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No.34337の一覧
[0] 【習作】VRMMO[tnk](2012/08/09 05:41)
[1] 2[tnk](2012/08/09 06:21)
[2] 3[tnk](2012/08/13 22:24)
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[4] 5[tnk](2012/08/21 19:00)
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[34337] 2
Name: tnk◆dd4b84d7 ID:4cfc89a3 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/08/09 06:21




 どうしよう。

 動揺し、ざわめく数多のプレイヤーたちを眺めながら、僕は呆然としていた。彼らは知り合いであろう何人かで集まって話し合う。いっいなにがおこったんだ、いたずらじゃないのか、これからどうする。話し合える相手がいるのがうらやましく思えた。

 そうだ、サクとクズに連絡を。

 もし二人がログインしているなら合流するべきだ。僕は急いでメニューを立ち上げてゲーム内用のメールをとばす。

『合流しよう。時計塔の下で待つ。外見は黒髪黒目体型普通初期装備大剣持ち』

 メールは無事送信された。つまり二人とも以前と変わらないIDでこのゲームをプレイしているということだった。
 僕は合流場所に指定した時計塔の下に移動する。周囲にはもちろんたくさんのプレイヤーがいたが、僕と外見が似ているプレイヤーは見あたらなかった。初期装備大剣持ちといううだけでかなり絞られるのだ。これなら二人も僕を見つけ出せるはずだ。 
 二人を待つ間、僕はようやく冷静さを取り戻した頭で考えはじめる。
 まず当たり前のように考えるのは、この状況が本当なのか、それとも嘘なのか。『アンノウン』の事件もある。技術的にはこの状況を実現することが可能かもしれない。だけど不可解なことがたくさんあった。その一つに。

 AIに人権を。

 それは何があっても絶対に通るはずのない要求だった。AIに満ちたこの世界で、AIに人権なんて渡したら収拾がつかなくなる。それは誰が考えてもわかることで、犯人が考えても当然分かることだった。絶対に通るはずもない要求をなぜ? わからない。
 これだけじゃない。機械音声の言葉の中には、その真意を読みとることができないものが数多くあった。

 だとしたらいたずら、つまりこの状況は嘘?

 でもそう考えるのは早計だった。犯人がただのバカの可能性もあったし、ただの愉快犯の可能性もあったし、機械音声の言葉には別の目的があるの可能性もあった。今ある情報だけではそこから答えなんて出せそうにない。

 考え方を変えよう。この状況が嘘だと仮定しよう。そして僕はその嘘を信じてしまう。そうするとどうなる? 何か不都合があるか?
 僕はレベル上げに励むだろう。なんせあと三時間弱で、レベル最低の僕はまず間違いなく死んでしまうのだから。そうして三時間後、嘘だと仮定したこの状況で僕が死ぬことはない。もちろん誰も死なない。
 つまり――この状況を信じたところで、僕が失うであろうものは、三時間足らずのレベル上げに費やした時間、たったそれだけだった。
 だとしたら信じよう。この状況を本当だと仮定して動こう。

 そうと決まれば。

 僕はメニューを立ち上げて、その中からランキングを表示する。ランキングはいくつかのカテゴリに分かれていたが、いま必要なのはレベル順ランキングだった。
 僕はそれを表示し、自分のIDを検索する。『10000人中9961位』
 それが僕の順位だった。僕と同レベルのプレーヤーが40人いるということがわかる。

 たったそれだけ?

 予想より少ない。僕はあわててランキングを上にスクロールする。だが僕の一つ上、9960位もレベル1だった。でも僕と違うところがある。順位の横に小さな数字で取得経験値が表示されているのだ。
 なるほど。レベルが同じなら取得経験値の差で順位が決まるというわけか。
 そのままランキングをスクロールし、レベル1のプレイヤーを数えると全部で108人いた。だいたい予想通りの数字で、僕はほっと一息ついた。
 レベル1からレベル2に上げるためにかかる時間は、効率的な狩り場であればだいたい二時間らしい。
 今日のボーダーはレベル2、レベル3なら間違いなく安全圏といったところだろう。
 そこまで考えて僕は我に返った。考えるのに夢中になっていた。僕に与えられのはたった三時間なのだ。
 時計を見る――九時二十分。
 あと二時間四十分しかない。だけど周りには依然として数多くのプレイヤーがいた。一瞬ひやりとしたけど、出遅れたわけではないようだ。
 と、いつの間にかメールを受信していた。僕はメールを開く。

『ごめん、先行く』

 サクからの返信だった。

「あのやろう」

 クズからの返信はない。周りにそれらしいプレイヤーもいない。どうせあいつも先に行ったんだろう。
 こんな状況だというのになんて協調性のない奴らだろうか――と考えるが、同時に納得もしていた。二人とも自分の実力に絶対の自信を持っていて、だからこそ他人と足並みをそろえるということが苦手な人間だった。それに、自分も間違いなく彼らと同種の人間だったから。

 仕方ない、一人で動くか。僕はメールを閉じ、ランキングのタブも閉じようとして、それに気づいた。
 ランキングが更新されている。
 僕の順位は9981位。ほんの僅かの間に20位も下がっていた。嘘だろ、周りにはまだこんなにたくさんの人がいるんだ。こんなに早く動き出しているわけないだろ。
 だけど彼らをよく見ると、自分の考えが間違っていることに気づく。彼らは動揺していた。だけどそれでもどこかに余裕が感じらて、そして高そうな武器防具を装備していた。安っぽい装備のプレイヤーなんて僕だけだ。
 この広場に残って話し合いに興じている彼らは、まず今日死ぬことのない安全圏にいるプレイヤーたち。そして安全圏にいないプレイヤーたちは、いち早く経験値を得るため動きだし、もうこの広場にはいないのだ。

 完全に出遅れた!?

 僕は駆けだした。低レベル帯の効率のいい狩り場は調べてある。そこに行けばまだ間に合う!

 本当に――そうなのか?

 僕の足はだんだんと遅くなっていく。効率のいい狩り場でいいのか?
 僕が調べた程度の情報は知られているだろう。当然、多くのプレイヤーがその狩り場へ集まるはずだ。そうなれば狩りの効率は大きく下がる。さらに僕は出遅れている。同じ狩り場で、同じように狩り続けていれば、午前零時に死んでいるのは僕。このゲームは午前零時までの三時間で、どれだけ経験値を得ることができるかを争うデスレースなのだ。
 僕の足は完全に停止した。人が集まる効率的な狩り場じゃだめだ。他の選択肢を。
 少し難度の高い狩り場の情報を思い出した。その狩り場の敵は強い。だけどスマートなプレイができれば時間当たりの期待値は高く、モンスターが集団で襲ってくることもない。ソロで攻略する僕にとっては都合のいい場所だ。推奨レベルは6以上。だがこのゲームでレベルよりプレイヤー自身の実力が重視されている。僕ならいける。
 僕は再び駆けだした。この世界の中心、教皇領――闘技場に向けて。

 

 闘技場は円柱状の高い塔だった。ローマのコロッセオに似ていて、だけどそれよりもずっと高い。己の力を証明する場所。
 僕は大きな門をくぐって中に入り、さっそくランクマッチにエントリーする。ランクマッチはRPが近い相手とランダムでマッチングする。RPはランキングポイント。ランクマッチで勝利すると上がり、敗北すると下がる。強さの指標になるポイントだ。僕が闘技場に来た目的は、このRPを100以上に上げるためだ。
 というのも、闘技場では敵に勝利しても経験値がもらえない。もらえるのはRPと僅かなお金だけ。もともと僕がこのゲームに惹かれた理由の一つがこのランクマッチだったが、今この状況で経験値のもらえないバトルなんてあまり意味がない。
 だけどRPには他に価値があるのだ。RPはこの世界での強さの象徴で、その値に応じてNPCの反応が変わったり、利用できるサービスも変わる。そしてなにより、RPを上げることで挑戦できるようになるダンジョンやクエストが数多くあるのだ。例え対人戦に興味がなくとも、RP500までは最低でも上げておけ。それがこのゲームの常識だった。
 僕が行きたい狩り場はRP100以上しか行けない場所だった。だからまずこの闘技場でRPをためる必要がある。
 僕は対戦相手を待つ間、周りを見渡してみる。大理石の壁の高いところには、大きなモニターのようなものが掛けられて、そこに試合の様子が映されている。壁の低いところにある小さなモニターがあって、それを指で触って操作すると、選手の情報を見たり、ランクマッチのエントリーをすることができる。文明は中世ぐらいの設定であるはずなのに、これはいささかオーバーテクノロジーではないだろうか。それとも魔法的ななにかの恩恵だろうか。などと、ゲームに突っ込むのは野暮かもしれない。
 そんなことよりも。僕はあらためて周りを見る。沢山の人がいて、僕は注意深く彼らを観察する。彼らがNPCかそれともPCか、それを知りたかった。
 ランクマッチで死亡した場合は、デスペナルティがない。何事もなかったかのように元いた場所に戻され、RPが下がるだけだ。だけど死亡は死亡としてカウントされるだろう。おそらくランクマッチで死亡してもウィルスは起動するのだ。
 対戦相手がNPCならいいが、PCだった場合、僕は人を殺してしまうかもしれない。そんなのごめんだった。経験値が何よりも大切なこの状況で、経験値が得られない闘技場に、真っ先にくる人は少ないだろう。だけど絶対いないとは限らないのだ。
 注意深くPCの影を探している間に、対戦相手が決まり、僕は光の輪に包まれて闘技場に転送される。結局、NPCの動きがリアルすぎて、このゲームをはじめたばかりの僕には、NPCとPCを見分けることができなかった。
 


 フィールドは荒野の一角だった。辺りには垂直に切り立った岩山が連なっている。アメリカのグランドキャニオンを彷彿とさせる崖の上に僕はいた。足場は直径10メートルほどの楕円状で、僅かなものだった。そのすぐ向こうは奈落の底だ。
 対戦相手はオーソドックスな戦士のようだ。簡素な直剣を両手に構えている。

「冒険者か?」

 と僕は訪ねた。イエスと答えればPCだ。

「いいや、傭兵だ」

 彼の答えは簡素で、僕が望んだものだった。つまり彼はNPC。
 僕は彼のRPを確認する。ランクマッチ中はわかりやすいようにその数値が視界上部に表示される。僕のRPは当然0、そして彼のRPは137。これも僕の望むべきものだった。RPが高い敵のほうが、勝ったときに僕がもらえるRPが高くなるのだ。時間が限られているこの状況ではなるべく少ない戦闘でRPを稼ぎたかった。
 僕は背中から大剣を抜く。そして前のゲームのように正眼に構える――ができない。剣先が落ち、赤い岩肌に傷をつける。あまりにも重すぎるのだ。僕は脇に抱えるようにして大剣を構え直した。これでどうにか様になった。が、剣を振ことなんてとてもできない。

 僕は頭の中で唱える。

『スキル――身体強化』

 ふっ、と身体が軽くなった。最初から修得している三つのスキルのうちの一つだ。これを使うことで筋力が強化され、大剣を振ることもできるだろう。だけどそれには必要なものがある。
 視界上部には二人分のRPと僕のHP、その下にAPというものが表示されている。このAPはアウラポイントでスキルを使用すると消費する。現在その値はじわりじわりと減少していた。もって五分といったところだろう。
 僕はいったんスキルを解除し。試合が開始するのを待った。
 前のゲームでの経験は本当に生きるだろうか。試している時間なんてない。ぶっつけ本番だ。
 だけどもし――もし経験が生きなかったら。
 この試合で僕は負けるだろう。僕は死ぬのだ。

 どこからともなくラッパの音が聞こえてきた。試合開始!
 すぐに対戦相手の戦士が間合いを詰めてきた。まるで躊躇がない動きだ。
 彼が僕の間合い入る。直後、僕は身体強化を唱え、大剣を横になぎ払った。
 戦士が直剣で防御する構えを取る。しかし、大剣はその直剣に触れた瞬間、すさまじい音をたてて戦士ごと吹き飛ばした。

 チャンスだ!

 僕は体勢を崩した戦士に追い打ちをかけようとした。だがそれはできなかった。身体が敵と別の方向に流されていくのだ。

 あれ?

 流される方向を見ると、そこにあったのは大剣だ。なぎ払われた大剣が慣性に乗って、僕の身体を引きずっていくのだ。

「お、おおお!?」

 どうにか踏ん張ろうとするが、あまりにも無謀だった。地面を引きずられ、転がり、崖のぎりぎりでようやく止まることができた。危うくリングアウトだ。ひやりとした。
 僕は慌てて立ち上がり、襲撃に備えて構えるが、敵の戦士も同時にに立ち上がったところだった。派手に吹き飛ばされた割に、ダメージはないようだ。
 危なかった。相手の剣当たったからよかったものの、もし避けられたら致命的な隙を晒すところだった。
 敵は僕の様子を伺うように、じりじりと左回りに間合いを詰めてくる。仕切り直しだ。

 僕は敵の動きを見据えながら考える。横振りは危険だろう、空振ったときの隙が尋常ではない。振るなら縦だ。地面に当たってそれ以上体制を崩すことはない。
 それにしても。意外に落ち着くことができている。前のゲームで得た経験は、確かに生きていた。落ち着くことは何よりも大切な、対戦での基本だったから。

 少しずつ距離を詰めてきた戦士がついに僕の間合いに入った。直後、戦士が一気に加速した。
 僕はそれを見て剣を振る。上から下へ振り下ろす。直剣で防ごうとするのなら、その剣ごと叩き切ってやる。
 が、戦士は僕の予測を裏切って後ろに飛んだ。

 今更、避けられると思ったのか!

 僕は構わず大剣を叩き下ろした。
 砂埃が舞った。
 鈍い感触が手の内に残っていた。やったか?
 そう思った次の瞬間、舞い上がった砂埃の中から、戦士が飛び出してきた。

 どうして!?

 その疑問はすぐに打ち消す。考えている時間などない。
 振り下ろしは横振りよりは隙が少ない。だけど再度構え直して、戦士の攻撃を防ぐのは間に合いそうになかった。
 戦士が直剣を振り下ろす。死が脳裏をよぎる。いや、まだだ。 
 でも避けれない、防げない。だったら。

 覚悟を決めろ。

 僕は強く地面を蹴り前へ飛んだ。間合いを潰す。直剣が僕の肩口に食い込む。

 痛っ!?

 痛いはずがないのに。なぜ。今はそんなことどうでもいい!
 僕はその疑問も後ろへ追いやって突進する。肩を戦士にぶつけ、身体強化のスキルに任せて吹き飛ばす。
 そして、僕は勢いをそのままに、体勢を崩した戦士に大剣を振り下ろした。今度は避けられるはずがなかった。
 大剣は戦士の身体を両断し、赤い血の花を咲かせた。黒い霧のようなものが、戦士の身体から吹き出る。
 確か――これはアウラ。人やモンスターを倒すと出てくるもの。普通の戦闘であればこの霧は僕の身体に吸い込まれ、経験値と同じ役割を果たす。だけど今はランクマッチだ。黒い霧は行き場をなくして僕の周囲をさまよっていた。
 僕のHPは半分以下になっていた。僕は切られた肩口を撫でる。あの一撃をまともに受けていたらおそらく……。ぞっとした。
 そういえば。切られた瞬間の痛みはなんだったのだろう。ゲームの中では強い痛みは制限されているはずだ。ゲームの世界であれほどの痛みを受けたのは初めてだった。もしかしたら設定が変更されている可能性がある。これも犯人の仕業だろうか。だとしたいったい何のために?
 どこからともなくラッパの音が聞こえてくる。僕と黒い霧は光の輪に包まれて転送された。黒い霧も闘技場に転送され、教皇の力によって浄化される。そんな設定だったはずだ。



 課題と疑問の残る戦闘だった。
 まず振り下ろしがなぜ外れたのか。答えは薄々分かっていた。あのタイミングで避けられるはずがない、そう思った。僕は間合いの管理には自信があった。それを間違えるはずがないと思っていた。
 だけど僕は大剣の間合いを把握できていなかったのだ。初めて使う武器の間合いをつかめないのは当然のことなのに。完全に自分の能力を見誤っていた。
 元々、僕はすぐに技術を身につけられる人間じゃないのだ。失敗して、失敗して、それでも繰り返し練習してようやく身につく。だから僕は単純な行動しかできないし脳筋とバカにされていた。器用なサクやクズとは違うのだ。そんなことわかっていたはずなのに過信していた。
 もう一度やり直そう。ゼロからはじめるつもりでこの大剣と向き合おう。僕の成長は遅い。サクにもクズにもすぐに離されてしまうだろう。だけどこの先、生き残ることができれば、必ず追いつくことができる。ずっと――そうだったから。
 僕は闘技場に戻るとすぐに次のランクマッチにエントリーをする。一度の戦闘で僕のRPは34になっていた。相手のRPにもよるが、後二、三戦でRP100を越えるだろう。
 僕はそれからのランクマッチを、一つ一つの行動を調べて、確かめながら戦った。初戦のように危ない試合はなかったが、一撃で終わる大味な試合もなかった。三度のNPCとのランクマッチを終えてRP100を越えた頃には午後十時半を回っていた。





 


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