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No.34960の一覧
[0] 【おまけネタ】魔法世界転生記番外編 ~幻想郷探索記~【クロス】[走る鳥。](2012/09/04 02:15)
[1] test run 6thの直後から分岐[走る鳥。](2012/09/04 02:17)
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[34960] test run 6thの直後から分岐
Name: 走る鳥。◆c6df9e67 ID:f52c132d 前を表示する
Date: 2012/09/04 02:17
『感想掲示板にて そもそもの始まり』

>[78]Tanuki
>なんか落ちてきた!
>貴方が落としたのは、この「夜天の書」ですか
>それとも、この「闇の書」ですか



>Tanuki様
っ「夜天の書」が来た場合

 そ、空から超高性能デバイス兼魔導書降って来たー!?
 ぷっくりタンコブなど気に止める余裕もなく、あらゆる世界から魔法を集めて流転する夜天の書はまさに天からの贈り物だった。デバイスの管制AIにその事を説明された俺は「しばらく旅に出ます。ご飯はちゃんと食べますので探さないで下さい」と家に置手紙を残し、旅に出る事にした。蒐集した魔法の出所もきちんと夜天の書には記されていたのだ。別世界を回りながら、夜天の書よろしく俺も魔法を蒐集して行こうと思う。ロマンだ、ロマン過ぎる。
 魔力をカロリーに変換し、さらにはそのカロリーを使って魔力を生み出すという一種の永久機関魔法が夜天の書には記されていたのだ。名前は……捨食の魔法?というらしい。とにかくこれさえあれば、食いっぱぐれてのたれ死ぬ心配はない。早速ちゃんとご飯を食べるという約束を破ってる気がしないでもないが、何ちゃんと生きてれば良いだろう。まずは……うん、そうだな。せっかくだからこの捨食の魔法を蒐集した世界に行ってみよう。

っ「闇の書」の場合

 どうやらこの魔導書もどきは壊れたデバイスらしい。アクセスしようとしたらいきなりこっちの魔力を使って起動しようとしやがったので、DOS攻撃でフリーズさせてやった。元は高性能なデバイスだったのだろうが、途中で誰かに悪質な改造を受けたらしく地雷も良い所である。デバイスの構成式はベルカ式(しかも古代ベルカ式と呼ばれるものっそい古いタイプ)なので直そうにも直せない。まあ、元々デバイス修理など俺の専門外な訳であるが。
 仕方ないので、パーツだけ取って廃棄することにする。古代ベルカ式という割に今でも十分以上に高性能な部品だったらしく、とても高くジャンク屋に売れた。なんと専門書5冊分ほどになった。つまりは専門書5冊が空から降ってきたようなもんだ。良かった良かった。
 ……あれ? これってネコババって言わね?

っ「蒼天の書」の場合

「はぁ……で、居眠り運転ならぬ居眠り飛行をしていたと?」
「うぅぅ、ごめんなさいですぅ」

空から落ちてきたのは妖精さん……のようなデバイスだった。妖精型デバイスというか、インテリジェントデバイスのさらに高性能機みたいなもんで、自立して動けるのだそうな。外見だけに限らずAIもよっぽど優秀なのか、こうして話していてもほとんど人と変わらない。こうなってくると、到底道具とは言えないだろう。外見はファンタジーなのに、中身はとてもSFちっくだ。
しかし、その優秀さ……限りなく人に近い知性が祟って、彼女は空を飛んで移動している際に居眠りをぶっこいてしまったらしい。非常識にもデバイスの身で疲れていたそうだ。で、彼女持っていた本型デバイス(デバイスのデバイス、ではなくこちらが彼女の本体らしい)を手から取り落とし、それが見事俺の頭に命中した、ということだ。

「それでリーン。この子どうするの? 私は怒っても良いと思うけど」
「別に怒るつもりはないけど。……マスターに治療費と慰謝料を請求、もしくは一割寄越せと腕を一本貰う、というのはどうかな?」
「ひ、ひぃぃぃですーっ!?」

 無論、冗談である。
 怯えながら何度も謝る妖精さんを快く許した俺は、写真を一枚だけ撮らせて貰って解放した。実にメルヘンチックな出会いだった、まる。

 ……ソーセキ、ちゃんと解析したな? いやっほい! 今日は徹夜だぜ!





『「夜天の書」の場合 後日談』

 捨食の魔法に釣られて初めて(ミッドチルダを入れるなら二度目だが)別世界に足を踏み入れた。のだが。なんでしょう、このミッドチルダ以上に殺伐とした世界は。

 空をばびーっと極太熱線が貫いている。夜天の書とソーセキの分析によると、魔力を圧縮した砲撃魔法とは違い、見た目通りの熱線。つまり熱量を飛ばす凶悪レーザーなのだとか。うぉいっ!? 死ぬっ、当たったら死ぬよそれ!? もちろん、物理的なレーザーに非殺傷設定など埋め込める筈がないし、そもそもこの世界にそんな設定があるかも不明だ。
 そして、何より恐ろしいことにそれを撃っているのが戦闘機やらSFっぽい物体などではなく、黒いトンガリ帽子にエプロンドレスを着て箒に跨った魔女という点だ。いや、随分若いし魔法少女か? どっちでも対して変わらんが。凶悪レーザーに打ち落とされて、黒い塊が落ちてくる。反射的にバインドと障壁魔法を改造して作った衝撃緩和(クッション)魔法で受け止めてしまったが……うわっ、顔が溶けてる!? グロ死体を見るのは初めてだが、人の顔ってこんな氷みたいに溶ける物だったのか。

「誰が”グロシタイ”よっ!」
「げっ、喋った」
「チ、チルノちゃ~ん、大丈夫~……って、あれ。チルノちゃんが二人……?」

 ちょっぴし常識が崩壊しそうで挫けそうになることもあるけど、私は元気です。





『霧の湖編』

「えっと髪の短いチルノちゃんがチルノちゃんで、髪の長いチルノちゃんがアイリーンさんで…」
「髪の長いチルノちゃんはチルノちゃんだと思うけど」
「え、え、え? じゃあ髪の短いチルノちゃんがアイリーンさん?」
「あたい髪短いよ!」
「髪の長いチルノちゃんがアイリーンさんで、髪の短いアイリーンさんがチルノちゃん?」
「もうそれでいいよ」

 とりあえず、一見賢そうな子でも頭に大が付いても妖精は妖精だと思いました。スバルちゃんをふと思い出した。えーと、ここに来てから2週間ぐらいか。置手紙で旅に出たので家出と勘違いされてそうだ。心配してるかな?

 氷の妖精チルノとその友達の大妖精(固有名はなく通称大ちゃん)の”友達”になり、新たにやってきたこの世界”幻想郷”に付いて聞いたのだがいまいち要領を得ない。”外の世界”で幻想になりかけた存在が寄り集まってくるという幻想郷。え、つまり幻想なの? 幻想ではないの? 妖精なんて幻想(ファンタジー)そのままだと思うんだが。一週間掛けてチルノと大ちゃんから聞き出せたのは、そんな言葉遊びのような事と、チルノがさいきょーな馬鹿で大ちゃんが良い子な天然さんだと言う事だけだ。俺はそんなことないと思うんだが、大ちゃん曰くチルノと俺(アイリーン)はそっくり瓜二つらしく、度々間違える。髪の長さが全然違うんだが、妖精的には見分けるポイントにならないらしい。
 とにかく、住所不定になってしまっている今の俺はこの二人に幻想郷内を案内してもらっているんだけど……。

「アイリーン! あたいと勝負だ!」
「にーらめっこしましょ、笑うと負けよー、あっぷっぷっ」
「あはははははっ。あっぷっぷって何よ、馬鹿みたい!」
「お前にだけは言われたくないわーっ!!」

 さて、この勝負どちらが勝ったんだか。未だ湖の畔から脱出出来ていない俺は、少なくとも勝っていないと思う今日この頃だった。





『一発芸』

「貴女が最近霧の湖に出没する妖精そっくりの人間ね」
「くちんっ……ずずっ。色々言いたい事はあるが、何はともあれ訂正して貰おう。チルノと一緒にすんな」
「……湖で行水なんて馬鹿な事をして、凍えた上で私の屋敷のお風呂を借りようとしている貴女が言えた台詞?」
「くちんっ。風邪引くような水温じゃなかったのに、チルノが飛び込んできたんだよっ。それより早く入れてくださいっ、死にます!」
「威勢の良い台詞ね。……一つあの氷精真似をして見せたら入れてあげてもいいわよ?」
「あたいったらさいきょーね! へくちんっ!」

 幼女な吸血鬼に一発芸を要求されたりするけれど、私は元気です(まだ生きてる的な意味合いで)





『おぜうさまと氷精とピーマン』

 さて、今俺が根城にしている霧の湖からちょっと行った所に紅魔館というお屋敷がある。名前も凄いが、外見も負けてない。屋根の色から外壁まで名前の通り真っ赤なのである。趣味悪いを通り越して、頭悪いまで行きそうな外観だが、そこに住んでいるのはなんと本物の吸血鬼なのだ。

「咲夜、ピーマンは入れないでってあれほど言ったでしょ。下げて」
「ですが、お嬢様…」
「チルノですら食べられるのにな」
「(むかっ)……なんですって?」
「あたい、なんでも食べられるよ!(ばりぼりばりぼり)」
「わぁ、チルノちゃん。生野菜食べられるんだ」

 氷精はテーブルの中央に飾りとして置いてあった、生のピーマンを丸齧りしている。吸血鬼のお嬢様(幼女)は怯んでいる!
 いや、生のピーマンって。俺でもやだぞ、それ。種も何も取っていないので、齧った口の中からガリゴリと異音が聞こえる。
 一方、お嬢様はチルノと皿に残った少量のピーマンを見比べている。吸血鬼だという証拠はその背中の蝙蝠羽しか元々見て取れなかったが、今はその羽もしゅんとうな垂れている。おおい、吸血鬼さんよ。

「(ガリゴリガリゴリ)うまい!」
「この私がピーマン如きに屈する訳……!」

 と。ついにお嬢様が動いた……! いきおいよくフォークで突き刺し…口に含む。口をもごもごと動かし、味わうように目を瞑っているお嬢様。もごもごと口を動かし、段々と身体が震えてくるお嬢様。もごもごと……って早く飲み込めよ。
 吸血鬼のお嬢様は、涙目で傍に立つ侍女を見上げ。

「……さくやぁ」
「今、布巾をお持ちします」

 すごいところだ、げんそうきょう。
 吸血鬼って言っても十人十色なんだろうけどな。





『動かない大図書館』

 現在、俺はそれはもう信じられないぐらいにドでかい図書室に居た。いや、これだけ規模がデカイと屋敷の一部とはいえ、図書館と呼ぶべきだろう。部屋にはところ狭しと巨大な本棚が置かれているのだが、”上空”からぐるりと視界を旋回させても部屋の端が見えない。ついでに言えば飛行魔法で加減なしに浮かび上がっても頭をぶつけないぐらいに天井も高い。上だけで何十メートルあるんだ、ここ。
 吸血鬼が住む屋敷、紅魔館。外から見た時も大きいと感じたが、中はさらに広い。なんでもここに住んでるメイド長が空間を弄って広げたのだとか。吸血鬼のお嬢様(お子様)に我が事のように自慢された時は喜々として食いついた。空間をずらして擬似的にもう一つの空間を作る魔法はミッドチルダに存在していたが、既存の空間を拡張させるような魔法は存在していなかったからだ。いや、真似事ぐらいは出来るかもしれないが、ソーセキに解析させた所物理的に空間が広がってるらしい。これはもう興奮するしかない。
 さあ、知っている事を全部吐け。とお嬢様に組み付こうとした所で当のメイド長に止められた。

 ……魔法じゃないんだって。ワンオフの能力、いわゆるレアスキルの類らしい。
 幻想郷には空を飛んだり、弾幕という名のビームやら光弾をぶっ放す連中でいっぱいだが、その大半が魔法ではなく独自の能力の産物なんだそうだ。
 真似できんもんかなぁ、とソーセキ先生&夜天さんに聞いてみたのだが、現象を参考には出来ても、見本にはならないらしい。魔法とはまったく別の理屈で行われるレアスキルをミッドチルダ式魔法で再現しようと思ったら、それこそゼロから作り上げるぐらいの労力が掛かる。ようは飛行機が空を飛んでるのを見て、「よし魔法で空を飛ぼう」と飛行魔法を作り始めるようなもんだ。”飛ぶ”以外に共通点はない。
 ちなみに吸血鬼のお嬢様はレアスキルで運命を操ることが出来るんだそうだ。ポーカーでロイヤルストレートフラッシュ出し放題?と聞いたらそこまで細かく指定できるものじゃないらしい。へー、ほー、ふーん。へっ。

 鼻で笑ったら取っ組み合いになりました。うわ、この幼女強い。マジ強い。夜天の書ユニゾンモードの障壁魔法を素手で突き破られた。どんだけー。


 謝罪とここに滞在する許可を得る為にちょっとだけ血を吸われたが、予想以上に美味しかったらしくご機嫌になったお嬢様にこの屋敷に住んでいる魔法使いを紹介してもらったわけだ。
 で、話は盛大に逸れたがその魔法使いが住んでるのが、この巨大な図書館だ。

「なるほど。”外の世界”のさらに外に転生して、出戻りしたのね」
「幻想郷やら外の世界がどうとかは知らんけど、多分。というか、あっさり転生なんて信じるんだな。本人ですら半信半疑なのに」
「珍しくもない……とまでは言わないけど、転生を繰り返してずっと幻想郷を本に綴ってる人間もいるわ。一回ぐらいなら偶然でも充分起こり得る」

 魔法使い、というか魔女はネグリジェ…げふんがふん、寝巻きっぽくも見えなくもない服を着た少女だった。こうして話している時も分厚い本に顔を埋め、先ほどから夜天の書にちらちら視線を向けている。典型的な本の虫だ。魔法使いということだし、デバイス兼魔導書の夜天の書が読みたくて仕方ないのだろう。一応人格らしきものがある夜天さんは、ふわふわ浮いて魔女の手の届かない位置まで退避する。……凄く残念そうだ。

「貴女。ここの本を読みたくない?」
「読ませてやるから、夜天の書を読ませろと?」
「そう」
「うーん。けど、夜天さんには俺の知ってる魔法全部入ってるしなぁ」
「私の魔導書を読みたいだけ読ませてあげる。なんなら手解きをしてあげても良いわ」
「そんなに読みたいか」
「読みたいわ。……次元世界を渡り歩いて、魔法を蒐集し続けた魔導書。……本当なら譲って欲しい所だけど」
「いや、さすがにやれないから」
「そこまで厚顔無恥ではないわ。だから、閲覧だけさせて」

 結局、熱意に押されてOKしてしまった。まあ、独占しても特に良いことはないし、しかもまったく違う系統の魔法を教えてくれるというのだから飲まない手はないだろう。実は密かに彼女の魔法をいくつか調べてみたのだが……まったく分からない。理論形態が掠りもしないのだ。だって、炎を生み出すのに熱量に関する式がどこにも見当たらない。通常ミッドチルダ式魔法の場合は”構成→魔力発動→熱量変換→炎”となる。が、彼女の場合、”良く分からない材料+詠唱(?)+魔力→炎”となっている。詠唱と材料が構成に当たるとしても、過程もなく炎が出現しているように思える。まるで物理法則とはまったく違う法則が働いているかのように。
 捨食の魔法は魔力をカロリー変換する公式をすり合わせるだけなのでまだ理解できたが、これを独学で勉強するのは何時間あっても足りたもんじゃない。だって、炎を生み出すのに熱量に関する式がどこにも見当たらない。教師が居るに越したことはないのだ。
 それは向こうも同じなのだろう。夜天の書を開いて……首を傾げている。やがて顔を上げ、視線が俺とぶつかる。

「パチュリー・ノーレッジよ。パチュリーで良いわ」
「生前の名前は■■■■。ただまあ、この格好だしアイリーンで良い」

 どちらとともなく、がっしりと握手を交わす。ここに契約は結ばれたのだ。
 ……いや、お互い欲望丸出しに瞳を輝かせてますけどね? ああ、こんなに新しい魔法達……涎が出そうだ。





『続・動かない大図書館』

「改めてみても全く別物ね。共通点といったら、魔力を使用している一点のみ」
「だな。リンカーコア……魔力の発生器官についての知識も随分違ったし。っていうか、同じ物なのか、これ?」
「同じようなもの、ではあるでしょうけど。同一ではないでしょうね。私達魔法使いにとって、魔力は力の源であり、活力であり、魂ですらある。肉体に依存する器官というよりは、魂の出力にも近いものよ。例えば、その辺を歩いている人間が私の肉体を手に入れたところで、私の魔力は手に入らない」
「その例えは良く分からんけど。ミッドチルダじゃ、まだまだリンカーコアは未知の分野だったしなぁ。……ん、でも例えクローンを作った所で同じ魔力資質になる訳じゃないって論文を読んだことがあったような」
「共通点はある、か。……ふぅ、分かっていたことだけれど、やはり理論が違いすぎてすり合わせにも一苦労ね」

 大きな大きな大図書館にて。夜天さんを始め、何冊もの魔導書をテーブルの上に広げ、それを挟む形で俺と紫髪の少女は頭を突き合わせていた。話し始めて数時間が経過しているが、この間俺達は違いの顔を一度も見ていない。見たら目が潰れるという訳じゃないが、見る暇も惜しんだ結果というか。視線は広げられた本と考察の為に走り書きした紙切れに注がれ続けており、ある種の一体感を持って討論を続けていたのだ。
 議題はもちろん、二種の魔法術式の差異と類似性について。これが中々に興味深く、理論は掠りもしないくせにところどころで似通った理屈を振り回しているのだ。同じ魔法なんだから当たり前だ、と考えているそこの君(?)は甘い。それぞれ自分の術式にはそれなりの自負がある俺達二人が揃って首を傾げるほどなのだ。
 いや、位相空間を作り出す為の構成と酔い覚ましの魔法で正気に戻させる為の過程に似通った部分があったりするし。ねーよ。実際あったけどねーよ。

「パチュリー様、それにアイリーンさん。そろそろ一度休憩してはどうでしょうか? 煮詰まっているみたいですし、糖分と水分の補給をした方が良いですよ」

 俺とパチュリーがあーでもないこーでもないと議論していると頭の側頭部に羽を生やした女性、この大図書館の司書でパチュリーの使い魔をしている小悪魔さんがトレイにカップを載せて運んできた。ずっと喋りっ放しだったので喉はからからで、漂ってくる紅茶の香気に自然と俺達二人は視線を本から外して彼女へと向けていた。

「そうね、少し休憩にしましょうか」
「そうだな。ちょっとだけ」
「ええ、5分ほど」
「ああ、5分な」
「もう! お二人とも。いくら食事の必要がないからといっても、6時間もぶっ通しで議論するのは身体に良くないですよ。もう少しちゃんと休んで下さい」

 紅茶で喉を潤したらすぐにでも議論を再開したい俺達の意図を察した小悪魔さんに怒られてしまう。捨食の魔法があるので、魔力さえあれば実質食事も睡眠も必要ないのだが、そういう問題ではないらしい。特にパチュリーの方は持病の喘息があるので、無茶は禁物なのだそうな。
 しかし、それにしても便利だな、捨食の魔法。パチュリーのアドバイスに従って、多少手直しをしたのだが、単純に魔力をカロリーへと変換するだけではなく、身体の活力というか、パチュリー曰く”生命力”を生み出す魔法なのだ。腹減ってようが疲れていようが、適切な量の魔力を流せばすっかり元気になれてしまう。栄養ドリンクなんて目じゃないほどの即効性で、副作用も皆無だ。日本で働く元気のないお父さん方垂涎物である。
 美人で気立ての良い小悪魔さんが手自ら入れてくれた紅茶を機嫌よく喉に流し込みながら、すっかり俺は上機嫌だった。実家にいた時は予算の都合で手が届かなかった魔法の専門書が読んでも読んでも読んでも読みきれないほどここにはあるのだ。こんなパラダイスにいて、機嫌悪くなる訳がない。ミッドチルダ式の専門書がないのは残念だが、今度パチュリーの手持ちの金(かねではなく、きん。ゴールドである)でミッドチルダから専門書を取り寄せる予定であった。

「そういえば、アイリーン。貴女、捨虫の魔法はいつ習得するの?」
「は? ……ああ、不老不死の魔法だっけ?」
「不老、よ。不死ではないわ。本来なら自力で至るまで長い期間を要するのだけれど。貴女なら夜天の魔導書を使えばすぐでしょう?」
「んー……そうだな。もうちょっとしてからにするわ」
「……何故? 貴女は私と同じ、魔法と本に全てを捧げる人種よ。出来るだけ若い段階で”完成”した方が魔法使いとして質が高くなるのは分かっているわよね?」
「ああ、まあ、そこの部分は理解してる。魔法を使うにしても習得するにしても、身体が若い方が柔軟さに違いが出るっていうんだろ?」
「ええ。……人間に未練でもあるのかしら」

 驚いた。何に驚いたかって、パチュリーの俺を見る目から、多少なりともの執着を感じたからだ。パチュリーの魔法に対する情熱というか傾倒さは半端ない。既にパチュリーは”完成”した魔法使いだそうだから寿命のない不老人間な訳だが、その長い長い人生全て投げ捨てて魔法に没頭すると決めている。まさに世捨て人だ。付き合いはまだ二週間と経っていないのだが、パチュリーの言うところである同じ人種の俺には良く分かる。趣味があれば生きていける、それ以外を必要としない人間なのだ。
 そんなパチュリーが俺へ必要を求めている。結局は魔法に対する欲求から来るものだろうが、それでもこのパチュリーという少女なら他人と付き合う手間隙など切捨てると思っていたのだ。それなのにこうやって、わざわざ言葉に出してまで促して来ている。

 そう、俺という同類が完全な同族へと変化するのをだ。

 まあ、ただ俺は全て捨てた訳ではないし、少なくとも今の両親が死ぬまではちゃんと子供をしようと思う。別に完全な魔法使いとやらになったところで人間以外になるとも思えないが、それでも普通の人間の立場なんぞ、長い長い魔法に掛けられる時間の魅力の前には何の未練も感じられない。
 しかし、だ。

「計算だと、あと8年ぐらいは大丈夫みたいなんだよ。だったら、8年待ちたいじゃんか」
「8年……何の話?」

 温い紅茶を飲んだせいか、持病の喘息もなく少し軽くなった声でパチュリーは問い返して来た。何の話か。もちろん決まっている。

「今のまま不老になったら、永遠の7歳じゃないか。せめて、10代半ばぐらいにはなっておきたいな」
「……なにそれ。貴女、もしかして気にしてたの? 一丁前に」
「気にしてるんだよ、一丁後だから。今のままじゃ誰を相手にしたって見下ろされるんだぞ」

 そう、このままではパチュリーどころか、この館の主である吸血鬼(笑)より外見年齢が下である。前世では大男で身長で負けることなどほとんどなかったのに、アイリーンになってからというものの見下ろされている記憶しかない。同年代ですら背で負けているのだ。多少年齢で水増しでもしておかないと、それこそ一生の悩みになってしまう。永遠に近い時間が待っているだけに、それはいただけない。
 ぷっ、と吹き出したのはパチュリーではなく、その後ろに控えていた小悪魔さんだった。俺がジト目を向けるとトレイを胸に抱えて、逃げていった。くっ。いつかその大きな胸思う存分揉みしだいてやる。
 視線をパチュリーに戻すと、いつの間にか開いた大きな本に顔を埋めていた。笑うのを堪えているのではなく、もう俺から興味を失ったのだろう。

「はぁ、まあいいか。8年後にはパチュリーも小悪魔さんも見下ろしてやるからな」
「……それは無理ね」

 魔導書に目元まで顔を覆ったまま、パチュリーが不吉な予言をした。ぎくり、と思わず俺は身体を硬直させる。もしかして、パチュリーの目にはマリエル的なロリロリしいご先祖様でも俺の背後に見えているのだろうか。母親が母親なので、確かに著しい成長の見込みは薄いが……それでも、まだ7歳なのだ。伸び代は充分ある筈だ。
 だが、パチュリーは細い人差し指で俺を指すと、まさしく未来を見据える予言師のように断言した。


「貴女が8年も捨虫の魔法への好奇心を我慢できる筈がないじゃない」


■■結局9歳でファイナルアンサー■■





『続々・動かない大図書館 魔法使い三人編』

「よー! 今日もちょっくら本を借りに来たぐえぇ!?」
「なるほど、確かに便利ね。スペルカードルールに反している気もするけれど」
「いくら軽くしているとはいえ1日でバインドを使いこなす引き篭もりに嫉妬する。こっちは未だ初歩の発火ですら手間取ってるのに」
「どちらが優れている、という論議はする気はないけれど。私達の魔法に比べてミッドチルダ式魔法の方が合理性に富んでいるわね。向いていない物は一切無理なのが”魔法使い”だから」
「お慰めありがとうございます。……でも、柔軟性は幻想郷式の方が明らかに上なんだよな。無理でも覚えたい」
「才能がないとは言わないわ。貴女なら初歩のきっかけさえ掴んでしまえばすぐでしょう」
「……お、お前ら、人が首吊り死体一歩手前になったってのに無視とは酷いぜ。この人でなし」
「「魔法使いだもの」」

 恨みがましい視線を向けてくるのは幻想郷に来てから最初に目撃したいかにもオカルトチック……いやこの場合はローカルとかロートルともいうべき時代遅れな魔女っ子ルックの金髪少女だった。幻想郷では変わった帽子を被る風習があるのだが、それでも今時真っ黒の三角帽子はない。白黒のエプロンドレスも合わせて、どこのジブリアニメから飛び出してきたのかと問いたいぐらい時代のかかったセンスである。彼女は俺やパチュリーと同じ魔法使い……といっても、捨食も捨虫も覚えてないので、あくまで”魔法が使える”人間に過ぎないそうだ。
 彼女はこの大図書館に大量に保管している魔導書目当てに度々侵入してくる盗人兼パチュリーの友人で、俺も何度か話して面識はあるのだが、実は名前も知らない。だって、パチュリーは”白黒”だの”鼠”だのとしか呼ばないし、小悪魔さんは整理した本を荒らして持っていく彼女を毛嫌いしているのでそもそも話し掛けない。まあ、名前を知らなくても困らないからと聞かない俺も俺なのであるが。
 で、今回パチュリーに教えたばかりの捕縛魔法……リングバインドと呼ばれる一番基礎的なバインド魔法の実験台になったのである。普通手足が引っかかるものだが、今回は高速で飛行してきた彼女の首に引っかかった。バインドは引っかかった者に浮力が発生するようになっているので首吊りで窒息死することはないのだが、あの勢いで首を持っていかれた瞬間は確かに目に優しくない衝撃映像であった。

「慰謝料としてその魔導書を貸してくれ。それで勘弁してやる」
「先に言っておくけど、夜天さんは自己帰還能力があるから、盗んでも読む前に戻ってくるぞ」
「よしんば今執筆中のミッドチルダ式魔法について纏めた本の事でも無駄よ。鼠取り用に延焼するようになっているから」
「くっ、なんて友達甲斐のない奴らだ。……あと言って置くと私は泥棒なんて一回もしたことないんだぜ?」
「嘘つきは泥棒の始まりだな」
「つまり泥棒ね」
「……なんでお前ら、会ってほとんど経ってないのにそんな息ばっちりなんだよ」

 ちょっと冷たくしすぎたのか、椅子に身を投げ出して深く沈みこむ少女。パチュリーや俺と違って見た目通りの年齢だし(俺は前世と合わせて3●歳。パチュリーに至っては今世だけで100歳オーバー)、苛めすぎたかもしれない。パチュリーにちらりと視線を送ると、好きにしなさいと言わんばかりに小さく肩を竦めた。俺の件でもそうだが、意外にパチュリーは他人に優しい所がある。魔法使いとして後進の彼女になんだかんだで魔導書を渡しているのはそういった理由からなのだろう。

「まあ、そっちの研究について多少話してくれれば、ミッドチルダ式魔法について教授するのはやぶさかじゃないぞ。俺としては」
「お、マジか? パチュリーなんかと合同研究なんかしてるから相当な変わり者だと思ってたが……でも良いのか? そんなに簡単に自分の秘奥を話して。外の世界っつっても魔法使いだろ、お前も」
「秘奥ってほどの物じゃないしな。ミッドチルダじゃ普通に公開されてる技術だ、対価として異世界の魔法について知れるなら悪い取引じゃないよ」
「うへぇ、太っ腹だな。おい、パチュリー。お前もこいつ見習えよ」
「魔法使いとしては異端な考え方よ。見習うべきことはないわ。……学ばせては貰うけれど」

 ”魔法使い”は各個人によって得意とする魔法がまるで違うのが普通らしいし、パチュリーよりは未熟でも話に加わってくれることは決して悪い話じゃない。まあ、さすがにパチュリーほど踏み込んだ事まで教える気はないけどな。パチュリーの払ってくれている対価とは比べ物にならないし。

「それで、アイリーン。魔力を圧縮加工して扱う砲撃魔法についてなんだけど」
「なんだって? そりゃあ聞き捨てならないぜ。幻想郷一の砲撃使いとして物申してやる」
「貴女のは火炉を使った属性魔法の一種でしょ。比較に使うものとしては適当じゃないわ」
「いや、俺としては凄い気になるんだが。チルノを溶かしたあのビームの事だろ?」
「ああ、私の自慢のスペカ『マスタースパーク』だ。こいつはちょっとやそっとの代価じゃ見せてやれないぜ?」
「貴女弾幕ごっこの時必ず使うじゃない」
「あれは本物のマスパじゃない。3日待っていろ、本物のマスタースパークを食らわせてやるぜ」
「山岡か」

 早速とばかりに白黒魔女は椅子を寄せて、俺達の論議に加わってくる。ミッドチルダでは出来なかった同等レベルでの魔法論議は実に楽しい。マリエル達に心配を掛けさせてしまっているのは申し訳ないが、やはりこちらにしばらくは住み込みたいと思う。幻想郷は日本の一部にある世界らしいし、意外と元日本人としては空気が肌に合うのかも知れない。人生、どう転ぶか分かったもんじゃないな。

「そういや、アイリーンだったな。なんでそんな男みたいな喋り方してるんだ?」
「お前にだけは言われたくない」
「私は普通だぜ」

 まあ、とりあえずは目先の幸せを存分に味わうとしよう。





『楽園の管理人と外から来た魔法オタク』

 俺の今居る幻想郷という世界だが、現代から消えつつある”幻想”を自動的に収集し、保護する世界なのだと言う。まあ、ようするに俺達のような魔法使いやら、チルノや大ちゃんのような妖精達がそれに当たる。ミッドチルダでは魔導師は全く持って珍しくないのだが、パチュリー曰く捨食の魔法を習得した今、俺も既に立派に”幻想”と呼べる存在らしい。まあ、自分でも異世界に転生して魔法を覚え、こうして日本のある世界へ戻ってきた自分が普通でないことぐらい自覚していたのでそれは別に良いのだが。
 問題はその”幻想”を”外”に持ち出すことを禁じているということである。

「こんにちは。貴女が外の世界……いえ、”外の外”からやってきた魔法使いね」
「……どちら様ですか?」
「ただの大家ですわ。新しく入った住人に顔見せと忠告を、と思いまして」

 今俺はパチュリーと紅魔館の家主である吸血鬼のお嬢様との交渉の末、その一室を借り受けて住んでいるのだが。5日ぶりほどにベッドで休もうと戻ってきた俺は、ゴスロリファッションを着た年齢不詳の金髪美女に出迎えられた。そして、もちろん俺には見覚えのない人物である。紅魔館が借家だったなんて聞いた事もないし、よしんば本当だったとしても俺はただの居候である。何の用だろうと首を傾げるしかない。それに真に気になるのは人の自室に無断で上がり込んでいることではなく、前世今世含めて並ぶ者がいないほどの目の覚めるような美女の外見でもない。

「上半身だけで浮遊するのが趣味の方ですか?」
「そうねぇ。楽ではあるし、趣味といっても間違いではないかもしれないわね」

 出来の悪い芸術画のように。空中に引かれた線の間からその美女は上半身だけを乗り出してこちらを見ていたのだ。パッと見、空間に亀裂が出来ているようにも見えるが、その亀裂の端がこともあろうにリボンで結ばれて止められているのである。趣味の悪い冗談のような落書きにしか見えなかった。というか、そこから人間の上半身が迫り出してなければ、透明なガラスの板に落書きされていると判断したかもしれない。
 パチュリーや吸血鬼のお嬢様が被っている帽子と、似た帽子を被った金髪美女は疑問符を飛ばす俺に手に持った扇で指して来た。

「それでは用件を。――アイリーン・コッペル、貴女は幻想郷の正式な住人になる事を望むのかしら? ”住人”としてここに未来永劫住まうというなら歓迎しましょう。”お客様”として一時の滞在を望むのならば丁重にお持て成しを致しますわ。しかし、盗人猛々しく、”幻想”を外に持ち出すのが目的ならば……」
「……」
「……何をしているのかしら?」
「あ、ごめんなさい。でも、どうしても気になっちゃって」

 転移魔法の亜種だろうか? でなければ、位相空間と現実空間を繋げる出入り口か何か? それともステルス魔法の一種で、下半身を消しているだけなのか。超絶気になった俺は端のリボンに触れてくいくいと引っ張っていたのだが、美女がこめかみにうっすら血管を浮かばせ怖い笑顔を向けて来たので手を離した。いかんいかん、なんか真面目な話をしようとしていたっぽいのにぶち壊しにしてしまったかもしれない。
 俺がぺこぺこ頭を下げると、手に持っていた扇を広げ、口元を隠した美女は大きく溜息を吐いた。

「ふぅ。少なくとも、幻想郷の住人に相応しく図太いようね。心臓に毛の生えるが如く」
「まあ。趣味さえ満たせれば後はどうでも良い人種ではありますけど」
「その趣味が問題ですわ。……来訪人、単刀直入に聞きます。貴女は自分の利益の為に幻想郷に害する気がありますか? もし、少しでもあるのならば」
「いえ、まったく」
「……もう少し様式美や慎みを持てないのかしら、貴女は」
「あいにく在庫切れです」

 まあ、つまる所。この人は幻想郷の管理人らしい。今や立派な魔法使いになってしまった俺ではあるが、幻想郷の自動収集機能に引き寄せられたのではなく、自分の意思で魔法を集める為にやってきた身だ。つまり、今の俺は不法入国者もいいところなのである。てしっ、と頭のつむじの辺りに畳んだ先の扇を突き付けられた俺は、言い回しが回りくどく胡散臭い割に丁寧な説明を受けてそれを無理矢理理解させられた。話の途中であわや逮捕になるのかとビビった俺であったが、彼女の用件はそういう訳ではなく、幻想郷に住まうのなら守って欲しいことを伝えに来たらしい。

一つ、幻想郷にある存在、技術問わずに”外”へは持ち出さないこと。
二つ、幻想郷の存在を絶対他者には漏らさないこと。
三つ、”俺”の現代世界(地球)への帰還禁止。

 いやそれって幻想郷からもう二度と出るなってこと?と問えば、誰かを連れていったり、幻想郷で手に入れた物品や技術を別世界に広めない限り、ミッドチルダ等次元世界へ行く事は良しとのこと。二つ目に関しては他の世界の人間……特に時空管理局に幻想郷の存在を気取られたくないんだそうな。まあ、それに関してはなんとなく分かる。魔法でもない能力、そして人間でもない生き物が盛りだくさんの幻想郷だ。表に広く知られるようになれば、密猟者で溢れ返ることになるのは火を見るよりも明らかだ。別にこの世界に被害をもたらしたい訳でもないし、技術を秘匿にしろというならそれもまた仕方ないだろう。
 しかし……三つ目は

「……日本に帰っちゃダメなのか?」
「ええ、■■■■。貴女は既にこちら側、”幻想”となった存在よ。幻想郷の管理人として、外の世界に”幻想”を向かわせる許可は出来ない。……執着は分かるわ、未練も理解してやれないでもない」
「一目だけでも、無理?」
「無理よ。……管理人としての私だけでなく、人生の先輩の立場からも忠告してあげる。貴女はもう■■■■じゃないのよ。アイリーンとして生きて、アイリーンとして死になさい」

 正直言えば、未練がまったくなかった訳じゃなかった。幻想郷が日本の一部であると聞いて、俺がいなくなった後どうなったか確認するつもりはあった。例え帰れなくても、両親や知人に会いたかった。
 ……今の生活に不満はない。むしろ、満足と充実ばかりが溢れていて、幸せとはっきり断言できる。そう、未練だ。確かに彼女の言う通り、この感情はただの未練なのだろう。■■■■であったという未練。あそこから先、続く筈であった俺の人生に対する未練だ。そして、それはもう無くした物でしかない。失った物は、取り戻せない物はわざわざ引き返してまで確認するべきではないのだろう。

「理解出来たようね」
「……はい」
「ならば、幻想郷は貴女という存在を受け入れましょう。ようこそ、幻想の素敵な楽園へ」
「っ……」

 俯く俺に、彼女の優しい歓迎の言葉が降り注いだ。
 名前も知らない、会って数分しか経っていない彼女の前で、俺は子供のように立ち尽くす。■■■■であったという意識はもちろん消えていない。前世での経験があったからこそ、今の俺がいる。例え生まれ変わったとしても、俺は俺であり、これから先アイリーンとして生きるのだとしても、俺は最後まで俺であり続ける。
 ただ、何故か胸の奥にストンと収まる気持ちがあった。ようやく俺は……前世を思い出にすることが出来たのだ。

「あら、泣くほど感動したのかしら。そうね、貴女は幻想といえどもまだまだ子供……きゃあっ、こ、こらっ、何をしてるの!」
「何ってこの豊満な膨らみに顔からダイブしただけですが。私アイリーンですし、子供ですし、少女ですから仕方ないですね」
「ぬ、ぬかったわ……この図太さ……!」
「うわ、それにしてもすげえ柔らかい。なにこれひわい」
「卑猥なのは貴女よっ!!」

 ああ、生きて行こう。
 アイリーンとして。新しい人生を。
 過去を胸にしまって、今を生きて行こう。





『続々々・動かない大図書館 魔法使い四人編』

「よーぅ、遊びに来たぜー、ってそう何度も引っかかってたまるか! へへーんだ」
「また来たの、モノクロネズミ。貴方も大概暇ね」
「別に暇じゃないぜ? 今日は図書館に本を借りに来たんだ」
「今日もの間違いでしょう。ああ、それとそこ危ないわよ」
「えっ」

 かきーん、といかにもな音を発しながら出来上がるモノトーン魔女いんざ氷柱。危ないわよも何も、白黒のいつも座る席に隠蔽型の氷結捕縛魔法を仕掛けていたのだから確信犯だ。もっとも、非殺傷設定なので凍死や窒息死の心配はない。いつものパチュリーは寒い場所の変温動物みたいに動かないくせに、椅子に手を掛けた姿勢で氷柱の中に閉じ込められ固まっている白黒を見て満足げに頷きながら研究レポートに結果を書き残している。本を盗んでいくというので当初はあまり良い目では見られなかったが、この分ではどっちもどっちなのだろう。加害者的な意味で。

「魔力を帯びた氷、不自然な存在感。傍にいたのに一切の寒さを感じなかった所から、本物の氷ではなく概念物質って所かしら」
「概念物質が何かは知らんけど、多分間違ってるな。寒さを感じなかったのは気温を下げて氷を作ったんじゃなくて、直接水の分子を操って凝固させたんだ」
「熱を操っての魔法ではないってことね。かといって、自然や精霊を使った魔法でもないと」
「ミッドチルダ式はそもそも精霊なんてファンタジックな要素なんて入らんし。単純に魔力を操って、物理法則に手を加えるだけの科学の一分野だよ。広義的な意味合いでは、だけど」
「科学と魔法は相反する物だと思っていたのだけれどね。なるほど、確かに”外”の魔法使いだわ」
「まあ、幻想郷の魔法は物理法則とはまた別の新しい法則で使ってる節あるしなぁ。少しは幻想郷式も使えるようになってきたけど。うーん、理屈としては一体何がどうなってるやら。……ところで、どちら様?」
「……今更?」

 話していたのはパチュリーではなく、肩で切り揃えた金髪にカチューシャ、フリルの付いた服の女性がいつの間にか俺の隣に座っていた。肩に小さな人形を乗せているのが印象的で、どうやってそんな不安定な場所に直立していられるのだろうと首を傾げれば、「シャンハーイ」と両手を上げて挨拶してきた。なにこれすごい。
 逆隣を見れば、パチュリーはレポート製作に夢中だし、司書の小悪魔さんは今まさに図書館の入り口から入ってくると「はい、どうぞー」と笑顔で三人分の紅茶を置いて行った。悪魔なのに癒し担当とはこれいかに。同じく悪魔分類だろう吸血鬼のお嬢様も微笑ましいことこの上ないので、幻想郷で悪魔とはそんなものなのかもしれない。
 閑話休題。女性の名前はアリス・マーガトロイド。パチュリーや俺と同じく、幻想郷に住む”魔法使い”らしい。つまり捨食と捨虫の魔法を習得した完全な魔法使いだ。白黒の彼女はどちらも習得していないのであくまで魔法の使える人間に過ぎないが、捨食と捨虫、要するに食事と睡眠の必要性に老化による寿命を投げ捨て人間から脱却した魔法使いは、職業としての魔法使いから種族としての魔法使いへとランクアップするのだそうな。まあ、もちろん言葉遊びに過ぎないのでそういうもんだと流しておくのが正解だ。
 とにかく、幻想郷でも少ない本物の”魔法使い”。その一人が彼女、アリスなのである。

「はぁ。白黒さんに連れられてやってきたと」
「ええ。こちらの研究を多少融通する代わりに、”外”の魔法理論を講習していると聞いたわ。どの程度こちらが差し出さなきゃいけないのかが心配だったんだけど」
「うん、まあ。……ほら、趣味の話題を同レベルで話せるのって楽しいじゃん?」
「……外の魔法使いって皆こうなのかしら」
「アリス、あまり同胞を苛めないでちょうだい。知識が引きだせなくなったらどうするの?」
「まあ、そうね。大人しく恩恵に預かることにするわ」
「二人とも利用出来るだけ利用してポイ捨てしてやろうって気を隠しもしてないな」

 まあ、夜天さんを使ってパチュリーの魔法は丸コピーしてしまっているので、対価としては俺の方が貰ってしまっているかもしれない。幻想郷式の魔法はあくまで俺単体が使えないだけであって、夜天さんを使用すればほぼそのまま扱えるのだ(中には無理な魔法も存在するが)。パチュリーの魔法は実に多彩で、戦闘用魔法一辺倒であったミッドチルダ式とは比べ物にならない。この分だと、アリスさんの魔法にも期待を持てるだろう。白黒さんはミッドチルダの空戦砲撃魔法使いとほとんど変わらなかったのでがっかりである。実にがっかりである。大事な事なので二回言った。いや、術式の理論としては興味深かったのであるが。

「へえ。人形遣いですか」
「ええ。といっても、”遣い”になってしまっているのはまだ私の研究が未完成だからね。私の干渉無しに自立行動の出来る人形を作るのが目標よ」
「ああ、箒に命を与えるとかファンタジー方面かと思ったら、ロボットの方か」
「……! 外の自立人形ね! 来た甲斐があったわ、全部話して。包み隠さず、残らず全て」
「どーどー。話すから落ち着いてくれ、アリスさん」

 自立人形、人と同じように考え、話し、行動する人形を作ることを最大の研究目標にしているアリスさんの食いつきっぷりは半端なかった。魔法の話をする筈だったのにどうしてロボット工学の話に流れるんだか首を傾げたかったが、進みすぎた魔法は科学と区別が出来ないとか、そんな所だろう。あれ、逆だったか?
 アリスさんほどではないにしてもパチュリーも興味を引かれた様子だったので、急遽外のロボット工学に付いて話すことになった。まあ、専門ではないので素人も甚だしい説明ではあったが、どうにか一介の理解を示してくれる程度には出来たようだ。中でも、AIの話をした時のアリスさんの興奮っぷりといったら、それまでの少し冷たいクールビューティーな印象を吹き飛ばしてくれた。

「ボトムアップとトップダウン……その考え方だと、うちの上海はボトムアップ思考になるわね。今の所自立行動は基本的に詰め込んだパターンで行動するのが精一杯だし」
「その点、”式”はトップダウンに近いのかしら。主との構造としても、獣の脳を基礎に使っている事としても」
「といっても、現状でトップダウン型AIは技術的限界で出来上がってないけどな。AIの設計は前世で人工無能をちょこっと弄ってただけだし、アリスさんに役立つような専門的アドバイスが出来ないのは申し訳ないけど」
「……いえ、こうやってちゃんとした思想設計として考えただけでも、新しいアイディアが沸いてくる。感謝するわ、アイリーン。あと私の事は呼び捨てで良いわよ」
「了解、アリス。んー、日本に行くのを禁止されてなけりゃあ、適当に専門雑誌なりノーパソなりを買って来るのになぁ」
「確かに実物を見れればそれに越したことはないけれどね。私にしてみれば、これでも充分過ぎる収穫よ。今日は来て本当に良かったわ」

 しかし、”アリス”さんが自立人形を作ろうとしているのもおかしな偶然である。「Artificial Linguistic Internet Computer Entity」、通称「A.L.I.C.E.」と呼ばれる世界的に有名なAIが”外”にあるのだ。まさか知ってて名乗っているのでもないだろうしただの偶然だろうが、奇妙な運命のようなものを感じる。これだけ喜んでくれれば、俺としても話した甲斐があったというものだ。
 俺が感慨に耽っていると、腰元でぶるりと震える感覚があった。

「【マスター】」
「ん、どうしたソーセキ。お腹でも空いたか?」
「【食物を摂取する器官がないので物理的にあり得ません。それよりも】」
「それよりも?」
「【先ほどのお話ですが、私のようなインテリジェントデバイスはボトムアップ型のAIに当て嵌まるのでは?】」
「あ」
「……杖に宿った精霊ではなかったのね」

 今まで散々ソーセキが喋るのを聞いていたパチュリーが温度の篭らない瞳でこちらを見てくる。いや、内緒にしてたんじゃなくてすっかり忘れてただけだから。もうこういうもんだという認識が先だって、ミッドチルダの技術の結晶インテリジェントデバイスの事をすっかり忘れていたのだ。魔導師の補佐が目的の代物とはいえ、ミッドチルダ式魔導師の半分はデバイスで出来ているといっても過言ではない。それこそ現代日本、いや地球の技術より格段に格上の代物だろう。
 とりあえず、腰に付けていた待機状態のソーセキを取りだしたのだが。アリスさんが目をきらっきらに輝かせて、両手で引っ掴んできた。

「是非譲ってちょうだいっ! 代価は何でも払うわ!」
「いやいや、無理無理。ソーセキいないとまともに魔法使えんし」
「なら私は夜天の書で良いわ」
「そこの紫パジャマ、どさくさに紛れて夜天さんに手伸ばすな」
「あの。ここにある氷の柱片付けても良いですか? ちょうど焼却炉が空いた所なんですよ」
「小悪魔さん、笑顔で白黒さんを焼却処分しようとしないで下さい」

 賑やかで騒がしく、どうも利用されている感が拭えない日々ではあるが、今日も俺は元気に生きている。
 ”魔法使い”の日々か、うん、悪くないね。





『続々々々・動かない大図書館 幻想郷式デバイス編』

 紅魔館の地下に存在する大図書館。当初はホコリっぽく、陰気臭い健康に悪そうな場所だと思っていたが、パチュリーの持病である喘息対策に空気はむしろ透き通っている。要所に設置された魔法陣で空気は常に浄化されているし、一定の室温と気温を保つようになっているので一年中快適だ。今では俺もすっかり図書館の住人になっており、いつものように魔導書読破と新しい魔法の開発に余念がない。ただ、凄まじい数の蔵書を誇る大図書館だが、残念ながらミッドチルダや別次元世界の書物はなく、もっぱら夜天さんの中から引き出した魔法を解析したり、幻想郷式の魔法を練習したりと理論より実践の方に傾いてしまっている。当初予定していたパチュリー保有の金(きん)を使ってミッドチルダで専門書を購入してくるという案も、幻想郷から持ち出し禁止を管理人に釘刺されてしまっているので、泣く泣く諦めるしかなかったのだ。
 幻想郷で入手した物が駄目なら、別次元世界で鉱石でも採掘するしかないかな。なんせ、ミッドチルダでは行方不明の身分だし、まともな仕事など見つかる筈もない。夜天さんの魔法を使えば、管理局に捕まらず本の十冊二十冊盗むことも出来るかもしれないが、そうやって道を踏み外したら倫理と常識の崩壊なんてあっという間である。裏家業に身を染めるってのも、ぞっとしない話だしな。
 結局、一日中図書館で魔法の研究をして過ごしている訳だが、今日はいつもと違って変わったことがあった。

「……デバイスを作ったって?」
「ええ。苦労した甲斐あって、かなりの出来と自負しているわ」

 ふふん、と珍しく得意げに胸を張るパチュリー。意外と着やせする事は知っていたが、こうして胸を張ると服を押し上げる膨らみが強調されて、中々良い物を持っているのが分か……じゃなくて。
 パチュリーの手には一冊の本。しかも見た目は夜天さんと瓜二つである。

「ふふふ、どうかしら? 自分の秘奥をそっくりそのまま模倣された気分は」
「すげぇ! よくもまあ、こんなブラックボックスの固まり解析出来たな!? データはっ、データはどこだ!? 著作権として、夜天さんの解析データを要求するぞ!」
「……まあ、貴女はそういう人間よね」

 何故か拍子抜けした、呆れたようにパチュリーがこちらを半眼で見てくる。なんだよ、良いだろ。どうせここ最近は共同研究に知識の共有ばっかりしていたのだ。夜天さん本体を持っていかれるならともかく、今更夜天さんコピーを作られた所で責める気なんて起こらんわ。
 そんなことよりデータを寄越せ、とばかりに手を差し出すと。パチュリーは小さく肩を竦めた。

「さっきのは冗談よ。私が作ったのは『デバイス』だと言ったでしょう? 次元世界を放浪して、自動的に魔法を収集する魔導書『夜天の書』。さすがに私でも、そんなものを簡単に模倣出来る筈ないじゃない」
「じゃあ……結局、『デバイス』って何を作ったんだ?」
「簡単よ。人格を詰めた魔法を補助する為の魔道具(マジックアイテム)。それがデバイスでしょう?」
「まあ。ざっくり言えば」

 正確には魔導師の魔法構築をサポート・補強する為に生み出された機械杖だけどな。人格は魔法を管理するのに便利だっただけで、必須ではない。あくまで魔導師の負担や判断力の一部を肩代わりしているだけで、インテリジェントデバイスにおんぶに抱っこされているようじゃ半人前も良い所だ。俺だって、ソーセキや夜天の書がなくても一通りの魔法行使は扱えるし、魔法の構成を弄くるのも単体で出来る。パソコンと違うのは、魔導師の脳やリンカーコア自体が既にCPUやメモリと変わらない役目を果たすということだ。
 冷静に考えれば、機械技術に疎いパチュリーが夜天の書やソーセキのようなインテリジェントデバイスを完全再現出来たとは思えない。要するに、幻想郷式魔法でデバイスと同じ役割を果たすマジックアイテムを製作したということだろう。

「それじゃあ、その夜天さんモドキはソーセキみたいなインテリジェントデバイスなのか?」
「ええ、そうね。ただ私が扱う物だし、杖を振るっている自分が想像出来なかったから本にしたけれど。それに所詮棒でしかない杖に意味を持たせるより、頁に綴った内容で深い意図を刻める本の方が触媒としては遥かに楽だったのよ」
「あー……えーと、概念、だっけ? そう思い込めば魔法が現実になります、的な」
「そうね。大雑把過ぎる解釈だけど」

 幻想郷式魔法は、一定の法則で動いているけれど、その法則が時間やら季節やら過去の歴史やら星の動きやら、ありとあらゆる物が関係して常に効果が変化するので難易度が高すぎる。これならまだ呪文を唱えればなんか発動するファンタジー的な魔法の方がまだ簡単だ。パチュリー曰く「必要な所から必要なだけの法則を引っ張ってきて現実を歪ませる」のが魔法らしい。未だ理屈は理解半分だし、純粋に覚える量がありすぎて頭が痛くなってくる。パチュリーからしてみれば、ミッドチルダ式の方こそ難解過ぎて訳が分からないらしいが。

「まあ、とにかく、それなら使って見せてくれよ。幻想郷式の方じゃ、理論から説明されても理解出来ないだろうし」
「そうね。このデバイスの凄さは実際に見て理解して貰いましょう」

 よほど自信があるのか、幻想郷式デバイスである本を手にパチュリーは宙へと浮かび上がる。空を飛んでいるのはいつもの魔法だろうが、ある程度の高さに達した彼女の足元に青白い光で出来た魔法陣が構成される。

「chi…」
「おおっ!」

 幻想郷式だと大掛かりな魔法は詠唱が必要になってくるのに、一言何か呟いただけで魔法陣が展開した。ミッドチルダ式の魔法陣とは形が違うが、確かにデバイスの役割を果たしているように見える。パチュリーが本を持っている手とは逆の手で指を振りかざすと、多数の氷の氷柱が虚空に出現した。振り下ろせば、その氷柱が一斉に放たれて、図書館の壁に突き刺さる。

「すごいすごい! 成功じゃないか!?」
「ふむ……私達の魔法において、魔導書は一種のデバイスと言って良いでしょうけど。これはこれで使い出がありそうね。後はミッドチルダ式魔法を使える素材を手に入れれば、完成ね」
「……へ?」

 一瞬、パチュリーの言っている意味が分からなくて、首を傾げる。確かにパチュリーは普段から魔導書を触媒にして魔法を使っているらしいし、そういった意味じゃいつもと変わらない光景だ。だからこそ、今の魔法はちょっと改造したミッドチルダ式魔法の一種だと思ったのだが、違ったのだろうか?
 と、その時である。

「――!」
「っ……しまった! アイリーン、受け止めて!」
「え、っと……ソーセキ!」
「【チェーンバインドプログラム、起動】」

 そうやって首を傾げていると、俺が見上げている最中にいきなりパチュリーが本を取り落とす。いや、パチュリーが本を取り落としたというより、手からいきなり本が跳ねたように見えた。一直線に地面へと落下する本を、俺は慌ててソーセキを振りかざして魔法を発動させる。本棚と本棚の間に網のように張られたバインドは、落下したパチュリーの本型デバイスを無事受け止めた。
 なんだ? 主人の手から跳ねるデバイスって。失敗作か?
 不思議に思って歩み寄り、バインドに引っかかったデバイスを手に持ってみる。いやに冷たい。まるで氷に触れているかのようで……。その時、図書館の中を巡回している空調の風がぱらぱらと手に持った本の頁を捲り、っておい。

「――! ――!!」
「ふむ、思った通り氷の能力は使えたけれど、肝心の人格が協力的じゃないわね。これじゃあミッドチルダ式デバイスには程遠い。要修正ね」
「パッチェさん。なにやら、本のページの”中”に見覚えのある顔が見えるんですが」

 本のページには、必死に本の頁を叩いている涙目のチルノの姿が。何やら叫びながら俺に向かって訴え掛けているように見えるが、声も叩く音も聞こえない。ただ、頁を叩く振動は本から微弱に手に伝わってきていて。
 ギギギッ、とパチュリーの方へ首を回して視線を向けると。隣に降り立った彼女は本の頁を覗き込み、酷く冷めた表情と声で。

「どうもこれは馬鹿で使えないみたいね。せっかくの自己判断機能も裏目に出てしまっているし……ああ、アイリーン。ちょっと緑の妖精の方を捕まえるのに協力してくれないかしら? あっちはもう少しマシでしょう?」
「可哀想だから、離してやって下さい。妖精虐待反対」
「……じゃあ、代わりにアイリーンが中に」
「全力で断る!!」

 どうしてこうたまに脳筋になるんだろうか、この世界の住人は。
 デバイス(物理)は勘弁して下さい。


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