<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

チラシの裏SS投稿掲示板


[広告]


No.34349の一覧
[0] 道行き見えないトリッパー(リリカルなのは・TS要素・オリ主)本編終了[ガビアル](2012/09/15 03:09)
[1] プロローグ[ガビアル](2012/08/04 01:23)
[2] 序章 一話[ガビアル](2012/08/05 12:22)
[3] 序章 二話[ガビアル](2012/08/05 12:23)
[4] 序章 三話[ガビアル](2012/08/05 12:23)
[5] 序章 四話[ガビアル](2012/08/05 12:23)
[6] 幕間一[ガビアル](2012/08/05 12:24)
[7] 一章 一話[ガビアル](2012/08/05 12:32)
[8] 一章 二話[ガビアル](2012/08/05 12:33)
[9] 一章 三話[ガビアル](2012/08/05 12:34)
[10] 一章 四話[ガビアル](2012/08/05 19:53)
[11] 一章 五話[ガビアル](2012/08/05 12:35)
[12] 幕間二[ガビアル](2012/08/06 20:07)
[13] 一章 六話[ガビアル](2012/08/06 20:08)
[14] 一章 七話[ガビアル](2012/08/06 20:08)
[15] 一章 八話[ガビアル](2012/08/06 20:09)
[16] 一章 九話[ガビアル](2012/08/06 20:10)
[17] 一章 十話[ガビアル](2012/08/06 20:11)
[18] 幕間三[ガビアル](2012/08/09 19:12)
[19] 一章 十一話[ガビアル](2012/08/09 19:13)
[20] 一章 十二話[ガビアル](2012/08/09 19:13)
[21] 一章 十三話[ガビアル](2012/08/09 19:14)
[22] 幕間四[ガビアル](2012/08/13 19:01)
[23] 二章 一話[ガビアル](2012/08/13 19:02)
[24] 二章 二話[ガビアル](2012/08/13 19:02)
[25] 二章 三話[ガビアル](2012/08/13 19:03)
[26] 二章 四話[ガビアル](2012/08/13 19:03)
[27] 幕間五[ガビアル](2012/08/16 21:58)
[28] 二章 五話[ガビアル](2012/08/16 21:59)
[29] 二章 六話[ガビアル](2012/08/16 22:00)
[30] 二章 七話[ガビアル](2012/08/16 22:00)
[31] 二章 八話[ガビアル](2012/08/16 22:01)
[32] 二章 九話[ガビアル](2012/08/21 18:59)
[33] 二章 十話[ガビアル](2012/08/21 18:56)
[34] 二章 十一話[ガビアル](2012/08/21 18:59)
[35] 二章 十二話[ガビアル](2012/08/21 19:00)
[36] 二章 十三話[ガビアル](2012/08/21 19:00)
[37] 二章 十四話[ガビアル](2012/08/21 19:01)
[38] 二章 十五話[ガビアル](2012/08/21 19:01)
[39] 二章 十六話[ガビアル](2012/08/21 19:02)
[40] 二章 十七話[ガビアル](2012/08/21 19:02)
[41] 二章 十八話[ガビアル](2012/08/21 19:03)
[42] 二章 十九話[ガビアル](2012/08/21 19:03)
[43] 三章 一話[ガビアル](2012/08/29 20:26)
[44] 三章 二話[ガビアル](2012/08/29 20:27)
[45] 三章 三話[ガビアル](2012/08/29 20:27)
[46] 三章 四話[ガビアル](2012/08/29 20:28)
[47] 三章 五話[ガビアル](2012/08/29 20:28)
[48] 三章 六話[ガビアル](2012/08/29 20:29)
[49] 三章 七話[ガビアル](2012/08/29 20:29)
[50] 三章 八話[ガビアル](2012/08/29 20:29)
[51] 三章 九話[ガビアル](2012/09/05 03:24)
[52] 三章 十話[ガビアル](2012/09/05 03:25)
[53] 三章 十一話[ガビアル](2012/09/05 03:26)
[54] 三章 十二話[ガビアル](2012/09/05 03:26)
[55] 三章 十三話[ガビアル](2012/09/05 03:28)
[56] 三章 十四話(本編終了)[ガビアル](2012/09/15 02:32)
[57] 外伝一 ある転生者の困惑(上)[ガビアル](2012/09/15 02:33)
[58] 外伝二 ある転生者の困惑(下)[ガビアル](2012/09/15 02:34)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[34349] 二章 八話
Name: ガビアル◆dca06b2b ID:8f866ccf 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/08/16 22:01
「起きたかい?」

 事務室に置いてあったものだけど、とインスタントコーヒーを淹れてくれた。
 辺りはすっかり暗くなったようだが、潜伏のために灯りも抑えているようだ。ほのかな暖色に照らされるコーヒーが妙に美味そうに見える。
 私は受け取って一口。

「にっぐぁ……」
「目は覚めるだろう?」

 そりゃ覚めるが……どこのコーヒーなのだろうか。口の中で苦さがクーデターでも起こしたかと思った。
 私は大慌てでティーダが差し出してきたミルクとコーヒーを多量に放り込む。
 やっとそれなりに飲める味になった。一体どこのインスタントコーヒーだ……
 ちまちまとその苦み革命のコーヒーを飲んでいると姫様も起きてきた。
 くあ、と欠伸する姿すらサマになっている。すごい自然な動作だったので、一瞬遅れて感心してしまった。さすが王族と言ったところだろうか。

「おはようございます、ナティーシア様。体の具合の方はよろしいですか?」

 ティーダが声をかけると、姫様は一つ二つまばたきをすると、まあ、と消え入るようにつぶやき、恥ずかしげに頷いた。

「それはよかった。運も絡んでくるのですが、あと一日もしないうちに安全な場所まで行けると思います。どうか、ご安心ください」
「ふふ、それはもう。私の心は頼りになる騎士様のおかげで最初から安らいでいますわ」

 未だ眠そうなとろんとした眼差しをさらに細めてにっこりと笑う。ティーダは照れた様子で頬を掻いた。少々顔が赤くなっている。

「ふ、二人とも起きたようなので、ちょっと偵察がてら食料でも調達してきます、ティーノ、しばらくここを頼むよ」

 照れを誤魔化すかのようにそう言って出て行く。
 お気を付けて-、と手を振って見送る姫様。
 ところでティーノ、と柔和な表情のまま私を振り返った。

「お手水はどこかしら?」

 よくよく見れば柔和な笑みのままだが、冷や汗が伝っていた。
 も、もしかして、我慢していたのだろうか? おいおい、いつからだよ……
 私は別の意味で姫様の意地に対して冷や汗が流れてきそうだった。

 ──些細な用を済ましたのち、。
 姫様は飲みかけのコーヒーに興味津々だったのだが、さすがにあの苦味成分が盛大に謝肉祭を行っているような飲み物を出すわけにもいかない。
 お湯に携帯食として買ってあったチョコレートを溶かしてホットチョコを作って出しておく。
 私が出した紙コップのそれを子供のような好奇心でもって嬉しげに受け取る。一口舐めて甘さに表情をほころばせると、私に向かって言った。

「ティーノは変に思うかもしれませんね。でも私はこんな事態になって、少々興奮しているのです。ろくに外に出た事もない姫がお供を連れての冒険譚。そんなお話でしか知ることがなかった事を今私が体験していると思うと……」

 それと、と目を伏せて少し恥ずかしげに口に出す。

「姫とお付きの騎士様との物語もまた、素敵なものだと思いませんか」

 いや……その同意を求められても……ねえ?
 な、なんと答えればいいんだ、この場合。肯定しておけばいいのか? えーと……

「そ、そうですね、素敵だとおもいまふ」

 私は何でか姫様を直視できなかった。いや、あまりに姫様が真っ直ぐこちらを見てくるもので……思わず目を逸らしてしまった。なんでそんなにまじまじと……
 そんな私に何か思うところあったのか、姫様はまた柔和な笑みに戻ると、胸の前でぽんと手を合わせた。

「ティーノ、体を拭いてあげましょう」
「え、ええ!? いえ、それはちょっと何で突然?」

 話の脈絡をぶった切るどころの話ではない。なんでそんな思考に行ってしまわれたのか。
 私があわあわしている間にその姫様は高貴なる身分にあるまじき素早さでバッグの中からタオルを引っ張り出してきた。意外に手慣れた様子でポットのお湯をタオルにかけて馴染ませる。

「さあ、観念なさい。ふふ、私も一度拭く側になってみたかったのです。それにほら、こんなに泥だらけではないですか」
「ま、ちょっと待って姫様……」

 そういえば、町に入る前に適当に川の水で汚れ落としただけだったけども。
 にじりよる姫様に私は戦慄を覚えざるを得ない。こんなにアグレッシブだったか?

「こんな時あなたの故郷では確かこう言うのでしたね。さあ、良いではないか良いではないか!」
「あーれー!」

 あ、いかん、途中からノってしまった。私がちょっと話しただけの悪代官ネタを覚えているなんて……
 力一杯抵抗するわけにもいかず、見事にひん剥かれて恐れ多くも姫様自らの手で清められてしまうのだった。

 小柄な私は、均整の取れている姫様より頭一つ分小さい。
 椅子に座っている私の髪についた汚れなどを姫様が丁寧に拭き取ってくれている。
 さすがに少々落ち着かないものを覚えるのだが、もう好きなようにして、といった具合である。
 ただ、一応私は護衛として配されたのである。どちらかというと管理局から派遣された侍女のようなもんとはいえ、一言釘は刺しておく。

「姫様、この状況でも明るいのは結構なのですが、追われている身の上であることを忘れないでくださいね」
「ティーノは可愛い見た目に反して、そういう部分は厳しいのね。まるでマルグリット伯爵夫人みたいですよ」

 姫様の作法の教師役である人を引き合いに出されるとは私も偉くなったものである。
 ……小太りのお婆さんなのだけどね。マルグリット夫人。やたら私を子供扱いして飴ちゃんをくれる大阪のおばちゃんのような人である。美味しいから別にいいのだが。
 しかし、このお姫様、本当に事態を判っているのだろうか。

「……敵方に捕らえられればどうなるかも知れませんよ? それに先の戦闘でも一歩間違えれば命に関わっていたかもしれなかったんです。相手側も加減はしていたようですが」

 私がそう言うと、拭き終わった髪をいじっていた手が止まった。なんだか髪を束ねて引っ張られる感じがする。三つ編みでもされているらしい。
 何となく振り返ろうとすると頭を抑えられる。再び手を動かし始めた。

「覚悟を問うているならとうに。これでも王族のはしくれですもの。それに私は……」

 ふと何かを言いかけたようだったが、それ以上の言葉は出てこなかった。
 無言で私の髪を編み続け、終端まで出来上がるとゆるく団子状にまとめて、バレッタで留めた。

「できあがり。さ、ティーノこっちを向いて」

 姫様の方に向き直る。普段はあまりこういう髪型にはしないのだが、これもいいかもしれない。頭が軽い。

「前髪は少し横に流しましょうか、あら、こんなところにも汚れが……」

 そう言って額を拭う。気分はもうすっかり姫様のお人形さんと言ったところである。
 そんな事をしながら何気ない調子で口を開いた。

「ところでティーノはティーダ様の事をどう思っているのかしら」
「……どうと言われましても……友達?」
「ふふ、誤魔化しはいけませんよ」

 にこやかに笑いながら私の頬をつつく。
 と言われても、だな。うん。正直その手の話は勘弁してほしい。このお姫様、私に何を求めているのか……

「あら? あら?」

 頬をつつくつつく。いやええと……

「あら、何この新感覚……絶妙すぎる弾力。ティーノあなた、すごいほっぺたを持っているのね」

 何か琴線に触れたらしい。10分ほども頬をつつかれた。私にはお姫様の頭の中がよく判らないよ。
 その後も微妙にストロベリーな会話を姫様に振られ続け、たじたじになる私といった構図があったのだが、それは置いておく。思い出したくない思い出したくない。
 駄目だ、姫様のペースに巻き込まれると私の頭の中まで苺色になってしまいそうになる。そしてこのあうあう言ってる自分は誰なのか。こんなの私じゃない。私であるはずがない。

「……ちょ、ちょっと外を見張りにに行って参りますす」

 あら逃げられちゃった、というつぶやきを背中で聞き流し、私はその場を退散した……言葉がどもったのは仕方無いと思う。ずんずんと出口まで歩いていった時だった。

「おおっ!」」
「うぇ? ティーダ!?」

 丁度飛び込んできたティーダとバッティングしてしまった。オヤクソクかよ、と頭のどこかで私は突っ込む声がした。しかしどうも、先程まで変なトークを吹き込まれていたせいで、非常に何だ、困る。
 私は軽い混乱を起こしていたのだが、ティーダの血相の変わった顔を見て思考が冷えた。
 これはやばい。短いアイコンタクトを取った後、慌てて荷物を回収し、ぽんやりといった擬音が似合いそうな顔の姫様の手を掴んで、非常口に向かう。まだ人の気配はしてこないが。
 私が先頭で警戒しながら進み、後ろをティーダが固める形で町の裏路地に出た。逃走用の経路としてティーダに説明されていた道だった。幾つも分岐のある入り組んだ道をティーダのナビで、姫様の足に合わせてだが、足早に歩く。

「……ッ」

 私は物音を聞きつけ、立ち止まった。何事か言いそうになる姫様の口を塞いで、口元に指を持っていき、静かに、と身振りで伝える。
 聞きつけた音……足音か、それは段々大きくなった。
 今進んでいる道の幅は3メートルほど、樽や木箱などが無造作に風雨にさらされている、明るい月明かりのおかげで視界は悪くない。今なら引き返すこともできるが、どうするか。
 私が目で判断を促すと、察したティーダは素早くミラージュハイドを使った。姫様と私を引き寄せ、姿を隠す。建物の建物の間の狭い隙間に身を潜め、様子を伺った。
 空気読まない事で定評のある姫様が相変わらずティーダに密着している。いやちょっと、怖がった振りして手を胸元に引き寄せてって……おい、色仕掛けか、色仕掛けに入るのか!
 待て……何やってんだ私は。何でそんなので一々揺らされないといけないのだ。
 頭を振って雑念を振り払う。大体今はそんな事やってる場合じゃないだろうに。ティーダだって困惑気味に……していないな。年頃だし仕方無いのか? 真剣な表情を作るのに失敗して口の端がにやついているぞ? ふざけてるのか? 緊急時に。ええ?
 そんな、シリアスを完全に欠いたこちらの事情はともかく、足音は段々近くなってきた。
 向こうの曲り角から写真だろうか、紙切れを手にした少年が首をひねりながら歩いてきた。
 少年と言っても、15,6歳くらいだろうか。私やティーダより一回り上の年齢のようだ。日に焼けた赤銅色の肌に真っ黒の髪を短くざっくり切ってあった。
 黒のズボンにプリントTシャツ、上にベストを羽織り、ところどころにアクセサリーがついていた。今までの敵兵の姿を見慣れていた私にとっては、大分奇抜な格好である。というかこの世界の人っぽくない。
 
「ったく、同じような道有りすぎだっつうの。ゴドルフィンの連中も、面倒な仕事押しつけやがって……」

 と、ぶつぶつとぼやいている。もちろん小声で普通なら聞こえない程度である。私も雑踏の中での言葉だったら聞き逃していただろう。
 少年はジャケットのポケットに手を突っ込むと携帯用のスキットルを取り出し、口をつけた。喉を鳴らして飲む。酒か? 良いのか未成年……いかんブーメランを投げた気がする。

「ぷあー、下ッぱが働いてる時の一杯は最高だわ」

 最低だな! 下っぱ職員の私は内心で激しくツッコミを入れた。
 いや、個人的感想はともかく、あまりやる気のない感じではある。
 隠れている私達には気付かない様子で、ぶらぶらと通り過ぎてくれそうだった。
 電子音が突如響いた。少年が腰につけていた通信機に手を伸ばした。部下と言うからには探索隊を率いている立場なのだろうけど、念話はどうしたのだろうか。そんな事を思いながら聞き耳を立てていると、どうも、先程まで潜伏していた倉庫を発見されたようだった。もぬけの空であるとの報告を受けている。

「すでに動いてるらしいなあ、各分隊は最初決めた通りの位置で封鎖しろ。管理局の魔導師はお前らが思っているより数倍は強ぇからな、間違っても正面からブッ倒そうなんて考えんなよ。見つけたら連絡だ。俺が行くまで防御に専念して待ってろ」

 そう言って、通信機のスイッチをいじったのち、少年は何故か大きくため息をついた。幸せが大量に逃げていきそうなため息だ。

「つってもあいつら勝手に動くんだろうなあ……預かってるこっちの身にもなってくれっつうの」

 ああ、もうやだ仕事やだ。とつぶやき、再びため息を吐くと、一拍置いて顔を上げた。つられて私も見上げる。地球から見る月にも似ている三日月が夜空に見えた。
 しばし少年は目を細めてそれを見、またスキットルを取り出すと一つ口に含み、味わうように口の中でくゆらせた。
 月見酒ってのも乙だねえ、などとひたっている少年をゆっくり動いてやり過ごし、もう大丈夫だろうという場所でティーダが魔法を解く。

「ゴドルフィンと言うのは多分、ヴェンチア・ゴドルフィン将軍のことだろう」

 聞き取れた事をティーダにも話すと、そんな答えが返ってきた。
 この世界に来てから判明してきた人物でもある。前もって共和政府と非合法組織とのつながりは確認されていたが、共和政府内でその関係を繋いでいるのがその将軍であろうと目されている。
 しばし黙考し、何か考えていたティーダだったが、やがて顔を上げた。

「行こう、予測通りなら今は相当に手薄なはずだ」

 何を予測したかは後で聞かせてもらうとしても、こういう時のティーダは頼りになる。私達は再び移動を始めた。

   ◇

 ティーダが言った通り、実にあっさりと町を抜けることができた。先の年の若い隊長君の指示だと部隊配置はされていたはずだったのだが、一度も会わずに出る事に成功した。
 月明かりに照らされた石造りの街道を歩く。すでに追われた町が見えなくなってから一時間といったところだろうか。
 姫様は今、ティーダの背中で眠ってしまっていた。力馬鹿の私が背負った方が本当は効率がいいのだが、私のちんまい体では姫様が安心できないだろう。

「ところで、なんで手薄って判断したんだ?」

 私は気になっていた事を聞いてみた。
 ティーダは、んー、と言葉を整理するようにちょっと目を上に動かし、話しだす。

「町ですれ違った隊長らしき彼が手に持っていた紙があっただろう」

 ん、そういえば、と私は相づちを打って返す。

「目で追っていたんだけどね、あれはどうやら風景のスケッチ、しかもかなり精細なあの付近の風景だった」
「あー、私は聞く方に集中しちゃったけど、ティーダは見ていたのか。でも風景?」

 うん、と一つ頷くティーダ。

「そこから、敵兵の配置された場所が特定できたんだ。さらにもう一つ、その隊長である彼のつぶやきから、ある程度の人員の予測もできた。まだ大まかな推測でしかないけど」
「ごめん……そういう謎々話はクロノんとチェスでもやってる時に話して……それで結論としては?」

 ちょっと語りたかったらしい。
 ティーダは不満げに口をとがらせた。
 ……妙なところで子供っぽい奴である。しかし何故だろうか、私は自分が軽い笑みを浮かべているのに気付いた。むむ。
 ともあれ過程を盛大にはしょってティーダの予測というものを聞かせてもらった。

「まず、グレアム提督が前線を動かした可能性が高いというのが一つ。それと検知されにくいサーチャーか何か、こちらからは把握できない視覚情報に頼った手段で行方を特定されているようだね。こちらの対処には何通りか考えがある」

 ……結論だけ言えば良いとか、使えない上司のような事を言ったのは私だが、ありえん。街中でちょっと1、2秒立ち止まって考えただけでそんな予測立ててしまうとか。というか、聞かされても過程がさっぱり判らない。どこをどう推測してそんな結論になった。いや、それを元に逃走経路を導きだすところまでやってるわけで。スペックの違いに笑いしか出てこない。ちょっと今度爪の垢でも貰って煎じてみようか?

「ティーノ? どうしたんだい急に」

 押し黙ってしまった私に怪訝な顔で聞いてくる。
 お前と組んでいると自分がアホの子に見えて仕方ないんだよ……
 私は片手で額をごんごん小突いた。ネガティヴ思考は今はいらないのだ。

「それで、魔力探知が主流じゃないならむしろ姫様抱えて飛んでいく?」

 ティーダはいや、と首を振った。

「どのみち姫様を連れた状態で高速での飛行は出来ないし、やはり目立つしね。相手側にも空士が居るわけだから、一度捕捉されればまずいことになる。どこかで車をまた調達して行こう。」

 方針を決め、近い集落への歩みを進める。ティーダの背中の姫様が妙な夢でも見たのか、唐突に首筋に噛みついた。私はこれまで見た中でも最大級のティーダの変顔を目撃することになった。叫びたいけど叫べないような、大きく開いた口の端がびくびくしている。
 まじまじとティーダを見つめる。はっとして慌てて取り繕ったのち、決まり悪げに赤くなって目を逸らす。
 ……記録しておけばよかった。

 その後はこれまでの苦労が何だったのかと言うくらいに、苦労もなく進むことができた。
 何でも視覚では特定されにくいように同じようなパターンの多い道筋を選んで進んでいるのだとか。時折、思い出したようにミラージュハイドをかけて移動をしてみたりなどもしている。まるでかくれんぼでもしているかのようだった。

「人口の多い都市にでも行って、辺り構わず幻術魔法で住民の顔を姫様そっくりにしてしまうのも手かもしれないね。攪乱は出来そうだ」
「まあ、私がたくさん町を出歩いてしまう事になるのですね」

 その様子でも想像してしまったのか、姫様がころころと笑う。
 いやいや、非常時とはいえ、そこまで幻術魔法を乱用すると罰せられる。さすがにそれは冗談だったのだが。
 途中で車を調達するときなどはさらに冗談めいた事をしていた。
 集落の村長らしき家を訪ねた時の事である。
 ティーダは自分を幻術魔法で見た目50代のお金持ちのように見せ、急いでいるのに車が故障してしまって困っているという設定で車の個人売買を持ちかけたのだ。
 傍らには園遊会の時の衣装を着直した姫様と、侍女姿で付き従う私も居る。

「お父様、早くしないとデヒア侯爵のせっかくのお招きに遅れてしまいますわ。ドゥジュール公子とも約束していましたのに、ああ、どうしましょう……」
「おお、ティーシアや、そんなに嘆くでないよ。何、共和制となってもこの土地の民は侯爵に敬意を払っていると聞く。すぐに話はまとまるだろうから、さ、もう少し我慢していておくれ」

 とまあ、姫様が娘役である。この土地一帯は長くデヒア侯爵領だったらしく、ここ10年で規模が縮小したものの未だその影響力は大きいという。ちなみに村長の顔色はというと、何ともかんとも。疫病神共があああああ! と全力で主張している。断っても本当に侯爵の賓客などであれば後が怖く、頷けば無事に車が戻ってくるか判ったものではない。
 いや実際厄介事を持ち込んでいるのは確かなので、ホント申し訳ないのだが、王家から後で補償されることは間違いない。そこは勘弁してほしいのだった。
 10分もした後には紙切れ一枚で買い付けた車を走らせるティーダが居た。

「やりましたわねお父様!」
「おお、我が娘や。父はどうやら詐欺師にも向いているようだぞ」
「ちょっと待てや管理局員!」

 思わず突っ込んでしまった私を二人で、うちの侍女は堅いなあ、堅いですわねー、などと言っている。
 いつまで続けるつもりなのだろうかこのお二方は。
 穏やかなくせに実は騙したり罠に嵌めたりが大好きなティーダは判るけど、姫様もそうノリノリになるとは。いやこの姫様はこんな感じだったのかもしれない。印象がぶれてきた。
 私はふっと浮かんだので、ついでといった感じで尋ねてみる。

「そういえばさらっと運転してるけど、ティーダ。管理局の運転免許いつ取って……?」
「……講習は受けたよ?」

 とても不安な答えが返ってきたのだった。

 再び車を手に入れてからは早かった。さすがにティーダも疲労が溜まっている様子だったので、途中で少し小休止を挟んだものの、あと数時間もすれば国境付近まで行けそうである。
 今回乗っている車の形は前回のようなごっつい形ではなく、村長がいかにも趣味で乗っていそうな車だった。そう、私の世界のフィアット500という名前で呼ばれる車に酷似したデザインである。車体の色はバニライエローだった。正直これで逃亡すると絶対にピンチに陥りそうな気がしてならない。銃を撃ちながらどこまでも追って来るとっつぁんは勘弁なのだが。いや、そんなのはこの場では私しか判らないネタだけども。しかし、お姫様を乗せてたりもするので、ますますなんだかなあと言ったところではある。

「あ、あれ? とすると私の役柄は五ェ門? う、うむ……ちょっといいかも……」
「ティーノ、ティーノ、拷問とか物騒な事をつぶやいてないで、にやにや笑いながらその言葉は少し怖いよ?」

 後部座席の私も、バックミラーで見られていたらしい。それと拷問違う、ものすごい勘違いされてる。
 いや、ちょっとそれ勘違いだから、と言い出すより先に姫様が反応した。

「あら、ティーノはそういう趣味かしら? 王家の秘密の蔵書を読んでみる? ふふ、その手の話には事欠かないのですよ」

 ひいい……

「な、ないですええ。そそ、そういう趣味じゃないですから、いやほんと」
「あら、残念」

 三日は眠れなくなること請け合いなのに。なんて口を尖らせて言わないでほしい。
 長く続いた王家の暗部とかもう怖すぎて読む気が失せるのだ。痛くて怖い話は勘弁してほしいのだった。
 そんなふざけるような余裕すらでき、時折、偽装のためか妙な迂回路をとったりしながらも私達は国境に順調に近づいていくのだった。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.042688846588135