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No.34934の一覧
[0] ソードアート・オンライン 逆行の黒の剣士(SAO)[陰陽師](2012/11/26 22:54)
[1] 第一話[陰陽師](2012/09/16 19:22)
[2] 第二話[陰陽師](2012/09/16 19:26)
[3] 第三話[陰陽師](2012/09/23 19:06)
[4] 第四話[陰陽師](2012/10/07 19:11)
[5] 第五話[陰陽師](2012/10/15 16:58)
[6] 第六話[陰陽師](2012/10/15 17:03)
[7] 第七話[陰陽師](2012/10/28 23:08)
[8] 第八話[陰陽師](2012/11/13 21:34)
[9] 第九話[陰陽師](2012/12/10 22:21)
[10] 外伝1[陰陽師](2012/11/26 22:47)
[11] 外伝2[陰陽師](2012/10/28 23:01)
[12] 外伝3[陰陽師](2012/11/26 22:53)
[13] 外伝4(New)[陰陽師](2012/12/10 22:18)
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[34934] 第五話
Name: 陰陽師◆c99ced91 ID:9d53e911 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/10/15 16:58

第五十層攻略戦。
大小、いくつものギルドによる共同戦線。
キリトが抜けてからの二十層以上にも及ぶ戦いで、彼らはかなりの戦力アップを果たしていた。

またキリトの努力により、この世界は前の世界よりもサポート面でしっかりとしており、情報、アイテム、職人による支援などで最前線の攻略ギルドはかなり強力化していた。

特に軍の構築した支援システム。大ギルドであることを生かし、戦うことを忌避する多数のプレイヤーを職人、あるいは商人クラスにすることで、最前線のプレイヤーが強力な武器や必要なアイテムを大量に補給できるようにしていた。

軍にはいくつかの部隊が存在する。
まずはディアベルやキバオウを中心とした最前線で戦う攻略組。数は五十人前後で、血盟騎士団には多少劣るものの、それでもトップクラスプレイヤーを数多く要し、攻略にはなくてはならない集団である。

二つ目に調達部隊。これは武器をはじめとした装備品やアイテムを調達、あるいは強化・作成のために必要な素材を入手することを目的とした集団であり、最前線より下で活動する集団である。ここは比較的安全な狩場でレベルを上げることを目的や、あるいは攻略にまでは行きたくはないが、モンスターと戦うこともやぶさかではないといった者たちが所属する。数は五百人にも及ぶ。

三つ目に鍛冶師や商人などをはじめとする職人部隊。
これは最大規模の千人以上にも及んだ。
もともと大多数の人間は命のかかったゲームという物に恐怖した。死ぬかもしれない。戦いたくない、死にたくないと言う人間が数多く存在した。

そんなプレイヤー達にシンカーやディアベルは呼びかけを行った。必要な素材や情報などはこちらで用意する。前線に出ずに後方支援を担当してほしい。そのスキルを磨いてほしいと。

SAOでは初期に選択できるスキルスロットは二つである。レベルが十上がることに一つずつ増えていくが、戦うことができないプレイヤーはその二つを容易に増やすことなどできない。

ならば最初から後方支援スキルを選択してもらい、それの熟練度を上げてもらう方が効率がいい。このゲームにおいて熟練度はポイント制ではなく、使った分だけ上がっていく。

つまり鍛冶スキル、料理スキル、裁縫スキルなど後方支援のスキルはそれを行えば行うほどに高くなる。
軍により素材がある程度定期的にもたらされ、優先的に回してもらえるならば、それだけを鍛えて儲けた方がいい。そう考えるプレイヤーは多かった。

それにスキルが向上し、よい物を作り出せるようになればそれだけで金儲けになる。
武器、装備、多くのプレイヤーには必要不可欠だ。
それにスキルの数もある意味膨大で、料理、釣り、裁縫、音楽スキルなども存在する。さらにここはゲームと言うこともあり、確かにスキルを上げるには努力をしなければならないが、現実と違いやればやるほど上達し、才能も必要としない。つまりやる気と根気さえあれば、だれでも上達するのだ。

ならばと、多くのプレイヤーはシンカーやディアベルの言葉に乗り、スキルを磨いた。
娯楽の充実に加え、最前線には彼らが作成した武器や装備品が次々に回され、攻略の最大の支援となった。

またディアベルやシンカーはあまり欲深い人間ではない。どちらかと言えば協調性を重んじ、ほかのプレイヤーの事を心配する所謂良い人であった。
そのため軍で独占するのではなく、ほかのギルドにも格安と言うわけではないが、商人クラスを通じて流通するようにしている。

四つ目に自警団。
ラフィン・コフィンは壊滅したが、その思考を受け継ぐ、あるいは模倣する人間と言うのは少なからずいる。と言うよりも人間の本性と言うのは、えてして醜いものだ。
そのため、何らかの犯罪を犯したプレイヤーや集団に溶け込むのが嫌な者などが、強盗と言った行為に手を染める者は後を絶たなかった。

もっともラフィン・コフィンのPoHや赤目のザザ、ジョニー・ブラックほどのプレイヤーはさすがに存在せず、初期に彼らに賛同した者はキリトが皆黒鉄宮にある監獄エリアに飛ばしている。
それでもこのような犯罪者集団はなくなることを見せず、SAO世界に少なくとも千人は存在しているのではと言われている。

だがラフィン・コフィンの壊滅で、殺人を行うほどのプレイヤーの数はさすがに多くはない。それを推奨していたPoHはもういないし、悪質な殺人プレイヤーには黒の剣士の報復が訪れると言う噂が流れていたためだ。

さすがにラフィン・コフィンの壊滅を知る多くのプレイヤー達は、それがはったりであるとは思えず、噂にある黒の剣士・ビーターならばあり得ると妙な納得がなされ、積極的に殺人を行う者は皆無に近かった。
殺人はしないと言っても、これに対処しないわけにはいかない。と言うことで、調達部隊の中から交代制でこの集団に人数が振り分けられる。
はじまりの街を中心としてこちらも五百人ほどが所属する。

情報収集部隊。これはいささか少なく数百人程度であった。
情報は何よりも貴重である。特に軍の後方支援リーダーであるシンカーが特に力を入れている部署である。もともとシンカーは現実世界では国内最大のネットゲーム情報サイトMMOトゥディを運営していた。そのため、情報は何よりも大事と言うことを理解していた。

荒事にはとんと向かない性格であったが、ディアベルとは気が合い、お互いにこのゲームの攻略を目指すために、各々でできることをしようと言うことで、彼らは役割分担を行い、見事それがいい方向で進んだ。
前線をディアベルが、後方をシンカーがまとめることで、軍は飛躍的に強大になった。

血盟騎士団もアスナが居ないものの、軍の攻略組からヘッドハンティングや、最前線に参加するプレイヤーにヒースクリフが積極的に声をかけることにより、その規模を拡大させていた。

数は前回では三十人前後だったが、現在では七十人にも及ぶ。しかもその誰もがレベルの高い強力な剣士である。
これはヒースクリフがキリトの存在と軍があまりにも強力になったことを危惧しだした事が原因だろう。

最強の剣士の称号だけではなく、最強ギルドの団長の地位まで無くせば、このSAOにおける彼の考えるシナリオが狂ってしまう。
自らの目的のために、このような狂気の計画を実行したヒースクリフこと茅場晶彦だが、ゲーム内において、ゲームマスターとしては公平であるべきと言う意思を持っており、己の都合で軍を壊滅させるのは理不尽であると考えた。

その結果、彼はギルドの数と質を強化することにした。もともとは最終的には三十人程度の予定だったが、七十人にまで増えたのはいささかやりすぎたかと考えたが、キリト程ではないが、ヒースクリフの目に留まるプレイヤーが多かったのと、軍から引き抜いて少しでも軍を弱体化させればと思ったからだ。

これならば別にずるはしていないし、無意味にプレイヤーの命を奪っていない。交渉であるゆえに、公平である。
神聖剣を発動させたヒースクリフから声をかけられたプレイヤー達は、その異名と本人からヘッドハンティングを受けたことに舞い上がり、多くのプレイヤーは血盟騎士団に入団した。

これは血盟騎士団の方が名前も服もカッコいいと言う、どこか情けない理由もあったが、それも致し方がない。軍の制服は一部から不評であったから。
今度は職人を集めてもう一度制服のデザインを考え直そうと言う話し合いも出されている。

余談だが、軍にはSAOでは参加者が少ない女性プレイヤーの半数が参加していた。その全員の制服はミニスカートか、それともロングスカートかと言うことで議論が紛糾したと言うのは、のちの軍における黒歴史である。

「お前ら! 散々軍に世話んなっといて、今さらギルド替えすんのか!?」

引き抜きの際には、キバオウはかなりいきり立った。

しかしディアベルなどは逆にそれを認めた。しかも笑顔で見送った。

「なんでや!?」
「いや、キバオウさん。別にギルドが変わっても攻略を目指す仲間には変わりないじゃないですか。それにヒースクリフさんが直々に鍛えてくれれば、それだけで攻略組の質も上がります」

と、ヘッドハンティングされたプレイヤーは運がいいと言う始末だった。

「ならばディアベル君。君も血盟騎士団に入団するかね? 君ならば安心して副団長を任せられるのだが」
「ちょっ! おまえ、あほか!? ディアベルはんまで引き抜くつもりかいな!?」
「いやー、大変ありがたいお誘いなのですが、自分はこのギルドが気に入っています。それに俺まで抜けたら、シンカーが過労死しちゃうでしょうし」
「ふむ。残念だ」
「はん! ディアベルはんがお前みたいなやつの片腕になるかい! それにディアベルはんの副長はワイやし、お前みたいなやつにディアベルはんは負けへんで!」

と言うやり取りがあったりもした。
これらのギルドの競い合いで、強化された攻略組により、今回の攻略もうまくいく。誰もがそう思っていた。
しかし、そんな彼らの予想はボスとの戦いが始まってすぐに打ち砕かれることになる。

「下がれ! 下がるんだ!」
「すぐに回復結晶を使え! 負傷者を転移結晶で転移させろ!」

攻略組は恐慌状態に近かった。五十層のボス。金属製の多腕型の仏像めいたモンスター。
その情報はある程度前もって入手していた。今回は重武装型を前衛に出し、攻撃を受け止めているうちに、ほかのメンバーが側面から挟撃すると言う手はずになっていた。

前衛もスイッチを繰り返し、交代することで損耗を抑え長時間の戦闘を継続することが考えられていた。
人数が多ければ多いほど、こういった交代制での戦いという物ができるようになり、それに伴うメリットも高くなる。

だがボスの強さが予想以上だった。情報収集の段階で、その威力が高いことはわかっていた。そのため聖竜連合の最強クラスの防御力を持つプレイヤー十人が、中央から陣形を整え向かった。彼らはそのままボスを引き付けるはずだった。

戦略が瓦解したのは開始から数分も経たないうちだった。
ボスは前衛を務めるプレイヤーをその六本の腕で攻撃した。しかしその攻撃の仕方が問題だった。
まるでハエ叩きのように、頭上から幾度もその腕をたたきつけたのだ。

基本、重武装タイプと言うのは動きが鈍い。防御力が高い弊害である。逃げようとしてもほかの腕に捕捉され、逃げるに逃げられない。一人、また一人とライフを削られていく。

ほかのプレイヤーが攻撃を加えても、敵のライフバーは多く、今までの階層の敵よりもさらに一本多かった。しかも金属製の仏像めいているゆえか、防御力もほかの階層のボスよりも段違いに高かった。

移動速度こそ遅いが、攻撃速度は早く、その腕を巧みに動かし、叩き落とすだけではなく、薙ぎ払うなどの攻撃も行い、側面にも対応される。
奥に回り込もうにも、腕で阻まれ回れない。何とか俊敏性の高いプレイヤーが背後に回り込み攻撃を繰り返すが、敵のライフを大きく削ることはできずにいた。
変わりに味方の被害が増す一方だった。

前衛を張っていた聖竜連合はライフが危険域に近づくと即座に結晶を使い離脱した。
それが五分もしないうちにである。その後もボスの猛攻は続く。次々に危険域にライフを削られ、緊急脱出を繰り返す多くのプレイヤー達。
最初にボスの部屋に突入した五十人ものプレイヤー達のほとんどが離脱を果たす。幸い、ディアベルやヒースクリフの活躍で、ぎりぎり死者は出ていない。

「くっ! このままじゃ……」
「ディアベル君。このままでは戦線が崩壊する」
「ええ、ヒースクリフさん。このままじゃまずい」

ディアベルとヒースクリフは隣り合わせで立ちながら、ボスを睨みつける。お互いに剣と盾を持つタイプの剣士であり、戦い方も似ている。
ただしお互いの防御力には大きな差が存在する。神聖剣のボーナス得点で、ヒースクリフはかなり防御力が追加されている。

それでもディアベルはその判断能力と巧みな戦い方で、何とかライフポイントを維持しているがすでにイエローゾーンのそれもレッドに近い。クリティカルを貰えば、おそらくはライフを削りきられるだろう。対してヒースクリフは未だにグリーンゾーンである。

「ここは私が引き受けよう。君は後方で指揮を執ってほしい」
「ヒースクリフさん、あなた一人ではさすがに無理だ。俺も残ります」
「無茶はやめたまえ。君の副官のキバオウ君も離脱してしまっているし、後方は恐慌状態だ。これではまともに攻略などできないだろう」

ちらりと二人はボス部屋の入口を見る。多くのプレイヤー達がそこにいるが、それでも部屋に入ってこようとする人間はほとんどいない。
攻略において、スイッチを繰り返し攻撃を繰り返す手はずだったが、すでに彼らの戦意は喪失していると言っても過言ではない。

皆がボスの強さに恐怖したのだ。今までの攻略が順調に行き過ぎた。苦戦したことはあったし、死者を出したこともあった。
それでもここまでの大人数を用意して、ここまで圧倒的に攻略組がやられたことはなかった。

本来なら二十五層においても、このような状態になるはずだったのだが、キリトのおかげでそれは防がれていた。
たった一人の突出した剣士。エース、ストライカー、あるいは勇者と呼ばれるかもしれない。

一人の英雄が、意識せずとも周囲を引っ張っていく。キリトの行動は図らずとも攻略組に希望を見出させていた。
しかし今キリトはおらず、仮にいたとしても二十五層のような戦い方は通用しないだろう。
結果、多くのプレイヤー達はその強さに恐怖し、動けずにいた。

「君は後ろで指揮を執り、プレイヤーを落ち着かせてもらいたい。その間は私がこの場を維持しよう」
「いくらなんでも無茶だ!」
「なに。無理でも無茶でも誰かがやらねばなるまい。それにキリト君は二十五層で一人、獅子奮迅の活躍を見せた。この神聖剣を持つ手前、それくらいできなければ彼に示しがつかない」

ヒースクリフはどこか楽しそうに笑いながら、盾と剣を構える。これから絶望的な戦いに赴くはずの男は、どこまでも余裕の表情を崩さず、実に楽しそうであった。
紅白の鎧が舞う。数多の手による攻撃をヒースクリフはその盾ですべて受け止める。相手の攻撃に盾を合わせ、受け止め、受け流し、同時に剣でほかの腕をさばく。
神業と言えなくもない攻防。たった一人で攻略組を圧倒した敵を抑え込んでいる。

「くっ! ヒースクリフさん、すぐに戻ります!」

ディアベルは自身のライフポイントも危険域に近いこともあり、一時撤退を行う。と言ってもボス部屋の入口に退避し、回復を行う程度である。

「第二陣! 用意はどうだ!?」

ディアベルの言葉にほとんどのものは顔を見合わせる。誰もが怖いのだろう。当然と言えば当然だった。
攻略組と言っても、ハイレベルでもヒースクリフやディアベルのような豪胆なプレイヤーの数はそう多くはない。それにこれまでが比較的安全な攻略を続けてきたせいで、彼らの胆力と言うべき精神的な成長と言うのは少なかった。

窮地に陥った時に本来の自分の力が出し切れるか。命のかかった場において、それができる者はあまりいない。
すでにそう言ったプレイヤーは第一陣に志願している。レベルの高い第一陣がなす術もなく敗退したのを見て、また勝ち目がまだ見えない状況で死ぬかもしれない突撃をする勇気のある人間は少なかった。

敵の強さが今まで見たボスよりも隔絶していたと言うのも大きかった。
攻略組に参加していても、自分が進んでと言う意思を見せる人間は少なく、お前が行けよと視線を巡らせるものが大半だった。
第二十五層を含め、ほとんど犠牲を強いることなく攻略を続けてきたが故の弊害。多くなりすぎた攻略組の弊害と言うべきだろうか。

だがそれでも自ら勇気を奮い立たせ、前に出ようとする者はいる。
すっとディアベルに続こうとプレイヤー達が前に出る。

「クライン、お前も貧乏くじか?」
「へっ、そういうエギルも。たまにはいいとこ見せないと、キリトに合わせる顔がねぇからな」

エギルとクライン。そしてクラインの仲間でもある風林火山の面々がそれぞれ武器を構えて前に躍り出た。ほかにも第二陣以降に待機していたソロプレイヤーや少人数のギルドがそれに続く。

「すまない、みんな。何とか戦線を維持してくれているヒースクリフさんを援護。左右、背後から攻撃を繰り返す。少しでもいい、相手の注意をそれぞれに引き付けて、敵を攻撃してくれ」

ディアベルは第二陣に志願してくれたメンバーに指示を出す。残りのメンバーは後方で待機し、援護をと命令を出す。

「このボス攻略に参加する勇気が出せない者は仕方がない。このボスは今までとはレベルが違う。だから俺もこれ以上無理にとは言わない。だができるなら、この場に残ってサポートを頼む。回復アイテムの保持、傷ついた仲間への使用、情報収集、なんでもいい。皆、自分にできることをしてくれ! じゃあ行くぞ!」

指示を出し終えると、ディアベルはクラインやエギルをつれ、ボスに向かい戦いを挑む。
ヒースクリフの努力もあり、何とか戦線は維持できているが決定力が足りない。手数が足りない。

「ぐあっ!」
「エギル!? ちくしょう!」

エギルが吹き飛ばされるのを見て、クラインが叫びながらソードスキルを放つ。それは仏像に直撃するがHPはわずかに減る程度である。
すでに戦闘開始から半時間は経過していると言うのに、まだ相手のHPはイエローゾーンに突入したばかりである。

先が長すぎる。すでに転移結晶などで離脱した者も戻り、回復アイテムで回復しローテーションに参加しようとしているが、アイテムの残りも三分の一を切っている。
それにボスの恐怖にやられたのか、幾人かが戦線を離脱した。

いくら攻略組でも人間である以上、恐怖を感じるのは致し方ない。それに負けてしまうのも理解できる。
だからこの場にいるリーダークラスはそれに対して文句は言わない。言えるはずもない。できるのは彼らがこの後、攻略組に残ってくれることを祈るだけだ。

「どりゃぁぁぁっ! ぐへぇ!」
「キバオウさん! 無理な突撃はダメだ!」

戻ってきて早々吹き飛ばされ、ライフをほとんど削られたキバオウに向かい、ディアベルは駆け寄る。

「せやけど、ディアベルはん! このままやと先にこっちが参ってまうで! それにあの団長にだけやらせてるとか、ワイは我慢できん!」

キバオウが見据える先にはずっと一人で戦い続けるヒースクリフの姿があった。彼はほかの面々が何度も後ろに下がり回復を繰り返す中、一人前に出続け一度も回復せずに、休まず敵の攻撃をさばき続けている。

もし彼が下がれば、それだけで戦線は完全に崩壊する。
彼とキリトではまったくタイプが違う。防御の要と攻撃の要。どちらも希望を見出させる存在ではあるが、敵の攻撃を防ぐだけでは、前には進めない。
いや、ヒースクリフが最前線でしのいでくれているからこそ、ほかのプレイヤー達も彼だけにはやらせられないと勇気を振り絞れる。

その意味でもヒースクリフと言う存在は必要不可欠である。
しかしいくらヒースクリフがすごいと言っても、彼にも限界は来るだろう。それが早いか遅いかの差。涼しい顔をしているヒースクリフだが、それを皆はやせ我慢だと思っていた。

「俺がもう少し強かったら……」

ぐっとディアベルは拳に力を込める。

「……ディアベルはん。ここはワイが突撃して隙を作りますんで、その間に攻撃を頼んます」
「キバオウさん!?」
「へっ! ワイも軍の副官。それにビーターのガキやあのいけ好かない紅白野郎に負けてちゃ、ワイの立つ瀬がないってもんや」

回復薬を飲んだキバオウは、両手剣を持ち直しボスを睨みつける。

「ほな、頼んます! うおりゃぁぁぁぁっっ!」
「待つんだ、キバオウさん!」

ディアベルの静止を振り切り、無謀な突撃を行うキバオウ。

「あのバカ!」

それを見たクラインは馬鹿野郎と思いながらも、あることを考えていた。キバオウ一人に狙いを集中させれば、即座にライフを削りきられる。
だがもう一人いれば。前線にいるヒースクリフと突撃するキバオウ。そして自分の三人なら……。

「へっ、キリトの馬鹿がうつったのかよ……。お前ら、エギルを運んで一度後ろに下がれ!」
「リーダー!?」
「俺は前に出るぞ!」

ギルドの仲間に指示を出すと、クラインもまた叫びながら前に出る。
無謀な突撃とは理解しているが、それでも見殺しにはできない。
ヒースクリフを援護するかのように彼らは左右から攻撃を加えるべく、大きく回り込む。

巨大な腕が二人に迫る。キバオウは両手剣で、クラインは刀でそれを受け止めるが、衝撃は受け止めきれない。二人はパリィで受け流そうとするが、威力が高すぎて受け流しきれない。しかも相手の腕は二つではないのだ。

キバオウ、クラインが体勢を崩している中、次の腕が彼らに狙いを定める。振り上げられる腕。そこから放たれるであろう致死性の攻撃。防御は間に合わない。
誰もが二人の死を予想した。

しかしその時、それは戦場に現れた。ボスの部屋の人の波をかき分け、彼らはやってきた。
ボスの振り下ろされそうな二つの腕にめがけて放たれる剣撃。
さらにボス本体に向けて放たれるソードスキル。その二人の“三本”の剣から放たれるソードスキルにより、ボスがノックバックしたのだ。

誰もが一瞬、唖然となった。何が起きたのか、即座に理解できる者は、この場にはいなかった。
あのヒースクリフまでもが、一瞬動きを止めたのだから。

それは一組の男女。白を基調としたロングコートに身を包み、細剣をその手に持った栗色の長い髪の少女と、黒いロングコートを身に包み、“両手”に剣を持った少年。

アスナとキリト。

アスナは初めて、キリトは約二か月ぶりに攻略の場に姿を現した。
二人の攻撃で目に見えて、ボスのHPが減少した。まだまだ敵のライフゲージは多かったが、それでもこれまでにない、減少率だった。

ボスが体勢を崩したのを、彼らは見逃さなかった。お互いに言葉はいらない。どちらからともなく、動いた。
動きが回復するまでの刹那の時間、その間にも彼らは攻撃を繰り返す。ダメージが次々に通り、相手のライフを削っていく。

しかしボスもされるがままではない。ノックバックから回復すると、即座に二人に目標を変更し、攻撃を繰り出す。
腕が二本なら捌ききる自信がある二人だったが、さすがに六本にもなると話は別だ。キリトとアスナは即座に距離を開ける。アスナはその持前の俊敏速度で。キリトは敵の攻撃を少しだけ利用し、激突と同時に後ろに飛びのき回避する。
回避した後はお互いにすぐに隣に立ち、武器を構える。

「お、おい、あれって……」

誰かがつぶやく。黒の衣服に身を包んだ少年。最強の剣士として名高い、ビーター・黒の剣士キリト。
ここ二カ月、ほとんどの攻略組プレイヤーに目撃されていなかった。それに彼は今、剣を二本持っている。
いや、それだけではない。いつもソロで活動し、誰とも組もうとしなかった人物の隣にほかのプレイヤーが存在する。しかもかなりの美人。美少女である。

「無事か、クライン?」
「き、キリト、なのか?」

ボスを睨みながらも、どこか心配そうにつぶやくキリトに、クラインは混乱しながらも尋ねる。

「俺以外の誰に見えるっていうんだよ」
「い、いや。そうじゃなくて……」

何かが違う。クラインはそう感じた。今までのような張りつめた空気が存在しない。攻略の場において、ボスと戦いにおいてキリトは常に張りつめた空気を纏っていた。

抜身の刀のように、触れれば切れると言うような空気を。壁を作り、誰も近寄らせようとしなかった。すべてボスを倒すことだけに意識を向けていた。
なのに今のキリトはどこか穏やかな空気すら纏っている。いや、ボス戦ゆえに張りつめた空気は纏っているが、誰も近づけないような雰囲気ではない。

「それよりもここは俺“達”が引き受ける。クラインは後ろに下がって回復してくれ」

達と言う言葉にクラインは驚く。ハッとキリトの横に立つ少女を見る。おそらくクラインだけではなく、この場にいる全員が多くの疑問を浮かべているだろう。
キリトの変化に対して。キリトが持つ二刀に対して。そしてキリトの横にいる少女に対して。

疑問や突っ込みどころが多すぎて、どこから言えばいいのかわからないと言うのが、彼らの心境であろう。
そんな心境を察したのか、アスナは苦笑している。まあこうなることは予想していたが、あとで何と説明しようかなーと内心どこか楽しんでもいたりする。
キリトは逆にこの空気、そしてあとの説明どうしようかなと困っていたりもする。

だが今優先させなければならないのはボス攻略だ。
今も二人は警戒を解いていない。ボスは先ほどの攻防で、若干後ろに下がっている。突然の乱入者である二人をボスのAIが警戒しているのかもしれない。
ボスのライフは先ほどの攻防でそれなりに削れた。それでもライフバー五本のうち、残り二本に突入しただけ。まだ先は長い。

それでもキリトに不安はない。恐怖はない。
ちらりと横に立つアスナを見ると、彼女も気負いのない顔でキリトを見つめ返す。
ただ隣に彼女がいるだけで、こんなにも安心できる。負ける気はしないし、負けることは許されない。

今の自分は自分一人の命を背負っているわけではない。
全プレイヤーの命ではないが、それに匹敵、否、それ以上のものを背負っている。
二度と死ぬことは許されない。
彼女を守り、このゲームをクリアする。何があろうとも、アスナだけはと思っていた前回とは違う。何があろうとも、二人で必ずこのゲームから脱出する。

「大丈夫だよ」

不意に、アスナが声をかける。

「キリト君は私が守るから」
「ああ、俺も絶対にアスナを守る」

それだけ言うと、二人は笑みを浮かべる。それを見ていた全員が砂糖を吐きかけたのは、言うまでもない。
と言うか、キリトが自嘲や嘲笑以外で笑う所を初めてみる者や、クライン、エギルと言った知り合いでもキリトの表情を見て、えっ、あいつマジ誰? と言う感想を抱いたのを当人は知る由もなかった。

「………キリト君」

そんな二人の桃色の場違いな雰囲気を切り裂き、ヒースクリフが声をかける。

「ヒースクリフ」
「久しぶりだね。君とこうやって肩を並べるのは二十五層以来か」
「……ああ、そうですね。・・・・・・手は、貸しますよ」

雰囲気を正し、警戒するようにキリトは言う。横でアスナがキリト君とたしなめるように彼の名前を呼ぶ。
キリトとアスナは知っている。この男がこの世界を作り、自分達を閉じ込めた張本人である茅場晶彦だと。だから警戒を解くわけにはいかない。

しかしだからと言って、無用に壁を作っていれば余計な疑いをもたれる。おそらく、これからまたキリトは、そして突然現れたように見えるアスナは監視されるだろう。
二人はこれから攻略を続けるうえで、できる限りヒースクリフに不審に思われないように注意しようと話し合っていた。

キリトとしてみれば敵対心が消えるわけではない。この男にはアスナの件も含めて言ってやりたいことが山ほどあるが、今はそれを表に出す時ではない。

「頼めるかな。そちらの御嬢さんも。良ければ名前を聞いてもいいかね?」
「アスナです。キリト君とはコンビを組んでいます。よろしくお願いします、ヒースクリフ団長」

コンビを組んでいると言う言葉に、一瞬ヒースクリフは驚きの表情を浮かべるが、それもすぐに収まる。

「わかった。キリト君、アスナ君。二人には聞きたいことが多くあるが、すべて後回しだ。どうやら向こうも、もう待ってはくれないようだからね」

ヒースクリフは視線を移しボスを見る。彼も二人同様、警戒を怠っていたわけではない。今はボスが動かなかったので、二人と会話をしていたのだ。

「私がボスの注意を引こう。君たち二人はボスのライフを削ってくれ」
「了解」
「わかりました」

奇しくも、第七十五層の時と同じように、彼らは並び立つ。
最強クラスのプレイヤー。キリト、アスナ、ヒースクリフ。
この光景を見たプレイヤー達は語り継ぐ。この日、この攻略で希望と呼ばれるプレイヤー達の姿を見たと。

そこから先は、先ほどとは打って変わった。
ヒースクリフが敵の一部を引き受け、キリトとアスナが敵へと肉薄する。
二人の加入は、戦いの天秤を大きくプレイヤー側に傾かせる。
二人は言葉を交わさず、視線すら合わせないが阿吽の呼吸でボスとの戦いを繰り返す。

キリトが攻撃を仕掛けるとアスナはそんな彼に迫る腕をソードスキルで弾く。逆にアスナが攻撃を仕掛けるときは、キリトが全力で彼女をサポートする。
二人で一人、一つであるかのように、その動きには一切の無駄が無い。それが当たり前のように、二人の動きはシンクロしていた。

他のプレイヤー達は命のやり取りをしているはずなのに、まるで踊っているかのようだと評した。
三人のハイレベルプレイヤーの活躍で、徐々に攻略組みも平常心を取り戻し始める。

何とか崩れかけた戦線を維持し直し、ボスへの攻撃を続けていく。
徐々に削られていくボスのライフ。七十五層のボスのように一撃死判定がこのボスに無いのが救いだろう。
だからこそ、キリトも大技を出せる。

「スターバースト・ストリーム!」

二刀流のソードスキルを発動させる。十六連撃と言う、おそらく現在では最強クラスの攻撃。煌く光が二刀を纏い、それが敵とぶつかり合う事で更なる光を飛び散らせる。
もっと速く、もっと鋭く、もっと強く。

ソードスキルと言う普通の攻撃のさらに上位の破壊力を持つ攻撃に加え、圧倒的な手数による攻撃。見る見るうちにボスのライフが削られていく。
だがボスも成す術もなくやられているわけではない。その腕で攻撃を繰り出し、キリトの動きを止めようとする。

しかしそれをアスナが防ぐ。今のアスナも正確さと速さだけならば、キリトの上を行く。敵の攻撃が完全に相殺できないのならば、少しだけその攻撃を逸らしてやる。それでキリトへの直撃は防げる。

またヒースクリフもキリトの攻撃の邪魔はさせないとばかりに、盾と剣を使い、ボスの腕を防ぎ、いなし続ける。
決着の時。

「うおぉぉぉぉっっ!」

キリトの十六連撃の最後の一撃がボスの身体を貫く。ボスのライフゲージがゼロになり、その身体が粉々に砕け散る。

『congratulation』

ボス戦への勝利の証明。それがウィンドと共に出現する。
第五十層攻略戦は、ここに終結した。



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