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No.34559の一覧
[0] ゼロの出来損ない[二葉s](2012/08/13 02:16)
[1] プロローグA エンチラーダの朝[二葉s](2012/08/13 22:46)
[2] プロローグB テオの朝[二葉s](2012/08/13 22:47)
[3] 1テオとエンチラーダとメイド[二葉s](2012/08/12 23:21)
[4] 2テオとキュルケ[二葉s](2012/08/13 02:03)
[5]  おまけ テオとタバサと占い[二葉s](2012/08/13 23:20)
[6] 3テオとエンチラーダと厨房[二葉s](2012/11/24 22:58)
[7] 4テオとルイズ[二葉s](2012/11/24 23:23)
[8]  おまけ テオとロケット[二葉s](2012/11/24 23:24)
[9] 5テオと使い魔[二葉s](2012/11/25 00:05)
[10] 6エルザとエンチラーダ [二葉s](2012/11/25 00:08)
[11] 7エルザとテオ[二葉s](2012/11/25 00:10)
[12] 8テオと薬[二葉s](2012/11/25 00:48)
[13] 9エルザと吸血鬼1[二葉s](2012/11/25 00:50)
[14] 10エルザと吸血鬼2[二葉s](2012/11/25 01:29)
[15] 11エルザと吸血鬼3[二葉s](2012/12/20 18:46)
[16]  おまけ エルザとピクニック ※注[二葉s](2012/11/25 01:51)
[17] 12 テオとデルフ[二葉s](2012/12/26 02:29)
[18] 13 テオとゴーレム[二葉s](2012/12/26 02:30)
[19] 14 テオと盗賊1[二葉s](2012/12/26 02:34)
[20] 15 テオと盗賊2[二葉s](2012/12/26 02:35)
[21] 16 テオと盗賊3[二葉s](2012/12/26 02:35)
[22]  おまけ テオと本[二葉s](2013/01/09 00:10)
[23] 17 テオと王女[二葉s](2013/01/09 00:10)
[24] 18 テオと旅路[二葉s](2013/02/26 23:52)
[25] 19 テオとサイトと惨めな気持[二葉s](2013/01/09 00:14)
[26] 20 テオと裏切り者[二葉s](2013/01/09 00:23)
[28] 21 テオと進む先[二葉s](2013/02/27 00:12)
[29]  おまけ テオと余暇[二葉s](2013/02/27 00:29)
[30] 22 テオとブリーシンガメル[二葉s](2013/02/27 00:12)
[31] 23 テオと救出者[二葉s](2013/02/27 00:18)
[32] 24 サイトとテオと捨てるもの[二葉s](2013/02/27 00:27)
[33] 25 テオとルイズ1[二葉s](2013/02/27 00:58)
[34] 26 テオとルイズ2[二葉s](2013/02/27 00:54)
[35] 27 テオとルイズ3[二葉s](2013/02/27 00:56)
[36] 28 テオとルイーズ.[二葉s](2013/03/22 22:39)
[37] 29 テオとルイーズとサイト[二葉s](2013/03/24 00:10)
[38] 30 テオとルイーズと獅子牙花.[二葉s](2013/03/25 15:13)
[39] 31 テオとアンリエッタと竜巻[二葉s](2013/03/31 00:39)
[40] 32 テオとルイズと妖精亭[二葉s](2013/09/30 23:46)
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[34559] 12 テオとデルフ
Name: 二葉s◆170c08f2 ID:dba853ce 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/12/26 02:29

虚無の曜日

 この日魔法学院はお休みです。

 古今東西大抵の学生はこの日が大好きです。
 なにせ堅苦しい授業の鎖から束の間の自由を満喫出来るのですから。

 皆それぞれの形で休みを満喫します。

 あるものは昼過ぎまで睡眠を楽しみ。
 あるものは一日を読書に費やし、
 あるものは恋人との時間を過ごし、
 あるものは森を散策し、

 そしてまた。あるものは街に出て買い物をします。


 そして学院の生徒たちが買い物に行く街といえば一つでした。
 魔法学院の一番近くにある街。
 トリステインの首都トリスタニアでした。

 休日のトリスタニアはそれはそれは賑わっておりました。

 老若男女、各世代が道を歩き、道の端では商人たちが物を売っています。
 物静かな売り子はおらず、誰もが声を張り上げて自分の店のものを宣伝します。
 見世物の張り紙が街を彩り、演劇の宣伝をする者が華やかに歌います。

 そこは活気と喧騒であふれていました。

 そして、その中央通りを、

 二人の人間が歩いています。



 ルイズとサイトでした。

 ルイズがサイトを召喚してから初めてのお買い物。
 サイトは初めて訪れたトリスタニアの町並みに興味津々です。

「アレは何を売ってるんだ?」
「籠よ、見りゃわかるでしょ」
「先刻から聞こえるポレンタって何?」
「料理のつけあわせよ、粉を練って料理に添えるの」
「あの変な吊してるのは?」
「クラムよ、美味しい物じゃないわ」
「あの看板は?」
「酒場でしょ」
「アレは?」
「兵士の詰所」

 初めて見るファンタジックな街並みに、サイトは興味がつきません。
 目新しい物が目に映る度にルイズに質問をしてきます。

 初めのうちは普通に回答をしていたルイズですが、次第に辟易としてしまい、回答がゾンザイになっていきます。

「アレは?」
 そう言ってサイトは通りの一角に列べられたテーブルと椅子を指さしてルイズに聞きます。

「カッフェ」
 ルイズは振り向きもせずに答えます。

「なあ、アレ学院の生徒じゃないか?」
 カッフェの席を指差しながらサイトがルイズに尋ねました。

「そりゃあ、今日は虚無の曜日なんだから、生徒が街に居てもおかしくは無いわよ」
 視線を移さずルイズがそれに答えます。


「でもあいつ、見覚えが…えっと…アイツなんてったっけ。ほら、この前食堂の子煩悩な…」

 サイトのその言葉に、ルイズの脳内で有る人物のシルエットが浮かびます。
「テオ!?」

「そう、そいつ!…おーい!おーい!」
「ちょっと待ちなさい!」

『テオにサイトを近づけさせない』
 その約束がルイズの脳裏を走り、ルイズは必死でサイトを止めようとしますが、時既に遅く、サイトは走りだしていました。 

 カッフェの席にはサイトの言うとおりテオがエンチラーダとエルザと共に座っています。

「よう!」
 ルイズの気も知らず、サイトは陽気にテオたちに挨拶をします。

「おや、ヴァリエール様…と、サイト様」
「やっほー」
「へぶら!」

「こんなところで何してるのよ、あんたら滅多に街になんて来ないじゃない」
 サイトに追いつき三人の前に立ったルイズが不機嫌そうに言います。

 その不機嫌そうな仕草と、その言葉には、自分たちがここに居るのは偶々であり、むしろそちらがここにいることのほうがオカシイと言うようなニュアンスが込められていました。
 つまり、コレはあくまで偶然でテオとサイトを引きあわせないよう努力するという約束を反故にしたわけではないと、言外に表しているのです。

「いえ、こう見えて結構な頻度でご主人様は街に訪れるのですよ?まあ、たいていは劇場におりますので街中で学院の生徒に出会うことは稀でございますが…今日はエルザの服を買いにきました、私やご主人様の服はほとんどサイズがいあいませんし、オールサイズなのはせいぜいご主人様のマントくらいで、流石にエルザに裸マントで過ごさせるわけには行きませんもので…ご主人様行きつけのテーラーに行こうということで…」
 いつものように、抑揚のない調子でエンチラーダが答えます。

「人混みって苦手…」
 辟易とした様子でエルザが呟きます。

「ブペブ!」
 そしてテオが叫びます。

「え~っと、スイマセン。一つ聞いてもヨロシイでしょうか?」
 敬語でサイトがエンチラーダとエルザに尋ねます。

「はい、何でございましょう」
「な~に?」

「ええっと、そちらのマジ泣きしてらっしゃる方は?」
 二人の間に座る男を指さしながらサイトはそう言いました。

「ご主人様ですが?」
「テオだけど?」

「へバー!ウワー!」
 そこには顔を歪め、涙を流しているテオがおりました。
 サイトもルイズも呆気にとられるほどに激しく泣いていたのです。

 大泣きする男。それも貴族のメイジ。
 その異様な光景に、サイトもルイズも只々戸惑うばかりです。

「何があったの?」
 ルイズが尋ねます。

「実は服屋の前にグランギニョールを見ていこうとしたのですが、劇場が休みでして。仕方がないから隣の劇場に入ったのです」
「それで?こんなに泣くって…悲しい話の劇だったの?」
「いいえ?子供向けの人形劇でした」

「「はあ?」」
 エンチラーダの返答にルイズもサイトも滑稽な声を上げてしまいました。
 
「せっかくだし、エルザに人形劇でも見せようということになりまして、それで見たのですが…」
「ありえへん。あの終わりはありえへん。ウボアー!」

 テオは涙と鼻水で顔をくしゃくしゃにしながら叫びます。

「じゃあなに、コイツ人形劇見て泣いてるの?」
「ご主人様はああいった物に耐性がありませんもので」
「だってお前、最後!おまえ、アレは無いよ。がま王子~、おんおんおんおん」
「はい、ご主人様、チーンしましょうね、チーン」
「チーン」
 まるで子供のように泣きじゃくるその姿。
 普段のテオからは想像のできない様子です。

「え、って、ねえ、そんなに悲しい人形劇だったの?」
 流石にその泣き方は異常なので、ルイズはエルザに聞きますが、エルザは首をひねりながら答えます。
「確かに、悲しい話だったけど…目の前でココまで泣くのは…」

 そう言ってチラリとエルザはテオの方を見ます。
 エルザの反応からして、人形劇は悲しいながらもそこまで泣くほどのものでは無かったようでした。

「正直、会場は人形劇よりもご主人様の泣きっぷりのほうが目立ってしまいまして、もう『ご主人様大泣きでSHOW』を見に来たような状態になってしまいました」
 
 人形劇場で泣き叫ぶメイジ。確かに見世物としては他では見れない光景です。
 そして、その見世物は現在も続いて居ました。

 道行く人間たちは、カッフェの席で大泣きする貴族に、誰もが何事かと様子を伺っています。

 そしてそれに気がついたサイトとルイズは、自分たちもこの『大泣きメイジ』の仲間だと思われていることに気づきます。
 いえ、仲間どころではありません。

 泣くメイジ、それをあやすメイド、その隣に子供。
 そしてその正面に立つメイジと従者の二人組。
 この状況を初めて見た人はたぶんこう思うでしょう。


 サイトとルイズがテオを泣かせていると。


 それに気がついたサイトとルイズは。
「じゃ…じゃあ私達用事があるから」
「お…おう、またな!」

 そう言って二人は逃げるようにその場を後にするのでした。

「ええでは」
「またねー」
「ウバー」

 三人はそれを特に気にすること無く、見送ります。


 ルイズは少しホッとしていました。
 何事も無くテオと離れられたからです。

 ルイズはテオにあまりサイトを近づけたくはありませんでした。 
 先日のエンチラーダとの約束もその理由の一つですが、ソレ以上にテオの存在がサイトにとって危険であると思っていたからです。

 テオはサイトのことが嫌いです。

 貴族に嫌われる。
 それは平民にとって死とほぼ同義なのです。
 例えば貴族がなんとなく気に入らないからという理由で平民を殺した例など、ソレこそ星の数ほどにあります。
 平民の命は貴族にとってとても軽く。貴族は平然と平民を殺すのです。

 勿論、サイトは平民であると同時にルイズの使い魔という立場でもあります。
 テオも他人の使い魔を気に入らないからと殺すような事は無いでしょう。

 しかし、世の中に絶対はありません。何かの拍子でテオがサイトを殺すこともありうるかもしれません。
 たとえ殺さなかったとしても、嫌がらせをしたり、危害を加えたり。
 そういう可能性も十分にあるのです。

 ですから、サイトがテオに駆け寄っていった時、ルイズは心臓が凍るような気持ちでした。
 テオが泣くことに夢中だったから良かったようなものの、サイトの行動は、言わば体中にバタを塗りたくった上で子持ちの虎の巣にスピンダイブするかのごとき愚行だったのです。

 それなのにこの使い魔ときたら。
「いやー、なんかいろんな意味で凄いやつだなアイツ…あれ?そう言えばあいつ足がついていたけど…」

 全くそれを理解していないのです。

「この馬鹿」
 そう言ってルイズはサイトの頭を小突きます。

「イテ、何すんだよ!」
 サイトはそう怒りました。

 自分の危険を全く理解していない様子のサイトに、ルイズは本当に世話の焼ける使い魔だと、ため息を一つ吐くのでした。



◇◆◇◆



「エキューで2000、新金貨なら3000」
「高!!」

 武器屋にルイズの声がこだまします。
「庭付きの家が買えるじゃない」
「良い武器は城に匹敵しますぜ。屋敷で済んだらやすいもんでさ」
「新金貨で600しか持って来てないわよ」
「何だよ買えないのかよ」
 サイトのヤジが飛びました。

 彼の手には名工シュペー卿が作ったという、それはそれは見事な険が握られています。
 
 そこは武器屋でした。
 サイトの武器を買うために今日、ルイズ達はトリスタニアに来たのです。
 しかし、実際に武器屋で剣の値段を聞いてみて、ルイズはその値段の高さに驚きました。

「貴族なんて言いながら結構・・・」
 サイトがそう言いかけるとルイズがキッとサイトをにらみつけます。
「誰かさんのせいで生活費が多めにかかってるんだけど?」
「すいません」
 サイトは謝りました。
 確かにそれなりに冷遇こそされていますが、それでもサイトの生活費は確実にかかっているのです。
 そして今、武器を買おうとしてくれているのもルイズで、サイト自身は一銭も持っていないのです。
 お金を出さないサイトは、文句を言える立場にはありませんでした。

「でもこれ格好いいよなあ」
 サイトはそう言いながら名残惜しそうにその立派な剣をカウンターに置くと・・・

『生意気を言ってるんじゃねえぞ、坊主』

 そんな声が聞こえました。

 サイトとルイズがあたりを見渡しますが、店内にはサイトとルイズと店主の三人しかいません。

『おまえ自分の体を見れないのか?剣を振る?その体でか?おでれーた!おまえにはそこら辺の木の枝がお似合いだ!』

「なにおう!」
 サイトはイラッとしてその声をした方を見ますが、そこには剣が乱雑に積み上げられているだけでやはり誰もおりません。

『わかったらとっとと帰りな、おめえもだ!貴族の娘っ子!』
「失礼ね!」
 
 サイトは乱雑に積み上げられた剣のある方向に近づきますが、そこには誰もいません。
 現代社会とは違うファンタジーな世界なので、あるいは小さな妖精でもいるのかと、剣と剣の隙間をかき分けますがやはり何もいません。

『おまえの目は節穴か!』
 その声にサイトは驚きました。
 なんとその声は、ちょうどどかそうと手に取ったその剣から聞こえたのです。

 それは錆だらけでぼろぼろの剣でした。

「剣がしゃべった!」
「あら、インテリジェンスソード?」
 ルイズが当惑した声を上げます。

「ええそうでさあ、若奥様、意志を持つ剣、インテリジェンスソードでさ。といっても、こいつは口は悪いわ、客にけんかを売るわで、こっちも困ってまして・・・やいデル公!これ以上失礼があったら、貴族様に頼んでてめえをとかしちまうからな!」

『おもしれえ!どうせこの世に飽き飽きしてきたところだ!溶かしてくれるんなら上等よ!』

「やってやらあ!」
 店主は怒りながらカウンターから出ようとしますが、サイトはそれを遮りました。

「もったいないなあ、おもしろいじゃん、しゃべる剣なんて、え?デルコウっていうの?」
『違う俺様は・・・』
「ん?どうした」
 その剣は突然だまりました。
 まるで何かを確認しているようでした。

『おでれーた。おまえ使い手か』
「は?使い手?」
『俺様はデルフリンガーってんだ。おまえ、俺を買え!」
「うん、そうだな、買うよ」

 そしてサイトはルイズの方を向いて言いました。

「ルイズ。これにする」
「それにするの?もっときれいで静かなのにしなさいよ」
「良いじゃんか!しゃべる剣なんておもしろい」
「え~・・・あれ、おいくら?」
「あれなら300で結構でさ」
「安いわね」
「やっかい払いみたいなもんでさ」
 そう言いながら店主は手をひらひらとふりました。

 ルイズは財布を取り出し、中身を取り出そうとした、その時。



「ハッハッハ!降臨!!」




 店の入口から聞きなれた声が聞こえました。
 
 店主、サイト、ルイズは何事かと思い店の入口に視線をやると、そこには見慣れた人物がふんぞり返っていました。

 赤い目元。
 他人を小馬鹿にするような口元。
 質素ながらも所々に美しい刺繍が入り、高級感を醸し出す服装。
 そして金属製の足。

 そう。

 先ほどまでカッフェで泣きはらしていたテオフラストゥスその人です。


「之は之はテオ様、今日はどんなご用件で」
 テオの顔を確認した瞬間、店主はもみ手をしながらそう言いました。
 
 それもそのはず、この店にとって、テオは一番の上得意なのです。
 但それは、買い手ではなく売り手として。

「ふむ、まあ、近くを通りかかったのでな、吾の武器の売れ行きを確認しようとよってみたのだが」

 テオは、屡々武器を作ってはこの店に卸しているのです。
 テオの作る武器は、それはそれは立派なもので、テオ印は既に一種の高級ブランドとして通用し始めています。
 そんな立派な武器を持ち込んでくるテオは、お店にとって一番の収入源であり、金のなる木ですから、店主は彼の機嫌を損ねてはいけないと、とにかく慇懃な対応をするのです。
 
「ええ、ええ、テオ様の武器は兎角人気でして、はい。もう、店に入ってからすぐに買い手が付きまして、常時売り切れ状態ですともはい、はい」
 ニコニコと笑顔を崩さずに店主は答えました。

「売れ行き?」
 店主の言葉にルイズが聞き返します。
「売っておるのだよ、吾の作った武器をな」
「あなたそんな商人みたいなことしてるの?」
「齧るべき脛が無いから致し方無いだろう」

「エンチラーダさんとエルザは?」
 先刻まで一緒に居た二人がいないことを不思議に思いサイトが訪ねました。

「ああ、今ごろテーラーでエルザの採寸をしている、吾はさすがに裸のエルザをじっくりと観察することもできんのでな、かといってぼんやり待つのも苦痛なのでこうやって各店を回っていたのだが…・・・来てみるものだな、面白そうな物が有るではないか!」
 そう言ってテオはデルフリンガーを指さすと言いました。
「店主、その剣、吾が買おう、なに、そこのルイーズより高く買いとる!」

 その言葉に対して、ルイズは声を荒げます。
「ちょっと、待ちなさいよ!」
 別にその剣に対してさしたる執着をみせていなかったルイズですが、他人に横取りされるのはあまりいい気持ちがしませんので、テオに食ってかかります。 

「これは私が買おうとしていたのよ、ソレをお金に物をいわせて横からかすめ取るなんて最低よ!!」
「ほう、吾が金に物を言わせていると」
「そうじゃない!まるで野蛮なゲルマニア人みたいだわ、紳士として、お金で解決しようなんて言語道断よ!」
「ふむ、本来ならば一笑に付すところだが、その言葉に乗ってやろう…。そうだな、店主!」

 テオはビシッと杖を店主の方に向けます。

「はい!」
 緊張した声で店主が答えます。

「お前に選ばせてやる。お前が売るにふさわしいと思う方に売れば良い、金はドチラが勝ったとしても300エキューだ」

「勿論テオフラストゥス様でございますとも、はい」
 即答でした。

 当然のことです。

 方や今日はじめて現れた一見の客。
 方や今日まで沢山の武器を納入し、店に莫大な利益をもたらした常連客。

 大切にするべき客はどう考えても後者です。
 たとえ、テオがその剣をタダで寄越せと言ったとしても、店主は喜んでテオにデルフリンガーを渡したでしょう。

「フハハハ、そら、コレでどうかね?店主は吾に売りたいと言っているぞ?」
「うぐぐぐぐっぐ」

 売られる前の段階ではその剣の所有権は店主にあります。
 どんなにルイズがいやがっても、店主がテオに売りたいと言えば、それを覆すすべはルイズにはありません。

『おい待て!俺は使い手に・・・!』
 
 デルフリンガーが何かを言おうとしますが・・・


 カチン!
「こうやって鞘に入れれば静かになりますので、はい」
 そう言って店主は鞘に入ったデルフリンガーをテオに差し出します。

 テオはそれを受け取ると、
「貴様と吾では格が違うのだよ」
 そう言いながらテオは帰ろうとしますが…その時、店のカウンターに美しい剣が置かれていることに気が付きました。

 先程サイトがほしがりながらも買えなかった剣。
 シュペー卿の作った剣です。

「ほう、なかなか美しい剣ではないか…それ…買おうとしていたのか?」
「そそそそ、そうよ!まあ、まだ決めたわけじゃないけれどね!」
「え…先刻無理だって…」

 サイトはそれをいおうとしますが、ルイズはバチンとサイトの口を塞ぎます。
 金がなくて剣が買えなかったなんて、情けなくて言えません。

「そんな物が良いのならば、吾が一つくれてやろう」
「え?」
 テオのその言葉に、サイトは声を一転させました。

「まあ、待ってろ。ええっと材料は…ああ、このレンガで良いか…」

 そう言いながらテオは崩れかけたレンガをひとつ手に取ります。

「さてさて、1を減らし2を足して、15を12にして…」
 そう言いながらテオはレンガを材料に錬金し、そして、それを剣の形へと変えて行きました。
 
 目の前で作られる剣に、サイトもルイズも、店主さえも見惚れました。
 なにせ、その手際ときたら、まるで菓子職人の達人が飴細工を作るかのように巧妙なものだったのです。

 そして瞬く間にその剣は出来上がりました。

 それはまるでサイトが今まで見てきたゲームの中に出てくる最強の剣のように、美しく輝いておりました。

 銀色に輝く刃。
 美しく彩られた柄には宝石が散りばめられ、
 グリップにも美しい模様が象眼細工で描かれています。

「どうだ、美しいだろう、こった装飾、散りばめられた宝石そして純銀の刃だ」
「凄い…」
 思わずルイズがそう言いました。
 貴族であるルイズですら、そんなにも美しい剣は見たことがなかったのです。

「こ…これ、本当にくれるのか?」
 サイトは信じられないという声を出します。
 そこに最早デルフリンガーを横取りされた怒りは含まれていませんでした。
 サイトに取って。その剣はどう考えても先ほどの喋る剣よりも魅力的なものだったからです。

「ああ、あげるよ?」
「大丈夫か?後で謎の高額請求とか来ない?」

「来ない来ない。タダでくれてやるさ…そういうのが欲しかったのだろう?」
「おう!なんだか勇者になったような気分だ」

 そう言ってサイトはその剣を手にとり、数回素振りを始めます。

「まあ、喜んでくれて何よりだよ」

 銀の剣は、それなりに精神力を消費します。
 簡単に作ったように見えて、テオは結構な精神力を込めて、それを作ったのです。


 しかし



「簡単に曲がるなまくらだがな」


「「え?」」

 テオの一言に場が凍りつきました。

 銀は柔らかいのです。
 ですから普通は他の金属を少し混ぜるのですが、それは完全な純銀だったのです。
 つまりソレは、そこらの石でも簡単に傷が付くような柔らかい剣でした。

「そこにある剣にしろコノ剣にしろ、そもそも実戦用のものではない。観賞用だ。それを戦いに使おうというのだから、たいした勇者もいたもんだ」

 サイトは剣なんてものをフィクションでしか知りませんでした。
 大抵のフィクションでは、剣は見た目が美しい程に良いものですが、現実は違います。

 装飾が豪華で有る事は必ずしも実用性に富む物ではありません。
 むしろ装飾に金をかけるぶんを、品質に回すべきですので良い剣は質素で見た目が地味だったりもします。

 それなのに見た目に騙され、実戦に向かない剣を手にするサイトをみて、テオは実に楽しそうな表情をしています。

「中身が伴わない貴様にはふさわしい武器だろう?せいぜい使ってくれたまえよ」
「グ!」

 サイトは文句の一つも言おうと思いましたが。
 そもそもテオの剣で喜んだのも、剣の良し悪しがわからないのも事実でしたので何も言い返せません。
 それにテオはタダで剣を与えているのです。
 タダで物をもらっておいて、そこに文句が言えるほどサイトは傲慢にはなれませんでした。

 ただただ唇を噛み締めて、悔しさを誤魔化すばかりです。


 そんなサイトの悔しそうな顔を見て、テオは満足そうに笑います。


 そして、
「ハッハッハ。ハーハッハッハ」
 テオは高笑いをしながらその店を後にしました。







 しかし、テオは気がついていません。

 見た目が綺麗なだけな剣ですが。
 それはそれでかなりの価値があることに。
 なにせ純銀です。

 それでもってその剣を物欲しそうな顔で見ている武器屋の店主が居ることに。


 そして、サイトたちがその剣を店に売っぱらい、そのお金で実用性のある剣を買う可能性を…



◇◆◇◆



 その日の夕方。

「ふんふふふんふ~ん♪」

 魔法学院の男子寮。殺風景な部屋に楽しそうな声が響きます。
 テオは楽しそうにデルフリンガーの鞘を磨いていました。

「テオ楽しそう」
 ベットに転がりながら、エルザがそう言いました。

「楽しいさ、アイツらが手に入れる寸前にこの剣が手に入ったのだからな」
「テオ、本当にあのサイトって人が嫌いなのね」

 剣を横取りするのがそんなに嬉しそうになるほどに、テオはサイトのことが嫌いなのかとエルザは思いました。
 しかし、テオは首を横に振りました。

「ははは、まあ、ソレも間違いではない。が、吾は純粋にこの剣が手に入った事が嬉しいのだ」
「でも、そんなボロボロの剣、それ本当に欲しかったの?」
 エルザはソレこそ信じられないといった声を出しました。
 なにせテオが磨くその剣は何処から見てもみすぼらしくて、ソレこそ、テオが片手間で錬金したもののほうがよっぽどかマシなように思えました。

「いやいや、こう見えてこの剣は中々に良いものだよ」
「そうなの?」
「ああ、だが本当の価値は、この剣の良し悪しではないのだ」
「違うの?」




 テオは少し考えて、エルザに言いました。




「吾はな、運命に抗いたいのだな。そんなものは無いという証明として、吾はコレを手に入れたのだよ。これはあの男の手に渡る運命で、我はそれを潰したわけだ、そしてその事実が嬉しいのだな」
「あのさ…テオ」
「なんだ?」
「ウンメーって…何?」

「…」
「…」

「いや、すまん。その返答は予想外…」

 テオはエルザが運命と言う言葉を知らないことに驚きましたが、それは別におかしなことではないのです。
 運命という概念はなかなか自然発生するものではありません。
 説法や書物、演劇や恋愛論で良く耳にするその言葉も、日々を生きるのに精一杯の平民たちは、知らずに居ることも多く。運命という概念を思いつくことも、聞くこともしないまま一生を過ごす者も平民には少なくはないのです。
 平民の中で生きてきたエルザもまた、運命を知らずに今日まで生きてきた一人でした。

「ええっと。運命とはだな、宿命と言うか道筋と言うか。つまり、未来は決められていて、我々がどうあがいてもソレが変えられないようにできている…という考え方かな」
「未来って決まってるの?」
「まあ、そういうふうに考えるのが運命だ」
「じゃあ、私が明日死ぬ運命だと、どうしたって助からないの?」
「まあ、運命とはそういうものだなあ」
「ええ!?そんなのやだよ!」

 とても嫌そうな顔をしながらエルザは答えました。

 それに対してテオは笑顔で答えます。
「だろうな、吾も嫌だ。可能性が一つで、未来が決定してるなんて信じたくはない…だからこそのこの剣だ」
「???」

「つまりコレは証明なんだ、運命は絶対で無いことの、未来が変わることのな」
「ええっと…よくわかんないけど、この剣を持っていると運命ってのが変わるの?」

「というか、すでに変わったのだよ。そして、吾はソレが嬉しいのだ」
 そう言ってテオはデルフをポンと叩きました。

「う~~~~ん……よくわかんない」
 エルザはテオの言っている言葉が今ひとつ理解できませんでしたから、ソレを正直に言いました。
 知ったかぶりをすることも出来ましたが、ソレはあまりテオが好まないと考えたからです。
 

「まあエルザには難しかったかな…」
 そう言いながらテオはデルフを鞘から取り出しました。

『畜生!コノヤロウ!俺を使い手に渡しやがれ!!』
 途端、剣は大声でがなりたてます。

「はっはっは!お断わる!」
 そしてにべもなくテオはソレを断ります。

『何だって俺を買ったりしたんだ!!』
「店主が吾に売ったからだ。恨むべくは吾ではないぞ。店主の信用のないその使い手とやらを恨むべきだ」

『コノヤロー!絶対に戦闘の手伝いはしてやらないからな!むしろ邪魔する!』
「吾メイジだから全然構わん。っていうか持ち歩かないし」
 テオ自身はメイジです。デルフリンガーを持ち歩く必要がそもそも無いので戦闘の邪魔と言われても全く堪えません。

『夜な夜な鞘をカタカタいわせてやる!!』
「何!!それでは安眠できないではないか!!!」

『嫌だったら俺を使い手に渡しやがれ!』
「そっちがその気ならこっちにも考えが有る。貴様を、玉ねぎと一緒にピクルス液に漬ける!」
『お前やっていいことと悪いことがあるだろ!!』
 テオの発言にデルフはわかりやすく怯えた声を上げました。

「臭くなるぞ!酸っぱくなるぞ!隙間にアニスの種が入り込んだりするぞ!最終的には黴るぞ!!誰も触ってくれなくなるぞ!!!」
『なんて恐ろしいことを!!』

「悔しかったら美味しくなってみろー。コノ鉄の塊が!」
『チックショー!!』

 デルフリンガーとテオの幼稚な言い争いを聞きながら。




 エルザは、

「テオ…本当に楽しそう」

 と思うのでした。


◆◆◆用語解説

・クラム
 別名『たらふく』
 携帯食料の一つ。
 ビスケットのような外見だが、特別美味しいものでは無いらしい。
 本当はレンバスと書きたかったが、それはエルフの食べ物なのでこちらにした。

・ポレンタ
 こちらは実在する食べ物。
 とうもろこしで作ったマッシュポテトのような物。
 料理の付け合わせとすることも多いが、主食とすることも多い。
 販売する際は粉状で売られている。
 現在でもイタリア北部やスイス、フランスやドイツの一部などで一般的に食べられてる。
 本来とうもろこしはアメリカ原産でヨーロッパには無く、大航海時代にヨーロッパに持ち込まれたものだが、同じくアメリカ原産のかぼちゃがアニメであったので、たぶん問題無いと思う。

・裸マント
 ごく一部のフェティシズムの持ち主にはたまらないらしい。
 吸血鬼系のイラストでかかれることが多いコスでもあり、そういう意味ではエルザがしてもまったく違和感が無い。・・・違和感が無い。

・グランギニョール
 本当はグランギニョルの言葉ができあがったのは19世紀以降なのだが、それ以前におけるホラー演劇をなんと言うのかわからないのでここでは便宜上グランギニョールとしている。作中で伸ばし棒を追加してるのは気分。
 ちなみに、テオが一番好きなのはもちろんグランギニョルだが、それ以外の演劇も好き。
 悲劇、喜劇、大衆演劇、軽演劇、トラジコメディー、バーレスク、全部好き。

・人形劇
 嫌われ者のがま王子が、ザリガニ魔人を倒すべく奮闘する話。

・『ご主人様大泣きでSHOW』
 世にも珍しい人形劇に泣きまくるメイジが見れるショウ。
 見物料は大人2スウ、子供5ドニエ。
 見た人の大半が「唖然」とする衝撃の内容だった。

・バタ
 バターの事。

・売れ行き
 実はテオはトリステインの各小売店に偏りなく定期的に商品を卸している。
 この武器屋だけではなく、トリステインの殆どの武器屋にもである。
 一番の理由はコネクションと情報収集のため。
 全ての店舗に製品を下ろすことで、業界全体にテオの顔が効くようになる。
 例えばテオの武器の偽物が出まわるとする。
 その時、そんな製品を扱えばテオから二度と商品を卸してもらえなくなるので、店舗が主体で偽物を作ることはありえないし、偽物の買取はしない。各店舗はむしろ率先して犯人探しを行い、テオの信用を失わないように努力するだろう。
 テオという存在は、最早トリスタニアの共有財産になりつつあるのだ。

・テーラー
 テイラー、つまりはCSI:NYのボス、9.11で妻を亡くし、仕事にのめり込みがちだが、その冷静な判断力に部下からの信頼はあつい・・・の人ではなく、
 仕立屋のこと。服を作ってくれる人もしくは店を指す。


・寸法
 現在のように既製服が一般的になったのは19世紀前半にミシンが発明されてから。
 この世界の被服産業がどのようなものかは不明だが、平民などはそんなにお金をかけられないからその殆どが自作及び古着。恐らく骨董市のように古着が売られている物を買うのが一番手っ取り早かったと思われる。
 一方裕福層ではじっくりと、ねっとりと、採寸され一つ一つパターンオーダーの可能性が高い。ましてや超高級品になるとそれこそミリ単位の採寸が行われ、当然服の上からではなく素っ裸採寸。
 テオは紳士ですから、ようじょの裸をジロジロ見たりしないのデス。

・観賞用の剣
 別に珍しいことではなく、観賞用の剣やナイフは世界各国にある。
 ある意味では日本刀もその一つ。
 江戸時代、戦闘行為をすることのない人間も、役職や身分の象徴として日本刀を持った。
 海外の例では洋剣の代表とも言えるレイピア。
 ブロードソードやサーベル、スモールソードが普及し、レイピアの実践的価値が無くなった後も、騎士道精神の象徴として、芸術品的な扱いをされた。
 大抵それなりに実用性も付随しているのだが、完全にナマクラな物も珍しくはない。
 
・銀
 実は純銀のモース硬度は2.5。これは人間の爪と同程度の硬度。装飾品としてならばまだしも、剣としては使えない。
 まあ、コレはあくまで刃物として使う場合であり、質量はあるし割れにくいので棍棒としては結構使い勝手は良いかもしれない
 ちなみに鉄のモース硬度は4。鉄に炭素を混ぜた鋼は硬度5~6程度。
 
・運命
 運命が変えられるかどうか。
 諸説あるが、エヴェレット的解釈では、選択の数だけ運命が存在する。
 非常に良く使われる言葉だが、突き詰めて考えるとラプラスの悪魔だとかシュレディンガーの猫とかいろいろとめんどくさい魔物が現れる。

・ピクルス液
 ピクルスを漬けるための液。
 酢漬けタイプもあるが、乳酸発酵によるものもある。
 後者の場合、乳酸菌による黴のようなコロニーが形成されることがある。

・アニスの種
 スパイスの一種、八角に似た甘い匂いがする。コンスタントにピクルス液に入っていると言うわけではないが、入っていることもある。

・鉄の塊
 漬物と一緒に鉄を入れだらナスの色がよくなる。


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