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No.34349の一覧
[0] 道行き見えないトリッパー(リリカルなのは・TS要素・オリ主)本編終了[ガビアル](2012/09/15 03:09)
[1] プロローグ[ガビアル](2012/08/04 01:23)
[2] 序章 一話[ガビアル](2012/08/05 12:22)
[3] 序章 二話[ガビアル](2012/08/05 12:23)
[4] 序章 三話[ガビアル](2012/08/05 12:23)
[5] 序章 四話[ガビアル](2012/08/05 12:23)
[6] 幕間一[ガビアル](2012/08/05 12:24)
[7] 一章 一話[ガビアル](2012/08/05 12:32)
[8] 一章 二話[ガビアル](2012/08/05 12:33)
[9] 一章 三話[ガビアル](2012/08/05 12:34)
[10] 一章 四話[ガビアル](2012/08/05 19:53)
[11] 一章 五話[ガビアル](2012/08/05 12:35)
[12] 幕間二[ガビアル](2012/08/06 20:07)
[13] 一章 六話[ガビアル](2012/08/06 20:08)
[14] 一章 七話[ガビアル](2012/08/06 20:08)
[15] 一章 八話[ガビアル](2012/08/06 20:09)
[16] 一章 九話[ガビアル](2012/08/06 20:10)
[17] 一章 十話[ガビアル](2012/08/06 20:11)
[18] 幕間三[ガビアル](2012/08/09 19:12)
[19] 一章 十一話[ガビアル](2012/08/09 19:13)
[20] 一章 十二話[ガビアル](2012/08/09 19:13)
[21] 一章 十三話[ガビアル](2012/08/09 19:14)
[22] 幕間四[ガビアル](2012/08/13 19:01)
[23] 二章 一話[ガビアル](2012/08/13 19:02)
[24] 二章 二話[ガビアル](2012/08/13 19:02)
[25] 二章 三話[ガビアル](2012/08/13 19:03)
[26] 二章 四話[ガビアル](2012/08/13 19:03)
[27] 幕間五[ガビアル](2012/08/16 21:58)
[28] 二章 五話[ガビアル](2012/08/16 21:59)
[29] 二章 六話[ガビアル](2012/08/16 22:00)
[30] 二章 七話[ガビアル](2012/08/16 22:00)
[31] 二章 八話[ガビアル](2012/08/16 22:01)
[32] 二章 九話[ガビアル](2012/08/21 18:59)
[33] 二章 十話[ガビアル](2012/08/21 18:56)
[34] 二章 十一話[ガビアル](2012/08/21 18:59)
[35] 二章 十二話[ガビアル](2012/08/21 19:00)
[36] 二章 十三話[ガビアル](2012/08/21 19:00)
[37] 二章 十四話[ガビアル](2012/08/21 19:01)
[38] 二章 十五話[ガビアル](2012/08/21 19:01)
[39] 二章 十六話[ガビアル](2012/08/21 19:02)
[40] 二章 十七話[ガビアル](2012/08/21 19:02)
[41] 二章 十八話[ガビアル](2012/08/21 19:03)
[42] 二章 十九話[ガビアル](2012/08/21 19:03)
[43] 三章 一話[ガビアル](2012/08/29 20:26)
[44] 三章 二話[ガビアル](2012/08/29 20:27)
[45] 三章 三話[ガビアル](2012/08/29 20:27)
[46] 三章 四話[ガビアル](2012/08/29 20:28)
[47] 三章 五話[ガビアル](2012/08/29 20:28)
[48] 三章 六話[ガビアル](2012/08/29 20:29)
[49] 三章 七話[ガビアル](2012/08/29 20:29)
[50] 三章 八話[ガビアル](2012/08/29 20:29)
[51] 三章 九話[ガビアル](2012/09/05 03:24)
[52] 三章 十話[ガビアル](2012/09/05 03:25)
[53] 三章 十一話[ガビアル](2012/09/05 03:26)
[54] 三章 十二話[ガビアル](2012/09/05 03:26)
[55] 三章 十三話[ガビアル](2012/09/05 03:28)
[56] 三章 十四話(本編終了)[ガビアル](2012/09/15 02:32)
[57] 外伝一 ある転生者の困惑(上)[ガビアル](2012/09/15 02:33)
[58] 外伝二 ある転生者の困惑(下)[ガビアル](2012/09/15 02:34)
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[34349] 二章 十七話
Name: ガビアル◆dca06b2b ID:8f866ccf 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/08/21 19:02
 疑問を抱えつつも集落にたどり着いた。
 家の造りを見るに冬は相当雪が積もってしまうのかもしれない。田は少ないようで、段々畑があちこちに広がる。盛んなのは林業なのだろうか、トタン屋根の下に板状にされた木材が何枚も重ねられ乾燥されている場所が目立つ。
 村の外れの一軒家、ぽつんと明るくなっている家を見つけた。
 さすがに私達のメンツは怪しいことこの上ない。寝てしまっている三人をティーダに見ててもらい、一人で訪ねると白髪の少し太った感じのお婆さんが出てきた。
 私を見て驚いていたのだが、外国から観光にでも来たのかと思われたのだろう、英語を苦手そうに、一生懸命言おうとしてくれている。気持ちはありがたいけども。

「友達がキャンプで怪我をしてしまいまして」

 と私が日本語で話し出すとほっとした表情になった。
 ……怪我したのは嘘じゃないけど気が引かないでもない。
 入り、いいから入り、と家の中に招かれ、警戒もなんのそのといった具合にとても親切にしてくれた。
 近頃、若い衆が減ってしまった事や、昔はこの辺りも栄えていたのだとか、流れる水のように途切れない話っぷりには少し閉口するものもあったのだけども。
どうやらこのお婆さん、一人暮らしらしく、もしかしたら寂しかったのかもなあと、ふと目に入った旦那さんらしい遺影を見て思う。自治体から配布されている病院や緊急時のガイドマップを見せてもらい、覚え込んでいたのだが……

「いいからいいから、持ってけ。ほらこれも。在り合わせだけどねえ」

 そんな事を言って、いつの間に用意していたのだか、ホイルにおにぎりを包んでくれた。うちで漬けたんだよ、外人さんにはちょっときついかもしれないけどねえと、沢庵漬けも完備だ。イけます大好物です。
 ……あー。
 立て続けに変な事に遭遇した後だったからかじーんときてしまった。
 人の情けが身に染みるとはこの事か。
 ありがとう、このお礼はいつか。と頭を下げ、妙にあったかくなった心持ちでお婆さんの家を辞した。

「さあてと……」

 心持ちが暖かくなったのはいい、ただ……考えないといけない事がある。
 お婆さんに貰ったガイドマップを見た。
 いかにも田舎らしく、道沿いにも街灯の一つもない。お婆さんの家の明かりに照らされたそれの右上……発行年のところには2011と書いてあった。
 次元世界の移動時に時間の差が出る現象というのはどこかで聞いた事がある。
 だが、ここまで大規模なずれが出るはずはない。
 覚えている限りでは97世界では西暦2003年だったはず。
 私はこぶしで軽く頭を小突いた。
 8年分のタイムトリップ? あるいは地球によく似ているだけの場所に偶然たどり着いた?
 小さいため息を漏らすと、白い息となって風に散る。
 私の頭では答えは出なかった。

   ◇

 とりあえず人里に来てみたものの、これからどうしようか。
 私は眠る三人と、気が抜けたのか、どこかぼーっとした様子のティーダを見て頭を悩ませた。
 通用しそうなお金は実のところ少し持っている。先だって97世界に行った時から小物入れに突っ込んだままのお金だが……

「これって使っていいのかなあ」

 福沢さんを出して悩む。
 世界が似ているだけで、流通通貨が違っていた場合は突っ返されるだけだからまだしも、発行番号が重複した場合は偽札扱いになりかねない。いや気を使いすぎといえばそうなのだろうけど。

「さっきのお婆さんの家に事情話してお世話になってしまった方がいいか……」

 と言っても日本人的にはすごい怪しい集団である。
 白に近い金、赤毛に近い金、少年二人の黒はいいとして、残るは若草色とか。
 髪の色だけとってみても怪しい事この上ない。
 いっそ幻術で見た目を誤魔化して……魔力足りないだろうから局所的にでも……と考えていると、顔を赤くしたシャルードさんが目をぼんやり開けて、私の胸に手を置いた。もにもにと指が動く。

「らぁいじょうぶ、あてはあるわよーティーノたん、うふはー」

 酔っぱらいだ。紛れもなく酔っぱらいだ。

「うふふ、ロリキャラのくせにこんなに良い具合に育っちゃって、ああ妬ましい妬ましい」
「揉まないで、正気に返ってシャルードさん……」

 私のげっそりした返事に、ノリ悪い、と口を尖らせると、キューブを取り出し、転移の準備に入る。緑の風が取りまき──
 散った。
 ええと……

「……ごめん、ティーノちゃん、魔力ちょうだい」

 転移に必要な魔力が集まらなかったらしかった。

「あー、痕跡たどるのがこんなに面倒臭いとは思わなかったわ」

 そんな怠げな言葉を発しながら転移した先は10階建てくらいだろうか、中規模とも言えるマンションの前、駐車場の真ん中だった。
 何でもある特定範囲内から世界より抜け落ちている穴を見つけてたどったのだとか。不良セクタに例えていたけれどさすがにピンとこないのだが。
 まだ酔いの覚めないまったりした目を懐かしげに細め、すたすたと先に進む。
 三階の真ん中、泉と書かれた表札が下がっている扉のオートロックを知った顔で解錠。

「ただいま」

 と何とも言えない声音でつぶやき、おもむろに振り返る。

「いらっしゃい、ま、汚いとこだけど上がって上がって」

 と私達を招き入れた。

   ◇

「いろいろ疑問はあると思うけど……まずは掃除ね」

 部屋に入って一瞬止まった後、シャルードさんはそう言ってどこからか取ってきたフローリング用モップをティーダに渡す。
 ティーダも一つ肩をすくめ、ソファに少年二人を降ろした。
 確かにその、部屋を見ると埃がかなり堆積している。ちょっとくつろげる感じではないようだ。
 私も手伝おうとすると、どこからか出してきた財布をひょいと放られた。

「あなたは買い物ね。マンションを出て真っ直ぐの通り沿いにコンビニがあるから、飲み物と食事、それにお菓子でも買ってきてちょうだい。あ、その店で一番高いお酒もお願い」
「いやシャルードさん……飲み物食事は判るけど、お酒って……」
「ああまあ、飲まなくちゃやってられないのよ……行ってらっしゃい」

 そう言ってお使いに出される。
 確かにシャルードさんは目立ちすぎるし、ティーダは翻訳魔法使わないと言葉が解らないし、消去法で私なのだろうけども。
 さくっと買い物を済ませ、買い物袋を手に夜道を歩く。お酒は微妙な顔をされたが、何とか誤魔化せた。
 転移してしまったから地理が判らなかったけども、どうやらこの付近はさっきまでいた山間とは違って、いたって普通の町の中といった感じだ。
 首都というほど都市化はされてないが、田舎と言う程でもない。都市部のベッドタウンというのがしっくりくるかもしれない。閑静な場所だった。

 戻ってみると……ざっとだが、休めるだけのスペースと、テーブルの周辺の埃は払ったらしい。
 私が戻ったのを見計らったように奥の部屋からシャルードさんが出てきた。
 何でも寝室になっているそうで、ベッドに少年二人を寝かせてきたとのこと。掛け布団多めに持っておいて良かったよ、と言っていたので少年二人が風邪を引くことは免れそうである。
 私が買ってきた袋をテーブルに置くと、気分だけでも、とカップを並べる。自分だけはワイングラスだったが。

「あ、そうだ」

 お婆さんから持たされたおにぎりの包みを取り出すとそれも広げた。
 結果的に渡された地元のガイドマップは無駄になってしまいそうだが、こちらの好意は無駄にはしない。後でマップは返しにいかねば。
 ペットボトルであまり味は期待できないものの、緑茶をそれぞれのカップに注ぐ。シャルードさんは私が買ってきた赤ワインを早速開けていた。

「さて、ひとまずは命長らえた事を祝いましょうか」

 そう言って一口でグラスを飲み干す。
 困ったものだとも思うのだが、いろいろストレスもあるのだろう。私も一つ軽くため息を吐き、お茶を頂く。
 そういえばしばらくお腹に何も入れてなかった。お婆さんのおにぎりを頂く。
 こめ……うま。中には酸っぱい梅干しがごろんと入っており、涎が際限なく出てくる。
 あまりご飯粒を潰さずに柔らかく握る技はさすがに年の功というやつかもしれない。
 お茶でご飯の残りカスを喉に流し込み、沢庵漬けも一切れ放り込む。
 時期が時期だけに古漬けのようだ。外人さんには、と言っていた通り酸味の効いた沢庵漬けは人を選ぶかもしれない。
 しかしまあ、ほっとする味である。
 ティーダは小麦粉で育ったので、やはり馴染み深いのだろう、私が買ってきた惣菜パンを食べているが、いずれ米の味を美味いと思うようにしてやるつもりだ。

 シャルードさんが二杯目のワインを半分飲んだところで、テーブルに力が抜けるように突っ伏した。
 横目でワインを見ながら口を開く。

「まさかこんな形で戻っちゃうとはねえ。そりゃある程度はこんな事もあるかと思ってたけど……こうも偶発的要素が混じりながらたどり着いてしまうと誰かしらの操り糸さえ感じちゃうかもね」

 私とティーダは一瞬目を合わせ、聞く体勢に入った。
 シャルードさんは一つ小さく酒臭そうな息を吐く。

「結論から言うとね、ここはあたしやビスマルク、そんな来訪者達の居た世界よ」

 何でもあの荒ぶる神様だか何だか判らない、どちらかというと某恐怖神話に出てきそうなモノから逃げる時。
 シャルードさんが最短時間で転移可能な道筋として選択したのは、その時神様から助けたというか、横からかっさらった少年。その少年の記憶していた場所だという。

「結果はある程度までは予測出来た事なんだけどね。グレイゴースト側がなんで躍起になって地方の紛争にまで介入してきたのか? 今まで放置していたあたしをこのタイミングでカーリナが勧誘してきた理由は? それはあのロストロギアが私らの帰れる唯一の手段に他ならないからなんでしょうね」

 思い出せば調査にも誘導されてた気も……
 小声でブツブツとそんな事を言っている。うちの姉もいろいろ絡んでそうで、冷や汗が……

「ああもう、じっくり調査するべき事だったのに……あのヴェンチアが悪い! 大体調査主任の私ですら知らない事も知ってそうな感じだったし、途中で降ろされるし、もう一杯!」

 叩きつけるようにグラスを出す。何という酔っぱらいか。刺激しても仕方無いのでおとなしくお酌をしておくが。
 そういえば、と気になっていたビスマルクの変化について聞くと、ワインを煽った。

「知らないわよ、あんな勝手に突っ込んで勝手に自滅して……ああもう! ねえ、使い魔が魔力供給絶たれた、自力での魔力素変換も難しい状態で、限界まで自身の魔力を使い切ったらどうなると思う?」

 私はその意味を計りかねた。
 あまり使い魔についてはミッドでもよく判っていないらしいし、私の出力だと維持もできないと思う。正直あまり知らないと言ってもいい。

「素体に戻る?」

 ティーダが答えれば、そうよ、と突っ伏して顔を見せずに答えた。

「……前に言ったでしょ、あたしも含めて来訪者というのは多分、生きているか、死に瀕した人間を使い魔と似た魔法によって弄ったものなのよ。いえ、逆ね。境界の世界に居たアレが使うのがオリジナルで、使い魔を作る儀式魔法がそこから派生したというのが正しいんでしょ。あの馬鹿が子供の姿になった事でほぼそれは……確信してしまったわよ」

 だん、と感情が高ぶったのか拳でテーブルを叩いた。
 顔を上げると私の傍に置いてあったワインを乱暴に取って、注ぐ。
 煽るように飲んだ。

「記憶もね。多分覚えてないわよ。もし記憶を以て個人であることを規定するなら、ビスマルクはもう居ない。死んだと言ったほうがいいでしょうね」

 あの馬鹿、とまた言った。

「やんちゃな馬鹿ガキでね。弟みたいに……あいつは……あいつは……だからあたしは研究に生きていたいのよ、一人で居たいのに……馬鹿……馬鹿」

 そうつぶやくように言って、短時間で多量に飲んだのが効いたのか、さすがに酔いつぶれてしまう。
 ティーダを見ると酷い顔をしていた。
 私も今ひとつ自分の顔に自信が持てないが。
 ため息が一つ漏れる。
 救いはそのビスマルクであった少年が外傷もなく、眠っているだけで、元気そうだという事だろうか。あまり慰めにもならないけども。
 突っ伏しているシャルードさんに毛布を掛けながらそんな事を思った。

   ◇

 翌朝、ビスマルク……であった少年が目を覚ました。
 始めは私達を見て、その容姿に酷く驚いていたようだったが、あまりこだわらないのは変わらないらしく、警戒もせず、私が昨日買い込んでおいた食料をパクついている。
 名前はというと、為友と言うらしい。珍しい名前だ。
 シャルードさんが、ためとも? と聞き返すと、自慢げにその由来を語って聞かせていた。
 何でも平安時代の武将、源為朝が好きだったお爺さんが命名したらしい。一騎当千を旨とし、腕一本で勢力を従えたその武勇から、強い子に育ってほしいという事のようだ。琉球に渡って子孫は王様になったんだぜ! と自慢げに言う。だが、一転顔を曇らせ。

「つっても、俺は体弱っちくてさ。あんま動いちゃいけないんだ。心臓が駄目なんだってさ」

 つまらなさそうに言う。
 無言でそっとシャルードさんが抱きしめた。為友君は不思議そうな顔で見上げている。

「……たまらん、ショタに走りそうだわ。まさか、まさかあの筋肉男がこんないじらしい本体だったとか、ギャップ萌えとかそんなレベルじゃないわ、ありえないありえないありえない」

 誰にも聞こえていなかっただろうそのつぶやきは私の中にだけ留めておくのが平和なのだろうきっと。あ、涎出てる。年下にそんなに萌えるだなんてひでぇ変態である。
……なぜだろう、突然ブーメランを連想してしまった。
 ともあれ、為友くんから覚えている事を聞き出したところ、やはりビスマルクであった時の記憶は綺麗さっぱり消えていた。
 こちらの世界での記憶についてはしっかり覚えていて……といっても夏頃で途切れているようだったが。病院に行った帰りに夏祭りに寄ったその前後で曖昧になっているようだ。
 体が本調子でないのか、うとうととした様子を見せ始めたので、聞き取りはそこまでにして寝かせたのだが。
 しかし……

「あの筋肉マンがまさかそういう風になるとは……」

 何というか感覚が麻痺してあまり驚きも感じなくなっているのはまずいだろうか。
 やれやれといった感情しか湧き上がってこない。疲れてるなあと感じる。
 ソファに座る。自分で肩を揉みながら、何となくうつむいていると、後ろから頭に手が乗った。
 ぽすぽすと手がはねる。

「ティーダ、髪が乱れる」
「ん、何となくね」

 ……まったくもってやれやれである。
 やがて寝室に行っていたシャルードさんが、もう一方の少年の手を引いてリビングに姿を見せた。

「あ、起きたんだ」

 覚えてる? と手を振ってみると釣られて手を振り返す。
 ハッと気付いたかのような表情になると慌てた様子になった。

「そ、そうだ、神が何か転生させてくれるって言って……ええと、何この状況」

 どうやら、間際になってかっ攫った私の容姿などは覚えてないらしかった。いや、誘拐犯とかそんな認識で覚えられてても嫌なんだけども。
 ひとまず落ち着かせようと、コーヒーミルクを差し出した。
 大人しくストローで飲み出したところで、気を取り直し事情を聞いてみると、少年はどうも普通の中学生らしく、塾の帰りに気が遠くなったと思ったら神様が土下座していたとか。
 そんな事を口で説明していくうちに恥ずかしくなってきたのか、最後の方はちょっとモゴモゴしていたけども。
 どうやら自分でも言っていて曖昧な気分になってきたようだった。
 シャルードさんはそれを聞くと、うんうんと頷き。

「今の子は習い事ばかりで大変だもんね、自分で判ってないだけで疲れてたんじゃないかな?」

 と、誤魔化しにかかった。
 ……確かにありのままに伝えてしまえば、危険とも言えるし……いや、シャルードさんの事だから私が想像してるものとは別種の危険性も感じているのかもしれない。段々わかってきたが、この人、腹の中を読ませないタイプのようだ。軽い口調に騙されると痛い目を見そうでもある。
 そんな脱線した事を私が考えていると、いつの間にか話は私達の事に及んでいた。
 何でも日本人と結婚したシャルードさん。その故郷の友達である私とティーダが日本を訪れ、観光がてら歩き回っていたところ、寒空の中ベンチに寝込んでいる少年を見つけ、ひとまず目的地でもあったシャルードさんの家に運び入れた。なんてことになっていた。

「日本は警察がしっかりしてるんだから、預ければ良かっただけなのにね。この子たちはあまり日本のこと詳しくないから……ごめんね?」

 立て板に水を流すようなその調子にすっかり流されてしまったのか、いつしか少年自身も変な夢でも見ていたのだろうと思い始めたようである。

「それと、悪いとは思ったけど、携帯を少し見せてもらったわ。もうバッテリが切れてしまったようだけど、着信履歴を見ると昨晩の10時頃あたりから連絡がとれなくなってるみたい。ご両親には早く連絡して安心させてあげる事ね。と……さて、ティーノ、ティーダ、あたしはこの子を駅に送ってくるから留守番お願いね」

 どこからか取り出してきたコートと帽子を着込んで、一見、髪を染めた現代人に見えなくも……ない格好となる。
 少年の手を引いて、私達に留守番を頼み出かけていった。
 扉が閉まったのを見計らうと、にこにこと手を振っていたティーダがこちらを向き直る。

「で、結局どういう事になったんだい?」

 翻訳魔法の使えないティーダは当然ながら先程の推移が全く飲み込めていなかった。

   ◇

 ティーダに先程の少年の事について説明も終わった頃、シャルードさんが帰って来た。
 駅に近い場所なのか、15分もかかっていなかったのだが。

「ところで、ビスマルク……いや、ええと為友くんの事はどうしようか?」

 私はシャルードさんが多分無意識に避けているだろう話題を持ち出した。寝室でスヤスヤと眠っているだろうけども。彼をどうするかという事について正直良い考えが浮かばない。
 シャルードさんは少し眉根を寄せた。
 そうね、と顎に指を当てて一つ二つ叩く。しばし考える仕草を見せ、目を軽くつむって言った。

「管理局側としても判断が難しいところでしょうけど、ある意味ビスマルクという個人はもう居ないの。いるのは元よりこの世界に居る少年。親御さんもいるでしょうし、戻していくしかないでしょう」

 ティーダにも確認するように見ると肩を一つすくめた。

「僕もそれしかないと思うよ。ただ、一つ。管理局云々の前に大事な事を忘れてるかもしれない」

 疑問を浮かべてティーダを見ると呆れたように息を吐いた。

「帰る手段を忘れてないかい?」
「……あっ」

 今の驚きの声は私ではない。シャルードさんだった。
 いや待てあんた。道が塞がるからとか言って変な剣刺してなかったか? 何となく復路も大丈夫だろうって思ってたのに。

「え、えと、シャルードさん、もしかして考えてなかったとか?」
「ま、まさかそんな。理論的にも私の能力的にもばっちり可能よ。あはは。ただそのちょっと……魔力がね」

 昨夜の転移の時から危ぶんでいたんだ、とティーダは頭が痛そうにこめかみに指を当てる。
 あわあわしていたシャルードさんは、そうだ! と、良いこと考えたとでも言いたげに手をぱんと鳴らした。

「何か閃いたのドク!」
「誰が時を超える車の発明者か」

 一応ツッコんでくれた。
 そして次に言った一言はとんでもない言葉で……

「あんた達ちょっと性交しなさい」

 ──げほ。
咳き込んでしまった。
 待て待て待て、何でそこでそうなる。意味判らん、ティーダだって口あんぐり開けて呆れてるでしょうが。

「そんな顔しないの。説明してあげるから」

 表情を引き締め、真面目な顔になり言う。

「古来より性交を通じて神秘に触れようという技はそれこそ幾らでも挙げられるでしょ。例えば日本においては真言立川流、西欧の黒魔術には必ずといっていいほど悪魔との性交なんてものが登場するわね。神秘と言ってもミッドにおいては魔法はシステム化されているから一見そうとは思われないけど、その原理部分はひどく曖昧なのよ」

 儀式魔法に代表されるそれね。と言って一息つく。

「私が目をつけたのは取り込んだ魔力素が、人の持つ欲求や感情の高ぶりに応じてその密度の限界値が高まることよ。覚えがあるでしょう?」

 た、確かに強い魔導師は感情を殺すのではなく味方につける、なんて言う人もいる。ただの魔力弾も感情次第では非常に威力の高い魔力弾にもなるということだろうか。

「そして人がもっとも感情を爆発させるのが言ってみれば性行為。最も昂ぶった時こそ、一番魔力密度も高まっている状態なわけよ」

 そんな所はオカルトも魔法学もあまり変わらない所ね、と言い……おもむろに。私を指さし。

「そんなわけで、ティーダ君。襲っちゃいなさい、最高値に達したところでその魔力を用いて魔力供給。帰還に充てるとするわ」

 などとおっしゃった。
 私はぎぎぃと後ろを振り向くとティーダと目が合う。
 再びぎぎぃと振り向いてシャルードさんに向かい直し。

「ほ、他の手段は?」
「有ったら言ってるわよ、少なくとも年単位の準備が必要になるし、もっとも現実的な方法なの。さて……邪魔にならないように寝室行ってるからゆっくりね」

 そう言って引っ込んでしまった。
 部屋に二人で取り残される。
 外はまだ明るいというのに何でまた、いやそんな問題では。

「ティーノ……」

 呼ぶ声に私は思わず肩をすくめた。
ひゅ……などと息を飲む声がしてしまった。
 向き直るとソファから立ち上がり、ゆっくり近づいてくるティーダが居る。
 私の隣に静かに腰を降ろした。こちらを見て困ったような表情になる。

「これは……どうしようか」

 目が合った。
 見るな、見るな。
 そんな仕方無いんだみたいな目で見るな。

「あ……」

 何か言おうとしたが声が出ない。
 心臓が煩わしいくらいにうるさい。
 手を伸ばしてきた。
 肩に回され、ゆっくり、ゆっくり引き寄せられる。
 私は硬直してしまって体が動かない。

「ティーノ、こんな形だけど僕は……」

 いつしか、ティーダに半分抱きしめられるような形になっていて……

 ──ふと視界の端にドアの隙間からニヤニヤと笑っているシャルードさんと、その下に、起き出したのか為友くんの顔が見えた。何とわくわくした顔をしていることだろうか。
 シャルードさんと目が合うと、口の形が「う・そ」と動いた。

「う……」

 自分の目が文字通りカッと見開く感覚を覚える。

「ううあああだらああああああああッ!」

 今なら超ラエル人にもなれそうである。私は悶絶ものの羞恥心だか怒りだかなんだか判らない感情がこみ上げ、叫びをあげるのだった。


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