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No.35213の一覧
[0] 【習作】SAO(ソードアート・オンライン) 〜遺言無き世界〜【完結】[倭刀](2014/12/31 01:53)
[2] 第一話 立ちはだかる盾[倭刀](2012/11/05 00:18)
[4] 第二話 生き方[倭刀](2012/11/05 00:30)
[5] 第三話 迷宮区の戦い[倭刀](2012/12/15 12:27)
[6] 第四話 邂逅[倭刀](2013/01/29 02:30)
[7] 第五話 罪[倭刀](2013/03/23 22:06)
[8] 第六話 暗躍[倭刀](2013/06/21 16:32)
[9] 第七話 一つの終点[倭刀](2014/07/13 00:36)
[10] 第八話 暗雲[倭刀](2013/06/21 16:39)
[11] 第九話 PvP[倭刀](2014/08/01 18:02)
[12] 第十話 閃光[倭刀](2013/09/27 00:18)
[13] 第十一話 決着[倭刀](2014/07/14 00:12)
[14] 第十二話 攻略の再開[倭刀](2014/09/03 12:20)
[15] 第十三話 破壊の王[倭刀](2014/09/07 00:59)
[16] 第十四話 勇者の意志[倭刀](2014/10/30 23:12)
[17] 終話 心[倭刀](2014/12/31 01:47)
[18] エピローグ[倭刀](2014/12/31 01:47)
[19] あとがき[倭刀](2014/12/31 02:01)
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[35213] 第一話 立ちはだかる盾
Name: 倭刀◆326c9191 ID:fa07893a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/11/05 00:18
 聖夜が終わり、その二日後の朝。場所は血盟騎士団本部。
朝、ギルドのホームへと訪れたアスナの耳に驚くべき報告がもたらされていた。

「四十九層のボスが倒されていた!?」

 思わず大声で叫ぶ。
部下の一人はそれに動じる事無く、頭を下げて膝を付き、西洋の騎士が主に跪く様な格好で報告を続ける。
以前、一度なぜその様な格好を?と問うたことがあったがただの趣味らしい。

「はっ。迷宮区のゴドフリーさん率いる探索部隊が夜を徹して探索していた結果、つい先ほどボス部屋を発見したそうなのですが
既にボスの姿は無く、五十層の転移門もアクティベート化されていました。
五十層の町の名はアルゲードです」

 また勝手にあの人は、と思ったがひとまずそれは置いておくことにした。
五十層への道が開かれた。そちらの方が攻略の鬼、アスナにとっては重要なことだった。

「この事は団長には?」

「まだいらしていませんのでお伝えできておりません」

 アスナは腕を組み、右手を顎に持って行く。

(一体どこのギルドが?)

 本来、今日辺りにボスの部屋を見つけ、明日からボスへの簡単な偵察が行われる予定であり、
その翌日ボス攻略会議(本格的な偵察の編成を兼ねている)が
行われるという流れのはずだった。
別にその予定が崩れたのは良い。困ることは無いし、むしろ手間が省ける。
レアドロップなどはそんなに気にならない。
 問題なのはどこのギルド、もしくはパーティーがボスを撃破したのかという事だ。
聖竜連合では無い。あそこは以前ボス攻略にギルドで単身で乗り込み、痛い目を見たことがある。
それ以来は血盟騎士団の呼びかけに仕方が無く応じて行動するようにしている。
聖竜連合で無ければ他に思い浮かぶのは軍だ。
軍が久々に攻略に乗り出した。しかしそれも無いだろうと考えを改める。
レベルの高いプレイヤーは余り居ないだろうし、何よりも軍が動き出したら何かしらの報道があるはずだ。
だからこの可能性は捨てる。
ならばどこのギルドが?
 ふと、脳裏に第一層のボス攻略でパーティーを共にした少年の姿がよぎる。
しかしそれは無い、とすぐに考えを否定した。
あの少年はレベルは高いが安全マージンをかなり取って行動しているという情報が耳に入っていた。
それにここ最近、彼はボス攻略に姿を現していないため、余計にこの考えは無いと断定できる。

「……五十層の迷宮を目指します!ゴドフリーさんは今居ますか?」

 団員の顔が一瞬驚きに染まる。行き成り早速迷宮区に挑むとは思わなかったからだ。
しかし、逆らうことはしない。アスナの事だから何かしら意図があるのだろう。そう信じるが故にすぐに答えた。

「はい、会議室の方に」

「わかりました。ゴドフリーさんに伝達を。大至急五十層に行けるパーティーメンバーを私とゴドフリーさん、そして団長を含めて
レベルの高いメンバーを七人集めて下さい、と」

「はっ!」

 ギルドメンバーは立ち上がるとアスナが居る部屋から急ぎ飛び出して行った。
アスナが五十層に行くと言い出した理由は、もしかしたら五十層を突破したプレイヤーたちが既に五十層で狩りを開始しているのでは無いか
という考えから生まれたものだ。
まだ五十層がアクティベート化されて名前が知れ渡っていない今、五十層に辿り着けているプレイヤーは極端に少ない。
もし五十層にどこかのギルド、パーティーが居たらその人たちだと当てをつけられる
そしてその人たちが知らない人たちならば、今後の攻略にその人たちを組み込めば役立つかもしれない。
使える者は使って攻略を進める。それがアスナのスタイルだ。
もし知り合いならばどうして無茶をしたのか、と理由を問いたださなければならない。
 ただし、五十層に行ったとしても迷宮区がすぐに見つかるとは思えないし、もしかしたらフィールドに居るかもしれない。
無駄足になるかもしれないが、それはそれで良いとも思った。攻略が進むためだ。
 とにかく諸々の理由で四十九層を突破した人物を知る理由があるし、知りたいと思っている。
 コンコン、と扉がノックされる音がする。
アスナが入るように促すと先ほどとは別のメンバーが入ってきた。

「失礼致します副団長。団長がお帰りになりました。至急会議室へ来るようにとの事です」

「わかりました」

 元より会議室へ向かうつもりだったため、すぐに行動に移る。

(一体誰が……)

 気になる気持ちを抑え、アスナは会議室へと向かった。





第一話 立ちはだかる盾





 五十層の迷宮にキリトは単独で既に挑み始めていた。
迷宮区へ辿り着くまでに大分時間を浪費した。
そうは言っても、既に迷宮区へ辿り着けただけでも幸運と言える。
アルゲードの町は異様と言っていいぐらいに広い。
フィールドへ出るだけでも一苦労だった。
そして迷宮区へ続く道を突破するのもまた困難であり、
バトルヒーリングスキルが無ければ死んでいたのでは無いかという場面も一度あった。
 フィールドの敵も迷宮区の敵も四十九層より当然強い。一人で苦戦する事は多々ある。
何よりも敵の攻撃パターンを把握していないのが辛い。
ボスならば一匹に集中して行動パターンを把握すれば良いが、雑魚相手にそんなに時間をかけたく無いのが
普通のプレイヤーの心情だし、調べなければならない数も多いから何よりも面倒だ。
 そんな中、キリトは敵を観察しつつも強引に戦っていた。
いつ失っても良い命。大切にするつもりは無い。
 敵を倒すと、身体がライトエフェクトに包まれる。これでレベルは71。

「……ふう」

 一度大きく息を吐き、身体の力を抜く。
システム上そんな事は関係無いはずだが、現実から引き継がれた自然に行う動作の一つだった。
 キリトの疲れはピークに達しようとしている。否、もうとっくに限界を迎えている。
クリスマス当日までは不眠不休で戦い通し、それ以降は二時間寝ただけ。
そして今日も戦いづけ。昨夜も睡眠を取っていないため、大分疲れが出てきていた。
本来なら休むべき所なのだが、構わずにそのまま前へ進むのは生きることに執着していない故だろう。
 第五十層の迷宮区は鉱山の中の様なダンジョンになっている。
道の端に灯りはポツポツとあるが、それでは暗い。
よって、索敵スキル無しではなかなか辛いダンジョンと言える。
キリトの索敵スキルは彼が修得しているスキルの中でもかなり高い部類に入る。
元より警戒心が強いせいか、索敵スキルの伸びが他プレイヤーと比較すると早く、
土竜などのモンスターが居るこの鉱山ダンジョンに入ってからも
不意打ちを食らったことは一度たりとも無い。
実際に地面に潜られたら気配を察知できるか怪しいが、ゲームの仕様上ハイディング扱いになっているため
効果があるのだろう。
 暗い道を進み、角になったので曲がると壁が前方に立ちはだかっている。行き止まりだ。
宝箱があるがそれは無視し、踵を返す。宝箱は当分開ける気にはなれない。
前の別れ道まで戻ろうとすると、ふとモンスターの気配を索敵スキルにて察知する。
敵は二体。待ち構えるように道の真ん中を陣取っている。
隠蔽スキルを使って近づくが、視線が合う。気づかれている。
戦いを避けることは叶わない。戦うしかない。
剣の耐久値はまだまだ持つ。それを確認して敵に挑み始めた。
 五十層の迷宮区に入ってから1対2の戦闘はこれが初めて。
敵は鳥形のモンスターで羽ばたいて空を飛んでいる。二匹は微妙に色が異なり、二種類のモンスターだった。
名前も微妙に異なっている。
空中に浮かんでいるモンスターは距離を取られると攻撃が届かない事が多くて時間がかかる。
それに何よりもソードスキルを当てられない事があり、外れた隙を的確に突かれるため
余り相手をしたく無いタイプのモンスターの一種となっている。
 片方の鳥が突進してきたため、自然とそちらを相手する形となる。
敵は真正面から突っ込んできた。こうして攻めてくる間は優しい方だ。返り討ちに出来る。
今回もその様に迎撃しようとすると、ふと敵が突進してくる軌道を変えてキリトの横を通り過ぎる。
今までに見ないAIだったが、十分予測はできる範囲だったため、慌てることは無い。
元より慌てる必要は無いのが今のキリトの現状なのだが。
 空振りした剣を構えなおす。状況が悪くなった。
前後の挟み撃ち。1対2の状況で平地で考えられる最悪のフォーメーション。
道は狭いため、大きく回りこむことはできない。
何とか突破し、前方に敵を二体の状況に戻したい。
 キリトはこれ以上敵を増やさないためにも、行き止まりの方に回りこんだ鳥へと剣を向ける。
行き止まりの壁に背を向けることさえ出来れば挟み撃ちにはされないからだ。
本来ならば捨て身になって通路に戻ってもいいのだが、長い間培ってきたこのゲームでの戦闘経験から
自然と身体が動いていた。
 やや身体を通路の中心の方へ向け、後ろの敵も出来るだけ視界に入れやすいよう体勢を整える。
その間に敵の羽が3本飛んでくる。それを的確に剣で払い落とす。
敵の僅かな硬直を見てキリトは走り出す。
だが硬直は短く、すぐに敵が動いて高く飛んだ。
それを視認したキリトは走り抜け、行き止まりまでそのまま駆ける。
振り向くと同時にまた羽が来る。先ほどの倍の数。
多少のダメージは覚悟し、いくつかを剣の峰で防ぎ、一本だけ通してしまう形となる。
攻撃が当たる直前、キリトの目が全開まで見開かれる。
僅かに羽が薄緑色に包まれていた。

「しまっ――」

 気づいた時には遅かった。
羽の一歩がキリトの身体に刺さる。そして身体が痺れた。
 状態異常、麻痺。ボス戦の前に一度耐毒ポーションを飲んだが、効果はとっくに切れている。
そもそも耐毒ポーションはかなり高価な品となっているため、NPCで購入は出来るがかなり値段が張る。転移結晶には劣るがそれでも高い。
だから普段は飲まない。結果、この様な事態になった。
 キリトは地面にあお向けで倒れ、剣が手から滑り落ちる。
キリトのレベルと装備からして敵2体が麻痺している間にキリトに止めを刺せるかはわからない。
鳥が一体、目の前に迫ってくる。
羽が自分の身体に突き刺さる。不快な感覚が走る。
ステータスウィンドウに新たな状態異常が追加される。毒だった。
徐々にHPが減り始める。それをまるで他人事のように見る自分が居た。
これは死を免れない。
 そう確信に至り、不思議と穏やかな気分になった。
しかしキリトの表情に苦しみは無かった。
穏やかに、そして静かに笑っていた。

(……ああ、やっと君の所へ行けるんだな、サチ)

 罵声でも何でも聞き入れる。
だから早く彼女に会いたい。そして謝りたかった。
 敵が迫る。後一撃で自分はこの世界から無意味に消え去り、
脳をナーヴギアによって焼かれ、死ぬ。それは間違いないことだろう。
 敵と視線が会う。
終わりだ。そう思ってゆっくりと目を瞑った。



 そうした直後、一陣の風が走った。
違和感を感じ、閉じていた目を開く。
目の前に人が立っていた。どこかで見たことがあるような服を身に纏っている。

「……KoB?」

 自然と声が漏れる。

「君、大丈夫!?」

 その声ではっきりと分かった。
血盟騎士団(KoB)の副団長のアスナだと。
 前方を見ると他のメンバーが鳥を掃除していた。

(……生き残ってしまったのか)

 彼らは親切でやってくれたのだろう。
そうは思うが、ありがた迷惑だった。
 団長のヒースクリフも居たという事もあり、敵は安定して片付けられた。
なぜ血盟騎士団のトップ1、2がこの場に居るのかはわからない。
それに、ここに到着するのがやけに早い気がした。
キリトがアルゲードを出発してここに到着するまでに使用した時間は36時間を越えている。
だが、血盟騎士団が四十九層のボスの部屋を探し出し、
アルゲードの情報を収得してからここに来るまでのタイムラグを考えると、どうにも早すぎる感が否めない。
しかし別段興味を惹かれる内容でもないため、詮索するのは止めにした。
 ふと、アスナが解毒ポーションを取り出したのが見えた。それを手で制す。
麻痺はもう治ったため、無理して状態異常回復結晶や解毒ポーションを呑む必要は無い。
毒のレベルは余り高く無かったのか、さほど効果時間は長く無く、麻痺毒より少し遅れて治った。
キリトは一応助けてもらった手前、ポーションを飲んでからとりあえず形だけでも礼を述べることにした。

「ごめん、助かったよ。ありがとう」

 アスナは礼に対して耳を傾けず、キリトをじっと見る。そして表情には出さなかったものの、
心のどこかで少し怯えた。何て顔をしているのだ、と。
 一層で出会った時とはまるで別人だった。
顔に生気はなく、眼は死んでいる。
一体何があったのか。
 いや、そもそもなぜ彼はここに居るのか。
僅かに予想はした。彼が居るかもしれない、と。
しかし本当に居るとは思いもしなかった。
 なぜこんな所に彼が一人で?
そんな疑問は当然のように浮き上がってきて、次の様な問いをするのも自然な流れなのかもしれない。

「貴方、何でこんな所に一人で居るの?」

「俺はソロプレイヤーだ。一人で居てもなんら不思議は無いだろう?」

 確かにそうだ。だが、それは普段なら、という条件がつく。
開いたばかりの五十層。ソロだと情報収集も難しいのにこんな所に一人で素早くこれるわけがない。
 アスナはキリトを訝しげに見ているとふと気づく。
彼の顔色がやたら悪いことに。
顔色が悪い、ということは体調が良くないという事。
実際にSAOには体調不良などないが、このような状態になる原因が幾つかある。
それは睡眠時間をまともに取れていない時、もしくは空腹な時。
 キリトの場合は恐らく前者。アスナはそう考えた。
そんな彼の状態より、一つの仮説が立った。
その仮説は今朝、アスナが僅かに考えた予想と一致していた。

「……まさか、四十九層のボスを倒したのって貴方?」

 キリトは特に深く考えず、すんなりと頷く。
それによって周りのメンバー、ヒースクリフを除く全員がざわめき始める。
 もう良いだろう。そう思ってキリトはアスナの横を素通りしようとする。
これ以上話しを続けたくなかった。続けた所で無意味なのだから。
だが、それは叶わなかった。アスナに腕をつかまれ、止まることを余儀なくされる。

「……何だ?」

「どうして一人でボス攻略だなんて無茶をしたんですか!?」

「……倒したかったからだよ」

 嘘では無い。

「そういう問題じゃありません!皆で力を合わせて戦った方が安全なんです!」

「別に良いだろ?倒せたんだから」

 アスナの腕をやや乱暴に払い、今度こそ立ち去るべく歩き出す。
 アスナはもう一度キリトの動きを止めるために腕を掴もうとする。
だが、その前にキリトの前にヒースクリフが立ちはだかった。

「待ちたまえ。確かキリト君だったかな?」

 何とも言えない、穏やかなような無表情な様な顔でキリトの進路を塞ぐ。
キリトは彼の涼しい顔にになぜか怒りがこみ上げてきた。
相手の問いに応えることなく、キリトは前に立ちはだかった人物に対して普段よりやや低い声で言った。

「何だよ」

「君はこれから五十層のボスの部屋を探して一人で挑むつもりかね?」

「だったら何だ?」

 再び周りのメンバーがざわめく。
正気か疑っているのだろう。事実、キリトは正気とは言いがたい常態だ。

「そんな命知らずな行為は止めなさい!」

 アスナから叱責が送られるが、当然のように右から左へ流す。

「あんたらには関係の無いことだ」

 それをヒースクリフは即座に否定した。

「いや、我々にとっても大きな損害になる。
四十九層のボスを単独で撃破できる程の人材をここで失うのは余りにも手痛い。
この階層は五十層だ。だからボス戦ではかつてないほど苦戦するだろう。
その時に君が居ないのはきついのだよ」

 ヒースクリフの言うことも一部は理解できた。
二十五層のボスがやたら強かったのだ。それ故、五十層のボスが強いのは流れからして十分予測できる事。
だからキリトが単独で挑めば間違いなく死ぬ。分かりきったことだった。
けどそんな事は知ったことでは無い。

「それは高く買ってくれてどうも。だけどな、四十九層のボスは特徴からして
大部隊より少数精鋭で挑んだ方が攻略しやすい奴だった。
倒せたのはボスの特徴上ソロでも倒せるタイプだったことと、運が良かっただけだ。
五十層では役に立たないさ。お前の言う通り五十層のボスはかなり手ごわいだろうからな」

「そんな事は無い。君はこれからこのゲームを攻略するに当たって重要な人物になる。
だからここで君が死に逝くのを見過ごすわけにはいかない」

 つまり、ヒースクリフはどくつもりは無いのだろう。
キリトは顔を俯き気味にし、一度ヒースクリフから視線を外す。

「そうか……だったら」

 右手に握っている剣に力を込める。

「力ずくで通るだけだ!」

 剣を勢いよく構え、顔を上げてヒースクリフを眼前に見据える。
 先日、似たような事があった。クリスマスイブの夜、キリトを止めるために立ちはだかった人が居た。
だが、今目の前に立つのはかつての友人――クラインでは無い。
躊躇する必要が無い。相手が神聖剣などというふざけたユニークスキルを持つプレイヤーでもキリトは一切退かない。
オレンジプレイヤーになろうがそんな事は最早どうでも良い。
ここは押し通る。押し通ってボスと戦い、そして死ぬ。決めたことだ。
絶対に曲げるつもりは無い。
 血盟騎士団のメンバーたちはキリトのむき出しの殺気に武器を構えるが、ヒースクリフが手で制す。

「その疲れきった状態で私に勝つつもりかね?」

「……ああ、勝つさ」

 アスナはその声を聞いて寒気が走った。
怒り、殺意、そして失望。あらゆる負の感情が混ざっている。
そして、恐ろしいまでの覇気。
もしかしたら本当に団長に勝ってしまうのではないか、と思わせる程だった。

「ふむ、仕方ない。君は大切な人材だ。オレンジプレイヤーなどにするわけにはいかない。
デュエルで決着をつけよう」

「団長、良かったら私がやりましょうか?」

 豪快そうな男が笑いながらヒースクリフにそう提案する。
それに対し、ヒースクリフは首を横に振った。

「いや、ゴドフリー。君ではたぶん彼に勝てまい」

「そりゃ無いっすよ~」

 ガックリとうな垂れるメンバーを尻目に
ヒースクリフはウィンドウを操作し、キリトへデュエルの申請を出した。
直後、キリトの視界にウィンドウが浮かぶ。

「もし私に勝ったらここを通ると良い。ただし、負けたら君がKoBに入るのだ」

 その台詞はキリトの耳には届いていなかった。
ただ、一つの事に思考が占領される。

――SAO最強と謳われたプレイヤーに殺されるのも一興かもしれないな、と。

 キリトは唇の端を歪め、邪悪な笑みを作ると○ボタンを押し、オプションを<初撃決着モード>――ではなく、
<ノーマルモード>を選択した。
ノーマルモード。それの意味する所は――どちらかが死ぬまで戦いを続けるということだ。

「なっ!」

「貴様正気か!」

 KoBのメンバーから驚きの声が上がる。もとより正気では無い。

「どうする団長殿。リザインして良いんだぜ?」

 キリトが挑発気味に言う。ヒースクリフに殺されるのも一興だとは思っているが、
別に無理して殺されたいとまでは思っていない。
リザインされたらされたで構わないのだ。
 ヒースクリフはそんなキリトを冷めた目で見た。
その心の中には大きな落胆。
49層のボスを単独撃破した。そんなプレイヤーにヒースクリフは大きな期待を持っていた。
一体どんなプレイヤーなのか。どれだけ強いのか。
そして、どんな人間性なのか。
しかし、ふたを開けて見ればただの死にたがりやである。
持っていた期待とのギャップが激しかった事もあり、ガッカリする度合いも大きかった。
更に、世間で「最強」と謳われている己に対して無謀でかつ挑発的なデュエルの設定。

「……まさかここまで死に急いているとはな。
言っておくが、私はリザインするつもりは無い。
これでも最強ギルドの最強プレイヤーしての自負が少なからずあるのでね」

一応の忠告。けれどキリトはそれを聞き流した。
それを確認したヒースクリフは目の前にあるウィンドウへ指を伸ばす。

「良いだろう。その狂った心、私が介錯してあげよう」

 血盟騎士団のメンバーから止める声が上がるが誰も間には入ろうとはしなかった。
既にヒースクリフが攻撃態勢に入っているため、巻き込まれる可能性があるからだろう。
それにヒースクリフは団長なため発言権が最も高い人物であり、
威厳が強い彼が決めた事に力づくで反抗する事はなかなか難しい事でもある。
 キリトは剣を構え、ヒースクリフに斬りかかる。
他の者たちはヒースクリフを心配しつつも、モンスターが着たら対応できるように周りにも気を配っている。
 キリトは上段に剣を構えて攻撃する。ソードスキルを簡単に使って勝てるような相手では無い。
本能がそう告げていた。
 途端、ヒースクリフの表情が真剣になる。殺意と殺意がぶつかる。
並みのプレイヤーならば間違いなく気圧されただろう。だがキリトは並みでは無い。
ヒースクリフもキリトと同じように思っているのか、ソードスキルを使わなかった。
 神聖剣ヒースクリフ。現在、ただ一つとされているユニークスキルを保持している
彼の戦い様をこうしてみるのは初めてだった。
今までボス攻略の際に何度かヒースクリフは見ていたが、その時にはまだ神聖剣を修得していなかった。
つまり、手の内が全くわかっていない。
だから頼れるのは今まで自分が培ってきたプレイヤースキルとゲームセンスだけ。
 キリトは何度もタイミングを計って攻撃する。しかし、その度に攻撃が防がれる。
神聖剣という名のユニークスキルを保持しているだけあって非常に硬い立ち回りをしてくる。
強い。キリトがはっきりと力の差を感じる程に。
だが簡単に負けるつもりは毛頭無かった。

「うおおおおおおおお!!」

 スキル<バーチカルスクウェア>。垂直四連撃の多段技。

「ふん!」

 ソードスキルを知り尽くしているのか、ヒースクリフはあっさり防ぐとキリトの頭にソードスキルを思い切り叩きつけた。
視界が一瞬だけ暗転する。睡眠不足が祟っているのだろう、脳がおかしくなりそうだった。
 それでも立つ。
自分の体力か、もしくはヒースクリフの体力が全て消え去るまでは。
まだ体力は半分以上残っている。倒れるには早すぎる。
 今の行動を振り返る。やはりソードスキルを使ったのは間違いだったと確信した。
実は今、ソードスキルを放ったのはわざとだった。戦いの終盤になったら
もう試すことはできないからだ。
だからこうして、やられることを覚悟で行った。
 しかし収穫は大きかった。やはり現在情報屋に出回っているスキルは全て知っているのだろうという当てがついた。
 もう、ソードスキルは使わない。そう決めて再び戦いに移る。
剣を下から切り上げるために距離を詰める。
そこで予想外な事が起きた。
剣では無いものがキリトの脇腹に当たった。

「なっ!?」

 思わず驚きの声を上げる。盾だった。
通常、盾は防御にしか使えないのだが、神聖剣は特例で攻撃に使うこともできる。
それをキリトは知らなかった。
キリトが大きく仰け反っている間にヒースクリフは逃さず、キリトの心臓付近に剣を突き立てた。
 自分の身体から何かがごっそり喪失するような感じがした。
体力が一気にレッドゾーンにまで減る、そこから更に減少する。
近くから小さな悲鳴が起きたが、キリトの耳には届かない。
 ヒュンッという音が耳に届く。まだ体勢が整いきっていない。
何とか剣でヒースクリフの剣を弾こうとするが、防ぐ事が叶わなかった。
次の攻撃は何とか少しはさばく。しかし、身体をかすっていった。
続けてもう一撃、同じようなことが起きる。
 そして、もう一撃も受けることはできないという状況へキリトは追い込まれた。

「終わりだキリト君!」

 ヒースクリフが剣を振りかぶる。神聖剣の何かのスキルなのだろう。
キリトもヒースクリフの言葉を認めた。これで確実に自分は終わりだ、と。

「待って下さい団長!」

 悲鳴にも似た大声が二人の動きを止める。
キリトとヒースクリフ、両者が眼の端で今、声を上げたアスナの姿を捕らえる。
ヒースクリフはピタリと動きを止めると剣を降ろし、アスナに横目で訊ねる。
キリトは攻撃を仕掛けようかとも思ったが、隙が無かった。
アスナと会話を交わしつつも警戒を怠っている様子が無い。

「何だねアスナ君?」

「お願いします!デュエルを止めてリザインして下さい!」

「勝っている私にリザインをしろと?」

「団長だって仰ったではありませんか!彼は今後のボス攻略で重要な人物になると!
ですからここで死なせてはなりません!」

 理由はそれだけでは無かった。
第一層でアスナはかつて、キリトにこう言われた。
知り合いが目の前で死ぬのは寝覚めが悪い、と。
それは今のアスナにも同じ事が言えた。
 また、アスナとキリトは歳が近い。
第一層で会って以来、アスナはたまに彼を気にかけていた。
つまり、少なからず興味を持っているということである。
アスナ自身、その事を理解していないが、
勝負を止めようとする要因の一つにはなっていた。

「しかし殺さない限り彼を止めることは不可能だろう」

「私が何とかします!」

 ヒースクリフは試すようにアスナをじっと見る。
アスナもじっと見返した。自分の意見を絶対に覆さない、という意思を込めて。
それをすんなり理解したヒースクリフは深くゆっくりと頷いた。

「……君の少ない我侭だ。仮初とはいえ私の戦歴に始めての敗北が付くが……仕方が無い。
そこまで言うのならばやってみたまえ」

 ヒースクリフはウィンドウを操作するとリザインを押した。
事実上ヒースクリフの勝ちなのだが、勝負はキリトの勝ちとなった。
 静観していたキリトは剣を振り払って鞘に収めると歩き出す。
ヒースクリフに押されていた事は事実だが勝ちは勝ちだ。通る権利はある。
 だが、アスナは当然それを許そうとはしない。

「待ちなさい!」

「放せ」

 再び掴んできた腕を乱暴に振り払おうとする。相手に若干のダメージが入ることも気にせずに。
だが手を振り払うと、何かおかしな感触が腕に『刺さった』。

(――不味い!)

 それと同時に身体がグラッと傾く。
 キリトはアスナを信じられない、という目で見る。
アスナの手には小さなナイフが握られており、それには麻痺毒が塗られていた。
恐らく、最近出没し始めた対オレンジプレイヤー用に携帯していた武器なのだろう。
 キリトはアスナを見上げると、プレイヤーカーソルがグリーンからオレンジへと変わっていたのが見えた。
そこまでしてくるとは思わず、キリトは完全に不意を突かれる形となった。
麻痺毒にかかったキリトはすぐに崩れるように倒れ始める。
それをアスナはナイフを手放し、全身で受け止めた。
 アスナは疲れきっているキリトの横顔へ哀れみの視線を送る。
一体何が彼をここまで追い詰めたのだろう、と思いつつ。

「は……なせ……行かなきゃならない……んだ……」

 麻痺毒に抗いつつもキリトは苦しげにそう言い終わると、意識が閉ざされた。
限界に達してしまったのだろう。眠ってしまっていた。

「アスナ君」

 名を呼ばれ、ハッとして振り返る。
デュエルが終わり、再び元の無表情に戻っているヒースクリフがアスナへと向き直る。

「は、はいっ!」

「彼の介抱を頼む」

「はいっ!」

「それと今後、彼が立ち直るまでは君が面倒を見たまえ。これは団長命令でもある」

「はい。わかっています」

 当然だ、と言わんばかりにアスナは頷いた。
とりあえずキリトはゴドフリーに背負ってもらい、三十九層にある血盟騎士団の本拠地へ戻るべく、入り口へ向かって歩き出す。
なかなか危険なダンジョンなため、転移結晶を使いたいが
そうするとキリトを置いていってしまうことになるため使えない。
 とりあえず本拠地に帰り、彼が目を覚ましたら話しを聞こう。
そう決めてアスナは背負われていくキリトを見ながら帰還しはじめた。



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・後書きという名のデュエルについての言い訳

 「ノーマルモード」という言葉に違和感がある方がいらっしゃるかもしれないと思い一応補足を。
ALOの場合は「全損決着モード」なのですが、アニメ版の場合ヒースクリフだったかクラディールだったか忘れましたが
デュエル申請が着た時に「ノーマル」「制限時間」「初撃決着」の三つが表示されたので
「ノーマルモード」という記述にしました。
最初は「全損決着モード」と記述しようとも考えたのですが、もしかしたらALO側の仕様なのかもしれないと思ったためこちらに変更致しました。

追記:後から気づきましたが8巻だと「完全決着モード」になっていますね。
……ドウナッテンダコレ。


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