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No.34349の一覧
[0] 道行き見えないトリッパー(リリカルなのは・TS要素・オリ主)本編終了[ガビアル](2012/09/15 03:09)
[1] プロローグ[ガビアル](2012/08/04 01:23)
[2] 序章 一話[ガビアル](2012/08/05 12:22)
[3] 序章 二話[ガビアル](2012/08/05 12:23)
[4] 序章 三話[ガビアル](2012/08/05 12:23)
[5] 序章 四話[ガビアル](2012/08/05 12:23)
[6] 幕間一[ガビアル](2012/08/05 12:24)
[7] 一章 一話[ガビアル](2012/08/05 12:32)
[8] 一章 二話[ガビアル](2012/08/05 12:33)
[9] 一章 三話[ガビアル](2012/08/05 12:34)
[10] 一章 四話[ガビアル](2012/08/05 19:53)
[11] 一章 五話[ガビアル](2012/08/05 12:35)
[12] 幕間二[ガビアル](2012/08/06 20:07)
[13] 一章 六話[ガビアル](2012/08/06 20:08)
[14] 一章 七話[ガビアル](2012/08/06 20:08)
[15] 一章 八話[ガビアル](2012/08/06 20:09)
[16] 一章 九話[ガビアル](2012/08/06 20:10)
[17] 一章 十話[ガビアル](2012/08/06 20:11)
[18] 幕間三[ガビアル](2012/08/09 19:12)
[19] 一章 十一話[ガビアル](2012/08/09 19:13)
[20] 一章 十二話[ガビアル](2012/08/09 19:13)
[21] 一章 十三話[ガビアル](2012/08/09 19:14)
[22] 幕間四[ガビアル](2012/08/13 19:01)
[23] 二章 一話[ガビアル](2012/08/13 19:02)
[24] 二章 二話[ガビアル](2012/08/13 19:02)
[25] 二章 三話[ガビアル](2012/08/13 19:03)
[26] 二章 四話[ガビアル](2012/08/13 19:03)
[27] 幕間五[ガビアル](2012/08/16 21:58)
[28] 二章 五話[ガビアル](2012/08/16 21:59)
[29] 二章 六話[ガビアル](2012/08/16 22:00)
[30] 二章 七話[ガビアル](2012/08/16 22:00)
[31] 二章 八話[ガビアル](2012/08/16 22:01)
[32] 二章 九話[ガビアル](2012/08/21 18:59)
[33] 二章 十話[ガビアル](2012/08/21 18:56)
[34] 二章 十一話[ガビアル](2012/08/21 18:59)
[35] 二章 十二話[ガビアル](2012/08/21 19:00)
[36] 二章 十三話[ガビアル](2012/08/21 19:00)
[37] 二章 十四話[ガビアル](2012/08/21 19:01)
[38] 二章 十五話[ガビアル](2012/08/21 19:01)
[39] 二章 十六話[ガビアル](2012/08/21 19:02)
[40] 二章 十七話[ガビアル](2012/08/21 19:02)
[41] 二章 十八話[ガビアル](2012/08/21 19:03)
[42] 二章 十九話[ガビアル](2012/08/21 19:03)
[43] 三章 一話[ガビアル](2012/08/29 20:26)
[44] 三章 二話[ガビアル](2012/08/29 20:27)
[45] 三章 三話[ガビアル](2012/08/29 20:27)
[46] 三章 四話[ガビアル](2012/08/29 20:28)
[47] 三章 五話[ガビアル](2012/08/29 20:28)
[48] 三章 六話[ガビアル](2012/08/29 20:29)
[49] 三章 七話[ガビアル](2012/08/29 20:29)
[50] 三章 八話[ガビアル](2012/08/29 20:29)
[51] 三章 九話[ガビアル](2012/09/05 03:24)
[52] 三章 十話[ガビアル](2012/09/05 03:25)
[53] 三章 十一話[ガビアル](2012/09/05 03:26)
[54] 三章 十二話[ガビアル](2012/09/05 03:26)
[55] 三章 十三話[ガビアル](2012/09/05 03:28)
[56] 三章 十四話(本編終了)[ガビアル](2012/09/15 02:32)
[57] 外伝一 ある転生者の困惑(上)[ガビアル](2012/09/15 02:33)
[58] 外伝二 ある転生者の困惑(下)[ガビアル](2012/09/15 02:34)
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[34349] 序章 四話
Name: ガビアル◆dca06b2b ID:8f866ccf 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/08/05 12:23
 もう無意識にでも帰っていけるだろう、住み慣れたねぐらに戻り、勢いのまま布団にダイブした。
 うつぶせのまましばらくその体勢でいると、眠りたくなってくる。何も考えずに寝て起きたら全てがすっきりしてるんじゃないか? そんなありえない誘惑がふつふつと沸いてきた。
 ……ああ、俺は弱いままだ。
 この世界に来て割り切ったと思っていてもそんな割り切れるものじゃない。
 考えたくもない事に蓋をして、見ないふり。剣術に無理に没頭して。ずっとそれから顔を背け続けてきたが。

「すっかり掘り起こされたなぁ……」

 自分と同じ姿の人間たちが一杯いる風景。
 自分は孤独ではないのだなとも思える反面、俺はあの風景には入っていけない異物だ。
 あんなに動揺したのはその辺が理由だろうか? 判らない。自己分析と言っても、あのにゃんこのアリアさんの言うとおり、精神的にはガタが来てる。判断力そのものが酷いものになっていない保証がどこにある。
 ははっと笑う。仰向けになり、天井を見た。安っぽいトタン屋根の天井だ。
 神様を馬鹿にするように舌をつきだしてみる。
 何もない空間を仰向けのまま殴りつけてみる。
 突きだした拳を緩め、一本一本指を開く。真っ白で小さな手。毎日の力仕事、家事、剣を振っているからか傷が絶えない。自分の手であると同時に「小さい」なんて思ってしまう手。
 ふー、と息を吐きながらぱたんと手を下ろす。
 この身体は借り物。
 その可能性を思いつかなかったわけじゃない。ただ、考えれば考えるほどどん底に落ち込んでしまいそうで、見ないようにしてきた。
 自分という存在が何なのか。

「うわぁ、我ながら……」

 何とも香ばしい。ここまで自分という存在について悩む事になろうとは。まあ、我に返った。ふっと何の前触れもなく。
 考えても仕方ないことをぐちぐちと考えすぎた。
 ……うん、やることは既に決まっている。
 迷うわけもない。あのグレアムという爺さんについて行く。
 確かにこちらの住み慣れた我が家、ようやく我が家とすんなり思えるようになったものを残して行くのは忍びないが、この世界にいても知れることは限られているし、この姿と同じような連中が居るなら会ってみたい……とも思う。家族とかが名乗り上げてきたら、正直怖くて逃げ出さない保証はできないが。

「行くかっ」

 ちょっと気合いを入れて無意味にはね起きる。渡されたメモを持ち、まだ蒸し暑い外に飛び出した。

   ◇

「6時頃に待ち合わせをしようか、夕食は期待していてくれて構わないよ?」

 と、いうことなので、手持ちの中でそれなりに見れる服を着て出発した。
 フリーマーケットというものも侮れない。特に子供服などは成長に合わせて回転も激しいので、驚くほどの値段でひと揃いの衣服が揃ってしまうのだ。と言ってもさほど、今までとあまり代わり映えするわけでもない。上着に着ているものがルーズシルエットのTシャツに下が黒のコットンパンツになっているだけである。ちなみにあわせて100円ワンコイン。子供が買いに来たので安くしてくれたのかもしれない。有り難いことだ。
 指定された待ち合わせ場所に着くと既に、グレアムの爺さんにお供の二人が待っていた。
 既に店に予約を入れてあるとのことで、のんびり歩きながら向かうことに。
 しかし、前を歩く二人を見て改めて思うのだが、この認識に働きかけるという魔法というのはとても便利だと思う。魔導師や野生の動物のような勘の優れてるものには通じない、とは言っていたものの……なにしろ、耳も尻尾もまるで隠していないのに、誰も気付かないのだ。
 ……魔法なんてのが俺にも使えるようだったら教えてもらおう。最優先で。背中のものを気付かせずにおけるなら、このくそ暑い中、ぶかぶかした服を着ないでも済む。

「うむうむ、やはり日本に来たならば、一度来てみたくてね」

 着いた店は寿司屋だった。しかも頑固オヤジが握ってそうだ。黒光りする年代ものの引き戸にえんじ色の暖簾がかかっている。
 開けると落ち着いた声でいらっしゃいませと声がかかってきた。頑固オヤジだなんて思ってしまってすまない。初老と呼ぶには少し早いだろう年頃に見える、とても穏やかそうな店主だった。
 ショーケースはなく、シンプルなカウンターに本日のお薦めと書かれた手書きのお品書きがある。
 一言二言、言葉を交わし、奥の座敷に通された。

「旅行の記念に心ゆくまで美味しい寿司を頂きたくてね。まず大将の仕切りで四人前頼むよ」

 暗に、金にうるさい事は言わないから満足ゆくものを、なんて注文をしてみせる。グレアム爺さんあんた何者だ。英国人じゃなかったのか。
 座敷は四畳半の一間で、こことカウンター席のみで店を回しているようだ。ちょっとしたらお茶を持ってきてくれたので、他愛もないことを話しながら待つ。
 ただ、その待つ時間、退屈を持て余したのか……

「お腹すいたなー」

 と姿勢を崩してこちらに戯れかかってくるロッテさん。この人はアリアさんの妹猫らしく、何とも直情的でこう、たまに俺の事を美味しいものを見るかのように見るので。
 うん、お腹すいたなと言いながらこっち見んな。犬歯を光らせるな。尻尾が狩りの体勢になってるぞ。
 冗談でやっているのは判ってるので、気にしないのが一番なんだが。
 そんなことをしているうちに寿司を運んで来てくれる。
 運んで来たのは若い店員さんだったが、どうやら息子さんらしい。外国人のようだからと適当に寿司を出すということもないようで。まずはあっさりとした鯛、ヒラメ、イカである。
 そして、マグロ、甘エビ、ホタテと続き、穴子、ウニ、イクラ。締めの巻きものはかんぴょうにカッパ巻きでさっぱりと。ああ、やっぱ納豆出さなかったか……残念。
 お茶を飲んで一息ついた。
 何というか……あっという間に食べてしまった。
 久しぶりに食べた上等なものだったからか。自分の事ながら食事でここまでこうなるとは安っぽさを感じないでもないのだが。
 ……とても満足してしまった。我ながら顔が緩んでいるのを感じる。けぷぁーなどと間延びしたげっぷが漏れた。

「これはこれは、何とも生魚がこれほど美味とはな」
「父様、父様、このイクラってのもすごいよ」
「ちょっとロッテ、それは私の……」

 この三人にも好評なようだ。
 しかしふと思ったのだが……猫ってワサビ駄目じゃなかったっけ? ……まあ、大丈夫ならいいや。使い魔は違うのかもしれないし。
 皆で食事を終え、お茶を飲みつつほっこりと食後ののんびり感を楽しむ。
 さて、と一つ前置きをすると、グレアムの爺さんが真面目な顔になった。
 目配せ一つ受け取って、アリアさんが何かぽそっとつぶやくと、空気? が変わる。

「……ふむ、これも感知するかい? 第130世界の人間はリンカーコアを持たないとデータ上ではなっていたが、どこにでも例外は居るということかな」

 どこか嬉しそうに言う。
 んー。異論はままあるが。

「というか、何を?」
「何、この部屋一帯に軽い結界を張ってもらったのさ。もう少し強力なので封時結界というのもあるのだがね、あれは少々大雑把にすぎて、隠蔽にはこちらの方が向いているのだよ」

 さて、と前置いて、続ける。

「これで、少々お伽噺めいた、そしてちょっと安物のSF染みたお話をしても、外には世間話にしか聞こえないはずだ。昼間、話そびれた事でも話すことにしようか」

 グレアムの爺さんはそう言って膝を崩し、お茶を美味そうにすすった。
 なんでも本人の意志が確認できれば、次元漂流者の保護プログラムに従って、本局の置かれているミッドチルダという所で検査と書類申請すればいいらしい。
 さらにこの人、偶然会っただけの俺の保護責任者にもなってくれるという。休暇中のはずなのに悪いね、と言ったら、子供が遠慮するものではないよ、と渋い顔で言われた。
 ……あ、そう言えばまだその辺の事詳しく話してなかったか。
 しかし、会ってたかだか一日でそこまで信用するというのもな……いや、どのみち検査……魔法は未知の部分多いし、うぅむ。ごちゃごちゃ考えるのも面倒になってきたし、昼間の事考えれば今更か。
 それなりに考え込んでしまっていたらしい。三対の視線がこちらを向いて、じっと待っているようだった。
 うん。ぶっちゃけることにした。下手の考え休むに似たりである。
 元、男であったこと。年齢も最低でも成人は越えていたと思う。普通に働いていて、いつかは記憶が曖昧だが少なくとも地球の未来軸……しかもパラレルワールドと思われる場所に居たことを話す。
 言っていて、今話している事が自分の考えた妄想のような気もしてきた。前世の話とかを信じ込んでしまっている電波な少女になった気がしてくる。
 ただ、現実は小説より奇なりを地で行くような事も覚えているので、そこが……そこだけが妄想でないことの証明か。
 世界貿易センタービルに旅客機で自爆テロとか、俺ではとうてい思いつくことではない。そして、21世紀になって急に増えた世界各国の巨大地震。スマトラ沖地震とかゼロから考えつくのはまず不可能だろう。とんでも小説家の発想力でもなければ。
 もっとも、この地形すら違うパラレルワールドで果たして同じ歴史をなぞるかはまったく判らないのだけど。
 ここまで話したところで、グレアムの爺さんは頭痛をこらえるような顔をして額に手を当て考え込んでしまった。
 整理中なんだろう。やはりこういった事例は魔法なんて事に関わっている管理局という所でもそうあるものではなかったか……

「確たることを言えるわけではないが……ロストロギアと我々が呼んでいるものがある」

 目をつむったまま、低い声でそんな事を言いだした。何か嫌な思い出でもあるのか、妙に迫力がある。
 なんでもそのロストロギアというものは過去に滅んだ文明の遺産なんだそうだが、時折、暴発して困った事態を引き起こす事も多い厄介なものらしい。ロストロギア絡みの案件の心構えは「どんな事態も起きて当然」と言うことらしいからその厄介さは極めつけのようだ。
 
「俺の状態はそのロストロギアが絡んでいる可能性大?」
「……もちろん、君自身の特性、あるいは自然現象、またはどこぞの変人科学者が妙な実験でも試してみたのか、可能性を言っていたらきりがないがね」

 こんなことを言うとクラナガンの学者連中には笑われてしまうのだが、と少し苦笑し。

「この世界……管理局には第97管理外世界と呼ばれているのだが、この世界特有のレイラインと言うものの存在を私は信じていてね。ロンドンやここ、海鳴の地はその吹きだまりのようなんだ」

 デバイス未使用で魔法を使うと、この地の魔力流に微弱な一定の流れが集約していることに気付くそうな。そのレイラインが呼び水となってロストロギアが集まりやすい状態になったり、住人に魔導師の資質を開花させてしまう可能性はあるんじゃないか、この現象を自然科学のように魔法力学からの観点で解き明かしていけばきっと面白い事が……とそこまで熱く語ったところでふと我に返ったのか。

「……む、まあ、年寄りの与太話だ。話半分にな」

 耳が少し赤くなっているが。見ないことにする。男はいつだって夢を見ていたいものなのだ。気持ちは判るというものだった。
 気を取り直すかのように、言葉を続ける。

「君のその事情については……私も多少心当たりはあるので調べておくとしようか。管理局で検査を受ける時にもそう問題はないだろう。精神干渉の魔法による被害者への治療というのも少ないがあることだ。ただ、精神と体に齟齬が出ないかの検査は多くなるとは思うがね」

 何というかこの爺さん異様に頼りになる。管理局員ってなこんな奴ばっかなのだろうか。
 気がつけば随分話し込んでしまった。店を出れば夏の薄ぼんやりとした月が高く昇っている。
 管理局への出立は先だってアリアさんが言っていたように三日後らしい。

「しばらく、この世界に戻ってくることも難しくなるから、急だとは思うが身の回りの支度をしっかりしてきなさい」

 との事だった。多分この世界で、誰かの世話になっているのだと思ったのだろうが、残念。ほぼ身一つの生活だ。挨拶すべき人は居るが、そう荷造りするほどの物などは最初から持ち合わせていない。
 とはいえ、綺麗にしてから行けるならその方がいいか。
 明日明後日は掃除と挨拶回りに費やされる事になりそうだった。

   ◇

 まだ暗い早朝からの掃除を終え、綺麗にした室内を見回す。
 うん。三ヶ月ちょいとは言え、世話になった家だ。雨漏りしては修理し、風で戸が外れては修理し、なんて手間がひどくかかった家だったが、自分の手一つでここまで整えたねぐらなので、やはり感慨もひとしおである。山の稜線からそろそろと顔を覗かせる太陽を見て、今から行けば丁度いいかと思い、いつもの木刀をひっさげ、動きやすいように髪をバンダナで纏める。
 軒先で頬をぱんと叩き気合いを入れる。今日は勝つ……という気分で行く。
 定例となっている神社での早朝鍛錬である。最近では何とか恭也には躱されるより打ち合うか、逸らされる事が多くなった。未だに一度も当てた事がないが。
 美由希相手なら力で押し切れる……が、体のスペックでのごり押しというのはとてもあれだ。うん。すごく釈然としない。単純に押し倒すようなものなのだ。とても釈然としない。
 そんな美由希も才能は俺なんかより余程潤沢にあるようで、一つの技や型を覚えるのは遅いものの、一つ覚えてしまうとそれが崩れない。
 恭也が思わず愚痴ってしまうほどの才能らしい。俺ぐらいの年ごろになれば今の俺よりずっと上なんだろうなと、背中を煤けさせながら言っていた言葉は忘れない。後々でのからかいの種として。

「というわけで、ちょっと今日は気合い入れていくぞ恭也ァ!」
「何が、というわけなのか知らんが。来い」

 そんな勢いのままに突っかかっていった。
 といっても勢いだけで、ぎりぎりのデッドヒートが繰り広げられるわけもなく。
 いつも通り脳天を打たれ、ぐもぉぉぉぉっと地面を転げ回った。気合いや気力でいきなりパワーアップするのは主人公の特権だったらしい。
 俺はどっかと地面にあぐらをかく。なおも痛む頭を抑えて呻いた。

「ぬー。最後まで御神の技とやらも出させられなかったか」
「最後?」

 明日引っ越すんだよ、と言うと、心持ち寂しげに「そうか」とだけ返してきた。どこまでもこいつらしい。
 美由希にも挨拶しないとなと思って見ると。

「……遠くに行っちゃうの?」

 目が潤んではる。いや、ちょっと、これどうすれば? お、おう? などと自分で言ってても慌ててるだろう声が出る。アイコンタクトで恭也に助けを求めるとニヤニヤ笑っている。おい、妹が泣きそうだぞ、それでいいのか高町兄よ。

「あ、ああ、うん、ええとね。また会えるし、落ち着いたら手紙出すから、な?」
「……よかった……友達また、いなくなっちゃうかって……う……あぅ」

 あぐあぐしておられる……何か気付かぬうちに地雷を踏んでいたようだった。
 あーよしよしと子供をあやすように軽く抱いて頭の後ろをぽんぽんする。
 しばらくして……泣き止んだ頃には妙に顔が赤かった。俺もかなり面映ゆい。兄の前で妹の頭なでなでとか勘弁してほしい。
 美由希の後ろで恭也がニヤニヤしている。こいつ案外人をおちょくるの好きなのではとふと思った。
 美由希の顔の赤みは……恥ずかしがっているだけ……と信じたい
 恭也はこちらに近づくと耳元でぼそりと言った。

「母さんが言っていたが女は小さくても女だそうだ」

 ……いや、それ言われたのお前だきっと。そんな気がする。鈍感ゆえ幼なじみの好意とかに気づけないどこかの主人公っぽい臭いがぷんぷんする。

「それとな、その木刀はやる。餞別だ」

 さりげなく進呈された。ありがたい。
 ……むぅ、俺からも何かやりたいが、そうだな。

「恭也、美由希ちゃん。二人に秘密基地を進呈だ」

 怪訝な顔をする二人に俺の整えたねぐら、廃工場の場所を教え、森に近いし、何より人目を気にする必要がない。修行場に最適だぞ。ただし、行くなら明後日からな。と言っておいた。
 神社以上に人の気が少ないし便利だと思ったのだ。これから美由希もぐんぐん恭也のような変態的な機動をする剣士になっていくのだろうし、十分に暴れられる修行場は必要だろう。
 高町兄妹との挨拶を終えた後も、いろいろと挨拶回りは続いた。
 三ヶ月も生活していればそれなりに人付き合いというものも出来てくるというものだ。
 空き地の子供たち、何故か最近任侠映画でも見たのか会うたび仁義を切ってくる安田。結局、調子に乗ると空気が読めなくなる癖が直らなかった南部。
 商売相手の釣り場のおっちゃん達、砂浜でバーベキューによく来ていた大学生グループ。
 弁当屋のおかみさん。フリーマーケットのお姉さん。
 ……あ、そういえば、高町兄妹の両親がやっているとかいう店……翠屋だったか、美由希から誘われてたけど行くのを忘れていた。
 しばらく前に、高町夫婦のピンクオーラによる恭也の煤けっぷりを見て以来、何となく避けていたのかもしれない。
 今思えば、恭也が武者修行とか時代錯誤の事をしていた頃、美由希は何だかんだと理由をつけて外にいたがったが、あれもそうだったのだろうか……あまり気にしてないように思えたのだけど。
 両親が仲むつまじいのは良いことなので頑張れとしか言いようがないのだが。

 一通り挨拶回りを終え、ねぐらに帰ったのはもう日も傾きかけている時間だった。
 軒先に干してある魚が目に入る。これも何とかしないといけない。
 ……うん、一つ思いついた。
 昨日の夜は美味しい食事を頂いたので、今度はこっちから馳走することにしよう。猫の好きそうなものばかりあるし。思いついたら即電話である。ついでに、少し散財して付け合わせとワインでも買ってくるとしよう。
 どんなメニューにするかなどをつらつらと考えながら、最寄りのデパートに足を向けた。

   ◇

 俺の先導により招かれて早々、手のひらで目を塞ぎ天を仰いだのはグレアムの爺さんだった。ひどいリアクションだった。この、門を抜けてすぐ目に入るぼろぼろの廃工場見れば気持ちも判るけどね。
 どんな暮らしをしていたんだと聞かれたので、正直に話すとジーザス……とか小声で漏らしていた、感心はちょっとされるかもと思ってたが、そこまで嘆かれるとは……
 いつまでもそれに付き合っていても仕方ないので、奥の小屋近くに設置した、食器棚を改造して作ったテーブルにつかせて料理を運ぶ。
 もっとも、時間がたくさんあったわけでもなく、さほど手間のかかる事はしていない。付け合わせの生野菜のサラダや、パン、チーズ程度である。
 メインディッシュは肉、魚の一斉在庫放出である。
 竃にかけられて程よく熱された網の上に油を塗りつけ、適当に切った肉、魚を置いていく。しばらく経つと火が通りはじめ、肉汁が垂れ、焦げる良い臭いが漂った。
 リーゼ姉妹の視線がすごいことになっている。ロッテさんなどは俺が焼いているすぐ後ろでうずうずと見ているのだが、少々身の危険を感じないでもない。
 ちなみに最初に焼けたのは鴨肉だ。野性味溢れる鴨肉はこうやって炭火で焼き鳥にして塩胡椒でシンプルに食べるのが一番旨いと思う。昨日捕まえ、今朝方絞めたものだ。
 爺さんには脂がきついかもしれないので切ったレモンも添えておく。
 夏場なので後は塩漬け肉や燻製肉、魚のスモークになってしまうが、どれも野趣溢れるもので、猫姉妹にはとても好評だった。
 ワインはせいぜいがボルドーの有名どころくらいしか知らないので、酒コーナーで店員に聞いて適当に買ってきたものだった。お使いとしか見えないから買えたのだろうけど、どうも複雑な気分ではある。ワインそのものについては、そう外れではなかったようでゆったりとしたペースながらも着実に減っていった。というか、英国人の肝臓には足りなかったようだ。英国人というと、こう……パブで大ジョッキを傾けているイメージがあるな。
 そんなことを思いながらグラスに口をつける。
 水だと思ったら残念、ワインだった。そう、これは事故以外の何者でもない。旨い。子供の身体だからと自重してたまるものか。
 対面でグレアムの爺さんがおやおやとか笑っている。
 ちなみにリーゼ姉妹は二人、猫形態なので二匹か? で、もつれあってごろにゃんしている。理由は簡単デザートに出したキウイフルーツ、その飾りとして出した枝の効果だ。そう、マタタビ科マタタビ属和名オニマタタビのキウイフルーツである。ちょっとした悪戯心だったがこれほど効果があるとは……今度またやろう。カメラでこの姿を残せないのが心底残念だ。

「今日は、楽しませてもらったよ。娘達もあれ以来なかなか心からリラックスできなかったようだしね」

 もつれ合って戯れているリーゼ姉妹を見て微笑むグレアムの爺様。
 見た感じも言葉も好々爺といった感じなのにどこかで……こう硬いとこがあるような……懐かしんでいるような……あれ以来? わからん。
 少しふわふわしたものを感じる。
 ……酔ったか。あれしきで。悔しい。でも感じちゃう、なんて。テンションが変である。まあ、楽しめたというなら。

「それなら、良かったよー。歓迎した甲斐があるよね」
「ところで、君の保護にあたって申請する名前が必要になるのだが……」
「……名前? ああ、適当に付けちゃったしね」

 にやりとグレアムの爺さんは笑い。

「とても君にぴったりな名前を思いついたのだよ。差し支えがなければ私につけさせて貰えないかね?」

 いかん、睡魔が。スイマーが……

「ああ……ツバサって呼んでくれる人も居るから、そんだけ残してくれれば……好きにして……」
「ふむ、では決まりだな」

 あれ、何かデジャビュが……あれ?

「生命に溢れ、野生を残したる君にはその性を補う名前を……『理性』の意味を持つティーノと名付けよう」

 うん、これなら見た目通りなかなか可愛らしい響きだ、などとおっしゃる……って、ええ?

「さて、出立は明日の午前だ。ここの後片付けは私たちに任せて子供は眠りなさい」
「ぬ……む、客にやらせるわけには」
「アリア、この子を寝場所に連れていってあげなさい」

 はいお父様、とアリアさん。いつの間に復活を……いや、それより、な……まえ。
 そして有無を言わせず布団に入れられ、その心地よさでいつしか意識はとろけてしまった。

   ◇

「しまったァーッ!」

 そんな自分の叫びで目を覚ました。
 ばっちり覚えている。
 酒に酔って、眠くなっていたとこで、名前を……
 いや、自分のネーミングセンスとかはかなりどうかと思ってたので、人の名前にケチつけれる筋合いはないんだが。
 うむ。何か釈然としない。

「ティーノ……てぃーの……なぁ?」

 名前の響きを舌で転がしてみる。
 確かに見た目日本人じゃないから良いの……か?
 ただあからさまにこう、外国系の名前は違和感がすごいというか……急に妙なあだ名でもつけられたかのような心持ちになる。
 もっとも、アリスとかシルヴィアとかあからさまな女性名でない分まだグレアム爺様の優しさなのだろうか?
 惜しむらくは濁点。ディーノだったら普通に居そうだ。
 外に出ると既に日が昇っていた。
 日頃の習慣を考えるとびっくりするくらい寝坊だ。
 どうもこの身体のアルコール代謝はさほどでもないらしかった。

「ふむ、起きたかね? おはよう」

 何とすでに家の前に三人とも来ていた。
 そういえば出立は午前とか言っていたような気がした。

「あー、おはようさん。えーと、荷物はもう纏めてあるから、身支度だけするんで20分ほどまっててな」
「何、慌てないでも構わんよ」

 と言ってくれるのはありがたいけど、実のとこ荷物といっても精々使えそうな服とか木刀、ちょっとした覚え書き程度である。バッグ一つで収まっている。
 くみ置きの水で顔と頭を洗い、体を拭く。身支度を調え、それで準備は完了である。
 何でも、その管理局へ行くには中継地点となる世界までひとまず魔法で転移してから、入管手続きの後行くことになるらしい。

「さて、行ったらしばらくはこの世界に来ることも出来ないだろう。やり残しはないかね?」

 思い出した事があり、ちょっと待って貰う。
 今まですごしたねぐらに向かって手を合わせ感謝。

「ありがとうございました」

 一拍置いて背を向け、三人の足元に広がる魔法陣に足を乗せる。
 目で、良いかね? と確認してくるので大きく頷いた。
 さて、これから行くところはどんな場所なのか。
 繋がっている道先は見えないものの、踏み出す方向は見えたようだった。
 歩くだけ歩いてみるとしよう。


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