「……無難に、生徒手帳なんてどうだ」
「シモベ様。先程とはテンションが大違いでございますのです」
数分で復活した俺は、未だに顔が赤いころんにそう声をかける。ころんもそれには納得したようで、生徒手帳をマーロー君の口に入れた。
『聖花ころん……魔力反応……ゼロ。……ごみめ』
「あーん、残念」
マーロー君口が悪すぎるだろ。思わず口元が引きつる。
「クックック……ゴミ虫……ヤムチャ以下」
「お前も訳の分からんことを言うな」
ぺしとクロを叩く。
「申し訳ありません! ここは死んでお詫びを!」
「だから、せんでええ!」
今度は鎌をはたき落とす。全く失敗する度に自殺しようとするなんて、面倒な悪魔だ。クロをジト目で見やると、クロは冷や汗を浮かべ咳払いをして話題を元に戻す。
「まあ、ころん様が魔女という可能性はなくなりましたのです。遠慮なく協力していただるということでございますのです」
「うーん、魔女じゃなかったのは残念だけど、魔女探しは頑張るよ! ユキト隊長!」
ビシッと敬礼を決めるころんの頭を俺は撫でてやる。
「えへへ……って時間がまずすぎる! ユキちゃん、そろそろ教室にいかないと!」
あらら、もうそんな時間か。
「俺はこのマーロー君を片づけるから、先に行ってろ……ってか学年が違うか」
「分かった! じゃ、ユキちゃんまた後で!」
そう言い残して、ころんはぴゅーっと屋上を後にした。はえーな、アイツ。
俺も転校初日の貴重なイベント、女の子からの質問責めタイムを遅刻によって減らしたくないし、さっさと片付けよう。
「って、なんかマーロー君の顔が青ざめてないか」
片づけようとマーロー君を見ると、彼(?)は気持ち悪そうにうぷっと呻きながら痙攣していた。き、気持ち悪い……。
『うげええええ……ゲロッ!』
「うわぁ! きったね! なんか吐きやがった!」
ゴトッと粘液塗れの石板が落ちてきた。クロはそれを見ると、やっと来たかとばかりの表情になった。
「天使界からのモノリス通信……魔女の情報が書いてありますのです」
「へえ、って石版って何時代だよ」
「スミマセン、ウチの天使としての力が弱いばかりに……ここは死んでお詫びを!」
「で、その板には何て?」
「スルーでございますか」
クロと一緒に石版を覗き込む。
「かい……ちょうと書かれていますのです」
「かいちょう……会長か。妥当に考えれば、生徒会長だけど」
俺は、右上の魔女容疑者の写真を見る。その瞬間、股間のセンサーが熱く脈動し体中の臓器から血液、細胞に至るまでが歓喜の雄叫びをあげ震えた。
「完璧な美少女じゃねえか! くぅ、燃えてきた!」
「シモベ様は欲望に忠実でございますのですね」
そんなこんなしている内に、始業の鐘が鳴り響いた。あぁ、やっべえ教室に急がないと!
**
急げ急げっ!
廊下を全力疾走で駆け抜ける。貴重な質問タイムが、女の子との語らいを減らしてたまるものか!
「シモベ様、センエツでございますのですが」
「何だ?」
「ご自分のクラスは分かっているのでしょうか」
…………。
「やべっ、忘れてた! 俺クラス分かんないじゃん!」
「……シモベ様」
呆れた目で見てくるクロの視線が痛い。クソッ、こうなりゃ教室一つ毎に顔出してみるか?
「ちょっとそこのあなた! 始業のチャイムはなったわよ! こんな所で騒いでないで、さっさと教室に戻りなさい」
振り返ると、そこには美少女がいた。
ピンク色の髪を腰まで下げ、チャーミングな太眉を寄せて子どもを叱るように腕を組んでいる。俺は、そんな彼女に目を奪われていた。
な、なんて殺人的なスタイルなんだ。ボンキュボン、功守ともに素晴らしいスタイル。ただでさえ大きいおっぱいが、腕を組むことによってさらに強調されている。
これは……たまらん!
「ずっとまえから好きでした! 俺と付き合ってくださーい!」
「えっ、ちょっ」
美少女に飛びかかるが、さっと避けられてしまい俺は壁に激突した。
「ふぎゅ」
「な、なんて破廉恥な! あなた、学年とクラスと名前は!?」
「……分からないっす。今日転校してきたばかりなんで」
「……じゃあ、あなたが長瀬ユキトくん……? な、なんてこと。こんな破廉恥な人と同じクラスになるなんて」
美少女は目に涙を浮かべ、固めた拳をフルフルと震わせていた。そして、ビシッと俺に指を突き立てると、声を大きく張り上げた。
「長瀬くん! 生徒会長として命令しますっ! このような破廉恥な行動は控えること!」
なっ、この美少女なんてことを言いやがるんだ!
「そんな、あなたは俺に死ねと言うのですか!」
「バカ言わないでちょうだい! こんな破廉恥な行為認められないわ!」
「かわいい女の子に襲いかかるのは男の子の性じゃないか! あんたは男の子の煮えたぎるエロスに蓋を閉められると思ってんのか!?」
「か、かわいい……」
美少女は顔を少し顔を赤らめたが、すぐに頭を振って素面に戻った。
「とにかく、長瀬くん! 破廉恥な行為は謹むように!」
「ん……? そういや何であんた俺の名前知ってんだ」
「それは、わたしがあなたと同じクラスだからよ」
「同じクラス?」
「ええ。わたしは羽織くれは。あなたと同じクラスで、この学校の生徒会長よ」
俺とくれはの初会合は、このようにして行われたのだった。
会長のwikiを見てみて唖然とした。
『セクハラな行動をとってばかりいると、嫌われるどころか泣かれる』
…………。
どうしよう……?