ミッドチルダ東部第3区画。
基本、ミッドチルダ東部域というのは南部と並んで田舎である。
農業に向いている土地柄がために技術的な発展を必要としなくても、それなりに収益が上がったということなのだろう。土地が安くて、それに目をつけたのが12区画にある巨大テーマパーク、パークロードだったりするのだが。それはさておき、この第3区画もまた例外ではない。少々私の体には大きすぎる旅行鞄をひっさげて、えっちらおっちらと駅構内から歩き出せば。
「うん……まあ、判っちゃいたけどね」
何とものどかな地方の町並みと言ったところか。
駅周辺は栄えているものの、少し離れれば畑が広がり、店はちんまりとした小売業が中心のようだ。
ごそごそとガイドマップをバッグから取り出し、道を確認する。
曲がる場所さえ間違わなければ判りやすい道順なようだった。
歩いていると、やがて開かれている大きな門が見えてきた。
その門に続く大通りにはこれから新学年を迎えるのだろう学生たちがまばらに歩いている。
年齢はばらばらなようで、私よりはるかに幼く見える姿もあれば大人の姿も混じっていた。
ここは公立ネルソフ魔法学校。
あれから座学も何とか……うん、気合いで乗り切って、編入試験にきっかり受かったのだ。当時はかなりデスマーチが鳴り響いていた気がするけども。
しかし、私がまた学校に通う事になるとは思っていなかったが、何とも緊張……いや違うな。何とも言い難いむず痒さがある。
不安要素を数えれば数え切れないのだが、日常茶飯事だったのである程度慣れてしまったようだった。
それよりも楽しみ……うん、楽しみなようだ。私は。
どうも気分がふわふわしている。いかんいかん。
少し道に立ち止まって整息。ちょいと前に地球に居た時、恭也に教えてもらったものだが中々役に立つ。
気を引き締めて門をくぐる。
まずは書類を受理してもらわなくては。
諸手続を終えて、カルガモの親子よろしく担任の教師だという小太りでちょっと勿体つけた初老の先生の後を歩く。
ミッドチルダの教育システムは地球のものよりもかなり自由度が広く、学校ごとに学年システムが違ったり、場合によっては学年なんてものがない学校もあるようだった。このネルソフ魔法学校の初等科では編入時は基本的に年齢で決まるようで、地球のものと似ている。その後は一年ごとに進級試験があり、合格すれば一学年上に行くという形らしい。
自由度についてはこの学校の売りで、飛び級については地球のそれとは比較にならないくらい当たり前に行われていた。学力、実技で高い点を取れれば中等部を飛び越して高等部なんていうアクロバットも可能なようだ。あくまで、可能ではあるというレベルのようだが。
メンタル的な育成についてはあまり関与する方向ではなく、知識と技術のみを教える傾向が強いらしい。言ってみれば結果重視の促成栽培的な部分があるので、一桁代の子供も居る学校としてはどうかとも思うものの、魔導師の数が常に足らないらしいこの社会ではニーズに合わせた経営方針と言えるのかもしれない。
そんな事を考えていると、どうも教室のドアが既に開いて手招きしている担任の先生が目に入った。
うん、ぼんやりしていた。紹介してくれるらしい。
「さて君たち。改めて、紹介しよう。ああ、質問は後に回しなさい。さて、今年から編入することになったティーノ・アルメーラ君だ。仲良くするようにな」
何ともひねりのない紹介をされてぺこりと頭を下げる。頭を上げる。
……お? 静かだ。静謐である。水を打ったように静まりかえっている。
内心はたと手を打った、自己紹介とかこういう時するんだった。こういったコミュニティから離れてたからというのは言い訳にならないが、うっかりしていた……何か言わないと。
「し、紹介に預かりました、ティーノです。東部11区から来ました。ええ、と……趣味は料理で、特技は……野遊び? です。これからよろしくお願いします」
こんなとこでいいのだろうか……? 先生の台詞を笑えないくらいひねりの無い挨拶になってしまった。
うんまあ、様子を見るとすごく良い印象も悪い印象ももたれていないようなので安心する。てか平均年齢10歳だしね。考えすぎた。
ひとまず空いている席に着くようにと言われ一番奥の席へ。
しかし、さすがミッドチルダ。
木製のレトロな机に見えて、しっかり机に情報端末が設置されている。埋め込み式で。椅子もまた、昔、地球の小学校で座ったようなパイプ椅子のように見えて、カーボン素材? 軽くて弾性がある。座ると自然に背筋が伸びるようになっているあたり、人間工学としても考えられているのだろう。
ミッドというのは見た目はレトロにしつつ、中身をこてこての技術で固めるというのが好きなようで、例えば街中を走る車にしても、オープンカーかと思ったら雨が降れば一瞬にしてルーフが構成されるとか。バスの中で手すりや吊り手が付いている割に慣性制御技術でさほど揺れなかったりとか。何とも無駄を楽しむ技術者が数多いと見える。その姿勢は嫌いじゃない。
顔は真面目に、頭はぼーっとそんなことを考えながら、担任先生の話を聞く。新学期なので定例のロングホームルームというものだろうか、そこらは割と世界共通のようだ。
……どうやら今年一年の目標なるものを書くらしい。端末を介したネットワーク内に自己紹介用のプロフィールを公開する機能があって、そこに乗せて誰でも見れるようにするとのこと。
なんともまた、恥ずかしいというか。これを恥ずかしいと思ってしまう私はやはり日本人の感覚が濃く残っているのだなと実感した。
「うーん、目標……目標ねえ」
この学校に来た目的ってのがえらくまた生臭いので困る。
素直に書くと、とっとと局員にでもなって自由に動けるだけの権利を得ること、局員はなんだかんだ収入が良いのでそれも魅力。となってしまうのだが。
……普通に書くとしよう。例えば同世代が考える目標となると何だろうか?
「今年は帝国を樹立し、皇帝陛下と言わしてみせようかと思っています。赤毛の副官募集中」
「今年こそは気功波で月を砕く」
「俺は海賊王になる!」
いや……いやいや、これではネタに走っているだけだ。確かにこの年代なら、地球ではクラスの一人二人は海賊王になる! とかは書いてそうでもあるけども。
大体、次元世界でネタが判るわけもない、というと微妙でもあるのだけど。なにしろ地球の漫画や娯楽文化というものが着々と次元世界にも浸透しつつあるのは確認済みである。何故か人気なのがナイト○イダーというちょっと古いアメリカの特撮ドラマ……のリメイクだった。車をインテリジェントデバイスにするとは何という発想だ! と誤った解釈でマニアの間で好まれていたナイト○イダーだが、それをリメイクしたものがミッドの子供向け番組で流れている。初めて見たときは吹いた。変形してロボになったのだから。魔法使うし。あれは地球のマニアが見たら喜ぶか怒るか……うん評価の難しそうなところだった。見ていた私も微妙な顔になってしまったのは言うまでもない。
お? おお、それだ。
「デバイスを使いこなす事」
うん、目標はこれでいいや。
なんせ、モノそれ自体がお高いデバイスである。今まで使いたくても使えなかったのだ。養護施設住まいでそこまでごねるのもなんだか気が引けるとこもあるし。
魔法教本に載っている事や調べた情報によると、デバイスを使うだけでも相当な負担低減になるようで、特に私のようにマルチタスクだの魔法式だのを咄嗟に組むのが苦手なタイプは是非ともお世話になりたいものだった。
この学校ではカリキュラムで練習用デバイスを使わせてくれるので、内心実に楽しみにしていたのだ。うん、それでいいや。何とも面白みにかけるけど。
さらに取って付けたような理由を200文字程書いて提出……この場合アップロードになる。して課題は終了。終わった人から自由時間になるようで、前の学年の時から仲良しだったらしい同士でつるんで教室から出る子もいる。本を取り出して読みふける子もいる。単位時間ではあまり束縛しないやり方であり、日本の学校と違ってクラスの雰囲気は緩いものを感じる。やはりと言うべきか1クラス40人ばかりも居れば興が乗って迷惑になるくらいに騒ぎ出す子も当然居るのだが、どうも即座に先生が注意した後連行していった。お説教コースだろうか? 対処が早い。
やがて授業が終わり先生が退室すると、好奇心を刺激されたのか私への質問タイムが始まった。どうもクラス替えとかは無いようで、エスカレーター式に一年ごとに上がるクラスメイトにとって、私のような編入生や飛び級で割って入ってくるような学生は格好の話のネタなのだろう。
質問タイムの……詳細は……思い出したくもない。驚くほどのバイタリティでもって根掘り葉掘り聞かれてしまった。あれは疲れる。
「子供って大変だ……」
頭では判っているのだ。
海鳴の空き地で子供相手に遊んでいたように、自然体で振る舞っていればいいだけなのだと。
ただ、この学校になまじ11歳として入ってしまっているので、つい子供らしく言うならどう言うべきだろうか? なんて頭をよぎってしまう。
要するに、意識しすぎなのだろう。おいおい慣れると思うけども。
一つため息を吐き、無意味に肩を揉みながら目的地に着く。
ぴたと足が止まってしまった。
上を見上げる。
男子トイレの表示がある。
左上を見る。
女子トイレの表示がある。
「む……むう……」
か、考えてみたら。真っ当な公共施設で長時間過ごすのは、この姿になって初めてだった。
地球に居た三ヶ月は、それどころでなかったし。本局では検査の為の一室に軟禁されていたようなものだったし。養護施設に至っては皆で暮らす大きな家という感覚だった。
なので、世の中にはトイレの男女分けなんてのもあったな、なんて今更に思い出すのも変ではない……と思う。
えーと……どうしようか?
体に合わせれば、女子トイレに入るのが当然か。
足を踏み入れようとして止まってしまう。
判っている。別に恥ずかしがることでもないし、今更何を言っているのかとも思うが、一度意識してしまうと、昔の……こう、男なのに女子トイレをちょっと覗いてしまったようなインモラルな気持ちが蘇ってきて……
「何をトイレの前で仁王立ちしてるんです?」
「……き、気合いを入れてまして」
「ああ……もしかして、その、大変ですね。私の常備薬でよかったらどうぞ」
便秘薬を渡された。視線がいたたまれなさそうに私の下腹部を一瞥する。その女生徒は私の傍をすり抜け、トイレに入っていった。
勘違いされ、何とは言えないもの悲しさを胸に私も開いている一室に入るのだった。
◇
ここネルソフ魔法学校は、全寮制である。
土地ばかり余っているからか、全部が個室として用意されており、実を言えばこの学校を選択した一つのポイントになってもいる。
入学初日の日程を終え、私は入寮初日でもあるので、そそくさとあてがわれた寮に来て、予め運び入れて貰っていた荷物を紐解きにかかったのだった。
と言っても、さほど大荷物があるわけでもないし、必要な生活家具などの一式はすでに寮に備え付けられているので、せいぜい、服を収納したり、本を収納したりなど置き場所を決める程度なのだが。
そんな事をしていると見覚えのない箱があるのに気がついた。木で出来た20センチ四方の小箱だ。蓋は綺麗に着色された蜜蝋で閉じられて、リボンでラッピングされている。
「んー? ああ!」
思い出した。
荷物を宅配で送る時に、施設の子供たちが「これも!」と言って持ってきた箱だ。餞別ということらしい。慌ただしいさなかだったので、見るまで忘れていたよ。すまない。
丁寧に封された箱を開けると、子供達が書いたメッセージカードと共にプレゼントが入っていた。
「ありがたいなぁ……」
こういうのは貰うと気持ちが温まる。ただ……ネタに走るような子も当然いるわけで……
「コンドームとか……私に何を求めているのだろうか」
メッセージカードを読むと、そんな乱暴じゃどうせ彼氏の一人もできねーだろ……云々から始まって彼氏が出来てもそれ無しには簡単にヤるんじゃねえぞ。で終わっていた。
ティンバー……スラム出身の子だからまあ、そういう発想になるんだろうけど、そりゃ避妊は大事だからねえ。私にゃ機会も関係もないだろうけど。心配してくれてるみたいだから、気持ちだけはもらっておく。確かサバイバル時の水の持ち運びにも重宝するのだったけか。
さらに中を探ると鉄製の5センチにも満たない箱が出てきた。振ると何かが揺れるような感じはあるものの何の音もしない。
箱には針か何か鋭いものでつけられたと思わしき溝が薄くあり、そこに血のような朱色が塗られている。ああ、と何となく判った私は備え付けられたメッセージカードを手に取った。
輝くトラペゾヘドロンの一かけをあなたに託します。いざという時混沌を思い描きなさい。心の象形よりそれは這い寄る──と、手紙はここで途切れているのだが。最後の方に「愛を込めて、デュネットより」とサインされている。本当にあの子はこの手の話が好きだ……この世界で某でっちあげ神話の古本を見つけたのでお土産に渡したのだが、ここまで嵌るとは思っていなかった。
ラフィからは青い地にエーデルワイスの花の飾りのついたバレッタを貰った。丁度いいのでポニーテールにした髪を後ろで纏めてバレッタで留めておく。軽く頭を振って確認。うん、すっきりして良い。
皆からの心づくしのボックスはひとまずしまい込み、整理の続きに励むことにした。
◇
日々の授業は魔法学がなかなか楽しい。今までは基礎の部分は全て魔法の教本相手に独学でやっていたのでなおさらそう感じるのかもしれない。リーゼ姉妹もグレアムの爺様も忙しすぎでなかなか基礎から相手させるのも気まずかったというのもあるし。
そして、それなりに学校にも馴染み、と言ってもあまり積極的に輪に加わったりしたわけでもないが、よく話す子の2,3人もできた頃。
お待ちかねのデバイス使用での実技の時間がやってきた。
配布された練習用簡易デバイスに魔力を通してみると──
「なにこれ、有り得ない。効率よすぎ、楽すぎ、デバイスってどんなバグアイテム?」
私の感想はコレに尽きる。
あまりの驚きに魔法陣が出たあたりでしばし思考が停止してしまった。
いや原理は判る。
私の場合、魔法式を頭に浮かべて演算とか非常に苦手なので、その部分の計算を代行してくれればそれはもう効率がよくなるのは判る。
いってみれば紙に計算式書いてしこしこ計算するのと、電卓でぱぱっと計算するのとの比較のようなものだからだ。中にはデバイスに頼らなくても自分の頭で結界のみならず砲撃の複雑なプログラムまで組み立ててしまう猛者もいるらしいが。
私が幻術系の魔法を覚えるのに時間かかったのも多分そこらに原因があるのだろう。最終的には剣振るのと同じ要領で少しづつ体に型を染みこませていったようなもので。逆にその感覚がアリアさんとかには判らないらしいが。
何というか、釈然としないのである。
せっせと石投げの練習してたら、目標をライフルで狙撃されたかのような。そんなやるせなさが身を包む。
いやいや、と首を振って気を取り直す。
やれること、出来ることがデバイスのおかげで飛躍的に広がるのは間違いない。
考えてみれば、管理局の支配権を支えているのがこのデバイス技術なのかもしれない。私のようなあからさまに魔法に適正のないのでも、魔力を持ち、ある程度それを操作できればデバイスを持たせるだけで魔法がバンバン使えてしまうのだ。さらに徴兵制などと組み合わせて、一定以上の魔力持ちにデバイスを配布したらとんでもない軍事国家になっていたかもしれない。つか、戦時中の日本とかこの技術知ったら絶対やってる。ってかそれはかなーり怖い想像だった。
「おおぅ……ブルッとしたぁ」
「……さっきから何を一人百面相しているんだ君は。真面目にやりなさい」
先生に怒られてしまった。いかんいかん、デバイスの便利さにかなり動揺してしまった。これでアマチュアも自作可能な練習用ストレージデバイスだというから困ってしまう。
ちなみに今行っている実習はまず基本の魔力素の圧縮からデバイスを通し、単純で何の指向性も持たない魔力スフィアを生み出すだけの魔法だ。
デバイスにある程度の圧縮魔力と共に起動の意志を込める。ミッド式と呼ばれるどこか機械的な魔法陣が生まれ、白色……という割にはギラついた魔力スフィアが生まれる。
「うん、問題ないな。魔力光は……銀色と」
さらさらと評価を書かれてゆく。
そう、魔力光もまた、ちょっと容姿と共に痛い色だったりした。精神的だけでなく物理的にもちょっと目に痛い。銀色と書かれたが実のところ少し青みがかかっている。蒼銀色というやつで、夜中に光らせると肝試しに使えそうな色だったりもした。
◇
そんなことがあったんだよ。どこまでこの身は痛い新事実が発覚すれば気が済むのか知りたいね。
次は自分が名のある人のクローンでATフィールドめいたものでも撒き散らしながらラスボスとがちがちに殴り合う展開になっても驚かない。
それと恭也、お前さんの声聞いてるとどうも、任務完了と言ってほしくなる、何となく自爆しそうな気がする。根拠はないが直感だ。
などと、サラサラと紙に書いて破る。くしゃくしゃに丸めてくずかごに放り込んだ。
地球に送る手紙を書いているのだが、魔法関係のことは書けない。何も考えてない文章だった。
暫定的にではあるものの、次元漂流者の保護下から外れた事で地球に手紙を送ってもらうなんてことも可能になっている。
宛先が管理外世界という事もあり、それも通常なら送れなかったのだけど、グレアムの爺さんがやはり地球出身ということもあり、手紙くらいなら窓口となってくれるらしい。
恭也と美由希には世話になった割にあっさりと別れて、そのまま一年も放置してしまったので、少々バツが悪かった。
あの空き地で遊んでいたガキンチョ共、そのガキ大将といった風合いの安田と南部コンビも忘れていない。
今なら判るが、孤独は人をたやすく追い詰める。本人達にその意識はなくても私は彼らに救われた身だ。
あのまま生きていても、生活的には何とかなっていたような気もするが、多分途中で疲れて、自暴自棄になっていたと思う。ただ生きるだけでは人は保たない。
「うぁ……こう夜中に筆を進めていると臭いことばかり思いついて……あー、でもたまにゃいいかなぁ」
うん。たまにだ。たまには素直に感謝の気持ちでも書いてみて、送ってもらうとしよう。
ロッテさんが最近用事があるとかで地球に行くことがあるらしい。手紙を書けたらついでに配達よろしくとも言ってある。検閲も兼ねてくれるんだっけ。
……む、これを見られるのか。
やはり恥ずかしい。見られたくない部分は消して、推敲する。
一通り書き終え、窓を開けて冷たい夜気を浴びた。
背筋を伸ばすと思ったより気持ち良かった。思ったより長い時間座っていたらしい。
しばらくは普通の授業、基礎の焼き直しだが、一ヶ月後に面白いイベントが予定されている。
卒業生は武装局員になるものも多いので、早いうちに魔法の怖さを知って貰おうということで、上級生との練習試合が組まれるらしい。
──面白い。
素直にそう思う。
剣を振れば力になる。力があれば振るいたくなる。魔法もそれは同じだ。
恭也のような真っ当に武術を修めているような奴にとっては、それは下の下なのだろう。
私はどうなのだろうか。
自分の心のブレを自分で感じる。私も結局小物もいいとこなのかもしれない。力を身につければ振るいたい、と素直に思ってしまった。
苦笑いが出た。淹れてから時間が経ってすっかり冷めてしまった紅茶を飲む。
力がついたなんてとても、とても言えないだろうに。ただ、それを確かめるにもいい機会かもしれない。
「ん、試合に備えて集中してみようか」
私は立てかけてある馴染みの木刀を手に取り、一つつぶやくと、素振りでもしに寮の裏手へ向かうのだった。