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No.34620の一覧
[0] 【習作】とあるデビルサマナーの事件簿【憑依・メガテン世界観】[お揚げHOLIC](2012/08/19 14:38)
[1] プロローグ 日常の中の放浪。[お揚げHOLIC](2012/08/19 14:39)
[2] 一話 境界線の上に立つ者。[お揚げHOLIC](2012/08/15 17:23)
[3] 二話 悪魔がほほ笑む。[お揚げHOLIC](2012/08/15 19:32)
[4] 三話 業界裏話。[お揚げHOLIC](2012/08/19 15:19)
[5] 四話 始動[お揚げHOLIC](2012/08/22 16:00)
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[34620] 四話 始動
Name: お揚げHOLIC◆4ce8aeb4 ID:33e9f425 前を表示する
Date: 2012/08/22 16:00
まずどの勢力にも先駆けて事実を把握したのは、霊能関係者だった。
かれらの察知能力を舐めてはいけない。
予知・ESP・ダウジング・占いに始り、忍者や式による偵察まで。彼らの情報戦能力は想像を絶する。

暗く、薄ら寒い部屋。電気コードや冷却管、何に使うかも知れぬ装置に囲まれた場所があった。
東京の某所。そこには二人の男がおり、多数のモニターに囲まれた部屋でコーヒーを啜っていた。

コーヒカップをもち、全アルミ製の工業部品染みたテーブルに腰掛ける男はイライラしている。
既にコーヒーカップの中身は空で、呼び出されてから遅々として進まぬ話に痺れを切らしかけていた。

長い付き合いの故にこの沈黙に耐えていたが、何かの悪戯やからかいかと考え始め、そろそろ帰ってやろうかと考えていた矢先の事だ。

対面にすわる、ガリガリの男は話を切り出し始めた。チク、タクと時計の針が進む。

「なぁ知っているか?あの悪魔召喚プログラムの噂だ。」

「は?・・・、どう言う噂だ?正直、アレの噂の事なんぞ多すぎでわからん。何が言いたいんだお前は。」

「その様子だと・・・・まだ、知らんらしいな。
残念だ、俺はお前に・・・この信じ難い事実を告げねければならんのか。」

勿体をつけたように呟く男の声は、しかし震えていた。ゴクリと知らず唾をのむ。
独特の緊張感が場を支配した。男は、その緊張感から気をそらすように思考し始めた。この男の言いたいことって何だ?

・・・・"あの"悪魔召喚プログラムとはつまり、総合DDS機能を搭載した万能DDSの事だろう。
パソコンに明るくない霊能者やオカルティストでも扱えるように開発が続けられていたが、
開発者の話は業界の誰も知らないと言う曰くつきだ。
曰く、曰く、曰く。噂には事欠かさない。最初に言ったとおりだ。見当も付かない。

「・・・・最近通常ネットワークに出回り始めたらしい。
あるWebサイトにたどり着くことが出来たなら、誰でも、どんな人間でもダウンロード出来る。」

「なんだって?」

悪い冗談だった。
少なくとも、この手のジョークは万死に値する。下手に騙されたら自分の命が危ういのだ。
悪戯ではすまない。
もしも本気で言っていたのなら、相手の気が狂ったかもしくは、相手も誰かに騙されていると思った。
何より否定に値するだけの根拠が、男にはあった。

「ははっ、ジョークだろ?あれが正式販売されればどれだけの値が付くか。
・・・そんな叩き売りにも劣るような、愉快犯的な事をするわけが無いだろう。」

故に男は即座に否定した。
コーヒーカップを持った男は、いわゆるハッカーとよばれる人種だ。
ハッカーといえば、企業や政府のパソコンをクラックしたり悪質なウィルスを流布したりするイメージをもたれがちだ。
だが、それは実はハッカーとしての本質を捉えては居ない。

真のハッカーとは協調と譲り合いの、和の精神が何よりも尊ばれる人種だ。
何よりも効率と生産性を重視する彼らは、そうであるが故に作業の分担と情報の共有を戸惑わない。
自身の開発した革新的な発明を、惜しげもなく公開するのが真にハッカーの憧れとする所の、英雄像だ。
そしてだからこそ、その英雄的献身に対しては惜しみない全力の尊敬と賞賛でもって応える。

彼らは実利と名誉を最も追及する人種だ。だからこそ、男はそのような話を根も葉もない噂と断じたのだ。
いくらハッカーと言えど、霞を食って生きているわけではないから、必然的に金は必要だ。
生活資金や開発資金として、彼があの総合DDSの正式版を販売に乗り出すだろう事は、
ハッカー兼オカルティストと言う極度に先鋭化した特殊な人種の間では既に話として持ち上がっていたのである。

もちろんそれには賛否両論あったが、おそらく良心的な価格になるであろう事と、
あれだけの偉業に対しての正当な報酬であると男は考えていたため、男はそれには賛成派の人間だった。

「・・・・アレの開発者は極めて理性的且つ、合理的な人間だ。
開発に協力した際にメールのやり取りをしていたが、そんな事をする人間にはとても感じられなかった。
・・・・何かの間違いだろう。」

コーヒーカップの男は、しかしテーブルを挟んで座る男のこともまた信用に値すると思っていた。
だからこそ、一抹の不安をぬぐいきれなかったともいえる。


対面に座る男はズイとノートパソコンを見せる。
そこには巧妙な隠しサイトだったが、DDSの無料配布サイトが映っていた。

「何だコ────何!?」

コーヒーカップの男は驚愕した。
そこには信じられない光景があった。URLはそれが通常のサイトである事を示している。
つまり、これは一般回線だ。

「何だ、何処から発信されている!?リンク先のサーバーは!?どこの阿呆だ!?」

怒りとも焦りともつかない強烈な感情で頭が真っ白になる。
差し出されたノートパソコンをひったくる様に奪うと、コーヒーカップを投げ捨てすぐにキーボードを叩き始めた。

カチャンと割れて砕けるカップ。
その音をゴングとするかのように、めまぐるしく液晶画面に文字が流れ始めた。
勝って知ったら何とやら、予めインストールしてあったプログラムアナライザを起動すると、
機械語で直接プログラムに割り込み工作をかけ始めた。


・・・・・・・・・

・・・・・・・


ガチャガチャとキーボードを叩く音と、カチコチと響く時計の音。それにブゥゥンと唸る冷却器の振動がしばらく響いた。
冷蔵庫の中のように寒く、乾いた空気の中にあって、指先に全神経と体力を投入する男の顎から汗が滴り落ちる。

「クソッ!なんて防壁だ・・・・・!」

男は数学と文学的センスに優れた優秀なハッカーだった。だが、それでもまったくと言って良いほど歯が立たなかった。
プログラムにウィルスを流そうにも、プログラムの穴が見つからないのだ。
接続先を探そうとしても、ダミーの山でわからない。
しらみつぶしをしようとしても、刻一刻と変わっていくサーバー番号はこの国最高のスーパーコンピュータの処理でも、
きっと把握しきれないだろう。

男は数時間ボードを叩き続けた末に、諦め気味に、せめて防壁の穴を探る事にした。

だが、判明するのは絶望的な事実ばかりだ。サイトのプログラムソースを解析していくと性質の悪い事に、
一定の確率でこの世界中のリンクから無差別にアクセスを誘引してしまうプログラムが仕組まれている。
このシステム自体画期的な大発明だが、それよりも、これがもたらすであろう事態に血の気が引いた。

「────何で、こんな馬鹿なことを・・・・・。」

呟きは疲労と戦慄に震えている。
男が、その呟きに返した。

「それはわからん。だが現在あらゆる対サイバー措置が無効で、
お前が今やってわかったように、サーバーの位置さえわかってない。
それに同様のサイトが複数・・・いや大量に、世界各国のネット上にあるらしい。・・・・これは凄い事になるぞ。」

「何を他人事見たいに言っているんだ!これを作ったのは、一部分とはいえ俺たちなんだぞ!?」

「他人事じゃないさ。だが、ここまで来ると笑いたくもなる。みろ、このプログラムを。
俺たちがβ版であくせく改良に貢献してしまった結果がコレだ。疑うべきだった・・・・今思えば。」

額に手を当て、項垂れる男。よく見れば顔が黄色い。酒に逃げているようだ。今だって素面かどうか。
男がそれだけの重責にさらされている事を感じ取って、ひったくったパソコンを返すと男は追及を引き下げた。
ズシリと疲れた体を背もたれに傾けると、興奮から醒めた疲労感で眠気が襲ってくる。

「・・・誰でも、何時でも悪魔が召喚できる世界・・・。
どんな悪夢だそれは。それを、そんなものを俺たちが作っていたっていうのか・・・・。」

戦慄する男。だがそれは事実だった。
あまりにも利便性を求めるあまりの結果が出たと言う事である。
彼らは堤防として機能していた裏業界への敷居の高さをみずからぶち壊してしまったのだ。

「なんて事を・・・。まさか、あんたなのか・・・・?」

これからのDDSはもはや悪魔業界関連の専売特許ではなくなる。
事によってはCOMPを持った犯罪者が大量生産されることになる。
いや、それ以前に悪魔の手綱を握れずに逆に操られてしまうものや、
最悪の場合肉の袋となって人間社会への侵入の手引きをしてしまう者もいるだろう。

それは実に恐るべき事である。これからの数年間、人類の選択如何によっては恐るべき事になりかねない。
最悪の場合この世界に訪れるのは、正にアポカリプスでありハルマゲドンであり、ラグナロクとなるのだろう。

男は、電脳世界の彼方で怪人の哄笑を聞いた気がした。








────世界は今、軋みをあげながら新たな時代の幕開けを告げる。
────この先に見えるのは、人の世か悪魔の世か。










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とあるデビルサマナーの事件簿

(女神転生シリーズ二次創作)

四話 始動


[[[[[[[[[[[[[[[[[[[[[[[[[[[[[[[[[[[[[[[[[[[[










所で異界と言うのは一定以上の力を持つ悪魔が、人間界に自らの居城として作る巣や城のようなものである。
そうであるからして、異界を封じると言うのは基本的に城攻めである。
そのため通常はまず異界そのものの力を弱めてから事に当たるものなのだ。
攻城槌や投石でまず、石垣を崩す所から始めるようなものである。

しかし、この遠藤寺の法力僧の現空は奇妙な除霊現場に困惑していた。

「地脈がまったく弱っておりませんな。これを為したサマナーと言うのは一体・・・・。」

地脈の力・・・つまり大地を流れる地球の生態マグネタイトの流れを塞き止め、霊毒を撒いて地の力を弱める。
その上で結界を敷き、異界の外から法力で圧迫し徐々に兵糧攻めにしつつ攻撃して間引きする。
それでようやく除霊に入ると言うのが、この世界の異界封じの慣例だ。

そのために仏教連と陰陽寮は、内部へ突撃するサマナーやデビルバスターを支援する強力な体制を築いていた。
だからこその困惑と疑問だった。

普通、間違っても鬼武者よろしく単身城に討ち入るような真似はしないのである。この時代の人間は。
当然現空もまたそんな事は考えていない。

が、それくらいでないと説明が付かないのも確かだった。

「うむむ。まあ仕事は仕事。すぐに始めるとしますかな。」

とは言っても、楽な仕事だった。
普段が弱りきった土地の保護から始めるのに対して、この土地はむしろ正常なMAGに満ちていて活性化すらしている。
その力を借りればいいのだから、すぐに終わると言うもの。

「うむ、これでよし。」

四隅に塩を置き、独鈷を据えて香を焚き、読経を終えた現空は目を開いた。
ここまでで既に半日かかっているが、普段はもっとかかるのだ。
つくづく普通の除霊現場との落差に驚く。

これでこのような現場は最近で何件目だっただろうか。

「どのような秘術をお使いになられたのやら・・・・できる事なら、是非合間見えたいモノですな。」

現空はまだみぬ偉大な術者を思い浮かべた。
彼の想像上では、長く厳しい修行を経た、立派な仙人のような人物像が描かれる。
そのような者に師事し、さらなる高みを目指すことができるならば・・・さらに人々のため、仏の道を極める事が出来る。
現空は成長に行き詰まりを感じていたため、その手がかりとなりうる光明に仏の見えざる手を感じていた。

───だが事実は彼の想像の斜め上をいく。あらゆる意味で。

それを彼が知るのもそう遠い未来のことではないだろう。
そして、彼の常識がブレイクされて世にもう一人の極N-Nが誕生することになるのも、そう遠い未来の話ではない。







@@@@





で、現空がそんな間違った妄想を抱いている時、葵はまた仕事を請けに仲介所に居た。
夏休みももう終盤、残すところ後1週間あまり。稼ぎ時とばかり、さらなるハイスピードで葵は依頼をこなしている。
ただ、葵が依頼をこなすのと比例するように引っ切り無しに依頼が来るものだから、需要と供給のバランスは取れていた。

が、葵は嫌な顔をして文句を垂れる。
需要と供給のバランスが取れていると言うことは、神の見えざる手による価格調整が正常に働くと言うこと。

つまりは、こう言う事である。

「ええ~?最近依頼料しょっぱくなってきて無いか?オヤジ?」

「いい加減オヤジって言うのやめろよ・・・たくっ。ああ、そりゃ当たり前だ。
こうも霊障が立て続けに起こるものじゃあ、どうしたって誰だってな、財布の中身が寒くなってくるもんだ。
特にお国のサイフはそうだ。あいつらは霊障が起きたら、どうしたって無視だけは出来ないんだからなぁ。」

そう。最悪の場合、地主や建物の所有者の場合はそこを見てみぬ振りをして立ち入り禁止にするだけで話は済む。
だが国は違う。国民及び国家機構の安全保障上そういうわけには行かないのだ。

更に言うと、こうした仲介所で斡旋される仕事の何割かは宮内庁から受注されているもので、
報酬も宮内庁の機密特別予算から練りだされている。

一般にはこの国で一番生産的でない省庁であると思われている宮内庁だが、実際にはこの国で最も働き者だ。
なにせ古代より戦前、戦後から現代に至るまで戦いに闘い続けてきた組織である。
最近では主に戦後の焼け野原に生まれる怨念に対し、また近代では社会に潜む病巣から生じる物の怪に対して闘ってきた。

長い歴史の中を身を粉にして働き続けてきた彼らに、平和ボケと言う概念はない。

「む・・・そう言うことなら仕方ないか。」

葵は取り合えず納得した。
まぁよく考えれば並みの正社員よりもいい給料を貰っていて、これまでが過剰だったともいえる。
これからだってこのペースで依頼がくるなら(あるいは葵が報告して依頼になるなら)数を受ければ帳尻は取れる。

もともと無償でと言うか、趣味的に悪魔を狩って強くなる予定だった葵としてみれば大した事は無い。
報酬が貰えると知ったのは実は偶然だった。

「ふんふん・・・・。」

パラパラと捲られる、葵が来た当初と比べて大分薄くなった書類の束。
そこには奈良県南部~大阪府北部圏の除霊依頼が記載されている。
依頼の範囲が広域なのはこの依頼所が優秀な成績を収めていたがゆえである。

葵はその書類を捲って、一日で回れそうな線路・駅周辺の主要な人口密集地帯の依頼をピックアップしていく。

それはとりもなおさず緊急を要する除霊現場であり、且つ主要都市と違って依頼金が少なくなる地域である。

また人命が多くかかっているが故に責任も重く、その割りに旨みの少ない地域なので霊能者も忌避しがちな現場だ。
特に最近はそんなところにばかり異界が現れるため、
正直な所を言うとビビった霊能関係者諸氏により、仲介所ではそういう現場が溜まっていたのが、近頃の頭痛の種だった。


────実は遠藤市及び奈良県南部~大阪府北部に置ける中間規模の市町村は、軒並み重大な危険に晒されていた。
(そして実はネタバラシすると、全国規模で日和見が重大な危機を引き起こしかけていました。)


だが葵は、良い意味でも悪い意味でもそんな一般常識にはお構いなしである。

溜まっていた危険なお仕事も、葵にとっては普通に駅周辺の、交通に便利な職場である。
原作知識的にも効率の良い攻略チャートだった事だし言う事は無い。
やたらと溜まっている依頼が多いのも、計画を立てる上では少ないより余程次ごうが良かったのである。

「おし、じゃあ今日はコレとコレとコレあたりを、こなしてくるかな。オッサン、手続きお願い。」

「ああオイ、ちょっとまてまてまて。
お前、大丈夫なのか?昨日も一昨日もじゃなかったか?って言うかお前ちゃんと休んでるのか?」

本気で心配げな阿賀浦の視線に、キョトンとした顔で首を掲げる葵。
コテンと首を動かす動作は実に可憐で、騒いでいるのを遠巻きに見ていたものは密かに萌えた。

「夏休みだし、別にこのくらいは平気だけど?・・・・疲れはあるにはあるけれど。」

勉強するにしてもアルバイトをするにしても、運動部で一線で動いてきたものの体力と言うのは想像を絶する時がある。
その感覚が精神的に残っていて且つ、MAGで強化されて急激に発達を遂げている葵の体は実際疲れ知らずだ。

そもそも葵にとってしばらくはヌルゲーレベルの作業が続いていたものだから、疲れたといっても軽い疲れだ。
朝起きた時体が重いなぁ・・・と言ったレベルである。体が疲労を超えて成長を続けている今、問題は何も無かった。

「う、うむ・・・・。まぁなんだ、ちょっとでも疲れてるならそれは止めとけ。ちょっと頑張りすぎだ。
お前が無理してやらなくても、この市内に優秀な霊能者は沢山居るから安心しろ。な?」

優しい目で告げる阿賀浦。そこにぬっと射す影が一つ。振り向くと、其処には一人の青年が立っていた。
後ろから割り込んできたのは葵と同じく高校生くらいで、やたらイケメソ且つ爽やかな好青年だ。
同じ美形でもイロモノの葵と違って、スポーツ体型で髪型もパリッと決めた正統派タイプの憎いあんちゃんであった。

「ああ、阿賀浦のオッサンの言うとおりだ。。ここ最近の連続霊能テロに心を痛めているのは君だけじゃない。
俺たちだって町の皆を守りたいと思っているんだ。
確かに俺らはちょっとふがいなかったが、君だけが頑張ることも無い。ここからは俺たちの事も頼ってくれよな!」

腕まくりをしながら、さらっと臭いことを言いながらもそれが鼻に付かない自然さと華やかさ。
葵は内心このイケメソに第一種外敵判定を下した。別に女に飢えているわけでもないが、それとこれとは別問題である。
心の中で黒い笑みを浮かべて、殴ッ血KILL!と決意した葵。

・・・・そんな度胸は間違っても無いので、思うだけだが。

「そうよねぇ、君があんまり健気に頑張るものだから、お姉さん達も目が覚めちゃったわ。
子供がこんなに頑張ってるのに、大人がコレじゃあダメダメよね。」

今度は隣から、20代後半程と見られる女性が。同調した。
まったく自然な登場で気付かなかったが、この女との接点なんてまず無かった筈。

「本官も同意ですなぁ。まったく、デビルバスターなんて最近はちょっとした副業程度の意識になってて、
初志を忘れちまってたわ。旨みのある副収入なんかじゃなくて、民間人を悪魔から護るために始めた筈だったのにな。」

さらに後ろの麻雀卓からは、いつもヘラヘラとした笑顔を張り付かせていた警官がキリッとした顔をしてこっちを見る。
周りを見渡せば、大なり小なり彼らは同じ意見らしい。なんというか、皆優しい目?をしている。

(なんなんだ一体・・・・?)

葵は、そこでハッとした。
もしや、自分は仕事を取りすぎて他のサマナーやデビルバスターの仕事を奪ってしまっていたのではないだろうかと。
業界では新人の自分だからこそ大目に見られていたが、
実際は恥知らずな行為だったのではないだろうか・・・と気付いたのだ。

もちろん誤解もいい所だった。

「────あ、ああ。う、うん。ありがとぅ・・・・じゃ、じゃあ、その・・・そうさせてもらおうかな?」

仲介所から送られる極めて優しげな視線に、葵は極めて恥ずかしげに答えた。
別にそうと決まったわけではないが、優しく常識を諭されたようで葵はこの時酷い羞恥心を煽られていた。

後で誤解は解けるのだが再び、これは親睦会的な何かだったと二重の勘違いをしてしまうのはご愛嬌と言うもの。
なにせ心当たりが無いのだから正解にたどり着ける筈も無く。

それでも挙動不審に応えてしまったのだが、それが照れたような可愛らしい仕草に見えるのだから美形は得である。

ぶっちゃけ羞恥でちっちゃくなってもじもじしている姿は、
普段の男勝りの仕草をしていた葵(当然です)に慣れていた仲介所の所属員を虜にした。
実に可愛らしかった、とだけ言っておこう。


そしてCOMPの中ではピクシー達がその愛くるしさに悶え苦しみ、謎の感情の芽生えに困惑していた。




@@@@




「────あ、ああ。う、うん。ありがとぅ・・・・じゃ、じゃあ、その・・・そうさせてもらおうかな?」

気恥ずかしそうに、それでいて何が何だか解らないと言うふうにちっちゃくなってしまったアオイは、
有体に言って可愛かった。

普段が普段と言うか、毅然としていて無愛想で硬い印象があった葵だが、
それは硬い覚悟の故だと知った彼らはもはやそのような偏見に囚われてはいなかった。

「おう!まかせてくれよ!この町の平和が俺たちが護るぜ!」

例のイケメソ君を筆頭に、仲介所の所属員が思い思いに声を上げる。
阿賀浦はスレたりヒネたりしている厄介なここの連中が、ここまで素直に前向きになれた事に驚愕する。
ある意味、そういう根性の曲がった連中を宥めすかすのも阿賀浦の重要な仕事であっただけにその驚きも一塩。

特に、中心になっている高校生の青年なんかその爽やかな笑顔の裏にどす黒い心の闇を抱えていたものだ。
家庭環境とか、まぁ世の中にはありふれていると言えばそうなのだが、そんなのは慰めにもならない。

(これが、人徳って奴なのか・・・?)

仲介所が謎の盛り上がりを見せる中、阿賀浦はある意味仕掛け人である杭橋に目を向ける。
視線を向けられた事に気付いた杭橋は、雀荘の隅で、気取った態度でクイと探偵帽子を上げた。
阿賀浦はケッと内心思ったが、今この時だけは正直な賞賛として親指を立てた。

そうして、ちょっと良い感じの気分に浸っている時、阿賀浦はもみくちゃにされていた葵が近づいてくるのに気付く。
少し髪の乱れた葵は、やはりこういう無条件な好意に慣れていないのか顔が赤い。

────好意に慣れていない。人付き合いが極めて苦手。
それが誰にも報われない戦いを続けてきたが故のことだと知った今では、
どうしてもっと早く彼女の本質に気付いてやれなかったのかと、阿賀浦には深い後悔の念が湧いた。

まぁそれはともかく、何のようかと尋ねると葵は阿賀浦にだけ聞こえるようにそっと囁いた。

「あ、じゃあその・・・俺が今、請けても問題なさそうな仕事ってあるかな?」

阿賀浦は呆れた。

アオイは結構ワーカホリックだったらしい。





@@@@



────昨日の事である。

仲介所がこのような謎のフレンドリー感に満ち溢れ、且つアオイの羞恥心を煽りまくった事件はこうして起こった。

その裏舞台の話である。





・・・・・・・・・・

・・・・・・・





夜も更けて、黄ばんだ壁紙の古びた部屋には、咥えパイプからプカプカと浮かぶ安物の煙が充満していた。

「ここと、ここと、この辺ですなぁ・・・・。」

フリージャーナリストである杭橋は、事務所の壁にかけた地図に向かうと、ピンを一本づつ刺してゆく。
そうすると、少しづつ形になって見えてくるモノがあるのだ・・・・たまに。

(古典的な手段こそ、実は確実な手段なんですよね。)

そうして葵の動向を追っていた杭橋は、すぐに葵の依頼の選択傾向について一定の法則があることに気付いた。
プスプスとピンを刺していきながら考える。

「これは・・・人口が過密と言うわけでもなく、都市と言うわけでも田舎と言うわけでもない。
随分中途半端な地域ばっかりですなぁ。」

地図を眺めながら、杭橋は思った。
こんな所の依頼は大抵、旨みが少なく土地の価値も低いため捨て値で依頼が出ている所だらけだ。
こちとら命懸けの商売である、そんな依頼を好き好んでやる奴は少ない。
なので、こういう地域の依頼は人死にが出るか出ないかのギリギリまでほおって置かれるのが常だった。

そもそも、大抵の依頼の値段や難易度と言うのは土地の価値で決まるものだ。

都市や大都市なら、土地の価値も高く経済に与える影響上どうしても国の優先順位も高くなる。
企業や個人にとっても重要だし、金をたんまり持っている奴が多く集まるのも当然ここだ。
それで、悪魔の強さや難易度に関わらず依頼料は高めに設定されている傾向がある。

もちろん、それだけの重大な依頼である。失敗して市民や経済に打撃を与えた場合処罰もありうるリスキーな依頼だ。
実力のある霊能者は結構こういうタイプの仕事を好む。

逆に、田舎だと本気の捨て値で国から依頼が出ている場合が殆どだ。
そもそも人の少ないところでは大規模な異界が発生し難い。要するに弱い悪魔が多い。
その上土地や周りにある程度被害を出しても許容される(市民の障害や死亡は許されないが)ので、
実力が低くともやりようがある。
初心者や、弟子の育成に好まれるのは此方だ。難易度は低めだ。

(ただし、大昔に封印された悪魔が蘇っていたりするのも大抵田舎なので注意が必要である。)

そしてその両方の悪い所を総取りしたような土地が、さっき言ったような中途半端な住宅地みたいな所である。
宮内庁にとっては経済を優先せざるを得ないので後回しにされて料金は低くなる。
民間の除霊依頼は当然土地の価値からして、がくッと低くなる。

それでいて、民間に対する被害のリスクだけは大きいし、中途半端に強力な悪魔が多いので敬遠されるのだ。
まさに悪循環。

「ふーむ。わざわざ、こういう依頼ばっかり受けてらっしゃるのは何ででしょうね?」

基本的に個人主義のデビルバスターやデビルサマナーが考えもしない疑問である。
誰がどんな理由でどのような依頼を受けようと無関心。それが基本的な裏関係者の姿勢であった。
その意味でも、杭橋は異端と言えるだろう。

「それにしても、ここ最近の異界発生率は異常ですなぁ・・・・。
それも示し合わせたようにこんな中間地帯ばかりに・・・・。」

その時、杭橋に電流が走る。
そうだ。なざ、中間層にばかり異界が発生するのか。これが人為的な現象であることは解っている。
ただ、目的がテロにしろMAGの収奪にしろ蟲毒の呪にしろ、言える事は、一つある。

「事の発覚が怖いならド田舎にするし、即効性が欲しいなら都市部に仕掛ける筈。
何でこんな、中途半端な効率の悪い所ばかりなんだ?」

杭橋はここ最近の特に"中間層"の悪魔関連の事件を、今度は日本地図規模でピンに刺して視覚化し始めた。
未解決であり、且つ大して大きくもならないため放置されている依頼を、DDS-NETで調べ上げる。
それも最近と言っても、10~15年前まで遡ってである。

────事は、一地方に留まらない可能性があった。

「ホイ、ホイ、ほいっとな。」

ぷすぷすとリズミカルにピンを消費していく。努めて、楽観的にものを考えるように杭橋は努力した。
そうしていないと事の重大さに手が震えそうだったからだ。

しばらくすると、凡その未解決の中間地帯の異界の位置が判明した。

そこに浮かび上がってくるのはありがちな魔方陣みたいな図形ではない。
しかし、本州全域にわたり刻まれた紅いピンの描く線は、確かに人為的な図形を描いている。

それはさながらナスカの地上絵の如く、そしてそれよりもより緻密で巨大に。

「これは・・・文字?梵字のような、アラビア文字のような・・・・。」

見たことも無い文字だが、ピンの刺し位置をなぞると謎の文字のような物が浮かび上がった。
それは既存の知識に無いからといって言い訳の出来る余地を残さない程に、精密に描かれた"文字"であり"文章"だった。
見ていて気分の悪くなるその造詣は、魔界の深部のものかも知れない。

そして、最近富に多くなっていた大阪北部~奈良県南部の中間地帯での事件は、なんとその最後の一筆である。
最新の事件であるここら一帯の事件が、明らかに文字の最後の部分である。

「な、なんて事・・・これは酷い!スクープなんてものじゃァ無いっ!すぐに宮内庁に連絡しないとっ!」

ぶわっと嫌な汗が出た。
杭橋はすぐに駆け足で受話器を取ると、仲介所を超えヤタガラスを超えその頂点である宮内庁に直接連絡を取る。
本来なら常識知らずもいい所なのだが、今回はそれだけの重大な案件だと判断したし、それは杭橋の予想道理受理された。


・・・・・・・

・・・・・


それから早口でまくしたてた杭橋は、遂に事の次第を説明しきり、宮内庁の方針を聞かされる。
それは杭橋の口から直ちに、関西内陸地方担当仲介所──通称"クエビコ"に報告する義務として与えられた情報だった。

そして当然、それにどのような意義があろうとも相手は文字通り雲の上の方々である。
それは許される事ではない。

杭橋は震える手で受話器を置くと、怒りに満ちた声を上げた。

「宮内庁は、東京大阪主要都市周辺の、魔文字の破壊に専念する・・・だぁ!?
クエビコには優秀なデビルサマナーがいるだろうって、なんてぇ言い草だ!?」

宮内庁の決定ではこの発見と報告を大功績として杭橋を評価すると同時、
事の発覚に至った遠因である優秀なサマナーと最大限の連携を取りつつ、魔文字の完成を阻止せよと言うものだった。

つまり、最悪首都圏及び主要工業地帯を防衛できればそれでいい。そういう事だ。
いや、それは悪意のある取り方だろう。
つまりは陰謀の阻止を狙いながらも、最低でも国家の存続する余地を残そうとする巨人の視点の話だから、
下っ端根性の染み付いた杭橋などには仁義にもとる行為に見えてしまうのだ。

それは杭橋も解っている。
だが、一人の増援も寄越さないとはどういう事か。

ヤタガラスは全力を挙げて大阪市近郊の異界除去にあたり、クズノハは総力を持って帝都周辺の異界除去をまず開始。
仏教連及び陰陽寮、日本キリスト教会はこれをサポート。魔文字の破壊に尽力する。
そこから順次本州全土の魔文字の除去に移る。

それはいい。
だが魔文字最後の一角である、おそらく最も危険が予想されるこの地方に一人の増援も無く、
むしろ引き上げさせるとは何たる事。

「アオイちゃんは・・・・コイツと、コイツらとずっと戦っていたっていうのか!?」

アオイと呼ばれた少女はふらりと仲介所に現れて、それから狂ったように仕事に打ち込んだ。
思えば、アオイが異界を大量に消し去り始めてからだ。中間層の異界が大量発生していたのは。
そう、今考えればあれは、敵の魔文字の一角を作られた端から消し去っていたのだ。

そして、相手は消される端から異界を量産させる事で対応しようとしたのだ。
それはそうだ。あと一歩、あと一歩と言う所で10年越しの計画が発動できないのだ。
それで、ここまで隠れ忍び続けた奴等がボロを出したと言う事。

何処でこの情報を掴んだのかは知らない。何故宮内庁に報告しなかったのかもわからない。
あるいは、出来なかったのじゃぁないかと思うものの、その理由などまではわからない。

だが、一人で・・・仲魔とともにとは言えたった一人で孤独な戦いを続けていたのだ。

わが身を省みず、ひと時も休まず、牙無き人々のためにただただ・・・・!
それを見て見ぬふりなど、出来るはずもなし。
お上が彼女をどう認識しているのかはともかく、今度は自分たちが彼女を助ける番なのだ。
国が彼女を使いつぶすつもりなら、下っ端が守ってやらないといけないのだ。

「のんきな事、言ってる場合じゃねぇやね。こりゃあきばらんとな!」

杭橋は、ジャーナリスト魂よりもまず、人としての義憤にかられて市内のクエビコ所属員(アオイ以外)を呼び出した。
全員雀荘に来るように第一種緊急回線で告げると、自身もペルソナを発動しながら屋根伝いに雀荘に走った。

夜が白み始めた頃あいだったが、第一種緊急回線の重要性を知らない所属員はクエビコには居ない。
(と思われがちだが一人、全く理解していない奴が居ます。誰かはお分かりでしょう。)

杭橋は雀荘のドアを強く叩くと、ペルソナ能力の発動中で強化された体がドアをミシリと軋ませた。

「オッサン!オッサン!起きろ!俺だ、杭橋だ!」

阿賀浦は第一種緊急回線でたたき起こされ、こう尋常でない杭橋の声を聞いていよいよ脳を覚醒させた。
既に足の速い連中はぞくぞくと集まり始めている。
これは槍が降るか核ミサイルが降るか。阿賀浦の脳裏には様々な緊急の事態の予想が巡る。

「杭橋!宮内庁の名前まで出すとは、本気でヤバイ事態のようだな!説明してもらうか。」

阿賀浦は低い声で、杭橋に問うた。





・・・・・・・・

・・・・・




─────これが、彼らのひと夏の戦いの始まりであり、
謎の美少女サマナーアオイと言う虚像が完全に一人歩きし始めた発端であった。

杭橋が使っていた地図がもしも、路線図であったなら気付いただろう。
葵は単に駅で回れる範囲を虱潰しにしてMAG稼ぎと仲魔狩りをしていただけだと。

だが運命の悪戯が、彼に路線図の無い地図を用意させ、
さらにはこの日本を滅ぼそうとする巨大な陰謀に気付かせた。


ここからの謎の美少女サマナーアオイの行く末は、誰もまるで知る事は無い。






乞うご期待!






おまけ



・宮内庁

全国の対悪魔・対霊能犯罪・対超常現象組織を統括する、日本の裏業界の一番偉い人たちの集まり。
宮内庁の傘下の組織として代表的なのは、クズノハ・ヤタガラス・陰陽領・仏教連・日本基督教会など。
人、物、金の流れに気を付けないと直ぐに日本は没落してしまうため、人情と効率の板挟みに苦しんでいる。

アオイの事はたまに現れる転生体あたりだろうと予想している。
どちらにせよ、使い潰しても問題なさそうな人材であるため優先的に依頼を回す予定。
連日デスマーチを続ける彼らにとっては死なばもろともと言った感覚である。

多少ピントはずれているが、実は彼らがアオイについて一番正確な認識を持った組織だったりする。
ていうか、戸籍謄本とか普通に見れるし。



・連続霊能テロ事件

アオイが連日、いわゆる業界用語で"中間地帯"と呼ぶ中途半端な地域で乱獲を行ったことで判明した。
現在は魔文字事件として、宮内庁が全力で対策にあたっている。
日本の諜報組織から10年以上秘匿し続けた大計画が水の泡であり、犯人涙目。

発覚した時点でクズノハライドウやハットリハンゾウなど、
名だたるサマナーやデビルバスターが動き始めているため、もうどうにもならないだろう。


・謎の美少女サマナーアオイ

謎の犯罪組織(規模から個人による犯行とは考えにくい)と日夜孤独な戦いを続けていたダークヒーロー的扱い。
宮内庁上層部は激しい疑問を呈しているものの、下々の噂にかかずらわる事もないと放置した結果こうなった。
現在全国から海外まで噂は拡散を始めており、手が付けられない。

意外と神話に遺った英雄たちの話も、こんな感じで定着したのかもしれない。
魔文字事件と深いかかわりがあった事から、現代の伝説となりつつある。

実は裏の世界のさるお祭りで、薄い本が既に出回っている。


・魔文字事件

国土そのものを呪符として何らかの呪術を行おうとした、近代最悪規模の大霊能事件。
謎の美少女サマナーアオイの足取りが現れ始めた事件でもある、記念碑的事件。

犯人はそのうち、ライドウやハンゾウに半殺しにされて命からがら逃げてきたところを、
アオイに無自覚に止めを刺される。
ネタバレになるが、実際それくらい犯人の命や動機には価値がない。読者に名前すら覚えられることはないだろう。



あとがき

コメント返しはちょっとまた待ってくださいね。
ネット環境が酷くてネカフェで投下してますんで。

感想どうもありがとうございます。
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