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No.34349の一覧
[0] 道行き見えないトリッパー(リリカルなのは・TS要素・オリ主)本編終了[ガビアル](2012/09/15 03:09)
[1] プロローグ[ガビアル](2012/08/04 01:23)
[2] 序章 一話[ガビアル](2012/08/05 12:22)
[3] 序章 二話[ガビアル](2012/08/05 12:23)
[4] 序章 三話[ガビアル](2012/08/05 12:23)
[5] 序章 四話[ガビアル](2012/08/05 12:23)
[6] 幕間一[ガビアル](2012/08/05 12:24)
[7] 一章 一話[ガビアル](2012/08/05 12:32)
[8] 一章 二話[ガビアル](2012/08/05 12:33)
[9] 一章 三話[ガビアル](2012/08/05 12:34)
[10] 一章 四話[ガビアル](2012/08/05 19:53)
[11] 一章 五話[ガビアル](2012/08/05 12:35)
[12] 幕間二[ガビアル](2012/08/06 20:07)
[13] 一章 六話[ガビアル](2012/08/06 20:08)
[14] 一章 七話[ガビアル](2012/08/06 20:08)
[15] 一章 八話[ガビアル](2012/08/06 20:09)
[16] 一章 九話[ガビアル](2012/08/06 20:10)
[17] 一章 十話[ガビアル](2012/08/06 20:11)
[18] 幕間三[ガビアル](2012/08/09 19:12)
[19] 一章 十一話[ガビアル](2012/08/09 19:13)
[20] 一章 十二話[ガビアル](2012/08/09 19:13)
[21] 一章 十三話[ガビアル](2012/08/09 19:14)
[22] 幕間四[ガビアル](2012/08/13 19:01)
[23] 二章 一話[ガビアル](2012/08/13 19:02)
[24] 二章 二話[ガビアル](2012/08/13 19:02)
[25] 二章 三話[ガビアル](2012/08/13 19:03)
[26] 二章 四話[ガビアル](2012/08/13 19:03)
[27] 幕間五[ガビアル](2012/08/16 21:58)
[28] 二章 五話[ガビアル](2012/08/16 21:59)
[29] 二章 六話[ガビアル](2012/08/16 22:00)
[30] 二章 七話[ガビアル](2012/08/16 22:00)
[31] 二章 八話[ガビアル](2012/08/16 22:01)
[32] 二章 九話[ガビアル](2012/08/21 18:59)
[33] 二章 十話[ガビアル](2012/08/21 18:56)
[34] 二章 十一話[ガビアル](2012/08/21 18:59)
[35] 二章 十二話[ガビアル](2012/08/21 19:00)
[36] 二章 十三話[ガビアル](2012/08/21 19:00)
[37] 二章 十四話[ガビアル](2012/08/21 19:01)
[38] 二章 十五話[ガビアル](2012/08/21 19:01)
[39] 二章 十六話[ガビアル](2012/08/21 19:02)
[40] 二章 十七話[ガビアル](2012/08/21 19:02)
[41] 二章 十八話[ガビアル](2012/08/21 19:03)
[42] 二章 十九話[ガビアル](2012/08/21 19:03)
[43] 三章 一話[ガビアル](2012/08/29 20:26)
[44] 三章 二話[ガビアル](2012/08/29 20:27)
[45] 三章 三話[ガビアル](2012/08/29 20:27)
[46] 三章 四話[ガビアル](2012/08/29 20:28)
[47] 三章 五話[ガビアル](2012/08/29 20:28)
[48] 三章 六話[ガビアル](2012/08/29 20:29)
[49] 三章 七話[ガビアル](2012/08/29 20:29)
[50] 三章 八話[ガビアル](2012/08/29 20:29)
[51] 三章 九話[ガビアル](2012/09/05 03:24)
[52] 三章 十話[ガビアル](2012/09/05 03:25)
[53] 三章 十一話[ガビアル](2012/09/05 03:26)
[54] 三章 十二話[ガビアル](2012/09/05 03:26)
[55] 三章 十三話[ガビアル](2012/09/05 03:28)
[56] 三章 十四話(本編終了)[ガビアル](2012/09/15 02:32)
[57] 外伝一 ある転生者の困惑(上)[ガビアル](2012/09/15 02:33)
[58] 外伝二 ある転生者の困惑(下)[ガビアル](2012/09/15 02:34)
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[34349] 二章 七話
Name: ガビアル◆dca06b2b ID:8f866ccf 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/08/16 22:00
 転移魔法だったのだろうか。
 あるいは何かのレアスキルなのだろうか。
 私はしばし呆然としてしまった。

 地球でカーリナ姉からいろいろ聞いている身としては咄嗟にレアスキルなんて可能性も考えてしまう。本来そうぽんぽんいるはずがないのに。
 いや、そもそもこの世界は座標位置の特定を妨げる力場が常に放射されていて、転移系は非常に使いにくくなっていたはず。むしろそちらの方が説明は付きやすい……か?
 転移させられた先は深い森だった。同じくティーダとナティーシア王女も転移させられている。護衛としちゃ失態も良いところだが、私とティーダがくっついてきた分、最悪よりはちょっとマシと言えるかもしれない。
 ティーダと相談し、探知を避けるために極力魔法を使わないようにして、夜目の利く私が周囲を哨戒したところ、何ともまずいことに気がついた。
 夜なので印象はまず違うのだが、その防壁で囲われた古い町並……この世界の資料にあった写真そのままである。敵方……共和政府の首都ベリファの姿だった。

 私は急ぎ戻る。狙いも判るというものだ。何らかの長距離転送手段を持った人員だったのだろう。本当なら姫様を攫って今頃は本拠地で……あれ……違和感がある。それほどの能力を持っている者なら姫様でなくても直接王なり……第一王子も居た。何故姫様を狙いに行ったのだろうか。
 私は頭を振った。今考えるのはそこじゃない。
 今はひとまず目前の問題を考えないといけない。
 ひとまず、魔力探知も含めて網を張られる前に行動しなくては……
 私は見つかる危険性を考えバリアジャケットを解いた。女官姿なので、これはこれで浮くが……小さな町が見えたので、まずはそこで必要な物を調達するとしよう。
 ドレス姿で動きにくい姫様をティーダに背負わせ、森歩きには慣れている私が先導した。夜の、視界が利かない状態で森を歩くのは本来自殺行為だ。魔法を使えない状態だと特に。雑草を踏んだと思ったら穴が開いていて足を折るなんてこともある。藪を無造作に踏んだら毒蛇に噛みつかれるなんて事もある。あるいは気付いたら野犬などに囲まれている事だってあった。そこは安全そうなルートを選び、危なそうな所は一々確認しながら進んでいる。私が付いてきている事に感謝してほしい。うん、少しは感謝されても良いと思うのだ。
 まあ、後ろを歩く姫様を背負って、背中に当たる感触にうだうだしているティーダの様子ではそれは望むべくもないのだが。いちゃいちゃすんな。ちょっとくらいは構ってくれと……って、いやいや、私はどこの構ってちゃんだ。どこのお子ちゃまかと。困った、雑念退散である。
 幸いそれほどものすごい森ではなく。一時間もしないうちに来る時に見えた町に着いた。
 さすがに時間が時間だったようで、寝静まって静かである。
 ひとまず、姫様を背負って疲れた感じのティーダと姫様を、細かいものを調達してくるよ、と女官の服を目立たないようにちょこちょこと整え、町に向かった。
 私は物が揃いそうな店……スーパーなどはないので、何でも扱ってそうな、町の雑貨屋といった風情の店のドアを手荒く叩く。

「うぅるせえええぇぇええ!! 今何時だと思っていやがッ!」

 と起きて来た店主のおじさんの近くまですすっと寄る。急にパーソナルスペースに入られると人は驚き、硬直するものなのだ。
 その虚をついて、局のモデル仕事で鍛えたスマイルスマイル。言葉でたたみかける。

「夜分に申し訳ありません。旅の最中なのですが、少し離れたところで荷物が流されてしまいまして。頼らせて頂けないでしょうか?」
「お……おお」

 狐につままれたような顔をする店主に、丁寧に頭を下げる。ありがとうございます、助かりますとお礼の言葉も忘れない。勢いでも何でも形を作ってしまえばこっちのもんである。ふふ……ちょろい。どうだお姫様。私とて、このくらいは……
 私は無言で自分の頭に拳をぶつけた。何考えてるのか、私は。この世界来てから微妙にペースが狂っている。ちくしょう。
 さらに怪訝な顔になる店主を尻目に、とりあえずの服やレインコート、水タンクや食料などを買い込む。本当に何でもあって有り難い。さすがに生鮮食品はないけども。
 最後に大きな旅行バッグに詰め込み、店主に再度礼を言って戻ることにした。

「ただい……、あれ?」

 戻ってみれば二人の姿が見えない。
 辺りを見回していると、車の音がして、とっさに物陰に身を隠した。
 様子を伺っているとその車……トラックは私が先程居た場所に停車し、人影が降りて……ティーダだった。

「ま、紛らわしいなぁ……」

 私は頭を掻きながら物陰から出る。
 しかしどこで調達したのだろうか……私は片手を上げて帰ったよーと言いながら近づいた。
 この世界では地球と同じように化石燃料を使った車が走っている。と言っても地球が石油、こちらは天然ガスが主流、という程度の違いはあるが。本で読んだだけであるものの、次元世界の中には地中で育てる動物の血……いや体液を燃料に使う技術を元に発展しているところもある。まさに所変われば品変わるといったところだ。
 ティーダがどういう手段でか、調達してきた車は日本だとよくピックアップトラックとか呼ばれているたぐいの形だった。荒れ地の走破性も高く、改造されてよく軍事利用もされているようなやつである。
 運転席から覗き込めば燃料もたっぷり入っているようだ。
 姫様を抱えて飛ぶ手もあるが、スピード出せないので良い的だし、足ができたのは正直助かった。
 別に打ち合わせをしたわけでもないが、私は荷台に荷物を放り込み、私自身も飛び乗った。

「ティーノは車内に入らなくて平気なのですか?」

 さすがに心配そうな顔で姫様が私に聞いてきた。作りとしては車内に4人は乗れるようになっているようだが、後ろで警戒していないとさすがに不安である。
 私は平気平気とわざと軽く言い、思い出したので先程買ってきた動きやすそうな服を取り出した。と言ってもただのチュニックとズボンである。服屋でもなく雑貨屋にあったものなのでそう期待しないで貰いたい。ティーダにあっちを向かせて着替えた。何せ、姫様も私も園遊会の時のままなので、ドレス姿に女官姿である。姫様はこういった服を着たことも触った事もないらしく私も手伝った。興味津々に、堅い布なのですね、と触っている。
 バレるときはバレてしまうのだろうけど何もしないよりは良いと思う。念のためにと、キャスケット帽を目深に被って貰った。何せこの人が一番顔が知られているのだ。どこか楽しげにしてるけど、追われる立場なんです姫様……

「もういいかい?」

 ティーダは着替えイベントから追い払われたついでに、道筋も確認してきたようだった。
 もういいよ、と子供の遊びさながらに言葉を返すと地図を持って近づいてきた。
 車の中に放り込まれていた地図を取り出し、ここが現在地で、ここまで行けば何とでもなると言って、そこまでのルートを指でなぞる。なかなか遠回りにもなる山越えのルートだった。

「最短ルートと、この河川沿いは?」
「ティーノも思いついてるだろうけど、とっくに警戒態勢だろうね」

 だろうなあ。ティーダの示したルートだと人目にもつかないだろうし、分かれ道が多く、障害物も多い。いかにも追跡されにくそうである。まあ、私が地図とにらめっこしても良い考えが出てくるわけでもない。それに時間は大事だ。
 それで行こう、と頷き、私は文字通り車上の人となった。
 ティーダと姫様も乗り込み、エンジン音が夜の闇に響く。どこかでギャアギャアと得体のしれない鳥だかの鳴き声が聞こえた。

 敵地で一番怖いのは味方との通信手段が無いことかもしれない。
 今の私達の状態である。
 転移魔法と同じように、念話もあまり長距離のものは使えない。無作為に広域念話なんてものを出したらそれこそ自殺行為だ。敵さんにどうぞ狙って下さいと言っているようなものだろう。かといって現地の通信設備はというと、これがまた困った事になっているのだ。
 地球と同じように電波による無線設備などはあるのだろうけども、その多くが軍用施設のようであり、悠長に捜している暇もない。
 姫様の護衛隊が使っていたような携帯端末を支給されていれば、また違ったかもしれないが、そこは言っても仕方無いものだろう。
 ともあれ、あと一両日も移動すれば、国境に近いところまで移動することができるはずだった。そこまで近づけば救援要請も出せると思う。

 そう考えていたのだが。
 目論見は半日ほどで潰えた。追っ手である。五人一組……だろうか? 少々ばらつきがあるものの追ってくる。
 いずれ追跡はされると思っていたが……早すぎはしないだろうか?
 あるいは管理局も知らない追跡用の魔法でも持っていたか……あの転移魔法をくらった後ではそれも油断できない。
 周囲の風景は段々、木の数が少なくなり、岩場が多くなってきている。地図で見た、曲りの多い山道に入るところのようだ。
 この事態に至っては仕方無く、私はハイペリオンを起動状態にする。
 バリアジャケットを纏う、揺れる車の荷台に立ち、身構えた。

   ◇

 数度来た追っ手は何とか防いだものの、敵の戦力が読めない状態で耐え凌ぐのは精神的に辛い。ティーダと軽口を叩き合って気を紛らわせられたから保ったようなものだろう。
 私一人であるなら多分魔力や体力より先に精神力がやられていたかもしれない。
 ……ぴんときた。
 魔力探知に引っかかったようだ。私は半眼になり集中する。
 1,2,5,ええと……感覚的なものなので表現しにくいが不協和音が一杯。
 おいおい……

「ティーダ、サーチャーで見てる?」

 先程、運転席から出していたサーチャーのことだ。消していないのだったら観測しててもおかしくない。

「うん、バッドニュースがあるけど聞くかい?」
「勿体ぶるなよ……」
「空士が飛んでくる。今のところ2分隊くらい」

 うわぁ……である。
 今までは飛べない敵兵ばかりだったのだが、ティーダが空士と言うくらいなのだから、管理局の空士に匹敵するような、空戦も可能そうな魔導師なのだろう。
 私とティーダだけなら逃げるだけに集中すれば多分何とでもなるだろうけども、こちらのクリア条件は姫様の脱出なのだ。また、攻撃するにも非常に面倒臭い。
 こうして狙われる側になってみると空士ってのは厄介な事が判る。攻撃力とか機動力うんぬんよりも、戦術の幅の広さこそが始末に負えない。どうするべきか。ひとまず……

「ティーダ、広めに撃ってみる。合わせて」
「了解」

 短く言い終え格好つけてその拳銃型デバイスをくるりと回す。
 この……余裕ぶりやがって。こちらも何となくその仕草に落ち着いてしまったじゃないか。危機感返せ。
 頭の中でぶーぶー言いながら、私はデバイスに魔力を集中した。
 使うのは私の定番の射撃魔法でもある。

「シュートバレット・レイン、セット」

 トリガーはまだ引かない。コマンド待ちの状態で狙いを定める。ただ、ショットガンのように魔力弾をほぼ同時に大量に射出するだけだが、時間をとれば、威力や数の増減もわりと細かく設定できる。普通の局員はこんな無駄だらけの魔法は使わない。魔力タンクのような私の十八番のような魔法である。
 今回は目一杯魔力を込めてみた。一応武装局員の隊長と同じくらいとか言われる出力の全力である。射出ルーチン数を多く設定した。
 拡散範囲を広く取る。大まかな距離の測定、魔力弾の精度調整はデバイスに丸投げだった。そんなものは私には計算できない。前身のアドニアを思い起こしても絵は褒められど数学は褒められた事がない。困ったもんである。そんな私は狙いをつける事っまた、もっぱら感性に頼っていた。丁度いい感じを探して……うん。ピンと来た。

「ショット」

 以前、模擬戦で使ったのよりはるかに多量の魔力弾がシャワーのように広がっていく。その数1200。
 誘導なんて便利な機能もなく、一発一発の威力なんて魔力を少々削るだけの練られてない魔力弾でしかないが、この魔法は初見が一番効果を発揮する。
 私達のトラックに追いつこうとスピードを上げていた車、軍用バイクのサイドシートに座って射撃体勢に入っている敵兵。その後方から飛んでくる空士。全てを飲み込む程の魔力弾の雨が降り注ぐ。敵兵はそのあまりな量に驚いて混乱した。特に戦闘車両が驚いたのか横倒しになって、玉突き事故が……うわぁ。魔導師だから大丈夫だろうけど、見た目大惨事である。
 空士の方はシールド魔法を張ってやりすごす。威力がないのが判ると先頭を飛ぶ男は示威行為か何なのか、シールドを解除した。うわははははは! と被弾しながら突撃してくる。バリアジャケットすらいらぬわ! とばかりに脱ぎ捨てた。プ、プロテクションくらいは張っているのだろうけど……なぜ脱ぐ必要が! 見事な上腕二頭筋があらわになり、なぜかテンション高くなってスピード増しているのだが……やばい、怖い。何この魔導師、変態だ。
 しかし後方不注意だった。ティーダの放った誘導弾が迫り。着弾する。

「こ……の……俺が……」

 などと大物臭漂う台詞を吐きながら墜落していく空士……
 私はつかの間、その見事な撃墜のサマに目を奪われ、頭を振って我にかえる。
 どこの世界にも変態というものはいるらしい。見なかったことにしよう。

 途中変なのもいたが、私達は波のように打ち寄せる敵を幾度となく撃退していた。
 さらに増援も増え続け、もう小隊規模では収まらなくなってきたようだ。既に最初の私の一撃から一時間も経っていた頃だろうか。
 さすがにそろそろ騎兵隊の到着が欲しいところである。
 ティーダの魔力は既に一度尽きた。
 今は攻撃の合間に私がディバイドエナジーにより魔力を分けながら応戦している状態である。
 私達の疲労の蓄積に伴って、段々防戦の比率が高くなってくる。
 相手側は大分業を煮やしているようだ。当然かもしれない。普通ならとっくに魔力切れを起こしているはずだ。
 ……そうか、相手は人質確保したいがために人数に任せた持久戦を仕掛けていたわけだ。ますますもって私には相性が良かったということらしい。疲れた頭のどこかでそんな考えが浮かぶ。
 その間にも荷台に乗り上がってきた敵兵を右手一本で切り払った。
 実のところ左腕はちょっと感覚がない。魔力弾のダメージで麻痺してるだけだろうが、不利な事この上なかった。
 相変わらず騎兵隊のラッパは聞こえない。西部劇のようにうまくはいかないらしい。
 いい加減、敵さんも苛立ちが募ってきたのか、何か勿体ぶった男が前に出てきた。
 とりあえず魔力弾を撃っておく。しかし……ガードしている二人にシールドで弾かれた。
 どこかうさん臭い動作で悠然と顎髭を一撫でした後、その男は私達にその長大なデバイスを構え……魔力を集中させ始めた。その特徴的な魔力の流れは……おいおい、おい。そんな近くで砲撃? 減衰考えてるのか? 姫様の確保はどうなった? 私とティーダが身に代えて守ることを折り込み済みか? それとも何も考えてなかったりするのか?
 阿呆な、と何度か言いたくなったが、対処を考えないと、どうすれば良い、どうすれば、姫様を抱えて飛ぶ? これだけ集まっていればいい的だ。やられる前にやる? ティーダも私も前の二人を一瞬で突破して倒せるだけの力は……結局やれることとしたら。

「ティーダッ……砲撃来るぞ!」

 私はそう叫んでラウンドシールドを展開した。誰もが使えるシールド魔法だが、私にはこれが精々である。
 そのシールドの上からティーダは車も守るように球状のプロテクションを広げた。
 砲撃にプロテクション? 強度が……と怪訝に思ったが、同時にティーダの使う射撃用魔力スフィアが浮かんでいるのを見て、意図が分かった。スフィアが一個だけなので最早クロスファイアとは呼べないだろうが、あれはティーダの最も得意な誘導射撃魔法だった。

 ──閃光が迫る。
 同時にティーダが「……ファイア」とトリガーを引いた。
 私の展開したシールドが一瞬軋み、悲鳴を上げる。
 だが、一瞬だった。
 狙いは外れ、私のシールドの端を削り取る程度で終わった。
 砲撃魔法を撃った男は左手を押さえ呻いている。
 ティーダは最高の角度と最高のタイミングで、横槍を入れることに成功したのだ。
 砲撃と言っても、クロノやディンの放ったそれより大分威力も弱かったのだが……私はその威力の跡を確認し唖然とした。

「道ぃッ!?」

 無くなっていた。車の行き先の道がぽっかりと。待て待て待て待て、崖の上を走っていたようなものなんだぞ。狙いが外れたのはいいとして、このままじゃ落ちるからというか落ち始め……傾いて?
 ──浮遊感が体を襲う。私は荷台にいたのでそのまま投げ出された。敵兵の唖然とした表情に、場違いな笑いがこみ上げてきてしまった。
 落ちる落ちる。
 下には川とそれを挟んで森が見える。このまま落ちれば一巻の終わりだろう。いかにバリアジャケットが便利と言ってもノーマル設定では衝撃にも限度がある。
 ティーダが姫様を抱えて飛び出してきた。落ちると判ってから慌ててベルトを外したらしい、珠のお肌に擦り傷ができてしまっている。痛々しいもんだ。
 私がシールド魔法から切り替えが出来てないとでも思ったのか、ティーダは私にも手を伸ばしてきた。

「いいから姫様連れてけ! 私はどうとでもなる」

 落下しながらそう言うと、私はデバイスに登録してある幻術魔法、フェイク・シルエットをセットする。これもまた習得に手間取ったのだが、今となってはわりと得意とする魔法の一つだ、演算が面倒なのでデバイス無しでは使えないけど。魔力を大量に食うが、そこは私にとっては相性のいい魔法と言えるのかもしれない。ティーダと姫様二体の幻像を作り出した。
 それをティーダは見て取り、念話で伝えてきた。

(南に20キロ地点に潜伏できそうな町がある。少々の魔力反応なら隠せるはずの大きな町だ。そこで落ち合おう)
(了解、ついでに美味しいパン屋も探しておいて)

 何故か姫様がティーダに抱きついて勝ち誇った顔をして舌をぺろっと出す。
 ……こ、こんな時までこのお姫様ってば……大物だなあ。逆に感心してしまった。
 そのまま、ティーダのかけた幻術魔法により姿が見えなくなった。全くもって見事なミラージュハイドだこと……

 さて。私は先程作った二体の幻像と手をつないだフリをする。
 どうするかというと……一緒にぎりぎりまで落ちるのだ。衝撃に弱いので枝葉に当たるだけでも消える可能性がある。その都度、部分的に作り直すために魔力を送らねばならないのだ。
 私が守るように木々の葉っぱを突き抜け、地面すれすれで浮遊魔法に切り替えた。
 幻像が消える。
 着地したところは大きな木の根元だった。
 上を見上げれば私が墜落してきたために枝が折れ、生い茂る緑の中に穴がぽっかり空いている。
 私はその木にもたれかかって大きく大きく息をついた。

「はあー……しんど」

 今更ながら考えれば私は初陣である。実戦で人を攻撃したのなんか初めてだった。
 一人になってみると正直泣きたいような気持ちがこみ上げてきてしまう。私はこんなに弱かったのだろうか。
 ただ、まだ何も終わってないのだ。
 魔力探知は私のような特殊な体質でもない限り、おおまかな位置しか判らないはず。部隊を展開しているような状態ではあまり意味を成さない。私もまたティーダほど熟達してないものの、ミラージュハイドで姿を隠しながらその場を後にした。

   ◇

  川のせせらぎが耳に心地良い。
 種類も知れない鳥の声が響いている。
 樹液を吸いに来ていた蝶が甲虫っぽい虫に追い立てられて逃げた。
 人の手もほとんど入っていないだろう森の中は落ち葉の下に何が隠れているか、あるいは穴でも開いているのかも判らずひどく歩きにくい。
 濃密な森林の空気を吸い込み、思った。
 全くこれが遊びに来ているだけだったら……と。

 車と一緒に墜落したバッグを回収し、ミラージュハイドで隠れながらそろそろとその墜落した地点から離れる。
 この系統の幻術魔法は私みたいに練度が低いとあまり派手な動きが出来ないのが問題である。私の翼を隠しているオプティックハイドがそうであるように、探知系からもある程度隠れられるので、便利といえば便利なのだ。しかしティーダなどは私より格段に上手く、姫様も効果範囲に入れてなお飛行魔法まで併用してみせたが、私にはとてもとても……ぐぬぬと言わざるを得ない。
 ある程度まで距離を置き、丁度良さそうな木があったので、木の上に登り、念のため再びミラージュハイドをかけ直した。
 目を凝らすまでもなく、先程車ごと墜落した場所に空士がまず降りてきた。
 私達の姿がまるで無いことに気付くと辺りを見回し、いかにも苛立たしげにトラックの荷台をデバイスで殴りつけた。
 取り逃がしたと思ってくれただろうか。
 ティーダの位置は私も把握していないが、さすがに姫様を連れ、隠れながら飛び続ける事は厳しいだろう。それほど魔力に余力があったわけでもないだろうし。やはり私が何かやるしかなさそうだった。
 正直私自身、気力にはもう自信がない……のだが、仕方無い。やるしかない。泥を手ですくい、顔に塗る。気分はベトナム帰りのグリーンベレーといったところだ。本当に気分だけだが。映画のようなワンマンアーミーは正直真似できない。これからやるのはただの陽動だ。交戦という考えはまず捨てておく。
 左手をにぎにぎ。腕にダメージを受けていたが、何とか動く事は動くようだ。力は入らないが。
 私はバリアジャケットを再構成。深く息を吸って吐く。
 ほんじゃ……

「始めますか」

 そうつぶやいて魔力弾を派手に三連射した。
 見事な手応え! 手応えってのも変な話だが。
 ……ええと。

「大当たりー!?」

 単に居場所気付かせるための狼煙代わりだったのだが……
 バランスを崩して墜ちていく魔導師が一人。
 おのれー! とばかりに片割れが目を怒らせて向かってくるのだが……誘導とかほぼ出来ない私が適当に放った魔法で墜ちるとか、こっちがびっくりである。

「……よっぽど運が悪い人なんだろうな」

 何となく胸の前で十字を切っておく。別にクリスチャンじゃないけども。
 ともあれ、お怒りの表情でもう一人が迫ってきているので、足は動かしておく。私が離れた事で、幻術で隠しておいた木が姿を現した。魔導師が向かってくる真ん前に。
 派手な衝突音を背中で聞きながら木々の隙間を縫うように走る。
 先程までの追跡を考えると魔力探知……も併用しているのかもしれないが、より原始的、例えば車の轍の種類、あるいは臭い、あるいは足跡。そう言ったたぐいの追跡だったのかもしれない。
 あるいはこの世界にしか存在しないような追跡に便利な動物でもいるのかもしれなかったが、そこまで考えると正直何も出来なくなる。
 私は徹底抗戦すると見せかけ、あるいは敵兵に押し込まれて、ますます逃げにくそうな川の上流に追い込まれた……振りをする。その間にもいかにも諦めてないぜーと言わんばかりのトラップをてんこ盛りに仕掛けておいた。何でこんな知識があるのか判らない、思い出そうとすると何か懐かしい気もする。いや、今は考えてる時間じゃないか。
 トラップと言っても移動しながらなので悠長な事はできないのだが、天然の穴の上に目くらましをするだけでも簡易の落とし穴になるし、撃墜して気を失った敵兵を置いて、その周辺に遅延発動型のバインドを張っておくなど、やりようはある。ちなみにここでも幻術魔法は大活躍である。ミッドだと注目されないけど、ゲリラ戦でこれ使われたらかなりきついんじゃなかろうかとふと思った。帰ったら上申しておいてもいいかもしれない。
 そして地味に役に立ったのが私の特製デバイス、ハイペリオンである。何しろこいつの起動状態は重い。ココットのロマンがたっぷり詰まっているソードフォーム時程ではないが、十分重い。どれほど重いかといえば私と重量が変わらないくらいなのだ。かの水滸伝の和尚がもつ鉄杖すら越える重量級の杖である。魔法を使わない方が凶器だろうと言うツッコミはいたるところから放たれているのだが、スルーするのにももう慣れた。
 そしてどう役立てるかと言えば。

「せぇー……のぉ」

 振りかぶって力一杯ぶちあてる。
 解体用クレーン車の鉄球が当たったかのような重い音がして、私の腹回りほどもある木がへし折れた。ひどい威力である。人間相手にはとても使えない。スプラッタ確定だった。
 地形は二叉の林道のようになっていて、その一方を折れた木で塞ぐ。もう一方の道には遅延バインドを逆に囮にしたスパイクボール……いやスパイクは冗談だが。ロープと布で吊してある泥の固まりがぶつかるようになっている。子供の悪戯のようなものだが、魔導師相手だと棘とか付けるよりはまとわりつく泥の方がよっぽど有効だった。ちなみに泥はデバイスの魔力刃の放出機能が、ソードフォームでなくともそれなりに融通効くのでシャベル状にして運んでいる。
 そんな土木工事用に大活躍の我がデバイスである。欲を言えばノコギリも欲しいところだったけど。フレームの剛性もココットの言う通り大幅強化してあるようだし、これは戻ったらケーキでも焼いてねぎらってやらねば。

 そんな細かい事を繰り返しながらの陽動作戦を続けていたらいつの間にか2時間ほどが経過していた。
 少し距離が開いたので、私は草むらに胡座をかいて小休止を入れる。
 最初に墜落した地点からも大分離れた。そろそろ私も離脱しても良い頃合いかもしれない。
 敵方の人員は減りもせず増えもせずと言ったところである。陽動といっても隙をついて何人か行動不能にはしているのだが、すぐに戦線復帰してしまうのだろう。こういう状況におかれてみると、確かに管理局の理念先行、非殺傷で制圧なんてのは自分を不利にするだけだし、現場の人間に行けば行くほど賛否両論なところも判らないでもない……と言っても、こちらはしがない末端局員である。そこは頭の良い人が考えるだろう。
 さて、と小さく声をかけて腰を上げる。
 どうやら距離が詰まってきたようだ。

「──シールド」

 ラウンドシールドを張ると少し間を置いて着弾した。衝撃ののち、砕けた魔力光の残滓が舞い散る。
 荒っぽい実戦に投げ出されたので、感覚が鋭くなってしまっている気がする。野生化だろうか。野良ティーノとか拾ってくれる人がいそうにない。元に戻るんだろうか? 映画でよくある戦場帰りの人間みたいに情緒不安定になったら困る。そんな事を思いつつも体は動いていた。
 離脱の前準備としてバリアジャケットの設定を変えておく。
 残っている魔力をありったけ……はまずいので、少し残し、デバイスに注ぐ。しかし今日はさすがに魔力素を変換しすぎたようで、胸のあたりがじくじく痛む。リンカーコア頑張れ。もうちょっと頑張れ。
 私は敵兵に炙り出されるように川の上空に飛び出した。
 間髪入れずに待ち伏せしていたらしい敵さんが私めがけて射撃をしてくる。
 今度は防御は使わない。軌道を変えて躱した。
 使うのはまた同じ魔法……芸がないと言えばそれまでなのだが、本当に芸がないので仕方無い。
 魔力弾の雨を川に向かって放った。
 非殺傷とか減衰とかにリソースを割かなくてもいい、ある意味本来の威力の魔力弾を文字通り雨のように放つ。
 それなりに豊富な水量があったのが良かった。水煙がそれこそ爆撃でも食らったかのように上がり、辺りに立ちこめる。私はその白い煙の中に身を落とした。

   ◇

 私が合流地点の町にようやくたどり着いたのは、日も薄暗くなろうかという頃だった。
 下流まで流された後、念のため相手にミスリーディングさせるような足跡を見当違いの方向に残してきたりとか、こまごまとした細工をしていたらすっかり時間がかかってしまったのだ。
 入ってみれば、大きな、と言うだけあり、こんな時間になっても活気が絶えないようだ。
 あるいは流通の拠点になっているのかもしれない。中央の主要道路と思わしき道はひっきりなしにトラックが通過している。と、思いきや、その主要道路からちょっと外れると、古くからあるような石造りの道になっており、両側にずらりと露天商が軒を連ねていた。案外、古い町が時代の流れに合わせて拡張していったようなものなのかもしれない。そんな感想を抱きつつその商店街のような通りを歩く。出力を絞った念話でティーダと連絡を取り、合流することにした。

 相談の上、少しこの町で休む事にした。
 さすがに普通に宿をとるわけにもいかない。私達は倉庫街の貸倉庫を借り、潜伏している。
 本当は足を止めないで出発したほうがいいのだろうけども、正直私も消耗していて、ぼろっぼろである。いくら私の体質が人外めいたものでも、そりゃ限度がある。姫様もまた、園遊会から相次ぐ騒動に、表面上は平気そうな顔をしていたものの、疲労は隠せないようだった。

「そんなわけで私は休む、ティーダ、見張り、頼む」

 口数少なにそう言ってティーダの肩を叩いておいた。
 ふむ?
 ぺたぺた触る。

「お? きょーふしょー出ないや」
「何だいそりゃ?」

 答えるのも面倒臭くなっていたので、手をひらひらしてはぐらかしておいた。
 バッグから引っ張り出した携帯毛布……何かに使えるかと雑貨屋で買っていた災害、非常時用のものだが、早速役にたってくれるようである。
 丸めて縛ると小さくなるそれを姫様にも渡し、自分でもそれを広げて、横になる。

 目が覚めたのはきっかり三時間が経った頃だった。
 短いながらも、久しぶりに何も考えず泥のように眠ってしまった。体力だけで言うなら何日も徹夜したこともあるわけだし、精神的な疲れが相当溜まっていたものらしい。
 ……あれだけ張り詰めた状態が続いていれば無理ないか。
 隣に寝ている姫様を起こさないようにして毛布から出る。本来荷物を積むためのスノコの上に寝ていたので、短時間とはいえ体が凝った感じがする。肩を回しながらティーダが見張っているだろう入り口の小さな事務室に向かった。


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