体中が痛い。もう痛くない場所を探す方が難しいくらい痛い。満身創痍って言葉を身を持って体験した。
くれはとの勝負には勝ったが、俺の方がボロボロである。くれはが仰向けで倒れているので、その横によっこらせと腰掛ける。大きな二つのお山が呼吸する度に上下に揺れていて、思わずむしゃぶりつきそうになった。満身創痍でなければむしゃぶりついていた自信がある。
「さて、と。それで魔女だってことを認めるよな?」
「いやよ」
……はい? いやいやいや、何を言ってらっしゃるのですかこの方は。俺が何のためにボロボロになったと思ってるんだ。
「確かに私は勝負に負けたわ。でも、魔女だって認めるなんて言ってないわよ?」
そう言ってくれはは意地悪く笑った。どんな屁理屈だ。
「魔女なんだろ?」
「違うわ」
「魔女なんだろ?」
「違うわ」
「魔女なんだろ?」
「違うわ」
まるで、RPGで重要なイベントなのに「はい」を選ばない勇者とのやりとりを連想させる。畜生、ループさせる気か! だが、確かにこれは有効な手だ。魔女だと本人が認めなければ、魔女の証明にならない。うむう、どうしたものか。
「シモベ様。往生際の悪い魔女には、魔女の印を見つけて差し上げれば良いかと」
困り果てていた俺に、ふよふよと浮いていたクロがそう進言してきた。魔女の印、たしか魔女しか持たない痣で魔女を証明するモノだったか? くれはの体を舐めるように観察しても痣なんて見つからない。
「魔女の印なんてどこにもないぞ?」
「普段は隠れているのです。それを顕著させるために、魔女神判を行うのでございますのです」
「戦うことが魔女神判じゃないのか?」
「いえいえ。ここからが本当の魔女神判だ! でございますのです」
どこかで聞いたことのあるようなキャッチフレーズを言うと、クロは黒く無骨な腕輪を差し出してきた。
「それをつけるのでございますのです」
「こうか?」
俺は腕輪をつけてみる。
「ククッ、これでシモベ様は呪われてしまいました。その装備は外れませんよ?」
「てい」
「みぎゃああああ!!」
バカなことを言うクロの頭をハリセンダーで叩くと、オーバーリアクションが返ってきた。まったく、そんな痛くないだろうに。
「長瀬くん……その子の頭から煙が出てるわよ」
「……そういやコイツの名前は魔封印ハリセンダーだっけ?」
名前の通り、魔の類に強いのか? というか、クロは本当に天使なんだよな?
「ううっ、死ぬかと思いましたのです」
「知るか。さっさと使い方を教えろ」
涙目のクロを急かす。こっちは体力が限界なんだよ。
「使い方は簡単でございますのです。その腕輪を装備したシモベ様がくれは様を弄り、ドキドキさせればいいのです」
クロの言葉に俺とくれはは同時に吹き出した。
「ちょ、ちょっと! どういうことよ!」
「フォォォ! ご褒美だな! 頑張った俺に対するご褒美なんだな!」
「理由はちゃんとありまして。魔女であるならば感情が高ぶった時、魔女の印が浮かび上がるのです」
「なるほどなるほど。では、これは仕方ない行為なのだね?」
「ええ。ご自身で魔女だと認めていないようなので。ただしお互いにまだ未成年の身ゆえ、深い所まではなさらぬように」
くれはがこちらを睨んでくるが、こればかりは致し方ない。俺は動けないくれはを足を伸ばした状態で座らせると、後ろに抱きつくように座った。
くれはの柔らかい体が心地よい。汗まじりのいい匂いが俺を興奮させる。白くきめ細かい肌が俺を魅了する。
「な、長瀬くん? 本当にやるの?」
「当たり前だろ。くれはが魔女だって認めないんだから」
「くっ……それはそうだけど」
「だから、くれは諦めろ」
俺がにっこりと笑うと、くれははもぞもぞと体を動かした。本人は必死に抵抗しているつもりなのだろうが、疲れで思うように体が動かないとみた。
「それでは、魔女神判スタートでございますのです!」
さて、どこから攻めようか。童貞である俺はここですぐ胸にかぶりつきたいのだが、それは早計であるとネットのエロい方々が教えてくれた。まずはドキドキさせるための土台をつくらなければいけない。だからまずは様々な場所を触って弱点を見つけ、そこを重点的に責める。焦りは禁物、くれはがドキドキできるように心がけて。
ふうっと耳に息を吹きかける。くれははびくりと体を震わせたものの声を我慢したのか、んぅと呻いた。なかなか好感触と見ていいだろう。
今度はむちむちの太ももに優しくタッチを繰り返す。触れているのか分からない強さを心がけて繰り返していくと、んっんっと熱い吐息がくれはの口から漏れだしてきていた。くれはの頬も染まってきていて、声を出すまいとキュッと口を結んでいるのが可愛らしい。
ヤバいです。俺の息子も立ち上がってきた。調子に乗ってきた俺は、つつーと膝のあたりから太ももにかけて指を這わせる。ゆっくりと、なぶるように。
「あぁ……長瀬くん、ダメぇ……」
ついに我慢できなくなったのか色っぽい声をくれはが上げた。辛抱たまらんね! 思わず胸を鷲づかみもにゅもにゅと揉んでしまった。
「変態! ちょっと、やめなさい!」
「ご、ごめん」
返ってきたのは甘い吐息ではなく、キツい言葉。いかんいかん! 焦りは禁物だ。長く美しい髪の毛を撫でてみる。おぉ……さらさらだ。
「綺麗な髪だよなぁ……」
「あ、当たり前よ。毎日手入れしてるんだから……ひゃあ!」
不意打ち気味に耳を触ってみると、なんとも可愛らしい声が聞けた。涙目で睨まれても、俺はニヤニヤとしかできないよ?
グイッとくれはの体を胸に抱き寄せ、目を覗き込む。何も言わずじっと見つめながら、再び太ももに指を這わせる。
「や、やめて……」
弱々しい声が吐き出された。うむ、もっと触れと? 空いている方の手でくれはの手を握ったり、手の甲をさわさわと撫でる。それを繰り返すと、くれはの体温が上昇してきたのを感じた。ドキドキしているのだろう。額や首筋にうっすらと汗をかいていた。
「ハァ……ハァ」
悩ましげ息づかいで、大きく肩を上下させるくれは。そろそろお胸様を味見してもいいだろう。ぐへへと心の中で笑って、胸に手をかけようとすると、くれはの右太股に淡く光る痣が浮かび上がっていた。なんだよ、コレ。
「だ、ダメぇ! 長瀬くんそれは触らないでぇ……」
触るなと言われたら触りたくなるのが男の性。ためらいなくそれに触ると。
「ダメぇぇぇぇぇ!」
「マジョノシルシ、ハッケン!」
くれはの絶叫と、マーローくんの低い声が重なった。……重ねんなよ、石ころ。びくんびくんと震えるくれはを抱きしめながら、マーローくんを睨みつけるがマーローくんの表情は変わらない。うぜえ。
さてと、気勢が殺がれたけどこのたわわな果実をいただきますか。
「シモベ様、終了でございますのです」
「は?」
「ですから魔女の印を発見したので、これ以上触れてはいけないのです。ころん様、シモベ様をくれは様から離してくださいませ」
「了解であります」
「な、なんだとぉぉぉ!? や、やめろぉぉぉころんぅぅ」
無慈悲にもくれはから離された俺は、やりきれない思いを隠せずにいた。それに同調するように、息子も萎れていく。
「はぁ、はぁ……。私は魔女じゃない……」
「そう言われましても、立派な証拠が出てますので。シモベ様のシモベとしての、魔女契約をさせていただきますのです」
クロがぶつぶつと呪文を唱えながらの右手がくれはの額にかざすと、クロの手のひらから青く光る文字のようなものがくれはの額の中に入っていく。
「な、なにを……」
「魔女を捉え従わせる魔女契約を完了しましたのです。天使界の決まりで魔女を管理しなければなりませんので」
まだ息が整っていないくれはにクロがつげた。
「別に正体をバラして回ることはございませんのです。これ以上なにもしませんし」
「信じられないわ」
ようやく呼吸が正常に戻ったのか、くれははクロに言った。
「あなたどう見てもアクマだし、信じろという方が無理よ」
「うぐっ、ウチはこれでも天使なのです。ウチがさっき言ったことは信じるも信じないもあなたの自由でございますのです」
「だそうだ。なあ、くれは。ここは俺に免じて信じてやってくれ」
「……余計に信じられないんだけど」
酷くないか!?
あ、そうだ。くれはにまだ聞いてないことが。
「くれは。お前どうして魔法が嫌いなんだよ」
「……いいわ。話してあげる」
観念したのか、ふぅとため息をつくと立ち上がった。
「でも、その前に着替えさせてもらうわ。屋上で待っててもらえるかしら? そこで話をするわ」
「そう言って逃げるつもりでは?」
「あ、じゃあころんがくれはさんと一緒にいるよ! それでいいでしょ?」
「そうだな……じゃあ、屋上で待ってるか」
**
屋上についたくれはところんとベンチに座って談笑していると、太陽がが地平線の彼方に隠れようとしているのが目に入った。俺はしゃべるのを止め、夕日が沈むのを眺めた。くれはもころんも同じようにその風景を眺める。
やがて太陽が完全に沈むと、今度は空を見上げる。真っ暗な夜空には、目を凝らせばうっすらと星が見えた。都会で星は見れないと言われて久しいが、星は見れないわけではないのだ。この景色を素直に美しいと思った。
「私は羽織家にふさわしい人間になるためにずっと努力してきたの」
ポツリと、くれはが言葉を漏らした。チラッと彼女を見ると、夜空を見上げていた。意識しないで出た言葉なのかもしれない。
「誰よりもってわけじゃないけど、努力は惜しまなかったわ」
「知ってるよ。くれはさん、いつも遅くまで部活を頑張ってるもん!」
「でも魔法が使えるって知られたら、私の頑張りはみんな魔法のおかげだって思われるわ!」
なんとなく、くれはの言いたいことが分かった。世間からしたら魔法は万能なモノだと思われている。魔法がバレたら、どんなことをしてもどうせ魔法(ズル)をしたんだろと思われるだろう。それは、くれはの努力(積み重ね)を打ち砕くことに等しい。どんなに頑張っても、魔法が使えるから出来たんだと言われてしまうから。
「だから、魔法が使えるって分かってからずっと隠し通していたのよ。まあ、窮屈に感じたときは鳥になって空を飛んでたの。……他に方法が無かったし」
「そうだったのか」
ガス抜きとしてくれはは魔法を使い、空を飛んでいた。鳥のように、しがらみなく自由な時間を求めて。思わず笑ってしまう。
「なにがおかしいのかしら」
「いやあ、案外普通の理由だったなって。やっぱり可愛いな、くれは」
「な、な、な」
俺は立ち上がり、くれはの前に立つ。
「な、くれは。今度遊びにいこうぜ」
「え?」
「空を飛ぶことしか退屈を紛らわせる方法を知らないんだろ? なら、俺が他の方法を教えてやるよ。空を飛ぶ以外にも楽しいことが沢山あるんだって」
ゲーセンとかカラオケとかボーリングとか。お嬢様なくれはには知らないことが多いだろう。くれはは一瞬呆けたようにきょとんとすると、満面の笑みになった。
「期待しておくわ」
「あのぅ……くれはさん。くれはさんには出来ましたら魔女探しにご協力下さいませんか?」
クロの申し出に、くれはは頷いた。
「いいわよ。わたしのことを黙ってもらう訳だし、会長として学園の魔女を把握する必要があることだし」
「いいのか? くれはの負担が増えるぞ?」
その言葉に、くれはは意地悪く笑って答えた。
「あら? わたしが疲れたら、遊びに連れて行ってストレスを発散させてくれるんじゃなくて?」
ニヤニヤと俺の顔を覗き込むくれは。その姿が凄く俺の心を揺さぶって、俺も思わずニヤリとしてしまう。
「そうだったな。よろしく頼むぜ、くれは」
「ええ。これからもよろしくね、長瀬くん」
こうして、俺は一人目の魔女を見つけることが出来た。
これから先、どんな可愛い女の子との出会いが待っているのだろう。そう遠くない未来のことに思いを馳せ、俺は遠足を待つ子供のように胸を高鳴らせるのだった。
第一話・完
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あとがき
無事、羽織くれは編が終了しました。いかがでしたでしょうか? 話に整合性を持たせるため、ところどころに原作にはない展開を散りばめました。
さて、次の第二話はみんな大好きメイドさんのソフィがメインの話になります。原作2(デュオと読む)では、ソフィの話から前作のヒロインたちが登場して重要なイベントを担っていくのですが、このお話は主人公が違うため出てきません。そのため、原作にはない展開になってしまうのをご了承ください。
また、このSSを読んで原作に興味を持つ方が増えてくれたら幸いです。
ししめい