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No.34349の一覧
[0] 道行き見えないトリッパー(リリカルなのは・TS要素・オリ主)本編終了[ガビアル](2012/09/15 03:09)
[1] プロローグ[ガビアル](2012/08/04 01:23)
[2] 序章 一話[ガビアル](2012/08/05 12:22)
[3] 序章 二話[ガビアル](2012/08/05 12:23)
[4] 序章 三話[ガビアル](2012/08/05 12:23)
[5] 序章 四話[ガビアル](2012/08/05 12:23)
[6] 幕間一[ガビアル](2012/08/05 12:24)
[7] 一章 一話[ガビアル](2012/08/05 12:32)
[8] 一章 二話[ガビアル](2012/08/05 12:33)
[9] 一章 三話[ガビアル](2012/08/05 12:34)
[10] 一章 四話[ガビアル](2012/08/05 19:53)
[11] 一章 五話[ガビアル](2012/08/05 12:35)
[12] 幕間二[ガビアル](2012/08/06 20:07)
[13] 一章 六話[ガビアル](2012/08/06 20:08)
[14] 一章 七話[ガビアル](2012/08/06 20:08)
[15] 一章 八話[ガビアル](2012/08/06 20:09)
[16] 一章 九話[ガビアル](2012/08/06 20:10)
[17] 一章 十話[ガビアル](2012/08/06 20:11)
[18] 幕間三[ガビアル](2012/08/09 19:12)
[19] 一章 十一話[ガビアル](2012/08/09 19:13)
[20] 一章 十二話[ガビアル](2012/08/09 19:13)
[21] 一章 十三話[ガビアル](2012/08/09 19:14)
[22] 幕間四[ガビアル](2012/08/13 19:01)
[23] 二章 一話[ガビアル](2012/08/13 19:02)
[24] 二章 二話[ガビアル](2012/08/13 19:02)
[25] 二章 三話[ガビアル](2012/08/13 19:03)
[26] 二章 四話[ガビアル](2012/08/13 19:03)
[27] 幕間五[ガビアル](2012/08/16 21:58)
[28] 二章 五話[ガビアル](2012/08/16 21:59)
[29] 二章 六話[ガビアル](2012/08/16 22:00)
[30] 二章 七話[ガビアル](2012/08/16 22:00)
[31] 二章 八話[ガビアル](2012/08/16 22:01)
[32] 二章 九話[ガビアル](2012/08/21 18:59)
[33] 二章 十話[ガビアル](2012/08/21 18:56)
[34] 二章 十一話[ガビアル](2012/08/21 18:59)
[35] 二章 十二話[ガビアル](2012/08/21 19:00)
[36] 二章 十三話[ガビアル](2012/08/21 19:00)
[37] 二章 十四話[ガビアル](2012/08/21 19:01)
[38] 二章 十五話[ガビアル](2012/08/21 19:01)
[39] 二章 十六話[ガビアル](2012/08/21 19:02)
[40] 二章 十七話[ガビアル](2012/08/21 19:02)
[41] 二章 十八話[ガビアル](2012/08/21 19:03)
[42] 二章 十九話[ガビアル](2012/08/21 19:03)
[43] 三章 一話[ガビアル](2012/08/29 20:26)
[44] 三章 二話[ガビアル](2012/08/29 20:27)
[45] 三章 三話[ガビアル](2012/08/29 20:27)
[46] 三章 四話[ガビアル](2012/08/29 20:28)
[47] 三章 五話[ガビアル](2012/08/29 20:28)
[48] 三章 六話[ガビアル](2012/08/29 20:29)
[49] 三章 七話[ガビアル](2012/08/29 20:29)
[50] 三章 八話[ガビアル](2012/08/29 20:29)
[51] 三章 九話[ガビアル](2012/09/05 03:24)
[52] 三章 十話[ガビアル](2012/09/05 03:25)
[53] 三章 十一話[ガビアル](2012/09/05 03:26)
[54] 三章 十二話[ガビアル](2012/09/05 03:26)
[55] 三章 十三話[ガビアル](2012/09/05 03:28)
[56] 三章 十四話(本編終了)[ガビアル](2012/09/15 02:32)
[57] 外伝一 ある転生者の困惑(上)[ガビアル](2012/09/15 02:33)
[58] 外伝二 ある転生者の困惑(下)[ガビアル](2012/09/15 02:34)
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[34349] 二章 一話
Name: ガビアル◆dca06b2b ID:8f866ccf 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/08/13 19:02
 これまでにない最低の目覚めだったかもしれない。
 喉が張り付くように渇いている。
 寝間着が流した汗でべたつきすぎて気持ち悪いことこの上ない。
 寝ている間に体に力でも入っていたのか、筋肉がひどく硬直しているような気がする。

「うぅぁ……」

 それこそゲームか何かに出てくるゾンビのようにベッドから這いずり、転げ落ちた。

「み……ず」

 力の入らない足腰を何とか奮い立たせ、壁にもたれかかるようにしながらキッチンまでのそのそと動く。
 こんな時ぱっと水がでる水道の何と有り難いことか……コップに水を組んで、一杯……二杯、飲んだそばから吸収されていってしまうようだ。脱水症状だろうこれ、脱水少女、なんつて。いかん頭が駄目になっている。

「くああ……」

 何杯水を飲んだ頃だろうか、やっと意識がはっきりしだした。
 とはいえ本調子とは程遠い。

「え、ええと、こんな時は塩、そうだ塩だ」

 塩気といえば梅干しだ。確か去年作ったものを出しておいたはず、あった。一粒口に入れるだけでじゅわわと塩気と酸味が刺激する。
 おばあちゃんの作るかのようなそれは、塩が濃く、甘さは無い。すッッ……ッぱいッ! と思わず凄い顔になってしまう一品である。

「んんー……」

 何の言葉にもなっていないうめき声を漏らしつつ、口に梅干しを含んで床にへたりこんだ。額に当たるフローリング張りの床が冷たくて気持ちいい。しかし、我ながら間抜けな格好である。何やってんだろうか……
 いや何というか、すごい夢というか……久しぶりに見た、妙に現実的な夢。あれは本当何なのだろうか。
 今日に至ってはむくつけきおのこに、あらいやいやとくみしかれ……思わず古語だかなんだか判らない言葉になってしまった。
 ふっ……と思い出しそうになってしまった。慌てて頭を床にぶつける。ごんとばかりにすごい音がした。窓の外で小鳥が飛び立つ羽音が聞こえる。しばし呻き声をあげながら床を這いずった。
 まあ、なんだ、うん。
 ……痛かった。いろいろと。
 というか、夢? 記憶とか言っていたか、に何故私がこうまで左右されなければならないのか、ちょっと理不尽さも感じる。いや、ちょっとどころではない。あれはやばい、どれくらいやばいかっていうと危険が危険ですと、文法が崩壊してしまうほどのやばさだった。というか初めてがああいう形でとか……

「む……」

 顔をしかめる。ばっちりフラッシュバックしてきた。気持ち悪さが腹の底からこみ上げてくる。私は慌ててトイレに駆け込んでえづいた。
 反射的にでてきてしまった涙をぬぐいながら、大きくため息を吐いた。
 全く散々な朝である。
 気分をすっきりさせたいので、無理矢理にでも体を動かしていつもと同じことをあえてする。
 顔を冷たい水で洗って、まずはジュースを一杯。玄関先に無造作に置いている木刀を引っ掴んで、施設に居た頃、そして学生時代もほぼ毎日やっていた通り、素振りを行った。
 汗を流すため軽くシャワーを浴び、ミッド謹製の化粧水をぺたぺた。仕事によっては雰囲気作りのための化粧なども塗ったりするので、放っておけばそりゃもう荒れる。若いと言えど肌の手入れは欠かせなかった。
 そこまでやって、ちょっとは気分転換もできたものの、根本的には。いや、無理にでも忘れないと。
 身だしなみを整え、時間を見た。今日は早い方がいいはず。食事は……さすがに食べる気にはなれない。
 一通り忘れ物がないかを確認して寮を出た。
 旧式のカードキーを通し、階段を降りる。同じようにぼつぼつと寮から出勤する局員に朝の挨拶をしながら職場までの短い道を歩きはじめた。

   ◇

 私は一応、空士である。正確には本局航空武装隊第1210隊に所属しているのだが、そこに落ち着くまでにも少々揉める事があった。
 当初私の身分は、表向きは航空武装隊に所属し、出向扱いということで運用部に置かれていたのだ。
 行き先はもちろんのこと運用部広報課である。仕事は撮影のモデルさんである。航空武装隊のバッジをさりげに目立たせにっこりポーズ、あるいは歴戦の面々と並んでポーズであったり……それはまあ、アリアさんから聞いていたので客寄せパンダも覚悟をしていたのだが……
 その、発案者であるレティ・ロウランという人がまた一筋縄ではいかないというか、ほんとこの人使えるものは何でも使う主義である。さらにそこに時折悪ノリが絡んでくるので大変なのだ。
 ヒラ局員にも優しく、誰にでも気さくで決して個人的には嫌いではないし、本当に管理局の事を考えている人なのだが……
 最初はそうやって写真撮影だけだったのだが、段々と雲行きが怪しくなっていき、新しい企画で、と持ってきたバリアジャケットのデザインは、胸開きドレス? 背中に透き通った妖精のような羽根がついてたり、この人は私になんだ恥死してほしいのだろうか。撮ったけど。
 ……そこはさすが、人と接する事が多いお仕事なだけあって、いつの間にか言いくるめられていたというか……ペテンにかけられた気分だった。しかし、どこからそんなデザイン持ってきたのかと聞けばミッドの匿名掲示板……どうやらこの世界にもそう言ったものがあるらしい、で流れていた私のコラージュネタのようである。私はクロノが以前ちょっとだけ話題にしていた「茶がトラウマになる茶」のレシピを聞いておくことに決めた。
 次第にそんな企画は広がりを見せ、握手会だったり、水着撮影会だったり……もうグラビアアイドルにやらせておけよと言いたい。こんな私みたいなちんまいの使わないでモデルさんという専門家居るんだからそっち使ってくれよと、声を大にして言いたい。言っても、何故か話しているうちに煙に巻かれて、あれ? となってしまったりもするのだが。
 そんな生活も半年。機会を見てクロノから聞き出したお茶を飲ませたら、あら懐かしいわね、などと平気で飲み干された。私も味見したのだが、いやすごい……その糖分許容量につかの間圧倒されるも、今日こそは逃げさせんとばかりにゴネてみた。いい加減こういう扱いは勘弁してほしいと。ある程度は仕方無いとしても、だ。

「そうね、そろそろ言い出す頃だと思っていたし、はい。出向お疲れ様」
「……はい?」

 唖然としたのだが、聞いてみればどうも最初から、ゴネてきたらすんなり通すつもりだったらしい。それに十分に成果も上がったとのこと。
 何かと思えば机の上に若い女の子の写真を並べて見せる。今期の夏の空士の一次志願者だという。何でも私みたいなちんまいのでも通用するのならば……ということで女性の志願者も増えているらしい。今後のモデルには困りそうもないしね、とか言っておられる。
 ……そっちの狙いもあったんかい。まずは隗より始めよなんて故事成語を世界も離れた場所に体得している人が居るよ。
 呆れて気の抜けた合間を捉えられて、その後広報員として「任意で協力」する約束をとりつけられてしまったのは私の経験不足ではあるのだが。ちょっと管理局の海千山千具合が怖くなってきた。
 もっとも、その半年の間というものは実力不足でいきなり飛び込む形となった私への準備期間あるいは、試用期間として見られていたのかもしれない。その間に私もちょっと躍起になって本来の配属先である部隊の面々に頼んだり、馴染みのティーダに頼んだり、リーゼ姉妹が居る時は頼んだりして部隊に入っても通用するように訓練していたのだ。月1でまだ調整を続けているデバイス、ハイペリオン。ココットが言うにはミッド型アームドデバイス試作品だそうなのだが。これもぼちぼち慣れてきた。やはりソードフォームは使い勝手が悪すぎて、どこで使えば良いのか判らないけど。射撃魔法もデバイス側で調整する部分が多くなり、クロノやティーダとは逆方向、まったくテクニカルでない方向にだが進歩している。
 単純な障害物のない空中戦であるなら模擬戦成績も随分と持ち直していた。というのは、魔力による先天的なものというのがやはり大きかったせいでもある。何分、私くらいの出力でもエリートと言われている航空武装隊の平均よりは随分と上の方なのである。そうなるとティーダはもとよりクロノとか……どんだけなのさと呆れざるを得ないのだが。
 思考がそれた。さすがに試用期間うんぬんは考えすぎなのかもしれないが。うん。さすがにちょっと目立つからってヒラの一局員にそこまで考えないとは思う。多分。きっと。
 
 そんな紆余曲折とも言えないごたごたを経てやっと本来配属される部隊に落ち着けたのだった。
 ……が、しかし今日も今日で「任意で協力」することを頼まれてしまっているので、隊舎でなく広報課の事務所に移動中だったりもする。隊の方には既に話も行っていたらしく、昨日寮に帰る時など隊長に「ポスターできたらもってこいよ、50部な。オークションで売れるらしいし」などと言われた。絶対持っていかない。というか、本人の前で転売宣言堂々とすんなと言いたい。
 寮から隊舎まではせいぜい5分と言ったところである。そりゃまあ、緊急時の招集に間に合わないと困るので近場なのだが。そして寮から広報課のある庁舎までは30分である。
 ……途中で気付いた。移動時間を考えて早めに出た方がいいと思って出てきたのだが、指定された時間がいつもの出勤時間より一時間も遅いのを忘れていた。少々と言わず早すぎたようだった。まったくもって朝からペースがぐだぐだである。
 私はため息をついてもう一度時計を見る。

「そういえば……ティーダはぼつぼつかな?」

 何がと言えば帰投時間だった。一晩中お疲れさまなのだ。
 私より一年先に局に勤め始めたティーダはやはりティアナちゃんの事が頭にあるのか、そりゃもう忙しく働いて稼いでいる。元より無理せずとも持ち前の能力や魔法の才能だけで出世は間違いないと思うのだが……管理局に入った直後に親御さんがああなってしまった事もあり、出世を急いでいる。掴み取れるチャンスは全て掴むつもりらしい。疎まれるので誰もやりたがらない陸への交流出張に進んで手を挙げたり、今回にしても体の出来上がってない若年層は基本免除の24時間勤務に自分から参加していた。
 連絡をとってみれば、既に帰投し食事中ということなので合流することにしたのだった。

 本局での食事処というのはかなり多い。駐留している人員は元より、訪れる民間人というのもそりゃ凄い数になる。一発当て込んで開業しようとする人も多く、誘致の話が持ち上がると毎回倍率が大変なことになるらしい。局員は隊舎でも食堂はあるのだが、割引が効くのでこういう民間の店で食べたりする局員もまた多かった。
 着いてみればなかなか雰囲気の良いカフェである。全体的にログハウスじみた暖かそうな木製の作りで、店外にパラソルとテーブルを出し、外でも食べられるようにしている。その店外の一席にモーニングセットらしきものを食べているティーダを発見した。店員に声をかけ、何となくコーヒーを注文した。

「おはよ、それと勤務お疲れさま」

 そうティーダに話しかけ、向かいに座る。
 皿の大きさから見るに、なかなかのボリュームがあっただろうパンの残りを口に放り込み、片手を上げ答える。

「おはよう、ティーノ。そっちはこれから出勤……ムグ……かい?」
「ムグってないでまずは食べてから喋るといいよ?」

 そう言った辺りで店員が注文したコーヒーを持ってきてくれる。局員用のカードを出しその場で支払っておいた。
 未だ子供舌が治らない私は例によってミルクと砂糖を多めに入れて暖かいコーヒーを啜る。
 空の胃袋にはあまり良くはないのだろうが、やはり暖かくて甘いものは精神的に良いみたいだ。思ったより美味しく感じてびっくりした。

「ああ……安らいだ。この店のコーヒー美味しいかも。リピートするかもしれない」
「だろう? この間言ってた店なんだよここ」
「ああ、確か朝がた出ている店員の焙煎がやたら上手だとかいう……」

 そんな何くれとない雑談に花を咲かせる。
 しかしまあ、さすがにティーダも眠そうである。顔色とかは無理してる風ではないが……一度過労で倒れた事があるので油断できないのだ。それ以来何となく顔色チェックくらいはするようになってしまったのだが。ともあれ……

「そろそろティアナちゃんも起き出す頃じゃないか? お兄ちゃんが居ないと寂しいと思うよ」

 なんて水を向けてやる。物心つくようになってきたティアナちゃんはそりゃもう天井知らずな可愛さというものだった。案の定、それもそうだねと席を立って……案の定……あれ?
 何故か恨めしげにこちらを見ている。

「一昨日帰った日の事なんだけどね、お姉ちゃんはまだ? お姉ちゃんは何時にくるの? とかずっと言われててね……僕が遊んでるのに、僕が相手しているのに……」

 うぉぉ、何かゴゴゴゴゴとか地鳴りのごとき擬音がティーダの背後に見えてしまいそうだ。
 ティーダはコーヒーを一啜りするとはぁ、とため息をついて力を抜く。背後の擬音めいた幻覚も消え失せた。

「家計を支えているのは僕のはずなのに……」

 そう愚痴めいた事をこぼす。確かに局員でもそのお給料だと不動産の税金もきついのは確かだが。まんま家にあまり帰れないパパの台詞だな……
 そうすると時間が空いてはランスター家に行っている私は通い妻ポジションになってしまうわけだが……いや、やめよう、この想像は蓋をしたほうがいい。

「まーなんだ、お疲れ様だな」

 そう適当に言いつつ、項垂れるティーダの後ろに回って肩でも揉んでやろうかと手を伸ばした時だった。

「……あれ?」

 触れるか触れないかってところで、手が震える。というかむしろ鳥肌立ってる?
 普段は何とも思ってない、ティーダの男性特有の汗の臭いがいやに鼻につく。というか、へ? 何だろう、怖い?

「どうかしたのかい?」

 変な沈黙をしてしまった私を訝しんだのだろう、ティーダが振り返った。至近距離だ。無意識に首がすくまった。
 何となく、一歩離れてしまう。
 いや、何だこれ。何かおかしい。ほら、ティーダも変な顔してるだろう。
 目を閉じて息を吸って吐く。少しは落ち着いた。そう、気付けば心臓もまた早鐘を打っていた。その割には顔から血の気が引いてるわけだが。

「……いや、何でもない何でも。ちょっと今日の撮影の事を思い出しただけだよ」

 誤魔化しておくが、ティーダは不思議そうに私を見ている。こりゃ誤魔化し切れてないようだがうん。
 そろそろ時間だから、とばかりにその場を後にする。
 あまり話していると、かたかたと歯の根が合ってないのを悟られそうだった。

   ◇

 広報課に着いたときにはすっかりそんな様子は跡形もなく、平常通り、いつもと同じだった。
 ロウラン提督の目論見通り、今年は空士の難関を通り抜けた新人の女の子が多かったそうで、中でもこれはと思った人材については、今度は若い男連中に対しても撒き餌にしようということらしかった。実に腹の中真っ黒である。しかもその手の事を話して、私がげんなりするのを楽しんでいるふしもある。まいった。
 そんな、私と違って真っ向から試験をくぐり抜けた、本物の才色兼備、ぴかぴかの新人さんたちとミーティングを行い、広告の打ち方を考える。
 今回はひとまず顔合わせと企画がメインだったらしく、おざなりな撮影を終えて終了となったのだが、カメラマンの男性を意識したらやはり震えというかうん。かなりきた。

 ──男性恐怖症。
 これしか浮かばない。
 いろいろな思いが浮かんで消えた。手がわなわなと震える。
 
 まだ夜には早い。早いのだが……私は夜空に向かって思い切り叫びたい衝動に駆られたのだった。

「あほかああああああああああ!!」

 と。

   ◇

 勤務を終え、帰宅途中に本屋に寄った。
 恐怖症関連の本を買う、と言っても専門書とかはなかったので、PTSD克服だの、メンタルセラピーだの、中には相当怪しいものもあるのだが。その手のものである。
 支払いをするときに店員の女性からすごい可哀想な目を向けられた。そんな目で見ないで欲しい。
 電子書籍もあるのだが、やはり紙媒体の方がしっくりくるようだ。ぺらぺらと本を読みふけりながらのんびりと家路についた。歩きながら本を読めるのが私の48の無駄技の一つでもある。
 しかしPTSDのあたりを読んだ感じだと、どうも私の場合は微妙に違うような……それはそうか。トラウマになったのはアドニアであって私ではない……いや、そこらは考えるのをやめよう。推測ばかり思い浮かんでとりとめが無くなってしまいそうだ。
 問題は現状の事だ。症状としては男性に極端に近づくと震え、精神的不安定、驚愕反応のようなものもあるか。臭いでも似たような症状が出るが、声だけなら割と大丈夫らしい。
 そして場合にもよるが、推奨されないのがデブリーフィング……トラウマ体験を事細かに想起することらしい……どうも安心感や日常の生活感といったものを継続して与える方がいいのだとか。

「安心感に日常ねぇ……要するに普通に過ごすのが一番とか……」

 もう医療じゃない気もするが……ともあれ、あまり酷い場合にはこういう世界なので、そりゃ精神をいじる系の魔法による精神治療というのもあるが、以前受けた検査だけでもかなり厳重な監視とチェック体制の中だった。用途を考えれば当然なのかもしれないが……まあ、軽々しくそちらには頼れないだろう。
 つらつらと本を片手に考え事をしながら帰宅する。

   ◇

 私の入居している局員寮はなかなか築年数の経っている古いものである。その代わり、隊舎からは近く私のような新参でも入居することができた。古いだけに防犯システムなどもほとんどない。というか局員の寮を襲うような泥棒や押し込み強盗などがそう居るとも思えないのだが……

「出る時は閉めたはずだよね?」

 独り言でつぶやいてしまう。そりゃ、帰ったら鍵開いてましたなんて、誰でも驚くと思う。
 さすがに緊張し、何時でも対応できるようにデバイスを起動、バリアジャケットを纏った。プロテクションを即時発動出来るように準備しておき、ドアを素早く押し開け、杖状態になっているデバイスを中に向かって突きつけ……突きつけ……力が抜け、手から落とした。
 ごごん、がろんごろん。と、豪快な音が響く。形は一般局員のものと似ていながらサイズも重さも凶悪なブツである。あとで一階の人に謝りに行かなくては。
 ま、まあそれはともかくとして。

「何やってんのさカーリナ姉さぁん……」
「見ての通り腹筋だが?」

 そこにはエクササイズ特集の番組らしきものに合わせて腹筋運動をしている姉の姿があった。上半身をひねるたびにふくよかな胸が揺れる揺れる。今日はスーツ姿ではなくシャツにパンツルックなのでなおさら目立つ。
 確かカーリナ姉と以前会ったのは局の就任式の翌日くらいだったか……その時も突然現れて「あまり目出度くないが祝いだ」とか言いながらあちこちの世界で手に入れたものらしいおみやげ品をごそっと置いていったものだった。調べるとお守り系ばかりだったのは、何というかその、むず痒いものもあったが。
 しかしまた唐突に現れる姉である。いつもの事だが。
 私は一つ肩をすくめるとケトルを火にかけた。ティーポットに姉の好みであるちょっと癖の強い紅茶の葉をいれておく。お茶請けには後で食べようと思っていたシフォンケーキを出しておいた。そういえば、と思い出したので冷蔵庫に残っていた餡子をケーキに添えてみる。ドラ焼きではないが、相性は悪くないはず。なによりちょっと癖の強い紅茶はなぜか餡子との相性が良いのだ。

「カーリナ姉さん、お茶入ったよー」
「ああ、今行く」

 体をひねりながら短く返事を返した。
 テーブルを囲んでしばらくカーリナ姉の冒険話を聞く。この人、物語の脚色には欠けるのだが、その分言い方が直接的でかえってリアリティが凄いのだ。施設にこの姉が帰ると子供達もこぞって話を聞きに行っていたものだった。
 どうも、ここのところは無人の管理外世界を探索していたらしい、無人と言っても歴史がないわけではなく、かつて人が住んでいた遺跡もあり、あるいは海賊どもの根城もあり、つい襲撃……おいおい、ついで済ませないで欲しい。てへぺろで済ませないで欲しい。その後は管理局と遺跡発掘の専門家、スクライア一族に任せてきたらしいが、なんとも相変わらずの破天荒さだった。

「ティーノも活躍してるみたいじゃないか」

 そう言って顎で指したのは先程までエクササイズ番組を映していたディスプレイに私が映っていた。
 きらきらと派手で露出の高いバリアジャケットに身を包み、背中に妖精っぽい羽根をはためかせ、敵方の撃つ魔力弾の嵐をひらりひらりと華麗に避ける。にやりと笑って「今よ!」と合図を下せば、隠れていた味方チームにより敵方がバインドで拘束され、何故か私がとどめの一撃……見た目が派手なだけの砲撃に似せた魔力弾を放ち、画面に向かってニコリ。管理局員募集……と。

「ぐああ……見ないで、お願い見ないで……」
「くっくっ」

 テーブルにへたり込み、未だに慣れない恥ずかしさに悶える私を見て楽しそうに笑っておられる。身近な人に見られるのが一番辛い。
 一応出演時は髪型を変えている。むしろカラーコンタクトも外した状態で目立ってしまうオッドアイをさらけ出しているのだ。目の色が違うと皆そこを記憶するらしく、街を歩いていても……振り返られた事はあるけど、今のところCMに出ている本人だと思われたことはなかった。もっとも、前から少しでも私を知っている人には効果もないのだが。

「と、ところで今日は何か用事でもあったの?」

 少々強引に話の流れを変えてみる。すると姉は急に私に近づき私の頭に手を乗せた。
 目の前に豊満な胸がどーんと。くびれた腰が猫化の動物のようにしなる。
 こ、このモデル体型め……

「何、ティーダ・ランスターが院の方に連絡を付けてきてな。何やら調子が悪いそうじゃないか」

 そう言って私を上から覗き込む。
 あ、い、つ、か。気取られていたのはともかく、そっちに聞きに回るほど調子悪そうだったのか……?
 何となく自分の顔を触って確認してしまう。

「……ふむ、精神的なものか」
「あ」

 そう言えば無造作に買ってきた本を投げ出したままだった。
 少し考える仕草を見せたカーリナ姉だったが、まぁ、いいか、と私の頭をぽんぽんと二度軽く叩いた。
 いいんかいな、いや、追求されても私も説明に困るというものでもあるのだけど。

「今日は旅行の誘いに来たんだティーノ」

 はい? と思わず声が漏れてしまった。いやいや、自由業のカーリナ姉と違ってこちとら宮仕えですよ。そんな急に休んだりとかは……
 そんな事を言いかけた私に一枚の書類を見せた。手にとって確認してみる。

「調査出張届……行き先97管理外世界……ってええ?」
「面白いものが見つかってな、調査に行くことになったんだが、その際の随行員に本局所属の局員が必要なんだ。言ってみればお目付だが、どうだ? 久々の里帰りというのは」
「う……おぉ」
「ちなみに予定は心配しないでいいぞ。既にお前を借りられるかは聞いてから来たからな。それとも嫌か?」
「いや? いやいや、むしろ懐かしいし歓迎なんだけど、これってある意味、公私混同に当たったりとかしそうで」

 悩むところなのだ。ぺーぺーの平局員のくせに、後ろ盾に猫さんの二枚看板に加え、さらに後ろにグレアム提督というジョーカーじみた存在もいるので、かえって好き勝手は自粛しないと……という気にもなる。レティ・ロウラン提督に対してはうん、あの人は別枠である。
 いやしかし、ここまでお膳立てしてもらったわけだし、形式整えてあるのなら公私混同にはならないような。
 なおも悩む私を見てカーリナ姉はあきれたようにため息をついた。

「ティーノ、局員になって妙に頭が固くなってないか? そんな事だからそんな本に頼る事になるんだぞ? 心の問題は常に気分を和らげるのが一番効く。古巣を見るのも良いだろうさ」

 さ、旅行の準備だ。と言ってふたたび私の頭をぽふぽふ叩くのだった。

   ◇

「結局流されてしまった」

 そんな事をぼやきながら、遠ざかる本局を眺める。
 私もやはり、少々息抜きしたいというのもあったのかもしれない。姉に促されるがまま随行員として97管理外世界、地球に出張することになったのだった。
 今回は私の事で気を使わせすぎたのかというと、そうでもなく、もともと随行員としては気安いだろう私を連れ、調査には出向くつもりだったらしい。時期を考えていたところにティーダから連絡が入り、急遽手配をしたという事らしかった。
 一応、民間人枠であるカーリナ姉と一緒なので、転送魔法でひとっとびというわけにはいかない。かつて私が地球から本局に来た道筋をなぞるようにして行く事になる。地球に最も近い管理世界までは航行船で。そこからは設置してある転移装置によって行く事になる。
 相変わらず何を調査に行くのかはぼかされたのだが、その調査の依頼元は聖王医療院……日本で言う赤十字病院みたいなものだろうか、かららしい。その依頼でまさかロストロギアが転がってるわけでもあるまいし、私もある程度気を緩めていた。

 設置型トランスポーターの前で私はデバイスを持ち上げ、魔力を集中する。座標位置は私が来た時の記録が残っていたのでそれをそのまま使う事にした。
 設備の無機質なガイド音声が響き、魔力光がきらめく。一呼吸の後には私とカーリナ姉は地球に転移していた。
 出た場所はいつぞやねぐらにしていた海鳴市の少し外れにある廃工場の跡地である。様子はあまり変わっていなかった。
 私は辺りをぐるっと見渡し、深呼吸する。木々の生い茂る中にある場所なので空気が気持ち良い。

「うーわ……懐かしいな」
「ほほう、ここがティーノの古巣か。しかし……なんだ情報とは違って随分荒れている世界なんだな。戦争でも起きているのか?」

 ああ、転移してすぐにボロボロの廃工場見ればそんな台詞も出てくるか……
 私は苦笑した。
 戦争は……あー、うん。そう言えば割と世界を見れば起きているか。ただ、日本ではまだまだ平和なはずである。確か。どうもその辺の記憶が相当出てこなくなっているので、実際に調べてみないとどうとも言えないのだが。
 少し歩けばすぐ街に出てしまうような場所でもあるのだが、歩いているその間に先程の地球の情勢について軽くふれておいた。日本というのもまた独自の文化を持っている部分があるし、ちょっと細かい注意点なども歩きながら説明しておく。
 話が終わる頃には街中に出ていたので、さてどうするかと姉を見る。姉はと言えば、また興味をあちこちにそそられているようだったが、ふむ、と一つ頷く。
 まずは拠点の確保だと言うので、アクセスの良さそうな町の中心部にあるホテルに宿をとることにした。

「ああ、お金があるって素晴らしい……」

 そんなさもしいつぶやきが思わず出てしまったのは無理ないことかもしれない。いや、以前この街に居た時は本当大変だった。
 こんなホテルに泊まれる日が来るとは……などとしょうもない事でじーんとしてしまう。さほど高いホテルでもないのだけども。
 荷物をひとまずホテルに置き、町に出る。

「さて、早速ティーノに町を案内してもらお……いや、確か友人がいるのだったな、まず今日は先に回ってくるといい。私は私でいつものように情報を集めるとしよう」
「んー……うん。ごめんねカーリナ姉さん。正直それはありがたいかも。甘えさせてもらうよ」

 どうも私も気持ちが落ち着かないというか、懐かしさなのか何なのか、気分が少々浮ついているようだった。どんと甘えるが良い、とでかい胸を張る姉に感謝して私は歩き出した。

 姉と別行動になり、しばしのんびりと周囲を見ながら歩く。
 さすがに四年、いやもうじき五年か。それだけ経てばいろいろ町並みも変わるらしい。かつてはあったスーパーが無くなったり、銭湯が消えていたり、小さな総菜屋さんなども見かけなくなった。
 昔は子供の声が絶えなかった空き地も今は立派なビルになり、テナントが幾つか入っている。まったくもって時代の流れを感じる。
 私はふと思い出し、懐からはがきを一通取り出した。
 恭也や美由希とは数回手紙のやりとりを交わしていて、その中の一通に入っていたものだ。どうも彼等の実家の喫茶店でクリスマスイベントをやったらしく、仏頂面の恭也のサンタルックと着ぐるみトナカイの美由希が写っている。右下に地図が入っていたので持ってきたのだが、うん。
 あまり深く考えないでふらふら歩いてきたのだが、街頭TVを見るにどうも今日は五月はじめの某大型連休の真っ最中である。もしかしたら二人も店に居るかも知れない。
 それを抜いても一度行ってみようとは思っていたのだ。丁度良い時間でもあるし、その地図に示された喫茶に行ってみる事にしたのだった。


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