<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

チラシの裏SS投稿掲示板


[広告]


No.34356の一覧
[0] 【ネタ】単細胞からやり直せ!【SPORE二次/にじファンより移転】[大豆](2012/08/04 12:53)
[1] 細胞フェイズ2[大豆](2012/08/04 12:54)
[2] 細胞フェイズ3[大豆](2012/08/04 12:55)
[3] 細胞フェイズ4[大豆](2012/08/04 12:55)
[4] 細胞フェイズ5[大豆](2012/09/27 21:32)
[5] クリーチャーフェーズ1[大豆](2012/08/04 12:56)
[6] クリーチャーフェーズ2[大豆](2012/08/04 12:57)
[7] クリーチャーフェーズ3[大豆](2012/08/04 12:57)
[8] クリーチャーフェーズ4[大豆](2012/08/04 12:58)
[9] クリーチャーフェーズ5[大豆](2012/08/04 12:59)
[10] クリーチャーフェーズ6[大豆](2012/08/04 12:59)
[11] 集落フェーズ ここに在りて[大豆](2012/08/04 13:01)
[12] 集落フェーズ ここに在りて2[大豆](2012/08/04 13:01)
[13] 集落フェーズ ここに在りて3[大豆](2012/08/04 13:02)
[14] 集落フェーズ ここに在りて4[大豆](2012/08/04 13:03)
[15] ここに在らざるどこかへ[大豆](2012/08/04 13:03)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[34356] 集落フェーズ ここに在りて2
Name: 大豆◆c7e5d6e9 ID:1d79d764 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/08/04 13:01


 果実にひっついて寝ていたマザーが目を覚ましたのは夜も深まった頃で、ミズオがそろそろ寝ようとしていた時だった。

“ううむ、いつの間にか夜になっているとは。面妖な”

 目を瞬かせながら呟くマザーは自分がミズオの上に乗っていることにも気がついて、そのことにも驚いていた。

「いや、昼寝がガチ寝になっただけだろ。ていうかなんで果物にひっ付いてたんだ?」
“果実…? 何のことだ?”

 知らないらしい。
 真実は闇の中である。マザーはミズオの頭の上でもぞもぞとしていたが、やがて肩口に降りてきて、ミズオの手元を覗き込む。

“それは何をしているのだ?”
「ああ、これか……」

 ミズオは砂を注ぎ入れている大ぶりの堅い木の実を掲げて見せた。

「これは……まぁ楽器を作ろうと思ってな」

 簡単に作れそうな、マラカスに挑戦しているのだ。










 歌と踊りで謝意を示すのは悪くない考えであったが、やはり手先が器用になったので伴奏も付けたいところである。
 ピアノや弦楽器は設備が無いので到底無理だろうが、拍子を取るための簡単な打楽器なら、そしてもしかしたら笛なんかも作れるかもしれない。

「一応マラカスっぽいのを作ってみたけど、他になんか楽器案がある人ー」

 と言う訳で、また皆を集めて案を募ってみる。
 今度は同属の中で集まりたい人に集まって貰った。ほぼ全員集まる辺り、己の影響力が恐ろしい。
 ともあれ、楽器職人がいれば万々歳だがそこまでの期待はしていない。皆の発想に期待だ。

「あの、この草の枯れた茎……中が空でとても堅いんですけど……穴を開けたら笛になりませんかね……」

 気弱そうに声を上げたのは、食料調達隊の一人である。皆の視線が集まって「ひぃ」と身を縮込ませている。

「ううむ、息を吹き入れる口と押さえる穴と……出来るかも知れんの」
「ねぇ、その茎はいっぱいあるの?」
「面白そうだ。私にやらせてくれないか」

 途端に声が方々から上がり、茎を出していた気弱な同属が取り囲まれる。まぁ色々と大変そうだが頑張ってほしい。

 他に挙げられた案は特になく、結局すぐに使えそうなのはミズオのマラカスだけであった。それも手先が得意な人が改良を請け負ってくれた。

「じゃあ一週間後、お土産をくれた集落に行ってお返しライブをやる! そのために、やる気がある人は俺と練習しようぜ!」

 ミズオが叫ぶと皆が拳を突き上げて応える。勇壮な眺めにちょっと嬉しくなっていると、肩に居座っているマザーも

“歌なら得意だ”

 などと自信ありげな様子を見せる。
 ミズオ達の集落は一丸となって対友好集落に向け、動き出した。






 人間とは違う体で、踊りの振り付けも知っている物とは違う新たなの物が必要となる。
 案を出し、踊って確かめ、また改良する。
 トライ&エラーを繰り返し、徐々に踊りは洗練されて行く。

 そして喉の形も人のそれとは異なるため、出せる声もまた違う。
 さらに言えば地球の歌を歌うより、己の体が紡ぎ出すような歌を歌いたいというミズオの我儘によって一から作曲された歌を、それをコーラス隊に名乗りを上げた面々が練習中である。

 笛は音を出す物までは開発できたが、高い音と低い音の二種類が限界で、扱いも難しくまだまだ皆で使うには至っていない。


 この練習の中で大きな役割を果たしたのは、作曲をしてくれたタイゾウおじさんと、扱いの難しい笛での演奏を習得した猛者であるサカモト婆さん、それに踊りの振り付けの完成度を上げてくれたヨシ爺である。

 タイゾウおじさんは人間の頃、声が美しくなかったことがコンプレックスで作曲の世界に進んだらしいのだが今の姿になって様々な声が出せることに感動し、七色の声を出せるように訓練したらしい。
 声量は群れの中で頭一つ飛び抜けており、ミズオによって推薦、満場一致でメインボーカルに任命された。

 サカモト婆さんは二音しか出ないはずの茎の笛でドレミファソラシドを吹き分けて、ついには演奏すら可能にしてしまった修練の鬼だ。曰く「尺八に似ている」とのこと。得意だったらしい。
 彼女は偏屈なところがあって取っつき難いが慣れれば愛嬌がある人である。
 マザーと気が合うようで、茎笛とマザーの鳴き声が見事なハーモニーを作り上げている。

 そしてヨシ爺はミズオ達の踊りを見て、時々口をはさんで来る眼光鋭い(元)お爺さんである。
 日本芸能、特に能楽が好きだったようで、足の動きや体の動かし方に鋭いアドバイスをくれるのだ。
 雅ながらもゆっくりとした動きは皆で揃えるのに都合よく、ミズオ達は積極的にヨシ爺さんのアドバイスを受け入れた。
 またゆっくりした動きはサカモト婆さんの演奏ともよく合うのである。


 修練を支えてくれた者たちも忘れてはならない。
 怪我で踊りに参加できなくなった者たちと、裏方に徹して部隊を盛り上げることを選んだ人たちだ。
 踊りに耽るミズオ達を見守りつつも、食料を集め、集落を囲う柵を作り、集会所を建て、粘土から土器を作り、川から水を引いてきて……他にも最低限必要と思われる施設を作ってくれた。
 ぶっちゃけ彼らがいなかったら村として成り立たなかった。









 そしてある日の朝。
 皆が見上げる中、ミズオは台の上に立っていた。気を効かせた誰かが作ってくれた演説台だ。

 乾燥した風が吹いている。舞い上がる土埃に目を細める。

「……まだまだ発展の余地はあるが―――――」

 広場を顔を見回すと、皆、力ある瞳で見返してくる。ミズオはキリリと顔を引き締めた。

「――――今の時点では最高の出来だ。さぁ、行くぞっ」

 そう言って台を降りようとしたが、少しばかりの不安が浮かぶ皆の顔を見て、ミズオは足を止めた。
 踊りの中で、僅かに動きがばらける個所があるのだ。よりにもよって踊り始めに。
 誰が悪いという訳でもなく、個々の呼吸の違いを二週間では直せなかったというだけの話である。

――――――どいつもこいつも不安そうな顔しやがって。

「いいか」

 声を張り上げる。

「俺たちは、たった二週間で一から踊りを考えたんだ。この、やたらと横移動のしにくい下半身でできる踊りをな! クルクルと鬱陶しい振り付けだっただろう!? だが、ここに居る48名、皆が踊りを覚えきった。おまけに動きもほとんど揃ってる! スゲェことだろう!? それだけで、相手は心底感動するはずだ。その上で――――」

 一旦言葉を切って。皆を見渡した。
 こいつらは本当にすごい奴だ。進化の途中で踊りまくってきたミズオのアドバンテージなんて関係ないかのように、彼が目を見張るような動きをする奴は何人もいる。
 それぞれに得意な動きがあって、嫌いな言葉だが「みんな違ってみんな最高だ」とでも言いそうになる。

「その上で、みんなの踊りがぴったり揃ったら――――いや、そんなんどうでもいいわ。いいか! お前らは最高だ! これから、一緒に踊れることが楽しみでしょうがない!」

 手を振り払って、叫んだ。

「さぁ、相手に俺たちのすごさを見せつけてやろうぜ!」

 ウ……ウォオオオ! ウォオオオッ!

 最初は躊躇いがちに、やがて己を勢いづけるように、意気込みが怒号のような歓声となって皆の口から迸る。
 竜巻が立ち昇るかのような熱気だ。
 熱に背中を押されて、ミズオは台を跳び下りた。

「行くぞぉ!」

 走り出したミズオに、皆が続く。

 快晴の空の下、長い丸太の先にバタバタと集落の入口で旗が朝の風に翻っていた。
 ミズオ達の獅子の顔を編み込まれた手編みの旗だ。ミズオと文字が刺繍してあるのは、もう消せないので仕方ないがぜひ誰かに止めて貰いたかった。
 そして旗に刻まれたことでここの種族の名はミズオ族になった。もちろんこれにも一言言いたいミズオだったが「じゃあ何族なの?」とベーコに言われ、言葉に詰まった時点で彼の言い分に勝ちは無かった。
 だが、もういい。ミズオは厳しい練習を乗り越え、踊りを作り上げた仲間たちを誇りに思う。その彼らに祭り上げられて自分にも自信を持とうではないか。

 先方の村にはすでにケイジを遣わせて今日のお返しライブを知らせてある。向こうも向こうで待ち構えていることだろう。

「ちきしょう、皆、やってやろうぜ!」

 意気高揚にして、ミズオ達は走った。














 先触れにケイジを遣わしたのは良かったのだが、言葉が通じないことを失念していた。
 何とか身ぶり手ぶりでミズオ達が討ち入りに来たのではないということを理解させてくれていて助かった。
 まぁある意味討ち入りだ。勝利条件は相手が満足すること。

 自らの集落で迎えてくれた種族は、割と人型であった。割と、と言うのも、各パーツの縮尺がおかしかったのだ。
 腕が太く足は短く小さい。頭が大きくて足と同じくらいの縦幅だ。肩の筋肉が盛り上がり過ぎて首が無いように見えるし、口の端から上向きに牙が覗き、額には一本の角が生えている。
 悪魔とか鬼とか呼ばれそうな、青黒い肌の生き物であった。

 知能は人間だったミズオ達ほどではないにしろ高度な物を持っているようで、空き地の中心にある焚火を囲むように、住居らしき木の小屋がぽつぽつと建てられていた。
 だが力はだいぶ強そうだ。丸太をそのまま組み上げている家の様子から、それが窺い知れる。

 彼らの身長はミズオ達とほぼ同じ2mほどである。
 集落の入り口前で立ち止まったミズオ達を見て、困惑からか鬼のような顔の眉根を寄せている。
 獅子面のミズオが言うのもどうかと思うが、全然温厚な種族に見えない。
 下手すればとって食われそうだ。

 まぁいい。ミズオ族の一員が歓待されたのは事実なのだ。
 ミズオたちがするのは全力で感謝を示すことだけ。

 すぅ、と雄牛の頭蓋をあしらえられた杖を掲げると、さささ、と仲間たちが配置に付く。
 ミズオを先頭としたピラミッド型だ。進化途中でのキャリアからか、ミズオが一番踊りが上手かったのだ。
 何が始まるのかと瞠目する鬼たちに、ミズオは無言で、しかし意思を込めて杖を振った。

 カラン、と先端の骨が揺れて、同時にォォォォォ……と低い音が響く。
 鬼たちが凄くビビっていたが、これはマザーの声だ。あの小さな体から、信じられないような声量を出す彼女の声に、やがて絡み付くようにサカモト婆さんの茎笛の高音が響く。

 そしてミズオは開いた手に持っていたマラカスを振った。同時に仲間も振ったはず。最初の、ずれる個所だ。
 さん、と爽やかなマラカスの音が多数、青空に響く。ぴったりと一致して。

――――そ、揃ったぁあああ!

 かっ、とミズオの体が燃え上がったかのようだった。
 本番で、一発で……!

――――お前ら、最高だ! 愛してるっ!

 完璧に踊れるかどうかより、仲間が、このイベントを楽しめるか不安だった。
 しかし一致した音は心配を吹き飛ばし、俄然、やる気が湧きだしてくる。仲間の熱気も一段と膨らんだように感じる。
 ハッキリ言って燃えていた。

 踊り子たちの背後に控えたコーラス組の歌が始まって、そのゆったりとした声に同調し、要所要所でキレのある動きを混ぜながら、ミズオたちは流れるように踊って行く。

 朗々としたタイゾウおじさんの声が軸となり、その周りを彩るように添えられるコーラスが、ミズオ達の踊りに物語を付与するようだ。

 仲間の熱の溢れる呼吸を感じた。
 俺たちはまるで、一体の美しい獣のようだ。
 どくんどくんと心臓が跳ね、毛が逆立って、全身が燃え上がりそう。

 身体能力に任せた跳躍と、宙返りの交差がカチリと決まった時は、踊りながらも鳥肌が浮かぶのを止められなかった。

 鬼たちが、目を見開いてしてミズオ達を見ている。口を開けて見蕩れている奴もいる。
 ミズオは踊りながら嬉しくなって笑っていた。

(そうだ、楽しんでくれ! 俺たちは、最高だろう!)

「―――はッ!」

 汗を流しながら踊り切って、最後のポーズを決めた時、ミズオの胸に到来したのは達成感だった。完璧に踊りきった。これ以上は望めない出来だった。
 だが僅かに不安もある。
 鬼たちからリアクションが無いのだ。

――――楽しんでくれなかったのか?

 だが、即座にその不安は吹き飛んだ。

「ウゥ……ウホォアアアアアア!」
「ウホォオオオ!」
「ホォー! ホォーっ!」

 鬼たちから、一斉に歓声が湧きあがった。それは熱風のようにミズオ達の間を走り抜け、鳥肌が、止まらなくなった。

 その場で飛び跳ねたり、頭の上で手をたたいたり、胸板を拳で殴ってドラミングしたりと、ちょっとゴリラっぽい様子だったが一様に興奮した様子を示したのだ。
 良かった。この様子を見れば、満足してもらえたのは分かる。今度こそ、何物にも邪魔されない達成感がミズオの胸を包んだ。
 泣き出しそうなケイジが鼻声で話しかけてくる。

「兄貴ぃ…! やりましたね…!」
「そうだな……」
「兄貴……僕、正直練習に付いていけなくなりそうで、諦めかけたこともあったんです。でも……頑張って良かったです…」
「ああ、お前はすげえよ。いや、俺たち皆すげぇ……!」

 たまらず泣きだしたケイジの頭を乱暴に撫でながら、ミズオは仲間を見渡した。皆達成感に胸を熱くしている。仲間で肩をたたき合って、辛かったこの一週間を思い返しているのだろう。泣いている仲間も大勢いた。
 踊り子48にコーラス32。笛1カエル1の総勢82名、みんな己の全てを出し切ったのだ。

 ああ、誇らしさに、胸がどうにかなりそうだ。

 ミズオが身を震わせていると、鬼たちの一団が近づいてくる。
 一際大きい個体が混じっていて、頭には厳つい仮面を乗せている。この集落の長だろうか。仮面と言い杖と言い、物作りが得意な生き物らしい。

 長らしき巨体の鬼は、ミズオを優しい瞳で見下ろしてくる。ああ、近くで見れば、この種族が温厚なのはよく分かる。その実が纏う空気が、目が、全てを慈しんでいるのが分かるのだ。

「―――――■■■」

 長が何かを語りかけてきた。
 言葉は分からなかったが、言いたいことは目で伝わった。

――――感動した。君たちにこれを送りたい。

 長は頭に載せていた仮面を外し、差し出してきた。

「ありがたく、いただこう…!」

 差し出された仮面を受け取る。木を削った仮面は牙をむき出した獣を象っており、それは強さの象徴に思えた。
 素晴らしい出来である。

「代わりに、じゃないけどな。これを受け取ってくれないか。俺たちで作り上げた楽器なんだ」

 マラカスを差し出すと、受け取った長がその大きな体躯に不釣り合いなマラカスをしゃんしゃんと振って、に、と豪快な笑みを浮かべた。
 そして、肩を掴んで引っぱられる。
 見ればミズオ族の仲間も鬼たちに集落の中へ招かれているようだ。

 鬼たちの長を見上げると、何かを食べるジェスチャーをする。
 何かを御馳走してくれるらしい。

 とても嬉しいのだが、ミズオ達だけで味わう訳にはいかないだろう。

「ケイジ、悪いけど巣に帰って仲間を呼んできてくれないか。みんなで楽しみたいんだ」
「分かりました! ありったけの食料も持ってきますよ!」

 駆けだして行くケイジを見ながらミズオは一番に集落に踏み込んだ。次々に押し付けられる果物と、そして初めて見る、地中から掘り出したように見える野菜……根菜の類だろうか。
 いや、観察は後でもできる。今はこの美味そうな果実をいただこう。

 瑞々しい果実を齧ると噴き出す果汁が踊って火照った体に、心地よく染み込んでいく。

「ああ…たまらん……」

 溜息を吐きつつ根菜を口に含む。
 根菜は人参のようにも見えて、今までとは違った美味しさがあった。何より、歯応えが素晴らしい。暴力的なエネルギーが体内で荒れ狂い、ともすれば鼻血が出そうなほどだ。

「と、とまらんぞコレ……!」

 ボリボリと。
 どれほど食べたのか。
 記憶が飛ぶほど陶酔していたのか気がつけばニンジンを齧って頬を膨らましているところだった。
 慌てて周りを見れば、ミズオ族たちは一心不乱に果実やニンジンもどきを貪り、鬼たちは酔っ払ったように笑いながら互いを殴り合ったりしていて、つられてミズオも何だか笑ってしまった。
 遠くから、ベーコの「おいしー! ……こっちもうまーい!」と叫ぶ声が聞こえてくる。
 踊りが苦手で今回のパフォーマンスに参加しなかったベーコがいるということは、村に居た皆も来たということだろう。

「ふんふん。中々悪くないねぇ」
“ぬぅ、私にも食べさせてくれ”
「はん! ……少しだけだよ」

 いつの間にか側に居たサカモト婆さんが口の周りを果汁で汚しまくりながらしかめっ面をしていた。
 そして不機嫌そうに鼻を鳴らしながら小さく果実を千切ってマザーに食べさせてやっていた。
 相変わらず素直でない婆さんだ。だがそこがいい。彼女の魅力の一つには違いない。

 ふと、ミズオはこの婆さんの素晴らしさを鬼たちにも知って貰いたいと思った。
 先ほどのパフォーマンスではどちらかと言うと引き立て役だったのだが、彼女だけでも十分凄いのだ。

「なぁサカモトさん、なんか吹いてくれねぇか?」
「んん? なんだ長の坊主か。吹くってのもねぇ……」
“私からも頼む”

 困惑する様子のサカモト婆さんだったが、マザーの言葉が決め手になったらしい。
 渋々といった口調で、しかし素早く懐から茎笛を取り出して、しゅしゅ、と表面を撫でたりする。
 やる気満々だった。

「ふぅ、やれやれだよ。ま、腹ごなしにはちょうどいいかね」

 サカモト婆さんは、なんだなんだと好奇心全開で集まってくる鬼たちをぎろりと見るや、茎笛に口を当て、ふ、と息を吹き込む。
 ピィ! と甲高い音が鳴り、ひるんだ鬼たちを騒ぎ立てないように鋭い眼光で制しながら、婆さんはヒョウヒョウと笛から音を出し始めた。

 それがまた踊りだしたくなるような激しいテンポの旋律で、鬼たちは逆らわず、むしろノリノリで飛んだり跳ねたりし始める。

 高らかに鳴り響く笛の音がきっかけになったのだろうか、あちらこちらで騒ぎが始まった。
 力比べにミズオ族と鬼たちとで相撲なんぞも始まった横で、ヨシ爺は誰も聞いてないのに延々説教を垂れ始め、タイゾウさんはニンジン握ってコブシのきいた演歌を歌い出すし、どこもかしこも場は混沌と、そして楽しく盛り上がっていく。

「ダメだぁー、三体一じゃ敵わないよぅ! 長ぁー! 助けてー!」
「お、おう! ていうか鬼の長相手じゃ4人でも足りなくね!? ムラサメさんだ、あの人を呼べー!」

 と、力比べの相撲にしっかり巻き込まれながら、

(やっぱり他種族交流は、楽しいぜ…)

 しみじみとミズオは思うのだった。
















 そして夜も深くなる頃に宴も終わり、村に帰ってきたミズオは仮面を頭の上から降ろす。
 ミズオ達のパフォーマンスのお礼にいただいたもので、ミズオ一人が身につけているのはどうも気が咎める。

 だから、ミズオは集落の入口に来ていた。
 夜風にはためく旗の竿、地面に突き立つそれの目線よりやや上を、ゴリゴリと尖った石で削って出っ張りを作り、そこに仮面をかけた。持ってきた紐で落ちないように固定する。

「俺じゃ無くて、この集落のもんだもんな」

 この位置は、一番に朝日があたる場所でもある。きっと目立つこと間違いない。
 うん、と出来栄えに満足してから、ミズオは欠伸をし、皆が雑魚寝している広場の中心へと、ポカポカと蹄を鳴らして歩くのだった。




前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.028246879577637