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No.34349の一覧
[0] 道行き見えないトリッパー(リリカルなのは・TS要素・オリ主)本編終了[ガビアル](2012/09/15 03:09)
[1] プロローグ[ガビアル](2012/08/04 01:23)
[2] 序章 一話[ガビアル](2012/08/05 12:22)
[3] 序章 二話[ガビアル](2012/08/05 12:23)
[4] 序章 三話[ガビアル](2012/08/05 12:23)
[5] 序章 四話[ガビアル](2012/08/05 12:23)
[6] 幕間一[ガビアル](2012/08/05 12:24)
[7] 一章 一話[ガビアル](2012/08/05 12:32)
[8] 一章 二話[ガビアル](2012/08/05 12:33)
[9] 一章 三話[ガビアル](2012/08/05 12:34)
[10] 一章 四話[ガビアル](2012/08/05 19:53)
[11] 一章 五話[ガビアル](2012/08/05 12:35)
[12] 幕間二[ガビアル](2012/08/06 20:07)
[13] 一章 六話[ガビアル](2012/08/06 20:08)
[14] 一章 七話[ガビアル](2012/08/06 20:08)
[15] 一章 八話[ガビアル](2012/08/06 20:09)
[16] 一章 九話[ガビアル](2012/08/06 20:10)
[17] 一章 十話[ガビアル](2012/08/06 20:11)
[18] 幕間三[ガビアル](2012/08/09 19:12)
[19] 一章 十一話[ガビアル](2012/08/09 19:13)
[20] 一章 十二話[ガビアル](2012/08/09 19:13)
[21] 一章 十三話[ガビアル](2012/08/09 19:14)
[22] 幕間四[ガビアル](2012/08/13 19:01)
[23] 二章 一話[ガビアル](2012/08/13 19:02)
[24] 二章 二話[ガビアル](2012/08/13 19:02)
[25] 二章 三話[ガビアル](2012/08/13 19:03)
[26] 二章 四話[ガビアル](2012/08/13 19:03)
[27] 幕間五[ガビアル](2012/08/16 21:58)
[28] 二章 五話[ガビアル](2012/08/16 21:59)
[29] 二章 六話[ガビアル](2012/08/16 22:00)
[30] 二章 七話[ガビアル](2012/08/16 22:00)
[31] 二章 八話[ガビアル](2012/08/16 22:01)
[32] 二章 九話[ガビアル](2012/08/21 18:59)
[33] 二章 十話[ガビアル](2012/08/21 18:56)
[34] 二章 十一話[ガビアル](2012/08/21 18:59)
[35] 二章 十二話[ガビアル](2012/08/21 19:00)
[36] 二章 十三話[ガビアル](2012/08/21 19:00)
[37] 二章 十四話[ガビアル](2012/08/21 19:01)
[38] 二章 十五話[ガビアル](2012/08/21 19:01)
[39] 二章 十六話[ガビアル](2012/08/21 19:02)
[40] 二章 十七話[ガビアル](2012/08/21 19:02)
[41] 二章 十八話[ガビアル](2012/08/21 19:03)
[42] 二章 十九話[ガビアル](2012/08/21 19:03)
[43] 三章 一話[ガビアル](2012/08/29 20:26)
[44] 三章 二話[ガビアル](2012/08/29 20:27)
[45] 三章 三話[ガビアル](2012/08/29 20:27)
[46] 三章 四話[ガビアル](2012/08/29 20:28)
[47] 三章 五話[ガビアル](2012/08/29 20:28)
[48] 三章 六話[ガビアル](2012/08/29 20:29)
[49] 三章 七話[ガビアル](2012/08/29 20:29)
[50] 三章 八話[ガビアル](2012/08/29 20:29)
[51] 三章 九話[ガビアル](2012/09/05 03:24)
[52] 三章 十話[ガビアル](2012/09/05 03:25)
[53] 三章 十一話[ガビアル](2012/09/05 03:26)
[54] 三章 十二話[ガビアル](2012/09/05 03:26)
[55] 三章 十三話[ガビアル](2012/09/05 03:28)
[56] 三章 十四話(本編終了)[ガビアル](2012/09/15 02:32)
[57] 外伝一 ある転生者の困惑(上)[ガビアル](2012/09/15 02:33)
[58] 外伝二 ある転生者の困惑(下)[ガビアル](2012/09/15 02:34)
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[34349] 外伝一 ある転生者の困惑(上)
Name: ガビアル◆dca06b2b ID:8f866ccf 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/09/15 02:33
 私、いや、僕だろうか……
 自称すら曖昧としている自分が「生まれる前」を思い返せるようになったのはちょうど五才になった頃だった。
 最初はぼんやりとしていたそれは段々鮮明になる。日を追う事に事細かに思い出せるようになってきて……一年も経った頃には、なぜそんな記憶があるのか、唐突に蘇ってくるのか……その理由もまた思い出す事ができていた。

 神様。そんな馬鹿げた存在である。いや、馬鹿げたと言ってしまっては宗教関係の方に申し訳がない。
 ただ、少なくともその言い分そのものについては馬鹿げたと言っても良いだろうと思う。ありえないほど稚拙なミスで私は殺されてしまい、そして転生させてくれるというのだ。
 正直有り得なかった。いろいろと。
 私はこれでも若い時から溜めた資金でもって、時には赤字を出したりしつつもネットショップを運営して生計を立てていた。ネットショップなどというと簡単に思われがちだが、顔を直接見れない分、とてもデリケートな側面もある。文面一つ間違えただけ、あるいは契約書の誤字一つをもってしてもとんでもない事になりかねない。いや、実際になった事もあり、身に染みている。
 あまりのありえない事態にも関わらず、流されないで疑問を感じる事が出来、用心深く相手の言葉を聞く事ができたのはその辺もあるのだろう。
 目の前のお髭の立派ないかにもな神様? は肝心な事を話していなかった。無条件に目の前の存在を神様だと信じられる部分も何かおかしかった。
 言い回しは何度も変えるものの、言っているのはただの二つ。転生のチャンスがあることと、それに重ねて何か一つ、次の生で願いを叶えてくれる事。
 それに何か既視感がある。問答を重ねるごとにそれは増し、ひどく不気味にも思えるようになってきた。
 悩んだ末、願ったのは記憶の保護だった。
 能力はいらない、良い家庭でなくても良い見た目でなくても構わない。ただ、これまで生きてきた自分の人生、23年間の記憶。それを脳が耐えられる状態になれば完全な形で思い出せるようにしてほしいと願ったのだ。
 もしかしたらこれはひどく見当違いなのかもしれない。記憶などは最初から持ち越せる事が前提なのかもしれない。
 しかし、その記憶の扱いについて聞いても、まったくこの神様は答えてくれないのだ……いや、いつ聞いたのか。私はこの質問をしていない。ただし答えてくれない事は知っている。
 また既視感だった。寒々しいものを感じる。
 その願いを聞いた神様はたまらないと言ったような嗜虐に満ちた笑みを浮かべると、その表情とはまるでちぐはぐな、好々爺とした調子の声で言った。

「そんなもので良いのかね、謙虚なのじゃなあ、まあよかろう。良い生涯を、の」

 どこかで、顔まちがえたという子供の声が聞こえたような気がした。

   ◇

 その記憶を最後に「私」の主観は途切れている。
 記憶をぽつぽつと思い出すようになったのは5才の誕生日をいくつか過ぎた頃だった。日を追う事に記憶を思い出し、思い出し……脳には相当な負担がかかっていたのだろう。その後は度々、体調不良を引き起こしていた。
 神様なんていう妙なものが出てくる記憶まで完全に思い出す事が出来たのはちょうど一年が経った頃だった。
 ため息を吐く。
 確かに能力もいらない、家庭も見た目も気にしない。
 ただ、転生という印象から、無意識に人に生まれ、性別はそのままだろうという思いこみがあった。今思えば何という甘さだったのか。あれはきっと明確に約束した事は守るがそれ以外は好き勝手にする。そんな存在だろうと今となっては思える。後の祭りでしかないが。まあ、だとすれば虫や植物などに記憶を保持したまま生まれ直してしまう可能性もあったわけで、そういう意味では幸運であったのかもしれない。
 土岐野という家に生まれ、実という名をもらった。日本人である。父親はちょっと仕事に情熱をかけすぎ、母親はいつもそれに文句を言っているような、普通の家庭だった。

「ときの……みのる、ね……」

 一人笑う。そして諦観のため息をまた吐いた。
 かつて女性であった記憶は少年の身としてはいろいろ……そういろいろきついものがあった。精神的なもので。
 性同一性障害とやらにかからなかったのはやはり運が良かったのだろう。あるいは成長に従って出てくるものなのかもしれないが、男女の差があまりない幼児期に記憶が戻った事もまた馴染めた理由だったのかもしれない。
 
 さてここで一つさらなる問題があった。
 改めて現状を認識して、確認してみると、嘘だろうと言いたくなるような事に突き当たったのだ。
 いや、生まれ直した身としては自分自身が嘘だろうと言ったような存在でもあるのだが。
 昔、生まれる前……女性であった時、私は恥ずかしながらネット掲示板でもじょとも呼ばれるような女だった。ただしもこっちのような綺麗なもじょではない。あれはもじょとは言わない。
 オタ気質でもあった。半ズボン少年などに「動けもじょっ」と言われれば「も゛!!」と即答する事が出来る筋金入りである。さらに魔法少女ものなどは好物でもあった。それが何かと言えば、若い時分に見ていたリリカルなのはというアニメと地名がとても被っている事に気付いたのだ。
 海鳴市、よく鳴海市とか間違える人がいるが、海が鳴く市だ。
 電話を契約していると配布してくれる、お馴染み黄色い電話帳をめくれば、飲食店のページに翠屋という喫茶点もあった。
 お茶を飲んで一息。
 今度は青い表紙のお馴染み地域ごとの世帯別電話番号も書かれている電話帳をぱらぱらと。
 ……あった、高町家。やはり居るのか魔法少女。
 思わずがっくりと項垂れた。いや、まだ判断するには早計だ。確かリリカルなのはには元ネタになったゲームがあるはず、よく知らないがそっちの可能性もある。いや、何でアニメとかゲームの世界と被っているってだけで、ここまで動転しているのか。実は現実の市をモデルにあの作品を作ったっていう可能性だって……
 うん、無いか、無いな。何せ記憶の中の歴史とこちらの歴史は違う。こちらでは阪神淡路大震災が起きていない。いやそれ以前に日本列島だって少し形が違ったりもする。
 考えて、考えて、考えあぐねた。ひとまず置いておく。
 まずは下調べが必要だろう。幸い、記憶が戻ってない頃からも何か影響するものがあったのか、非常に頭の良い子だと思われている。手がかからない子供とも思われていて、一人で動いていても親はそれほど心配しないだろう。体力をつけるためにも外で遊ぶ事については寛容だろうと思う。
 しかし今思うと、記憶を残したのは独りよがりの結論でしか無かったのかもしれない。あの時、生まれ直すなら当然親となる存在も当たり前に居る……なんて事などはこれっぽっちも浮かばなかった。
 父と母には黙っておこう。墓まで持っていく秘密だ。我が子が誰とも知らない記憶を引き継いでいるなんてのは気色が悪すぎるだろうし、下手に明かすよりは隠し通す方が良い。明かせばしこりが残る。こんなつまらない事で家庭が空中分解とかしてしまう方が嫌だった。
 
 子供というのは体が軽い。
 記憶の中の自分と比べてしまうから尚更そんな思いを抱くのだろう。普通の子は体が軽いのがあまりにも当たり前で、きっと体重計に乗る時に一喜一憂なんてしないのだ。
 そんな自分は一年ちょっと不健康な生活をしていたせいか、平均的な同い年の子供と比べてもなお軽いようだった。身長は割と平均的だが、やはり筋肉の付き方が今ひとつなのだろう。
 しばらくは幼稚園から帰った後も昼寝とかはせず、親の心配をよそにひたすら外で遊び回っていた。リハビリも兼ねているのだが、何というか、別の意味でも体が軽く、動くのがとても気持ち良かったりもする。走ったり跳ねたり、木に登ってバランスをとってみたり。うんうん、昔は男の子がばたばたしていたのを絵本を読みながら「馬鹿みたい」と思ってたものだが、いやこれは楽しい。
 ……半ば目的を忘れていたりもした。
 いや、ちゃんと情報は集めている。ただ遊び回っていたわけじゃない。うん。
 やはり、高町家に高町なのはという子は居るようだった。ただし、自分より3歳年下。魔法があるかどうかはまだ確認出来てないけど……まあ、多分あるんじゃないかと思う。なにしろ猫さんが居た。いや、猫耳や尻尾は隠しているのか、確認できないけれども……あれは恐らく闇の書事件の時に登場してくる猫姉妹だ。なぜか本屋で家庭の料理本を品定めしている。
 こんな子供を警戒するわけもなし、立ち読みをしながら聞き耳を立ててみると、別に偽名を使ってるわけでもなく普通に名前で呼び合っていた。八神はやての名前も聞こえたが、細かい部分はまではさすがに聞こえない。
 ともかくもはっきりしたことがある。
 あの高町なのはに加え、あの猫さん達が居るなら……間違いなく。頭湧いているのではないだろうか。いや、それでも信じるしかないのか、ないのだろう。
 ここがリリカルなのはの世界であるのだろうと言う事を。

   ◇

 ジュエルシードの一件に関わるつもりはなかった。いやそもそも魔法関係に関わるつもりがなかったと言える。
 記憶があったとしても結局は力を持たない一般人。関わりを持ってもどうしようもないのだ。
 ただ、確実に関わりないようにするにはどうすれば良いか……その問題はあっけなく解決した。
 きっかけは父の単身赴任だった。隣の市の営業所長になるらしい。
 当初、父は母と息子には海鳴に残っていてもらうつもりだったのだが、うん。盛大に泣きついた。お父さんと離れるの嫌ー! と。内心結構クるものがある。とはいえそこは勝負所だった。そして勝負には勝った。普段あまり面倒もかからない一人息子に泣きつかれてしまってはなかなか強くも出れなかったのかもしれない。家族揃って引っ越す事となったのだった。
 安全圏確保。あくまであの物語は海鳴市を中心に巻き起こるもの。ある程度距離を置けば問題はないだろう。サイヤの戦士っぽい魔法少女が幕を引いてくれるはずだった。
 新たな住まいはちょっと郊外のアパートを借りることになっている。父はまだ転勤があるかもしれないが、私……いや僕が中学を出るくらいまでは大丈夫だろうと笑っていた。
 引っ越しもあらかた終わり落ち着いてみると、一気に体の力が抜ける感覚があった。
 何だかんだで記憶が戻ってからというものの、ずっと気を張っていたのだろう。無意識のうちにも。そこまで神経質にならなくても良いと頭では考えられるのだが、仕方無い。神経の細さはどうやら生まれ直しても変わらないようだった。

 時が経った。一応当時の記憶を風化させないためにノートに事細かく書き残してあったものの、ジュエルシードとか闇の書とかほとんど忘れ、ただ日々を謳歌していた気がする。
 かつての記憶を持っていた身からすれば、子供の時期の吸収力というものがどれほど大事なものかはよーく理解していた。それはもう勉強に費やし、体を動かし、そしてよく寝た。
 単調な生活でもあり、普通の子供の感性からするととっくに投げ出していたのだろう。
 ただ、自分がぐんぐん知識を吸収し、体はどんどん成長する……その感覚がとても楽しくなってしまったのだ。遊ばない子供と思われていたけど、多分自分の成長こそが唯一の遊びになってしまっていたのだと思う。
 最初は神童と呼ばれる事もあった。そりゃ小学校一年の分際で中学でやることをこなしていればそうも言われる。復習のつもりだったのだけども。いや何しろ高校卒業してから年数が経ち、さらに生まれ直してしまえば忘れてしまっている事も多い。因数分解とかちんぷんかんぷんだった。
 そして、いつしか頭は良いけどとんでもない変わり者、と見られるようになっていた。交友関係は普通だけど、深い付き合いは無く、子供にはありがちの男子女子でどうこうという事にも一切頓着しない。折しも担任教師が発達障害の事について講習でも受けてきたのか、変なテストを受けさせられた事もあった。サヴァン症候群がどうこう言っていたが、サヴァン症候群ってそんなものだっただろうか? 何か間違っている気がしてならない。
 また、ちょっとした小遣い稼ぎにも手を染めた。父の面目を潰してしまうかもしれないので今のところ母と秘密でやっているのだが。うん、株である。
 世界そのものが違うとはいえ、大まかな歴史はあまり変わっていないのだ。もっとも、最初は自分の記憶の中の社会とこの世界の社会にどれほど差違があるのかを確かめるために新聞を見て株式予想をしていただけなのだが、当たる当たる。どうやらIT産業が盛んになるのはこちらの世界でも同様なようだった。だとすれば生かさないと勿体ない、ということで母に予想の成果を見せて巻き込み、株を買って貰ったのだ。
 もちろん元手が母のへそくりなので、そう大きなものにはなっていないが、そろそろ父母二人が老後をゆったり過ごせるくらいにはなってきている。また予想料として普通の子供よりもかなり大目のお小遣いなどを貰っていたりした。母も最初は子供にあまりお金を持たせるのは……と思っていたようだったのだけど、何しろ購入するものと言えば、機械いじり用の部品の購入である。学習の一環とでも思ってくれたのかもしれない、あまりうるさく言われる事もなくなっていた。
 さて、何のための機械いじりかというと、生まれ変わる前とは違い、妙にこう……興味が湧いてきてしまっているのだ。妙に面白いのである。もちろんそんな趣味的なものとは別に目的もあるのだが。

 里帰りというわけではないが、海鳴市には数年前からちょこちょこ足を運んでいた。
 地理を把握し、どこに誰が住んでいるかを覚えた。顔を覚えられるのを恐れて高町家周辺はあまりうろついていないが、翠屋には数回足を運んでいる。
 当初は関わるまいと思ったものだったが、時間を置いて考えているうちにそれで良いのかと思うようになったのだ。
 本当に、離れているだけで事件は解決してくれるのか? あの物語と同じ通りに丸く収まるのだろうか? そんな不安が芽生えるとあっという間に頭の中に根を張り、こびりついてしまったのだ。そんな不安から選んだ行動は、事件の間の監視だった。もちろんこんな子供の身で何が出来るかと言えば、異常事態を迎えても人を呼ぶくらいしかできないのだろうが、きっと無いよりはマシだろう。その為に制作した盗聴器や集音器、そして監視カメラだった。三年をかけて準備したのだ。制作キットなどでは実用的なものとなってくれないので、いろいろ工夫した。基盤屋さんに注文するのも大分こなれてしまった気がする。ゆくゆくはこのまま電気工学の方向性で行くのも良いかもしれない。

   ◇

 僕となった私が12才ともなり、小学校もあと一年。春のことだった。
 漠然と感じていた不安は的中した。偶発的な出会いによって。あるいは異端は異端を呼んでしまうとでも言うのだろうか……
 いつも通り、学校が終わり、運動着に着替えてランニングがてら海鳴市に入ってゆっくり走っている時だった。そろそろあの物語が始まる頃合いだ。注意しないと。
 そんな事を思い、通りの桜に見とれていると、何かを踏んでしまったような感触がある。暴れるような感触に慌てて飛び退くと、みぎゃみぎゃと言いながら猫が逃げていった。
 ……尻尾を踏んでしまったらしい。ごめん猫。
 道ばたに何かが落ちていた。さっきの猫がもっていたのかもしれない。意中の彼女にでもプレゼントするつもりだったのかもしれない。とっても綺麗な宝石だ。そう、菱形で青くてナンバーが打ってあって……

「どういうことだ嘘だろ正直これはない一体何が起こったこれがスタンド攻撃というものか」

 混乱した。何だか顔もとても劇画タッチになってしまった気さえする。
 ドドドという効果音さえ脳裏に閃いた。
 思考が真っ白になりまとまらない。荒い呼吸とばくばく鳴っている心臓がまるで他人のもののようだ。
 ゆっくり歩み寄り、おそるおそる手に取った。
 陽光に照らされ、ジュエルシードはとても綺麗に輝いている。
 いけない。
 周囲を確認する。人気はないようだった。なら良い。ポケットに突っ込み、きびすを返す。
 いつ頃だったか忘れたが、フェイト・テスタロッサが広域探査を行うはず、また近くにいれば魔導師は独自に感じ取る事も可能だった気がする。
 何はともあれその場を離れ、極力何食わぬ顔で自宅に帰り、自室に入った。ジュエルシードを厳重に紙で包んで包んで、封筒に入れて机にしまう。
 少年の部屋に置くにはちょっとばかり少女趣味めいた色合いのベッドに座り込み、思い切り息を吐いた。緊張が解けたせいか汗がどっと出る。

「落ち着け、落ち着け、落ち着け……」

 ぶつぶつとつぶやいて自己暗示めいたものをかけてみる。
 どうしてこうなった。いやあれはどうしようもない。まさか様子を見に行くだけであんな事になるなんて思ってもいなかった。大体なんで拾ってしまったのか……放置しておけば勝手に……
 いや、それは判らない。もし、あのジュエルシードが猫に運ばれた先で主人公達に回収されるという物語だったのであれば、どのみちその機会を潰してしまったという事だ。
 そうだ、考えないと。考えないといけない。
 これをあるべき場所に戻すという手段はとれない、可能性が高いのは猫が一杯いるはずの月村家、その敷地に転がっていたジュエルシードだと思う。その敷地内に持っていく途中だったのかもしれない。ただ、これは確証がない。それ以前にあのお屋敷に忍び込むとか悪い予感しかしなかった。
 関与する他はなかった。これがテレビの中の物語だとしたら、そんなもん主人公達に丸投げして放置だ放置って言ってるところなのだが、あれは世界単位でやばい代物のはずなのだ。責任感云々以前に怖くて放っておけない。自分が一個ずらしてしまったバタフライ効果で原作より酷い事態などになったら……勘弁してほしい。いやいや、時空管理局なんていうものが途中から出張ってくれるはずなので、そこまではなかなかいかないとは思うけど。
 うん、そうだ。さすがにこの事態までは予想できたものではなかったが、どのみち様子は伺うつもりだった。関与と言ってもそう、ちょっとした関与で良い。
 恐らく危険なのはプレシア・テスタロッサのジュエルシードの使用。時の庭園と呼ばれる舞台がどこにあったかは判らないものの、こちらの世界で探索に当たり、直通の転移で帰れる地点にはあるはずなのだ。魔法っていう仕組みがそこら辺どうなっているのかはよく判らないものの、この世界と近い地点に時の庭園がある可能性は高いと思うのだ。だとすれば、危険なのはプレシア・テスタロッサの手に原作よりも多くのジュエルシードが渡る事だろう。
 次に危険なのが、やはり偶発的な暴走だろうか。人間が動かしてしまった場合は通常より被害が大きくなるはず。自分も気をつけないといけない。
 そして高町なのはとフェイト・テスタロッサの激突もまた危険要素があったはず。もし、今回拾ってしまったジュエルシードが月村家の敷地にあるものだとしたら、最初の二人のコンタクトを無くしてしまった形となる。それがこの後どう出るのか。

「いや、不安要素を挙げればキリがない……」

 ジュエルシードをしまいこんだ机を見る。
 大きくため息を吐いた。本当にどうしてこんな羽目に。

   ◇

 大過なく事を収めるために、やっておかないといけない事があった。
 記憶が鮮明なうちに書き留めておいたノート、それによれば……
 フェイト・テスタロッサの居場所は恐らくこの物語通りとするなら、きっと遠見市の住宅街、他の建物より一際飛び抜けて高いマンションに居を置いているはず。
 該当する場所は一カ所しかなかった。
 換気口というのはどの部屋にも存在する。
 そこに集音マイクと盗聴器を仕掛けた。普通ならこんな手段は使えないだろう。ただ、フェイトもアルフも探索に赴いた世界で、既にして自分たちが知られているなんて事はまず思わないはず。警戒もしていないだろう。魔導師の感覚がどこまでカバーするものか判らないので悩んだが結局無線式にした。
 この試みは成功し、今のところ会話については筒抜けである。設置時にちょっと怖い思いをしたのは置いておく。
 テスタロッサ組の動向を把握しつつ、バッティングしないようにジュエルシードを先んじて見つけ、高町なのは、及び時空管理局の手に入るようにし、回収ペースを早める。それが恐らくもっとも波風立たない帰結に繋がると踏んだのだった。こちらの顔が割れてしまうが、いざとなればテスタロッサの動向についての情報をそのまま管理局に渡しても良い。
 狙いは温泉付近のジュエルシードである。
 他は正直タイミングが読めないし、戦闘を伴ってしまえば付け入る隙もない。
 事前に回収出来るものはこれ以外に考えつかなかったのだ。
 学校を誰の目にもばればれな体調不良という名で抜けだし、探索を続けること二日。
 川の縁にそれを見つける事ができた。ほっとする。盗聴した会話を聞く限りでは、まだこの地点のジュエルシードは見つけていないようだったのだ。
 ジュエルシードの持ち運びには注意を払わないと……
 いや、そうぽんぽん暴発するものだったら初日の段階で海鳴はそれこそ滅びていただろうし、暴発させてしまった少年も、拾って持ち運びができるくらいには安定しているのだ。おそらく強い願いと、直接接触すること。その二つがトリガーになっているものと思える。こうして小袋に入れ、さらにバッグなどに入れれば、持ち運ぶ分には多分問題ないはずだった。

 4月も末に入る頃、クロノ・ハラオウン……管理局の登場はおおむね予定通りのようだった。
 結界内の事なので詳細は判らないが、その後すぐフェイト、アルフ組が遠見市のマンションを引き払ったのだ。管理局に嗅ぎつけられるのを考えてこれ以後は時の庭園を拠点に探索をするつもりなのかもしれない。まさか野宿とかしていない……よな?
 ともあれ、ここまでは一先ず良し。恐らくだが、本来の物語よりフェイト・テスタロッサは焦っていた。会話を聞く限りでも魔力を使い過ぎ、無理を重ねている。そんな流れにしたのは自分なのだろうけど、自分の身と世の中の平穏の為だ。仕方無い。
 なんて思って割り切ろうとしているものの、やはり罪悪感というか苦いものは口に残る。まったくもって子供に苦しい思いをさせるものではなかった。
 いや、まだだ。あと一つだけ動かせる事態がある。
 5月に入りゴールデンウィークも過ぎた頃、やはり学校を抜け出してある場所に連日のごとく来ていた。
 かねてからチェック済みだった山間の道路沿い。森の中に一部開けたところがある。時期によっては山菜採りの人が結構居たりする広場めいている場所だった。目の前の道路は海鳴で一番のお屋敷とも言えるバニングス家に続いていたりもする。
 夕方にはまだちょっと早い……そんな時間だっただろうか、怪我をしたアルフが転移してきた。少し歩き、倒れ伏す。

「フェイト……」

 と呻くように言い、人の姿を保てなくなったのか、元の姿に戻った。
 息はあるが、かなり苦しそうだ。なるべくここでキャンプでもしてた一般人を装い、おっかなびっくりといった感じで近づく。

「こりゃ……結構重傷だな……」

 実際に怪我を見てみるとかなりエグい。
 タオルを顔に被せ、こちらの姿を見られないようにし、応急処置を施す。子供の身にはかなり重いが、ロープをおんぶ紐のように使い、背中に抱えた。少し抵抗するような素振りがあったので、ちょっとした思いつきのようにつぶやいてみる。

「大型犬……高町さんなら頼めるかな、顔広いし」

 しばらく考えるような素振りを見せた後、アルフがぐったりと背中にもたれる感じがした。
 これで良い。本来アリサ・バニングスに拾われ、手当を受けるはずだったのだが、そのまま高町家の前に運び込む。途中で拾ったタクシーの運転手には変な目で見られたものの、知ってる獣医がいるんですと誤魔化したら信じてくれた。今の時間なら誰も居ないはずなので、高町家の面々に見とがめられる事もないだろう。置き去りにするのはちょっと心がとがめるが仕方無い。タオルを敷いた上にアルフを横たえた。
 ちょっと離れた高台から双眼鏡で見ていると、どうやら帰宅した高町なのはとユーノ・スクライアが驚き、どうしようかと相談している様子だった。しばらくの後、魔法陣が現れアルフごと姿は見えなくなった。おそらく怪我を見て、緊急事態という事でアースラに転移したのだろう。
 それを見届け、大きく息を吐いた。緊張が抜ける。
 これでおそらく最短での事件収束になるはず。温泉の近くで発見したジュエルシードについてはアルフと共に紙袋に入れて置いてある。高町なのはが、何かなと覗きこんでえらくびっくりしていた。あわあわとする様子がとても可愛いものだ。

   ◇

 その後は順調に収まったようだった。少なくとも普通に住んでいる限りでは異常を感じる事はない。きっと舞台がアースラや時の庭園に移ったんじゃないだろうか。
 記憶の中でもひときわ印象深く残っている二人の決戦、あったかもしれないが確認することはできなかった。結界の中で行われたのだろう。
 5月も末に入った頃、港の展望台がここ数日の居場所だった。覗きこんでいるのは海の向こう……ではなく、自前の双眼鏡でもって海に流れ込む河川、そこにかかっている橋の上を覗きこんでいる。
 視界の中では二人の少女がリボンの交換をしている。別れを惜しんでいるようだった。
 今更だけどこれ以上は見るのも気が引け、切り上げた。やはりあの二人は結びつくべくして結びついたのだろう。少々の揺らぎ程度ではどうこうなるものでもなかったようだ。出会う場面を潰してしまった気がするし、心配していたのだが、杞憂だったようだ。

「さって」

 初夏を感じる日差しの中、ぐっと背を伸ばした。
 次の問題は闇の書事件である、それさえクリアできれば地球は安泰のはず。今回のようなジュエルシードの絡んだものと違い、魔導師でもない者が絡んで何かをできるというわけでもないのだが、いざとなれば管理局にこの記憶の事を話すだけでも違うだろう。今回の事でどのくらいのバタフライ効果が生まれてしまったかは定かではないし、これからまた情報を得るための下ごしらえを始めないといけない。

「……とはいえまずは」

 学校の出席日数を取り戻す事から始めるとしようか。
 小学校だし、成績さえよければ中学は入れるけども。親が最近、夜中になると子供の育て方について議論していたりもして……何というか本当にごめんなさいなのだった。


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