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No.34356の一覧
[0] 【ネタ】単細胞からやり直せ!【SPORE二次/にじファンより移転】[大豆](2012/08/04 12:53)
[1] 細胞フェイズ2[大豆](2012/08/04 12:54)
[2] 細胞フェイズ3[大豆](2012/08/04 12:55)
[3] 細胞フェイズ4[大豆](2012/08/04 12:55)
[4] 細胞フェイズ5[大豆](2012/09/27 21:32)
[5] クリーチャーフェーズ1[大豆](2012/08/04 12:56)
[6] クリーチャーフェーズ2[大豆](2012/08/04 12:57)
[7] クリーチャーフェーズ3[大豆](2012/08/04 12:57)
[8] クリーチャーフェーズ4[大豆](2012/08/04 12:58)
[9] クリーチャーフェーズ5[大豆](2012/08/04 12:59)
[10] クリーチャーフェーズ6[大豆](2012/08/04 12:59)
[11] 集落フェーズ ここに在りて[大豆](2012/08/04 13:01)
[12] 集落フェーズ ここに在りて2[大豆](2012/08/04 13:01)
[13] 集落フェーズ ここに在りて3[大豆](2012/08/04 13:02)
[14] 集落フェーズ ここに在りて4[大豆](2012/08/04 13:03)
[15] ここに在らざるどこかへ[大豆](2012/08/04 13:03)
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[34356] クリーチャーフェーズ3
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:1d79d764 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/08/04 12:57

 ミズオがいる世界は地球と異なる部分がある。特に動物は、地球のそれとはかなり違う。
 動物はその特徴から幾つかの世代に分けることができた。

 最初に発生した生物は、地球とほぼ同じ歴史を辿ってきた。この生物群を第一世代とする。
 生物の進化に異物が紛れ込んだのは、恐竜たちを絶滅させた隕石に含まれていた物質のせいである。
 それは多くの場合即座に分解されたが、ある一匹の原始的な微生物は分解される前のそれを取り込み、取り込んだことによって変化を起こした。姿かたちの変化ではなく、その遺伝子の変化だ。
 その変化によってその微生物は高頻度での分裂を可能にし、やがて分裂の過程で環境に適応することを覚え、果たして分裂した個体たちが多様な姿をとるようになる。分裂した個体たちは互いに交配し、さらに多様性を増しながら世界に蔓延る第一世代の隙間を縫うようにひっそりと、しかしじわじわと生活域を広げていった。
 この特異な微生物を始原とした動物群が、第二世代だ。

 そして第三世代。ミズオ達の世代。
 彼らは第二世代が産んだ子である。
 第二世代の生物たちは、計ったかのように同じ時期に子どもを産んだのだ。まるで遺伝子に予定表が組み込まれてでもいたかのように。

 第三世代が親から引き継いだ環境適応性能は著しく強化されていた。短時間に進化とも呼べる変化を起こすほど。
 その適応能力を除いても、第三世代は、生物として異常な能力を持っていた。

遺伝子を遺伝子として直接取り込むことを可能とする吸収能力。
取り込んだエネルギーを即座に身体構造へと反映させる栄養の変換効率。

 異常な成長速度の代償として寿命が極端に短かかったが、その欠点も近しい種と遺伝子を混ぜ合わせることで対処は可能であり、しかも遺伝子の混ぜ合わせによって、第三世代の生物はより上質な遺伝子を獲得する機会を得る。

 こと成長に関しては他の追随を許さぬ生物となったのだ。

 しかし産まれたての第三世代はこの上なく脆弱であった。
 様々な環境下にあった第三世代たちはあっという間に死んでいき、唯一生き残ったのは、適度に栄養がある、熱くも寒くも無い水の中で産まれた者だけだった。


 そして今。
 第三世代が、世界中の池から、湖から、川から、沼から、あるいは些細な水たまりから、多少の前後はあれどほぼ同時期に地上へ進出してきていた。
 体の成長に比例する栄養の不足を補うための新天地への進出であったため、彼らの体の大きさはほぼ同じだ。
 だが彼らはすぐに大きくなって、地上の生態系のピラミッドを上へ上へと登り始めるに違いない。

 これを受けて、今までゆっくりと変遷していた地上の生態系は激動の時代へと突入することになる。
 種の繁栄か、絶滅か。
 生存戦略と運が良ければ、生き残ることが出来るだろう。











 交配によって変化したミズオの体はとても軽やかで、空を飛ぶことさえできそうだと思った―――――のも今は昔。
 ミズオの息は切れ、体からは分泌液がダラダラと汗の代わりに滴り落ちていた。
 覚束ない足取りであっちにフラフラこっちにフラフラ、たまに蹴躓いて転びそうになるほどだ。

(た、体力ねぇな…俺……)

 スタミナ切れになるほどの激しい運動が可能になったということでもあるので、悲観すべきことではないのだが、現在苦しいことに変わりはない。
 もう少しでエイリアンもどきたちの巣である。息の切れたまま行くのも忍びない。それに着いたら着いたで、姿の変わったミズオもミズオなのだと説明しなければならない。おもに踊りで。
 ちょっと息を整えていこうと、ミズオは立ち止った。

 気づけば辺りを薄く闇が覆っている。
 夕陽の残光が木々の幹に深い陰影を刻み、地面に生えた草がサワサワと風に揺れている。だんだんと呼吸も落ち着いてきて、大きく息を吸うとミズオの体も森の織りなす闇の中に溶け込んでいくようだった。
 辺りにはぼんやりと粉っぽい土の匂いが漂っている。

(そういえば、鼻ができたんだっけ)

 同属との交配によって起こった変化はたくさんあるのだが、嗅覚の獲得もその一つである。
 自覚ついでに、ミズオはヒクヒクと鼻を動かす。
 草の青々とした匂いに、霧の残滓の湿っぽさ。緩やかに吹く風に混じってどこからともなく甘い花の香りが届いてくる。

 そして、その中には違和感丸出しの、ある意味で嗅ぎ慣れている匂いが混じっていた。


 カレーの匂いである。


(な、なんで……?)

 何故こんなところで香ばしいスパイス臭が。つんと鼻を指す懐かしい匂いに困惑していると、条件反射の如く胃袋が鳴った。

(どこから来てる…? ていうか、ああ、腹が減ってきた!)

 混乱もそのままに、ミズオは引き寄せられるように臭いの元へと歩いていく。

 柔らかい土を踏み、茶色くなった葉を押しのけ、枯れて乾燥した草を踏み越えて……

 進むうちにどんどんどんどん匂いは濃くなる。カレーの匂いだと思った物は今や刺激臭のように鼻孔を指す。
 ミズオはとうに正気に戻っていたのだが、ここまできたら正体を確認した方がいいと、会えて歩を進めていた。

 やがて赤い煙を目に捕らえて、ミズオはサッと血の気が引くのが分かった。

(ナッツたちの巣の場所じゃないか!?)

 もう、ゆっくり進んでいる場合ではない。ミズオは地を蹴り駆けだした。
 耳元を草々が通り過ぎ、足は硬い石か何かを蹴り飛ばし、沈みゆく夕焼けが最後の足掻きと、ミズオの行く末を照らしている。
 どうしても不吉な予感がぬぐえない。

 果たして巣に辿り着くと、そこには背伸びしたミズオの100倍はありそうな長い亀裂が地に刻まれており、シュウシュウと間欠泉のように赤い煙が噴き出していた。
 そして煙に巻かれたナッツたちピーナッツ頭のエイリアンもどきが、半狂乱になりながら、巣の内外を走りまわっているのであった。

「ナッツっ! ………ちくしょう!」

 目が痛みそうな酷い刺激臭の中、ミズオは煙の中に飛び込んだ。赤い煙は直に浴びるととてつもない激痛であった。彼の身を覆う分泌液の膜を軽々と突きぬけ肌を焼く。吸った煙が喉を焼く。
 まるで毒。

 赤い、まるで火の中に飛び込んだような景色の中で、ミズオは周囲を見渡した。何も見えない。

「どこだっ! ナッツ! 聞こえるかっ!?」

 聞いても理解できないとは分かっていたが、それでも叫びながら走り回る。
 ここはまるで地獄だ。一寸先も見えぬ濃度で毒の霧が立ち込め、そしてそれはどんどんと濃くなって行く。エイリアンもどきたちが悲鳴を上げつつ、狂ったように走り回る。

 横合いから飛び出してきたピーナッツ頭を蹴り飛ばしそうになって、ミズオは悟った。

――――――闇雲に探していたら絶対に見つけられない! 助けられないっ!

 何匹かは、すでに動きを悪くしている。時間がない。
 もう助ける策は一つしか思い浮かばなかった。
 ミズオは踵を返し、煙の薄いところまでやってきた。避難したわけではない。あの煙の中でしても意味のない行為をこれから行うのだ。

 ミズオは大きく大きく息を吸う。それは薄まったとはいえ煙を含んでいたため、彼の肺を焼き喉を焼き、大きすぎる刺激に血が滲みでた。
 でもそれぐらい構わないのだ。助けられなかった方が、きっとずっと後悔する。

 ミズオは叫んだ。口の端から血を流しつつ、全身全霊を込めて。

「――――――――――――ッ!」

 ビリビリと己の体が震えるような渾身の叫びであった。強化されている喉から出た叫びが、雷のように大きく響く。
 痛みに涙さえ流しながら走り回っていたエイリアンもどきたちは驚いたように跳び上がり、一瞬体の痛みを忘れたようにこちらを向いたようだった。

(こっちだ! こっちに来い! もしくは逃げろ! 俺を恐れて、遠くへ逃げろッ!)

 もう一度ミズオは吠えた。あるいは嘶いた。とにかく腹の底から声を出し、後ろの脚二本で立ち上がってさえ見せた。

 多くのエイリアンもどきたちは、交配で大きくなっているミズオを恐れて逃げだして行く。慌て過ぎて前のめりにこけた個体がわしゃわしゃと足を蠢かせ、なんとか立ちあがって駆けていく。

――――――これで恩返しになるだろうか。

 去っていく彼らを見つつ、ミズオは考える。結局こちらに寄ってくる奴はいなかった。ナッツも行ってしまった。ミズオの姿は丸っきり変わっているのだ。分かるはずがないのだ。仕方ない。仕方ない。

 ミズオは痛めた喉で咳をして、己も煙から離れるために踵を返す。
 途中、ナッツに取ってやった果実を見かけ、前より長くなった首で楽に届くそれを捥いで口に含む。
 得られる栄養は十分にミズオを満たしたのだが、あんまりうまくないな、とミズオは思った。













 エイリアンもどきの巣を跨ぐ様に忽然と現れた、赤い煙を噴き出す亀裂。
 その特徴的な匂いからスパイス間欠泉と呼ばれるようになるそれは、この後大陸中で散見されるようになる。
 生物に著しい悪影響を与える煙は、文明が発達して利用価値が分かるまで、生物を遠ざける毒霧と化し、生きる物は植物さえも枯れ果てて、スパイス間欠泉のあたりは不毛の土地と化していく。

 吐き出される煙の量は留まるところを知らず、やがてミズオの巣の方にもその香りが届いてくるようになった。何度か足を運んでその勢いを見たミズオは、煙が蔓延するのも時間の問題だろうと推測する。
 ミズオの鼻はその匂いに敏感になったようで、チクチクとした刺激を感じていた。

 今日も、ミズオはその匂いを嗅いで目が覚めた。陸上の体は脳が大きくなったせいか睡眠を必要とするようになっていた。
 だが寝覚めは最悪だ。匂いは日に日に濃くなってきている。
 なんだかナッツと楽しいことをする夢を見た様な気がするのに、一発で忘れてしまった。


 溜息を吐きつつ周りを見渡すと、ミズオと同じ姿の同属がさらに数を増やして7匹寝ている。元の姿のままだった同属も、ミズオが産んだ同属と交配して今の姿となった。
 ツチノコみたいになった二匹の個体もいる。その内の一匹が目を覚ましたようでテレパシーを送ってきた。

“さむい”

 体が冷えたのかぬるぬる這ってきてミズオの体に絡みつくツチノコもどきの鼓動を感じつつ、ミズオも立ち上がった。
 ぼて、と落ちるツチノコもどきを尻尾でくすぐりつつ、岩に降りた朝露をなめとる。
 小さき身ゆえ、それだけで喉が潤った。あの時負った喉の痛みはすでに回復している。

 ここは安全だ。岩に守られて外界からは見えにくく、水が毎朝露の形で供給される上に、周囲になっている果実の量も豊富である。
 しかしあのスパイス臭の煙が来たからには、ここに留まることはできない。
 無論煙だけでなく、あの大きな生物のことも危険と言えば危険なのだが、それほど心配しなくていいということが分かっているのでそれほど心配はせず、今日までじっくり準備できた。

 この日が来ることは分かっていた。今日まで準備してきたのだ。煙から遠ざかるルートの下見も済ませている。

 額に集中し、テレパシーを飛ばす。

“起きてくれ。そして飯を食え。食ったら出発するぞ”
“……? おう、たべる”

 テレパシーによって起き、もそもそと果実を食べ始める同属たちに混じって腹を満たした後、果実が無くなりそうなタイミングでもう一言、理解できるように告げる。

“出発する。ついてくるんだぞ”

“わかった”
“わかった”
“はらへった”

 簡潔かつ、ゆっくり喋られた言葉に反対する同属はいない。ミズオは彼らの中で一番賢く、必然的にリーダーを担う立場となっていたのだ。
 何匹か返事もせずに残りの果実を食べていたが、ミズオは一声鳴くことでそれらの意識をこちらに引くと、彼らも顔を上げる。
 もう一度ついて来いと繰り返して、巣を離れた。
 同属たちが、ぞろぞろと後ろをついてくる。


 ナッツのことは数日たった今でも夢に見るくらい胸にしこりとなって残っていた。
 しかしいつまでも引きずっている訳にはいかなかった。曲がりなりにも、仲間の命を預かっているのだ。
 頭を切り替えて、良い巣を作るために頑張ろう。

 まずは良い場所を探すのだ。そして、同属も探す。きっとミズオ達以外にも地上に進出した同属がいるはずだ。
 ミズオみたいに思考能力が優れた個体がいれば、色々とやりやすくなる。

(そんで、いつかナッツを招待してやる)

 あんまり吹っ切れていないが、それでも今はいいか、とミズオは思う。

 歩き出した先は、やがて木々が疎らになってきて、背丈20cmほどの草が一面を覆う草原になる。
 地平線の先で今まさに顔を出した朝日が、草原を染め上げ、それはミズオ達を歓迎するビロードの絨毯のようだった。

 空は高く、雲は疎らな晴天だ。強めの風で海のように草原が波打っている。遠くの山々にかかる雲がぽってりとして、なんだか旨そうだ。

(旅立ちには、この上なくいい日だな)

 曇っていた気持ちもなんとなく晴れるようであった。

“行こう”
“いく”
“いく”
“はらへった”

 一匹だけ、腹が満タンになっても腹が減ったと繰り返す奴がいる。ミズオは苦笑しながら、仲間と共に意気揚々と、新天地へ向けて歩き出すのだった。






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