サヨナラ!」閃光と爆音と共に、シスター・マリィは爆裂四散した。

 土埃が舞い、やがて沈黙が訪れる。周囲に人はいない。ニンジャの来襲に、活気のあったストリートからはあらゆる生き物が逃げ出していた。ここにいるのは、私と長瀬、そして物言わぬ死体だけだ。

 巨大手裏剣をどこかへと消し去った長瀬は、ゆっくりと振り返り、私の方へと身体を向ける。そして、軽やかな足取りで私の方へと歩いてきた。その佇まいはすでにイクサビトのそれではない。彼女の顔に浮かんでいるのは柔らかい笑みだ。

 私の前に立った長瀬は、こちらへ向けて手を差し出してくる。……ああ、そうか。私はいつの間にか座り込んでいたらしい。戦いの最中だったというのに、なんたることか。『すまんな』長瀬の手を取り、立ち上がる。

「いや、こっちこそ遅くなってすまないでござる。しかし千雨殿、傷は治さないでござるか?」長瀬がこちらの胸元を覗き込みながら言った。彼女の視線の先は、貫かれ空洞になった私の身体だ。そうか、私は負傷していたんだ。

『ま、霊体だから重傷ってわけじゃねえよ』別に内臓や血管があるわけでもない。「いや、しかし友人の身体に穴が開いて腕がもげているというのはちょっと見ていられないでござるよ」『そうか』

 そうか。そうかそうか。長瀬、お前はまだ私のことを友人って言ってくれるのか。『そうか、確かにそうだな』私は長瀬に向けて精一杯の笑顔を作った。







「ござる! ござる!」

 電子精霊達を使って逃がした千雨を回収し、私達は地上東京の旅館へと戻っていた。
 あのままアキバ・ストリートにいては警察のお世話になることは確実。私の身は潔癖なので別に警察が来ても困ることはないが、今は時間が惜しかった。そう、長瀬にいろいろ話を聞かなきゃならん。
 そう思って旅館まで来たんだが……。

「イヤーッ! グワーッ! サヨナラ! ニンジャは爆裂四散!」

 なんだこれ。いつの間にやら私達一向に紛れ込んでいた子供が、何やら長瀬と戯れている。

『おい、なんだそいつは』

 さすがに無視しきれず長瀬に向けてツッコミを入れてしまう私。

「ああ、この子でござるな。この世界の拙者でござるよ」

「にんにん! カエデでござる!」

『ああそう……』

 千雨とそう背の高さが変わらない子供はどうやら女の子で、この世界の長瀬楓であるらしかった。

『この世界の、か……。この時代のとは言わないんだな』

 私は子供と戯れる長瀬をじっと見つめながら言った。

「……いかにも。拙者はこの世界の未来から来た長瀬楓ではござらん。千雨殿と同じ世界から来た長瀬楓でござるよ」

『あー、そうか』

 なるほど。それなら色々話も早い……のか?

「スリケン! シュシュシュシュ!」

「……うるせえ!」

 部屋の中を走り回る幼い長瀬、カエデに千雨が声を荒げた。
 元気なカエデと対照的に、千雨はテーブルに突っ伏してぐったりとしている。ニンジャとのあれこれで失禁してしまったことにショックを受けているらしい。

『……いろいろ聞きたいことはあるんだが、まず小さいことからにしよう。長瀬、なんで小さい長瀬と一緒にいるんだ』

「それは千雨殿も同じでござらんか」

『良いから答えろや』

「やれやれ、せっかちなのは相変わらずでござるなぁ……。まあ隠すことでもなし、ちゃんと話すでござるよ」

 長瀬は部屋の畳の上に座り、ゆっくりと語り始めた。

 この世界にやってきたばかりの長瀬は、私と同じようにこの世界のあまりの異質さに驚いたという。まだ二十世紀ながら魔法や呪術が世界中に知れ渡っている時代。勝手の違う世界に戸惑った長瀬は、忍者の基本として情報収集を始めた。
 まずは自分に近い者から探そうと、彼女は甲賀の忍びの里を訪ねた。だがそこにあったのは隠れ里ではなかった。伝説の存在であるニンジャへ至るために我が身を鍛える、リアル・ニンジャ道場があったというのだ。

「この世界のニンジャは、拙者達の世界でいう仙人に近い存在でござるな」

 長瀬は前の世界で古菲と共に中国の仙人郷へ行ったことがあるらしい。そしてそこで仙人の修行を修め、仙人の肉体と骨格を手に入れたのだとか。このことは前から知ってはいたが、すごいこと言い出すよなこいつ……。

「いやあ、仙人骨を身につけることなど、千雨殿のように精霊に身を変えることと比べたら軽いでござるよ」

 そーかい。
 で、リアル・ニンジャを目指す道場の人間達にとって、忍者仙人である長瀬は理想の体現のような存在に映ったようだった。
 それから道場の食客となり、この世界での足場を見つけることに成功した。それが今年の7月3日のこと。私がこの世界に来てからちょうど三日目あたりだな。

 そして数日経ってこの世界にいるであろう私を捜して長瀬が日本を離れ、香港を訪れていたときのこと。道場で悲劇が起きた。虐殺事件だ。
 犯人は道場の新米門徒。だがその門徒はどういうわけはニンジャの力を身につけて、他の門徒達全員に牙を剥いたのだ。
 長瀬が香港から戻ったときには、ニンジャの力を手に入れた門徒によって、他の門徒とリアル・ニンジャの師範達は皆殺しにされていた。
 長瀬はニンジャの犯人を捕らえ、何が起きたのか、何故このようなことをしたのか問いただした。
 門徒がニンジャの力を手に入れたのは、古代から蘇ったニンジャの魂が身体に宿ったからだと答えた。そして、その力で辛い修行を身に課した道場に復讐をしたのだと。
 尋問を終えた長瀬はニンジャを処分し、道場の生き残りを探した。皆死んでいた。だが、奇跡的に一人だけ道場の隣の蔵に生き残りがいた。
 それが幼い門徒、この世界の長瀬楓だった。
 彼女は偶然、凶行が行われた時間に隠れんぼをして遊んでいたという。そして、道場で殺戮が行われているのを察知した彼女は、必死で息を潜めて隠れ続けたのだと。

「そういうわけで、身寄りが無くなったカエデを拙者が世話してるわけでござる」

「ござる! コウガ・ニンジャ=サンはニンジャなので拙者もニンジャになるでござる!」

「いやはや、いつの間にか口調も真似するようになって……」

『え、それって長瀬楓のデフォじゃねえの……』

 閑話休題。長瀬は私を探し出すことを一時的に止め、日本中に気を巡らせてニンジャを探し出す日々を送った。
 古代から蘇ったニンジャソウル。それが他にもあるかもしれない。
 その予感は的中し、日本各地でニンジャが暴れていた。長瀬は惑星間を飛び回る自慢の脚力を活かし、悪しきニンジャを倒してまわった。

『他所の世界なのによくなるなぁお前』

「別の世界と言ってしまえばそこまででござるなぁ。しかし、ニンジャを倒していくうちにこうやって千雨殿に会えたわけで、無駄ではないでござるよ」

『私に会えた、ねぇ。そもそもなんで私を探してたんだ』

「忘れ物を届けに来たでござるよ」

『あん? 忘れ物?』

 なんだそれは。
 私は前の世界を経つ前にあらゆるものを捨ててきたはずだ。

「これでござる。大事な物でござるよ」

 長瀬は懐から何かを取り外すと、私に向けて差し出してきた。

『テメッ……』

 それは古ぼけた白い羽根のメンバーバッジ。ネギま部の仲間の証だ。しかしこれは長瀬のものではない。長瀬のバッジは忍者装束の襟元に取り付けられている。
 これは誰の物か。決まってる。私のだ。
 長瀬からバッジを奪い取る。ああやっぱりだ。見覚えのある傷がバッジの表面にしっかりと残っている。

『テメー、なんでこれを持ってやがる!』

「だから忘れ物と。拙者達の世界から持ってきたでござるよ」

『それがおかしいんだよ! それは中等部の卒業式の日に捨てたんだぞ!』

 念話を響かせる私。いつしかカエデは部屋を走り回るのをやめ、千雨と共にテーブルの前に座ってこちらをじいっと見つめていた。

「……拙者がこちらの世界に来る前のことを話そうか」

 細めた眼で私を見据えながら、長瀬が言った。

「何十年ぶりか。白き翼の同窓会があったでござる」

『あん? 同窓会?』

「同窓会でござる。そこにはネギ先生やエヴァンジェリン殿も含めた全員が揃っていたでござるよ。いないのは千雨殿、そして明日菜殿だけ」

『全員って、それ、おかしいだろ』

 おかしい。そう、おかしいんだ全員が集まる同窓会なんて。
 ネギま部はとっくの昔に解散、いや、空中分解してるんだ。

 2004年春。中等部三年の三学期。私達は魔法世界を救い、そして明日菜を失った。
 いや、失ったじゃねえな。明日菜を犠牲にしたんだ。

 魔力を失い消滅しかけていた魔法世界。
 それに対し世界の創造主率いる『完全なる世界』は、魔法世界の全てを小規模魔法サーバー『永遠の園』へと移し替えることで解決を図ろうとした。
 運営するにあたって魔力をほとんど消費しない小さな世界、『永遠の園』。その世界で人間は楽園の夢を見ながら、永遠に眠り続けるのだ。
 その代償として、純正の魔法世界人でないメガロメセンブリアの6700万人の人間は、『永遠の園』への移住にあたって肉体を捨て去る必要があった。

 一方、ネギ先生は、火星を魔力を生み出す自然で満たすことで解決を図ろうとした。
 魔力を生み出すのは生命。火星と重ね合わせて存在している異界である魔法世界は、生命に満ちた火星の魔力を受け取ることで存続が可能となるのだ。
 その代償として、火星を開発し終えるまでの期間に魔法世界を維持するために、黄昏の姫御子アスナ姫を人柱として100年の眠りにつかせる必要があった。

 100年の眠りの間に、アスナ姫の代理人格である神楽坂明日菜の人格は消失すると、エヴァンジェリンは語った。それは私達の仲間である神楽坂の死を意味していた。

 ネギ先生の方法で魔法世界を救うには、神楽坂の犠牲が必要。そのことを私が知ったのは中等部の卒業式の日だった。
 3年A組31人。学園祭に最終日に未来へと帰った超を引いて30人。魔法世界の大冒険を経て誰も欠けずに日本へと戻った証がその30人という人数だ。だが、卒業式の日、私達のクラスはどうしたことか29人しか集まらなかったのだ。
 ネギ先生を問い詰めると、なんと神楽坂のヤツは一週間も前に卒業を終えていたという。そして、神楽坂が生け贄として身を捧げたことを私達白き翼は知った。

『こんなもの……』

 卒業式の日に『白き翼』は終わった。仲間を誰も失わない。誰も犠牲にせず麻帆良の日常に戻る。それが魔法世界で決めた白き翼唯一の目標だったんだ。
 だから、私は役目を果たせなかったこのバッジを捨てたんだ。

『今更渡されても迷惑なんだよ!』

「駄目でござるよ」

 ゴミ箱に向けてバッジを投げ捨てようとした私の手を長瀬が止めた。

「茶々丸殿が二十年間ずっと預かっていたものでござるよ。捨てるのは、いけない」

『茶々丸……あいつか! また余計なことを!』

「はいはいどうどう落ち着くでござる」

『ぬがー!』

 強制的に畳の上に正座させられる私。何だってんだ全く。

「同窓会での白き翼の総意でござるよ。無理に連れ戻さないが、証はしっかり持って行け、と。おぼろげな時間と世界の旅。道しるべがなければ会いに行きたくても会えないでござるからな」

『くっ……そもそも同窓会ってのは何だよ。あの日から一度も全員が集まったことなんてねぇじゃねーか。それこそ神楽坂に向けたタイムカプセルを用意した二年前すら!』

 魔法世界から帰還した後もたびたび集まっては馬鹿騒ぎしていた白き翼の面々は、卒業式の日以降、再び集まることはなくなった。

 静かに去っていった者がいた。古と長瀬は修行と称して中国の仙人郷へと旅立っていった。
 ネギ先生を見守る者がいた。茶々丸や宮崎、綾瀬は宇宙開発事業への協力をひたすらに続けていた。
 別の道を歩む者がいた。近衛は偉大なる魔法使いを目指し魔法の修練に明け暮れ、桜咲がそれに付き従った。
 誰とも関わらなくなる者がいた。エヴァンジェリンは“始まりの魔法使い”に変貌したナギ・スプリングフィールドをその手で殺し尽くした後、麻帆良の地下深くで従者も伴わず隠居するようになった。

 中等部の卒業式以来、皆が別の方向を向き、わずかな一時ですら集うことはなくなった。
 集まれば一人だけいない神楽坂のことを思い出して、仲間を犠牲にした事実に直面してしまうからだろうか。

「ネギ先生が呼びかけたでござるよ」

『それだけで集まったってのか』

 神楽坂を犠牲にすると決めた本人が呼びかけて、皆が集まるというのか。

「うむ、千雨殿がいなくなったと言って必死で呼びかけていたでござるよ」

 その長瀬の言葉で、私の中に湧き上がっていた怒りのような後悔のようなぐちゃぐちゃした感情が一気にしぼんでいった。

『あいつは……もうガキじゃねーんだから、その程度のことで』

「でも、それで皆が集まった。ガキのままだったのは拙者達全員でござるな。交友が絶えて久しいのに皆未練たらたらでござるなぁ」

『はっ』

 それを言ったら、私が一番未練たらたらだよ。
 世界に納得できず過去を変えようとしたんだ。

「それで同窓会が開催されて、皆で話し合ったでござるよ。ネギ先生が言うには千雨殿は過去を変えるために旅立った。何故そのようなことをしたか。出た答えは、明日菜殿を助けに行った。仲間思いでござるなぁ」

『ちげーよ。いや、ちがくはねーんだがもっと利己的な理由というか……』

「エヴァ殿などは大爆笑していたでござるな。あいつがそんなに行動的なんて、と」

『あのババァ……』

「それでどうするかを皆で話しあったでござるよ。千雨殿を止めるか、放っておくか」

『その答えがこのバッジか』

 この古ぼけた白き翼のバッジには、昔にはなかったであろう強烈な呪術がこめられていた。これを道しるべに、会いたくなったら世界を渡って会いに来るっつーわけか。
 できんのかんなこと。……できるんだろうなぁあいつらなら。大学卒業後に風水を学んだ私ですらこうやって時間と世界を渡れたんだ。天才や化物揃いの白き翼のメンバーなら片手間にやってのけるだろう。

「もう捨てるのはやめるでござるよ? 茶々丸殿はそれが捨てられた卒業式の日からずっと、白き翼全員がまた集まることを夢見て大切に持っていたでござるからな」

『あいつは何度も顔を合わせてるっつーのにんなことを……っつーか、全員集まるって絶対に無理じゃねーか。みんな何歳まで生きると思ってやがる』

 白き翼全員ってことは100年の眠りについた神楽坂も合わせてってことだ。

「ははは、そうでござるなぁ。そんな未来まで生きられるのは、エヴァ殿に茶々丸殿、神霊になったさよ殿、仙人になった拙者と古、それと精霊になった千雨殿くらいでござるかな」

『別に不老不死になるために精霊になったわけじゃねーけどな』

 精霊化は風水をより強力に扱うために必要だからやっただけだ。半精霊にすらなっていない私だったら、数万詞階しか操れないどこにでもいる風水師にしかなれなかっただろう。

「いやしかし千雨殿、こっちに戻って明日菜殿の目覚めを待つつもりはないでござるか?」

『ねーよ。そもそも私とあいつは仲良くなんてなかったっつーの。それに……』

 それに、目覚めるのは神楽坂じゃなくてアスナ姫なんだ。

『……それに、その役目はネギ先生のもんだろ』

 私はとっさに本心を隠して別の言葉を念話にのせた。
 神楽坂の消滅。それは白き翼にとって最大の禁句だ。そう口にしていいもんじゃない。

「ネギ坊主、な……」

『さすがにもう坊主はやめてやれよ』

「先生というのもいかがなものか」

『生徒にとって先生は卒業後も先生なんだよ』

 別れ際の香港では先生と呼ぶなと言われたもんだが。

「で、ネギ先生は、結局不老不死になったでござるか?」

『あー、それな……』

 魔法世界で真祖の闇の魔法を身につけたネギ先生。
 その作用っつーか副作用っつーか、そんな感じのものでネギ先生は不死の魔物へと昇華した。はずだった。
 吸血鬼の真祖であるエヴァンジェリンと同等の生物になったはずのネギ先生。そのはずなのに、歳を取るとともにすくすくと背が伸びていった。
 不死の魔物になったならエヴァンジェリンと同じく子供の姿で成長が止まるはずだ。

『だから不老不死にはなってねーと思うんだが……ちょっとな』

「ふむ?」

『あいつもう三十路越えてんのに見た目若すぎると思わねーか?』

 私自身も三十代後半だったというのに若いままだったが、それは若い頃に半精霊化していたからだ。

「ふむむ、不老不死になったと思っていたでござるから気にしたことはないでござるなぁ」

『成長するだけ成長して老いないって、さすがに都合良すぎねぇか。今となっちゃどーでもいいが』

 ネギ先生が不死でも人間のままでも割とどうでもいい話だ。
 もし神楽坂の人格が目覚めた後も生きていたなら、責任取らせるためにネギ先生をあらゆる手段を使って生きながらえさせてただろうけどな。しかしそれはもしもの空想の話だ。

「どうでもいいでござる、か。しかしな、千雨殿これを見るでござるよ」

『あん?』

 畳の上に正座していた長瀬がおもむろに立ち上がり、首の回りにマフラーのように巻いていた布をするすると首から外す。
 忍者っぽい衣装だが何のためにあるかよくわからないそのマフラーを右手に掴むと、長瀬が呟いた。

「アベアット」

 長瀬の右手に魔力が渦巻く。これは、西洋魔法の力。転送の魔法だ。
 マフラーがどこかへと転送されていき、代わりに長瀬の右手に一枚のカードが収まっていた。
 まだわずかに幼さが残る中等部時代の長瀬の姿が印刷されている絵札。西洋魔法のパクティオーカードだ。とすると、先ほどのマフラーは長瀬のアーティファクト『天狗之隠蓑』か。

「というわけでござるよ」

『いや、なにがというわけだよ』

「おや、千雨殿にしては察しが悪い」

 なんだおい。喧嘩売ってんのか。

「アーティファクトは契約相手が死ぬと、カードの柄が消えアーティファクトが使えなくなる、でござるな」

『そうだな』

「時間や平行世界を渡って契約相手がいなくなると、死亡と同じようにカードは一時的に効力を失う。これは実際に拙者が渡界歩法を身につけたあとに何度か試したゆえ確かなのでござるが……」

『別世界に来たのにアーティファクトが使えると。でもこの世界にもこの世界のネギ先生はいるだろ。今五歳くらいか?』

「そのネギ坊主は拙者と契約したネギ先生ではござらぬよ。そもそも拙者が契約したよりもここは過去でござる」

 なるほど。仮契約は魂と魂を繋ぐ儀式だ。
 長瀬が契約しているのはあくまで別世界のネギ先生。この世界の子供のネギ先生とは魂が繋がっていないっつーわけか。

「拙者達の世界にいたネギ先生が、この世界にもいるということでござるよ。どの時代の者かはわからぬが」

『なるほどなぁ』

 ネギ先生がこの世界にねぇ。

「……おや、意外と驚かないでござるな」

『いや、長瀬が来てるんだからネギ先生も来ててもおかしくねーだろ』

「拙者は皆に託されて一人で来たでござるよ?」

『その場は長瀬に託したとしても、その後ネギ先生が来ない理由にはならねーだろ』

 別に驚くことではない。
 あんだけ愛を説かれながら盛大に別れたんだ。すぐさま追ってこなかっただけマシってもんだ。

『もし火星開発全部放り出してこっちに来てるならぶん殴ってやるところだが……、まあそれはねぇだろう』

 そんなことをしでかす男ではない、と私は一応信じている。それにだ。

『だが来ていてもおかしくはねぇ。事業がネギ先生の手を離れて勝手に動くようにしておいたからな。私の居た時代から五年も経てば手は空くだろうさ』

 始めこそ英雄という肩書きのネギ先生を旗印にすることで成り立っていた国際太陽系開発機構ISSDA。私が去った2025年では既に火星開発は完全に軌道に乗っていた。
 軌道エレベーター、月面緑化、火星都市、魔法公開などの大事業は全て大成功を収めていた。その過程で私があることを懸念した。ネギ先生一人に権力が集中しすぎないかということだ。
 権力を持って暗愚化、などとは言わないがこの規模の事業で一人に力が集中するのはまずい。ネギ先生に何かあれば組織が立ち行かなくなって火星開発に失敗してしまう。それだけは避けたい。
 なので私はえっちらほっちら組織を仕分けて再編し、ネギ先生がいなくても事業が続くように仕組んだのだ。ISSDA特別顧問としての私の最後の仕事だった。

『だから、五年後以降のネギ先生の手元には、そもそも放り出せるだけのものが形ばかりの肩書きしか残ってねぇってわけだ。馬車馬のように働けなんて、さすがに開始から二十年以上も経ってんのに言い続けられねぇからな』

 魔法世界人でもねぇのに頑張りすぎだよ。そりゃ明日菜を生け贄に捧げただけの責任はあるが、それを言ったら『完全なる世界』を否定してネギ先生を後押しした白き翼全員にその責任がある。
 要は自分が頑張らなくても、最終的に魔法世界が崩壊から救われればそれで良いんだよ。

「なるほど、千雨殿なりの優しさでござるな。働き盛りの男子から仕事を取り上げるあたり千雨殿らしい優しさでござる」

『褒めてんのか貶してんのかどっちだテメー』

 そんなわけで未来のネギ先生は自由になってるはずだ。そのネギ先生が、どうもこちらの世界までやってきているらしい。
 アスナ姫が起きるのを待っていてやれと言いたくなるが、天才のネギ先生にとっては世界を渡るのはちょっと旅行に行ってくる程度の簡単なものなのかもしれない。実際長瀬のやつも私のいる時代と世界にぴったり合わせてやってきているのだし。

『しかしネギ先生がよりにもよってこの世界にか。面倒なことになってなきゃいいが』

 私は畳から立ち上がり、部屋の隅に置かれた旅行用の鞄を開く。
 中には千雨用の着替えと洗面道具、後は暇つぶし用に持ってきていた何冊かの本が入っている。
 私はその中から一冊の本を抜き出し、そのまま長瀬の方へと放った。

『古事記だ。読んだことあるか』

「む、幼い頃に隠れ里で読まされたことが」

『そっちじゃない。この世界の古事記のことだ。神代のニンジャについて詳しく書いてある』

 私の言葉に怪訝そうな顔をする長瀬。

『導入部分を大雑把に説明するとこうだ。遠い昔、世界は混沌に包まれていた。その混沌をニンジャの神が打ち砕いて鍛え直し、新しい世界を作った。ニンジャの神は次々と新しいニンジャを生み出し、世界を支配した』

 世界を支配したニンジャという言葉に、長瀬は眉をひそめ、静かに話を聞いていた幼いカエデが目を輝かせた。千雨は興味なさそうにぼんやりとしている。

『神は、世界の創造と支配が終わったのを確認すると、新たな世界を求めて空高く飛び立っていった。月よりも遠い星へと神は旅立った。こんな導入だ』

「ふむ、よくある神話でござるな」

『よくある神話なんだけどな』

 そう念話を飛ばしながら、私は長瀬の傍らに立ち、彼女の手の中にある古事記のページを捲った。

『ここだ。ニンジャの神。その名は』

「……神楽坂明日菜姫」

 そう。古事記に記された神話の時代。世界を創造しニンジャを生み出した神の名前が、よりにもよってあの神楽坂と同じなんだ。
 偶然か? んなわけあるか。
 そもそもこの世界は平行世界。私達のいた世界とは歴史のどこかで分岐した世界なんだ。だというのにこの似ているようで似ていない奇妙な世界の有り様ときたら。神話になるくらい昔に何かがあって分岐したって言われても納得できる。

『長瀬。あの女ニンジャから助けてくれたのは礼を言う。けどな、これ以上ニンジャに関わるな。神楽坂明日菜姫がいたであろう古代のニンジャソウルが現代に蘇ってきてる? んなもん追ってたら絶対ろくでもないことに巻き込まれる。さっさと元の世界に帰れ』

 古事記を長瀬の手に押しつけながら、私はそう言い放った。
 私はこの世界で平穏無事に暮らすんだ。精霊としての生活も軌道に乗ってきている。あまりかき乱してくれるな。







あとがき的作品注釈な
UQ HOLDER!では月の全域開拓がされていなかったり世界への魔法の公表時期が2075年前後だったりと、この作品に出てくる2035年の世界とずいぶん様子が違いますが、この作品の千雨がいたのはネギま最終回とは別の平行世界(ネギま352時間目の時間軸の世界)というのを言い訳にUQ HOLDERの新設定には合わせていません。月を無視していきなり火星開発ぶっつけ本番は実際不自然な。
明日菜がいない世界では千雨が好き勝手する。なおネギま354時間目では魔法と魔法世界の公表が2009年予定となっているが古い情報は最新作に淘汰される。いいね?


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