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No.34349の一覧
[0] 道行き見えないトリッパー(リリカルなのは・TS要素・オリ主)本編終了[ガビアル](2012/09/15 03:09)
[1] プロローグ[ガビアル](2012/08/04 01:23)
[2] 序章 一話[ガビアル](2012/08/05 12:22)
[3] 序章 二話[ガビアル](2012/08/05 12:23)
[4] 序章 三話[ガビアル](2012/08/05 12:23)
[5] 序章 四話[ガビアル](2012/08/05 12:23)
[6] 幕間一[ガビアル](2012/08/05 12:24)
[7] 一章 一話[ガビアル](2012/08/05 12:32)
[8] 一章 二話[ガビアル](2012/08/05 12:33)
[9] 一章 三話[ガビアル](2012/08/05 12:34)
[10] 一章 四話[ガビアル](2012/08/05 19:53)
[11] 一章 五話[ガビアル](2012/08/05 12:35)
[12] 幕間二[ガビアル](2012/08/06 20:07)
[13] 一章 六話[ガビアル](2012/08/06 20:08)
[14] 一章 七話[ガビアル](2012/08/06 20:08)
[15] 一章 八話[ガビアル](2012/08/06 20:09)
[16] 一章 九話[ガビアル](2012/08/06 20:10)
[17] 一章 十話[ガビアル](2012/08/06 20:11)
[18] 幕間三[ガビアル](2012/08/09 19:12)
[19] 一章 十一話[ガビアル](2012/08/09 19:13)
[20] 一章 十二話[ガビアル](2012/08/09 19:13)
[21] 一章 十三話[ガビアル](2012/08/09 19:14)
[22] 幕間四[ガビアル](2012/08/13 19:01)
[23] 二章 一話[ガビアル](2012/08/13 19:02)
[24] 二章 二話[ガビアル](2012/08/13 19:02)
[25] 二章 三話[ガビアル](2012/08/13 19:03)
[26] 二章 四話[ガビアル](2012/08/13 19:03)
[27] 幕間五[ガビアル](2012/08/16 21:58)
[28] 二章 五話[ガビアル](2012/08/16 21:59)
[29] 二章 六話[ガビアル](2012/08/16 22:00)
[30] 二章 七話[ガビアル](2012/08/16 22:00)
[31] 二章 八話[ガビアル](2012/08/16 22:01)
[32] 二章 九話[ガビアル](2012/08/21 18:59)
[33] 二章 十話[ガビアル](2012/08/21 18:56)
[34] 二章 十一話[ガビアル](2012/08/21 18:59)
[35] 二章 十二話[ガビアル](2012/08/21 19:00)
[36] 二章 十三話[ガビアル](2012/08/21 19:00)
[37] 二章 十四話[ガビアル](2012/08/21 19:01)
[38] 二章 十五話[ガビアル](2012/08/21 19:01)
[39] 二章 十六話[ガビアル](2012/08/21 19:02)
[40] 二章 十七話[ガビアル](2012/08/21 19:02)
[41] 二章 十八話[ガビアル](2012/08/21 19:03)
[42] 二章 十九話[ガビアル](2012/08/21 19:03)
[43] 三章 一話[ガビアル](2012/08/29 20:26)
[44] 三章 二話[ガビアル](2012/08/29 20:27)
[45] 三章 三話[ガビアル](2012/08/29 20:27)
[46] 三章 四話[ガビアル](2012/08/29 20:28)
[47] 三章 五話[ガビアル](2012/08/29 20:28)
[48] 三章 六話[ガビアル](2012/08/29 20:29)
[49] 三章 七話[ガビアル](2012/08/29 20:29)
[50] 三章 八話[ガビアル](2012/08/29 20:29)
[51] 三章 九話[ガビアル](2012/09/05 03:24)
[52] 三章 十話[ガビアル](2012/09/05 03:25)
[53] 三章 十一話[ガビアル](2012/09/05 03:26)
[54] 三章 十二話[ガビアル](2012/09/05 03:26)
[55] 三章 十三話[ガビアル](2012/09/05 03:28)
[56] 三章 十四話(本編終了)[ガビアル](2012/09/15 02:32)
[57] 外伝一 ある転生者の困惑(上)[ガビアル](2012/09/15 02:33)
[58] 外伝二 ある転生者の困惑(下)[ガビアル](2012/09/15 02:34)
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[34349] 一章 七話
Name: ガビアル◆dca06b2b ID:8f866ccf 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/08/06 20:08
 何だか流された気がする。
 こう、人気のない通りを、わざとのったり歩いていたりなんかすると強くそう思う。
 カーリナ姉の口車に乗って。あえてその、私達の誰かを狙っているとかいう小悪党をおびき出すための餌を演じる。
 人の気配の無い裏通りを通ってみたり、郊外を歩いてみたり。餌役なんてのも実は歩いている間相当緊張しているもので、普段なら疲れも全く感じないような距離なんだけども、いつ襲われるかと思いながら歩くとなかなかにこう……気疲れというか、うん。大変なもんである。
 装いも新たにされた。
 その日はジーンズにTシャツという何とも色気のない格好だったのだが、餌としても不味そう! とカーリナ姉に一蹴され、店で剥かれて着せかえられた。今の私は黒地に大きな白い蝶がデザインされたワンピースである。胸元にあしらわれたひらっとした淡い赤いリボンがモノトーンな服のワンポイントになっている。
 バレッタで纏めてあった髪も下ろした。実のところ長さが半端なので大きく開いた肩に毛先がちくちくとして痒いことこの上ない。
 何故か興奮気味なカーリナ姉にミュールも履かされそうになったのだが、そこは流石に固辞した。ハイヒールはさすがにごめんなのだ。

「なぜだ!? 院長先生に教えられていた時はドレスもヒールも気にしてはいなかったじゃないか! ああ、惜しい! 画竜点睛を欠くというものだ」
「あ、あれは開き直りも大分混じっていたし……いや、何か論点違う! これから囮やるってのに歩きにくい靴履いてどうするのさ?」

 なんて一幕もあったりしたのだが、なんとかまあ、それまで履いていたスニーカーで勘弁してもらった。
 しかしこれもよくよく考えてみれば……地元警察なり管理局なり頼めば済んだ事だったのでは……
 そうだ、そうしよう。カーリナ姉がざっと調べをつけられる位には世の中に名前が出回ってる違法グループなのだろうし、狙われている事さえ示せれば……ああ、カーリナ姉の奪ったアクセサリがあったか。なんだ、私やカーリナ姉が動かないでも何とかなりそうじゃないか。
 そう思ってカーリナ姉に連絡をとってみる。あの人は今、私という餌に食いつくような、不審な動きをする人間が居ないかを遠巻きに監視中である。
 だが、帰ってきたのはどうも思わしくもない返事だった。

「ティーノ、お前の進路にケチをつけるわけじゃないんだが……私はちょっと管理局とはな……」

 と、歯切れが悪い。昔、管理局と何かごたごたでもあったのかもしれない。
 ともあれ、最後の段階……確保した連中は管理局に引き渡すよな事を言っていたので良しとした。別に局に真っ向から喧嘩売るようなマネをしたいわけではないらしい。良かった。
 姉の実力に関しては、まあ。地元で軽く伝説を築いていたりするし、自称冒険家なんて言って未開の地に飛び込むわ、なぜか紛争調停とか、遺跡で危機に陥ったスクライア一族の救出劇などで週刊雑誌に出ていた事もある。性格はともあれ、実力の方は確かなはず……いくらせがんでも魔法の方は何だかはぐらかされて、見せてもらった事もなかったが。
 まあ、考え無しってわけではないだろう、しかし……時間がかかる。
 気付けばもうとっぷりと日が暮れそうになっている。早く餌にかかれー、この時間になれば学生だから寮に帰っちゃうぞー。なんて考えてしまう。
 そんなことを考えていたからだろうか、囲まれている事に気付かなかったのは。
 最初は前を歩く通行人がいつまでも同じ背中だった。
 次第に横や後ろにも一人二人と人数が増えてくる。学生一人を連れ攫うには随分慎重なことだった……ああ、突然見張りが居なくなっていれば慎重にもなるか。

(カーリナ姉さん、把握してる?)

 念話で呼びかける。私自身もあまり得意にしているわけではないが、身近で魔力パターンもよく知っているのでそれなりの距離でも通じるのだ。

(大丈夫だ、そこから100メートルばかり道なりに歩いたところで仕掛けてくるぞ。清掃業者を装ったバンだ。荒っぽいありきたりな手口だが、人員を使って人払いをしてあるところがなかなか手慣れているな)
(感心してないで、どう動けばいいのか指示を……)
(何もするな)

 え? と聞き返してしまった。聞こえにくかったか、ともう一度何もするなと言う。100メートルばかり歩いたところで休んでいろと。
 なんて念話を交わしてる間にそんな短い距離も歩いてしまっているわけで……
 ちょっと見回してみれば、周りはすでにカタギと思われない人ばかりで、建物なんて見ても工事中の建物であったり、明らかに廃屋だったり、シャッターの閉まった店であったりする。確かに人の目が無く、攫うポイントとしてはいい場所のようだった。
 まあ、実のところ平静に考えられる事はできているのだが、緊張感でうなじの産毛がそそり立っている。冷や汗も一筋流れてしまっているようだ。実のところ荒事に関わってしまうのは初めてではない……とはいえ、さほど経験豊富なわけでもない。カーリナ姉を信じてはいるものの、こいつらのこの圧迫感どうにかならないだろうか。
 やがて、私から見て後ろから車両の走る音が聞こえてきた。周囲のその手のお兄さん方は露骨に囲みにかかり、リーダーと思わしき男が前に出る。逃げられないようにと私の肩に両側から手が掛かった。
 黒い男だった。第一印象はそれだろう。褐色の肌に少しぼさついた黒い髪、吸い込まれそうな真っ黒な瞳。黒いレザージャケットを羽織り、黒のレザーパンツに黒いブーツである。ところどころの金具と胸に付けられたSOTMというシルバーアクセサリーがぎらぎらと眩しい。
 その黒い男は私の足元から頭のてっぺんまで眺め、眉を一つひそめると紙巻き煙草を取り出し、咥え、隣に立った男が火を着けた。
 大きく吸い込んだ煙を上に向かって吹く。そのままじろりと私を睨め付け、かすれた声で話しかけてきた。

「解せないなお嬢ちゃんよ、あんたがうちのごぶッ」

 うわぁ……と声に出そうになった。
 なんと言えばいいか。
 カーリナ姉が上空から、男の上向きの顔面の上に「着陸」した。手土産のごとく両手に一人づつ縛り上げられた男をぶら下げて。そんな荷重があの速さで頭にめり込んだら……その答えが目前にある。

「ん、到着というわけだ……どうしたティーノ唖然として。ここは危機一髪に到着した姉に惚れるシーンだろう?」

 何か失敗したか? とでも言いたいかのように小首を傾げて見せる。さらさらとマゼンダ色の髪が流れる。
 その足の下のモノがなければ、ちょっと惚れたかもしれない。
 あまりのインパクトに私のみならず囲んでいたお兄さん達も口を半開きにして驚いている。

「あ、哀れ黒ずくめ……最後の言葉はごぶッか。同情する身の上ではないが、それでも君の死に様は忘れない……」

 何か言いかけたようだが、未練を残さず迷わず成仏しておくれ。軽く手を合わせておく。

「ところで、姉さん、その縛られている二人は?」
「ああ、人が近づかないよう用にと配置されてた。こいつらの端末でも確認したわけだが、この場に居る連中がほぼメインメンバーのようだ」

 子供1人の誘拐に随分、力を入れたものだなと肩をすくめる。
 いちいちサマになる姉である。その足の下のモノがなければ。おお、ぐりっと踵を捻った。黒ずくめの腕がびくんびくんと動いている。

「……てめえか、SOTMの名前使ってあちこちに喧嘩売ってくれやがったのは……」

 かすれた声が響き、カーリナ姉の足首をがしりと手が掴んだ。
 おお生きてたのか黒ずくめ。
 さすがはバリアジャケット。念話と同じくよく使われる魔法ナンバーワンである。顔面防御もばっちりらしい。
 うん、この連中、中核メンバーは魔導師で構成しているのだ。そうでないと管理局に知られている状態でそうそう逃げ回れるわけもないのではあるが。
 しかし……

「カーリナ姉さん、もしかして前言ってた仕込みってのは……?」
「ああ。ちょっと奪ったアクセサリー、団員証っぽくもあったからな、裏社会の大手を一回り」

 ぐるっと人差し指を回してみせる。

「適当に襲った後にサイン代わりに顔面スタンプしてきたのさ」
「ひょっとしてだけど……ええと昼間姉さんがふらっと皆から離れたのって……?」

 カーリナ姉はにやりと笑うと、お前の想像通りさ、と言う。

「……え、えげつねえ」

 そんな言葉しか出ない。そんなあからさまなマーキングであれば、まず組織同士を共食いさせようとする罠じゃないかと怪しまれるだろう。ただ、それも一カ所二カ所の話である。大手を一回りと言ったが、この姉が言うのだ、何カ所を荒らしてきたのか想像もつかない。中にはメンツを潰されたという事で怒り狂い、即座に動くものもいるだろう。誰かが動けば後はなし崩しだ。
 そうして、ソウルオブザマターの連中は選択肢が狭くなる。懇意にしている大手に泣きつくか……あるいは犯人を見つけて証拠と共に突き出すか、いっそ解散してしまうか。いや、選んでいる時間もなかったのかもしれない。何しろ私につけておいた見張りが倒されて、一連の騒動が起きたのが一日足らずの中のことなのだ。
 そして誘導されるように、私という餌にばっくりと食いつく。心理的に食いつくしか選べない状況になっていたことだろう。な、何とも……まあ。

「くっそああッ! そんな目で見んなあああ!」

 気合い一発、叫び声と共に黒ずくめはカーリナ姉を押しのけて立ち上がったのだった。
 しかし、ふらっと揺れる。ああ、ダメージが一見無いように見えて脳震盪起こしてたのか……

 駆け寄る部下達を右手で押さえる黒ずくめ。
 頭を抑え、うめき声を上げつつもその狼の様な目はカーリナ姉から離さない。

「てめえら、油断すんな! こいつは魔導師だ、呆けてねえで魔法をぶち込めえッ!」

 そう言い放ち自らも魔法を編み上げるものの

「もう計算済みだ」

 黒ずくめが叫んでいた時は面白いモノでも見るかのように笑っていたカーリナ姉が、急につまらないものでも見るかのように目を細め、そう言った。
 耳のピアスを親指で弾く。

「え?」

 黒ずくめの男の撃った魔力弾は自らの味方であるはずの男に向かって飛んだ。
 部下達の撃った魔力弾はでたらめの方向に向かい、バインドはどうでもよさそうな小石を縛り付け、至近での砲撃なんて危険な真似をしようとしていた奴もいたが充填されるはずの圧縮魔力が集まらない。
 それどころか……

「やめっ! やめろ! もう撃つなああああ!」

 黒ずくめの男の魔力弾が放たれては部下が倒れていく。涙でぐちゃぐちゃのひどい顔になっている男はデバイスを手放せばいいのに、混乱しているのか地面にデバイスを何度も打ち付けて止めようとしていた。
 やがて、狂乱とも言うべき自滅劇が終われば、残っていたのは魔力弾を食らって気絶した男達と、地面にへたりこんで泣き笑いの顔のまま魔力切れで気絶したリーダーの黒ずくめの姿だった。
 何というか……うん。私の表情も呆然としていただろう。何をやったかも私には判らないんだが……本日二度目の言葉を繰り返す。

「え……えげつねえ……」

   ◇

 早速管理局に引き渡してしまおう。そう思ったのだがカーリナ姉からストップがかかった。何でも聞き出したい事があるらしい。
 とは言え、当のリーダー本人は気絶したままだし、魔力切れでの気絶は通常の気絶とは違って時間がかかる。
 最近身につけた魔法を思い出したので、持ってきてて良かったと、ポケットからカード状になっている待機状態のデバイスを取り出し、起動。
 引きずり起こして起きるまで往復ビンタをかましそうな姉を止めて、適当に平均的な設定のディバイドエナジーをかけておく。
 単純な話で、魔力切れで気絶してるなら魔力を分ければいいのだ。あとは分けた魔力が馴染めばおいおい気がつく事だろう。

「それで、カーリナ姉さん、さっきの現象は何さ?」

 まだ気がつくまで時間がかかりそうだったので聞いておく。魔法の暴発を誘因した? にしては私とカーリナ姉の場所には流れ弾の一つも飛んでこなかったのだ。身構えていた私が馬鹿みたいだった。何か凄いことをしたのだとは判るのだが、全くその凄いことの中身が判らないので悶々する。
 カーリナ姉は肩を一つすくめると、別に大したこっちゃないと前振りした上で答えた。

「答えは魔力干渉によるデバイスのクラッキングだよ」

 そう言った上で耳のピアスを親指で弾く。
 ……? 何も起こらないように思うのだが。
 姉が人差し指で指した部分を目を凝らしよく見てみる。路上のタイルの上を何か極細の光る糸のようなものが動いていた。

「ただの魔力で編んだ糸さ。ただ、私の意志に応じて割と自由に変化が効く」

 そう言うと、糸が束ねられてプードル犬の形になった。ご丁寧に尻尾が揺られて舌も動かしている。トコトコと足音が出そうなくらいリアルに作り込まれたそれを私の足元まで動かして見せた。何という操作力か……

「す……すご……何で今まで見せてくれなかったんだよ?」
「いや……本当に大した魔法じゃないんだよティーノ。大体、私には魔導師登録するほどの魔力すらないんだぞ?」
 
 少し困惑気に、困ったような笑いを浮かべながらそんな事を言う。そういえば、私の足にまとわりつきそうな魔力糸のプードルだが、感じる魔力が極端に少ない。
 いや、問題はそこではなく。いや魔力糸の技術もとんでもない操作力なのだが。私は一つ息を整えて……言った。

「デバイスのクラックなんてされたらこの世界の根本を揺るがしかねない珍事なんだけど?」

 そこなのだ。基本デバイスってのは登録された人間でしか使えないように認証機能はこれでもかという程に付けられているし、その認証パターンには接続された魔力の波長なども含まれている。インテリジェンスデバイスは多様すぎるので、もしかしたらクラッキングされてしまうような頭のネジの緩んだデバイスもあるかもしれないが……通常のストレージデバイスにおいてはそんな心配はするだけ無駄。
 ……というのが魔法世界の共通認識なのだ。常識外れというか常識というものを正面から殴っ血KILLような事をやっているのだ、この姉は。
 私の言語野が誤作動起こした様である。そんな壊れた言葉でしか表現できないような事をあっさりしでかした本人は全く困ったそぶりもなく、言い放った。

「要は計算しているだけだ。デバイスに流れる魔力に対してノイズになる程度の魔力干渉で十分用は足せる。ほれ、プログラムに割り込むのとデバイスのシステムに割り込む違いはあるがバリアブレイクと同じ要領だ」
「ばりあぶれいくと同じ要領だとおっしゃるか……」

 この姉にかかってはそれなりに高等技術なはずのバリアブレイクもばりあぶれいくと言ったものに違いない。未だにごく弱いバリアやバインドを力任せに引きちぎるしかできないディンや私の姿を見たら何て言う事か……

「……けッ、それがトリッパーとか言う連中のレアスキルという奴かよ……卑怯臭ぇ」

 カーリナ姉と話している間にリーダーが目を覚ましたようだった。
 しかしトリッパーとな、旅行者?
 カーリナ姉は思い当たるふしでもあるのか、目を細めるとゆらーりと男に向かって音もなく近づいた。いや、だから怖いって……。私からは表情は見えないが、男の顔を見るに、想像して余りある。

「私をそう呼ぶか、どこで掴んだ? 吐いて貰おうか。いや、吐かないと言うなら構わないが……長い夜になるぞ」

 その冷たい表情を見てしまったのか。
 男はひっ、とくぐもった悲鳴を漏らして後ずさりしようとするも、手足を拘束済みなのでずりずりと尻をすりながら芋虫のような後ずさりにしかなっていない。
 本当にどちらが悪党だか判ったようなもんじゃない光景である。
 
「一つ言っておくと、これはレアスキルなんてもんじゃないさ」

 カーリナ姉はそう言って男の手首を軽く掴むと、ねじった。180度。ぐるっと。回っちゃいけない方向に。
 男は目を丸く開いている。というか男の手の甲が変な方向を向いている。痛そうである。見てる私の方がぞくっと鳥肌が立ってしまった。

「ただ数字を計算しているだけに過ぎない。さて、どうだ、痛みを感じずに関節が外される感覚は?」

 男はあわあわ言っているのみである。現実味のない光景なのだろう。自分の右手首が本来回らない左側に回転していて、痛みもないのであれば。

「感想がないのなら次を行くか」
「ちょ、ちょっとカーリナ姉さん……喋るも何もいきなりそれ?」

 突っ込みを入れてしまった。
 いや、私も尋問とかはしたことなんて無いのだが、こういうのはまず話を聞いてから云々というものではなかっただろうか?
 そんな事を思っていると、顔に出ていたのか。

「ん、ティーノは優しいな。だが、こういう小悪党は手足の関節と肋骨の3,40本でも捻り折ってからの方が話が通りやすいんだよ」

 などと言って男の左手もあっさり捻る。あわあわ言っている男も恐怖で顔が蒼白になっているようだった。
 ……姉さん、そんなに人間肋骨と手足多くないです。どんだけバッキバキにしてやるつもりだったのさ。悪党に人権はないとかそういうのは管理局には通らないんだよ……
 頭痛を感じてきたので、矛先を変えてみる事にした。

「え、ええと。リーダーさんや、知ってる事を話してくれないかな? 今ならまだ穏便なうちに済みそうなんだけど」
「馬鹿者、誰が穏便になど済ませてやるものか。私の家族に手を出したのだ。10年は消えない恐怖を植え付けてやるに決まっているだろう」

 ギヌロと、漫画なら擬音が出そうな位の鋭い目で睨んだ。
 男はヒィッとばかりに芋虫移動で私を盾にするかのように後ろに隠れる。いやいや、盾にすんな。あんた、最初に見せてたあの無意味な大物臭はどこにやったんだ。

「歳も行かない女を盾にするとはやはり相当な小悪党だな、ふふ、あはは。喜べ小悪党。背骨の関節24カ所で同時進行するヘルニアの気持ちを味わえるぞ」

 魔力の糸が男の背中に絡みついた。ゆっくりと、見せつけるように。
 男は既に何というか、もう一押しで漏らしそうである。そりゃもうがっくんがっくん震えている。
 私は深くため息を吐き、精一杯の笑顔を浮かべて、できるだけ優しく聞いてみた。

「話してくれるよね?」
「ひゃ……ひゃい、は、話す……話すよ」

 落ちたな、とばかりにニヤリと笑ってみせサムズアップをするカーリナ姉。
 ええまあ、途中から気付いてました。話に聞く、尋問時の飴と鞭という役割だったのである。せめて念話でなり合図してほしいものだった。
 さて、とカーリナ姉は男に無造作に近づいて、身を固くする男の手を掴んだと思うと次の瞬間には元に手首が治っていた。
 計算とか言ってたが、何というかどういう力加減であんな真似ができるのか……魔法より魔法らしい事をしてのける人である。
 驚いたのは男も同じだったのか、目をぱちくりしていたが、落ち着く暇も与えずに情報を引き出しにかかる。

「それでは話してもらおうか。まずは何の目的でティーノに近づいたか……からだ」

   ◇

 一通り話を聞き終え……事態の面倒臭さに上を向いて夜の空に息を吐く。
 どうも星が綺麗、というわけでもなく、今日はひときわ星のまたたきが多い。明日は雨かもしれない。
 なんだかんだとしている間に時間も経ってしまって、いつしかそんな時間になってしまった。
 寮監さんにまた説教されそうである。一応メールは入れておいたが。

 話を整理してみよう。
 彼等、ソウルオブザマター側からすれば、実は私を狙っていたのではなく、狙っていたのはカーリナ姉だった。施設か私のところか、どちらかに接触すると踏んで網を張っていたら施設を張らせて居た仲間はヘマをやったらしく、地元の警察に捕まったらしい。そして私の所に張らせていた仲間が消えたと思ったらいつの間にか狩られていたのは自分たちになっていたという事のようだ。
 なぜ、カーリナ姉が狙われるかといえば、先ほどにリーダーが漏らしたトリッパーなる存在が関わっている。
 なんでもここ最近になっての話らしいが、ある人物がマフィアさんに捕まったらしい。未知の技術を知っていたり、なにやら特殊なレアスキル持ちだったそうで、組織だった連中からすると金の卵だったという。
 同じような存在もまだ居るらしく盛大に賞金をかけたらしい。死体でも持ち帰れば一生遊んで暮らせる大金だと言うから大盤振る舞いも良いところである。
 なぜ、そこでカーリナ姉が絡むかといえば、横流しされた管理局内の個人情報でのカーリナ姉の項目、佐官以上のみに閲覧が許されたデータのようで、かなりの大問題なのだが……そこにTC、トリップチャイルドなんて書かれていたデータがあったらしい。
 それを聞いた直後、カーリナ姉は苦虫を100匹はまとめて噛みつぶしたような顔になって、男の胸ポケットから煙草を勝手に拝借すると火を付け、紫煙と共にため息を吐き出した。

「薬物だ」

 と、一言。いつも颯爽としている姉にしては語気が疲れている。

「……昔、私達が実験の過程、さまざまな薬物を投与され、副作用で苦しんでいる時だ。その様子を見た研究者共が「まるで裏路地でバッドトリップでも起こしているガキ共のようだな」なんて冗談から付けられた呼び方だよ。そもそも最近の話ではない。既に10年も前の事さ」

 管理局のデータベースにそのまま登記されてるとは思わなかったがな、と肩をすくめてみせる。
 何となく空気が重たくなってしまったので、それを振り払うように私も言った。

「えーと、つまり賞金狙いでカーリナ姉さんは間違って狙われて、私は煽りを食らったと?」

 うむ、と姉が頷く。男はそっぽを向いた。目を合わせようとしない。この場合最も割を食らったのは誰なのだろうか。
 勘違いされたカーリナ姉さんか、巻き込まれた形の私か、勘違いで虎口にほいほい足を突っ込んでしまったソウルオブザマターの連中か。
 まあ、話も判ったことだし、後はこいつらを管理局に引き渡して終了である。
 私が端末を取り出して連絡を取ろうとするとリーダーの男が急に慌てだした。
 待て、待ってくれ! と叫んでいる。

「今更見苦しい。大体お前達はマフィア共に明日にでも潰される身となっているのを忘れたか? むしろ管理局の法の下で刑務でも受けていた方がよっぽど安心だろう」

 あなたの策のおかげですけどね! と突っ込みを入れなかった男は偉い。私だったら思わず口走っていた。
 しかし、当の本人はそれどころではないようで、かなり必死になって頼んでいる。

「三日、いや二日でいい、待ってくれ! 必ず出頭する。何だったら俺のホームコードも渡してもいい、頼む!」

 とまで言われて私もカーリナ姉と顔を見合わせた。
 気が抜けていたというのもあるのだろう。
 私も「何か事情でも?」なんて聞いてしまった。

「金が……俺たちには金がいるんだ」

 なんて話し始めたところによると、まあ、なんだ。ドラマや小説にはよくある話。
 元々ソウルオブザマターなんて香ばしい名前なのは、ミッドチルダで暴走族集団なんてものをやっていた時のままに使っているらしい。
 うん。暴走族である。走るというよりこちらのは飛ぶだけど。そこは世界に関係なくどこにでも若くて法律に真っ向から齧り付くのはいるようだ。
 そんな彼等であるが、流石に目立ちすぎてミッドに居られなくなった。その能力に目をつけたのがマフィアさん達で、飛行能力と管理局と追いかけっこをしていた経験を生かして運び屋として仕事をもらっていたらしい。その腕前もあって割と自由に立ち回れていたそうな。
 ただ、そんな生活をしているうちにやはりズブズブと沈んでいくのが裏社会の恐ろしさ。
 何とリーダーを張っていた男が賭博で大金を溶かしてしまい、バックに居たトロメオファミリーなるマフィアに捕まってしまったと言う。
 さらに悪い事にはこのリーダー、メンバーの名義で金を借りていたらしく、一転して借金生活である。担保として抑えられたのは家族であったり付き合っている彼女であったりしたと言う。というか露骨に人質である。返済が滞れば、それはもう言うまでもない事になるらしい。勿論そんな借金は違法も良いところなのだが、元より法の庇護下にはない彼等の事、泣く泣くその条件の下働いていたという。
 そういえば、この黒ずくめ男がリーダーかと思っていたら違った。何でも副長らしい。困難にあえぐチームをなんとか離散させずに守ってきた苦労人だったようだ。その元リーダーの事を言う時など合間合間に死ねばいいのにあの野郎と呪詛が漏れていたが。しかし話を聞くとどうも……

「その……客観的に見ると……マフィアさん達は首輪はめたかったんじゃないかな? 話の流れを読むに姉さんの情報もそのトロメオファミリーが出元だろうし、もし姉さんの表の情報、雑誌とかそういうので知っていれば失敗の可能性が高いのも判ってるだろうし」

 借金と人質だけでは完全な首輪にはならない。失敗した上でファミリーに迎え入れるという迂遠な形をとってこそ成り立つ首輪というのもあるのだろう。
 そんな事をしてでも子飼いにしたいものなのかもしれない。この姉相手だからこの体たらくだったが、魔導師としての腕でいえば私などより遙かに格上なのだろうから。
 いい金策の手段があるぞ、これで一山当ててお前達の大事な連れ合いを買い戻してみたらどうだ、とでも言って、中途半端な情報で襲わせる。失敗前提で……いやこの場合成功したら成功したで幾らでもやり口はあったわけか。どちらにしてもファミリーの方には得しかないと。
 もっとも、計算違いはカーリナ姉の力を過小評価しすぎたことか。逃げ足自慢が逃げる間もなくまとめてしばき倒されるとか悪い夢だろう。

「少し読み過ぎだな、ティーノ。ああいう連中は後付でもっともらしく装うが現時点ではさほど考えてはいまいよ」

 カーリナ姉は苦笑していた。
 しかしまあ、なんと言うか、言いますか……敵対した人間の事情なんて聞くモノではなかった、とも思う。
 夜空に向けて大きなため息を吐き出した。

「何とかできないかな、カーリナ姉さん?」

 ……言ってしまった。
 我ながら情に流されているのが判る。そのくせ自分ではいい手も思いつかなくて結局頼るはめになってしまっている事も判る。
 全く悔しい。自分の手で収まらないなら手を出すべきではないのに。
 そんな私をまじまじと見つめる姉。やがて、ふっと笑い。

「こういう時に感情的なものを優先させるか。この先苦労するぞティーノ」
「判ってるよ。てやんでー」
「てやんで?」
「エドってとこの言葉だよ。ところで策はない?」

 その前に、とカーリナ姉は前置きをして男に向き直り、長い腕を伸ばして頭をがっしと掴む。

「まず、約束をしようか。この一件が済んだら、管理局に出頭しろ。いいな?」

 コクコクと頷く男。冷や汗が額に浮いている所を見るとすっかり苦手意識がすり込まれているようだった。
 よし、と一つ頷いた姉は。そのまま続けた。たまらない笑みを浮かべて、顔を近づける。

「これから私はトロメオファミリーを潰しに行く。貴様も手伝え。金策などしなくていい。取り戻したかった全てのものを取り戻させてやる」

 そんな言葉を力強く、この姉にしか言えないような自信に満ちた口調で言ったのだった。


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