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No.34830の一覧
[0] 【ネタ】MTG転生物【TS転生物注意】[どくいも](2015/02/01 13:26)
[1] プロローグ[どくいも](2012/10/06 17:37)
[2] 1-1[どくいも](2012/10/21 02:28)
[3] 1-2[どくいも](2012/11/01 17:30)
[5] 1-3 前半[どくいも](2012/11/01 17:35)
[6] 1-3 後半[どくいも](2012/10/21 02:29)
[7] 1ー4 幕間[どくいも](2012/11/01 17:40)
[8] 1-5[どくいも](2012/11/05 18:19)
[9] 1-6[どくいも](2012/12/04 08:43)
[10] 【おまけ的な何か】そもそもMTGとは?[どくいも](2012/10/13 14:39)
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[34830] 1ー4 幕間
Name: どくいも◆a72edfa5 ID:6bed7031 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/11/01 17:40
《ガヴォニー》


そこは【イニストラード】にある四つの州のうち、最も安全とされる地域。
《アヴァシン教会》の巨大な聖堂が鎮座する世界の信仰の中心地であり、偉大なる《大天使アヴァシン》が統括している、この世界で最大の都市《スレイベン》がある。
そして、州の最北に位置する《スレイべン》、そこから放射状にほかの都市や村、岩が多めの荒野が広がっている。

さて、その《スレイベン》から南西に位置する地域、教区《ウィタール》、そこの存在する小さな都市『タジイ・エムオト』。
都市の横には大きな森林が広がっているため、《ガヴォニー》において珍しく、ゾンビやスピリットの被害よりも狼男による脅威の方が強いという変わった地域である。
都市の周囲には狼男対策のアヴァシン教司祭の保護呪文が掛けられた木製の砦、彼らを見張るための高見矢倉が存在する。
住民の多くは商人と職人、次に農民という風体であり、わずかに他の職業がいる。
さて、そんな都市にある、少し古い一軒家に彼女らは住んでいた。

今、その家は一見ほかの家同様、明かりが消え、中の住人は寝静まっているかのように思えるかもしれない。
しかし、今現在、中にある部屋の一室に彼女は座っていた。
その部屋は、周りを木と石畳でできており、所々の壁に土が見える。
部屋にあるのは、大きな鍋、さびた鉄製の護符、机の上にある大きな水晶玉。
ここまでは良い。
しかし、これら以外に、青色の灯を上げる《終わりなき休息の器》、机の上の黒い表紙の魔導書、がたがたと動く木箱、天井の柱の上にいる大きなネズミ、赤く黒く染まった祭壇、とこの部屋には間違いなく『何か』ある、誰だってそう思うだろう。
さて、そんな不気味な部屋の隅に位置する、大きなかごの前に彼女はいた。

先日身に付けていた黒いローブを身にまとい、その右手にはナイフを持ちながら、その顔を部屋の中央へと向ける、表情からは冷たい印象を受ける。

彼女は表情を一切変えないまま、目の前にある、赤黒く染まった祭壇に近づいていく。
そして、その祭壇は、明らかにまっとうな物でない。
祭壇の横には何かの頭骨が飾られた杖、それの囲むかのように、床には見たことのない、不気味な文字が羅列されら円、魔法陣がある。
祭壇の上の左右の端には蝋燭。
それだけではない、右に縁が黒曜石でできた鏡を、左には先の鋭く太い角、《悪魔の角》。
そして、その祭壇の中央には、なぜかピクリとも動かないウサギが横たわっていた。
眼が開いているため、寝ているわけではないだろうし、呼吸をしていることから死んでいるわけでもないだろう。


「………力を、知力を、混沌を」


そう言いながら彼女は、彼女はそう言いながらナイフを両手で握り直し、頭上へと振り上げる。


「……ん。」


彼女は手に握っているナイフへと力を込め、同時にナイフが薄暗く発光をする。
彼女が放つ言葉が増すごとに、その光は、初めは薄明り程度であったが、次第に部屋を照らすほどに強くなり、ついには部屋のどの灯りよりも明るくなった。


「我、汝にこれを捧ぐ!《祭壇の刈取り》

……ごめんね。」


その言葉と共に、彼女は手に持った怪しく輝くナイフを動かないウサギに向けて振り落した。
それは一瞬の出来事であり、そのナイフをウサギの頭と銅の間、つまりは首に向かって真っすぐ着き刺した。
その一撃により、ウサギの声なき悲鳴が発せられ、たった一刀のもとでその首は切断された。
最後に一度大きく体が跳ね、そのウサギの魂は2度々帰らぬ物となった。
ウサギの血を吸ったナイフは、より一層その光を強め、それに共鳴するかのように祭壇の横にある、《悪魔の角》が微かに震え、光を放つ。
その光はどちらも強くなり、《悪魔の角》の震えは祭壇の上から落ちんばかりの勢いだ。

だが、この光景の異様さが増すのはこれからであった。
なんと、ナイフが突き刺さっているウサギの亡骸は、まるでナイフに飲み込まれるかのように、その身を干からびさせて、パキパキと骨の砕ける音と共に、その身を委縮させていく。
初めは、人が抱えるほどの大きさだったウサギは、今ではその身を半分にまで減らし、とうとう血の一滴すら残さずにこの世にいた痕跡を消し去った。

そして、ウサギの亡骸が消えたと同時に、《悪魔の角》から放たれる光が、最高潮に達し、そこから黒い靄が現れる。

はじめは亡霊のように、ただただ中を浮かぶだけであったそれは、次第に形を変えて特定の形をかたどっていく。
煤けた巨大な羽、巨木の如き腕、立派な牛頭骨、そう、それは先日ニウが対面した悪魔、《灰口の悪魔王》であった。
しかし、あくまでそれは形だけであり、靄でできた体、形のはっきりしない下半身、なによりその威圧感は、以前現れた時よりもかなり弱いことが分かるだろう。
そう、まるで《悪魔》の亡霊であるかのようにだ。


「……汝、我に何を求む?」


その黒い靄でできた《灰口の悪魔王》はその低い声で、ニウに尋ねる。


「黒魔導の知識を。更なる黒き力を。」


ニウはそう黒い靄に向かって力強く叫んだ。
結局あの後、かなり限定的ながら、彼女はこの悪魔とも契約をした。
彼女がこの決断に対して、様々な葛藤があったのは確かであろうが。
彼女の言葉を《灰口の悪魔王》は言う。


「………。つまらん。」

「はあ?」


その言葉によって先ほどまで室内に漂っていた、緊迫した雰囲気はどこへやら。
あんまりな一言に、ニウは思わず呆然としてしまった。


「正直、あまりに無難すぎる。
しかも、儀式一つ間違えていないとはどういうことだ。
最小限のリスクに、最大限のメリット。あまりに無難すぎる!
せっかく一つでも儀式を間違えれば、腕一本でも持っていこうと思っていたのに、これでは計画が台無しではないか!!」

「っつ、たく……。」


《灰口の悪魔王》は「つまらん、つまらん」と愚痴をこぼし、天井でこちら見つめていた《ネズミ》、いや、彼女と一番初めに契約していた《悪魔》が笑う。
ニウはあまりの《灰口の悪魔王》の言いぶりと、天井にいる《ネズミ》に、頭が痛くなるのを感じる。
そう、悪魔とは元来こういうやつなのだと自らに言い聞かせる。

黒魔術は、他の魔術と違い、容易に力が手に入ると思われているが、無論そんなことはない。
悪魔との交渉は面倒くさく、失敗したときのリスクは馬鹿にならないほど高い。
さらに、この世界において、黒魔術は禁止されているせいでそのための媒体や材料となるものが一般の市場にはまず流通しない。
さらに言えば、この部屋の異様ともいえる、不気味さ。
これは部屋にある、悪趣味な小道具や不気味な雰囲気は、すべて、室内に集まるマナを【黒のマナ】にするためのものである。
彼女は、不完全ながらも魔術を使う際に自身のマナだけではなく、大気に漂う土地のマナを使うことができる。
ゆえに、本当なら、【黒マナ】が自然発生しやすい【沼地】で魔術を行使するのが最も効率良い方法だろうが、さすがに自宅の一部を沼地にする気はない。
この部屋はせめてものというために、このような悪趣味な部屋となってしまったのだ。
(そもそもニウは、この部屋の内装からしてあまり好きではない。)

そう、今回の呪文である、《祭壇の刈取り》という魔術もそうだ。
この呪文は、それを成功させる事自体は詠唱も短く簡単ではある、効果もで契約している《悪魔》から、その力の一端を分けてもらうという儀式である。
そして、その力の一端とは、悪魔から魔導の知識、または道具等をもらえるというもの。
この儀式魔術に要求されるマナの量も少ない、この世界の黒魔術の中ではわりと使いやすい物と言えるであろう。
しかし、この呪文には『生贄』が必須という条件があり、しかも、この呪文で『体力回復』や『不老不死』と言ったものを頼むのは不可能と、思った以上に制約が多い魔術なのである。


「いいから、さっさと魔術の知識をよこせ。
紙媒体でも、頭の中に直接叩き込むでもいいから。
ただし、それ以外のことや、変に難解にすることはやめろよ。」


それにこの呪文において、最大のネックは悪魔との交渉の難しさだ。
一応、事前の契約である程度、様々なことを決めているとはいえ、できるだけ悪魔に付け入る隙は与えてはならない。
これは、ニウが長年悪魔と付き合ってきて学んだことの一つであった。
もしここで、最後の一言が抜けていたら、魔導書と称して、部屋いっぱいに卑猥で無駄なことが大量に描かれた紙屑が置かれる可能性すらあるからだ。
まあ、事前契約のおかげで、彼女が多少のミスをしたとしても、そのような嫌がらせで済むと言えば安いものだが。


「ふむ、ならば儂おすすめの魔術を教えてやろう。
この魔術を使えば、おぬしは万人に恐れられる存在となれる。
どうだ?今ならその魔術の実戦として、おぬしにかけてやるというサービスまでするぞ?」


《灰口の悪魔王》はそう言いながら、指を立てて提案する。
しかし、今目の前の悪魔が話す、その魔術に心当たりのあったニウは嫌そうな顔をしながら答える。


「そのサービスは結構だ。
私の予想じゃ、その魔法は誰からも避けられるようなすっごい醜い容姿になる魔法な気がするんだが。」


その答えに《灰口の悪魔王》、《鼠》双方から感心するような声が漏れる。
そして、やけに嬉しそうな声で《灰口の悪魔王》が言う。


「ほう。よう知っとるなあ。
正解も正解。
その名も《陰惨な醜さ》という魔法じゃ!
この魔法をかけられたものは、皆が見ただけで恐怖におののくような、恐ろしく醜い貌へとなれる物だ。
どうだ?だれからも一目置かれる、すんばらしい見た目に大変身できるぞ?」

「そりゃそうだ契約主よ!
こいつは《万人》に恐れられると言ってるんだ!
使った本人もビビんなきゃ、《嘘》ついたことになっちまうだろう!」


デビルいや、デーモンジョークというべきか、この一連の会話にどのような笑いのツボがあったのかわからないが大爆笑している、二柱の悪魔。
その様子を見てニウは、本日何度目になるかわからない溜息を吐いた。





【ネタ】MTG転生物【TS転生物】 1-5 




イニストラードの人々の朝は早い。
なぜなら、この世界では深夜の危険率が高すぎるが故に、基本的に深夜に郊外を歩くことは禁止されているからだ。
そのため、町の外に畑を持つ多くの農民達は、朝早くから田畑へと仕事をしに行く必要があるのだ。
それに合わせるかのように、多くの店も日中のみ営業をしている店が大半であり、深夜になると化け物どもの危険性から町は静かになるからだ。

しかし、どこであれ、例外という物は存在する。
たとえば《アヴァシン教》の信徒たちは、深夜に町に異常がないか、見回りをしている。
彼らが家に帰れるのは日が昇ってからであり、そのような日は、彼らが家に帰るとすぐに寝ってしまうのは当然だろう。
また、一部の研究者やシャーマン、硬派な職人や鍛冶屋、《風呂屋》、《金貸し》(以上の二つはこの町にはないが)などは、朝から活動する必要がない商売であったり、朝にやるには適切でないような店は、昼ごろから行動を始める場合もある。

そして、それは自称『はぐれ錬金術師』であるニウもそう。
その日は、昼の少し前頃にニアは目覚めた。
昨夜の出来事のせいで、ニウの頭は未だに鈍痛がするが、それに耐えて部屋から出る。
そして、彼女の寝室から出るとそのまま居間へと向かい、暖炉に薪をくべているデアに挨拶をする。


「ん~。おはようデア。
今日のご飯は何?」

「ああ、おはよう。
今日は、黒パンに、玉ねぎとジャガイモの……。
ってなんだ、やけに辛そうだな。どうした?」

「いや、単に《粘土象》の製作が遅れてるから遅くまで頑張っただけ。
あと、夢見もよくなかったしなあ。」

「……そうか。
よくわからんが、無茶だけはするなよ。」


デアはそういうと、暖炉に火をつけ、そこに遅い朝食のためのスープが入った鍋を置く。
もちろんニウの言葉は嘘だ。
ニウが体調が悪いのは、昨夜の黒魔術の儀式が原因である。
結局あの後、ニウは《灰口の悪魔王》から《陰惨な醜さ》の魔術について習うこととなり、呪文についての知識を、直接頭に刷り込まれたのだ。

……多数の無駄知識と、激しい頭痛のおまけつきで。
その激しい激痛のせいで、彼女はしばらく部屋を転げまわっていたのを覚えている。
その時の悪魔二柱の笑い声を思い出し、ニウはまた頭痛が感じてきた。
それらの思い出を頭から流すために、強引に話題を変えるニウ。


「ところで、今日がデアの夜の見回りの当番の日だっけ?
晩御飯はどうする?早めにする?」

「ああ、今日は俺が夜の見回りの当番だ。
最近は、この近くの町でも連続殺人が起きたらしいからなあ。
……っ、たく、胸くそ悪い。」


そう、『デア』はまだ『見習い』の域を出ていないとはいえ、アヴァシン教の聖職者、いや、『聖戦士(予定)』なのである。
そのため、彼は定期的に《アヴァシン教徒》達が行う、都市内の夜の見回りをするのである。
機嫌の悪そうなデアにニウは尋ねる。


「あ~、犯人の予想とか立ってるの?
やっぱり、短期間に連続殺人となると、はぐれの吸血鬼とか?
それとも、新しいスピリッツあたりとか。」

「いや、そうではないらしい。
どうやら、死骸が何かに見せつけるかのように放置されている事や、血が残っていること、それに傷口から、『人間』か、『スカーブ』それに『狼男』のどれからしい。」


ここ様々な化け物あふれるイニストラードにおいてさえ、人間同士の殺人はやはりありふれたものである。
いや、何時隣人が『狼男』や《ゾンビ》と言った化け物に変わるかわからないこの世界では、より一層疑心暗鬼になりやすいのかもしれないが。
そして、デアは思い出したかのようにニウに言う。


「そういえば、最近教会に行っていないだろう。」

「う……。
いやあ、そんなことないよお。
けっこう最近いったはず。覚えている、覚えている。」


ニウは明らかにデアから視線をずらし、言葉を濁した。
しかし、さすがのデアと言えどそれでは騙されなかった。


「じゃあ、何時行ったか言ってみろよ。」

「……いや~、確か『聖戦士トラフト』様がこの町に来た時だっけな?
一緒にいた天使とか超美人だったし、はっきり覚えている。」

「……それって、一か月以上も前じゃねえかよ!
しかもすっごく、自己中心的な理由じゃねえか!ちゃんと礼拝のために行け!
お前このまま引きこもっていると、吸血鬼かなにかと勘違いされてしょっ引かれるぞ!!」

「うっさいな~!
あそこの私を見る眼、好きになれないんだよ。
しかも、司教も司教で、なにが『今の職業をやめて、アヴァシン教の聖戦士の修行やってみないか?』だ。
今の私が作ってるものがそんなに怪しいか!
ならば、ちゃんと証拠を出しやがれってんだ!!」

「……っ、たくもお。」


デアはニウの教会の嫌いっぷりに思わずため息を吐いた。
しかしながら、彼も彼女の気持ちが分かるのでそれ以上は強くは言えなかった。

そもそも、この魔術が実現する世界において、『錬金術』というのは【黒魔術】以上に胡散臭いもののひとつなのである。

この世界の『錬金術』は、科学者をイメージしてもらえば問題はない。
彼らの多くは、日夜、《アヴァシン教》の力を借りずに、多くの物の開発や研究を進めることを目的としている。
たとえば、人工的な『発電』の仕方、たとえば効率よく燃える『油』や『薬』の開発、そして、今までのどの魔術とも違う方法での『アーティファクト』(魔法の道具)の製作などである。
一見ココだけを聞くと、ただの偏屈な集団にしか見えないであろう。

……しかしながら、彼らの裏の姿の多くは、『屍錬金術師』、『スカーブ師』とよばれる、【アンデット】である『スカーブ』の製作者であると言えば話は変わる。
もちろん《アヴァシン教》はその危険性や倫理観から、一般人の『スカーブ』及び『ゾンビ』の製作及び使役を禁止している。
さらに言えば、仮に彼らが『スカーブ師』でなくとも、『錬金術師』の多くは実験のための燃料として、『スピリット』を使っている場合が多い。
(それで作るのが、戦車や二足歩行のロボット風ゴーレムであるあたり、どの世界でもマッドサイエンティストというのは変わらないと言ったところか。)
そして、《アヴァシン教》は『霊魂』の無許可での捕縛を認めていなく、錬金術師の多くは違法者の別名であるのだ。

それ故、『錬金術』そのものが禁止されているわけではないが、その職業自体、ここ《ガヴォニー》、そして、教会から良い目で見られないのである。
また、この世界に魔術の才が眼に見えるくらい、持っているとわかる場合、貧民であっても無料でアヴァシン教会で『聖戦士』になるための訓練を受けられる。
そして、アヴァシン教会の『聖戦士』や『司教』は貧民のそれとは、生活のグレード、平均寿命、装備と様々な点で貧民の上を行く。
それなのに、彼女は明らかに魔法の才があるのに、それを受けず、師もいないのに『錬金術』などという怪しい術に手を染めている。
世間、いや、教会から見ればこれ上無く、彼女は怪しい存在なのだ。


「あ~、けどまた新しい商品ができるかなあ。
商品の査定のためにも、一度教会に行く必要があるな。
めんどくせえ。」

「……予約は俺がしといてやるから、査定のついでに簡単な祝福を受けておけ。
でないと、いい加減何かに呪われるぞ?」


この世界の常識として、普通の人は、正式な信徒であるかないかに関わらず、定期的に『教会』に礼拝へと向かうのが一般的である。
なぜなら、この世界の《教会》の加護の力は、真に退魔の力が強く、定期的に教会へと礼拝しに行くだけで、その身の《退魔》の力が増す。
それは、悪霊に呪われにくくなり、吸血鬼を避け、例え、人狼化の呪いがかけられた人間であろうと、その変身を抑制するという加護である。

また、定期的に教会へ通うことが、その人が真に人間であることを証明する手段でもある。
教会で使われている、《銀製》の道具には、強い退魔の力が込められている。
そして、それは、もし参拝者が《スピリット》など呪われていた場合はその呪いを解除することができ、また、人間と吸血鬼の識別も可能である。
(ただし、教会でも人間と狼男の正確な判別は不可能だが。)
それ故に、あまり参拝に来ない人=不審者の公式が成りたつのだ。

昔、教会から眼を着けられている彼女は、その発明品であるアーティファクトが何らかのスピリットを利用しているような『悪性の呪い』により制作されたものではないかと疑われたのであった。
当然彼女自身、そのような技術で製作したものではないので、すぐにこれを《アヴァシン教会》に提出し、その発明品の安全性を証明することに成功したのであった。
皮肉にも、今まで無名でただただ怪しいとされてきた彼女の作品は、彼女が毛嫌いしている『教会に公認』されたことにより、その売り上げを伸ばしたのであった。
以降、その味を占めた彼女は、彼女が作品を作るごとに、それの査定のために『教会』へと赴くようになったのだ。


「あ~、思い出したら腹が立ってきた。
さっさと飯にしよう。そうしよう。」

「あ、こら。
まだ俺の話は終わってねえ!
ちょっとそこに座れ!」


しかしながら、デアはニウに対して口げんかで勝てないのはいつものことであり、結局彼のセリフは彼女に丸め込まれてしまった。

どうやら昼食は、保存の利く《黒パン》に玉ねぎとジャガイモと干し肉の《スープ》のようだ。
なお、この世界では、玉ねぎをはじめとした香辛料野菜は多数存在している。
そして、吸血鬼の弱点として、『木の杭』や『聖水』が苦手と言ったいくつかの弱点を持つ。
しかし、これらの野菜、たとえばニンニクや玉ねぎは吸血鬼に対して有効打にならないことを明記しておく。

その後、つつがなく会話が続けられ、昼食を食べ終えると、デウは早々に席を立ち、身だしなみを整え、首に《アヴァシンの首飾り》を付け、腰に剣を掛ける。
その忙しない様子をニウはじっくりと観察して言った。


「こんな時間から教会に行くのか?
熱心だこと。よくそんなに真面目に修行を続けられるよね。」

「……俺はお前と違ってほとんど魔術の才がないからな。
人一倍修行しなきゃ、早く『聖戦士』になれないだろ。
それに、そろそろ《ヨーティアの兵》から一本取れる位にはなりたい。」

「へ~、へ~。
その頃には、私はもっと強い『アーティファクト』を作れるようになっていると思うけど、せいぜい頑張ってね。」


ニウは、夜に悪魔からからかわれ続けた鬱憤を晴らすかのように、デアをからかっていた。
そして、デアが準備が終わり、教会へと出かけるのを見送った後、彼女は居間から移動し、店の方へと向かう。
彼女は昼の仕事、そう錬金術師としての仕事を始めるのだ。


「……とは言っても、ほとんどすることはないけどなあ。」


彼女は一人ごとを言いつつ、店の鍵を開け、『開業中』の看板を出した。
そして、そとに見張り兼、宣伝用に《ヨーティアの兵》を店の外に設置する。
それだけで彼女の開店準備は終わりである。
後は店のレジへと座り、適当な『アーティファクトクリーチャー』に店の掃除をするように命令し、本人は机の上にある本を読みながら客を待つだけであった。
彼女の態度は店へのやる気がない店員そのものに見えるが、それには訳がある。

彼女が実際に『アーティファクト』を作る日は決まっている。
作るときは、元錬金術師の家であるこの家にあった工房で、彼女の魔力の調子が良くなる夜間にて行われる。
(そして、時々、夜中にアーティファクトを作ると称して、製作工房の地下にある地下室で、黒魔術を行使しているわけだが。)
店内に置かれている『アーティファクト』のほとんどは、《ヨーティアの兵》のような『アーティファクトクリーチャー』であるのでよっぽどのことがない限り壊れないし、メンテナンスは不要。
しかも、多くの『アーティファクト』、特に《ヨーティアの兵》のような金属製は、高価。
彼女はそこまで裕福でないので、量産することが不可能であり、そのほとんどが借用として商売をしている。
アーティファクトそのものの販売に関しては、基本予約形式であり、今すぐ新しい客が来て商品を購入するといったことは少ない店なのだ。

さらに、この店に来る客は、多くが農民であり、これらを夜の農園の《案山子》として求めてくる。
しかも、《アヴァシン教徒》が正式な《案山子》を作ってくれるまでの繋ぎや、貧乏でアヴァシン教から《案山子》を買えない人たちようのものなのである。
そのような農家の人々が、この店に訪れるのは、農作業が終わった午後からが大半。
よって、この時間に客が来るとすれば、冷やかし目的の客や興味本位の子供、一部の口うるさいアヴァシンニアンくらいのものだ。

しかし、今日はめずらしく、上位の物以外の例外が来たようだ。


「失礼する。」

「いらっしゃい。
……って、なんだあんたか。そういえば今日だっけ?」


彼女はそういうと、本を読むのをやめ、来た客に向かって挨拶をした。
その口調は一見雑多ではあるものの、それなりに丁寧な対応だった。
なぜなら、今来た客は、《クグリ商会スレイベン外壁の支部》のとある『雑貨屋』からの使いであるからだ。
そこの商店の主人は彼女が幼い時、そう、救貧院時代からの知り合いであり、恩人であるからだ。
そして、今来た使いの人も知り合ってからそれなりに長い。


「お兄さんも元気そうで何より。
《ジーグ》のオッチャンとその嫁は元気にしてる?」

「ああ、ちょうど二人から、手紙を預かってきた所だ。読むか?」


そうして彼から渡された手紙を開くニウ。
そこに書かれていたのは、まるで親のようにこちらの様子を案じるかのような内容に、向こうの現在の状況、そして、今売れている商品についてなどが書かれていた。
『雑貨屋』に彼女が接触した当時、そこは嫁さんが流行の病にかかっており、《ジーグ》と今来ている使いの人だけと、人手が足りなくなっていた時であった。
当時、いくら計算ができ、なおかつ錬金術の知識を持っているものの、救貧院出身しかも、まだ10歳もいかない彼女を雇ってくれた、《ジーグ》には頭が上がらないのであった。


「どうやら、おっちゃんも嫁さんも元気そうだな。」

「おおよ。
嫁さんの方も以前に比べてますます容姿に磨きがかかってやがるし、旦那の方もますますパワフルだ。
ありゃあ、殺そうとしても死なねえよ。」


そうして、手紙を微笑ましい笑みで読み上げていくニウ。
ニウのためにか、そこには、もともと住んでいた地元の様子や救貧院の様子まで事細かに書かれていて、ニウは終始手紙を楽しんでいた。
しかし、ニウのその表情は最後の紙を見て、目を薄めて何やら真面目な顔へと変わった。


「あちゃ、今回はやけに前よりも《霊薬》の需要が減ったなあ。
やっぱり、クスリの製造法をばらしたのはよくなかったかなあ?
逆に、巻物の数は増量か……。
これじゃあ、収入が減って作業時間が増すばかりじゃん。
やっぱり、製造法の流布は逆効果だったかなあ……。」


ニウは手紙の最後に書いてあった注文票を見て、愚痴をこぼした。
そう、最後の紙は《ジーグ》からの商品の注文票であり、彼女が『雑貨屋』へと搬入している商品が書いてあるリストであった。

そして、今回の《霊薬》もニウが取り扱う商品の一つである。
この霊薬、見た目や飲用法は一種のお茶に近いものがある。
液体の見た目は紅茶のような、薄いオレンジ色、しかし味はそこまで美味でなく、むしろ味気ないものである。
形状は、まるで漢方のお茶のように、袋に入った茶色の粉末、乾燥した花といった複数の乾物からできている。
用途は簡単、これらを水に入れて数日煮出すだけ、それ故、数回にかけて使えるという利点もある。
《アヴァシン教》の聖水とは違い《退魔》の力こそないものの、その効能は凄まじい。
『老化防止及び若返り』、『体力上昇』、『怪我、病気の治癒』と言った在り来りながら非常に稀有な物である。
《ジーグ》の嫁が過去に病気にかかった時に直したのも、この《霊薬》だ。

ニウ自身もこの《霊薬》を開発できたとき、まさに億万長者になれると思ったものだ。
……当然ながら世の中そんなに甘くない。
これの材料はどれも珍しく、バカ高い物であり、作るまでにかかる時間も決して短いものではない上に結構な《マナ》を消費する。
いくら効能が確かとはいえ、救貧館育ちのニウでは『錬金術師』としての信用も足りないので売り上げも伸びない。

それに彼女としては、この薬、もともとの《悪魔》から教わった《アーティファクト》、《不死の霊薬》をこちらの世界で再現しようとして、失敗、曰く『粗悪品』。
彼女が失敗した理由は明白、元々のこの《アーティファクト》の材料の多くがこの世界に存在せず、大量の代用品で作ったからだ。
当然、元の《不死の霊薬》に比べ、効能、値段、保存期間すべてにおいて劣る作品になるのは当然である。

話は変わるが、これが彼女が《灰口の悪魔王》と契約したかの理由にもつながる。
彼女が初めに契約した悪魔、どうやらこの次元の悪魔では無いようで、この次元の魔法についてはそこまで詳しくない。(全く知らないわけではないが)
そして、得た知識も、この《不死の霊薬》のように再現するのが難しい魔術や製作困難な『アーティファクト』が数多くあるのだ。
それゆえ、彼女がこの世界で、この世界の魔術を習うのは、この世界の黒魔導師などから法外なほどの値段のする魔導書を買い、なおかつ非常に長い時間をかけて翻訳をする作業が必要となる。
そして、ニウはこの世界の黒魔術を効率よく学ぶべく、《灰口の悪魔王》と契約をするデメリットより、術を学ぶ時間や金に対するメリットを優先させたということだ。

さて、話を戻すと、結局この《霊薬》、コストと時間のわりにあまり儲けにならない上に、(彼女の中では)胸を張って商品化できるほど効能もよくはない。
それ故、彼女はこの《霊薬》をメインにする商売をあきらめ、さらに言えば他の研究に時間をかけてもいいように、《霊薬》のレシピをばらすという荒業にまで出たのだ。
まあ、さすがに《霊薬》の需要が減り、製造法の巻物についての注文が増えてしまい、《霊薬》を作る時間を減らすための策が、むしろ製造法の巻物を書くための時間に費やされてしまっているというのは予想外であったが。
彼女としては、こんな胡散臭い物、誰も気にしないだろうと軽い気持ちで策を実行したが、現状を見るに少し安直すぎたかもしれないと後悔した。
彼女の不満そうな顔を見て、使いの人は声をかけた。


「……そう文句を言うな。
おまえと同じ元孤児である俺から言うなら、お前は恵まれすぎている。
お前が孤児の中で、文字が読める上に計算ができるほど賢い奴だというのは知っている。
しかし、お前はすでに1人だけで生きていける生活能力を持ち、一軒家、さらに開業に成功。
果てには、大手商会ともつながりを持っているときたもんだ。
これ以上何を望むというのだ?」


使いの人の言うことは最もである。
一般的に《救貧院》で仕事ができるまで育った子供や貧乏人は、アヴァシン教会の支援により定期的に港へと連れて行く「キャラバン」へと同行できる。
そこでは表面上、彼らはより容易く簡単に雇用や商いの仕事を見つけることができるとされている。
が、実際学がない彼らはそこまでいい仕事が得られない者が大半であり、安全な宿に泊まれるかも不明。
海に近いことにより、牛をも襲うほどの巨大な海鳥の餌になることや、そうして死んだ人の怨念の塊であるスピリットの同胞となることも少なくない。
もちろん賢い孤児は、この使いの人のように、地元の店などで確実な店などに伝手を作り、そこで就職したり、戦闘や魔導の才があるものは《デア》のようにアヴァシン教会で修業をする者もいる。
そういった中で、ニウのように、自身で開業及び営業の道を選ぶものはとても珍く、成功するものはもっと少なくなる。
しかも、そういった状況でもまだ満足していない彼女は世間一般から見て異常と言えるだろう。
使いの人の視線を知ってか知らないか、彼女は軽い口調で話を続ける。


「ん~。いや、別にそこまで大きな望みは持ってないよ。
ただ、この家には風呂がないからそれを増設したいし、キッチンがないから、それもほしい。
そろそろ、暖炉とテーブルだけで料理をするのは嫌だし、ちゃんとした料理用のオーブンがほしい。
ああ、あと、もっと本を読みたいし、料理にはもうちょっとでいいから自由に香辛料を使えたりなって思う程度の庶民的な願いだ。」


しかし、彼女は、前世の生活基盤を基準に判断しているせいで少々価値観がおかしいことがある。
当然彼女もこの世界の困難さ、常識は知っているがそれでもなおである。
一度でも現代日本社会にまれてしまったら、やはり色々と不便に感じてしまうのは仕方ない。
多数の調味料や甘味はよっぽどの資産家であっても日常的入手は困難であるし、風呂は『大人の店』にあるくらい、キッチンを家に作るくらいなら人を雇った方が安いくらいだ。
しかし、彼女の考えは使いの人にとって見れば、やはり彼女は変に、又はすごく強欲な人間に見えるだけであった。


「……おまえ、それがどれだけ贅沢なことを言っているかわかっているのか?
それは、地主や大商人になりたいと言ってるのと同じだぞ?」

「やっぱり、そう受け止められるかあ……。
別にそこまで高望みはしてないんだけどなあ……。」


まあ、ニウは別に自分の考えが理解されるとは思っていない、又されたいとも思わないから全く問題はないが。
彼女は、手紙の最後の書かれていた注文票を読みながら、今まで部屋の掃除をしていた『アーティファクトクリーチャー』である《粘土像》を連れて店の奥へ、注文の品を取りに行こうとした。
が、その前に使いの人に呼び止められた。


「あ、ちょっと待て。
もう一つお前あてに手紙がある。」

「?……もしや!」


一瞬何事かと思った彼女だが、心当たりがあったのかすぐに苦虫を噛潰したかのような顔になった。
その顔を見ながら使いの人は言う。


「そう。《スカースダグ教団》からだ。」



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「あ~、やっと3枚目か。
あと何枚だっけ?」

「そうだな。後9枚だな。
くっくっく、もっと単調な文章で書いてやればいいものの。」

「どうやって、これ以上単純にしろと?
私が《スカースダグ教団》と《アヴァシニアン》の両方に追われるか、お前らの餌が増えるかの二択になっちまうだろう。」

「だから、いいのではないか。」


現在、深夜、ニウは《ネズミ》に冷やかされながら地下室で昼間に頼まれた注文された巻物を書いていた。
とは言っても、『雑貨屋』ではない、スカースダグ教団の方だ。
しかも、呪文の内容は昨晩使った呪文《祭壇の刈取り》の呪文である。
そう、ニウは『雑貨屋』単体だけではなく、それを囲う商会、《クグリ商会》いや、そこが裏でつながっている組織《スカースダグ教団》とも商業契約を行っているからだ。

具体的には、ニウが《教団》に対して黒魔導師にしかできない仕事や教団内の魔導師がやるには難しい仕事をするかわりに、資金面や権力面でいろいろと援助をしてもらっているのだ。
たとえば、前回の護衛任務のように割のいい仕事を受けることができるようになる。(ただし、厄介な任務付きだが)
今ニウが住んでいる家は《スカースダグ教団》から紹介された物件である。(ただし、前に住んでいた錬金術師が昆虫の研究をし続けた末に、昆虫人間になってしまったという、曰付き物件だが)
それいがいにも、様々な黒魔術の道具も提供してくれる。(それ以上の生産をこちら側に求めてくるが。)

まあ、ニウとしては最近教団からの雑用の注文が多く、やきもきしているのだが。


「私個人に、アイツらを押さえつけるほどの力があったら別なんだろがな。
……まあ、この仕事に手を抜いて、黒魔術の失敗が起きて無駄な犠牲者が増えたとしたら、結局のところ一番喜ぶのはお前らだろ。」

「くくく、これは手厳しいな。
疲れたらいつでも言え、俺が変わりの素晴らしくわかりやすい短い文章を考えてやるぞ……!」


机の上にいた《鼠》いや悪魔がニウの書きかけの巻物を見つめながらそう言った。

ニウがこの巻物を《スカースダグ教団》への協力として、この巻物を書かせているのにはわけがある。
今ニウが書いている巻物の『呪文』は、ここ【イニストラード】において、わりとポピュラーな黒魔術の呪文であり、特別な権力者や黒魔導師などに伝手がない庶民であってもがんばれば、この『呪文』の魔導書を見つけることができるだろう。
(ただし、その人に黒魔術の才能がなければ、彼にそれを見つけてもそれが魔導書だと気付かないだろうが)

しかし、それほどにありふれている呪文であろうとも、この呪文の【正確】な魔導書は稀有である。
そもそもこの世界、【黒魔術】が禁止されているのはすでにご存じであろう。
それのせいで、【黒魔術】に関する本は見つけ次第即処分となり、所有しているだけで罰せられる場合すらある。
そのため、大抵の【黒魔術】に関する本は、暗号化されているのが基本であり、かつ分かりにくい物が多いうえ、大抵のものが黒魔導が使えない人が書いた『写本』、いや、『写本』の『写本』レベルの物ばかりだ。
その上、現在この世界《アヴァシン教》が広がっているせいで、熟練した黒魔導師が捕まってしまい、黒魔導師の人数が減っているのが現状。
たとえば、先ほどの『呪文』の場合、この呪文の代償として生贄が必要だが、別に生贄は『人間』でないくとも良い、別に生き物に準ずるものなら、ただの家畜や害獣、極端に言えばほとんど生き物でないような、ゴーレムやゾンビでもよいのだ。
しかし、多くの若く文字がうまく読めない黒魔導師は、生贄と言ったら人間というイメージだけでいらなくていい手間をかけてしまい、黒魔術に失敗すると言ったことが多いのだ。
そのせいで、さらに黒魔術の使い手が減るという悪循環。

悪魔は古来からこの世界を裏から操り支配してきた種族。
それこそ、この世界にまだ《アヴァシン教会》がなく、闇に対抗するには、『シャーマニズム』か『闇魔術』ぐらいしかなかった頃からだ。
しかし、その性格は、残忍にして非道、人間など、自分に対するおもちゃか、家畜くらいにしか見えてないだろう。
もちろん術に失敗した黒魔術師という格好の餌食を見逃すほどは優しくない、例えそれが間接的に自分たちの首を絞めようともだ。
その黒魔術の衰退ぶりは、元々他の悪魔信仰を否定し、自分達以外の黒魔導師の撲滅に努めていたていた《スカースダグ教団》が、『敵の敵は味方』の理論で無差別にグループ外の黒魔導師をも支援しているというところからも分かるだろう。

結局なぜ彼女がこんな在り来りな呪文の《魔導書》を書かされているかと言えば、要するに《魔導書》の書き手がいないのだ。
魔導書の絶対数とベテランの《黒魔術師》が大量に教会によってしょっ引かれてしまった現在、彼女のような20に行かない者でさえ、その履歴や腕前から《教団》内では『凄腕』扱いである。
黒魔導の腕に対して一定の信頼が置かれて更に、《魔導書》を書かせると言っためんどくさい作業を頼める地位にいる、それが現在の彼女の状態なのである。

なお、この魔導書書きに故意の嘘や手抜きがあった場合、『商会』によって《アヴァシン教》に黒魔導師だと密告されてしまうわけだ。
(ただし、その文章の間違いが悪魔の琴線に触れれば、むしろ間違えて書くことを推奨される場合もあるが。)
なかなかよくできたシステムである。


「というか、《霊薬》の改良、生贄の確保、魔術の改良、開発。
やらにゃきゃいけないことが多すぎるよ、ほんと。
しかも、近々《教団》に呼び出しと来たもんだ。
………っと、もうこんな時間か。」


彼女はそう言いながら、目の前の鼠の額を小突くと大きな欠伸をし、書類作業で固まった腕を伸ばす。
体の節々からぽきぽきという音が聞こえ、一時的だが爽快感が得られた。
羽ペンを机の上に置き、インク瓶の蓋を閉め、机から立ち上がる。


「おや、もう時間か、契約主よ。」

「ん、そろそろデアが帰ってくる時間だから、テキトーに料理作って出迎えの準備をしとくよ。
あー、残りの作業は《粘土象》に任せてみるか、成功するか著しく不安だけど。
……あ、くれぐれも巻物に落書きしたり、《粘土象》の邪魔したりするなよ!!」

「くくく、了解だ契約主よ。」


彼女はそういうと、今まで地下室の入り口にいた《粘土像》に声をかけ、地下に来るように命令する。
詳しい命令を下すと、彼女は陰鬱な雰囲気の地下部屋から出で、食事の準備のために居間へと向かった。
そこで彼女は廊下で、微かに焼き立てパンのにおいがするのに気付いた。
そして、その予想は正しく、机の上には焼き立てのバゲットが、そして暖炉にはこの家の物ではないシチューポッド、そして、椅子の上には出かけていたはずのデアが座っていた。


「……もう帰っていたの?
というか、その食事は何?そんなおいしそうな物があるなら、別に先に食べてくれててもよかったのに。」


ニウはシチューポッドの中身を確認しながらデアに尋ねる。
どうやら中身は、ジャガイモやニンジン、鶏肉などをふんだんに使った《ミルクシチュー》のようであり、きれいに切られた野菜やデアが嫌いなニンジンが入っているあたり、明らかにデアが作ったものでないことが分かる。
ニアの答えに、デアは少し舟を漕ぎながらではあるが、ぼそぼそとした声で答えた。


「今日は、見回りの交代が早く来たから、早番だった。
そのパンとシチューは、帰る途中に、隊長の奥さんが差し入れを持ってきてくれた。
……ったく、研究の時、部屋を《アーティファクト》の鍵で施錠したうえで、さらに見張りまでつけるのをやめろよ。
お前は呼んでも全く反応しねえから、ここで待つ破目になっちまったじゃねえか。」


デアはその言葉を言うと見回りの疲れと眠さの限界が来たのか、座ったままいびきをかき始めてしまった。
ニウはその光景を見てクスリと笑い、パンに蚊帳をかけて、デアの体に毛布を掛ける。


「……おつかれさま。」


ニウは暖炉の薪を追加すると、デアの反対側に椅子に座った。
ニウは食事をとるのは、デアが起きてからにすると決めたのであった。

……結局、ニウも夜間ずっと巻物を書いていた疲労で、すぐに眠ってしまい、お互いが食事をとり始めたのは、パンを暖炉で再び温め直さなくてはならなくなっていたとだけ言っておこう。







★★★★★★★★★★

祭壇の刈り取り  (1)(黒)

インスタント

祭壇の刈り取りを唱えるための追加コストとして、クリーチャーを1体生け贄に捧げる。
カードを2枚引く。

「悪魔は我々の語る細かい部分や儀式を気にしておらぬ。 とにかく奴を殺せ。」
――グリセルブランドの下僕、ヴォルパグ僧正


★★★★★★★★★★



★★★★★★★★★★

不死の霊薬  (1)

アーティファクト

(2),(T):あなたは5点のライフを得る。不死の霊薬とあなたの墓地をオーナーのライブラリーに加えて切り直す。

「瓶詰めの生命だ。かつてほど美味ではないし、むしろ味気ないが、効果は変わらぬ。」――センギア男爵

★★★★★★★★★★





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

うむ、結構難産になりました。
どうも作者です。

もっと説明したかったり、詳しい解説を入れたいことが多かったですが、とりあえず今回はこのようになりました。
説明不足に感じられる所が多数あると思いますが、それは後々本編や別の番外編で明かしていきたいと思います。
……まあ、もしかしたら後程修正する可能性があります。

次回の更新は遅くなりそうですが、どうかご了承ください。

では、また次回!


《おまけ》

友C「おまえってゾンビ系好きなん?」

俺「いや、そんなことないけど、なんで?」

友C「だってお前
   遊戯王・アンデットシンクロ
   MTG・黒単ゾンビ
   ヴァンガ・グランブルー
   じゃん」

俺「oh」


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