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No.34349の一覧
[0] 道行き見えないトリッパー(リリカルなのは・TS要素・オリ主)本編終了[ガビアル](2012/09/15 03:09)
[1] プロローグ[ガビアル](2012/08/04 01:23)
[2] 序章 一話[ガビアル](2012/08/05 12:22)
[3] 序章 二話[ガビアル](2012/08/05 12:23)
[4] 序章 三話[ガビアル](2012/08/05 12:23)
[5] 序章 四話[ガビアル](2012/08/05 12:23)
[6] 幕間一[ガビアル](2012/08/05 12:24)
[7] 一章 一話[ガビアル](2012/08/05 12:32)
[8] 一章 二話[ガビアル](2012/08/05 12:33)
[9] 一章 三話[ガビアル](2012/08/05 12:34)
[10] 一章 四話[ガビアル](2012/08/05 19:53)
[11] 一章 五話[ガビアル](2012/08/05 12:35)
[12] 幕間二[ガビアル](2012/08/06 20:07)
[13] 一章 六話[ガビアル](2012/08/06 20:08)
[14] 一章 七話[ガビアル](2012/08/06 20:08)
[15] 一章 八話[ガビアル](2012/08/06 20:09)
[16] 一章 九話[ガビアル](2012/08/06 20:10)
[17] 一章 十話[ガビアル](2012/08/06 20:11)
[18] 幕間三[ガビアル](2012/08/09 19:12)
[19] 一章 十一話[ガビアル](2012/08/09 19:13)
[20] 一章 十二話[ガビアル](2012/08/09 19:13)
[21] 一章 十三話[ガビアル](2012/08/09 19:14)
[22] 幕間四[ガビアル](2012/08/13 19:01)
[23] 二章 一話[ガビアル](2012/08/13 19:02)
[24] 二章 二話[ガビアル](2012/08/13 19:02)
[25] 二章 三話[ガビアル](2012/08/13 19:03)
[26] 二章 四話[ガビアル](2012/08/13 19:03)
[27] 幕間五[ガビアル](2012/08/16 21:58)
[28] 二章 五話[ガビアル](2012/08/16 21:59)
[29] 二章 六話[ガビアル](2012/08/16 22:00)
[30] 二章 七話[ガビアル](2012/08/16 22:00)
[31] 二章 八話[ガビアル](2012/08/16 22:01)
[32] 二章 九話[ガビアル](2012/08/21 18:59)
[33] 二章 十話[ガビアル](2012/08/21 18:56)
[34] 二章 十一話[ガビアル](2012/08/21 18:59)
[35] 二章 十二話[ガビアル](2012/08/21 19:00)
[36] 二章 十三話[ガビアル](2012/08/21 19:00)
[37] 二章 十四話[ガビアル](2012/08/21 19:01)
[38] 二章 十五話[ガビアル](2012/08/21 19:01)
[39] 二章 十六話[ガビアル](2012/08/21 19:02)
[40] 二章 十七話[ガビアル](2012/08/21 19:02)
[41] 二章 十八話[ガビアル](2012/08/21 19:03)
[42] 二章 十九話[ガビアル](2012/08/21 19:03)
[43] 三章 一話[ガビアル](2012/08/29 20:26)
[44] 三章 二話[ガビアル](2012/08/29 20:27)
[45] 三章 三話[ガビアル](2012/08/29 20:27)
[46] 三章 四話[ガビアル](2012/08/29 20:28)
[47] 三章 五話[ガビアル](2012/08/29 20:28)
[48] 三章 六話[ガビアル](2012/08/29 20:29)
[49] 三章 七話[ガビアル](2012/08/29 20:29)
[50] 三章 八話[ガビアル](2012/08/29 20:29)
[51] 三章 九話[ガビアル](2012/09/05 03:24)
[52] 三章 十話[ガビアル](2012/09/05 03:25)
[53] 三章 十一話[ガビアル](2012/09/05 03:26)
[54] 三章 十二話[ガビアル](2012/09/05 03:26)
[55] 三章 十三話[ガビアル](2012/09/05 03:28)
[56] 三章 十四話(本編終了)[ガビアル](2012/09/15 02:32)
[57] 外伝一 ある転生者の困惑(上)[ガビアル](2012/09/15 02:33)
[58] 外伝二 ある転生者の困惑(下)[ガビアル](2012/09/15 02:34)
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[34349] 二章 四話
Name: ガビアル◆dca06b2b ID:8f866ccf 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/08/13 19:03
 かつては嗚咽をこぼしながら、あるいは暖かい食卓を羨ましくも思いながら通り過ぎた道を歩く。
 右手に住宅地の小さな公園を眺め、空腹時に水で腹を満たした事を思い出す。本当にどうでもいいことは記憶に残っているものだ。
 もう家族も、友人も思い出せないというのに。
 かつてこの公園で電話をかけようなんて思った頃には覚えていたはずだった。
 しかし、その後は? 日々の生活感に埋もれたというわけではない。思い出せないことを悲しいと思うことが無くなってしまっていた。寂しいと思う時も正直あるが、今更すぎてどうも……
 私はかぶりを振る。立ち止まってしまった私を不審げにカーリナ姉が見ていた。
 その住宅地から少し逸れるとすぐに山に入ることになる。勿論、道などはなく時期も時期なので草がそう、私の膝ほどまで長く伸びていた。
 姉もまたこういう場所には慣れているのだろう、道無き道を気にする様子もないので、私も遠慮の無い速さで進んだ。
 1時間も登った頃だったろうか。景色が開け、ひどく懐かしい光景が目に飛び込んできた。
 私が目を覚ました池の傍のぽっかり開いた原っぱである。私は池の近くに根を張っている大きな木を何となく触る。そういえば布団なんかこの木にかけて干していたっけ……、なんで布団と一緒だったのか覚えてないけども。案外寝て起きたら異世界? ますます私のトリッパー疑惑が高くなるばかりだった。と言ってもそうなるとアドニアのあの夢はどういうことなのか判らなくなってくるのだが。
 私は一つ肩をすくめ、小さな池をぐるっと眺めた。
 今はそんな事より、ここの異常の方が重要だろう。

「ここが、お前が目を覚ましたという場所か……魔力が?」

 後からやってきたカーリナ姉が目を細め、ゆっくりと歩きながら観察を始めた。
 私も十分に異常を感じ取っている。それは魔法というものに慣れ、日常的に扱っている今だからこそ判る感覚である。
 場の魔力が不自然だった。
 不自然というか……なんと言えばいいのだろうか。

「底が抜けている?」
「いい表現だティーノ」

 いつの間にか周囲を見ていた姉が傍に居た。煙草を一本、懐から取り出すと今度は子供に遠慮する必要がないからか、火を付け、旨そうに吸った。香料の刺激臭が鼻を付く。この人臭い系の煙草好む癖がなければなあ……

「これがグレアム提督のよく言っているレイライン、この国の言葉では龍脈と呼ばれるそれかは判らないが、魔導師が魔力を感知してようやく気付くレベルの空間の穴……三次元上のものではないだろう、それがあるようだな」

 そう言ってカーリナ姉は小さな魔力球を作ってみせる。制御を解くと、それはふわふわと風に吹かれるように揺れ、ゆっくりとその形を崩していった。

「と、言ってもだ。私も研究者というわけではないからな。ここは記録だけして行くとしようか」

 そう言って、記録をとりはじめる。
 その間私は、懐かしさも手伝ってか、何となくその周囲を歩き回り……それを見つけた。
 池の浅いところに落ちていたそれは、大きさとしては3センチ四方くらいか、井という漢字、そんな形をしている平べったいものである。赤く見える金属だか石だかよく判らない材質でできていた。どこかで見たような……
 私がそれをつまんで、日にかざしたりして、思い出そうとしていると姉も気付いたのか。近くに来て覗き込む。

「何か拾ったのか? む……これは、この世界のなんだったか……そう。鳥居に似ているな」
「あ、言われてみれば」

 といっても本当に言われてみれば、そんな感じでもある。鳥居であれば柱に当たる部分が上に突き抜けているし。
 収集癖が疼いたようで、それは姉のバッグに入ることになったわけだが。
 どこに行ってもああして集めているのだろうなあ。私は半分呆れながらその様子を見ていた。姉のその楽しげな姿は正直羨ましいものである。

   ◇

 その後も私をガイドとして、土地の調査という事でこの海鳴市を回っていたのだが、目立った収穫は無かった。せいぜいがところ私や恭也、美由希がよく一緒に居た神社、八束神社に妙な……姉は感じなかったらしいので、気のせいかもしれないのだが。魔力でも何でもない妙な視線めいたものを感じたのみである。
 子供の足ではさすがに厳しいペースなのでデュレンはホテルに置いてきているのだが、一応の監視のために置いてきたサーチャーで確認した分だと大人しくしているようだ。丁度昼時でもあったので、昼食でも買って一端ホテルに戻ることにしたのだった。
 
 仕出しの帰りだろうか、ちょうど弁当屋の配達ケースを乗せた自転車が店の前に止まるのが目についた。
 んん? あれは。
 店の名前を見ればなるほどである。私はその配達を終えて店に入る配達員に続いてのれんをくぐった。

「いらっしゃい……ませー」

 途中間が開いたのは私の見た目で、日本語の入店挨拶で良いのか戸惑ったものかもしれない。こんな見た目をしてると日本ではたまにある。
 客が来たことを察してそそくさと奥に引っ込もうとする長身の配達員の袖口を掴んだ。

「よ、久しぶり安田」
「……は? へ? ええ……と、すいません、どこかで会った事が」

 美由希といい恭也といい、安田といい。子供の頃会った連中がまるで一目で判ってくれない……
 いや、無茶言うなって話なのかもしれないけども。
 私は少々しょんぼりした気分にもなって少し俯いた。美由希にやって見せたようにそのまま髪を後ろでまとめて見た目短くしてみる。
 これでどうだ、と言いながら顔を上げるとややあって、驚きの表情になってきた。

「ツバサ君……っすか?」
「ツバサ君ですよー?」

 安田は嘘ぉ、と目をこすった。やがて、何か考える事でもあったのか、悲しい目になり。

「モロッコ帰り……ですか。アレは取っちゃった?」

 ええと会った時から無かったけども……まあうん。
 最初から男じゃなかったんだよ。
 そんな事を教えるとしばしの間固まった。

「おーい、戻ってこい、現世はこちらだぞ」

 南部も元気だろうか……私が地球にいた頃、その見かけにも隔意を見せずに近づいてきて……最初は喧嘩を売られたようなものだったが。それなりに付き合いのあった二人だった。と言っても安田の家が弁当屋を営んでいるというのは初耳だったが。

 安田がなかなか戻ってこないので、昔を思い返していた。ようやく我に返った安田と少々世間話に花を咲かせる。どうも南部の方は進学校目指して勉強中らしかった。最近あまりつるんでいないとのこと。5年もあれば人間関係も変わっているということか。
 購入したまだ暖かい弁当を手に、何となく感慨にふけりながら帰路を急ぐ。カーリナ姉は先にホテルに帰してしまったのだが、少々時間をかけすぎた。二人ともお腹を減らしていることだろう。

   ◇

 戻ってみると二人は仲良く……いや、微妙な空気のまま、友情破壊ゲームとして名高い某鉄道ゲームをプレイしている最中だった。

「くそ、何故だ、何故ボンビーが付くのだ! アルゴリズムは把握したはず、なのに何故!? 乱数か、乱数の逆算を間違えたのか!?」
「うはは、甘ぇ! あんたの思考は読みやす過ぎるぜっ! ゲーマーを舐めてかかったのがあんたの敗因だっ」

 何とカーリナ姉が完全に遊ばれている……
 デュレン……恐ろしい子!
 ややあって、勝負がついたらしい。ぼろぼろに負けて真っ白になる姉を放置し、私とデュレンで弁当を食べ始めた。お湯が沸いたようなのでお茶を淹れてくると、ちゃっかり姉も復活している。
 そういえば、と思い出したので都合を聞いてみた。

「姉さん、姉さん。今日の夜は臨海公園で私の友人の、恭也と美由希、それにもしかしたらご家族と。ちょっと野外料理でもしようと思っているのだけど、カーリナ姉さんも一緒にどうかな? 良かったらデュレンも一緒に」

 そう誘ってみたのだが、眉をひそめ、こう言った。

「ティーノ、さすがに羽目を外しすぎじゃないか? 半分建前とはいえ仕事に来ているのを忘れたか」

 ぐは、と私は吐血した。むろん精神的に。
 その通りです、すんません。浮かれていました。納税者の皆さん……局員として申し訳ありません。そ、そうだ。その通りなのだ。久しぶりの帰郷で舞い上がっている場合では……デュレンの処遇を決める時には姉を遮って局員の義務くらいは果たさないとと思ったのに、舌の根も乾かぬうちにこのざまである。

「お、おい、冗談だ冗談……本当にお前は固くなったな、大丈夫か?」
「いや。例え冗談としても、確かに浮かれすぎだったし……うん、断りの電話を……」

 そう言って私はのろのろ立ち上がって電話機に向かったのだが。

「まぁ、待て」

 とばかりに袖口を掴まれて止められた。

「ティーノ・アルメーラ二等空士。地元の人間との円滑なコミュニケーションもまた情報収集には必要なものだからな。夕食を通して接触する機会を作ってくれたならば、その方向で進めてくれ。これは調査員としてのオーダーだ。いいな?」

 お、おお? いや、それは、この場合どうすれば。

「全く世話の焼ける奴め」

 そういうのは聞こえない声で言って欲しい。
 私は姉の勢いに飲まれるように……うん。微少ながらも出張費用頂いている身としては実に申し訳ない。流されてしまった。

   ◇

 野外料理と言っても、料理器具さえ揃っていれば厨房と遜色ない……とまではいかないものの大抵のことはできる。
 工場跡の小屋、かつて私が何かに使えるかと取っておいたものや、重くて持っていく気にならなかったものがそのまま眠っていた。
 持っていく器具はダッチオーブン、それに焼き網などの小物である。
 ……引っ張りだすと、さすがにダッチオーブンは湿気さえ少なければびくともしないらしい。塗ってあった油がさすがに駄目になっているようだったが、これは後で空焼きしてから再度油を馴染ませればよし。ただ焼き網はさすがに錆び錆びである、途中で買い込むことにしよう。炭も眠ったままだったので、これも使えそうだ。おっと、普通の鍋も忘れないようにしないと。

「来たよー。待った?」

 そう言って美由希が姿を見せた。ダッチオーブンや鍋は重いので私が抱え、細々としたものはクーラーボックス持参の美由希に持ってもらい、ひとまず目的地である海鳴臨海公園に向かった。
 臨海公園の浜辺ではバーベキューなどをする人たちも多く訪れるので、専用の管理区域を設けている。煉瓦造りの簡単な竃が既にいくつか用意されていた。管理人は私が大きなダッチオーブンを抱えて現れた時は少々驚いた様子。時期が時期なので混んでいるかとも思ったが、幾らか使用料を払い、空いている竃を予約しておく。少しの間事務所に荷物を置かせてもらって、美由希と買い出しに出た。
 時間にはまだ余裕がある。ちょっと遠いが良い食材を入れているスーパーを知っていたので、そこまで買い出しに行ったのだが、美由希も私が同性だったということが段々納得できてきたのかもしれない。当初はあったぎこちなさも抜けてきているようだ。
 そうなると今度は腕を組んできたり、髪をいじらせて、などとスキンシップも多くなってきた。買い物をしながらも楽しげな美由希を見ると、複雑な感情も湧いてくる。
 私が男だったら放っておかないのだが。恋愛感情の「れ」の字も浮かんでこない。久方ぶりに自分の身体を恨めしく思うのだった。

 一通りの調達を終え、浜辺に戻り、ひとまず割り当てられた竃に火をおこしておく。今回炭も持ってきているので、少し火が起きたら炭火にしてしまう予定だ。
 さて。久しぶりの野外クッキング開始である。腕が鳴る。美由希も自分用だろうパンダエプロンをかけて用意は万端だ。

 ダッチオーブンも綺麗にした後にたっぷりオイルを塗りつけ、炭火で熱しておく。今回ちょっとした遊び心で作ったのはダシ取り用の豚骨に豚バラ肉を塩胡椒を振りながら巻き付け、巻き付け、巻き付け。仕上げに周囲をバジルとパセリ、オールスパイスなど小麦粉に混ぜたものを表面に振り付け、ダッチオーブンに投入。少し転がしながら焼き付けたらワインを少しかけて蓋をする。さらにその蓋の上に炭をちょこちょこと乗せ、少々待てば蒸し上がりだ。
 その間に野菜を洗いに水場まで行っていた美由希が戻ってきたので、じゃあ、ブイヤベース用に一口大に切っておいてと頼む。さすがに剣術やってる家だと刃物には馴染みがあるのかどうか知らないが、なかなかこなれた手際……なのだけど。

「美由希ちゃん、美由希ちゃんや……ジャガイモの芽は取ってね、あと表面の緑色の部分は厚めに剥かないと……」
「え、え?」

 皮は綺麗に剥けているのだが綺麗に薄く剥きすぎているのだ、芽も残したままである。このままでは中毒が……それにどうやら、持ち方が……見ていて危ない。指をざっくりというのも困る。
 調理実習とか休んでしまったのだろうか? 
 美由希はしゅんとうなだれ、あうぅなどと言っている。
 何だか可愛い、ちょっと得した気分になった。
 私は美由希の後ろに回って手を回す。

「包丁の持ち方は……こう。刀を握るわけじゃないから、小指の力は抜いて? それで人差し指を包丁の背に乗せると角度が安定するんだ」
「え、あれ? 本当だ」
「そんで、ジャガイモみたいにでこぼこしている素材の皮を剥く時はあまりしっかり握らないこと」

 そう言って私は力の入っている美由希の左手を緩める。しっかり握ると逆に滑ったりもする。
 力で切らないというのは美由希も感覚では分かっているはずなのだ。こうすればすぐに慣れるはず。最初はゆっくり……皮がぶつぶつ切れてもいいのだ。怪我しないようにじっくり剥いてもらった。

「……できた!」

 美由希がこちらを振り向いて満面の笑みになる。皮を剥けただけでこの喜びようである。
 事情は判らないが、私もつられて笑顔になった。
 同じような大きさに人参とタマネギを切ってもらい、ざっと失敗のないことを確かめた。さすが、あんな持ち方でも綺麗に切れていた美由希である。切り口も鮮やかに揃っている。
 さて、その間にダッチオーブンの重い蓋を開け、火の通り具合を確認する。串で刺して透明な汁が出てくるようになっていれば……うん、平気だ。その大きな骨付き肉、通称マンガ肉である。
 出来合いのもので恐縮だが、焼き肉のタレを醤油やみりんで増量し、浸けておく。食べる前に再度焼くのだ。
 空いたダッチオーブンを鍋代わりに使い、ブイヤベースを仕立てていく。本当は魚だけで仕立てるものらしいが、それはそれ。日本人の口に合いやすい味ってものがある。
 昆布と鰹節で出汁をとり、アサリとエビとタラのブイヤベースだ。魚介類は一端引きあげて煮締まらないようにはして、その間に美由希に切ってもらった野菜にトマトペーストを投入、香り付けのハーブも入れた。そして軽くアクを取りながら野菜に火を通す。美由希にそれを見ててもらって、私は鍋に米を入れて水場に研ぎに行く。ええと、最大8人か……ひとまず6合ほど研いでおいた。
 食べ盛りの多い面子ではあるが、アルコールも用意してあるので、大人組がビールに走ると全くご飯の消費量が読めないのである。
 戻ってみてひとまずテーブル、竃とセットのような形になっているのだが。に米の入った鍋を置いて時計を見た。
 ちょっと米を炊き始めるには早い時間である。
 ひとまず鍋はそのままにしておき、思い出したのでサラダを作り始めた。と言っても先程美由希に一緒に洗ってきてもらったレタスなどの生野菜を千切って、カットしたきゅうりやトマトを散らすだけ。一番簡単なサラダだ。そして焼く用の肉の一部に下味をつけておく。やはり牛タンは塩だろう。タレでも十分美味しいとはいえ。
 さて、と私は腰に手を当ててぐるっと見渡した。
 一通りの準備はこれで整ったわけである。
 そろそろ日も暮れてきて、あと1時間ほどで恭也に言っておいた時間になる。……日も暮れ……忘れていた。灯りがなかった。肝心なところで抜けがあるのが私自身の困ったところである。
 先程管理人の事務所に行った時に見たのだが確か機材レンタルもやっていたはず、幾らか払い、ランタンをレンタルすることにした。
 よ、よし。きっとこれで万全だ。そんな事を思いながらグッとガッツポーズをしてみせる。どこかでカラスが間延びした声で鳴いた気がした。

   ◇

 皆も集まって、大人組にはビールなりワインなり、子供用にはジュースなりで乾杯をして賑やかに始まった。
 全員を知っているのは私だけというのもあって、始めのうちは紹介に忙しかった。とはいえ、姉は姉で人見知りしない……というか我が道を行く人であるし、デュレンも年齢の割に大人びていて、これは人生経験の影響か記憶の影響か判らないところでもあるけども。割とあっさり馴染めていた。
 高町夫妻も来てくれた。
 この二人はもともと明るく社交的な人たちなのだろう。私が間に入って紹介していたのも余計なお世話だったかもしれない。いや、恭也と美由希に関しては……うん。恭也は無愛想で判りにくいし、美由希は内向的なところがある。やはり私が間に入って正解だったのかもしれないけど。
 そして高町家、末の妹のなのはちゃんである。いやこりゃあ可愛い。美由希がなのはちゃんの事を語るときにニコニコ話していたのを思い出す。そう言えば恭也もどことなく自慢げだったか。

「初めまして、高町なのはです、ええと……?」

 賢い子だった。恭也や美由希からはツバサと呼ばれていたが、カーリナ姉やデュレンは私のことをティーノと呼んでいる。どちらを呼べばいいのか迷って言いよどんだのだろう。普通なら兄姉が言っていれば追随しそうなものだ。

「ん、初めましてなのはちゃん。ミドルネームがツバサなんだ。日本だとむしろこっちの方が自然だろうし……お兄ちゃんとお姉ちゃんと同じように呼んでくれればいいよ? よろしくね」

 私はそう言ってその小さな手と握手した。映画か何かの影響だろうか、何故か両手で握り返されぶんぶん振られる。
 私は愛らしさに思わずにやけそうになり、慌てて表情を取り繕った……まあ、なんだ。子供には勝てないのだ。
 ふと見やるとそのもう一人の子供であるデュレンが、なぜかなのはちゃんを見て、目が釘付けになっていた。
 カーリナ姉もそれに気付いたのか、早速と言わんばかりにからかいに入る。

「どうした? あまりの可憐さに惚れたか? 年頃は丁度釣り合い取れているが、随分と早い恋心だな」

 デュレンは我に返ると、ななな、何いってやがりゅ、そそ、そんなんじゃねべし、と激しくどもった。ついでに舌を噛んだらしい。痛そうだ。うわ……姉よ、舌噛んだお子様にオレンジジュースは鬼畜過ぎる。ホテルでゲームに負けたのがそれほど悔しかったのだろうか。
 とりあえずの紹介も終えたし、おのおの談笑したりと、場も暖まってきたので私と美由希は料理に戻ることにする。
 ブイヤベースの方もいったん出しておいた海鮮類をまた鍋に戻し、大まかな味付けは完了。煮立ったら仕上げに味を見るのでひとまず美由希に見ておいてもらい、私はご飯を炊きはじめた。と言っても竃の隅に炭火を集めて火力を強くしたところに鍋を置いただけだが。


 はじめちょろちょろなかぱっぱ、なのである。なんて、実はさほど難しく考えなくても水加減さえしっかりしてれば割と普通にご飯は炊ける。沸騰しだしたら蓋に石でも乗せて火を弱めながら様子を見ればいいだけだ。しばらく弱火で待っているとお焦げが出来はじめて音が変わるので、後は蓋を取って確認。菜箸でちょこちょこと穴を開けて蒸らしておけば美味しいご飯の完成である。
 ブイヤベースの方はというと、ん、大丈夫なようだ。美由希が指で丸を作っている。手順は説明しておいたし、仕上げの方もやってくれたか。
 最初に作って置いた半分ネタではあるものの、食べても美味しいマンガ肉を調味液から出して、既に熱されている網のはじっこの方に乗せておく。火は通っているものの、暖まるにも時間がかかるのだ。

「一通り完成っと。お疲れ美由希ちゃん」

 私は何故かはにかむ美由希にねぎらいの言葉をかけ、ブイヤベースをスープカップによそる。

「あ、手伝います」

 ん、子供には手持ちぶさただっただろうか、花火でも用意しておけば良かったかもしれない。何となく暇そうにしていたなのはちゃんが運ぶのを手伝ってくれるようだった。

「ありがと、なのはちゃん。この多めによそったのを、お兄ちゃんとパパさんに渡してね」
「はい!」

 美由希の言っていた陰などはどうも見あたらないようだが、それにしても明るくてよろしい。私もついつい、取り繕うのを忘れてしまい……

「つ……ツバサくん? 顔が大福みたいになってにっこにこしてますけど」
「お、おう!」

 美由希に注意されてしまった。どうも顔がゆるんでしまっていたようだ。こんな事ではティアナちゃんが同じような可愛い盛りになった頃にはたまらんのである。困ったものだった。
 全員にご飯とスープが行き渡り、お代わりは一杯あるからどんどん召し上がれーと声をかけておいた
 そして、メインの肉も網で早速焼き始めた。

「ほう、こいつは大したもんだ。地中海料理ながら油っぽさも海鮮の生臭さもなく。どっちかというと和食かい?」

 とは士郎さん。さすが店長である。

「んー、それだけじゃないわね、香りにワインのフルーティな香りが混ざっているわね、煮てもこれだけ香り立つのはこだわったでしょう?」

 桃子さんにはばっちり見抜かれたようだった。そうワインにも大分こだわりが……いや、香り立つか? 最初に使って煮込んでしまったのだが。
 私はちょっとその場を笑って誤魔化し、自分の分のブイヤベースを取り、味わう。

「あ、あれ?」

 確かにワインの香りが立ちすぎて……ほのかに口の中にアルコールが……これは、アルコールが飛んでいない?
 まさか……私は隣に居る美由希に聞いてみる。

「美由紀ちゃん、もしかして仕上げの時にワイン入れなかった?」
「うん、ワイン入れると美味しくなるから」

 ブランデーも料理に入れると甘くて美味しいよね、とはにかみながらおっしゃる。
 いや、まあ。お酒を仕上げに突っ込むのはもういいとする。ただ、アルコール入れた後の加熱が不十分なのは……って、なのはちゃん……?

「にゃははは……せかいがーまわるーるーるー」

 変なダンスを踊ってらっしゃる。
 静かだったデュレンがすっくと立ち上がった。顔が赤くなっている。そして目が……すわっている。

「ふはははは、かかってこい魔王なのは。この勇者が相手をしてくれるら! エスエルビーなんて怖くない、怖くないったら怖くない!」
「なーのーはーは、まおーじゃないの、世界の半分をくれてやるなんて言わないの! それよりほらデュレン君もくるくる回るー」
「うーおあぁ、離せぇー、くるくるくるくると、あ、あるれ以外と楽しい?」

 そんな事を言ってなのはちゃんとデュレンのお子様組はくるくると浜辺で手をつないで回りはじめた。どこの宗教だ、何を呼ぶつもりだ。砂浜にミステリーサークルが次々と作られていく。

「あ、あはは、どうしよこれ……」
「ははは、愉快で良いじゃないか。子供は馬鹿なことをやっているに限るさ」

 カーリナ姉は愉快愉快とばかりにグラスを傾け、にやにやしながら見ていた。
 事態を把握したらしい士郎さんと桃子さんもおやおや、とか言いながらニコニコして見ているのだが、おいおい良いのかよ。
 恭也は我関せずとばかりに肉食ってるし。

「おうぅ」

 とばかりに私は頭を抱えた。
 ゲーム調で言うならば、どこでどう変なフラグを踏んでしまったのか。
 とりあえず事態が収拾したら高町夫妻には頭を下げることにして、私も現実から遠ざかるべく、その、旨いけどアルコール度数の高いブイヤベースを頬張ることにした。


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