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No.34349の一覧
[0] 道行き見えないトリッパー(リリカルなのは・TS要素・オリ主)本編終了[ガビアル](2012/09/15 03:09)
[1] プロローグ[ガビアル](2012/08/04 01:23)
[2] 序章 一話[ガビアル](2012/08/05 12:22)
[3] 序章 二話[ガビアル](2012/08/05 12:23)
[4] 序章 三話[ガビアル](2012/08/05 12:23)
[5] 序章 四話[ガビアル](2012/08/05 12:23)
[6] 幕間一[ガビアル](2012/08/05 12:24)
[7] 一章 一話[ガビアル](2012/08/05 12:32)
[8] 一章 二話[ガビアル](2012/08/05 12:33)
[9] 一章 三話[ガビアル](2012/08/05 12:34)
[10] 一章 四話[ガビアル](2012/08/05 19:53)
[11] 一章 五話[ガビアル](2012/08/05 12:35)
[12] 幕間二[ガビアル](2012/08/06 20:07)
[13] 一章 六話[ガビアル](2012/08/06 20:08)
[14] 一章 七話[ガビアル](2012/08/06 20:08)
[15] 一章 八話[ガビアル](2012/08/06 20:09)
[16] 一章 九話[ガビアル](2012/08/06 20:10)
[17] 一章 十話[ガビアル](2012/08/06 20:11)
[18] 幕間三[ガビアル](2012/08/09 19:12)
[19] 一章 十一話[ガビアル](2012/08/09 19:13)
[20] 一章 十二話[ガビアル](2012/08/09 19:13)
[21] 一章 十三話[ガビアル](2012/08/09 19:14)
[22] 幕間四[ガビアル](2012/08/13 19:01)
[23] 二章 一話[ガビアル](2012/08/13 19:02)
[24] 二章 二話[ガビアル](2012/08/13 19:02)
[25] 二章 三話[ガビアル](2012/08/13 19:03)
[26] 二章 四話[ガビアル](2012/08/13 19:03)
[27] 幕間五[ガビアル](2012/08/16 21:58)
[28] 二章 五話[ガビアル](2012/08/16 21:59)
[29] 二章 六話[ガビアル](2012/08/16 22:00)
[30] 二章 七話[ガビアル](2012/08/16 22:00)
[31] 二章 八話[ガビアル](2012/08/16 22:01)
[32] 二章 九話[ガビアル](2012/08/21 18:59)
[33] 二章 十話[ガビアル](2012/08/21 18:56)
[34] 二章 十一話[ガビアル](2012/08/21 18:59)
[35] 二章 十二話[ガビアル](2012/08/21 19:00)
[36] 二章 十三話[ガビアル](2012/08/21 19:00)
[37] 二章 十四話[ガビアル](2012/08/21 19:01)
[38] 二章 十五話[ガビアル](2012/08/21 19:01)
[39] 二章 十六話[ガビアル](2012/08/21 19:02)
[40] 二章 十七話[ガビアル](2012/08/21 19:02)
[41] 二章 十八話[ガビアル](2012/08/21 19:03)
[42] 二章 十九話[ガビアル](2012/08/21 19:03)
[43] 三章 一話[ガビアル](2012/08/29 20:26)
[44] 三章 二話[ガビアル](2012/08/29 20:27)
[45] 三章 三話[ガビアル](2012/08/29 20:27)
[46] 三章 四話[ガビアル](2012/08/29 20:28)
[47] 三章 五話[ガビアル](2012/08/29 20:28)
[48] 三章 六話[ガビアル](2012/08/29 20:29)
[49] 三章 七話[ガビアル](2012/08/29 20:29)
[50] 三章 八話[ガビアル](2012/08/29 20:29)
[51] 三章 九話[ガビアル](2012/09/05 03:24)
[52] 三章 十話[ガビアル](2012/09/05 03:25)
[53] 三章 十一話[ガビアル](2012/09/05 03:26)
[54] 三章 十二話[ガビアル](2012/09/05 03:26)
[55] 三章 十三話[ガビアル](2012/09/05 03:28)
[56] 三章 十四話(本編終了)[ガビアル](2012/09/15 02:32)
[57] 外伝一 ある転生者の困惑(上)[ガビアル](2012/09/15 02:33)
[58] 外伝二 ある転生者の困惑(下)[ガビアル](2012/09/15 02:34)
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[34349] 一章 六話
Name: ガビアル◆dca06b2b ID:8f866ccf 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/08/06 20:08
 偶然も二度続けば偶然とは呼ばない。
 かといって、必然と呼ぶには差し障りがある。
 何を言いたいかというと、久しぶりに夢見が悪かった。
 妙に印象の強い電気音と泡の音、ガラスを叩く音……
 そう言えば、検査の時に精神がどうとか記憶がどうとか言われていたことを思い出す。

「ふとした拍子に突拍子もない記憶が見えることがあるかもしれませんが、その時は落ち着いて近くの掴めるものを掴んで。パニック発作とおおむね対処は同じです。落ち着けると思う事が一番です」

 ……だっただろうか、そんな事を言われた覚えがある。
 多分フラッシュバックのようなものを想定しての言葉なのだろうけど、夢で見たせいだろうか、今ひとつ実感もなければパニックにもならない。その上、ぼんやりして覚えてないことも多い。
 確かに突拍子もない記憶ではあるのだが……あまり、認めたくないような。記憶と思いたくないような。何かの実験体だった壮絶な過去とか真っ平なのである。
 性別は違えど、人並みに変人に囲まれ、人並みに仕事一筋になりすぎて彼女の一人も出来ず童貞を嘆いていた、地道な過去の方が有り難いのである。人並みの人生かどうかは議論の余地があるとしてもだ。

「うおぉ……いかん。どつぼにはまる……」

 こめかみをぐりぐり親指で押しながら洗面所に向かった。
 冷水をこれでもかと顔に浴びせて頭を冷やす。
 もはや本来の目的よりも、雑念退散とか集中したいときに振るようになってしまった木刀を引っ掴み寮の裏手に出るのだった。
 何とはなしに癖になっている、木刀を片手で地面から垂直に持ち上げてからの一振り。調子を見るための最初の一刀を振るう。
 予定より大分ずれた。
 少し前にのめるような形で振るう。
 ずれが少し直る。
 体の成長期もさることながら、翼も日々成長している。
 当然ながら、生身の翼である以上それなりの重さがあり、普通にしているように見えて実は随分重心が人とは違っていたりもするのだ。ついでに言えば関節の動きもちょっと複雑である。レントゲンを撮れば面白い写真が撮れる事だろう。
 もっともその辺がなおさら既存の剣術とか、こちらのストライクアーツとかを学ぶのに不向きにしているのでもあるが……
 それはもう身体の問題なので仕方ない部分もある。片腕の人間は片腕で扱える剣術を使うしかなく、翼なんか生えてる人間はそれ用の技を使うしかないと言う事なのだろう。それ用なんてないので、奇しくも以前恭也に言われた事、私自身の剣を作るしかない、という言葉になってきてしまうのだが……
 私自身はある種の趣味になっているのと、毎日の癖のようになっているだけで剣術に身を捧げるというタイプでもないのだが。まさか、自らの流派でも立てろと?
 そんな事を考えているうちに素振りを終え、汗を拭く頃には起きた頃の気分の悪さなどはどこかに吹っ飛んでいた。やはり我ながら適当なものである。

   ◇

 焼きたてパンの暖かみを紙袋越しに感じながら、駅前広場のベンチに陣取る。
 ミッドでも地球でも、パン屋では紙袋。そんなところは変わりないらしい。さっそく焼きたてベーグルサンドを取り出して大口開けてかぶりついた。少々行儀が悪いかもと一瞬思ったものの、考えてみれば肉体年齢おおよそ11歳、このくらいは平気だろう。何よりこの食べ方が一番美味しい。
 カリっと焼き上がったベーグルに目玉焼きとチーズ、ハムといった定番の具が挟まれているだけなのだが。冷える前に食べるのとでは味が格段に違うのだ。チーズが程よく柔らかくなり、中身がしっとりとした食感になる。ハムの代わりにカリカリにしたベーコンでもまた食感が変わって美味しいが。
 と、あっと言う間に食べ終えてしまった。
 またもや行儀が悪いとは思うものの親指についたチーズを舐め取る。
 栄養的にはサラダか何かが欲しいところだが、一食分くらいは気にしないでおく。ついでにパン屋で買った紙パックのコーヒー牛乳にストローを刺してちゅーちゅー吸いながら時計を見た。
 電車の来る時間までぴったり10分前。
 今日は、突然ながらに施設の子たち、姉たちが連れだって遊びに来るのだ。
 本当に突然である。何しろ連絡がきたのが昨晩のことなのだ。
 聞けば、納得のことで、一応施設に在籍しているはずだが、一年の半分は旅をしている自由人、カーリナ姉が丁度帰って来ているらしい。あの人はいつも唐突だ。
 一ヶ月フラっと旅に出たと思ったら一ヶ月は施設でグータラ過ごしていたり、時には先生とチェスをやっていたりもする。
 自分の理論で、よし遊びに行くぞ、なんて言って場末の酒場に子供を連れ回してみたり、お前には才能がある、なんて言って追跡術をティンバーに教えてしまったり、行動もまた唐突な人だった。
 出版社と契約を持っており、紀行文で収入を得ているようで、なんで施設に居るかと言えば……愛着もあるのだろう。アットホームな所だし。多分。とりあえず帰れば飯が出てきて風呂に入れるから、とかでない事を祈りたい。
 きっといつものごとく、何も説明しないで「よし、ティーノのところにでも遊びに行くぞ」とかそういうノリで引っ張ってきてしまったに違いなかった。
 見た目は颯爽としていて格好いいのだが、何で性格がああなのだろうか……
 赤毛……というには紫がかっている、マゼンダと言えるのだろう髪を長く伸ばし、長身をさらに細く見せてしまうような暗めの色のスーツを好んで着ている。さすがにもうじき夏に入るという時期でもあり、薄手のサマースーツのようだ……が?
 いつの間にか待ち合わせの時間になっていたようだ。構内から歩いてくる姿が見えた。ああこら、歩調考えないからデュネットが取り残されてるぞ、ああラフィ、ナイスフォロー。
 何とも危なっかしい施設の連中を見て、見てるとついあわあわしてしまう。何となく私も彼等に向かって歩き出し。

「久しぶりだな、ティーノ。およそ三ヶ月ぶりか……ん、大きくなったか?」

 唐突に抱え上げられた。高い高ーいというあの格好である。勘弁してほしい。

「そりゃ成長期だから伸びるさ……というか降ろして欲しい……というか注目、注目されてるから、降ろして高い高いしないで、にやにや笑ってないで」

 さすがに人目が恥ずかしい。ただ、手足の長さに絶望的な差があるためじたばたしかできないのが悔しすぎる。文字通り手も足もでないので困る。
 羞恥に悶える私を二度三度持ち上げると、うむ、とか一つ頷いてやっと地面に放してくれたのだった。なんだよ、うむ、ってなんだよ。ああ顔が赤い。

「ご愁傷、さま?」
「おつかれ、ティノ姉」

 デュネットとラフィが慰めてくれる。ありがてえありがてえ。いい気味だとばかりにせせら笑っているティンバーには後でワサビクッキーでも食わせる。

「カーリナ姉さん、連れてきたのはこの三人で全員? 誰か迷子になってたりとかはないよね?」
「ああ、さすがにラフィやティンバーより小さい子を連れてきたら私の手に負えないからな。そこまで常識知らずじゃないぞ?」

 カーリナ姉はその常識レベルが平均と違っている可能性があるので、困るのだが……
 聞けば施設の方は私達以外の年長組の二人、ヘクターとティズリーに任せてきたようだったので、少し安心した。
 さて、と私は目の前でパンと軽く手を叩き、気分を入れ替える。
 時間も勿体ないし行こうか、と先に立って案内する事にした。

   ◇

 この魔法学校の規模を考えると、構成そのものはわりと中途半端な事に気付く。
 自分で案内をし始めてからそんな事をふと思った。
 学園都市や学園町と呼ぶには小さいし、そこまで都市計画に練り込まれているわけでもなさそうだ。
 とはいえ、ただの学校と呼ぶには規模が大きい。年中無休の購買や各所にある学食、喫茶。服飾や雑貨などを取りそろえる店も入っているし、休日ともなれば、敷地の一画を解放してフリーマーケットとして解放したりもしている。魔導師を育てる都合、相当な補助金でも出ているのだろうか。小規模ながらも美術館や博物館。そして文学、歴史、魔法学などの資料が雑多に集まった資料館などもある。
 色々と見て回れるものが多いという意味では、案内する立場としては助かっているのだが。見る物が多いゆえか、カーリナ姉がふらっと姿を消した……まあ、いつもの事だ。
 そしてその資料館へ案内するつもりでいたのだが、入る途中でデュネットの足が止まってしまった。

「……これは、私と似て、否なる気配……ごごご」

 ふらふらと一室の方に向かって行く。擬音なんてつぶやきながら。
 ……そっちは、ええと。悪い予感がひしひしと押し寄せた。
 資料館と大雑把な呼び方をしてしまっているものの、未使用の部屋も多い建物なのでそのままクラブルームとして、生徒用にも開放されている。
 そしてデュネットが向かっているのは……「文芸部」と書いてある部屋だった。

「おや、ティーノではないですか」

 折しも文芸部のドアより出てきたのはココットである。そう言えば部員だった。
 どうしようかと思っている私を見、何か手をわきわきさせているデュネットを見、私達の後ろにたむろしているラフィとティンバーを見、ぽんと手を打った。

「部活見学ですね。なるほど、やっとティーノが私達文芸部の誇るハチマルイチ文化を手にとってくれる日がやってきましたか。でも、フフ……そんなに人を集めなくても、そう怖いものではないのですよ?」

 いや、そんな……お客さん初めてかしらん? みたいなノリと流し目で誘わないでほしい。
 妙な戦慄を感じてあうあう言っているとココットの目が輝いた。

「ふふ、さあ歓迎します。これからは同士と呼ばせて頂きましょうか」

 ココットの手が伸びる。駄目だ。今のココットは常のココットと思っては駄目だ。今私の前に居るのは腐界の住人、BLという禁断の果実を食させようとする蛇に他ならない。
 というか、確かにココットには計り知れ無いことでもあるが、未だ男性であったときの事だって根深く引きずっているというにその上、腐女子になれとかどんな新境地を開けばいいのだ私は!?

「ぐっ……」

 得体の知れない妖気のようなものに圧され、身を震わせる幼い二人を庇う。
 そんな私をさらに庇うように手で遮ったのはデュネットだった。

「ティーノ、私は部活見学してくる。行って」
「なっ、デュネット! それでは……」

 まるで……まるで人身御供ではないか。
 絶句していると少しだけデュネットはこちらを振り向き、大丈夫、と言う。

「大丈夫、私は染まらない……」
「……く、デュネット……いずれまた再会の時まで……無事でいろよ……」

 身を翻すと後ろで腐界の扉が閉まる音がした。
 唇をぎゅっと噛む。
 しばし歩き、資料館を出る。私は子供達を連れて退却に成功した。青い空が眩しい。
 ──デュネット、君の尊い犠牲は忘れない。

「なあ、ティーノー。何か感動してるとこなんだろうけど腹減ったー」

 ティンバーの子供らしい素直な訴えによってこの、なぜか始まってしまった寸劇は幕を閉じた。
 時間を見れば確かに昼に近い時間になってきている。
 学食でもいいのだが……ここは一つ子供たちの社会勉強も兼ねるとしようか。
 そう考え、一旦学校を出て最寄りのアーケード街へ行く事にする。
 デュネットには一応行き先をメールしておく。後で来れるなら合流すればいい。

 この辺りには駅前通りまで行かなくても、学生が中心の購買層になっているアーケード街がすぐ近くにある。
 といっても、そもそもが片田舎と言ってもいいので、さほど自慢できるほどでもないのだが。
 ゲームセンターやファーストフード、派手目な服を扱っている店、音楽ショップ、アクセサリーショップなどがここに集中している。
 学生にとっての息抜きの場というわけだ。休日ともなればそれなりに人も多い。
 こんな場所で社会勉強も何もないというお堅い大人もいるかも知れないが、なかなかもって子供には大切な勉強の場にもなってくれる。
 特に通常の保育所、初等科の学校に通いにくい、うちの施設の子供たちにとってみれば、基本的な社会のルールを学ぶという部分が抜けがちになってしまう。多分カーリナ姉もそういう部分を考えて時折子供達を連れ回すのだろうけど……
 ともあれ、お小遣いを渡して、決められた上限の中からどうやってやりくりするか、なんてのも実地で学べるし、こうした人混みなんてのも子供の頃に慣れておかないと大人になっても苦手になってしまうものだ。
 ついでにティンバーには女の子にあげるプレゼントの選び方でもレクチャーしておこうか。
 なんて入学時に貰ったプレゼントを思い浮かべそう考えたのだが。
 ……うん、やめた。難しいことはすっぱり忘れて楽しむことにする。
 二人の顔を見れば、それはもう綺麗に盛りつけられたデコレーションケーキを目の前にした時のような表情できょろきょろと見回している。手を放せばすぐに飛んで行ってしまいそうだった。

「二人ともー、気になった店があったなら入ってみようか」

 と、水を向けてやると、よっしゃーとばかりにはしゃぎ出すティンバー。ラフィはラフィで手を控えめに引っ張ってくるので、どうやら行きたい場所があるようだ。
 こんなに喜んでくれるなら、もう少しこういう場所に連れ出してもいいかもしれない。ただ、施設の周辺はちっとばかり田舎もいいところなので、華やかな場所に欠けるのが一番の問題でもあるが。
 早くしろー、とせき立てるティンバーを抑えつつ、財布を出す。地球換算で千円くらいだろうか、の小遣いを渡す。今日で使い切る事だけ約束させ、行きたい店というのに順番に回ることにした。もっとも、ちょっとしたお菓子や玩具でも買ってしまえば飛んでしまうような金額だが、居残り組へのお土産代を考えればこの辺がせいぜいだった。ふがいない姉を許してほしい、ティンバー、ラフィ。武装局員とかになったらもう少し頼りがいのあるところを見せてやるから。今はその……懐具合の問題がかなりあるのだ。
 私の資金も大分減ってきた。いや、元々そんなに多いものでもないのだが。地球で稼いだ現金をミッドの金に替えてもらってある。ついでに施設に居た1年の間に農作業の手伝いなどで貰ったちょっとした小遣いを地道に貯め込んだりしたものだ。
 実のところ、生活費は生活費で院長先生から振り込んできてくれるのだが……実はこっそり施設の帳簿を覗き見たことがあるので有り難いけど気軽に使えないのだ。そっくり取っておいて、弟妹たちの学費にでもなればいいと思っている。大体、私自身はわりと一人で何とかできてしまうのだから……そろそろ、アルバイトの一つでも探さないといけないとしても。
 そんな、難しい事を忘れてすっぱり楽しむ、なんて思った事もさらにすっぱり忘れ……頭を悩ませつつ店を回ったのだった。例のごとく、途中で考えてもしゃーねーとばかりに三人で楽しんだのだったが。

「ん? 何か呼んだティンバー」

 色とりどりの物が並んだ雑貨店を出ると、ふといつぞやのように名前を呼ばれたような気がした。ティンバーは覚えがないと首を振る。
 おっかしぃなーと周りを何とはなしに見ると、見覚えのある姿が見えた。

「あれ……ディンと、イケ面君?」

 ゲームセンターの入り口に設置してあるガンシューティングに興じている二人連れ。妙に熱中しているようだった。やがてリロードをミスしたディンが撃たれたようで、ディンの方の画面に大きくGAMEOVER!と表示される。あちゃー、としっかり落ち込んでいるディンに近づいて声をかけてみた。

「よ、敗北者」
「うお!? ティーノかよ……いきなり敗北者はねえだろ」
「傷を負ったものには容赦なく塩と唐辛子。私はそういう主義なんだよ」
「……ティーノってそういうキャラだったか?」
「ココットがいないので頑張ってみました」

 右頬を上げてニヤリと笑ってやる。
 しかし、こんな近くでダベっているのに隣のイケ面君はまるで動じない。ものすごい集中力である。
 というか上手い。ターゲットが登場する位置とタイミングを弁えているかのように淡々と撃ち、リロードの速さと言ったら無駄のないこと。
 結局最後までノーミスでクリアしてしまい、ぴろりーんとハイスコアを更新。それまで食い入るように見入っていたティンバーは大興奮。

「すげー! 兄ちゃんなら稼ぎ頭のヒットマン間違いないぜ!」

 ティンバー……微妙すぎる褒め言葉だそれは。
 そこで初めて私達に気付いた様子のイケ面君、この人集中しすぎだろう。

「お……ああ、確かティーノ……さんだったか。こんにちわ、良い天気だね」

 やあ、なんて手を上げて挨拶してくる。いや、何か別に不思議でも何でもない挨拶なんだけど、なんだろうか……私の中で作られていた強者のイメージが……
 思い返すと私もやっきになりすぎていた気もする。負けん気に流されたというべきか。模擬戦という勝敗を競う場でないのに勝敗を競ってしまったのはちょっとした黒歴史認定である。
 実際一対一で技量を競えば私が届く届かないというレベルではない所にいるのだろう、そんな彼があまりこう……ぽやぽやされると調子が狂いそうになるのだった。
 そんな間にもティンバーに銃のすばらしさを説いているイケ面君。

「ちょっとまて、質量兵器禁止の世界で何物騒なことを子供に話してるんですかアンタは」
「いや、なかなかこのリコイルするシステムも作り込まれててね、つい」

 今時珍しいプロップアップ式が、とか言い始める。

「そこまでにしておこうぜ、お前の銃好きは判ってるけど長くて仕方ねーや」

 ディンが途中で割って入った。どうせだから昼飯でも一緒に食おうやーと提案する。
 丁度いいかもしれない。ティンバーとラフィも途中で小さめのホットドッグを買い食いしただけだったし、そろそろランチタイムで混み合うピークも外れてきたはずだ。賛成しておいた。
 入ったのはファーストフードと喫茶店の間のような店である。
 自分で具を選べるサンドイッチとサラダ、コーヒーを頼んだ。

「ティンバー、カウンターによじ登らない! ラフィ、ホットサンドは判るけど格好いい名前だからってゴルゴンゾーラは早いと思うよ、こっちのリダーチーズが良いんじゃないかな」

 などと子供の世話を焼きつつも室外にあるテーブルに落ちつく。おおむね形式は日本のファーストフードと同じなので、コーヒーはカウンターですぐに出して貰える。客がそれほど多くない今なら料理は後で運んでくれるらしい。
 ブラックのまま一口すすり、味わい、おもむろにカップを降ろす……うむ。私は無言でミルクと砂糖を素直に投入することにした。子供舌が恨めしい。
 さて、と落ち着いたところで改めて子供達を紹介する。

「私の出た施設の弟と妹、ティンバーに、ラフィだよ。ほい、挨拶してね」

 と、二人に挨拶をさせ、次いで子供達に二人を紹介する。

「こっちの赤髪ツンツン頭がディンで私のクラスメイトだね。そんでこっちの銃オタっぷりを見せてくれた人がイケ……」

 ディンが吹いた。失敬な。私もあだ名で考えすぎて、つい出てきてしまっただけだと言うのに。この人の名前は……
 あ、あれ……えーと……そう言えば、今までの遭遇がなんだかバタバタしてて聞きそびれていた?

「ええと、どちらさまでしたっけ?」

 ……いかん、滑ったようだ。イケ面君の額から冷や汗がたらーりと。

「そ、そういえば、僕もちゃんと名乗ってなかった気がするけど、ディンからは聞いてなかったのかい?」
「あー、ええ。何となく流れで」

 私が適当に言ってた名前がそのまま何となく使われてましたとは言えない。
 やはは、と日本人らしく笑ってとぼけていると仕方ないなとでも言いたげにため息を一つ吐かれた。落ちてきた一房の茶色の前髪をかき上げる。そんな仕草をなにげにするから妙なあだ名もつけちまうんだぜー、と自己弁護だけはしておいた。

「ティーダ……ティーダ・ランスターだよ。よろしくねティーノさん、ティンバー君にラフィちゃん」
「ん、よろしく、ティーダ先輩と呼んだ方が?」
「やめてくれよ、ディンもココットも僕の事は呼び捨てなんだ。同年だろうし君もそれで頼むよ」

 了解と言い、口の中でティーダと発音してみる。ふむ……

「ちょっとディン、ティーダのこと呼んでみてくれる?」
「おぅ、なんだそりゃ?」
「いいからいいから」

 と、ディンに発音させると、うん。

「何かこの間から呼ばれる気がしてたと思ったらディンの発音のせいだったぽいね」

 ティの部分が強いイントネーションになっているのだ。紛らわしい事である。そして、ディンの発音を直させているうちに頼んでおいたランチが出てきたのでそちらは一旦停止し、食事に集中した。
 モッツァレラチーズとトマトと生ハムとレタスの相性が絶妙だ。シャクシャクモチモチとして食感も良い。この組み合わせ今度自分でも作ってみようか。
 そんな私が食事に集中している間にも、ディンとティーダは口を休めない。行儀悪いぞー。しかし、こう見ると仲良かったというのは本当らしい。性格的な相性もあるのかもしれないが。
 模擬戦の時とは裏腹にティーダは妙におっとりしているようなところがあるようだ。見た目と同じように大人びていて余裕があるだけかもしれないが。話にしろ強引に自分の話したい話に持っていくのがディンだとすれば、柔らかく、いつの間にかその話にしてしまっているのがティーダ、そんなところだろうか。

「こいつな、俺やティーノと同年のくせに一人だけ高等部三年なんだぜ? しかも今度の夏休みには空士の一次試験受けるんだってよ」

 そんな事をティンバーに愚痴るディン。いやお前……8歳児に愚痴るってどうよ……2歳しか違わないけど。
 そんなディンはぷっぷくぷーと頬を膨らましている。本気で不満そうなので聞いてみた。

「ディン、劣等感とかは乗り越えたはずじゃなかった?」
「んな簡単になくなるかよ、真っ正面から見れるようになっただけだっつうの、それにな……」

 ディンはティーダの方を向くとちょっと真面目に言う。

「ティーダ、これからも俺に限らずこういう……ええと、妬みとか羨ましいってのは付きまとって来る事になると思うぜ……なんだ、まあ、負けるんじゃねえぞ」
「……ああ、心に留めておくよ」

 麗しき友情の一幕である。

「これがドラマでよくある熱い友情という奴か……とするとこの後ティーノも含めてファミリー同士の泥沼の抗争に!?」
「しっ、ティンバー。静かに見てなさい。そんな展開にはきっとならないよ、あたしはティノ姉が唐突にバットで二人を撲殺してギャグ展開に持っていくと見た」

 二人の子供妄想家のおかげでその一幕もだだすべりになってしまった事は残念である。一応聞こえないように小声で話していたようなのでデコピンで勘弁しておいた。しかし撲殺でギャグ展開って何なのだろうか。

   ◇

 そろそろ程良い時間になってきた。ディンやティーダはこれからまた二人で遊びに行くようなので別れる。デュネットと合流して、暗くなる前に帰らせる事にした。何だかんだでカーリナ姉も含めて20より上の人が居ないメンツなのだ。そう遅くに帰らせるわけにはいかない。日が暮れるまで特訓とかしていたちょっと前の自分は盛大に棚上げである。
 お土産もしっかり持たせ。駅前でデュネットを待っていると本が詰まった重そうな紙袋を両手に抱えて、えっちらおっちら歩いてくる姿が見える。どうやらココットも見送りに来てくれたようだが、あの様子からするとどうも古本屋巡りでもしていたようだった。

「まさか、SAN値を下げて801の浸食に耐えきるとは思ってもいませんでした、また会いましょう好敵手デュネット」
「ふ……ふ……ルルイエに思いを馳せなければ危ういところだった。ココットこそ……やる……いずれ決着を」

 聞こえない。なんちゃらかんちゃらふたぐんとか聞こえてない。尽くし責め俺様受けこそ至高とか謎の呪文も聞こえてない。
 何か二人を会わせた事で変な化学反応が起きた気がするなんてことはない……ないんだ。

「ティノ姉、頭痛いの?」

 ラフィが頭を抑えてうんうん唸る私を心配してくれたようだった。ああ、癒される。半端に耳が良いのも痛し痒しなのだった。
 ともあれ、デュネットとも合流し、ホームで見送る事にする。

「それじゃ皆も元気でね。あと夏休みに入ったら私も帰る日があるだろうからその時は前もって連絡しておくよ。それといつまでも胸を揉むなティンバー」

 ごん、といかにも突っ込み待ちのティンバーの頭にいい音をさせる。

「ラフィ、連行」
「うーい」

 訳あって相当な力持ちのラフィが間延びした返事と共に軽々とティンバーを担ぐ。
 やがて出発の時間となり、電車に乗って離れていく3人をぱたぱた手を振って見送った。
 ……はて。
 3人?

「帰ったようだな」

 後ろからハスキーボイスが聞こえた。

「カーリナ姉さん……なんで居るのさ」
「ティーノは私が居ると嫌なのか? それは……寂しいな……」
「いや、引率……」
「忘れているようだがデュネットは私と同い年だぞ?」
「……そうだった」

 同じ16歳なのにデュネットは13歳に見えてカーリナ姉は19歳に見える。不思議!
 それはともあれ、何か用事でもあったのだろうか。
 私が首をかしげると、ふふんと笑い、ジップ付きビニールに入ったアクセサリーを取り出した。

「エス、オー……SOTM?」

 そんなアルファベットがゴテゴテとデザインされているシルバーアクセサリーだった。Oの部分が頭蓋骨のデザインになっていて、何というかこう、ふつふつと若い頃を思い出して夕日に向かって改造バイクを走らせてしまうような……
 そのアクセサリーを私に見せ終わると、無造作にポケットにしまった。
 カーリナ姉の琥珀色の目が細められ、唇は肉食獣のような笑みを浮かべる。
 この人たまにこの笑みを無自覚でやるのだが、正直結構怖い笑みである。何というか殺す笑み? 一応紀行文とかを飯の種にしているはずなのに、こんなに殺伐とした顔をしてていいのだろうか。

「ティーノを監視していた男が持っていたものさ。うちの子達がいろいろ事情持ちだというのは知っているな?」

 そりゃまあ、私もある意味その一人であるし。肯定の意を込めて一つ頷いて先を促すと、また先程のアクセサリーを取り出した。

「これはソウルオブザマターとかいう小悪党どものシンボルマークさ。単に頭文字を集めただけのようだけどね……最近うちの子達の誰かを狙い始めたらしい。施設の方は既に対処済みだし、ああ見えて隣近所も頼りになる。ただ一人だけ離れて暮らしている子が一番危ない」

 それで私が来たってわけだよ。なんて肩をすくめて見せる。有り難いのだがなんともむず痒かった。
 いつものごとく考え無しに来たとか思っててすんませんした。
 そしてソウルオブザマターとか、何というかひしひしと香ばしい気がしないでもない。異端は異端を呼び寄せるというあれか? 私という香ばしい存在は香ばしい連中を引き寄せるのだろうか?
 翼なんて真っ先に隠してるしオッドアイだってカラコンで隠しているというのに……がっくりである。

「何を落ち込んでいるかは知らんが、先を考えてみるとしようか。見張りが倒された。現時点で相手が持っている情報は、現在ターゲットは外出中であり、連れがいるかもしれないが、管理局員というわけでもない」

 さて、どういう行動に出ると思う? なんて聞いてきた。
 ええとそりゃ、見張りも定時連絡くらいはしてるだろうし、それが途切れれば様子見に行くよね。で、その口ぶりだと多分カーリナ姉がまあ、畳んでしまったんだろう。かといって、現在ターゲットはかなり無防備な状態で、学校という守られてる場所から離れた場所に居て……うん。言いたいことはなんとなく判った。

「判ったようだなティーノ。ついでの仕込みもしてある。連中も焦って動き出してる頃合いだ。一匹残らず炙り出すぞ」

 そう怖い笑みを浮かべながらカーリナ姉は耳のピアスを弾く。ちりんと高い音が鳴った。


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