エルザが妙にヌルヌルする後頭部をさすりながら目を覚ました時。
一同は既に目的地であるラ・ロシェールの宿に到着していました。
そこはその街でも一等に上等な宿で、ピカピカの内装と、豪華な装飾に溢れていました。
一階には酒場があり、ワルドとルイズ以外のメンバーはそこで一休みするのでした。
いえ、正確には約二名は一休みを通り越し、椅子に全ての体重を預けだらしなく座っています。一日中馬に乗っていたためにもうクタクタになっていたのです。
一方で、同じく馬で移動していたテオとエルザですが、彼らには全く疲れた様子が見られません。
それどころか、旅に出る前よりも元気そうでした。
しばらくすると乗船の交渉に言っていたワルドとルイズが戻ってきてこう言いました。
「船は明後日にならないと出ないそうだ」
その言葉にサイトとギーシュが笑顔を見せました。
疲れ果てた二人は明日休めるということに安堵したのです。
そしてその場に、別の意味で笑顔を見せた人間がおりました。
「と言うことは明日は寝坊が出来るな。よし夜の街に繰り出す」
テオがそういいました。
別に如何わしい意味ではありません。
普通であればハルケギニアの店は一部の例外をのぞいて夜の早い段階で店じまいをします。この世界では道に電灯が整備されているわけではありませんし、さらには燃料は貴重です。ですから夜の街はどこもすぐに眠りにつくのですが、ここラローシェルの町は違いました。船のに下ろしや荷入れのため一日中どこかで誰かが働いています。さらにそんな人のために飲食店やら問屋やらがやはり夜遅くまで開いています。
この街は常に活気づいているのです。
ですからそんな夜の街を見たいと旅行気分のテオが思うことは、ごく自然なことでした。
なにせテオは、道中でしっかりと睡眠をとっていて元気一杯なのです。
疲れはてて宿の一階にある酒場でへ垂れる一同を尻目に、エンチラーダに荷物の整理を命じるとエルザを連れて街へと消えていくのでした。
ルイズ達はテオのそのような自分勝手な行動を止めはしませんでした。船が出るまでの二日間は暇なのはたしかですし、テオが緊張感をもったところで出発が早まるわけでもありません。
しかしその行為に不満がないわけではありませんでした。
皆は鼻唄混じりに夜の街に繰り出すテオ達をだまって睨みながら見送った後に、彼の行動についてぶつぶつと文句を言い合うのでした。
「あいつ本当に自分勝手だなあ」
「まあテオだからねえ」
サイトとギーシュがテオのいなくなった席を眺めながらそう言いました。
「テオだから…で済まさないでよ!いくらなんでも自分勝手が過ぎるわ!」
イライラとした様子でルイズはそう言い、そこにキュルケが言葉を被せました。
「別にいいじゃないの、どうせ2日間はやることないんだから。彼がどう行動しようと彼の勝手だわ」
「あんたは黙ってなさいよツェルプストー!あんたはこの任務の重要性を理解してないんだから」
「理解しようがしまいが、二日間暇だって事実は変わらないじゃない」
「心構えの問題をいってるのよ!緊張感が無さすぎるわ」
「何いってるのよ、テオに緊張感がないのはいつものことじゃないの。今さら過ぎるわよ」
キュルケのその言葉にタバサがコクリとうなずきました。
「だけど今は重要な任務中なのよ!そのいつもじゃないの!」
「それよ、その重要な任務っていったい何なわけ?」
「言えるわけないでしょう!極秘任務よ!」
酒場の中で、ルイズが大きな声でそうさけびました。
◇◆◇◆
ルイズの声が酒場にこだまする頃。
奇しくもエルザがキュルケと同様の質問をテオに投げかけていました。
「ねえ、テオ?極秘任務ってなんなの?」
エルザはテオに『旅行に行く』とだけ聞かされていました。
しかし実際に旅に出てみるとどうにも『旅行』と言った雰囲気ではありません。
ルイズなどは屡々『任務』と怒鳴っていますし、武装した魔法騎士隊が同行してきたり。そして行き先はレコンキスタが絶賛内乱中のアルビオンだとのこと。何やらのっぴきならない雰囲気が一同にはありました。
果たしてルイズの言っていた『極秘任務』とは一体なんなのか。
エルザは気になって仕方がなかったのです。
「ん?ああ。別に極秘にする必要もない下らない任務だ。何でも姫が昔アルビオンの皇子宛てに書いた恋文があって、其れが今度姫がゲルマニアの皇帝と結婚する時に邪魔に成りかねないので取り返して来ると言う任務だ」
テオは極秘任務の内容をあっさりとその場で説明を始めました。
「………………あれ?それって、実はすごく重要な任務じゃないの?」
エルザには国家間の付き合いと言うものは解りませんが、それでも人間の世界における男女の関係に付いてはイヤというほどに見てきています。
結婚を前にした女性が過去に結婚相手とは別の男に恋文を書いていれば、それは婚姻関係に大いに影響するということはエルザにも理解できたのです。
テオは下らないと評しましたが、この任務は国家の運命がかかっているようにエルザは思いました。
しかし、そんなエルザの考えを、テオは否定します。
「いや、全然」
「え?え?だって其れが有ると結婚がご破算になっちゃうんじゃないの?すごくマズイんじゃ…」
「ならんよ。そんな手紙ごときでご破算になるほど王族の結婚は軽くはないさ。王族同士の結婚というのは国家間の思惑が常に付いて回る。ゲルマニア皇帝にはトリステイン王女と結婚する理由があり、そこに感情は不要なのだ。王女の気持ちが別の男にあるなんてことは、既にゲルマニア側も想定しているさ」
確信を持った声でテオはそう言いました。
「…そうなんだ。でもさ、そもそもゲルマニア皇帝にはトリステイン王女と結婚する理由はなんなの?たしか、テオの話じゃあトリステインはもうとても弱くて、他国に追いやられているような国なんでしょ?そんな国となんで結婚するの?」
そのエルザの言葉に、テオは人差し指を立てながら言いました。
「非常に良い質問だ。そこにはゲルマニアと言う国の成り立ちが関係するな。彼の国はもともと大きな都市国家であった。其れが周りの地域を併呑して大国となった。つまりハルケギニアにおける他の国家のように「始祖の系譜」が立ち上げた国とは成り立ちが違う。ゲルマニアの皇帝は他国の王に比べその立場は下とされるし、国内でもその権威は比較的低い。だからゲルマニアの皇帝は自分の血筋に始祖の血を入れたいのさ。つまりゲルマニアとしては、『始祖の濃い血』と『トリステインの姫であるという肩書き』さえあれば結婚相手はどんな人間でも構いはしないのだ。そこに人間性や個人の考えなど不要なのだよ」
まるで教師が歴史の講義をするようにテオはエルザにそう言いました。
そしてそのままテオは言葉を続けます
「そんな訳で、これはトリステイン的にはさして意味のない任務なのだ。まあ姫としては姫個人の名誉がかかっているし、それに手紙の奪取はあくまで建前でその裏に本命もあるのだがな」
「本命?」
「ああ、アルビオン皇太子の亡命だ」
「…………?」
エルザはわけがわからないというふうに首を捻りました。
「あの小娘は、アルビオン皇子にとルイーズに手紙を預けている。内容は過去の恋文をルイーズに渡すようにという懇願が書かれている…との事だったが、あの時の雰囲気からするとそれとなくアルビオン皇子に亡命を進める内容だったのだろう。つまり姫は我々が、アルビオンの皇太子を連れて帰ってくる事を期待しているのさ。しかし、トリステインの姫という立場でそれを命令することが出来ない。それをすれば自分が原因でトリステインのに火種を取り込むことになるからな。つまりだ、自分の手を汚さずに自分の目的が達成されるのを望んでいるのだ。…滑稽だろう?まるで切り株にウサギか足を引っ掛けて転ぶのを期待して、一日中切り株を眺める農夫のようじゃないか」
「でもさ…ええっと、良くわからないけど、そのアルビオン皇子が亡命してきたら大変じゃないの?それこそ結婚はご破算になるし、アルビオンが内乱で滅びた後に、新しいアルビオンの支配者がトリステインに攻めてくるんじゃないの?百害あって一利なしじゃないの」
「まあ、表沙汰にはしないだろうよ?だからこその極秘任務なわけだ。もし皇太子が亡命してきてもその事実は隠匿され皇子は秘密裏に保護される、まあ表向きは皇子戦争で行方不明。トリステインにはどこぞの名もない貴族の一人が亡命してきたってことにでもなるんだろう。後は…王女の愛人として生きていく人生が皇子には待っているな。まあもしトリステインにもう少し国力があるなら、その後アルビオンに攻めこむときのプロパガンダに利用も出来るだろうが…いや、まあその辺のことはどうでも良いか。皇子がトリステインに亡命するなんてことは絶対にあり得ないしな」
テオは「絶対」に皇子が亡命しないと断言しました。
エルザは其れを不思議に思いました。
たしかに、皇子が亡命しない可能性はあります。あるいは其れはとても高い可能性かもしれません。
しかし、人の心の内は誰にも解りません。皇子が亡命をする可能性が『絶対に』無いと表するのは、なにか確信めいた理由が無ければオカシイとエルザは思ったのです。
「え?なんで『絶対』ってわかるの?」
「まあ理由はいろいろだが。なんといっても相手が王族であるということが大きいな。うちの国の姫はアレだが、本来王族と言うもの国家に殉ずるものだ。王は国があって初めて王でいられる。国を捨ててしまえば、その瞬間に王は王でなくなるのでな。そしてなにより…まあこれはエルザにはわからんかもしれんが、皇子はな、男なのだ」
「は?皇子なんだから男なのは当然でしょ?女だったら姫じゃん」
何を当然のことを言ってるのかと、エルザは声を上げました。
「いや、そういう意味ではなくてな。男がな…女に守られるなんて、間違っても出来はしないということだ」
「???なんで?死んじゃうじゃん」
「だからエルザにはわからんと言ったろう。男と言う生物はな馬鹿な輩なのだよ」
そう言ってテオは苦笑しました。
「よくわかんないけれど…どっちにしろテオはこの任務に意味が無いと思ってるのね?手紙の奪還はやる必要がないし、皇子の亡命は不可能だと思ってるんでしょ?」
「ああ、全くもって無駄な任務だ」
テオがそう答えました。
その言葉を聞いて、
エルザは少し悩む素振りを見せました。
そしてこういいました。
「じゃあなんでそんな任務受けたの?」
それは当然の疑問でした。
この任務に意味が無いと断言するのならば、それを態々受けるテオの行動は実に意味不明です。たしかにテオは酔狂な人間ですが、無意味なことを進んでするほどには酔狂ではないはずです。
そんな疑問でイッパイの表情のエルザに対し、テオは、
「…秘密」
と言ってニヨリと笑いました。
「ム…」
エルザは不満の声をだします。
別にテオの言葉に他意はありませんでした。
ただ単にミステリアスな人間を演出したかっただけなのですが。エルザはテオの態度をそうは受け取りませんでした。
エルザはその言葉を挑発だと感じました。
テオの思惑をどれくらい理解しているのか。
人の心を読むに長けた吸血鬼であるならば。使い魔を自負するのであるのならば、それくらい自分で考えてみろ。
そう言われているような気がしたのです。
だからエルザは思案をしました。
テオの思惑を読み取ってやろうと脳みそをフル回転させました。
話を聞く限り、この旅におけるテオの目的は、姫に課せられた極秘任務とは別のところに有るようなのです。
テオはこの任務事態が無意味であると思っていますし、更にはその裏にあるもう一つの思惑についても実現不可能であると断言しています。
そんなテオがわざわざ姫のワガママをきいて、アルビオンに向かおうとするのは、一体いかなる理由なのか。
テオの言葉を何度も脳内で反芻し、現在の状況を踏まえエルザは考察をしました
テオの現状。
アルビオンの状態。
レコンキスタの存在。
手紙。
その内容。
それらがグルグルと頭の中で混ざり合い。
そして一つになりました。
「あ!わかった。私、解っちゃった!」
まるで数学者が新しい数式を発見したように、エルザは大きな声を上げました。
「え?何が解ったんだ?宇宙の真理か?」
突然大声をあげたエルザにテオは驚きます。
「いや、それはわからないけど、テオの真意がわかったわ」
エルザは笑いながらそういいました。
エルザのその言葉にテオは笑いました。
「ほほう、それではエルザ先生、吾が一体どういう真意でもってこの旅に着ているのか、ご教授願います」
テオがそう言うと、エルザはコホンと一つ咳払いをして話し始めました。
「ふふん、まずはね。テオはこの任務を別の視点から見ているということね。確かに、この件。トリステイン側から見れば成功しても失敗しても状況は変わらないでしょうね。テオの言うとおり無意味な任務だわ。ではなんでテオはそんな無意味な任務を志願したのか…。
ポイントは、この任務はトリステイン側から見れば無意味でも、レコンキスタ側にしてみれば無意味では無いってことかしら。
レコンキスタ側からすればすごく意味のあることだと思うの。その恋文、確かにゲルマニアとの関係を崩すには弱いけれど、恋文であるということはその中に書かれている内容は姫として言っちゃいけない秘密のこともたくさん書かれているでしょう?そういうのを知るってすごく大切なことよね?それに、トリステインからしたらアルビオン皇子はたしかにお荷物だけど、レコンキスタからすれば倒すべき王族の一人であって、それをみすみす逃すのはまずいし。逃げられると今後の士気にもえいきょうすると思うの」
「ほう」
テオはその言葉を特に否定せずにただ頷きました。
「そしてテオはトリステインという国を嫌っているわ。だってテオは確かに優秀だけど、その反面で冷遇もされているんだもの。このままいけば自分の家を継ぐこともできないし」
「それで?」
「つまりテオは…
レコンキスタと繋がっている!」
ビシッィ!!っとテオを指さしながら、まるでエルザは犯人を追い詰める探偵のように、話を続けます。
「だとすればすべての辻褄が合うのよ。そう、この任務は、トリステインを裏切り、そしてレコンキスタに与するのに最も最適な機会。その手紙を奪ってレコンキスタにわたす、あるいは内容を盗み見て後で教えるだけでも有益ね。もし皇子当たりを拘束してレコンキスタに引き渡せれば其れはもう大金星だわ、そうすればテオはレコンキスタにすごく信頼される。今以上の待遇を手に入れることが出来る。もちろんレコンキスタから貴族の称号はもらえるでしょうね。つまり、テオの本当の目的は、この任務の途中でトリステインを裏切り、レコンキスタに貢献することなのよ!」
エルザはそう言うと得意そうに胸を張りました。
テオは感心したような表情を見せ、そして次の瞬間には満面の笑みを浮かべます。
「さすが!エルザは賢いな」
そう言ってテオはエルザの頭をなでました。
「えへへへ」
エルザは得意そうに笑います。
「だが残念ながら不正解」
「え!?」
テオのその言葉に、エルザは間抜けな声を出しました。
「エルザも知っているだろう?吾が裏切りを好まないことは。たとえ今の状況に満足が行かないからといって国を裏切るような事は絶対にしないよ。
そして吾自身はレコンキスタと何の関わりも無い。レコンキスタに与した所で、吾の立場が変わるものでもないしな」
「え?でもレコンキスタに付けば今より優遇されたりするんじゃないの?」
「いや…まあ、確かに表面的な待遇の差はいくらかあるかもしらんが、しかしまあ本質的な待遇は変わらんよ」
「本質的な待遇?」
エルザにはテオの言葉が今ひとつ理解できませんでした。
「エルザよ、吾が巷でなんと言われているか知っているか?…二つ名という意味ではなく。別名で何と呼ばれているか知っているかね?」
「…残念グルメ?」
「…違う!…なんだその残念グルメって!?」
「え?厨房の人達、みんなそう呼んでいたよ?」
「なんだと………………まあいい、兎に角其れとは別だ。その呼び方とは別に吾は『金のガチョウ』と呼ばれている」
「金のガチョウ?」
「金の卵を生み出すガチョウ、色々と高級品や嗜好品を生み出す吾をこれ以上ないほどに的確に表した言葉だ。良くも悪くも家畜という認識だな。単に金を生み出す家畜。吾は塔から出るために有名になった。有益な存在だとトリステインに認識させた。いやトリステインだけではない、世界中がそう思っている。勿論…レコンキスタもそう思っているだろうよ」
「それって…」
「前にな、『何時、野に下ることになるかわからん立場だから、身を立てる手段をいくつも用意しておかねばならん』と言ったが、其れは半分事実で半分不可能なことなんだ。吾は確かに表向きは野に下るだろう。しかし、国が吾を手放すことはあり得ない。おそらくは城詰にされるかアカデミーにでも入れられて、延々と金になる仕事をさせられるのだろう。レコンキスタについた所でその待遇は然程変わらん。延々と金になる仕事をするのは同じだ」
そう言ってテオは自嘲気味に笑いました。
その表情は何処か寂しそうで、遠くを見るその視線には悲しみを感じました。
何処か人生を達観したような表情。
それは絶望に近い何かを含んでいるようにも見えました
そんな。テオに対して。
エルザは…
「ねえ、テオ?じゃあなんでこの旅行にきたの?ねえなんで?なんで?」
ピョンピョンと飛び跳ねながらテオの服の裾を引っ張りながら、エルザはそう聞きました。
「………お前、『空気を読む』ってわかるか?」
テオの表情を全く無視して質問するエルザの様子にさすがにテオも呆れた声を出しました。
「私子供だからわからない~」
「まあ、無駄にしんみりされても嫌だからいいんだが…吾がこの旅をした理由か?」
ため息をつきながらテオが言いました。
「うん」
「この任務にな、裏切り者が居るのを知っているか?」
「裏切り者?」
エルザは驚きの声をあげました。
「そう、ある意味で、先刻のエルザの予想はとても正しいものなのだ、この任務はレコンキスタ側からすれば大きなチャンス。裏切りが非常に効果的な任務。そして裏切り者が一人メンバーの中に居る、それをな、ちょいと観察しようと思ってこの任務を受けたのだよ」
「観察?」
「ああ、そうだ、そうだとも、吾が嫌いで打破すべき裏切り者が、滑稽にも右往左往するさまを見て楽しむのさ」
その言葉を聞いてエルザは理解をしました。
つまりテオはその裏切り者のことを許せなかったのです。
テオは何時もいい加減でマイペース。普通の人間とは違うエキセントリックな人間ですが、その反面で妙に義理堅い所も持ち合わせています。
先ほどのエルザの予想に対する返答にもあったとおり、テオは決して裏切りをしません。
足を無くした時にテオはこの世界の全てに裏切られました。
ですから、テオはこの世の中において一番に『裏切る』と言う行為を許せなかったのです。
「じゃあ…じゃあさ、一体誰が裏切り者なの?」
エルザがそういいました。
エルザの記憶にあるかぎり、あの一行のなかで怪しい動きをするものはおりませんでした。
誰もが自国にしっかりとした立場を持ち、生活の保証が付けられています。
あのメンバーの中に、レコンキスタに与する必要がある立場の者もおりませんでした。
唯一レコンキスタに協力して利益を得られそうなのはテオなのですが、其れは彼自身が今否定しています。
一体誰が裏切り者なのか。エルザには皆目検討がつかなかったのです。
「ははは…言っても良いが信じられんよ」
「もったいぶらないで早く教えてよ」
「ふむ…では耳を貸せ」
そう言ってテオはエルザに向かって手招きをします。
エルザは言われるがままに其の耳をテオの口元に近づけました。
そしてそのテオの口から放たれた言葉。
小さな声でしたが、それははっきりと聞こえました。
そして、そしてエルザは驚愕しました。
あまりの驚きに言葉を失うほどに。
なにせテオの口から出た人物。
その裏切り者の名前はエルザの想像を遙かに超えていたのです。
そう。
テオの口から放たれたその名前は。
「エンチラーダだ」
最もテオが信頼する人間の名前だったのです。
◇◆◇◆
「おかえりなさいませ」
宿に戻ったテオとエルザをエンチラーダがそう言って迎えました。
「ふむ、今戻った。何か変わったことはなかったか?」
いつもと変わらぬ様子で、テオはそう言います。
その如何にも自然な二人の様子を、エルザは不思議な気持ちで見ていました。
テオの口から語られた裏切り者の名前。
「エンチラーダ」
エルザにはとても信じることができませんでした。
眼の前に居るこのテオを崇拝するメイドが、裏切りを行うとはどうしても想像が出来なかったのです。
いったい何故エンチラーダが裏切るのか。
何故テオがそれを知っているのか。
エルザはあのあと何度かテオに問いましたが、テオは笑うばかりでまともに答えてはくれませんでした。
「いえ、特に変わった事は…ああ、ミスタ・ワルドに幾つかの質問をされました」
「どんな?」
「御主人様についてです。」
「ほう…」
「どうにもワルド様は、御主人様がエルザを召喚したことが気になるようです」
「…ああ、なるほど。まあ無理も無いか。その疑惑を取り去るために態々あいつの前で魔法を使って見せたのだがな」
「御主人様が例の属性では無いとそれとなく伝えておきましたので、その疑惑は払拭できたかと思いますが」
「ふむ…まあ、よいか…」
テオとエンチラーダはいつもの調子で会話をしていきます。
エルザが見るかぎりではエンチラーダには何処にも怪しいところはありませんでした。
また、テオの様子にもいつもと違う様子はありません。
いえ、それどころか何時もよりも幾何か上機嫌にすら見えるのです。
何故そんな笑顔を見せられるのか。
裏切り者が嫌いだというのならば何故そうも笑顔でいられるのか。
身内が裏切っていると知っているのに、何故そうも笑っていられるのか。
エルザは不思議に思いました。
もしかしたら、エンチラーダが裏切り者だと言うのはテオの質の悪い冗談の類で、
自分は単にからかわれただけなのだろうかとエルザは思いました。
しかし、しかし、あの時、テオがエルザに言った口調は、とても冗談には思えない「重さ」が感じられました。
「…さて、吾は食堂でなにか食べてくるが、二人はどうする?」
そう言ってテオは食堂へと向かおうとします。
「私は荷物の整理が終わっておりませんので、もう少し此処で作業をしていきます」
「私も残る」
エルザはテオに付いていくべきか一瞬思案しましたが、部屋に残ることを選びました。
「ふむ…まあ、別に構わんか…ではまた後でな」
そう言ってテオは部屋から出て行ってしまいました。
テオがいなくなり、エンチラーダと二人だけになった部屋。
エンチラーダはカバンを開き、その中身の整理を淡々と続けます。
エルザはその様子を食い入る様に見ていました。
最初に口を開いたのはエンチラーダの方でした。
「どうしたのですか?エルザ、私の顔に何かついておりますか?」
「ううん。別に何でもないの」
何でもないと言いつつも、エルザはその視線をエンチラーダから外しません。
やはり。どうしてもエルザには信じられませんでした。
なにせ、エルザはエンチラーダほどに裏切りとは縁遠い人間を知らないからです。
エルザの頭の中は疑惑と疑問でイッパイになり。
そして、勇気を振り絞って、エンチラーダに質問をすることにしました。
それはエンチラーダについての一番の疑問。
「エンチラーダ…一つ聞いて良い?」
「ええ、かまいませんよ」
エンチラーダは作業をしながら答えます。
「何をしているの?」
そう言ってエルザの見る視線の先では、
エンチラーダが何やらテオの下着を顔に押し当てるという、色々と疑問を抱かずにはいられない行為をしていました。
「匂いを嗅いでいるのですが?」
何を当然のことをと言った様子でエンチラーダはそう言います。
「…………」
その言葉にエルザは、考えることが馬鹿らしくなるのでした。
◇◆◇◆
次の日になりました。
まだ朝早く、朝食をとりにテオ達三人組が食堂に向かう途中。
「何やら面白そうなことになっているではないか」
テオはそう言って広場に視線を向けました。
広場の中央ではサイトとワルドが向かい合うようにして立ち、そしてその間に居るルイズが何やら喚いて居ます。
テオたちの位置からではルイズが一体何を言っているのかが良く聞こえませんでしたが、テオはなんとなく状況を察しました。
闘争心みなぎるその場の状況。いまその広場では決闘が行われようとしていたのです。
「しかし、このタイミングで決闘とは…緊張感が無い奴らだなあ」
テオはそう言って首をすくめます。
「どっちが勝つのかな」
興味津々といった様子でエルザがそう言いました。
「まあ十中八九はミスタ・ワルドでしょう」
エンチラーダが無表情にそう答えます。
確かに彼女の言うことは最もです。なにせワルドはトリステインの魔法騎士隊の隊長だとのことですから、普通に考えて平民であるサイトが勝てるはずもありません。
しかし、エルザには必ずしもそうでは無いように思えました。
「でもさ、あのお兄ちゃんものすごく早いじゃん…もしかしたら、勝っちゃうこともあるんじゃないの?」
前にギーシュとの決闘で見せたサイトの動き。あの素早い動きがあるのならば万が一と言うこともありうるのではとエルザは思ったのです。
「まあ、ありえんな。ほぼ絶対に負けるな」
「そうかなあ」
断言するテオに対してエルザは首を捻って答えます。
「…アノ小僧の身体能力は確かに強い部類に入るのだろうよ。だがな、それだけなのだ」
「それだけ?」
「それだけで勝てるほどに世界はやさしくは無いのだよ。そこに気づかない限りあの小僧は負ける」
そして。
テオの言った通りになりました。
サイトは無残にも負け、その場にうなだれる結果となったのです。
ワルドとルイズは早々にその場をさり、広場にはサイトが一人残されました。
サイトの様子は遠目にも落ち込んでみえました。
無理もありません。
サイトは当初からワルドに対して不快感を隠していません。それ程に彼のことが嫌いだったのでしょう。
そんな嫌いな人間に、コテンパンにやられて落ち込まないほうがオカシイのです。
「さてと」
そう言いながらテオは広場の方に歩き出しました。
「あれ?テオ、何処に行くの?食堂はこっちだよ?」
食堂とは違う方向に歩き出したテオに向かってエルザがそう言います。
「何処に行くかだと?決まっとるだろう、あいつの傷口に塩を塗りたくりに行くのだ」
そう言ってテオは広場に立ちすくむサイトを指さしました。
「て…テオ、其れはさすがの私でも引いちゃうくらい非道な気がするけど……」
「構わん構わん。あいつがこの場で潰れようが死のうが、吾に取っては何ら問題はない…エルザ達は先に食堂に行って来なさい。あいつを立ち直れなくしたら吾も行くから」
そう言ってテオは意気揚々とサイトの元に向かうのでした。
エルザはテオのその行為に、テオは本格的にサイトの事が嫌いなのだと半ば呆れにも近い感情を抱いて、そしてそのままテオに言われたとおり食堂へと向かうのでした。
広場の中央で下を向いて落ち込んでいたサイトは、自分の横に突如出現した影を見て振り返りました。
そこには、もう、満面の笑みを浮かべたテオが立っていました。
「ププププ、ヒゲモジャ男にコテンパンにヤラれていたな?今どんな気持ちだ?なあ、どんな気持ち?」
そう言ってテオは両手を水平に広げ体を左右に動かします。
「おまえ!」
サイトは思わずテオに殴りかかりますが、テオはそれをひらりと避けました。
「おう、こわいこわい」
その口調も、動きもすべてが挑発的で、サイトの心のなかは怒り一色に染まります。
「おやおや、無様に負けてしまった八つ当たりに、何の関係も無い吾に殴りかかるか?たいした紳士ぶりだな?」
「ぐ!!!」
テオの言葉にサイトは拳を握ったまま固まります。
テオの言葉は最もです。
確かにテオの行動は非常に腹ただしいものですが、だからといって殴りかかっていい理由にはなりません。
「そもそも、貴様は落ち込むことすら筋違いなのだ。負けて当たり前の試合で負けて、どうして落ち込める?それとも何か?貴様こう思ったのか?『僕は天才だから、本物の軍人にだって勝てるに違いない!』と?世の中を舐めるにも程があるぞ」
「…」
サイトは何も言い返せませんでした。
テオが言うように勝てる、と確信するほどにサイトは自惚れていたわけではありません。
しかし、心の何処かで、もしかしたら勝てるかもしれないと言う思いがあったのも事実です。
自分の体に宿るこの不思議な力を使えば、もしかしたらと。たしかに思っていたのです。
「大体貴様、学園に来てからどれだけ体力づくりをした?どれだけ素振りをした?魔法使い対策は何かしたか?吾の知る限り、貴様はお遊び程度の練習を数回しただけで、ほとんどの時間を遊び呆けていたじゃあないか」
「お前に俺の気持ちがわかってたまるか!!突然、こんな所に召喚されて!使い魔にされて!帰り方もわからず!いきなりこんな厄介ごとに巻き込まれて!なんで体なんか鍛えなきゃナンないんだよ!オカシイだろ!俺は普通の一般人なんだよ!それで訓練とか意味ワカンネーよ!」
結局サイトの口から出たのはそんな悪態でした。
それを口にしながら、サイト自身、自分の言っていることがいかにも幼稚なワガママだとは自覚して居ましたが、それを言わずには居られなかったのです。
「貴様の気持ち?わからんし、わかる気もない。ただひとつはっきりしているのは、目の前の貴様は調子こいた挙句に、無様に負けた。屑だということだ」
ピシャリとテオはそう言い切りました。
「…」
サイトは殺意のこもった視線でテオを睨みつけました。
しかし、テオはその視線を受けても、涼しい顔です。
「他人に責任を押し付ける暇があったら、一度でも多く剣を振るべきだと吾は思うがな」
「押し付けるも何も!他人の責任じゃないか!俺が今ここに居るのだって!巻き込まれただけで…」
「だからどうした?」
「え?」
「誰のせいかなんて考えていれば幸せになれるのか?この世は理不尽で溢れているのは当然のことだろう。それに一々文句をつけている時点で貴様は屑なのだ。今の状況に不満があるのならば打開すればいいだろう?」
そう行ってテオは自分の着ているマントを翻し、踵を返します。
「べつに、貴様が周りに喚き散らしながらそこに留まると言うのならば好きにしろ。別に吾には関係の無いことだ。だがな、吾は絶対に貴様を認めはしない」
そう言ってテオはその場をあとにしました。
言いたいことだけを言って去っていくテオに、サイトはこの上ない怒りをその臓腑の中に宿します。
恨みのこもった視線をその後姿に向け、その姿が見えなくなると、大きな声で叫びました。
「なんだよあいつ!そんなに偉いのかよ!」
「当然です」
「ぎゃあ!」
突然背中から声をかけられ、サイトは驚きの声をあげました。
「え…エンチラーダさん、何時からそこに」
「先程からおりました」
「け…気配がなかった」
冷や汗を流すサイトに、エンチラーダは言葉を続けます。
「おっしゃいましたね?『そんなに偉いのか』と。ええ、偉いです。あの方は偉い方です。私は、あの方ほどに偉い方を知りません。なにせあの方は誰にも助けられず、誰にも寄り添わず、誰にも構われず、そんな状況の中。お一人で前に進んで行きました。軟禁されていた塔から出たのも自身の努力によるものです。少なくとも、貴方を馬鹿にする資格は十分に持ちあわせています」
サイトはエンチラーダのその言葉に、テオの生い立ちを思い出しました。
テオの生い立ちはサイトも知っていました。メイドのシエスタから、前に聞かされていたのです。
「そもそも貴方は勘違いをなさっています、なぜ御主人様があのようなことを貴方に対して言ったのかわかりますか?」
「いや、単に馬鹿にしたかっただけじゃないのか?」
「確かに、御主人様は貴方を嫌っています」
「ああ、だろうよ、じゃなきゃあんなこと面と向かって言うもんか、クソ!」
「しかし同時に貴方に対して親近感のような物を感じてもいます」
「は?」
「でなければ、あのような事を言うはずが無いじゃないですか」
「なんでだよ、馬鹿にしただけじゃないか」
なぜ親近感を抱くと相手を馬鹿にするのか、サイトは理解出来ませんでした。
「ええ、確かに馬鹿にしました。しかし、それは貴方を馬鹿にしたのではありません」
「はあ?」
「あの叱咤は、貴方に向かって言ったのではありません。過去の自分に、いえ、今現在も存在する、御主人様自身の弱い心に向かって言ったのでございます。御主人様でも、挫けそうになったことは幾度と無くありました。惨めな思いに潰れかけた事がありました。しかし、そのたびにあの方は自身を奮い立たせ、前に進みました。そして今の御主人様があるのです。あの方は今の貴方と、嘗ての自分を重ねているのです。アレは、あの言葉は、貴方に言っているのではありません」
サイトはガツンと頭を叩かれたような気分でした。
不理不尽な状況。
サイトの状況も確かに不理不尽な物かもしれません。しかし、テオもまた理不尽極まりない状況にあるのです。
足を無くし、
貴族と認められず、
両親にすら捨てられ、
皆からバカにされる。
しかもその状況に至るにおいて、テオ自身には何の責任も存在しないのです。
まさに理不尽に押しつぶされようという環境から。テオは自分の力で抜けだしたのです。
テオの言葉がサイトの頭の中に響きました。
『今の状況に不満があるのならば打開すればいいだろう?』
『吾は絶対に貴様を認めはしない』
そう、アレは決意表明だったのです。
挫折するサイトの前で。
いえ、挫折というその行為そのもの。
そして、自分の中にある挫折しそうな心に向かって。
テオは自分自身に、これからも自らの力で状況を打開して行くと
そう言い聞かせたのです。
「貴方の今の姿はまさに、御主人様が恐れる弱い自分そのものなのです。不幸な状況でありながら、努力を放棄し、現状に不満を言い、行動を起こさない。
実際貴方は。故郷に関する情報を少しでも集めようともせず、それらしい書物も読まず、メイジに聴きこみもせず、自衛のために訓練もせず、誰かに頼むためにコネクションを率先してつくろうともせず、この世界を生き抜くために金を手に入れようともしていない。それで居ながら自分の力を過信し、その過信が打ち砕かれた途端、現状に対する不満を漏らす。
ある意味それは仕方の無いことかもしれません、普通の人間であれば貴方のような行動をとっても仕方の無い事なのでしょう。しかし、しかし御主人様はその仕方の無い事に甘んじていることを何よりも憎んでいるのです。いえ、憎まざるをえなかったと言えるでしょう。そうしなければあの方は塔から出ることすらできませんでした。そしてあの方は常に心がけています。そして口に出したのです。自分は絶対にこうなってはいけないと、自分の心に刻むために」
「…」
サイトはもう何も言い返せなくなってしまいました。
「正直な話、貴方が潰れようとどうなろうと私の知ったことではありません。しかし、ご主人様の真意が伝わらないのは私としても不快ですので、差し出がましくもこうして語らせていただきました…失礼」
そう言ってエンチラーダはそそくさとその場をあとにしました。
そして。
こんどこそ広場にはサイトだけが残されました。
一人っきりになった広場。
動くものはサイト以外にはおりません。
サイトはとてもとても惨めな気持ちになりました。
先ほどワルドに負けた時よりも。
それよりもずっと惨めな気持ちになりました。
テオの言うとおりでした。
エンチラーダの言うとおりでした。
何も努力していない自分が惨めで。
そのくせ自分が強いと思っていた自分が惨めで。
テオの言葉にムキになった自分が惨めで。
そして…テオの言葉に怒った自分が惨めでした。
自分が恥ずかしくて。情けなくて。とにかく、惨めで、惨めで。
それ以上何か考えるとおかしくなりそうでした。
ふと、地面に落ちている剣がサイトの目に入りました。
サイトは地面に落ちた自分の剣を拾いました。
特に意識しての行動ではありません。
ただ何と無く、体が動いたのです。
その場でじっとしていると、あまりの惨めさに自分の頭がどうにかなってしまいそうで。
だから、ただ何と無くそのまま。
その剣を、振りました。
『どれだけ素振りをした?』
テオの言葉が頭に響いた気がしました。
サイトの振る剣は何処かぎこちなくて、
これは馬鹿にされて当然だと、サイトは改めて思いました。
剣を振る音が、広場に木霊します。
何度も剣を振るうちに、サイトの視線はいつしか滲んでいました。
涙が止まること無く溢れていました。
剣を振った所で惨めな気持ちは無くなりません。
何度剣を振っても、自分が惨めである事実は変わらなかったからです。
それでもサイトは剣を振ることを止めませんでした。
それを止めてしまえば。
もう二度とテオやエンチラーダの顔を見ることができないような気がしました。
だからサイトはただ黙って。
泣きながら、剣を振りました。
何度も。
何度も。
◆◆◆用語解説
・ヌルヌルする後頭部
口を広げて寝ながら馬に乗るテオ、
その膝の上で同じく寝るエルザ。
ちなみに寝ているときにテオが見ていた夢はピクルスを貪り食う夢だった。
後は察していただきたい。
・都市国家
すごい乱暴な言い方をするならば、王様がいて自治をしている都市。
広義的解釈をするならば、現在も世界中にある自治区や特別行政区も都市国家と言えなくもない。
原作ではロマリアが都市国家の集合体である他、クルデンホルフ大公国も都市国家に近いものだと思われる。
・アルビオン皇子にそれとなく亡命を進める内容
これは全て筆者の妄想なのだが、
アンリエッタは愚か者で頭がお花畑だが、完全な馬鹿では無いと思う。
手紙でウェールズの亡命を奨めているような描写があったが、其れを明確に手紙にしているとは思えない。
そんな手紙を書けば、ある意味で恋文以上に危険なものを書いていることになる。
だから、せいぜいが読み方次第では亡命を奨めているように見えなくもない程度の手紙だったのではないだろうか。
そうすれば万が一ルイズたちが任務失敗をしてその手紙が世にでても言い訳が出来る。
そしてさらに手紙をかきながら…
(ルイズの方をチラリ)〈決して大きくは無いがルイズには聞こえる声で〉
「始祖ブリミルよ、この自分勝手な姫をお許しください。でも、国を憂いても、わたくしはやはり、この一文を書かざるをえないのです…。自分の気持に嘘を付くことはできないのです」
という小芝居。
其れを見ていたルイズは姫の真意を理解して皇子に亡命を進める。あくまでルイズの暴走という形で。
もしアルビオンの皇子が亡命してきたとしても、其れはルイズの暴走による結果。
責任問題が発生した場合ルイズの実家を潰して終わり…とかそういうことを考えていたのでは無いかと妄想している。
まあ、考え過ぎか。
・一日中切り株を眺める農夫
守株待兔という故事に由来する。エルザは意味をよくは理解できなかったがなんとなく雰囲気で頷いた。
日本では童謡の「待ちぼうけ」で有名なエピソード。
・プロパガンダ
国家による宣伝活動。
・男と言う生物はな馬鹿な輩
之も筆者の妄想だが、
たとえ皇子がトリステインに亡命しようがしまいが、いずれレコンキスタがトリステインに攻め入るのは皆わかっていたこと。
皇子はトリステインに迷惑がかかるからと亡命を断ったが、其れは建前で本当は「女の子に守ってもらう」という状況を受け入れがたかったのでは無かろうか。
・残念グルメ
厨房のスタッフ及び一部のメイドがつけたテオのあだ名。
由来は、厨房に頼んできた妙な頼みの数々から。
例、厨房にあるすべての食材を詰め込んだ巨大サンドウィッチ。
樽いっぱいのプリン。巨大ラビオリ等々。
・私子供だから
三十過ぎです。
・誰もが自国にしっかりとした立場
ちなみにエルザはタバサのことを、夢に燃えるガリアの騎士見習いだと思っている。
・両手を水平に広げ体を左右に動かします
挑発ダンス。
・おう、こわいこわい
無論あの顔で