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No.34349の一覧
[0] 道行き見えないトリッパー(リリカルなのは・TS要素・オリ主)本編終了[ガビアル](2012/09/15 03:09)
[1] プロローグ[ガビアル](2012/08/04 01:23)
[2] 序章 一話[ガビアル](2012/08/05 12:22)
[3] 序章 二話[ガビアル](2012/08/05 12:23)
[4] 序章 三話[ガビアル](2012/08/05 12:23)
[5] 序章 四話[ガビアル](2012/08/05 12:23)
[6] 幕間一[ガビアル](2012/08/05 12:24)
[7] 一章 一話[ガビアル](2012/08/05 12:32)
[8] 一章 二話[ガビアル](2012/08/05 12:33)
[9] 一章 三話[ガビアル](2012/08/05 12:34)
[10] 一章 四話[ガビアル](2012/08/05 19:53)
[11] 一章 五話[ガビアル](2012/08/05 12:35)
[12] 幕間二[ガビアル](2012/08/06 20:07)
[13] 一章 六話[ガビアル](2012/08/06 20:08)
[14] 一章 七話[ガビアル](2012/08/06 20:08)
[15] 一章 八話[ガビアル](2012/08/06 20:09)
[16] 一章 九話[ガビアル](2012/08/06 20:10)
[17] 一章 十話[ガビアル](2012/08/06 20:11)
[18] 幕間三[ガビアル](2012/08/09 19:12)
[19] 一章 十一話[ガビアル](2012/08/09 19:13)
[20] 一章 十二話[ガビアル](2012/08/09 19:13)
[21] 一章 十三話[ガビアル](2012/08/09 19:14)
[22] 幕間四[ガビアル](2012/08/13 19:01)
[23] 二章 一話[ガビアル](2012/08/13 19:02)
[24] 二章 二話[ガビアル](2012/08/13 19:02)
[25] 二章 三話[ガビアル](2012/08/13 19:03)
[26] 二章 四話[ガビアル](2012/08/13 19:03)
[27] 幕間五[ガビアル](2012/08/16 21:58)
[28] 二章 五話[ガビアル](2012/08/16 21:59)
[29] 二章 六話[ガビアル](2012/08/16 22:00)
[30] 二章 七話[ガビアル](2012/08/16 22:00)
[31] 二章 八話[ガビアル](2012/08/16 22:01)
[32] 二章 九話[ガビアル](2012/08/21 18:59)
[33] 二章 十話[ガビアル](2012/08/21 18:56)
[34] 二章 十一話[ガビアル](2012/08/21 18:59)
[35] 二章 十二話[ガビアル](2012/08/21 19:00)
[36] 二章 十三話[ガビアル](2012/08/21 19:00)
[37] 二章 十四話[ガビアル](2012/08/21 19:01)
[38] 二章 十五話[ガビアル](2012/08/21 19:01)
[39] 二章 十六話[ガビアル](2012/08/21 19:02)
[40] 二章 十七話[ガビアル](2012/08/21 19:02)
[41] 二章 十八話[ガビアル](2012/08/21 19:03)
[42] 二章 十九話[ガビアル](2012/08/21 19:03)
[43] 三章 一話[ガビアル](2012/08/29 20:26)
[44] 三章 二話[ガビアル](2012/08/29 20:27)
[45] 三章 三話[ガビアル](2012/08/29 20:27)
[46] 三章 四話[ガビアル](2012/08/29 20:28)
[47] 三章 五話[ガビアル](2012/08/29 20:28)
[48] 三章 六話[ガビアル](2012/08/29 20:29)
[49] 三章 七話[ガビアル](2012/08/29 20:29)
[50] 三章 八話[ガビアル](2012/08/29 20:29)
[51] 三章 九話[ガビアル](2012/09/05 03:24)
[52] 三章 十話[ガビアル](2012/09/05 03:25)
[53] 三章 十一話[ガビアル](2012/09/05 03:26)
[54] 三章 十二話[ガビアル](2012/09/05 03:26)
[55] 三章 十三話[ガビアル](2012/09/05 03:28)
[56] 三章 十四話(本編終了)[ガビアル](2012/09/15 02:32)
[57] 外伝一 ある転生者の困惑(上)[ガビアル](2012/09/15 02:33)
[58] 外伝二 ある転生者の困惑(下)[ガビアル](2012/09/15 02:34)
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[34349] 三章 十二話
Name: ガビアル◆dca06b2b ID:8f866ccf 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/09/05 03:26
 闇の書事件の解決、そしてアースラでの賑やかな一夜を思い出す。
 事務所のカーテンが風に吹かれ大きく膨らんだ。
 あの時撮った集合写真は思い出としてデスクの上に飾ってある。
 ちなみに愉快犯のエイミィから渡されたクロノとユーノの女装写真も大事に保管されている。後で冷やかしてやるのに丁度いいだろう。

「しかし、あの頃はほんとにちんちくりんだったなぁ」

 なんて、自分の姿を思い出してぼやいてみる……もっとも、4年経った今でもあまり身長は伸びてなかったりするのだけど。
 ……いや、2センチは伸びた。うん。鏡を見ればなかなか良い体付きなのだ。胸とか張りがあるけど柔らかいし、尻や足とて良い形をしている。変な方向に改造された種族なだけあって、肌もすべすべで毛も……無駄毛処理にかかる手間が少なくて大変助かっている。ただ、身長が伸びない……ついでに顔もあまり変わらない。容姿のかぶる夜天の書の管制人格、リインフォースが20歳前後の見た目とすれば私は15歳前後だろうか。あまりに以前から代わり映えしないので、せめて服だけでもとバリアジャケットを大人っぽいスーツ型にしたこともあった。笑いを取ることだけには成功したけど、あれも一種の黒歴史というものなのだろう。
 私は仕事場のデスクに頬杖をついてぼんやりした。
 時節は春。今眠ると暁を覚える事は無さそうだ。
 隊舎の中は現在私と、データの山と格闘している二名のみ。
 ティーダを含めた主力は現在出払っており私達がお留守番というわけだった。

「くぁ……」
「副隊長、眠たげにしてないで手伝って下さいよ」
「私が手伝ったら君たちのためにならないから」
「じゃあせめて、仮眠室行って休んで下さい。目の前で眠そうにうつらうつらされると暗雲のごとき感情がこみ上げてきてたまりません」
「詩的な怨念を感じないでもないよね」

 そう軽口を叩き、私は画面を親の敵でも睨むような顔でコンソールを叩き続ける隊員のため、コーヒーでも淹れようと席を立った。

   ◇

 時が過ぎるのは本当に早い。
 私やティーダも既に戸籍年齢21歳、肉体年齢は多分19歳くらいである。地球であれば成人式をどっちの基準で行うのか悩まなくてはいけない頃合いだった。
 ティアナちゃん……ティアナもまた今年の夏で10歳となる。反抗期というわけでもないのだろうけど、私としては複雑な思いだった。最近一緒に寝てくれないのである。ちゃん付けで呼ぶと怒るのである。ティーダにもなかなか甘えてくれなくなってしまい、二人して愚痴を言う事も多い。
 なのはちゃんはフェイトちゃんと共に、闇の書の事件後、二人してミッドの訓練校に入学、本人は短期でと希望したみたいだけど、あの折の映像を見た教師達が基礎を学ばせるべしという方針の元、通常よりは短いものの、半年をかけてみっちり基礎を固めてきたのだとか。フェイトちゃんは魔導師としては基礎過程からしっかり教育されていたらしく、実質的になのはちゃんの強化合宿みたいな感じになったらしい。
 その後は、管理局員として破竹の快進撃。二人は魔導師としての能力もさることながら、例えばレティ・ロウラン提督などはその判断力や、モノに動じない胆力など、内的なものについて高く評価していた。
 ただ、二人とも初めて飛び出た社会というものにのめりこみ過ぎている気もする。根を詰めすぎているようなのだ。
 ティーダともちょっと話し合った結果、恭也と美由希に魔法を使い過ぎた際の体への負担などを説明し、なのはちゃんの体調管理をするように言い含めた。フェイトちゃんの方はクロノがついてるし、そうそう無理はさせないだろうけど、なのはちゃんの家族は魔法というものをよく知らない。本人が説明すると言ったので「そう言うなら……」と以前は引いてしまったのだ。
 恭也と美由希、二人の監督がついた効果はてきめんである。私と会う事に不服そうな顔で口を尖らせ「一人でできたのに……」と言うなのはちゃんもまた乙なものだった。思わずかいぐりかいぐりしてしまい、その子供扱いにますます口を尖らさせてしまった。
 ちなみに、なのはちゃんが訓練校に行くと決めた時、高町家に同行し、私も含めて魔法を使える事を説明したのだったが、その時の反応は忘れられない。
 少しは驚けばいいものを……恭也などは少し考える風に目を細め、一つ頷くと「まあ、そんな事もあるか」などとあっさり納得してしまったのだ。

「いや……そんだけ!?」
「まあ、世の中にはいろいろ不思議な事があるからな、子供向けアニメのような魔法少女の一人や二人いてもおかしくはない」

 私としてはもう少しくらいはびっくりしてくれるものと思っていたので、何だか上手くすかされた感じがする。よし、ならばと……

「実はそれだけじゃないんだ。何とユーノ君は魔法フェレットだったのだよ!」

 なのはちゃんの肩に乗っていたユーノ君を呼んで、元の姿で挨拶してもらう。
 さすがにこれには恭也も固まった。天井を仰ぎ見る。

「ああ、まあ、狐も化けるしな……鼬が化けても不思議ではない。うん、だが慣れてしまっていいのだろうか俺は……」

 どこかそんな自分に呆れたように、口の中でつぶやいていた。
 恭也は手強かった。その後幻術魔法とかも見せたり、私の持ち前の翼を見せたりもしたのだが、一向に驚かない。思っていたリアクションと違う。なんなんだ。
 ちなみに、美由希は無言でユーノ君の手を引き、自らの膝の上に乗せ、満面の笑みで抱きしめている。ユーノ君は困惑を隠せないようだった。

「ええと念のため……美由希さんや、光源氏計画は禁止だよ?」

 そう言うと美由希は絶望した表情で私を見た。まさか本当に考えていたのだろうか。
 大きくため息をつく。なのはちゃんには聞こえないように近づいて耳元でこそこそ。

「将来有望そうな美少年だからって、妹と仲良い子に手出そうとするもんじゃないよ、冗談だったとしても」

 そう言うと恨めしそうな目で見られた。

「ツバサく……ちゃんが男の子だったら良かっただけなのに……ねえねえ、魔法なんてものがあるんだったら、ええとその、生やしたりする魔法なんてないの?」

 何が? とは聞き返さない。私は冷たい目でじっとり見るだけである。

「……あうぅ」

 へたれた。

「というか美由希は最近必死すぎるんじゃ」
「だ、だって、高校生なの、花の季節でしょ? でもでも、私はというと右手に剣、左手に本、顔には眼鏡のフル装備。ふっと振り返ってみるとそのあまりのモノトーン調の自分に絶句しちゃう時だってあるんだよ!」

 まくし立てた美由希は力を失ったようにがっくり項垂れた。
 力を失った瞳でぶつぶつと「えへへ、もういいよ私は剣に生きてやる」なんてつぶやく姿は何かの暗黒面に墜ちるまで後一歩な感じである。

 ……そんな色々と悩み深きものを抱えていた美由希も今では大学生となった。何か用事があるとかでここのところ香港に行ったり来たりの毎日らしい。
 未だ美由希のお眼鏡にかなう彼氏は現れていないそうで、素敵な出会いがあることを祈ってやまない。
 恭也は既に結婚してしまったのだ。そちらに子供が生まれて、彼氏の一人もできないままに、いつ「おばちゃん」と呼ばれる身になるか戦々恐々としているという。

 八神はやて。闇の書事件の中心人物であり、現在は夜天の書の主である彼女は、聖王教会の庇護下に入った。
 夜天の書に存在した管制人格についてなのだが、バグ部分が取り切れなかったとかで、次元世界外の世界、シャルードさんが作った封鎖空間に現在封印されている。はやてちゃんは、いずれは管制人格……リインフォースを完全に復活させてあげたいとの事で、魔導師としては研究者的な方向に進んでいる。
 ただ、最近では何か思う事でもあったのか、管理局に入り、忙しく仕事をこなしていた。実体験の中から何かを得ようとしているのかもしれない。彼女は彼女でティーダやクロノとは違った意味で頭が良い。よく考えた上でのことだろう。
 闇の書がこれまで起こした事件、それへの責任をどこに問うかについてはかなり揉めたらしい。
 もちろん法的にはそれを問うことはできないのだけど、感情的な問題が残っている。ただ、グレアム提督が意図した、報道に乗せての印象付け……最後は不発に終わったけど。それにより軟化していたようで、聖王教会が管理責任を負い、またそれまでの犠牲者の遺族たちにも手当を出すことになった。はっきりとそういう保証がされた事で心情的にも区切りとなったらしい。一時は騒々しかったはやてちゃんの周辺もだいぶ落ち着きを取り戻している。
 もっとも、その代償というものだろうか、夜天の書についてはその所有権を聖王教会に引き渡される事になり、現マスターに貸与するという形になった。
 現マスターの死後、ヴォルケンリッターの面々も夜天の書ともども教会に引き渡される事になり、その契約にはやてちゃんは何度も謝っていたのだが、肝心の当人達はその辺にはあまり頓着していないようだ。ただ、はやてちゃんのその心に感じる部分は相当あったらしい「シグナムが泣いたんだ、あのシグナムが」と後にヴィータが話してくれた事もあった。

 それぞれが穏やかな色合いに包まれる中、フェイトちゃんだけは沈んだ色合いだった。
 闇の書の事件後、次元世界外に封印された夜天の書の管制人格リインフォース、依頼という形ではあったが、何より自分の娘、アリシアのためにその解析に力を注いでいたプレシア・テスタロッサが病で倒れ、眠るように息を引き取ったのがつい先週の事である。一度は私も見舞いに行ったのだが……うん、意識があまりはっきりしないらしく、フェイトちゃんをアリシアと思いこみ、穏やかに微笑む姿は、とてもあの闇の書事件時の姿と一致しなかった。
 私も複雑な気分のまま、ただ「いいの?」とだけ聞いた事がある。
 フェイトちゃんは頷いて「今は優しいから……それに母さんって呼ぶと、こっちを向いてくれるから」と嬉しそうに言うのだ。それはもう嬉しそうに。
 正直こちらが貰い泣きしてしまいそうだった。
 余談がある。後でクロノに聞いた話だったのだけど、入院中、医学的にはプレシア・テスタロッサの意識レベルは低下していなかったというのだ。

「わざとフェイトちゃんを間違えていた?」
「……その可能性もある」

 クロノも私も押し黙る。
 多分、この謎は解かなくても良い謎なのだろう。そんな気がした。

 そのクロノは当時の映像で流れた活躍っぷり、さらにその後の案件を次々片付けて行ったこともあり、今や管理局の次代を担う一番手と目されている。
 無限書庫に勧誘され、いつの間にか司書長になっていたユーノ君とは今でも仲が良い。うん、普通に仲が良いだけなのだが……知っているのだろうか、二人を題材にした……激しい腐臭を漂わせる画像データが世に蔓延っている事を。いや、知らないままの方が良いのだろう。世の中にはこんなはずじゃなかっただろう世界が多すぎる。こんな世界は知らない方が良いはずだ。エイミィが一冊持っている事も黙っておくのが懸命だろう。
 現在では若年ながら、すでに母であるリンディ・ハラオウン提督に代わり、アースラの艦長ともなっていた。士官学校時代から一緒のエイミィもまた何食わぬ顔で副官として付き従っている。

 一番状況が変わったのはグレアム提督……いや、もう称号、階級は剥奪されてただのギル・グレアムとなった爺さんだっただろう。
 四年前のあの事件、長年の功績や知名度などを考慮され減刑はされたのだけど、それでも当然ながら罪を問われる事になった。
 管理局全体への情報操作、遺失物管理法違反、騒乱罪などなど……造反罪に問われなかったのは良かったとも思うが、その背後にはいろいろ政治的な思惑が巡っていると考えるとちょっとモヤッとしなくもない。最終的な処分は、管理局からの除名及び使い魔の維持以外の魔法使用禁止、管理世界からの追放といったものである。
 ミッドの感覚からするととても重い処分とも言えるかもしれないが、内実は故郷に戻って引退しろという事だろう。
 プレシア・テスタロッサとはアナログな手紙のやり取りなどをしていたようだったが、管理世界に入れない都合上、亡くなった時も葬式に参列することはできなかった。
 入院している時、手慰みに作っていたという薔薇の造花。
 フェイトちゃんが遺品として、グレアムさん宛てにと渡してくれた手紙にはそんな造花が飾られていた。

   ◇

 コーヒーのドリップは音を立てないのがポイントだ。
 細い注ぎ口のケトルでお湯をそっと注ぐ。
 豆を蒸らしている間に、ぽこっと穴が開いてしまえば失敗だ。
 上手く膨らんだら、その中心にはじめは勢いよく、段々ゆっくり、お湯を注ぐ。
 一定に、なるべく一定に。
 ふわりと良い香りが鼻孔をくすぐった。
 疲れには甘いもの、疲れ目にはアントシアニン。暇なときに焼いておいたレーズンたっぷりのクッキーを小皿に添え、疲れた目をこすりながら仕事をしている隊員に一時の安らぎを届けに行くのだった。

 この4年で、私は二等空尉、ティーダにいたっては一等空尉となった。
 いつ頃からか、どうも二人で一人前というか、ワンセットで考えられているふしがあるのだけど……それはともあれ、現在はこれこの通りミッドチルダ首都航空隊である。隊舎がでかい。綺麗。設備もばっちり。新規発足の特務小隊であわあわしていた時とは待遇が段違いだった。
 なぜ本局勤めが首都航空隊に行くことになったかと言えば、ミッドチルダの治安の悪化が最近酷くなってきたというのが主な理由だ。なにぶん、管理世界を広げるたびに防衛隊を駐留させる必要があるので……まあ、何というか人手不足である。それにあまり海や陸の軋轢にも関係のない、ちょっとメインの実働部隊とは離れた場所にあった小隊だというのもまた使いやすかったのだろう。特務小隊という名前の雑用小隊も新たに数を増やした事もあり、うちの特務小隊がまるごと引き抜かれる形で首都航空隊所属にされたのだった。
 ついでに言えばミッドチルダ勤めという事で。実家……いや、ランスター家に戻るのが楽になり、プライベート的には歓迎だったりもする。ぐんとティアナちゃんと一緒にいる時間を作りやすくなった。
 特務小隊もまた、首都航空隊に組み入れられた事で人数を増やした、名前も変わり、首都航空隊、第18小隊と呼ばれている。そして私もまたクロノにくっついているエイミィを馬鹿にできないかもしれない、首都航空隊に来ても私は副隊長である。一応小隊指揮官の研修も通ったし……実績もそれなりにあるので、不思議がられる時もあったのだけど。うんまあ、単純に居心地の問題だった。

    ◇

 そんな忙しくも充実した日々の中での出来事だった。

「また誤情報かなあ」

 私はやれやれとため息をつきながら周囲を眺めた。
 廃村と言ってもいい。
 朽ちた家が並び、ここに潜んだという違法魔導師を検挙するのが今回のお仕事である。
 ただ、聞き込みをし、周囲の調査をしたところ、何と言うか……
 私はため息を吐き、連れてきた人員と片っ端から廃屋の調査を始める。
 このところ、情報が変になってきている。かつての闇の書事件の時とは違う形で。
 例えば違法魔導師が暴れているという報告を聞いて駆けつけようとすれば逆方向に誘導され、ようやく行ってみれば既に解決済みだったり、ロストロギアの回収作業で作業地点まで行けば何も準備していなくて、一から段取りを始めなくてはならなかったり。あげくに肝心のものが無かったというのだから目も当てられない。
 今のところ嫌がらせより酷い事にはなっていないので黙っていたのだけど、さすがに何度も何度も続くといい加減にしろとも言いたくなってくる。
 もともと特殊な立ち位置にいた部隊だったためか、首都航空隊に入ってもなかなか馴染ませてもらえず……いや、まあ次元犯罪者上がりの構成というレッテルもかなり大きいのだけど。
 端的に言えばかなり煙たがられていた。本来は同僚たる隊長達から。
 もしかしたらティーダがキャリア組というわけでもないのに若くしてどんどん昇進してしまっているので、その辺の妬みもあるのかもしれない。いや、さすがにそう悪い方向へ憶測を重ねるのは失礼なのかもしれないけど……とはいえ、悪戯めいたものでもあまり続くとなると立派な妨害だった。報告を受ける事務方も混ざっているので手に負えない。立場もあるしこの小隊自体叩かれる要素を元から持ってる。私としてもまた、長らくグレアム提督のネームバリューに助けられてきたという負い目もあった。いろいろあって抑えてきたのだけど、そろそろがつんとかましておいた方が良いのかもしれない。
 はあ、とため息と共に、心に溜まってしまった毒気を抜く。
 そんな嫌がらせも本来の任務との割合からすれば1割くらいなのだ。大体はまっとうな任務であり、今回も本当に違法魔導師が逃げ込んでいるのかもしれない。まったく痕跡が無いだけで。
 空っぽの廃屋に突入し、制圧し、調査し……虱潰しに一軒一軒調査を進める。

 結果は白。全く問題のない廃村だった。雨風避けに住んでいるらしい野良猫の一家を脅かしてしまったのはちょっと申し訳ない。
 若干、またか、と暗い感情も湧いてきてしまったけども、何もないならそれに越したことはないと割り切る。
 気の抜けた声で撤収を告げると、隊員もまた緊張が抜けたのか、軽口を叩いてきた。

「そういえば副隊長の統率で主力が出るってのも珍しいですね、もしかして隊長どのと何かありました……ハッ!? もしや破談? これは俺にもチャンスが?」

 私は無言で、デバイスを構えた。数あるデバイスの中でもこれほどにフォームチェンジが早いものもないだろう。最適化の結果である。所要時間は以前の測定で0.04秒。ハリセン型に変化したそれには一罰百戒という四文字熟語が浮かび上がっている。
 閑静な田舎の廃村にツッコミの音が鳴り響いた。

「ああ……癖になりそうっス」

 変態じみた事を言う隊員をさらに一つはたいておく。
 まったく、とつぶやいて私は皆より先にずんずん歩き出した。
 現在ティーダは、違法魔導師の捕縛にあたり、増援要請があったのでそちらに出向いているのだ。人数より少数精鋭が欲しいような事を言っていたので、隊長補佐であるラグーザと二人で行ってもらっていた。状況次第ではあるものの、早ければ私達が帰投した時にはすでに戻っているかもしれない。

   ◇

 近くの転送ポートまでは車で移動することになる。
 まったく舗装されてない悪路なので、さすがに揺れがものすごい事になっていた。

「うええ……飛行許可取れば良かった」

 行きがけにもそう思ったのだけど、かなり辟易としてしまう。別に都市部というわけでもないのだから、簡単に許可は下りると思うのだ。速度を要求される任務でなかったとはいえ、面倒臭がらなければよかった。
 途中開けたところにさしかかった時だった。
 突如、緊急連絡のコール音が鳴り響いた。
 私は車を停めさせた。魔力が空になっても緊急時に使えるようにと、隊員一人一人に持たせているもので、水の中でも火の中でも使用できる。ミッドでは旧型だが、なお根強い人気のある無線式だった。
 その連絡はラグーザからだった。息が荒い。

「……嬢……すまねえ、隊長が……いや、応援の要請は……そちらには行っては……?」
「いや、来てない。ティーダがどうか……いや、現状を報告してほしい」

 少しの沈黙があった。先程よりは息を落ち着かせ、応えがある。

「隊長は一人で……多数の魔導師と交戦中、罠だ。負傷した俺に……応援を要請するようにと……ぐ、お嬢、こりゃ、悪意を感じる。誰かの悪意だ。何でもない悪戯のように見せて全部が仕込みだった。俺も慣れた感覚だ、かつての──」

 通信状況が悪くなったのか、負傷によるものか、声が途切れた。
 私は唇を噛んだ。血の味がする。落ち着け、落ち着かないと。ここには現状、私以外に判断し、なんとか出来るものはいない。私が、私が判断しないと。
 応援の要請がこちらに届いていない、本部を経由し、他から人員を補填するとしても、最低限同じ部隊であるこちらにも通達は来るはず、どこでストップがかけられた?
 いや……疑い出せばキリがない。怪しきものには触れず、慎重に、迅速に動くのが最善だろうか。
 転移は……いや、最悪転送ポートも抑えられている可能性が。単独での転移に使えるほど転移先の座標は判っていない。なら……
 私は命令待ちで待機している隊員に向き直った。

「聞こえただろうけど、現状とても不鮮明な状況下に置かれている。事態がはっきりと判明するまで、軽挙盲動は禁じる。ラグーザの通話ポイントは割り出せた、恐らくかなりの負傷している。ラグーザを回収次第もっとも近い病院に搬送、治療を受けさせ、そのまま待機していてほしい。指揮はシリン、君にお願いする」

 特務部隊の立ち上げ、それ以前よりラグーザと一緒に居る古株だ。口数が少ない。
 シリンは一つ頷き「お嬢は?」と短く問うた。

「私は現地に行く。本部には近づかないで欲しい、それと隊舎にも。もし敵というものが居た場合、真っ先に抑えられている。出頭命令を受けても本部以上のものが出てこない限りは受けなくて良い。責任は私が持つよ」

 そう口早に言い、車両から、航空隊本部ではなくその上の司令部に直接連絡をした。
 オペレータに短く現状報告とティーダの出向いた任務地点までの空域を全力飛行することを告げた。突然の事に驚き、慌ただしくもう一度聞き返すオペレータに、許可を待つ時間もない。と言って通信を。
 背中の翼を開き、幻術を解く。映像で知れ渡ってはいたけど、慣習というものでやはり普段は隠していた。
 大気の清涼な魔力の流れを感じた。山の方がやはり魔力素も綺麗に思える。
 それを楽しめるような気分でも状況でもないのだけど。
 空に浮かび、一つ大きく翼をはためかす。
 方角を確認し、魔力を推進力に変え、一直線に飛び出した。
 加速する、加速する。
 空気が重い。
 音の速さに近づき、空気がそのまま圧力となる。バリアジャケットへ注ぐ魔力を強めた。
 爆発のような感覚と共に空気の壁を突き抜けた。
 水蒸気の雲がはるか後方に流れていく。
 なぜだろう、判らない。本当に判らない。
 理屈では説明できない不安が心に染みを作り、広がっていく。
 日頃動物的とか言われる直感が悲鳴をあげる。
 こんな時こそ、グレアム爺さんがくれた私の名前、理性なんていう、私の名前の意味が必要なのに。
 歯がみをした。

「もっと、もっと速く」

 魔力をありったけ込め、私は飛んだ。


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