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No.34934の一覧
[0] ソードアート・オンライン 逆行の黒の剣士(SAO)[陰陽師](2012/11/26 22:54)
[1] 第一話[陰陽師](2012/09/16 19:22)
[2] 第二話[陰陽師](2012/09/16 19:26)
[3] 第三話[陰陽師](2012/09/23 19:06)
[4] 第四話[陰陽師](2012/10/07 19:11)
[5] 第五話[陰陽師](2012/10/15 16:58)
[6] 第六話[陰陽師](2012/10/15 17:03)
[7] 第七話[陰陽師](2012/10/28 23:08)
[8] 第八話[陰陽師](2012/11/13 21:34)
[9] 第九話[陰陽師](2012/12/10 22:21)
[10] 外伝1[陰陽師](2012/11/26 22:47)
[11] 外伝2[陰陽師](2012/10/28 23:01)
[12] 外伝3[陰陽師](2012/11/26 22:53)
[13] 外伝4(New)[陰陽師](2012/12/10 22:18)
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[34934] ソードアート・オンライン 逆行の黒の剣士(SAO)
Name: 陰陽師◆c99ced91 ID:bdfb8406 次を表示する
Date: 2012/11/26 22:54
※原作のネタバレが多分に含まれています。
原作未読の方はその点を踏まえましてお読みください。




目の前で守ると決めた、愛する少女が光となり消えた。
彼女は死んだ。最愛の人をかばって……。

「これは驚いた。スタンドアロンのRPGのシナリオみたいじゃないかな?」

彼―――キリトは彼女を殺した男の声を耳に入れながらも、その男の言葉が意識には届いていなかった。
絶望だけが深く、彼をのみこんだ。

SAO―――ソードアート・オンライン―――と呼ばれるゲームの中の仮想世界。ここに彼らは囚われていた。
彼の目の前に立つ男、ヒースクリフことこの世界の創造主にして、希代の天才にして狂人、茅場晶彦。

二年前、彼は一万人もの人間をこの世界に閉じ込め、その命を握った。ナーヴギアと呼ばれる装置を使い、現実世界からこのゲームの、SAOの世界にプレイヤーを幽閉し、そのアバターのライフポイントが尽きた瞬間、現実世界の人間の命をナーヴギアが奪うと言うデスゲームを敢行した。
一万人のうち、二年で四千人近い人間が命を落とした。

脱出する方法はただ一つ。このゲームをクリアすること。
その最中、彼らは偶然にこの事件の首謀者である茅場晶彦が自分達と同じようにアバターとして存在することを知った。
彼は彼らのすぐ傍らにいたのだ。必死にあがき、このゲームをクリアしようとする彼ら嘲り笑うかのように、彼らのすぐ隣に、仲間として、最強のギルドの最強の剣士として存在したのだ。

その正体を見破ったのは、キリトと言う名前の少年。彼は二刀流の剣士だった。おそらくは茅場晶彦が生き残った数多のプレイヤーの中でも、最もお気に入りの剣士。
だからこそ、正体を見破った彼に茅場は一つの報酬を出した。一対一の決闘で見事勝てば、このゲームをクリアしたとみなし、全員を解放すると。

条件を同じにし、今まで誰にも知られずにいたシステム的不死をも解除し、同じ土俵で戦うと。
キリトはそれに同意した。
周囲はここは一度引くべきだと主張した。相手は公平をうたっているが、ゲームマスターであり、自由にプログラムを改変できるのだ。どんな卑怯な手を使うかわからない。

しかしキリトはそれを聞かなかった。絶対の勝算を持っていたからではない。ただ許せなかったからだ。
自分達をこのゲームに閉じ込め、デスゲームを強要したからだけではない。目の前の男が、彼の最愛の人の心を傷つけたから。このデスゲームのせいで、彼女がどれだけ苦悩し、苦しみ、涙を流したか。
そう思うだけで、わがことのように彼は憤慨した。だから退かなかった。退けなかった。

周囲の人間は彼を止められなかった。止めれるものなら止めていた。しかし茅場晶彦がキリト以外を動けなくさせていた。
決闘はほぼ互角だった。いや、互角に見えていても、キリトが不利な状況だった。ゆえにキリトは最後の最後でミスをした。

培った経験や力ではなく、最後に茅場晶彦の作ったシステムの援護を切り札にしたためだ。
茅場晶彦は創造主。ゆえにこの世界のすべてを知る。システムに頼った攻撃はすべて彼の作り出したものであり、予想も、予測も必要なく、すべて知り尽くしていたのだ。

だからキリトは敗北した。敗北の代償は自らの命……ではなく、最愛の人の命だった。

(なんで……)

茅場の権限で、キリト以外は動けないはずだった。けれども彼女は動いた。奇跡でも起きたかのように……
だがそんな奇跡、キリトは望んでいなかった。深く愛し、失いたくない、守りたいと心の底から願った少女が、自分の目の前で砕け散ったのだ。

この世界の死は現実世界とは違う。死と言うものは同じだが、死ねばアバターを形成していたポリゴンが砕け散る。
彼の腕の中で彼女は砕け散った………。

「あ、ああ、あああああああ………」

声にならない声がキリトの口から洩れる。嘘であってくれ。夢であってくれ。そう願う。願わずにはいられない。

「アスナ、アスナ、………アスナ、アス、ナ」

でもそれは現実だった。どうしようもない、現実であった。
カランカランと、転がった彼女の愛用していた細剣をつかむ。これだけが彼女が今まで存在していた証……。

彼女を殺したのは自分だ。また、守れなかった。また失った。
胸が締め付けられる。もう何も考えられなくなる。
そのあと、キリトは自分でも何がしたかったのか、何をしたのかわからなかった。

気が付けば絶叫とともに剣をヒースクリフに、茅場晶彦に向かって振り続けていた。剣技なんてものではない、ただ闇雲に、意味もなく、剣を振り回していた。

「……残念だよ、キリト君。君は私にとってみても、アスナ君と同じでお気に入りのプレイヤーの一人だったのだがね」

お前が彼女の名前を口にするな! 心の中で彼は叫ぶ。

「君とは彼女とともに最上階で相対したかった」

本当に残念そうに彼はつぶやく。その顔には慈愛とも、慈悲とも取れる表情が浮かぶ。遥か高みから、人間を見る神のごとき姿。
ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな!

「あああああああああっっっっ!!!!」
「本当に、残念だよ」

彼の剣がキリトを切り裂く。同時にその手に装備した盾で彼を弾き飛ばす。衝撃でキリトは遥か後方へと何度もバウンドしながら弾かれる。
彼の命の証たるゲージが減り続ける。そしてついにそれは消えた。
それが意味することは………
キリトを構成していたものが、ポリゴンの欠片となり四散する。

二〇二四年、十一月七日。SAO世界、アインクラッド七十五層、黒の剣士キリト、血盟騎士団副団長<閃光>のアスナ……死亡。




死と言う物を、キリトは驚くほどあっさりと受け入れていた。薄れゆく意識の中で、彼が願ったのは生への執着ではなかった。
ただ、彼女に会いたいと、それだけだった。

(アスナ……)

自分を庇い、死んだ少女。この世界に囚われ、傷つき、壊れかけていた心を救ってくれた最愛の少女。
お互いがお互いを必要とし、愛し、ゲーム内ではあるが結婚までした。二週間と言う短い時間ではあったが、その蜜月の時間は、何よりも尊く、愛おしい時間だった。
その間にいろいろあった。本当の娘と思える少女ともであった。

でもすべて失った。
彼女の顔が思い浮かぶ。笑った顔が、怒った顔が、幸せそうな顔が………。
キリトは願う。もう一度、彼女に会いたいと。彼女の顔が見たい、声が聴きたい、彼女に触れたい……。

それが決して叶わぬ願いだとしても………。




リンゴーン、リンゴーンと言う、鐘の音がキリトの意識を覚醒させた。

「えっ?」

キリトは数秒の間、その音が意味することを理解できなかった。周囲を見渡す。そこには自分以外にも大勢の人間がいた。それも全員が眉目秀麗な男女ばかり。
巨大な石畳、街路樹と中世を思わせる街並み。

「はじまりの街……」

声が漏れるここは確かにアインクラッド最下層にある最初の街だ。だが、なぜ自分がここにいる。自分は死んだはずだ。

「お、おい、大丈夫か、キリト」
「えっ? ………クラ、イン?」

声をかけられ、キリトは隣を見る。そこには一人の男が立っていた。つい先ほどまで一緒に戦っていた仲間であるカタナ使いの男。
だが違う。彼の顔が。のぶし面とバンダナがトレードマークの男だったが、今の彼はのぶし面ではない。
おかしいと思った。これはまるで、あの時の、二年前の……。

だがキリトのそんな混乱を前に、周囲の様子はあわただしく変化していく。
キリトはできの悪い映像を見せられているかのようだった。二年前のあの日とまったく同じ光景が目の前に現れた。

空から現れる茅場晶彦を名乗る巨大な赤い血のような色のローブを着たアバター。
彼の口から告げられる宣言。何もかもあの日のまま。あの日の再現。

(どういう、ことだ)

何から何まで同じだった。手鏡のアイテムにより、本来の自分の姿に強制的に戻されるところも。

「おめぇが、キリトか!?」

隣でクラインが絶叫し、あり得ないとかなんでこんなことができるんだと叫んでいる。それは周囲も同じだった。
またなぜこんなことをするんだと、クラインは言う。それはこの場にいる全員の思いだっただろう。
いや、唯一キリトだけが違う。

(どうして、俺はここにいるんだ? それともこれがゲームオーバーした人間の末路なのか?)

キリトの頭にその可能性が浮かぶ。HPが尽きれば死と言うのも、茅場晶彦が言っただけで、誰もそれを証明した者はいない。
ならば死ねば最初のステージに戻ってやり直し……。なるほど、確かにゲームとしてはありだろう。

(けど本当にそうなのか?)

わからない。それを確認するすべはない。それに隣のクラインの反応。
このSAOと言うゲームはオンラインゲームなのだ。それも体感型ともいうべき、自らの意識をゲームの中にダイブさせるゲーム。
つまりこの一万人ものプレイヤーにはそれぞれに意思があり、考え、行動する。彼らが全員茅場晶彦が作り出したNPCのはずがあり得ない。

それともこれはあの時からすべてのプレイヤーの行動を記録し、再現しているとでも言うのか。
無理だ。そんなことできるはずがない。ためしに、いくつかの言葉をクラインに投げかけた。簡単な質問だが、クラインはそれらのすべてに答えた。NPCにはできないことだ。
けどもし、死んでも最初からやり直しと言うのがこのゲームの仕様なら……。

(アスナも、ここに戻ってきている?)

それはキリトにとって希望だった。死んだはずの彼女がもしかしたら自分と一緒でこの場に戻ってきている可能性。
その考えに至った瞬間、アバターの体であるため、本来あるはずのない心臓がどくんと跳ね上がったような気がした。
もう一度、彼女に会えるかもしれない………。

(アスナ、アスナ、アスナ!)

周囲を見渡す。一万人近い人間の中で一人の特定人物を探し出すなんてことは不可能に近い。でも今のキリトにはそんなこと関係なかった。気が付けば、彼は走り出していた。

「お、おい! キリト!」
「ごめん、クライン!」

クラインの言葉を聞きながらも、キリトは広場の中を駆け回る。
前の、最初の時もほかのプレイヤーを見捨て、生き残るために、自分自身の命を優先させるために、この街を後にした。
だが今は違う。今のキリトを突き動かすのは、最愛の少女に会うためだけ。

(アスナ、アスナ、アスナ……!)

混乱する広場の中、公式配信前のβ版をプレイした人間が誰にも気が付かれないように、この広場を抜け出しているのが見える。
自分も本来はあの中の一人だった。でも今は己の強化など後回しだ。人の波をかき分け、彼は探す。探す。探す。
息が荒くなる。どこだ、どこにいるんだ!
そして……。

「あっ……」

キリトは見つけた。その少女を。

「あ、ああ……」

涙が出る。長いつややかな栗色の髪。脳裏に浮かぶ彼女のさまざまな顔が移り変わる。

「アスナ……」

一歩ずつ近づく。また彼女に会えた。また、彼女とともに生きられる……。
手を伸ばす。もう少しで彼女に触れられる。
だが彼女の表情に気が付いた時、キリトは不意に足を止めた。彼女は呆然としている。それは仕方がない。自分もこの光景を見た瞬間、何が何だかわからなかったのだ。
混乱するのも無理はない、と思った。だが何かが違う。何か、よくわからないが、自分の知る彼女とは違うような気がした。

何か、嫌な感じがした。ざわり、ざわりと何かが訴え抱える。やめろと、声をかけるなと。
もう一度会いたいと願った、守ることができなかった少女が目の前にいる。抱きしめたいと思った少女がそこにいる。なのに……。

「アスナ……」

彼女の名前をつぶやく。不意に彼女がこちらを見る。よかったと思った。彼女が生きていてくれた。それだけでキリトは救われた気がした。
だが次の瞬間、彼女の口から放たれた一言に、キリトは凍りつくことになる。

「君、誰?」
「えっ?」

キリトは目の前の少女が何を言っているのか、理解できなかった。おびえるような目で、彼女は聞き返す。

「なんで、私の名前知ってるの?」

なんだ、これは? 何の冗談だとキリトは思った。この世界で出会い、深く愛した少女から投げかけられる疑問。

「おぼえて、ない、のか……」

震えながら、何とか声を絞り出す。嘘であってくれ。間違いであってくれ。あの時と同じように、目の前で砕け散った少女に心の中で願う。

「知らない。ねぇ、それよりもこれって、何かの冗談だよね? 出られないとか、嘘だよね?」

アスナはすがるように、キリトに聞いてくる。弱弱しいアスナの姿。自分の知る彼女と違う彼女。いや、結婚してからまれに見ることがあった、彼女の一面。それをあの時のアスナは表に出すまいと、キリトに見せまいと努めていただけだ。これもまた彼女なのだ。

問われるキリトは何と答えればいいのかわからなかった。いや、彼も混乱のさなかにあったのだ。
再び会うことができた最愛の少女は自分の事を忘れていた。いや、忘れているのではない。知らないのだ。
これは罰、なのか。かつてギルドの仲間を見殺しにした自分への。最愛の少女を守れなかった自分への。

あはははと、嘲笑が自分の中に生まれる。
混乱にあったキリトの頭が次第に冷静さを取り戻す。自分でも信じられないくらいに。

「だい、じょうぶ。きっと、出れるよ」
「ほんと? 本当に?」
「ああ、絶対に、出れる」

攻略開始から二年経っても、クリアできずその前に死んだキリトだが、それでも目の前の少女の心を救うために、こんなことを言うしかできなかった。
だが同時にぐっと拳に力を込める。同時にこの世界を作り出し、閉じ込めた茅場晶彦を憎む気持ちが沸きあがった。

(やることは、決まった……)

いや、決まっている。あの男を、ヒースクリフを、茅場晶彦をこの手で殺す。

「大丈夫。俺が絶対に、このゲームを攻略する」

キリトはそう宣言すると、ギュッとアスナの体を抱きしめた。

「えっ?」

驚いたような声を上げるアスナだが、キリトはそれを無視する。下手をすればハラスメントコールを使われそうだが、幸いにも、アスナがそれを使うことはなかった。いや、知らなかっただけかもしれないが。
心の中で、キリトはいくつかの言葉を紡ぐ。

ごめん、君を守れずに。
ありがとう、俺に生きる目的をくれて。
さようなら、今度こそ、君だけは絶対に死なせない。

アスナを解放すると、キリトは何とか涙を堪え、精一杯の笑顔を浮かべる。

「きっと大丈夫だから」

彼女に背を向け、キリトは走り出した。

「あっ、待って!」

呼び止める声が聞こえる。本当は彼女と一緒にいたかった。でも自分にはできない。彼女は自分のせいで死んだのだ。自分が、彼女を殺した。
怖かったのだ。また彼女を自分のせいで殺してしまうかもしれないことが。

それにあのアスナは自分の知るアスナとは違う。自分の愛した少女は死んだのだ。もういない。もし今の彼女にあの彼女を重ねるのなら、それは彼女への裏切りに思えてしまった。

だからキリトは二度とアスナに会わないことにした。彼女もいつか攻略をめざし、攻略組に姿を現すかもしれない。それを阻止する手段は今の自分にはない。
それでもできることはある。
自分にはほかのプレイヤーにはない、絶対的なアドバンテージがあるのだ。

(はは、ほんと、ビーターなんて目じゃないな)

知識としてのアドバンテージ。それは途方もない。βテストの時の二か月の比ではない、知識が、経験がキリトにはある。
レベルも取得スキルも武器も何もかもがない中で、知識のアドバンテージがどれだけ大きいか。それは以前のプレイでも証明されている。

しかし今のキリトにはそれを独占する理由はない。だからこそ、わかる限りで、自分には必要のない情報やアイテム、イベント、攻略方法を開示する。
確かに必要で絶対に漏らしてはならない情報や、あの男に勝つために優先させなければならない必須スキルはたくさんある。

特にこの世界において、全十種類しかないユニークスキルの一つである<二刀流>。どうやって取得したのか、手に入れた当時はわからなかったが、ご丁寧にあの男は取得条件を教えてくれた。

『二刀流は全てのプレイヤーの中で、最高の反応速度を持つものに与えられる』

ヒースクリフ、茅場晶彦は言った。二刀流を持つ者が、このゲームの中で勇者の役割を与えられると。
もう一度、拳に力を込める。ああ、なってやる。なってやるさ。俺がお前を倒す。今度こそ、アスナを、絶対に死なせない。たとえ、自分の罪が許されなくても。彼女を死なせたという結果が残ろうとも、今度こそ、絶対に彼女をここから助け出す。

決意を新たに、キリトは走り出す。途中、街を出る前にクラインを探す。すでに初期スロットルに入るスキルの索敵は選択している。まだ熟練度はあってないようなものだが、人探しには役に立つ。むろん、本当に狭い範囲しかなく、かなり走り回った結果だが。

「クライン!」
「キリト! おめぇ、どこ行ってたんだよ!?」

心配したようにクラインがキリトに駆け寄る。

「悪い、クライン。俺は先に進まなくちゃならない」

あの時とは違う、さらに強い思いを胸に……。できる限りのことをレクチャーしたかったが、時間がない。
最初に必要なことだけ、キリトは簡単ながらもこの世界の本に書き込み、クラインに渡した。

「キリト、これ……」
「すまない、クライン。今の俺には、こんなことしかできない」

キリトはすまなさそうに言う。

「できる限りの情報は、優先的にお前に回す。だから、頼みがある。できる限り、大勢のプレイヤーにこの情報を渡してくれ」

一番いいのは、βテスト出身者がこの場に残り、始めたばかりのプレイヤーを導くことが、死者を少なくする最善の方法だろう。
しかし今のキリトは、一分、一秒でも惜しかった。レベルを上げ、攻略を目指す。
二刀流を取得していればまだしも、一人でボスは倒せない。それでも今は少しでも早くに必要な技能を取得しなければならない。

それに自分はソロプレイヤーとして長かったし、人を導くリーダーなんてものには向かない。
付け加えれば、おそらくこれからは前以上にビーターと言う侮蔑の言葉を投げつけられるだろう。
でも構わない。

「できる限り、集めた情報は送る。攻略やほかのプレイヤーに必要な情報を。だから、頼む、クライン」

頭を下げる。そんなキリトにやめてくれと、クラインは頭を上げさせる。

「何があったか、知らねぇが、わかった。男の頼みだ! 俺に任せとけ!」
「……ありがとう。じゃあ、俺はこれで」

背中を向け、キリトはクラインの下から離れようとする。

「キリト! おめぇ、本物は案外かわいい顔してやがんな! 結構好みだぜ俺!」

その言葉に、キリトは軽く笑うと、以前と同じように……。

「お前もその野武士ヅラの方が十倍似合ってるよ!」

言って、キリトは走り出す。もう一度、あの道を、今度は失わないように……。




あれから二週間。
キリトは前以上にレベル上げに執着した。βテストから、そしてあの二年で培った経験や知識で、キリトは他者を、それこそβテスターからも隔絶したほどのレベル上げを行った。

最初はヒースクリフを見つけて、正体を露見させ決闘を申込み、勝てばここから出せと言えばとも考えた。

だがすぐにその考えを捨て去る。
そんなことをしても意味はない。そもそも決闘しようにも、相手のレベルに自分のレベルが追い付かない。

お互いにユニークスキルを持っていない、今の状態なら対等かと思われたが、向こうはそれを上回る切り札をいくつも持っている。

それにあの時、あれは自分がプレイヤーの中で唯一、最初にユニークスキルを発現させ、それも勇者の役割を果たす二刀流、さらにヒースクリフの正体を最初に見破ったことで、彼の中にあった興味を増大させ、あんなふうな報酬を提示したのだ。

もし今、同じことをしようとすれば、即座に自分は殺され、口封じをされるだろう。
確かに開始直後、正体を見破った人間として驚愕を与え、大きな興味をひかれるだろうが、ゲーム開始早々、そんなことを言い出す謎の人物を見つければ、茅場晶彦はできたばかりのこの世界を混乱させる異物として、排除を行うはずだ。

そういう確信にも似た予感があった。

だからこそ、機会を待つ。奴が接触してくるのを。奴が、こちらの決闘条件を飲むように、興味を持たせ、自分の願いなら、多少なりとも聞き入れるようにするために。

それがビーターであり、攻略組の最強の存在であり、二刀流のユニークスキルである。

もし茅場晶彦がGMとしての権限をフルに使えば、プレイヤーは誰も彼に勝つことはできない。

しかしこの二年間で、茅場晶彦の性格をおぼろげながらに理解していた。ヒースクリフとの会話もそれを後押しした。

このSAOは基本的に公平さを貫いている。さらにはこのゲーム自体、基本を外さない。それは茅場晶彦の性格によるものだろう。

だからこそ、付け入る隙は十分にある。

あの七十五層での戦い。もしあそこでソードスキルを使わずに、単純な技量と自らの経験とセンスだけで戦っていれば、勝機をつかめたはずだ。

最初の決闘の際、オーバーアシストを使ったのは、自分の正体が露見するのを恐れたからだ。

ゆえに露見した後では、あの男は裏技を使わない。自らのプライドとこのSAOという存在にかけて。

何の根拠もない、勘に過ぎない考えだが、方法はそれしかないと思った。

それともあの二十二層で出会ったアスナとの娘のユイに協力してもらえればとも考えたが、茅場晶彦に直接そむいたわけでもないのに、自分たちを救うために力を使い、消去されてしまった。

その心は、あの時は完全に消される前に救うことができたが、今回はどうなるかわからない。

だからこそ、今自分が考えられる一番の方法を取る。
そのためのスキルの取得。レベル上げ。
基礎能力が低いことには、この世界では何もできない。

すでに第一層にしてレベルは二十に到達していた。
単独でボスに挑んでもよかったが、無理はできない。それにこの一層のボスには取り巻きがいる。一対一ならばまだしも、取り巻きがいる状態で単独でボスにあたるのは自殺行為だ。特に今の装備とレベルならば余計に。

(スキルは今のところ、何とか順調だな。反応速度をどんどん上げないと……)

これから自分に必要な、そしてソロで戦っていくために必要な技能の習得。早い段階での熟練度のコンプリート。熟練度はポイント制ではなく、使えば使うほど上がっていく。
知識による効率化。食事や睡眠を削ってのレべリング。それこそ、あの月夜の黒猫団を全滅させてしまい、生き返らせることができると言うアイテムを入手するために力を上げていた頃にも似ている。
自分が知る限りの情報もクラインを通じて流している。休憩している間でもスキル向上と覚えている限りの必要情報を書き出し、公開している。

PKと言う今はまだ表面化していない問題もあるが、それについても早急に明記し、配布した。これで死ぬ人間、殺される人間は少なくなるだろう。
今、始まりの街ではのちのアインクラッド解放軍のリーダーであるシンカーが、この情報をもとに今は、街の統率に努めているらしい。

キリトの行動により、前以上の変化が起こっている。βテスター達の多くは相変わらず単独行動が多いが、キリトの流した情報をもとに、早い段階からグループを作り、攻略に向けて準備をしている。
前の時は第一層でその命を散らしたディアベル。彼も元βテスターと言うことと、キリトが流した情報で早い段階からレベルを上げ、チームをまとめ上げていた。

噂ではシンカーと協力して、非βテスターのための育成や、治安の維持などに努め、現時点でのこのゲームの攻略の要と言われ、希望を抱かれている。
キリトはそれでいいと思った。ディアベルがもし第一層で死ななければ、間違いなく今後の攻略でも中核を担って行ったはずだ。
それに軍になった後でも、彼とシンカーがいれば、前のように軍が無茶をしたり、横暴を振るったりはないはずだ。

だから、汚れ役や嫌な役は全部自分が引き受ける。妬み、恨み、蔑み、僻み……。
自分は前にそれだけのことをしたのだ。
だから、ただ前に進む。あの男を殺し、このゲームをクリアする。それだけが今の生きる目的であり、意味であり、キリトに与えられた唯一の事だから。

(だから……)

キリトは一度だけ目を閉じ、すぐに意識を切り替える。
これから第一層攻略会議。以前よりも二週間も早い。当然だろう。そこに行くまでの道筋はキリトがすでに公開した。ボスの情報、ボス能力、取り巻きの有無。βテスト時とそこからの変化の可能性。現時点ではボス攻略には人数が必要とも付け加えている。
全部知っていることだ。

それに死者の数も最初に茅場晶彦に殺された二百人近いプレイヤーを合わせても、五百人に届いていない。
何もかも、あの男の思い通りにさせてたまるものか。
こうして黒の剣士の二度目の歩みは変わる。それがどんな道なのか、彼にはまだ、知る由もなかった。




はじまりの街。とある宿屋の一室。
そこにその少女、アスナはいた。ベッドの布団を頭からかぶり、蹲っていた。
すでに二週間が経過したが、状況の変化はない。救いの手が差し伸べられることはなかった。

彼女と同じように大勢の人間がはじまりの街から出ようとしなかった。その中でも現状を何とか収集しようと、リーダーとして立ち上がった人間がいた。
シンカーと呼ばれる男だ。彼はこのゲームのβ版をプレイしたあるβテスターからもたらされた情報と資金をもとに、ここに残る大勢の人間がこれ以上パニックを起こさないように、事態の収拾に努めた。

まだ二週間ではあったが、彼に賛同し、協力しようと何人かの人間が組織として行動を起こすようになった。これにより、何とかはじまりの街は表面上の平穏を保っている。
だが攻略を目指すプレイヤーからはまだ百ある階層のうち、一層を攻略したと言う情報はもたらされていない。

二週間しかたっていないから、仕方がないと言えるかもしれないが、このペースではどれだけの時間がかかるか分かったものではない。
それでもすでにボスの部屋は発見され、今日にでも攻略がなされると言ううわさが流れているため、街に残る大勢の人間はそれをわずかな希望として待ち望んでいる。

そんな中、アスナは一人違うことを考えていた。
あの始まりの日に出会った、一人の少年の姿。自分の名前を呼んだ、その少年の顔。その時はパニックになっていたため、深く考えなかったが、よく思い返せば、今にも泣きそうな顔をしていた。
あれはなんだったのだろうか……。それに自分がこのゲームをクリアすると言っていた。

「名前、聞くの忘れちゃった……」

彼の名前を聞きそびれた。でもなぜだろう。彼の顔を思い出すたびに、胸が熱くなってくる。同時に切なく、苦しくなる。
初めて会ったはずなのに、どこか懐かしく思える。名前を呼ばれたのを思い出すと、どこか安心する。
彼は一体……。

ギュッと彼女は手に握った一つの涙のような輝くクリスタルを見る。これは彼女が気が付いた時、彼女の装備品の中に入っていた。これも初めて見るはずなのに、どこか懐かしく思えた。
なぜか、知らず知らずのうちに涙が出てくる。自分はなんでこんなにも悲しいんだろう。さびしいのだろう。
そんなことを考えながら、彼女は眠りに落ちる。眠りに落ちる少女の口から、小さなつぶやきが漏れる。

「……キリト君。ユイちゃん……」

はじまりの街に第一層が攻略されたと知らせが届いたのは、その翌日の事だった。
そして、ビーター・黒の剣士の誕生の報も同時に届けられるのだった。



あとがき
仕事につかれ、ほかの小説ほったらかして、最近アニメ見てはまった、SAOを何となく書いてみたネタ。
原作再構成は神作がその他版にあったので、今まで見たことなかったキリト逆行を書いてみた。
まあ続きも書いてますが、三話か多くても五話以内には終わる中編を予定。
アインクラッド編で終了予定。フェアリィダンスまでは書く予定なし。


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