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No.35334の一覧
[0] 【ネタ】幻殺【とある魔術の禁書目録×ニンジャスレイヤー】[パンツメンポ](2012/10/20 00:01)
[1] 「インデックス・フォール・イン・ケオス」[パンツメンポ](2012/10/20 00:00)
[2] 「エレクトリック・ペイバック」[パンツメンポ](2012/12/07 23:54)
[3] 「エレクトリック・ペイバック#2」[パンツメンポ](2012/12/08 00:12)
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[35334] 「エレクトリック・ペイバック#2」
Name: パンツメンポ◆1cab6a1a ID:2f83f702 前を表示する
Date: 2012/12/08 00:12
第1巻「禁書目録崩壊」より 「エレクトリック・ペイバック」#2


 ――――――――――――――――


(「ドーモ、カンザキ=サン。レールガンです!」ミサカ・ミコト……ガクエン・レベルファイブの第三位である少女は、電撃的な速度でオジギした。「私は……ニンジャだ!」)

 威圧的なアイサツを受けたカンザキは、わずかにたじろいだ風に聞き返した。「……忍者?」然もあらん! ネオ学園都市という街の存在意義たる学生能力者たちの存在は世界的な知名度を誇る。いわんや、その頂点に立つガクエン・レベルファイブの戦闘能力は個人で軍隊を相手に出来るという程のポテンシャルを持つとの噂だ。アイサツされた時点で失禁しないだけ大したものである。

 それどころか、カンザキはにわかに眦を引き締めるとカタナに手を添えて臨戦態勢を取った。非ニンジャでありながらなんという胆力! すなわちそれは、カンザキがとてつもないワザマエを誇る強大な戦闘者であることを示している! 「……とにかく。無用な戦闘は、こちらも望むところではありません。貴方が、かの『超能力者』であるというのなら、尚更」「イヤーッ!」 ZAP! 対手の口上を遮るように、レールガンの頭部から紫電が飛ぶ! 敵対者を黒焦げにする光速の一撃が、カンザキの意識を刈り取らんと豪雨の中を奔った!

 カンザキはそれを素早いサイドステップで難なく回避すると、諦めたように零した。「……好戦的な」「小さい子追い回すような狂人が何言ってんノ? 雨避けくらい用意してあげるから、さっさと眠るのね」傲岸不遜に言い放ったレールガンは、回避不可能レベルの電撃の雨を降らせるべく、ゆったりとした動作で掌を前に突き出した。持ち前のニンジャ観察力によって、相手の武装を腰のカタナ一本のみと分析済みが故の余裕の態度だ。いくらイアイドに長けた相手だろうと、所詮は非ニンジャ。小手調べの電撃を避けた身体能力は大したものだが、本気を出せば制圧は容易いはずだ。

 帯電した右腕が球状の電磁バリアと干渉し、絶えず変化する磁界に反応して砂鉄メンポのマフラーがはためく。対手は相変わらずイアイドの構えを解かず、距離を詰めようともしない。そのスケアクロウめいた姿勢に若干の薄気味悪さを感じながらも、レールガンは右腕に溜めた電力を放出すべくニンジャシャウト!

「イヤーッ!」洪水めいた電撃の奔流が放射状に拡散! そう広くもない路地に光芒が満ち、曇天の下の薄暗闇をなぎ払うかのような光量が発生した! ナムサン! 最早体捌きのみでの回避が不可能なレベルの圧倒的範囲攻撃! 範囲に比例して威力は落ちるが、感電すればアフロめいた髪型となって失神することは必死! しかし、その奔流を向けられたカンザキの表情に恐れや絶望の色は無い。彼女はわずかに視線を伏せると手元のカタナをワン・インチだけ抜き出し、呟く。

「七閃」瞬間、電撃の奔流が割れた。モーゼが海を割ったが如く光芒が縦に分断され、その隙間の空間を通してレールガンとカンザキの視線が交錯する。(……インシデント!?)レールガンは持ち前のニンジャ判断力によって電撃の放出を中断し、ニュートラル姿勢で敵対者の行動を見極めようとする。瞬間、彼女が常に索敵用に放出する電磁波に感有り! (線……糸!) ナムサン! 電撃の奔流を引き裂きながら彼女の眼前へと迫るのは、肉眼での視認が困難なほど細い、鋭利な殺人ワイヤー!

「イヤーッ!」接触直前、レールガンは側転を打つことで致命的な一撃を回避! だが彼女のニンジャ索敵能力は次なる攻撃の到来を告げている! 「イヤーッ!」目視不可能な二撃目のワイヤーを側転回避! 「イヤーッ!」三撃目をサイドステップで回避! 紙一重!

「イヤーッ!」四撃五撃六撃……回避困難な同時攻撃をブリッジで回避! しかし七撃目……ナムアミダブツ! もう回避は間に合わない! ……だが! 「イイイヤアアアーッ!」ゴウランガ! 進退窮まったレールガンがとっさに繰り出したのは、ブリッジ状態からのメイアルーアジコンパッソ! 両手を軸にした強烈な回し蹴りで最後のワイヤーを蹴り飛ばす! 明後日の方向へ弾かれたワイヤーは路地裏に走る鉄パイプ群を容易く両断! ……無論、それほどの威力のワイヤーを蹴り飛ばしたレールガンの右脚もただでは済まない! 「ンアーッ!」ソックスが引き裂かれ、膝下から出血!

 ナムアミダ・ブッダ! ニンジャとは常人など及びも付かぬ半神的存在であり、武装したヨタモノ程度なら数百人単位が相手でも鼻歌交じりに殲滅出来る程の戦闘能力を持っている。異常なのは、そのニンジャの攻撃を真っ向から切り裂き、そのまま相手に傷を負わせるほどのカンザキのワザマエだ。(ジツを使わず、カラテのみでのこのワザマエ。侮れば……)殺人的ナナツワイヤー・ドーを前に、レールガンも己の意識を戦闘用のそれへ切り替える。(……実際死ぬ!)

「よくもまあ、反応が追いつくものです」カンザキは感嘆するように告げると、カタナの鞘から伸びるワイヤーに指を這わせた。ナナ・セン! 「イ……イヤーッ!」レールガンは即座に後方へバック転することで致死糸を回避! SLAAAAASH! 先ほどまで立っていた地面に七つの斬撃痕が出現! 「ンアーッ!」倒れ伏すインデックスの真横に着地したレールガンだが、膝下の痛みは如何ともし難い。右脚を庇う様に構えると、カンザキに対して油断無き視線を送り、問うた。「アンタいったい……何者?」「必要悪の教会所属の魔術師――――そこに倒れるインデックスと同じ、魔術関係者ですよ」「マ・ジツ?」「違います。魔術……」はた、とカンザキが何かに思い当たったかのように眉を顰めた。怪訝そうな表情を浮かべると、「インデックスから話を聞いていないのですか? 禁書目録と呼ばれる理由――――彼女の頭の中の十万三千冊の意味。それらを理解した上で立ちはだかっているものとばかり思っていましたが」「エート……?」

「もしそうでないならば――――立ち去るべきです、少女。これは私たち、魔術師の間での問題だ。科学側である貴方が関わらなければならない道理は何処にも無い」「ザッケンナコラー! 目の前の犯罪をみすみす見逃す道理なんて、あるわけ……」「あるのですよ」レールガンの言葉を遮り、カンザキは威圧的に続けた。「貴方の実力では私には勝てない。私は貴方を瞬き程の間に制圧することが可能であり、人目に触れることなくこの都市から離脱する用意がある。であれば、今この場においての道理の定義とはすべて、私の指先ひとつで自由に出来るということです。文字通りに」カンザキはこれみよがしにカタナを掲げて見せた。指先が鞘を撫でると同時、路地に張り巡らされた極細ワイヤーが振動して雨露を滴らせる。

「インデックスは私が保護し、貴方は何も見なかった。後ろへ振り向き、そのまま日常へ帰りなさい。それがこの場での、あるべき道理です」何と言う傲慢な主張! しかしその言葉は本人のワザマエと合わさり、凄まじい重圧となってレールガンを襲った。街中でふと目にした、危なげな様子の少女シスター。彼女に対してほんの僅かな親切心を発揮した結果が、鈍痛を発する右脚の怪我に、今にも殺されるのではないかという恐怖。レールガン自身も気づいていた。インデックスやカンザキが、何か己の知らないまったく未知の世界に属する者達であるということを。であれば、ニンジャとはいえ善良な市民であるところのミサカ・ミコトが関わる必要は、本当は無いのではないか……? 「あ、ぁ……」ふと、身じろぎするインデックスの声が、レールガンの耳に飛び込んでくる。

 逡巡を続けながら、レールガンは荒い息のインデックスを横目で確認した。額を押さえ、苦しそうな息遣い。苦悶に歪んだ表情……ふと、眼が合った。苦しげな様子であるのに、彼女の瞳に映る色は後悔のそれだった。「は、……く、」濡れた地面のせいで汚れた顔は熱によるものか紅潮し、泥に汚れた唇が、乾いた舌が、それでも何かをレールガンに伝えようと動いている。「、……げ、」ほんの数秒その様を眺めると、レールガンはインデックスから視線を切り、カンザキへ向き直った。インデックスが何を言おうとしたのか、声に出さずとも、目を合わせただけで伝わる意思があった。逡巡は消え、闘志だけが残った。最早言葉すらも必要とは思えなかった……無言のまま、彼女は目の前の脅威を打倒することに決めた。

 レールガンは双眸を引き締めると、ニューロン内でイマジナリー・カラテを行い、持ち前のニンジャ観察力とニンジャ演算能力をもって勝利条件を導こうとする。……カンザキとの距離はおおよそタタミ五枚分。攻撃を当てれば打倒する自信はあるが、生半可な遠距離攻撃では、避けられるか、でなければ殺人ワイヤーに迎撃されてしまう。かといってヤバレカバレにワン・インチ距離まで近づこうとすれば、あの腰のカタナを用いたイアイドによって迎撃されるだろう。必要なのはある程度の射程距離を持ち、なおかつワイヤーによるインタラプトが不可能な特性を持つ武器。……レールガンは僅かに視線を下げると、己の首元に巻かれたマフラー型メンポを観察した。その構成物質は鉄片と、黒々とした粒状の磁性体……そう、砂鉄だ。

 サテツ・イアイド。レールガンを起点とした磁力によって操作されるカタナは、例えワイヤーによって半ばから寸断されようと、結合が解除された箇所から順にすぐさま再結合するため、その電磁的結合状態が崩されることは無い。すなわち、インターラプトは不可能! だが、問題は射程距離だ。ただでさえメンポと僅かなマフラーを生成するのがやっとの砂鉄量だ。カタナを形成したとしても、射程距離はおそらく……タタミ二枚分に届くかどうか。……だが! (踏み込むしかない)レールガンは決断的に思考した。(タタミ三枚分距離を詰める。それだけ考えろ、それだけ……)

「イヤーッ!」レールガンは身に纏う防水コートを脱ぎ去りながら駆け出す! その行動を受けて威圧的説得が不可能と判断したのか、カンザキも迎撃行動に移る! 「……ふッ!」ナナ・セン! 極細のワイヤーが七本、レールガンの前方からすさまじい速度で襲い掛かる。その即死領域にあえて踏み込んだレールガンは、ニンジャ反射神経によるダッキングで一本目を回避! タタミ一枚分前進し、同時に脱ぎ去った防水コートを前方へ放り投げる。

「……!」二本目のワイヤーが防水コートを寸断! しかし大き目の寸法が少女の華奢な肢体を覆い隠し、目測を誤らせる。コートの陰に隠れる形でレールガンは身を屈め、頭上を通りすぎるワイヤーをやり過ごした。しかし間髪置かず三本目が到来し、低姿勢状態の彼女をスライスせんと唸りを上げる。「イヤーッ!」それを見越していたレールガンは即座に地面に手を付き、腕力のみを用いた前方宙返りを敢行! 掌に掠るワイヤーの感触に冷や汗を覚えながらも回避に成功し、さらにタタミ一枚分前進! しかしその体は一瞬のみ宙に浮かび、無防備な背中を敵に晒す形となる。

「悪手を!」カンザキがその無謀を罵った。呼応するように四本目と五本目のワイヤーが空を裂き、レールガンの無防備な背中を襲……わない! 「イヤーッ!」レールガンは己の両足を起点に強力な磁力を発し、路地裏へ無数に張り巡らされた金属パイプ群へと己の身体を引き付けることでワイヤーを回避。身を翻して金属パイプ上に足裏で吸着すると、踏み切りによる逆跳躍でさらなる前進を狙った。「アブハチトラズ! これで届……!」しかし、幾多の急激な回避動作に耐え切れず、レールガンの手負いの右脚がここに来て激痛を発する! 「ンアーッ!」踏み切りに失敗し、前進しながらも緩慢な速度で落下するレールガン。そこに六本目のワイヤーが迫る。ナムアミダブツ! 回避不可能だ!

「イ……イヤーッ!」レールガンは咄嗟に磁力の反発を用いてマフラーの一部を射出。鉄片を核に砂鉄で編まれたエレキスリケンがワイヤーを迎撃し、その軌道を逸らさんとする。しかし、一枚では足りぬ! 「イヤーッ!」射出! 「イヤーッ!」射出! 「イヤーッ!」射出! 四枚目のスリケンでようやくワイヤーが明後日の方向へ逸れる! しかし、代償にレールガンの纏うマフラーとメンポの砂鉄量は大幅減! 最早イアイドの射程距離はタタミ一枚分程度が関の山だ! 現在の彼我の距離はタタミ二枚分。しかし、ブザマに落下中のレールガンにこれ以上の前進は到底望めない。この一瞬の接近機会を逃せば、おそらく次は無い。体勢を立て直してから接近しようなどと考える間に、新たなナナ・センが襲い来るだろう。そうすればニンジャとはいえ手負いの少女など、なすすべなくネギトロに変わってしまうことは火を見るより明らかだ!

「う……イヤーッ!」ZAP! レールガンは落下しながら電撃を放つが、カンザキは僅かに半身を傾けるだけでそれを回避する。「よくぞここまで」落下するレールガンに向かう七撃目のワイヤーを操作しながら、カンザキが呟いた。「せめて、一瞬で終わらせてあげましょう」張り詰めた殺人ワイヤーの進行方向は……ナムサン! レールガンの華奢な首筋に向かっている! このままでは次の瞬間にもレールガンは首を落とされ、ゴアめいた死体となって路地に血の雨を降らせる残虐スプリンクラー装置と化してしまう! 無論、ワイヤーの進行方向が己の急所に向かっていることを、反射波によってレールガンも察知している。しかし、彼女は何らアクションを起こそうとしない。ただ重力に任せて落下していくのみだ。ヤバレカバレが通じず、絶望して脱力したのか!?

 ……否! 彼女の両目は未だしっかりと開かれている。落下する少女とカンザキの視点が再度交錯し……その瞬間、カンザキは彼女のノーリアクションの理由を知った。燃えるような戦闘意欲を湛えた瞳が映していたのは、敵対者であるカンザキ……の背後に迫る、モータードラムの姿! 「な……!」カンザキが咄嗟に振り向こうとするが、間に合わない。『ドドドド-モモモ! 重点!』「ぐぅっ!?」レールガンが放ち、カンザキが避け、そしてその背後の路地で掃除を続けていたモータードラムへ命中した電撃は、モータードラム内部の制御UNIXシステムを一瞬で掌握! リミッターを解除した八十キロオーバーのチャージをカンザキの背中へと見舞ったのだ!

『障害物を回避しないのは……ガガ……仕様であり問題……ガガガガ!』衝撃によってカンザキの身体は突き飛ばされ、ワイヤーを操作する手元が狂った。その隙を突いてレールガンは空中で回し蹴りによる迎撃行動! 「イヤーッ!」無事な左足でワイヤーを弾き飛ばし、そのまま地面へと着地! ゴウランガ! 何というフーリンカザン! しかしヒサツ・ワザの威力もさることながら、彼女の本当の実力とは即ち、この変幻自在のエレキカラテにある! 『ノーカラテ・ノーニンジャ』の格言のとおり、今も昔もニンジャはカラテを極めた奴が上を行くのだ!

 そして……突き飛ばされたカンザキの身体は、レールガンに向かってタタミ一枚分だけ前進! 射程範囲内! 「しまっ……」「イイイヤアアアーッ!」砂鉄マフラーはその形状をカタナめいた形に変化させると、一直線にカンザキへと伸びる! カンザキもワイヤーを再度操作して迎撃しようとするが、虚を突いた分明らかにサテツ・イアイドが速い! 振動するチェーンソウめいた黒い刃が、カンザキの身体へと……届いた!

 ……その瞬間、レールガンの視界が一瞬で赤色に染まった。カンザキの身体を切り裂いたことによる返り血? ……チガウ! レールガンとカンザキの間に存在するタタミ一枚分の空間に、人の形をした赤い炎のようなシルエットが躍り出たのだ! いや……これはシルエットでは無い。溶鉱炉の目前に身を晒しているかのような熱気を感じ、レールガンは戦慄した。咄嗟にサテツ・イアイドを解除し、バク転による緊急退避!

 その判断は正しかった。炎を纏う人型のシルエット……黒い重油めいた塊は、その赤色の五体で触れるだけで、宙にバラ撒かれた砂鉄群を跡形も無く蒸発させる! コワイ! しかもサテツ・イアイドをインタラプトしたということは、このブッダデーモンめいた重油の塊も敵の一味!

「ステイル!」途端、カンザキが慌てたように叫んだ。「殺すのは……!」言い終わらぬうち、路地の中に何処からか紙巻煙草が投げ入れられた。火のついた煙草はバク転退避を終えたレールガンの前方へ一本、後方へ一本、水溜りを避けるように落ち、転がった。彼女が訝しんでいると、何の前兆も無くその煙草が爆発を起こしたかのように燃え上がった!

 KABOOM! 一瞬で炎が燃え広がり、レールガンとカンザキの間に摂氏三千度の炎の壁を作った。背後でも同じく炎が燃え広がり、彼女の退路を阻むように燃え盛っている。「カトン・ジツ!? 何が……!」新手の敵の登場に警戒するレールガンは、電磁波のソナー探知によって頭上に迫る三本目の煙草を発見! 回避場所を限定されたこの状況では回避不可能だ! 「……ブッダ!」吐き捨てるレールガンの頭上で爆発する煙草! おお、ナムアミダブツ! 一瞬で彼女の身体は炎に包まれ、外部からは見えなくなる!

「そんな……」背後で戦闘の趨勢を見守っていたインデックスが、絶望に濡れた声を上げる。「みことーッ!」どさくさに紛れての呼び捨てはスゴイ・シツレイ! ああ……しかし、最早それを糾弾する人物はこの世から失われてしまったのだ!

「……ステイル、貴方は」燃え盛る炎を睨みながら、カンザキはザンシンを続けていた。その背後から歩いてくるのは、漆黒の修道服を身に纏った、身長七フィートにも届こうかという大男だ。若々しい顔立ちはまだ十台半ばのそれであるが、煙草を咥え、目元にバーコードのタトゥーを入れたその姿は、とても聖職者には見えない。彼がカンザキの言うところの『魔術師』の仲間であることは、誰の目にも明らかだ。「ふん」彼は周辺で暴走を続けるモータードラムに炎を放ち、無造作に破壊した。

「殺しちゃいないさ。一般人なら兎も角、こんなビッグネームを殺せば政治問題になる。……炎の壁に閉じ込めて、酸素を奪っているだけさ。数分もこうしていれば、それだけで無力化できるだろう」大男……ステイルは、つまらなさそうに口を開いた。「しかし、お前ともあろうものが無様だな? それとも、日本のカラテカってのは皆あんなに強いのか?」「……不覚を取ったことは認めます。しかし訂正するなら、あれは私の知る世間一般で言うところの空手では無い」「……ニンジャ、か?」「本人はそう言っていましたが……しかし、大した少女でした。最後の攻撃は……あの絶体絶命の状況においてもなお、彼女は私を殺さないつもりでいた」

 カンザキが鞘へと視線を落とすと、その口元に微量の砂鉄が付着していることが見て取れた。レールガンが狙っていたのは、鞘とカタナの破壊によってカンザキの戦闘能力を喪失させることであったのだ。そして、実はカンザキも同じ考えであった。七撃目のワイヤーによってレールガンの首元を狙ったのは、繊細きわまる糸操作によって首の頚動脈を圧迫し、一瞬で意識を刈り取り、無力化するため。「そうすると、お前たちは……互いに殺意も持たず、あれだけの戦闘を行っていたのか」ステイルが呆れたように言った。「そう、なりますね」「まったく……僕には真似出来る気がしないよ」

 ステイルは咥えた煙草を一息に吸うと、炎の壁の前で警戒を続けるブッダデーモンめいた巨人に向かって放り投げた。一瞬で蒸発する煙草。「なんにせよ、痕跡はあまり残すな。情報封鎖の度合いが酷く、アレイスターとのコンタクトどころか、土御門とも連絡が取れない状況が続いている」ステイルは路地裏を見上げた。パイプ群や室外機の陰などの目立たぬ場所に、ルーン文字の刻まれた大量のコピー用紙が貼り付けられている。これらは雨露を避けて予めステイルが設置したものであり、ブッダデーモンめいた巨人――――イノケンティウスを操るためのものだ。これらも、後で回収しなくてはならない。「長居は無用。記憶を消した後はすぐに街から離脱するぞ」カンザキは悲しげに目を伏せた。「……ええ。彼女ももう、限界のようですし」「ふん……インデックスも、厄介な場所へ逃げ込んでくれたもんだよ。本当に……厄介な……」ステイルも面白く無さげな表情で、苦々しげに呟いた。彼らとインデックスの間には、何かしら複雑な事情があるらしかった。しかし、彼らが感傷に意識を散らした、その瞬間!

「イヤーッ!」路地一帯に響き渡るカラテシャウト。同時、摂氏三千度の炎の壁を突き破って謎の小物体がカンザキたちへ接近! イノケンティウスが咄嗟にインターラプトするが、小物体と接触した瞬間、その身体は爆発四散! 「ゲホッゲホーッ!」吹き散らされた炎の中から現れたのは……レールガンだ! 彼女は執念によって己の意識を繋ぎ止めると、ヒサツ・ワザであるコイン・レールガンの威力によって前後の炎の包囲を破ったのだ!
 音速の三倍で撃ち出される超威力のカラテキャノンは、ソニックブームにより周辺を破壊しながら二人の魔術師へと迫る!

 しかし、それまでであった。打ち出されたコインは魔術師二人の立つ場所のちょうど真横を素通りし、路地の向こうへと消えていった。なぜなら、炎に包囲された時点でレールガンは既に満身創痍であったのだ。ジツの連続行使に加え、集中力を削るようなカラテの打ち合いの直後、敵を直接目視不可能なうえ、酸欠寸前の状態で放ったヒサツ・ワザがそうそう当たるわけもない。しかしそれでも、彼女は未だ戦闘体勢を解こうとしなかった。己の背後で泣き続けている少女……インデックスを守るために! 「……貴方は」カンザキは驚愕の感情を露にすると、静かに尋ねた。「何故、そんなにも、その子を……」「あの子……」それを受けて、レールガンがぽつりと呟いた。「助け……求めなかった……から……」

『なんでそんなに親切にしてくれるの?』朦朧とするレールガンの脳裏に、ソーマト・リコールめいて、インデックスが己に向けて言った言葉が思い出される。『本当に……頼っても、いいのかな……?』涙を流しながら、本当に……本当に嬉しそうに、そして縋るような言葉だった。あの感情は真実だと思った。この子に何かをしてあげたいと、レールガンは……ミサカ・ミコトは理屈では無く、心でそう思ったのだ。

 だというのに、あの時、カンザキの圧倒的カラテにミコトが恐怖を覚えた時。『は、……く、』苦しそうな表情で重金属酸性雨の水溜りに蹲りながら、インデックスはこう言ったのだ。『、……げ、』言葉にもならぬほどの小さな囁き。しかしレールガンのニンジャ直観力は、彼女の意図するところを正確に把握していた。即ち……『ハヤク ニゲテ!』

 一番恐怖を感じているのは彼女のはずだ。あんな恐ろしいジツを使う非モータルが、朝を問わず夜を問わず追いかけてきたら? ……ミコトには耐えられない。もしも己がニンジャで無ければ。ガクエン・レベルファイブの第三位という強さと誇りを持つレールガンで無かったとしたら。ただのか弱い中学生、ミサカ・ミコトであったとしたら……きっと、耐えられない。『タスケテ』ではなく、『ニゲテ』と叫び、そのままあの魔術師達に己の身を差し出す恐怖に、きっとミコトは耐えられないだろう。

『皆が無事ならば、それで何も問題は無い』数日前に起きたとある事件の折。デパート内で起きた爆発事件を人知れず食い止めた少年……あのウニめいたヘアスタイルの男子高校生は、目撃者であるミコトにこう告げていた。『誰が助けたかは、肝要では無かろう』その言葉を頼りに今、ミコトは朦朧とする意識を繋ぎ止めている。

 カンザキの言うとおり、確かにミコトはこの件に無関係だ。たが、この小さく無力なシスターは……例え本人が求めようとしなかったとしても……助けが必要だ。誰かの、誰でもいい、誰かの行う、心からの助けが。ならば、それを行うのが自分でも問題はあるまい。必要な時、必要な場所に自分が居たのであれば、そんな小さな彼女を助けようと、ミサカ・ミコトが頑張ることに……罪は、無い。

「怖かったよね……辛かったよね……」ミサカ・ミコトは……レールガンは、水溜りの中で泣きじゃくるシスターに向けて、か細く届かぬ声小さな声を呟いた。「お姉さんが、守って」次の瞬間、痛ましげな表情を浮かべるカンザキの放ったワイヤーが、レールガンの顎先を掠った。軽く触れるような一撃。それだけ彼女の脳はシェイクされ、強制的に意識を飛ばされる。「あ……」自分の傷ついた膝が崩れていく様子を視認し、揺れる視界の中でレールガンは己の無力を噛み締めた。ショッギョ・ムッジョ! 少女の切ない願いを無慈悲な現実によって手折るこの仕打ち! おお! ブッダよ! まだ寝ているのですか!?

(……あ)しかし、意識を失う直前。宙に浮いたレールガンの視線は、奇妙な赤い光を捉えた。路地の彼方、重金属酸性雨の向こう側に浮かぶ、センコ花火めいた不思議な灯火。(……そっか)見覚えのあるその輝きに、レールガンは安堵した。(アイツ……今度は、こんなところで、ひと、だ、す……け……)

「ドーモ。ハジメマシテ。イマジンブレイカーです」ショーユめいた黒い闇の中に落ち行く意識の狭間。レールガンの鋭敏なニンジャ聴覚は、確かにその声を捉えた。「……ゲンソウ殺すべし」


「エレクトリック・ペイバック」#2終わり



 ――――――――



 ※そういや忍殺SSなのにカラテという言葉を全然使ってなかったなあ、ということでやたらとカラテプッシュが入る回。
 ※しかし電気ビリビリで敵を倒した奴は歴史上存在しない。
 ※そしてカトン・ジツはデスノボリ重点。みんな知ってるね。


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