多次元世界―それは様々な異なる世界が広がる空間。
そして、それらの世界は次元と呼ばれ、その世界独自の形態をしている。
ある次元では、火に覆われ、神話に出てくるかのようなドラゴンが飛び交う世界。
またある次元では、緑にあふれ、そこでエルフと人が穏やかに暮らしている。
またある次元では、神と人間と物の怪どもがもつれ合う世界などまさしく千差万別と言えよう。
……さて、今回舞台となる次元の名は、【イニストラード】。
恐ろしいほどに美しい銀色の月とそれに導かれた残虐な種族が数多く暮らすことが特徴の次元である。
ここに住む人々の多くは人間である。
が、ここに住む人々は日々、まるでB級ホラー映画に出てきそうな化け物たちの恐怖にさらされている。
夜の街には吸血鬼が人間の生き血を求めて歩き回り、山からは狼男の鳴き声が聞こえる。
隣人が怨霊に呪われて変質し、死者はグールとなり墓場を歩き回る。
心弱きものの所に悪魔が現れ彼らをたぶらかし、生贄を欲し、怪しき黒魔術を広げ、彼らが更なる悪しきものを生み出す術を覚える。
すべての人々は彼らの獲物と成り果て、常に闇夜を恐れて生活していた。
しかし、このような世界にも救いは訪れた。
天使『アヴァシン』率いるアヴァシン教会である。
彼らこそまさしくこの世界の真の宗教であり、協会の教える祈りは人々を守護し、その教えを受けた信徒たちは邪悪なるものを退ける。
アヴァシンの元に集いし天使たちは、その聖なる力を持って日々悪魔たちを封印している。
―――――そして現在、この世界では、日夜悪魔率いる闇の軍勢と天使率いる聖職者たちが日常の水面下で争っているのであった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
あるステンシアの山腹にその集団はいた。
馬車一つほどしかおおれなさそうな狭い山道に馬車が一つ。
さて、この世界において、馬車で旅をするのは危険行為である。
前述した通りこの世界には、様々な邪悪なる種族がいるので、夜に教会の加護の無い、町から離れた路上であると、まさしく彼らの格好に的になるのが眼に見えている。
特にここ、ステンシアは【イニストラード】の四つの州のうち最も教会の加護が薄いとも言われている地域。
そして、この山道は、日夜『マルコフ』一派の吸血鬼が見張っている。
さらに山道には、禿鷲、蝙蝠、はぐれ吸血鬼、そして他の巨大クリーチャーなどがいる。
ゆえに、ただの人間がこの道を通ろうとするのは強力な僧侶や傭兵を伴わねばならないであろう。
さて、馬車の方に視線を戻そう。
馬車には夜番として、馬車の前には焚火が一つに茶色の鎧が一つ。
焚火を囲う様に二人の人間が座っていた。
そのうち一人は、十代後半の男。その身には、少し汚れてはいるものの革と一部銀でできた鎧を身に付けていて、腰には剣がついている。首からはアヴァシン協会の首飾りがついていることから、彼がアヴァシン教の信徒だということが伺えるだろう。
「おい、起きろ。交替の時間だ」
……その声を聞いて、焚火の座るもう一人の方、その女性は起きた。
見た目の年齢は、20よりは若く、まあ、十代後半と言ったところであろうか?
その髪はほんのり茶色みがかった赤い色の髪であり、伸ばした部分を後ろで縛っている。
その容貌は異常と思えるほど美しく、おそらく街中を歩いていたのなら、男女問わず振り返ってしまうほどであろう。
今、この場は山道という路上であるが故、そのような人物がここにいるというのが違和感を覚える。
「ん、もうそんな時間か……」
件の女性は眠そうながらも目を覚まし、自分に掛けてあった毛布を外し、立ち上がる。
こちらの女性は、男性のと同じような、革と一部銀でできた鎧を着てはいて、腰にはこの世界では珍しい武器《刃のブーメラン》がついていた。
「大丈夫だった?何かに襲われなかった。」
「いや、一回何か怪しい人影が現れたが、あの鎧を見たら逃げて行ったよ。」
男の方がさっきから、微動だにしていないが威圧感を放って立っている『鎧』を指さして言った。
「お~。今回も《よっちゃん》おつかれ~」
女の方はそういって、鎧にゆるい口調で話しかける。
その言葉に対して、『鎧』は首だけこちらに向け軽く会釈するとまた小道の先の方を見て、『警戒』を続けた。
「相変わらず、変な名前だよな。その『鎧』。」
「《ヨーティアの兵》。略して《よっちゃん》。いい名前だと思うんだけどな~」
「いや、ぶっちゃけだせえ。
まあ、俺はこれから寝るから、夜明けまでの警戒頼むぞ。」
男の方はそう言うと、体に毛布を巻きつける。
その後男の方から、静かな寝息が出始めた頃らへんに女の方がぽつりと言った。
「働けど働けどなお我が暮らし楽にならざりってか。
よりにもよって、《マジック》の世界に転生とはなあ……。
せめて、日本にいたときの半分くらい生活が楽だったからなあ……。」
そう、この女性、前世は日本人であったのに、なぜか悪鬼悪霊はびこる世界へと生れてしまったあわれ人間であった。
【ネタ】MTG転生物 【TS転生物】 1-1 イニストラード編
彼、いや、ここでは彼女と言おう
では、なぜ彼女がこのようになってしまったかの概要を言おう。
彼女はその時は知らなかったが、日本で彼女が死の間際にしたことは、わかりやすく言うなら悪魔との契約。
さらに詳しく言うなら、いったん彼女を蘇生したのちに、『不老』の肉体を得る代わりに死後の魂をその契約した悪魔に譲渡するという物であった。
……まあ、もし現代日本において、彼女と悪魔との《不浄の契約》が成功していた場合どのようなことになるか、非常に気になるところだが、今回は割愛しておこう。
でだ。しかしながら今回の場合、問題が発生したのだ。
そう。悪魔がミスをしたのか、彼女の方が何か普通とは違ったからかはわからないが、彼女は蘇生しなかった。
その上この悪魔は、この地球という世界においてはまだそこまで力をふるえる能力を持っていなかったので、彼女をそのまま蘇生させるということはできなかったのだ。
その後、契約の失敗を恐れた悪魔は彼女に対して、代案となる契約をすることで契約の失敗をなかったことにしてほしいと交渉をした。
一方彼女は自分が死んだこととか、契約がどうなど、いっぱいいっぱいではあった。
しかし、なんとか多数の条件と引き換えにその要求を受け入れた。
彼女としては、この得体のしれない自称『悪魔』とやらがいうには、自分は死んでしまったが、今回は生まれ変わるのができるということは大まかに理解した。
そしてそれが異世界だとしても、ここで死んでしまうよりはましだと考えていたのである。
その契約内容を大まかに話すとこうなる。
《1、 甲(悪魔)は乙(彼女)に対し、新しい肉体を授ける。》
《2、 乙が新しい肉体の入る際、記憶を引き継ぐようにする。》
《3、 甲は乙に対して、魔導及び錬金術に関する知識を提供する。》
《4、 甲は乙の潜在能力を覚醒させる。》
《5、 甲は乙が新しい肉体に入ってから、ある程度人生を手助けする。》
《6、 乙は甲からの初めの契約を無効とする。》
まあ、これ以外も、肉体は若くて健康な物だとか、むやみに危害を加えないとかその他細かい条件がたくさんあったが、まあ、ここでは割愛しておこう。
ともあれ、彼女は前の肉体と契約ミスの事実を対価に、新しい肉体を手に入れた。
自分の知らない《魔導》という物に対しての一種の憧れの為か、彼女は第二の人生を別の世界で歩むということにOKしてしまったのである。
……彼女の最大の苦難は生まれ変わった世界が【イニストラード】という、魑魅魍魎はびこる世界であったことだろう。
場面を山中に戻す。
件の彼女は焚火を見ながらぽつりとつぶやいた。
「はあ、それにしてもせっかく《魔導》に知識を手に入れて生まれ変わったのに、それをおいそれと使っちゃいけない世界なんてなあ……。」
「またその話か。
そうはいうが、契約自体は間違っていないだろう?
それに俺がお前に授けた魔導の知識は、なかなかのものであると自負している。」
彼女の肩にのったネズミが彼女の声にこたえた。
このネズミは彼女の黒魔術によって召喚した『チフスネズミ』。
彼女はいつもこのネズミを、彼女と初めに契約した『悪魔』との交信の媒体として、よびだしているのである。
「だから、もっと生きるのが楽な世界にしてくれって私は言いたかったんだよ。
日常的に人が化け物に襲われているのに、それの敵対組織である教会にも狙われるって冗談にもなんねえよ。」
彼女が契約によって得た知識は、一言でいうなら『黒魔術』であった。
そして、この世界において、黒魔術の使用は教会によって禁止されている。
まあ、黒魔術で呼び出すクリーチャーの代表例が、ゾンビやグール、そして悪魔だと言えば禁止されるのも分かるという物だ。
さらに彼女の体内にある魔力が『黒』のマナとよばれる、『黒魔導』か、またはどんなマナでもよい魔術にしか使えない魔力であったことも追い打ちをかけている。
「そのせいで、わざわざ身を守るのにも、アーティファクト作るなんて二度手間をしなきゃなんなかったじゃねーか。
黒魔術なんて、家の中みたいな人目につかないところでしかできねーじゃん。」
彼女はそう悪態付きながら、自身の作った『鎧』《ヨーティアの兵》を指差した。
その後しばらく彼女は、ネズミに向かって悪態付いていたが、やがて落ち着いたのか、溜息を一つはいた。
「結局、前の人生並に楽に生きるには、まだまだ金が足りないってことか。
金もない。
時間もない。
性別も変えたいが、そのための魔術の知恵がない。
それらすべてを覆せるほどの金もないと来たもんだ。
あー、早く楽に生きたい。」
まあ、彼女の前世については深くは書かないが、結局彼女は生まれ変わっても、魔導の知識を手に入れてもそこまで大きく性格が変わることはなかった。
そして、彼女は魔導の知識を手に入れてからも、それを使うのは、権力欲や支配欲ではなく、ただ面白楽に生きたいという欲の為であった。
「ならもっと黒魔術を使って、俺に生贄をささげるがいい。
そろそろ、生贄がニワトリか、ネズミだけというのは飽きてきてね。」
ネズミが放ったその言葉に対して、彼女はでこピンという形で返答した。
★★★★★★★★★★
《ヨーティアの兵》 (3)
アーティファクト クリーチャー — 兵士
警戒
1/4
詩人は他の世界の物語の一節を夢見る。 工匠は他の次元のアーティファクトの青写真を夢見る。
★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★
《チフス鼠》 (黒)
クリーチャー — ネズミ(Rat)
接死(これが何らかのダメージをクリーチャーに与えた場合、それだけで破壊される。)
1/1
ヘイヴングルで捕まった人さらいには、二つの選択肢が与えられる。投獄されるか、鼠取りになるかだ。 賢い奴は牢屋に行く。
★★★★★★★★★★
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
あとがき
とりあえず、試験的に投稿してみました。
まあ、かなり前にやっていたMTGに最近復活したので、その記念に書いてみました。
そのため、MTGの知識が、かなりにわかレベルでいろいろ間違いがあるかもしれないのでそこのところご注意ください。
まあ、一応長編として描くつもりですが、多分更新は亀です。
感想やご意見がありましたら、どしどし気軽にお願いします。