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No.34559の一覧
[0] ゼロの出来損ない[二葉s](2012/08/13 02:16)
[1] プロローグA エンチラーダの朝[二葉s](2012/08/13 22:46)
[2] プロローグB テオの朝[二葉s](2012/08/13 22:47)
[3] 1テオとエンチラーダとメイド[二葉s](2012/08/12 23:21)
[4] 2テオとキュルケ[二葉s](2012/08/13 02:03)
[5]  おまけ テオとタバサと占い[二葉s](2012/08/13 23:20)
[6] 3テオとエンチラーダと厨房[二葉s](2012/11/24 22:58)
[7] 4テオとルイズ[二葉s](2012/11/24 23:23)
[8]  おまけ テオとロケット[二葉s](2012/11/24 23:24)
[9] 5テオと使い魔[二葉s](2012/11/25 00:05)
[10] 6エルザとエンチラーダ [二葉s](2012/11/25 00:08)
[11] 7エルザとテオ[二葉s](2012/11/25 00:10)
[12] 8テオと薬[二葉s](2012/11/25 00:48)
[13] 9エルザと吸血鬼1[二葉s](2012/11/25 00:50)
[14] 10エルザと吸血鬼2[二葉s](2012/11/25 01:29)
[15] 11エルザと吸血鬼3[二葉s](2012/12/20 18:46)
[16]  おまけ エルザとピクニック ※注[二葉s](2012/11/25 01:51)
[17] 12 テオとデルフ[二葉s](2012/12/26 02:29)
[18] 13 テオとゴーレム[二葉s](2012/12/26 02:30)
[19] 14 テオと盗賊1[二葉s](2012/12/26 02:34)
[20] 15 テオと盗賊2[二葉s](2012/12/26 02:35)
[21] 16 テオと盗賊3[二葉s](2012/12/26 02:35)
[22]  おまけ テオと本[二葉s](2013/01/09 00:10)
[23] 17 テオと王女[二葉s](2013/01/09 00:10)
[24] 18 テオと旅路[二葉s](2013/02/26 23:52)
[25] 19 テオとサイトと惨めな気持[二葉s](2013/01/09 00:14)
[26] 20 テオと裏切り者[二葉s](2013/01/09 00:23)
[28] 21 テオと進む先[二葉s](2013/02/27 00:12)
[29]  おまけ テオと余暇[二葉s](2013/02/27 00:29)
[30] 22 テオとブリーシンガメル[二葉s](2013/02/27 00:12)
[31] 23 テオと救出者[二葉s](2013/02/27 00:18)
[32] 24 サイトとテオと捨てるもの[二葉s](2013/02/27 00:27)
[33] 25 テオとルイズ1[二葉s](2013/02/27 00:58)
[34] 26 テオとルイズ2[二葉s](2013/02/27 00:54)
[35] 27 テオとルイズ3[二葉s](2013/02/27 00:56)
[36] 28 テオとルイーズ.[二葉s](2013/03/22 22:39)
[37] 29 テオとルイーズとサイト[二葉s](2013/03/24 00:10)
[38] 30 テオとルイーズと獅子牙花.[二葉s](2013/03/25 15:13)
[39] 31 テオとアンリエッタと竜巻[二葉s](2013/03/31 00:39)
[40] 32 テオとルイズと妖精亭[二葉s](2013/09/30 23:46)
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[34559] 21 テオと進む先
Name: 二葉s◆170c08f2 ID:dba853ce 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/02/27 00:12
進む。

 生き物は進み続けます。

 人は、生物は、生命は。この世に誕生し、今日に到るまで進み続けています。
 進化、発展、繁栄。
 今日の我々があるのは、過去に我々の元となる生き物たちが進み続けた結果なのです。
 生命は決して進むことをやめません。
 一部の魚類が常に泳ぎ、止まると呼吸が出来ず死んでしまうように。
 生き物が進むことを止めた時、それはその種の滅亡を意味するのです。

 しかし、生き物の進む道は常に正しいとは限りません。
 時に、生き物は間違った方向に進んでしまうことがあります。
 その結果、場合によってはその未来そのものをなくしてしまうことすらあるでしょう。
 なにせ、今日に至るまでこの世界にいた沢山の生物が絶滅し姿を消して居るのですから。
 
 別にそれは種族規模における事ばかりではありません。
 ミクロな視点。
 例えば、日々の生活にも言えることなのです。
 
 行動を起こした結果大きな失敗をしたというような経験は持たない人間の方が少ないでしょう。
 あらゆる行為、行動には失敗のリスクが存在するのです。
 
 進むという行為の結果。果たしてその行く末が後悔するものなのかどうか、其れは進んでみるその瞬間までわからないのです。
 しかし、それでも人は進み続けます。
 たとえ自分の行く道が、後悔につながったとしても、人生は立ち止まること無く進み続けるのです。
 

 そして今、テオ達もまた進んでいました。
 サイトたちが居るであろう、アルビオン大陸へと。
 
 

 そしてその進んだ道の途中にして。
 テオの心のなかは。すでに後悔でいっぱいでした。




 
 なぜ、あの時、自分はサイトをアルビオンに行かせたのか。
 なぜ、自分もついていかなかったのか。
 なぜ、自分は目先の楽しみを優先して、先の事を考えなかったのか。

 その後悔はサイトの事を心配したが故の物では断じてありませんでした。
 
 テオはサイトがどうなろうと構わないと本当に思っているのです。
 其れこそ、アルビオンで死んでしまっても全く構わないと思っています。
 いえ、それどころか、テオは恐らくサイトはアルビオンで死ぬのだろうと思っていました。
 
 今のサイトの実力と装備では、ワルドに打ち勝つことは出来はしない。で、あれば、十中八九ワルドに無残に殺されるのだろうと
 しかし、別に其れは構いはしない。むしろ、嫌いな人間がこの世の中から一人消えるのだから、むしろ喜ばしいことだと。
 本気でそう思っていたのです。
 
 ではなぜテオがこんなにも、後悔しているか。
 一つの理由は任務でした。
 
 テオは、別にこの任務を、さして重要視はしていません。

 しかし、テオは女王に対して、自分に任せろと大見得を切っているのです。
 たとえどんな内容の任務であろうと、やるといったからにはやり遂げる。
 其れはテオの主義でしたし、絶対のルールだったのです。

 なのにテオは其れを一時忘れ、目の前のメイジと戦うことを優先してしまいました。
 これが、そこいらの傭兵メイジであれば、テオも任務を忘れ戦おうなどとは思わなかったでしょう。
 
 しかし、テオは知っていたのです。
 あの謎のメイジの正体。
 それが、魔法騎士隊隊長のワルドの偏在であることを。
 
 ワルドと言うトリステイン有数の実力者との戦闘。
 それは一時的に使命を忘れさせるには十分に魅力的なものでした。
 
 純粋に戦いたかったと言うこともありましたが、
 其れ以上にテオは知りたかったのです。
 
 ワルドの実力を。
 トリステイン魔法騎士隊の実力を。
 トリステインと言う国の実力を。
 そして、自分がそれにどれほど対抗できるのか、知りたかったのです。
 
 今もワルドと戦った事自体は後悔していません。
 彼の実力を知ることは、テオにとってとても有意義なものだったからです。
 
 しかし、それのために任務が達成できなくなるのはテオの本意ではありません。
 任務の失敗はテオの恐れるところでしたし、テオにはそれ以上に恐ろしいことが一つありました。


 それは、
 竜でアルビオンに行く事でした。
 
 
「揺れる!揺れる!アホか!もっと揺れないように飛ばんか!」
 タバサの使い魔、竜のシルフィードに掴まりながら、テオが叫びます。
 
「なによ、テオが急げって言うからめいいっぱいに飛ばしてるんじゃないの。揺れるのが嫌ならゆっくり行くけど?」
 キュルケが呆れた顔で言いました。
「それは駄目だ!!!素早くかつ無振動で飛べ!」
「無理」
 タバサはテオの無茶な要求をにべもなく却下しました。

 テオはガタガタと震えました。
 もし、あの時、テオがサイトやルイズと共にアルビオンに向かっていれば、もう少し快適な船での旅ができたことでしょう。
 しかし船はサイト達を乗せてすでに出発していますし、アルビオンへ向かう船は他にはありません。
 テオに残された選択肢は、嫌いな嫌いな竜による空旅だけだったのです。
 
 ふるえる体を押さえつけながら、テオは猛烈に後悔して居ました。
 テオの進んだ道は、テオに取って修羅の道にほかならなかったのです。
 
「くそう!ならばせめてできるだけ速く移動するようにしろよ。間に合わなければ本末転倒だ!どうせあの坊主は死にくさるだろうが、それでは任務が達成できなくなる!」
「まったく、ほんと、ルイズ達が心配なら正直にそういえば良いのに」

「違うわい!吾がアイツらの心配なんぞするか!」
「はいはい、わかってるわよ、任務の為ですよね、任務のため」
 キュルケがニヤニヤと笑いました。
 
「違うぞ!本当に違うからな!?心配なんぞしとらんからな」
「はいはい」

 そう言って他のメンバーも一同ニヤニヤと笑うのでした。

 事実、テオはサイトのことなど、一切の心配をしていなかったのですが。周りの人間はそれを信じることはありませんでした。



◇◆◇◆◇◆◇

 
 さて、テオ達はアルビオンに到着したのですが、すでにアルビオンでは革命劇が終盤へと差し掛かっていました。
 レコンキスタは今まさにアルビオンの中心であるニューカッスル城に攻め込もうとしています。
 
 その緊張した状況の中で、ルイズ達が居るであろうニューカッスルに潜入することは到底不可能に思われましたが、自体は思いの外あっさりと進行しました。
 
 ギーシュの使い魔であるジャイアントモールのヴェルダンデが、地下からの侵入を可能にしたのです。
 さらに都合の良いことに、ヴェルダンデはルイズが持っていた水のルビーの匂いを覚えていました。
 
 犬が遠く離れた食べ物を見つけるが如く、ジャイアントモールは遠くにある宝石を見つけることができます。
 
 かくして、一同はジャイアントモールを先頭に、地面の中からルイズたちのいる場所へと向かうのでした。
 
 
 そして。
 
 ジャイアントモールが掘り進んだ穴から光が見えました。
 穴が何処かへと通じたようです。
 テオが穴から出て初めて見た光景。
 それは、倒れたサイトと、それを前にうろたえる一人の少女でした。
 
 その場にその2人以外の影は無く。
 光景から推測される激しい戦いもすでに終わっているようです。

 倒れているサイトと、生きているルイズ。
 もし、此処で行われた戦闘の勝敗が、サイトの負けであればルイズが生きて彼に縋っているはずはありません。
 
 となれば、敵は追い払ったか、あるいは情けを掛けられたか。
 
 兎にも角にも
「息は有るのか」
 誰にも聞こえないような小さな声でテオはそう呟きました。
 そう。
 サイトは生きていました。
 これには少しばかりテオは驚きます。
 てっきりテオはサイトが死んでしまうと思っていました。
 少なくとも、今のサイトの実力では昨晩テオが倒したメイジに勝つことは出来ないと考えていたのです。

「まあ、死にかけだがな」
 見るからに満身創痍。それこそこのまま放っておけば死んでしまいそうなサイトの様子を見てテオはそう言いました。
 その言葉に、ルイズがテオの存在に気づきます。
 
「サイトが!サイトが!」
 混乱した様子でルイズが叫びながら、テオ達に駆け寄って来ました。
 穴から出て、その光景を見たほかのメンバーたちもルイズ同様に混乱し騒ぎ始めます。

「まあ虫の息だなあ」
 一方でテオはまるで今日の天気を言うかのように、さも普通にその状況を語りました。

「テオ!薬!薬!!!!」
 ルイズがテオに掴み掛かりながらそう叫びます。
「煩いな、だから吾はこの男の事が嫌いだから…」
 いつぞやのようにテオが言おうとすると、
「良いからサッサと出しなさい!持ってるんでしょ!!」
 今までに無い剣幕でルイズが叫びました。

 そのあまりの剣幕に、テオも渋々と言った様子で懐から一本の小さな瓶を取り出しました。
「まあ、確かに万が一に備えて超強力飲み薬を持ってきては居るのだが…まあこれはちょっと…」
 ルイズはひったくるようにしてそれを奪うと、間髪入れずにそれをサイトに飲ませました。

「ああ・・・説明も聞かずに飲ませおって、知らんぞ、吾は」
 顔を歪めながらテオが言いました。
 その思わせぶりなテオの言葉に、キュルケが不安そうに声をかけます。

「なに?副作用でもあるの?」
「いや副作用も何もない、
 山奥で1000年に一度だけ咲く花をかき集め煎じて魔法をかけた薬だ。
 どんな病でもたちどころに治し。どんな悩みでもすぐにけし飛ばす。
 問題ない」
 そう言いながらもテオは眉間にシワをよせています。それは勝手に薬を使われて不機嫌と言うわけではなく、それ以外の理由があるような表情でした。
 
「副作用が無いのならば、何が問題なの………?」
 副作用は無いと言いつつも、顔を歪めるテオに、言い知れぬ不安を感じながらキュルケは尋ねます。

 その時でした。

「ぎゃああああああ!!!」
 突然、意識を失っていたサイトが喉を抑えながら悶え始めます。

「何!?一体なんなの!?」
 突然悶えだしたサイトにルイズはパニックへと陥りました。
「大変だ!」
 ギーシュは跳ねまわるサイトを抑えつけようとしますが、サイトはその腕をふり払いなおも悶えます。
「どういうこと!この薬に副作用は無いんじゃないの!?」
 その尋常でない様子にキュルケがテオに尋ねると。

 テオは、嫌そうな表情で一言ポツリと言いました。
「その薬な………死ぬほどマズイのだ」

「「「「え?」」」」
「なにこれ!なんだこれ!口の中が!口の中があああ!うわ、うわわわ、マズ!マッズ!」
 サイトは喉を抑えながらそう叫びました。

「三日三晩は口の中の苦味が取れず、鼻の奥にはすえた匂いが広がる、あと気持ちの悪-い感触が口の中を支配して…まあ。ミルクか何かで舌をコーティングした後にワインか何かで割って、その上で鼻をつまんで飲むのが正しい飲み方だ。原液でそのまま飲めばそりゃあ、そうなるだろうよ。いや、吾も味見した時はそれはもう…ああ、思い出しただけで口の中にエグ味が……」
 
「うええええええ」
 そういうテオの視線の先、そこには元気に悶えるサイトの姿が。

「サイト!!」
 ルイズはそう言ってサイトに抱きつきました。
 
「うえ…ってルイズ。あれ?俺一体…」
「貴方、あいつを追い返して倒れたのよ」

 そのルイズのセリフにテオが口をはさみました。
「…ほう?ワルドを倒したのか?」

「「「!!」」」
 その言葉にサイトとルイズ以外のメンバーが驚いた表情を浮かべました。

 なぜならワルドと戦ったサイトとルイズ以外の一同は、今この瞬間までサイトたちと戦っていたのがワルドだとは微塵も思っていなかったのです。
 
 
 周りの反応を見て、ルイズとサイトもその言葉の異常性に気が付きました。
「…なんで、俺がワルドと戦ったって知ってるんだ?」
 状況を見ただけでは知りえない事実を知っていたことに、サイトが鋭い視線をテオに向けます。
 
「あの傭兵に混じっていたメイジは幻、つまり偏在の魔法だった。風の上位魔法である偏在は誰にでも使えるわけじゃあない、状況的に見て裏切り者はワルドだと考えるのが普通だろう?」

 テオのその言葉に、皆がハッとした顔をしました。
 
 そう。偏在の魔法は誰にでも出来るわけではありません。
 風の魔法使いのスクウェア。更には戦闘をこなせる上級者。
 そのような人物はあまり多くはありません。いえ、はっきり言って数少ないメイジの中でもさらに数少ない、貴重な人材です。
 
 普通に状況を考えて、ワルドに対して疑いを持つのは当然の事なのです。
 むしろ、他のメンバーもテオが倒したメイジが偏在であった時点でワルドに対して疑いを持つべきだったのです。

 一同は納得したように頷きましたが、そこで一人だけ違う感想を持った者がおりました。
 皆が納得する中ただ一人。エルザは疑問を増やしていたのです。
 
サイトがワルドと戦った。

 その状況。
 それは正に昨日エンチラーダがフーケに語っていたその状況です。
「あの男と戦うのは『伝説』でございますので」
 エンチラーダは確かに昨日そう言っていました。

 ワルドがレコンキスタに通じていた「フーケの相方」の正体だと言うのならば。
 『伝説』の正体はサイトだということになります。

 伝説とはなんなのか、そして、なぜエンチラーダはサイトが伝説で有ると知っているのか。
 そもそも、なぜエンチラーダはサイトとワルドが戦う事を知っていたのか。
 
 少なくとも、昨夜の時点では、ワルドとサイトが別行動を取ることは予測出来なかったはずなのです。
 宿屋の襲撃を知り得たとしても、それこそサイトが宿に残った可能性も、テオがワルドについていった可能性もあったはずです。
 なのに昨夜エンチラーダは確信を持ってサイトとワルドが戦う状況を言い当てていたのです。
 
 ただ、そのエンチラーダの予想も、最後の一点で外れたようでした。 
 サイトは今こうして生きて、テオと話をしているのですから。
 
「…そうか、って事はテオはあのワルドの偏在に勝ったのか?」
「当然だ、あっさりと勝ってしまったので正直拍子抜けだ」
 ふんぞり返るようにしながらテオはそういいました。

 そして、振り向くと大きな声でこう言いました。
「さあ、此処は戦場になるぞ、グズグズしていれば巻き込まれる。まあ、それも楽しそうだが、今回の目的は戦争に参加することではあるまい。サッサと逃げるとしよう」

 そのテオの言葉に一同は状況を思い出します。
「そうだ!もうすぐここにレコンキスタが攻めてくるんだ!」
「急いで逃げなきゃ!」
 そう言って皆は我先にと今来た穴に再び潜りこむのでした。
 

 ヴェルダンデが掘った穴はアルビオンの真下に通じていました。
 サイトを始め皆が穴から出るとそこはすでに大空の中です。
 
 一同は凄い速さで落下しますが、それを予め待機していたシルフィードが受け止めて行きました。
 しかしさすがのシルフィードも7人とモグラ一匹を受け止めきるのは至難の業。
 シルフィードの背中に乗せられるのはせいぜい四人。
 モグラは口に咥えられ、両足でそれぞれ一人ずつ人間を掴みます。

 さて、算数ができる人間であれば当然わかることですが。
 1人背中からあぶれる計算です。
 
 そうなると、乗れるところといったら…。
「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
 テオの叫びが響きます。
 あぶれたテオがシルフィードの尻尾にしがみついていました。
 風になびくように動く竜のしっぽ。
 そのうねりかたときたら、大時化の時の海の波のようです。
 
 そんなところに乗せられてはテオも冷静では要られません。
「揺れ!揺れる!!!アホか!死ぬわ!おい!こら!吾になんの恨みが有ると言うんだ!イジメか!」
 グニャグニャと揺れる尻尾にしがみつきながら、テオはタバサに向かって叫びました。
 
 ものすごい剣幕の彼に対してタバサは冷静に返します。
「定員オーバー」
「嘘をこくな!その竜の体力にまだ余裕があることぐらい見てわかるわい!!」
「スペース的な問題」
 そう言ってタバサはシルフィードの背中を指さしました。
 彼女の言うとおり、そこにはテオ一人が乗れる程のスペースはあいていませんでした。

「我慢して」
「我慢出来るか!エクストリームすぎるわ!」
「でも物理的に無理、嫌なら降りる」
 タバサはにべもなくそう言い捨てました。
 正直な話、タバサはテオは竜に乗る必要すら無いと思っていたのです。
 テオほどの魔力があればフライの魔法で魔法学園まで十分に帰りつけると確信して居ました。
 
 しかし、テオとしてはたまったものではありません。
 確かにテオはそれが可能かもしれません。しかし、それは可能と言うだけのことでそれをテオが許容出来るかどうかは別の話なのです。
 アルビオンからトリステインまでの長い距離を自力で移動する。
 それは我々の生活に置き換えて言うのであれば、電車で移動する距離を歩きで移動しろと言うようなものなのです。
 確かに可能でしょう。時間はかかりますが、不可能ではありません。
 しかし、だからといって本当にそれを実行出来る人間がどれほど居るでしょうか。
 
 勿論テオは自力でトリスタニアまで帰ると言う選択肢は選びませんでした。
「ええい!待て!ええっとここに土は無いし…仕方ない」
 そう言うとテオは自身のマントを翻しながら呪文を唱えました。
 
 するとテオのマントは形を変え、大きな籠になりました。
 それは竜籠のようなものではなく、普段家庭で使うような。極々普通の籠をそのまま大きくしたような物でした。
 テオはすぐさまその籠に乗り込むとそこにエンチラーダとエルザを同様に座らせ、その籠を竜に持たせるようにタバサに促しました。

「ほら!これで良いだろ!まったく、よく考えたら最初からこうしておけばよかった、まだ籠のほうが揺れが少ないから怖くないし…とにかく!このままトリステインに帰るぞ!」
 あまりにも騒がしい一連の行動でしたが、一同の誰もそれに対して口をはさみはしませんでした。

 なぜなら皆その喧騒に助けられていたのです。
 
 
 自分たちの背後にあるアルビオンは、いま正に滅びようとしていました。
 多少なりとも国と言うものに関わりが有る一同にとってそれは笑顔で受け入れられることではありませんでした。
 サイトやルイズは勿論のこと。
 ギーシュも、タバサも、キュルケさえも。
 
 自分から声を発する事はありません。
 
 ですから。騒がしいテオが居なければ、本当にその場が静かになってしまいそうで、
 そうすれば暗く落ち込んだ気持ちになってしまいそうで。

 だから皆、口には出しませんでしたが、
 騒がしく喚くテオにほんのすこしばかり。
 
 
 
 感謝をしていました。
 

◇◆◇◆


「おい、此処で降ろせ」

 テオがそう言ったのはシルフィードがトリステインの国内に入ってしばらくしてからでした。

「え?」
 突然のその言葉にタバサが聞き返しました。

「もうそろそろこの竜、疲れてきてるだろ?ここで降ろせ。此処からならば自力で帰れる」
「ちょっと姫様への報告はどうするのよ」
 ルイズが下に向かってそういいました。

「貴様らがすれば良いだろう?別に吾が行く必要はない」

「そ…」
 ルイズは文句を言おうとしましたが思いとどまりました。
 前回姫を前にした時のテオの態度を考えると、テオを同席させないほうがむしろ良いと思い直したのです。
「それじゃあ、仕方ないわね」
「わかった」
 タバサがそう言って頷きます
 
「それじゃあゆっくり降…」
 テオがゆっくり降ろせと言いかけたその時…

「投下」
 そうタバサが言うと、風竜はテオ達の乗った籠を離しました。
 もちろん籠は重力に従い、真っ直ぐに下に落ちていきます。


「その降ろし方は予想がいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃ…」
「あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・……」
 テオ達はドップラー効果を上げながら落ちて行きました。


「ちょっと…タバサ、その降ろし方はさすがに…」
「うわ…もう見えない」
 そのあまりの仕打ちに竜の上の面々は呆気に取られた表情で下を見ます。

「大丈夫」
 タバサは断言しました。
 そして何事も無かったかのようにタバサはトリスタニアへと竜を進めるのです。

 彼女は知っていたのです。
 テオの実力であれば、これくらいの高さなどさしたる問題では無いことを。


 事実としてそのとおりでした。

「全く、吾をおとすとか、あのメガネめ、吾を何だと思っているのだ」
「ビ…ビックリした」
「恐らく御主人様の実力を信頼してのことだとは思うのですが…さすがに私も肝が冷えました」
 テオたちの乗る籠はテオのフライでもって地面よりもいくらか高い位置で停止して居ました。

「全く…」
 そう言ってテオが杖を振るうと、籠はそのままフヨフヨと横に動き始めます。

 それは風竜に比べればとても遅い動きでしたが、それでも馬で移動するよりは幾分か速い速度でした。
 アルビオンから帰るには遅すぎる速さですが、こうしてトリステインに入ってからならば然程時間をかけずにトリスタニアに付くことでしょう。
 と言うより、テオはフライで帰れる距離になったからこうして他のメンバーと別れたのでした、つまり、テオは状況が許すならば、サッサとあのメンバーと離れたいと思っていたのです。
 テオは少し、静かに状況を思案したかったのです。
 
 
 ゆっくりとした帰路のなかで。テオは思案にふけります。
 
 
 果たして、テオが何を考えているのか。
 何を思っていたのか。
 
 それは誰にもわかりません。
 それこそ、そのすぐとなりにいたエンチラーダとエルザにすらわからなかったのです。
 
 ただ、なにやら珍しく真剣に何かを考えて居るようでした。
 そしてエンチラーダはいつもどおりの無表情で、その隣に寄り添うのです。
 
 その光景は、旅に出る前のあの日。
 テオが嫌な夢をみて落ち込んだ時、エンチラーダがその傍らに座っていたあの光景とそっくりでした。
 
 しかし、その二人の光景を見て。
 エルザはあの時と同じ印象をうけはしませんでした。

 エルザはテオとエンチラーダの真意を図っていました。
 いかに人の心を読むに長けた吸血鬼とはいえど、別に読心術が使えるわけでもなく。この二人の心内を知ることはエルザには出来ません。

 ですからエルザは想像をしました。

 まずエンチラーダがなぜテオを裏切ったか。
 人が人を裏切る事に特別な理由はいりません。
 利、権、金、愛、恋、悪、正、義、いかなる単純な感情も人が人を裏切る理由になりうるのです。
 どういった理由でテオを裏切るかまでは解りませんが、エンチラーダがテオを裏切る事自体は特別に不思議なことではないのです。

 ただ不思議なのはエンチラーダが長年テオに仕え、其れをアッサリと裏切ろうとしているのに、その素振りをおくびにも出さないことです。
 エルザの知る限り、人間にはアッサリと他人を裏切るような心を持つ反面で「情」という、非常に厄介な心も持っているはずなのです。
 愛情、艶情、恩情、交情、懇情、人情、たとえ相手がどんな相手で有ろうと、長時間一緒に入れば情が湧くのが人間なのです。
 エルザなどはその人間の情を利用して人間に紛れていただけに、その「情」という存在をイヤと言うほどに知っていたのです。

 なぜエンチラーダが湧き上がるべき情をアッサリと捨てて人を裏切れるのか。

 エルザにはそれが不思議でなりませんでした。
 
 
 そして。
 そして次の瞬間に、自分がそんな気持ちに至ったことに驚きました。
 
 
 何故ならば。人を裏切るなんてこと。
 エルザが誰よりもしてきたことだからです。
 
 長い年月をかけて人間を信用させ、それをあっさりと裏切り人間を食料とする。
 いわば裏切りは吸血鬼の必須科目なのです。
 
 それなのにエルザはエンチラーダの裏切りに対して疑問を感じてしまっているのです。
 
 そして、エルザは気づくのでした。
 自分はテオを裏切らんとしているエンチラーダに対して怒りを覚えているのだと。
 裏切りを当然とする自分が、テオがその被害にあいそうになった途端怒りを覚える。
 
 
 つまり、エルザは明確にエンチラーダよりもテオ側の立場になって物事を考えてしまっているのです。
 エンチラーダとテオ。その二人の人物のうち。テオに味方する考え方をしているのです。

 エルザは生き汚い吸血鬼。
 果たして何方の側に付くべきか、本来ならば冷静に考えるべきなのでしょう。
 なにせ、エンチラーダにしろテオにしろ、異常な程の力を有しているのです。
 何方かに味方すれば、何方かが敵になる。エルザとしては、何方を敵にまわすのも非常に危険な状態です。
 一番理想的なのは、何方にも味方をするような、日和見な態度を取り、有利な方に付くことです。
 しかし、エルザはいま明確にテオに味方しようとしていました。
 
 
 それは単に自分がテオの使い魔であるからと言う理由だけではありません。
 
 そう、今この瞬間にエルザは自覚するのでした。
 自分がテオを。
 
 
 愛しているということに。
 
 その感情を何時から抱いていたのかはわかりません、
 初めて会った時、
 ルイズの魔法から守ってくれた時、
 笑顔を向けてくれた時、
 エルザを吸血鬼と知っても態度を変えなかった時、
 エルザが自覚すること無く、いつのまにかその感情は生まれていました。
 

 嘗てエンチラーダがエルザに言った言葉。
「主人を愛するようになる」

 まさしくそのとおりにエルザはテオを愛してしまっているのです。
 何があってもテオの味方で在りたいと、そう熱望してしまっているのです。 
 それはすなわち。
 エンチラーダと敵対するということ。
 靴を舐めてでも許しを請いたいと思った、絶対的な相手を敵に回そうとしているのです。
 
 それを考えるだけで絶望的な恐怖がエルザを襲いました。
 
 確かにエルザが味方せんとするテオは強い。
 それこそ、エルザが知るかぎり一等に強い人間です。

 エンチラーダの裏切りにも気づき、それに対しても余裕を持って行動をしています。
 エルザが味方するまでもなく、テオはエンチラーダにも負けないだけの力が有るように思えます。


 しかし、しかしエルザは不安を拭えませんでした。


 初めてであった時のあのエンチラーダの笑顔。
 昨日見たあのエンチラーダの笑顔。

 あの恐ろしい雰囲気を醸すあのエンチラーダに、テオフラストスが勝てる気がしなかったのです。

 なぜそう思ってしまうのかはエルザにしても解りませんでした。
 しかし、エルザにはエンチラーダに対して、テオを越えるような「凄み」を感じていました。

 ひょっとしてエンチラーダは人間ではなく悪魔か何かなのかと、そう錯覚させる程の何かがエンチラーダにはあるのです。




 そしてエルザを不安にさせていることはそれだけではありません。
 エンチラーダの持つ未知の何か以上にエルザを不安にさせるもの。
 それはテオ自身の態度にありました。
 
 テオがエルザにエンチラーダが裏切り者だと語った時。
 テオは確かに言いました。
 
 「観察して楽しむ」と。
 観察。
 まさにエンチラーダが自分を裏切ろうとしているのに、それを断罪するでもなく、防ごうとするのでもなく、観察すると言っていたのです。
 
 なぜ?
 観察は何かを解決させる手段ではありません。
 テオが解決に向けた行動をしなければ、この先に待つのは破滅しかありえないというのに、テオは行動を起こす気配が無いのです。
 テオは自ら破滅に進んでいるようにも見えるのです。
 まるで刹那主義が自分の未来を犠牲に今を楽しむようなその態度。
 
 テオの進まんとしている方向はどう考えても自体の解決とは別方向なのです。
 
 果たしてテオは何処に進もうとしているのか。
 そして、それと共に歩む自分もまた何処に進もうとしているのか。
 
  
「ところで…魔法学院はどっちの方角だったろう…やばい、吾迷ったかも。まあいいか、多分南に向かえば概ねトリスタニアだろう…たぶん」

 果たしてテオは何処に進もうとしているのか。
 その行く末に言い知れぬ不安を感じるエルザなのでした。


 
後書き
用語解説

・一部の魚類
 有名なのはマグロやカツオ、他にも鯖など。
 殆どのサバ科やサメ亜区の魚は止まると死んでしまう。
 『ラムジュート換水法』という呼吸方法をとっているから。
 原理は、説明がめんどくさいので、ジェットエンジンみたいな仕組みで呼吸すると言っておこう…いや、魚にはタービンが無いから正確には『パルスジェットエンジン』に近い呼吸法だ!

・パルスジェットエンジン。
 兵器好きならば知らぬ者の居ない、フィーゼラーFi103、通称V-1ミサイルに付けられたエンジンである。記念すべき世界ではじめて実戦投入された巡航ミサイルのエンジンであるが、残念ながらその後殆ど陽の目を見ず、現在パルスジェットエンジンを利用した兵器はほぼ無い。
 一方でパルス燃焼の原理を応用した製品は根強く存在している。
 農薬散布機
 フライヤ
 ボイラー
 我々の生活は、パルスジェットによって豊かになっていると言っても過言では無いのだ。

・1000年に一度だけ咲く花
 元ネタはとある歌から。
 問題無い全然無い副作用も何も無い。
 とりあえずマズイだけ。
 
・大時化
 波が6mを超える状況のこと。この状況だと基本的に船はでない。

・エクストリーム
 極限、極度とかいう意味。
 エクストリーム乗竜。
 色々と過激な状況で竜にのる競技。

・可能
 「可能である」と言うのは「出来る」とは厳密な意味では違う。
 毎朝、今よりも30分早く起きることは「可能である」
 しかし、果たしてそれが「出来る」人間がどれほどいるだろうか。
 ダイエットして痩せる事は誰でも「可能である」
 しかしダイエットに成功「出来る」のは全員では無いはずだ。
 
・籠
 とある村人の会話。
 「オラ見ただよ!円盤状の物体が山の向こうへ飛んでいくのを!」
 「風竜かなんかじゃないんけ?」
 「ちげー!あれは竜じゃねえ、メイジでもねえ。空飛ぶバスケットが、スーって飛んでたんだあ」
 「みまちがいだんべ」
 「ほんとに見たんだっくれ、信じてくれよ!」
 「ごじゃっぺこいてねーで、とっととピクルスさ漬け込み手伝え」
 トリステインUFO伝説誕生の瞬間である。

・日和見
 天気を見る事、転じて天気を見て行動する事、さらに転じて、
 天気次第で行動を変えるように、定まった考えによるものではなく形勢を見て有利なほうにつこうという考え方のこと。
 ちなみに吸血鬼のシンボルでもある「コウモリ」は、ある童話からしばしば日和見のシンボルとしても扱われる。
 
・凄み
 エンチラーダには、やると言ったらやる………『スゴ味』があるッ!


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