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No.34349の一覧
[0] 道行き見えないトリッパー(リリカルなのは・TS要素・オリ主)本編終了[ガビアル](2012/09/15 03:09)
[1] プロローグ[ガビアル](2012/08/04 01:23)
[2] 序章 一話[ガビアル](2012/08/05 12:22)
[3] 序章 二話[ガビアル](2012/08/05 12:23)
[4] 序章 三話[ガビアル](2012/08/05 12:23)
[5] 序章 四話[ガビアル](2012/08/05 12:23)
[6] 幕間一[ガビアル](2012/08/05 12:24)
[7] 一章 一話[ガビアル](2012/08/05 12:32)
[8] 一章 二話[ガビアル](2012/08/05 12:33)
[9] 一章 三話[ガビアル](2012/08/05 12:34)
[10] 一章 四話[ガビアル](2012/08/05 19:53)
[11] 一章 五話[ガビアル](2012/08/05 12:35)
[12] 幕間二[ガビアル](2012/08/06 20:07)
[13] 一章 六話[ガビアル](2012/08/06 20:08)
[14] 一章 七話[ガビアル](2012/08/06 20:08)
[15] 一章 八話[ガビアル](2012/08/06 20:09)
[16] 一章 九話[ガビアル](2012/08/06 20:10)
[17] 一章 十話[ガビアル](2012/08/06 20:11)
[18] 幕間三[ガビアル](2012/08/09 19:12)
[19] 一章 十一話[ガビアル](2012/08/09 19:13)
[20] 一章 十二話[ガビアル](2012/08/09 19:13)
[21] 一章 十三話[ガビアル](2012/08/09 19:14)
[22] 幕間四[ガビアル](2012/08/13 19:01)
[23] 二章 一話[ガビアル](2012/08/13 19:02)
[24] 二章 二話[ガビアル](2012/08/13 19:02)
[25] 二章 三話[ガビアル](2012/08/13 19:03)
[26] 二章 四話[ガビアル](2012/08/13 19:03)
[27] 幕間五[ガビアル](2012/08/16 21:58)
[28] 二章 五話[ガビアル](2012/08/16 21:59)
[29] 二章 六話[ガビアル](2012/08/16 22:00)
[30] 二章 七話[ガビアル](2012/08/16 22:00)
[31] 二章 八話[ガビアル](2012/08/16 22:01)
[32] 二章 九話[ガビアル](2012/08/21 18:59)
[33] 二章 十話[ガビアル](2012/08/21 18:56)
[34] 二章 十一話[ガビアル](2012/08/21 18:59)
[35] 二章 十二話[ガビアル](2012/08/21 19:00)
[36] 二章 十三話[ガビアル](2012/08/21 19:00)
[37] 二章 十四話[ガビアル](2012/08/21 19:01)
[38] 二章 十五話[ガビアル](2012/08/21 19:01)
[39] 二章 十六話[ガビアル](2012/08/21 19:02)
[40] 二章 十七話[ガビアル](2012/08/21 19:02)
[41] 二章 十八話[ガビアル](2012/08/21 19:03)
[42] 二章 十九話[ガビアル](2012/08/21 19:03)
[43] 三章 一話[ガビアル](2012/08/29 20:26)
[44] 三章 二話[ガビアル](2012/08/29 20:27)
[45] 三章 三話[ガビアル](2012/08/29 20:27)
[46] 三章 四話[ガビアル](2012/08/29 20:28)
[47] 三章 五話[ガビアル](2012/08/29 20:28)
[48] 三章 六話[ガビアル](2012/08/29 20:29)
[49] 三章 七話[ガビアル](2012/08/29 20:29)
[50] 三章 八話[ガビアル](2012/08/29 20:29)
[51] 三章 九話[ガビアル](2012/09/05 03:24)
[52] 三章 十話[ガビアル](2012/09/05 03:25)
[53] 三章 十一話[ガビアル](2012/09/05 03:26)
[54] 三章 十二話[ガビアル](2012/09/05 03:26)
[55] 三章 十三話[ガビアル](2012/09/05 03:28)
[56] 三章 十四話(本編終了)[ガビアル](2012/09/15 02:32)
[57] 外伝一 ある転生者の困惑(上)[ガビアル](2012/09/15 02:33)
[58] 外伝二 ある転生者の困惑(下)[ガビアル](2012/09/15 02:34)
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[34349] 幕間五
Name: ガビアル◆dca06b2b ID:8f866ccf 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/08/16 21:58
 またあの夢だ。
 いつ頃からだろうか、この夢の中でティーノという私を意識できるようになったのは。
 最初はぼんやりとした意識の中、ガラス越しに彼女を見ていた。
 次第に、アドニアが幼少時になる頃には時折、自分の存在を思い出すことがあった。ただ、その頃はまだ曖昧な状態だったと思う。
 やはり彼女……彼女ということしか判らない。ぼんやりとしてとらえどころのないあの存在、夢の中でその彼女と出会ってからだったろうか。
 私は夢の中で自分が自分であることを思い出していた。ただ、時折アドニアの視線、あるいは感覚だろうか。それを共有する形で感じてはいたが。
 まるで私が幽霊になった気分でもある。

 ……ああ、この表現は的確かもしれない。私はアドニアに取り憑くような形で、何もできずただ、見、聞き、感じるだけだった。時には動ける時もあるものの、何にも触れられないのだ。
 そしてこの夢……あの得体のしれない彼女は記憶と言ったが、それにしてはひどく生々しいものだった。

   ◇

 アドニアや、弟のミュラ、そしてこの領主の弟、アレウス。彼等の種族……地の人と自ら呼び、そして他からも呼ばれる彼らは体力に優れ、肉体も頑健であるようだった。多少の傷なら数日で治り、たとえ骨折であっても一週間もあればほぼ治ってしまう。それは幼い身でも変わらないようだった。いや、そうでなければ忌み嫌われる身でありながら、さらに幼い弟を背負って旅などは出来なかっただろう。
 その身体の頑健さ、アドニアにとってそれは忌むべきものだったのかもしれない。
 毎日のようにアドニアを苛むアレウスの加虐はとどまる事を知らぬようだった。
 傷つけ、ねぶり、言葉で脅し、あらゆる方向から徹底的にアドニアを責め苛んだ。
 身体は耐えた。どの程度まで耐えられるかはアレウスもまたよく知っている事だったのだろう。過酷に扱われながらも……翌日にはふらつきながらではあるが、日常を過ごす事が出来た。
 だが、肉体は何とか耐える事ができても精神はどうだっただろうか……

 痛い時は心を沈める。深く、深く。
 辛い時は笑えばいい。悟られぬよう。
 悲しみは誤魔化せばいい。幸せだと、楽しいと。

 旅を経て、精神年齢もある程度、半端に育ってしまっていたのが、逆に災いとなったのかもしれない。
 アドニアの心はいつしか波音一つしない、静まりかえった湖のようになっていた。
 主であるアレウスを悦ばせるため、痛がり、悶え、苦しむ演技ばかりが上手くなり、弟であるミュラ、そして仲の良かったメイド達に向ける心を隠した笑顔はそれ以上に上手くなった。
 心は死んではいない。
 ある程度同調している私だから判る。
 彼女の心は深く沈んでいるだけだった。最愛の弟と話す時、その静まりかえった湖は時折揺れている。ただ、それは日を追うごとに静かになってきていた。

 そんな日々が長く続いた。
 一年も経った頃だっただろうか、正直この頃のアドニアは時間感覚が曖昧で、私も把握がしにくい。
 いつものようにアレウスに責め立てられ、ただ、体の防御反応で気絶していたアドニアだったが、ふとベッドで目を覚まし、いつものようにその変わらぬ天井を見る事なしに見る。
 ふっとある事に気付いた。
 痛いとも辛いとも、思わないのではない、思えない事に。
 あれほど愛しかった弟すら大事なものとは思えず、義務感のみが残っていた。
 その時のアドニアの心境は、とても形容しがたい。静かでため息を吐くような悲嘆。なぜか安堵。そしてぼっかり空いた巨木のうろを覗き込むような、寂しい感覚。
 ごり、と小さい音がした。自分の関節をはめるのもいつしか慣れてしまった。アドニアは、昔誰かに壊されたおもちゃの人形を思い出し、わたしのようだと小さく笑った。それは本当に楽しそうに。心はさざなみ一つ立たなかったが。
 鼾をかくアレウスを一瞥もせず、ふらふらと歩き出した。
 アドニアは超人ではない。歴史に名を残すヒロインでもなければ、民衆の先頭に立って鼓舞するような女丈夫でもない。
 だから当然、彼女は自殺などという手段も考えた事は何度もあった。
 そんな時、アドニアにはお決まりのように来る場所がある。
 それは町外れのゴミ捨て場。
 かつては遺跡だったらしい、どこか神殿のようなものを想起させる建物もある。すり鉢状に地上よりやや低くなっている集落跡だった。
 雑多に投げ捨てられたゴミの山があちこちに積まれ、むせ返るような腐臭が漂っている。
 自分にとても似合いの場所だと感じていた。
 彼女自身意識はしていないのだろう。静かに流れる一筋、二筋の涙を流しながら、ゆれるようにいつもの道を歩く。

 やがて、開けた場所に出るとそこは泉があった。
 深く、何物も飲み込んでしまいそうな泉。そのヒビの入った石造りのへりに座る。アドニアのくるぶしまで水に浸かった。
 歌を歌う。かつて歌っていた何でもないどこかで聞いたような歌を。
 父が歌声を褒めてくれた。
 弟を揺らしながら子守の歌を歌うといつもスヤスヤと眠ってしまうものだった。
 優しい母が、私のとってきた森のきのこで美味しい料理を作ってくれる。
 大きな樫の木の下でアドニアは眠る。
 日差しが暖かくその白い翼を照らした。

 そんな想像をする。
 目を開ければ暗く、底の見えない泉が広がっていた。月明かりに照らされて時折、表面の波がきらりと瞬いて見える。
 波ではない、何か光るものが見えたような気がした。
 アドニアは何となく、惹かれるかのように泉に飛び込み、泳ぐ。その月明かりに照らされ、反射するものに手を伸ばした。
 それは朱色の金属のような一枚のプレート。
 井桁のような形をしたそれにアドニアが指を触れ──
 目視さえできるかのような衝撃の波がそのプレートの表面を巡り。朱く光る文字が浮かびあがった。

「ごぼ」

 驚きのみではない。アドニアの心臓、とは違う何かの器官がどくんと脈動を始めた。大きく息を吐き出してしまい、本能的に浮かび上がろうとするも、体は動かない。
 その脈動に合わせるかのようにそのプレートも反応し、膨大な魔力を吐き出しはじめた。
 それに叩き起こされるかのように、アドニアの中で眠っていた、アドニアではない何かの精神が首をもたげる。やがて、その精神は呼吸でもするかのように魔力を吸い込み始め……アドニアは自らの精神、もう薄れて弱っていたそれが、塗り替えられていく感覚を覚えた。
 何となく、何となくだが、アドニアはこれでもう終わりなのだと自分で思っていた。
 ただ、弟、ミュラのことを思い出すと、それでもなお、足掻こうとし、意識的にかは判らないが、その手にもったプレートの放つ魔力を、認識すら曖昧なそれを、拙いながら引きずり出した。
 世界が揺れる。
 大地が揺れるだけの地震とは違う。次元震とも呼ばれるそれだった。数度の震動の後、世界は歪みに耐えきれなくなったかのように、亀裂が入り──アドニアは飲み込まれ──その法則の異なる空間に投げ出され、死んだ。

   ◇

 私は余裕が無くなっていた。
 それは圧倒的だった。
 真っ暗で、押しつぶしてきて、お話にあるように希薄になるんじゃない、ただ圧倒的なものに潰さ……
 私は思いきり地面に頭をぶつける。星が飛んだ。

「ぐ……つっ……ぐげほ」

 いろいろ透けるのになんで床や壁はぶち当たるのか、とか突っ込みたい部分もあるのだが。
 今はとりあえず……吐きたい。吐いてすっきりしたい。頭ぶつけた痛みが気持ちよく感じるとか何なんだ。

「あれが……死?」

 例のなんたら病だろうがなんだろうが、どうでもよくなっていた。
 あれはきつい。あれはよくない。あれは耐えられない。
 多分、私は感覚のおこぼれを貰っただけにも過ぎないだろうというのに、強烈な感覚だった。
 急速にその強烈な感覚は遠のいていく。
 私は大きく息をつき、体を震わせた。

「そ、そういえば今まだ寝てるんだっけ……」

 ちょっと別の意味でも体を震わせた。ちびってそうである。
 朝の布団が心配だった。
 いや馬鹿な事考えている暇は……いいや、馬鹿な事でも考えないとやってられない。
 アドニアが死んだ?

「なら、私は……?」

 夢の中? だと言うのに相変わらず真っ白い手を見つめる。アドニアと同じ色。
 私とて考えはする。この私の身体とアドニアの夢、結びつけないはずはない。
 それはもういろいろ考えた。
 最近ではPTSDに近いものが首をもたげてきた事から、あるいは今の私、ティーノという人格は、耐えかねたアドニアの産み出した人格なのでは、とすら思っていたくらいなのだ。
 一体どういうことなのか……

「これはもう終わったお話。世界のどこにでもあるようなお話」

 ……やっと、お出ましか。
 いつもの声、どこか無機質で抑揚の無い声。

「で、幽霊さん。そろそろ私の質問には答えてくれる?」

 と私がうずくまったまま声をかける。まだ、気分的にはダウン調子である。全く、あんな体験するもんじゃ……やめよう、思い出すな思い出すな。

「かつて──」

 その抑揚のない声に少し感情が混じったようだった。私は未だ残っている吐き気をこらえ、幽霊さんに向き直った。

「かつて数ある世界からその発展を謳われ、その技術力により恐れられた一つの世界があった」

 それはアドニアの事を聞こうと思っていた私からすればかなり唐突に始まったおとぎ話だった。
 魔法、魔力素という今のミッドにも伝わる技術の基礎を見つけ出した文明の話。
 唐突に見つけ出された魔力を基にする技術は既存の技術とはあまりにかけ離れていた。
 その干渉範囲は本来生物が知覚できないはずの三次元上以上の物質、いや物質と言っていいのか判らないが、それに限定的ながらも干渉することが可能だった。
 魔法技術を用い、その文明は発展を遂げ、数多の星に手を伸ばし、世界の壁さえ越えた。
 隣り合った世界、そこに隣人とも言うべき人々が国家を築いている事を知ったその文明は、侵略などはせず、対話をもちかけた。
 どんなに卓越した技術があろうと、抜きんでた力を手に入れていたとしても、人は孤独ではいられなかった。
 世界の果てまで探索してもその文明は自ら以外の人を見つけることが出来なかったのだ。世界を越えた先に居た隣人、その存在ににどれほどの安堵を得たことか。
 やがて、隣り合った世界は一つだけではないことに気付くと、その手を伸ばし、それは多種多様な世界を見つけていった。

 どんな文明も爛熟する時は来る。
 それはどれだけ技術力が進んだ文明でも同じことだった。
 いつしか、その世界の人は新たな世界を見つけることも飽き、新たな魔法理論を考える事にも飽きてしまった。隣り合った世界の人々を見下し、己が天上人であるかのように振る舞う事が多くなった。
 文明が爛熟に達すれば人の成す事はどこでも同じなのか。皮肉なことに、その文明が遙か過去に原始的、野蛮と唾棄したはずのものに傾倒する人が増えた。

「アラエル、彼等は作られた種族。あなたの持つ知識で言うならキマイラと言い換えても良い。ただ、彼等が本来の役割を担ったのは最初の数年だけだった。どれほど技術が発展しても消えなかった神への恐怖があるからこそ、人は御使いの姿を自らの下に組み敷くようになった。精神的にも、また肉体的にも」

 私は自分の翼を何となくいじった。何というか、こうね、居心地悪い。私は首筋をぽりぽりと掻いた。
 組み敷くってああた。ああ、そういえばいつぞや、マフィアのボスさんがそんなような事言ってたっけ……なんでもえらく具合が良いのだとか。うわ、嫌な事思い出した。
 いや、いやいや、つい流されたけど、結局私とアドニアの問題はどうなっているのさ、前置きとしては長すぎる。

「せっかち」

 私の思考をまた読んだのか、そう返してくる。抑揚は少ないにしても別に感情がないわけでもなさそうだ、相変わらずぼやけて輪郭も判らないけど唇をつんと尖らせているようにも思える。
 私の言葉を気にしてか、端折ったのは判るが次の台詞は衝撃的だった。

「一夜にしてその世界は滅びた」

 カタルシスも、ましてや詩人の唄う滅びを前にした恋人の逢瀬など望むべくもない。ただ、滅びた。あっけなく。あれらを飼い慣らしたつもりで、人はただ遊ばれていただけだった。
 思えば魔法の発見そのものが──
 彼女はただでさえ少ない抑揚をさらに無くして言い、考え直すかのように頭を振った。
 おぼろな輪郭の手を持ち上げ、自らで確認するように手をにぎり、また開く。

「やがて時代が下り、その世界の数人分の遺伝子情報、魔力基盤構造、そしてプライベートなバックアップデータが遺跡より発見された」

 古代の叡智を蘇らせられるのではないかと考えた研究者達は、実験に実験を重ね、多量の犠牲のもとに成功を収めた。
 最高傑作。それはかつての世界に住んでいた学者のクローンでしかなく、記憶の転写も行われなかったが、紛れもなくそれは最高傑作だった。
 そして、一度成功してしまった組織はもう自分では止まれなくなった。
 次はもっと最高の存在を。
 次はもっと機能を特化させ。
 次は過去の記憶すら復元を。
 多量の失敗と多量の犠牲者。そして少数の成功体。
 だが、その成功した者すら、一番初めの存在には届かなかった。最初の存在が奇跡の中のような確率で生まれた偶然の成功例だったのだから。
 変化が起きたのは偶然入手されたある種族の遺体、その体から摘出された弱った卵子だった。ある研究員がその卵子を元に自らの遺伝子情報、さらに適合率の高そうな古代文明の遺伝子情報。それらを組み合わせ、培養を始めたところ、これが成功した。
 これまで躓いてきたステップを次々とクリア。
 同じような手法で培養された被検体も次々と実験を成功させた。ただ、肝心の記憶情報……プログラムにより補完された記憶情報を統合する過程においては失敗。死亡、良くて植物状態が相次いでしまう。そのプランもまた失敗だったのだろう。
 オリジナルの試験体だったアドニアは最後に回されたが、上層部が業を煮やし、結果を上げるために実験が行われることになった。

「あとはあなたの見た通り」

 セフォン研究員がアドニアを連れて離反。おそらくあの研究施設は管理局に制圧され、一つの事件として片付けられているはず。
 そう言って幽霊さんは言葉をしめくくった。

「……むぅ」

 私は床に座り込んであぐらをかく。頭痛が痛いとか言いたくなる。さすがにつながりは見えてきたが。しかし、そこから考えるとこの抑揚の少ない幽霊さんは……

「そう、私はプログラム化された、本来はアドニアと統合されているべき記憶。あなたの想起した通り、太古の亡霊のようなもの。研究所の彼等が復元しようとした存在」

 本当に幽霊さんだったらしい。ちょっとハイテクな。

「特殊業界以外では死語」
「ぐぅ……」

 なかなかいい突っ込みする幽霊さんである。その知識だって私の中から拾い上げたのだろうに。

「そんなハイテクな私は、法則の異なる空間をアドニアの遺体と共に漂った」

 根に持ったのだろうか、あるいはまさか気に入ったなんてことはないよね?
 妙な自称と共にその後の事を説明してくれた。
 そう長いものではない。というか、この幽霊さんも主体であるアドニアが居なかったので、その記憶もおぼろで、途切れ途切れらしかった。
 判ったのは、何者かの手、亡霊さんは何者か、と言いながらも何か心当たりがあるらしかったが。それによって拾い上げられ、私という異物が入れられた事。再び生命活動が再開したこと。
 それにより再び観測するようになった彼女が捉えたのは既存の知識では有り得ないことだった。
 それは乱暴ながら、ひどく繊細。アドニアの記憶すら拾い上げ、本来魔導プログラムである彼女すら巻き込み、私という異物と融合させたという。
 
 今では体の成長、第二次性徴に合わせて緩やかな記憶の整理、統合が行われているらしい。

「……まあ、自覚はあったさ。そりゃ」

 私は頭を掻いた。
 そうしているのが当たり前のように甘い物好きになっていたり……いや、過去の私……俺か? も甘党だったのかもしれないけど。
 子供に対しては……うん。目一杯好きになっているな。
 しかし、アラエル……マフィアさんたちはラエル種と言ってたか。その出元がキマイラってあんた……奇しくも以前そんな事を思ったような気もするが、身体だけでなく中身までもとは。

「それも試験管ベイビー。体は合成で出来ている、血潮はキメラで心はつぎはぎ」
「やめぇ……」

 私は額を手で押さえた。頭痛を感じる。
 前回の落とし穴といい、この幽霊さん、案外人をおちょくるの好きなんじゃなかろうか。
 以前の私がやった事があるだろうエロゲのネタとか拾い出さなくていい。大体、そんなサブカルの知識より残るなら家族とか友人とかそっちが残って欲しかった。

「無理。あなたは本来嵌らないはずの穴に無理矢理嵌められたピース」

 その際、ピースの合わない部分は私から削り落ちた、と。その辺りの感覚は何より私が一番分かっている。あのごりごり記憶が薄らいでいく感覚は二度と味わいたいものではない。
 
 私は盛大にため息を吐き、顔を上げる。真っ正面から幽霊さんを見つめた。こうして見てもやっぱり曖昧だ。見てるのだけど視れないというか。

「それで、私にこの長い夢を見せた真意は?」

 目の前を彼女はかすかに身震いをするように揺れた。
 どこかその茫洋とした視線が遠くを見つめているように思える。

「おそらく私はあなたを主体に吸収され消える。それは構わない。ただ……」

 うん、何となく判った。彼女の考えている事が何となくだが伝わってくる……最初に会った時に言った台詞が全てだったか。

「アドニアは自らの事を語る事さえできなくなった。そんな、わずか十年の時間を生きて死んで行った彼女の事を知っていてほしかった」

 アドニアの記憶も私の中に埋もれているなら、多分ふとした拍子に蘇ってきたりもするのだろうけど。
 彼女の言いたい事はそういうものではないだろう。
 この幽霊さんはプログラム人格らしいし、私が思う意志や感情とは違うのかも知れないけど……私には彼女がアドニアの死を悲しんでいるようにしか見えなかった。

 いつしかまた、認識できないうちに辺りは霧が包んだように白く霞んできた。だんだん光景がぼやけてくる。
 どうやら時間切れのようだった。

「私は忘れないよ。アドニアは勿論のこと、古代の亡霊さん。あなたのことも」

 それが聞こえたのか、聞こえなかったのか、さだかではない。
 視界は無くなり、ただ白色のみが残る。
 私の意識はそこで途切れた。


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