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No.34349の一覧
[0] 道行き見えないトリッパー(リリカルなのは・TS要素・オリ主)本編終了[ガビアル](2012/09/15 03:09)
[1] プロローグ[ガビアル](2012/08/04 01:23)
[2] 序章 一話[ガビアル](2012/08/05 12:22)
[3] 序章 二話[ガビアル](2012/08/05 12:23)
[4] 序章 三話[ガビアル](2012/08/05 12:23)
[5] 序章 四話[ガビアル](2012/08/05 12:23)
[6] 幕間一[ガビアル](2012/08/05 12:24)
[7] 一章 一話[ガビアル](2012/08/05 12:32)
[8] 一章 二話[ガビアル](2012/08/05 12:33)
[9] 一章 三話[ガビアル](2012/08/05 12:34)
[10] 一章 四話[ガビアル](2012/08/05 19:53)
[11] 一章 五話[ガビアル](2012/08/05 12:35)
[12] 幕間二[ガビアル](2012/08/06 20:07)
[13] 一章 六話[ガビアル](2012/08/06 20:08)
[14] 一章 七話[ガビアル](2012/08/06 20:08)
[15] 一章 八話[ガビアル](2012/08/06 20:09)
[16] 一章 九話[ガビアル](2012/08/06 20:10)
[17] 一章 十話[ガビアル](2012/08/06 20:11)
[18] 幕間三[ガビアル](2012/08/09 19:12)
[19] 一章 十一話[ガビアル](2012/08/09 19:13)
[20] 一章 十二話[ガビアル](2012/08/09 19:13)
[21] 一章 十三話[ガビアル](2012/08/09 19:14)
[22] 幕間四[ガビアル](2012/08/13 19:01)
[23] 二章 一話[ガビアル](2012/08/13 19:02)
[24] 二章 二話[ガビアル](2012/08/13 19:02)
[25] 二章 三話[ガビアル](2012/08/13 19:03)
[26] 二章 四話[ガビアル](2012/08/13 19:03)
[27] 幕間五[ガビアル](2012/08/16 21:58)
[28] 二章 五話[ガビアル](2012/08/16 21:59)
[29] 二章 六話[ガビアル](2012/08/16 22:00)
[30] 二章 七話[ガビアル](2012/08/16 22:00)
[31] 二章 八話[ガビアル](2012/08/16 22:01)
[32] 二章 九話[ガビアル](2012/08/21 18:59)
[33] 二章 十話[ガビアル](2012/08/21 18:56)
[34] 二章 十一話[ガビアル](2012/08/21 18:59)
[35] 二章 十二話[ガビアル](2012/08/21 19:00)
[36] 二章 十三話[ガビアル](2012/08/21 19:00)
[37] 二章 十四話[ガビアル](2012/08/21 19:01)
[38] 二章 十五話[ガビアル](2012/08/21 19:01)
[39] 二章 十六話[ガビアル](2012/08/21 19:02)
[40] 二章 十七話[ガビアル](2012/08/21 19:02)
[41] 二章 十八話[ガビアル](2012/08/21 19:03)
[42] 二章 十九話[ガビアル](2012/08/21 19:03)
[43] 三章 一話[ガビアル](2012/08/29 20:26)
[44] 三章 二話[ガビアル](2012/08/29 20:27)
[45] 三章 三話[ガビアル](2012/08/29 20:27)
[46] 三章 四話[ガビアル](2012/08/29 20:28)
[47] 三章 五話[ガビアル](2012/08/29 20:28)
[48] 三章 六話[ガビアル](2012/08/29 20:29)
[49] 三章 七話[ガビアル](2012/08/29 20:29)
[50] 三章 八話[ガビアル](2012/08/29 20:29)
[51] 三章 九話[ガビアル](2012/09/05 03:24)
[52] 三章 十話[ガビアル](2012/09/05 03:25)
[53] 三章 十一話[ガビアル](2012/09/05 03:26)
[54] 三章 十二話[ガビアル](2012/09/05 03:26)
[55] 三章 十三話[ガビアル](2012/09/05 03:28)
[56] 三章 十四話(本編終了)[ガビアル](2012/09/15 02:32)
[57] 外伝一 ある転生者の困惑(上)[ガビアル](2012/09/15 02:33)
[58] 外伝二 ある転生者の困惑(下)[ガビアル](2012/09/15 02:34)
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[34349] 三章 九話
Name: ガビアル◆dca06b2b ID:8f866ccf 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/09/05 03:24
 気がついた時、相変わらず整ってるくせに妙にしまりの無い顔が目の前にあった。
 どうも心配させてしまったようだ。そんな表情は似合わない。平気平気とでも笑い飛ばしてやりたかった。
 私は頑張って頬に力を入れる。笑みの形になったようだった。右手を持ち上げてみる。ゆっくりだが動くようだ。

「おはよ」

 若干ひきつった笑顔で寝起きの挨拶をしてみた。
 ティーダはそんな私をからかうでもなく、なぜか頭を撫でてくる。優しく。いたわるように。お前はどこのお父さんなのか。
 普段だったら振り払うのだけど、好きなようにさせておいた。
 私は再び目をつむった。思い出せば……重たい気分がのしかかる。何故、何故、という疑問ばかりが頭に浮かんだ。ぐるぐる回って答えが出てこない。
 はあ、と息が漏れる。
 なぐさめるようにティーダが私の肩を叩いた。二度、三度。ちょっと位置がずれてきた。

「……ティーダ、どさくさ紛れに胸揉むな」
「そこに山があるから人は登るのさ」
「その名言、使う場所が間違ってる、先人に謝れ、土下座して謝れ」

 
 私はティーダの腕を払ったその手を思い切り伸ばしてみる。どのくらい寝ていたのだろうか。
 上半身を起こすと、ずっと同じ姿勢だったらしい、背中に血が回ってびりびりとした痺れのようなものが走った。翼の方はちょっと感覚がない。体の下に敷きっぱなしだったのだ、それはもう痺れに痺れていた。

「アースラの医療スタッフの話だと重いダメージは受けてないらしいけど……大丈夫かい?」
「ん、私の身体のでたらめさはティーダも知っての通りだよ。寝込んじゃったのはロッテさんの一撃のせいだろうね」

 ベッドから下りて伸びをした。アースラの医務室なのだろうか、個室が用意されているとはなかなか贅沢な造りではある。
 医療スタッフの人に挨拶してから、コーヒーの一杯でも飲んで目を覚ますとしよう。何はともあれそうしよう。そう思ってドアを開けた時だった。
 隣の部屋で何かが崩れるような物音、それに慌てるような声が聞こえてきた。というかこの声は……

「なのはちゃん?」

 私は一瞬ティーダと目を合わせ、隣の部屋にノックをして入る。
 そこには半ば這いつくばりながらも立ち上がり、部屋を出ようとするフェイトちゃんと、それを懸命な表情で止めるなのはちゃんが居た。アルフもいるが、どうしたらいいか判らない様子でおろおろしている。

「フェイトちゃん、駄目だよ! フェイトちゃんが一番ダメージが大きかったって……先生が!」

 そんななのはちゃんの呼びかけも上の空で、フェイトちゃんはただ進もうとする。

「母さん……は、私を呼んでくれた。でも私は……私でいることを選んだんだ……だから、だから、母さんに見せなくちゃ」

 思い詰めた様子でそうつぶやいている。
 私もまた、これはどうしたものかと頭を悩ませた。とはいえ、私にできることなんてのは限られている。
 ティアナちゃんがぐずついた時のように、私はいつの間にか癖でかけていた幻術を解き、翼を広げ、フェイトちゃんをやんわり抱きしめた。ついでに羽根で包んでしまう。

「あ……え……? あれ、夢?」

 私はフェイトちゃんの頭をやーさしく撫でる。

「そうだよ、フェイトちゃん、これは夢。ふわふわした雲の中。今日は頑張ったね。だから少しだけ、少しだけ休もうね」

 ゆらゆらと揺すりながら囁くように言う。

「でも……でも……」

 言葉はでてこない様子だった、それでもなお休んではいけないとでも思い込んでいるかのように抗う。
 私はちょっとだけ考え、小さな声で歌い出した。

「Sleep then my princess, oh sleep──」

 モーツァルトの子守歌、実はモーツァルトの作った曲ではなかったらしいけど、とても良い子守歌である。
 何で私が覚えていたのかといえば、ティアナちゃんへの子守のためとしか言い様がない。
 ゆるやかに揺らしながら歌うにつれて段々抵抗も弱まる。
 目が、少しだけとろんとしてきた。

「……うん、少し……だけ」

 力を失ったように眠りについたフェイトちゃんを、しばらくそのまま揺らしながら、ささやくように歌を続ける。静かに歌い終わり、起こさないようにそっとベッドに寝かせた。

「ツバサお姉ちゃん……本当に翼生えちゃってる」

 なのはちゃんが目をまんまるにして驚いていた。

「あ……えーと、あはは、次元世界にはこういう種族も居るんだよ。ほらほらユーノ君もフェレットになれるでしょ?」

 もっともユーノ君の場合はそういう魔法なんだけども。

「いつかしてみせたジャックランタンじゃなくて残念だったけどね、オキュペテーとかそっち系ではあるんじゃないかな、ほれほれ」

 と、なのはちゃんの前に翼を見せびらかすように広げてみせた。
 ティーダが小声で「良いのかい?」と聞いてきたが……先の戦闘でアースラスタッフにはばっちり見られているだろうし、何が何でも押し隠すようなものでもない。私は頷く。

「ふわ、すごい、柔らかい」

 そう言ってなのはちゃんが私の羽根を撫でる。段々表情がうっとりしてきた。遠慮が無くなって、何だか……全力でモフってきている気が……なのはちゃんの手前何でもないようにしているが、かなりこそばゆい。力が抜けてしまいそうなこそばゆさである。そういえばエイミィなどには、これの付け根部分、一番弱いところなのだけど……そこをモフってアヘらせるのが好きとか、そんな事を言われた事もある。酷い友人を持ったものだ。

「ふむ……」

 ティーダがさりげに手を伸ばしてきたので躱した。残念そうな顔になったけど触れさせない。何か妙な予感がする。

   ◇

 アースラ内の休憩室は消沈していた。無理はない。管理局内でも有名人であり、長年にわたり一線で活躍し続け、信望も厚い。数々の大きな事件を解決させ、幾つもの次元世界を救ってきた。そんなグレアム提督が敵となり立ちはだかったのである。
 さらに言えば、私やティーダはその場に居なかったが、半年ほど前の事件においてアースラチームは直接プレシア・テスタロッサと対峙している。その時の経験を思い出す者もいるらしい、暗い表情になっていた。研究者としてだが、大魔導師とか呼ばれている人なのだ。当然ながらそちらも軽く見る事はできない。
 2人だけの出向組という事もあってか、私やティーダはちょっと変わった立ち位置に居る。そこからの意見も聞きたいのか早速ティーダが捕まって、あれやこれやと聞かれていた。
 薄情ではあるものの、コーヒーを頂いた私は沈んだその場の雰囲気から逃げるように離れた、廊下の広い部分に設置されているソファに腰掛ける。
 カップを傾け、一口。

「にが……」

 顔をしかめた。やっぱり自分やティーダが淹れたのとは違う。ミルクと砂糖を入れてくればよかった。
 もう一口すする。ため息が出た。私はアースラの清潔な天井を見るともなしに見ながら思い出す。

 一連の始まりは、闇の書の意志が顕現し、なのはちゃん、ユーノ君、それにフェイトちゃんとアルフ、その四人で対処しているという一報だった。
 クロノはちょっと前から不在だった。何かを掴んだようで、本局に行っているという。私達にそれを説明するときのエイミィの歯切れの悪さが少し気になってはいたが……
 ともあれ、その時点で他の世界を巡回していた私達は現場に急行した。
 まったくもって地球は騒動に恵まれている。闇の書の意志が顕現したという現場もまた地球だった。というかまたもや海鳴市である。街そのものは結界に閉ざされているものの、あまり外部からの干渉をはじき出すような性質ではないようで、私達は結界内に入る事に成功。闇の書の意志と拮抗状態にあった現場のチームに加勢することができた。ユーノ君が言うには、魔力防壁さえ薄く出来れば念話により中で眠る少女、書の主である八神はやてに働きかける事もできるという。
 闇の書の意志……本来は夜天の書の管制人格と呼ぶべきなのだろうけど、あまり攻撃的というわけでもないらしい。というか私と髪の色とか被っている。翼も被る、こっちは白であっちは黒だが。違うのは身長……ぬう、格好良い。いや、うん、どうでもいいことだ。ともかく、回りくどいやり方が求められるならティーダの独壇場である。なのはちゃんやフェイトちゃんのこれまでのデータを元に、こちらのチームの攻撃魔法の威力と闇の書の意志の防御パターンから計算し、常に魔力防壁を一定の薄さに保ち、さらに念話で呼びかけをする要員を確保できる状態を維持する、なんてアクロバットな状況を作る事に成功、呼びかけを続けていた時だった。

 閃光。

 一瞬気を失っていたのだと思う。気がついた時には資料でしか見たことのなかった、先の事件の首謀者であり、現在失踪中だったはずのプレシア・テスタロッサその人が悠然と佇んでいた。
 
「な……」

 と驚く暇もない。新たに転移の魔法陣が閃いたと思えば、そこにグレアム提督、リーゼ姉妹が相次いで現れる。
 ──プレシア・テスタロッサの側に。
 少し遅れ、疲弊した様子のクロノが転移してきた。

「……クロノ、この状況は一体?」

 と私が問いかけるも、クロノは何も答えてくれなかった。ただ厳しい目をしてグレアム提督を睨み付けている。
 グレアム提督はふむ、と顎を撫でながらクロノと私を順繰りに見やった。おもむろにニヤリと笑う。それはまさに映画の中の悪役さながらに。

「なあに、先のジュエルシードの一件より始まり、闇の書に関する事、全てが私の計画の上での事というわけだ、皆々、よく踊ってくれたものだよ、くく」
「な……」

 と絶句するティーダを横目に、私は半眼になって言う。

「……演劇好きのお爺さん、自分で気付いてる? 何か演じる時、緊張するのか右眉が上がってるの」

 グレアム提督は無言で顔に手をやった。

「父様、カマかけられてるよ……」

 ロッテさんが困り顔で袖を引いている。む、と一言唸った後、少し間を置き、何事もなかったかのように言い直した。

「冗談はともかくとして……闇の書の処置、それについては長年に渡り仕込みを済ませておいたのだよ」

 どういう事なのだろうか、冗談と言いつつもこれは案外……頭を悩ませるも、正直この爺さんの思考をなぞるのは厳しいものがある。
 ひとまず気になった事として、現在闇の書の意志、その中で眠っている形の八神はやてについてはどうするのか聞いてみると……先程から険しい視線で提督を見ているクロノが口を開いた。

「氷結の杖、デュランダル。凍結の魔力変換に最適化したデバイスだけど、その真価は魔力素の運動すらゼロに近づけてしまうことにある。しかし……」
「……うむ。闇の書ほどのものを押さえ込むには莫大な魔力を常時つぎ込む事が必要だ。仕掛けは考えてあるが、時間稼ぎにしかならんのは承知の上だよ。だが……ここで処置すればこの先数十年は闇の書による犠牲者はなくなる。その間に完璧な対処法を研究することもできよう」

 グレアム提督の言葉にクロノは顔をけわしくした。悲しいような、悔しいような、そんな顔だ。

「それは……それはしかしッ! 管理局としてはやってはいけない事だ、闇の書の処置にあたっては個人でやるべき事じゃない。何より……八神はやてという少女はただ犠牲になるだけじゃないか……もっと、手を尽くした上で判断する事だ」

 グレアム提督は楽しげに目を細める。微妙な変化なので、見慣れてないと判らないレベルだけど。

「まったく、父親譲りの正義心だ。そして私の忘れた熱がある。それでこそ、それでこそなのだよクロノ。我らの時代の傷は我らで始末をつけるとしよう」

 クロノは唇を噛む。杖をグレアム提督に向けた。

「僕は、あなたを止める。それが僕の思い描く局員の、執務官の在り方だ」
「そうか……よかろうよ、クロノ・ハラオウン。クライドの息子よ、全力で来ると良い」

 正直詳しい事は判らない。ただ、グレアム提督を止めないと、と思った。私も皆も初撃のダメージから回復し、クロノと共に戦おうと立ち上がる。
 と、そこで黙っていたプレシア・テスタロッサが退屈そうに髪を後ろに流し口を開いた。

「寸劇はそれでお終い? ならもういいわね。主張も結構だけど通せなければただの茶番よ」

 その言葉と同時に、巨大な魔法陣が展開された。
 私達の足元に。
 感知すらできなかった。いつの間に魔法を行使、いや、シールド……間に合わな──

   ◇

 コーヒーをすする。
 このやたら苦くてコーヒーというより黒くて苦い健康飲料みたいな代物も、冷めると若干飲みやすくなった。

「プレシアさんの言う通り……ってな感じになっちゃったな」

 しかし、私は自分の魔力への鋭敏さとか過信していたのだろうか。いや、今思い出せばグレアム提督が前に出て、その後ろにアリアさんとロッテさんが並んでいた。不自然なほど位置を崩さなかったのは……プレシア・テスタロッサが儀式魔法を用意中に三人で注意を引きつけ、同時に隠蔽を? いやあるいは──
 考えれば考えるほどドツボにはまる気がする。リーゼ姉妹もまた単独でクロノと真っ向勝負できるようなとんでも使い魔なのだ。何十年単位で戦い続けた経験なんてものがあるにしても、規格外の猫である。むしろもう妖怪猫又である。
 大体にして、去り際に言った言葉……儀式魔法を行う事や、場所まで明かしたのか、それも理解できない。まるで来いと言わんばかりの……
 罠にはめるくらいだったら、こんな半端なダメージで止めない。あの場でしっかりきっちりしばらく動けないだけのダメージを与えられたはずである。
 頭を悩ませてもまったく目的が見えてこなかった。

「ティーダさんよ。グレアム提督はどうしたいんだろうねえ」

 いつの間にか隣に立っている頭脳労働担当に聞いてみた。
 なぜか頭にぽんと手を置かれる。私が座っているせいで、なおさら良い高さになってしまっているのかもしれない。

「今の段階だとさすがに何とも言えないな。ただ、それをこれから話し合うみたいだよ。ミーティングルームに集合だってさ」

 ということらしい。私は残っているコーヒーを味を感じないように一気に飲み干して立ち上がる。

「……うぇ」

 格好つけたつもりが若干気持ち悪くなり、私はティーダの肩に手をかけぶら下がり、ため息をついた。

   ◇

  ミーティングは揉めに揉めた。
 謎めいたグレアム提督の言葉、記録を遡って以前からの情報を洗い出す事で目的を計ろうともした。
 また、プレシア・テスタロッサのかつての失踪についてもグレアム提督が関与しているものと見て、当時の収監先の人員などにも考察を向ける。
 本当なら査察官と連携し、洗い出すのがこういう場合のやり方だったのだが、情報網が切れ切れになっているのはアースラもまた例外ではなかった。時間的な猶予を考えれば考察以上の事ができないのだ。
 また、これも理解できない謎めいた事だったが、クロノも言っていた氷結の杖デュランダル。その設計データがアースラ内にも残されていた。信じられない片手落ちである。こんなミスは有り得ない。それ自体が何かの策かとも思えたが、データそのものは弄られた様子もなく、そこから使用する儀式魔法の割り出しにも成功した。
 といっても、正確に使用される魔法が判ったと言うわけではなく、あくまで傾向が判った程度だったのだが……それにしても腑に落ちない。
 どうも下手をすると次元震が起こりかねない程の魔力を集中させ、あえて世界の魔力バランスを崩してしまうような儀式魔法らしい。その過程で確かに巨大な魔力の流れはできる。ただし、それを安定した魔力の形で供給できるかというとかなり疑問だった。いや、それを為し得る人物が一人だけ居る。

「プレシア・テスタロッサはかつて中央技術開発局の局長も務めている。次元航行エネルギーの開発に携わった事もあり、今回の儀式魔法についても技術的な面については一役買っていると見た方がいい。そして制御術式を展開するならば、ここ」

 と、クロノがあるポイントを指し示す。逆算された魔法の基点だった。
 ともかく、推察、考察はほどほどに置いておき、目的をギル・グレアム提督、プレシア・テスタロッサの撃破、確保に焦点を絞り、対策を練ることとなる。

「グレアム提督のような歴戦の相手に小手先の技は通用しない。かえって逆手に取られて痛い目を見るだけだろう。基本にして単純。強い方を抑え、弱い方を集中して叩く」

 そしてクロノはこの期においても静かに、普段とまるで変わらず甘いお茶を頂く艦長、自らの母親を見た。

「グレアム提督を抑える役、頼めますか」
「ええ」

 予想していたかのように頷くリンディさん。
 部屋に緊張が走った。艦長自ら……とはいえ、考えてみれば他に単独でグレアム提督を抑えられる人もいない。魔導師として並び立てるのがこの人しかいないのだ。
 そしてある程度以上の力を持つ少数精鋭で、プレシア・テスタロッサに強襲をかけ、同時に儀式魔法のために作られているだろう魔法の基点部分を制圧。確かに単純な形である。本当に万が一のためにアースラも該当世界の外縁部に配置、臨時の際のアルカンシェル発射代行権限をエイミィが渡された。
 もちろん応援要請も本局に行っているのだが色良い返事は貰えていない。というより、Sランク魔導師を相手にして通用する人材は既に別の方面でも忙しいのだった。情報の攪乱による効果もあって、人手を割けるような状況ではないとの事。現状戦力で何とかするほかなさそうだった。
 私は今回、なのはちゃん、ユーノ君と共に後方からの支援組である。ティーダが指揮を取る武装隊の中でも攻撃に偏っている魔導師2名が中距離からの攻撃、クロノとアルフが前衛での防御と攻撃。そんな、どちらかというと攻撃に寄っているだろう組み合わせで当たる事になった。私がなのはちゃんと一緒に居るのには理由もあるのだけど、これもまたぶっつけ本番にならざるを得ないようだ。

「待って、ください」

 そう言ってミーティングルームに入って来たのはフェイトちゃんだった。後ろにアルフも続いているが、心配そうな表情だ。

「私も、加えてほしい……です」

 まだダメージが残っているのかもしれない。余裕の無さそうな顔で言う。
 クロノが眉根を寄せた。険しい顔になる。

「しかし君は……回復しきっていないし、その……プレシア・テスタロッサには相対しにくいものがあるだろう。僕としては、ゆっくり休んでもらって……いや、なんだ、その、悲しい顔をしないでくれ、君の実力は認めている」

 ……お兄ちゃんであった。あわあわしてる様子がお兄ちゃんのそれである。戦力としては認めていてもできれば前に出したくない心情がとても現れていた。
 そんなニヤニヤを隠せない一幕もあったものの、フェイトちゃんもまたティーダと共に中距離からの攻撃にあたる事となった。

   ◇

 編成が決まった時点ですでに時間は一日が経過、その後はアースラの訓練室にて連携のシミュレートを行う。時間的な余裕もないのであまり徹底的にはできないものの、多少は形になってきた。反省点などを含めてティーダとクロノが小難しい話を展開させ、私の目も点になっていた時である。

「……ん?」

 艦内が妙に騒がしい。
 私がその騒がしい方向、多分休憩室とかの方だと思うのだけど。そこに行こうかと歩き出すと、向こうからエイミィが小走りに近づいてきた。なんだか困った顔をしている。

「待った待った、休憩室はちょっと迂回して……休むなら個室の方で休んでほしいの」

 私ははて、と首をかしげる。
 エイミィは困った顔をしたままため息をついた。

「誰がリークしたか判らないけど、マスコミに知れ渡っちゃって。闇の書の一件、それにグレアム提督の離反、プレシア・テスタロッサの事も……大体が知れ渡っちゃってるのよ」
「……あらまあ、驚いた。なんてことかしら。でも本当にそりゃあない、そりゃないよエイミィさん」
「そうですわよねティーノさん、おほほ……本当にそりゃないわよ」

 二人してがっくりとため息を吐く。いかん、幸福がものすごいスピードで逃げていく。
 今の段階で報道にのってしまうとか……かなり微妙な問題も含まれているので、こういった場合本局の方からも報道規制がかかるはず……そこに手が回らないくらいにごたごたしていたのだろうか?
 そろそろと近づいて聞き耳を立ててみると、休憩室内でリンディさんがマスコミのインタビューに答えていた。なんで休憩室内かと言えば多分記者会見のような形、公式発表にしないための苦慮の一策というものだろう。リンディさんが話し終えると、闇の書とはいかなるものなのか、とかレポーターがカメラに向かって解説しているのだろう声も聞こえてくる。部屋から出てくる気配がして、私は来た時と同じようにそっとその場を離れるのだった。

   ◇

 グレアム提督が言い残したロストナンバーの廃棄世界。
 時空管理局が成立する以前、相次いだ戦争によってかなりの数の次元世界が消滅、荒廃の憂き目にあったらしい。現在の無人世界の中にもその名残を残しているものはあり、カーリナ姉などはそういう遺跡群に入り込む事が大好きだと公言している。
 ただ、その中でもひときわ特殊な例というものは存在した。どういう過程によってそうなったかは判らないが、というか想像もしたくないような凄惨な事が起こったのだろう。それは容易く想像できる。何しろその世界に隣接する世界は一つとして存在しなかった。ところどころに虚数空間が顔を覗かせ、次元そのものが不安定に蠢いている、そんな領域が広がっている。
 その世界そのものもまた荒廃していた。
 広がる一面の砂漠と、石灰質の岩。白い、死んだ世界。映像でそれを確認したときはとても寒々しいものを覚えた。
 隣接世界が存在しないというその特殊性から兵器の実験場として何度も何度も使われた結果がそれだった。
 とはいえ、管理局が成立後は微々たるものながら年々浄化を進めているらしい。有害な残留物などは魔導師ならまず大丈夫という程度にはなっているという。

 その荒涼とした世界に転移し、最初に感じたことは魔力の奔流だった。
 私はそれを強く感じたが、他の皆も感じたらしい。一様に驚いた顔をしている。

「これはまた……えらい魔力素の密度が高いところだね」

 頭を振りつつそんな事を言うティーダの背中に無言で飛びのった。
 まあ、何というか。

「気持ち悪い……うぇ……ティーダ号、ちょっと目標地点までお願い」

 敏感なのも良い事ばかりじゃないのだ。一言で言えば魔力に酔った。ティーダの背中に顔を埋める。
 一同は私の醜態を見てなぜか笑っている。うんまあ、結果的に緊張解けたなら良いけど、釈然としないものはある。
 クロノだけが真面目な顔をして大丈夫か? と聞いてくる。

「すぐ慣れるだろうし、目的地につく頃には大丈夫だと思う。ほら、時間を無駄にしても仕方がない、行こう」

 もう隠す必要もなくなっているので、幻術を解いた翼を二度三度はためかせた。拍車の代わりにティーダの頭を翼のカドのとこで小突いてみる。

「はいよー、ティーダ」
「ひひーん」

 なんて口ではふざけながらもティーダの飛行魔法は綿密で隙がない。すごい速さというわけではないものの、その乗り心地の良さは高級車の運転シートのごとくである。

「どうもあの二人を見てると力が抜けるな……」

 そんな言葉をクロノがぽつりと漏らしたのを私だけはしっかり聞き取ったりしていた。
 ……小隊でやっているうちにだいぶ私もラグーザ達のノリに毒されていたらしい。緊張の抜き方だけは上手くなっている気がする。もう少し真面目にやったほうが良いだろうか。

   ◇

「それじゃ、食い止めてみるからあなたたちも気をつけてね」

 どこまでも平静な表情を崩さないまま、リンディさんは手を振り、次の瞬間にはグレアム提督、リーゼ姉妹ごと転移していた。
 やった事と言えば極めて単純である。
 私達全員の一斉攻撃をフェイントとして潜んでいたリンディさんが転移の魔法を使用、これにより当初の予定通りにグレアム提督とプレシア・テスタロッサの分断はひとまず成功した。
 少しあっけなさすぎる気もしたものの……残ったプレシア・テスタロッサに向かい合う。
 封印時に用いるのだろうか? 魔導師が魔法の発動時に描かれる魔法陣とは根本的に違う……どちらかというとおとぎ話に出てくるような魔法が使用できそうな魔法陣が描かれている。ミッドの言語に近いものもあるが、私の知識では読み解く事はできない。
 幾重にも重ねられた円状の魔法陣が12個描かれており、それぞれが蔦のような文字のようなもので繋がれている。
 その中心にその人は居た。
 分断されてもまるで揺るがず、予定通りとでも言うように泰然と。

「バルディッシュ」
『Stinger Ray(スティンガーレイ)』

 初撃は誰よりも先に前に出たフェイトちゃんの放った一撃だった。
 私も見た事がある。クロノが得意としていた魔法のはず。
 プレシア・テスタロッサはその直射型の魔法弾を易々と受け止めた。が、怪訝な顔になり、それを放った少女に目を向けた。

「この魔法……」
「……母さん、この魔法はクロノに教わった魔法。リニスから教わった事は忘れないけど、いつまでもそのままじゃない。なのはって友達も居る。クロノにも魔法以外の勉強を教えてもらった。将来は、管理局で魔導師としてやっていきたいとも思ってる。だから……母さん。今の私を見──」

 そこでフェイトちゃんは漏れ出そうとした何かを押し止めるように唇を噛みしめた。
 プレシア・テスタロッサは不思議な笑みを浮かべる。

「だから何? 今更あなたを娘として可愛がれと? ……できない相談ね」
「判ってる……でも、それでも私にとってはやっぱりあなたが母さんだから……母さんだからこそ」

 デバイスをあらためて構えた。

「……私が止める」
『Plasma Lancer(プラズマランサー)』

 環状魔法陣を伴った魔力スフィアが浮かび、魔法弾を次々と撃ちはなっていく。
 撃ち終わりを見て前衛のクロノとアルフが前に出た。
 クロノの張ったシールド魔法にプレシア・テスタロッサの放ったらしい雷撃の魔法が阻まれる。

「君は大人しいのに時々無茶をするな。困ったものというか……」

 クロノがそうつぶやきながら、シールドを広げた。
 それを合図として、フェイトちゃんが対峙している間に散開していたティーダ、そして武装隊が同時に速射型の魔法弾を三方から交差射撃を浴びせた。
 一息いれたフェイトちゃんもまたそれに加わる。
 ……だが、押し切れない。
 少し離れた場所で空から俯瞰できるからこそ把握できる。これがS級魔導師の力というものなのだろうか。
 相手はただ防御魔法を張り、散発的に攻撃してくるだけ。攻撃そのものはクロノが完全に防いでくれているが、こちらの攻撃は──

「やってられないな、もう……」

 私はそうつぶやき、デバイスを横凪ぎに振った。
 翼を広げる。密度の濃い魔力素を取り込み、魔力に変換。

「ショット!」
『Shoot Barret Rain(シュートバレットレイン』

 飾り気のない合成音声がデバイスより響く。
 ただ、数と量だけはあるシンプルな魔法弾が文字通り雨あられと降り注いだ。

「なんていう数の暴力……」

 などとユーノ君がつぶやいたりしてるけど、これは見た目は派手だし、非魔導師相手の面制圧なら役にも立つけど……正直あんな相手では目くらましにしかならない。
 もっとも、と私は目の端に捉えていた。
 ティーダが特殊な魔法を練り上げているのを。
 拳銃型のデバイスの前に長大な環状魔法陣が生まれる。
 いつか言っていた集束型魔法弾……だったか。

「なのはちゃん」
「は、はい!?」

 じっと出番を待っていたなのはちゃんは、急に呼びかけられて慌てたようだった。
 私は少し微笑みが浮かぶのを感じた。

「ティーダがバリアを貫く。カウント始めるから砲撃の用意をお願い」

 そう言っている間も弾幕を張っておくのは忘れない。魔力素の多い世界だけにそれはもうバカスカ魔法が撃てる。段々気持ちよくなってきた。
 ティーダの方も準備が出来たようだ。

「10、9、8、7……」

 カウントをする。なのはちゃんもレイジングハートを構え、魔力を集中し始める、カートリッジが二発排出された。

「3,2,1──」

 ゼロ、と口に出す前に私の張っている弾幕の中でもある程度何かやっているのに気付かれたのか、中空に魔法陣が展開しなのはちゃんを雷撃が襲った。
 しかし──

「大丈夫」

 ユーノ君がとっさに張ったサークルプロテクションに阻まれる。そんな丈夫な魔法じゃないはずなのに大したものだった。
 そして、時を同じくしてティーダが圧縮されたらしい魔法弾をそのライフルのバレルにも見える環状魔法陣を通し、発射させた。
 いん、と妙に高い音を放ち、極端に圧縮された魔法弾はプレシア・テスタロッサの防御魔法をまるで紙のように貫き、バリアジャケットをかすめ、その背後に消えていった。
 そして私が「今!」と一声かけるやいなや。

「ディバインバスター!」
『Divine Buster(ディバインバスター)』

 直撃した。
 蟻の一穴という言葉がある。小さな穴でもそこを中心に崩壊してしまう事の例えだったが、まさにそれが起きていた。
 元々なのはちゃんの砲撃魔法もバリアに対しては強い貫通力を持っている。そして、いかに強い防御力を持っていようとティーダの一撃により穴があいてしまった上でのこの砲撃である。
 というか間近で見ると圧巻過ぎる。
 桃色の奔流と言うべきである。
 さらに威力の高いスターライトブレイカーとかいう魔法があるらしいのだが、これより?
 私は乾いた笑いしか出なかった。
 数秒のはずだったが、妙に長く感じた砲撃魔法が終わり、やがて沸き立ったような煙も晴れる。
 そこには杖で身を支え、膝をつくプレシア・テスタロッサの姿があった。

「よし、確保ッ」

 クロノがそう号令をかけ、バインドの魔法をかける。
 しかし、その魔法は対象の前で弾けて消えた。
 プレシア・テスタロッサは軽く笑うとゆっくり立ち上がる。

「遅いわよ」
「やれ、これは相済まない、ダンスパートナーが思いのほか見事な踊り手だったのでね」

 そんな事を言いつつプレシア・テスタロッサの隣に空間から湧き出るように現れたのはグレアム提督だった。

「そう、ではエスコートする紳士にすっぽかされた私はそろそろ腹を立てて行く事にするわ」
「ああ、そうしてくれ。ここは私が引き受けよう」

 そして、プレシア・テスタロッサは転移していく。
 みすみす見逃さざるを得ない事態に皆一様に表情を硬くしていた。

「くっそー、あの鬼婆……一発殴ってやりたかったのに」

 アルフがかなり悔しげだ。地団駄踏んでいる。
 ちょっとだけ余分な疑問を覚えてフェイトちゃんを見る。確か主と使い魔は感情のリンクもあるはずなのだけど……実はフェイトちゃんも奥深いところでは反抗期が来てたのだろうか?
 いやいや、こんな時に何を。本当に余分な疑問だった。

   ◇

 グレアム提督が悠然とこちらに歩いてくる。
 手には氷結の杖、デュランダル。まだ、足元の巨大な魔法陣が起動した様子もないので、八神はやては無事なのだろうけど……

「さて、リンディ君には向こうでアリアとロッテの相手をしてもらっている。ふむ……」

 レトロな真鍮作りの懐中時計を取りだし、一瞥した。

「まだ少し儀式魔法の開始まで時間がある。先だっては口を挟まれてしまったが、聞いてみるとしようか」

 クロノに目を向ける。そうして話している間も油断はない。

「クロノ・ハラオウン執務官よ、答えよ。なぜそうまでして必死になる。確かに管理局の理念からすれば認めがたい事かもしれん。しかし、かの少女一人。わずかな犠牲によって幾多の世界、幾多の民の命が救われるのだ。それではいかんのかな?」

 クロノは一瞬目を開き、悔しげに歯を食いしばった。私の耳にはぎりと歯ぎしりの音が聞こえる。

「あなたが……あなたがそれを言うのか! 多くの問題を抱えてはいるが、管理局の理念だけは本物だと僕に語ったあなたが!」
「……ああ、その通りだよ。私がそれを言うのだ。どうしようもない事というものは世界に数多ある。これもまたその一つ。ある少女が親を亡くし、闇の書として選択された時、このどうしようもない結末は決まっていたのだろう。放置すれば近隣の世界もろとも破滅にしかならん。それとも……クロノ、お前には八神はやてという少女を縛る運命を一刀両断に断ち切る手段でもあるというのか?」

 無い。そう、無いのだ。そんな都合の良いものはない。私達の手持ちのカードには救ってあげられる手段などありはしなかった。
 だが、例えそうであろうとも、とクロノは提督をにらみ据えた。

「それでも……それでも! 最後まで救う努力を惜しんではいけないんだ。前も言った通り、執務官として、そしてただの一管理局員として認められない! 少女一人救う事も早々に諦めてしまう組織、そんなものに誰が従ってくれるものかッ!」

 そこで一瞬グレアム提督が妙な方向を見た。私達の斜め後ろ? なんだこの違和感……

「良い啖呵だ。だが年寄りというものは1%の危険性でも見つけてしまったら安全策をとりたくなるものなのだよ。かつて我が子とも頼んでいた優秀な部下を失ってしまってからは特にそうだ」

 グレアム提督はそう言ってため息を吐く。
 そのため息一つで10歳も年を重ねてしまったかのようだった。

「闇の書が船の管制システムにすら干渉できるものだという可能性、それについても示唆はされていた。だが、その危険性を無視し、処理を急ぐあまりに起きた結果がエスティアの消滅だ。討ち滅ぼしたのは私の指示、私は私の手で、クライドを……お前の父親を死に追いやってしまったのだよ」

 その手に何が見えるのか、無表情に自らの手を見つめる。
 首を振り、クロノを見据えた。デュランダルを地に突き刺す。

「さて、問答はこの辺にしておくとしようか、クロノ。伝統を踏襲しよう。歴史に習うとしよう。己の意志を貫き通したいのならば、私を倒し、推し通って行け」

 グレアム提督は相変わらず演劇めいた調子でそう嘯き、私達の前に壁となり立ちふさがった。


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