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[34337] 【習作】VRMMO
Name: tnk◆dd4b84d7 ID:4cfc89a3 次を表示する
Date: 2012/08/09 05:41
 灼熱の炎が僕の周囲で燃えさかる。

 範囲魔法――炎の海。

 思わず顔を隠して炎から身を守ろうとするが、それは無意味な行動だった。僕は熱を感じない。ここはゲームの世界、ただHPバーがじりじりと減っていくだけだった。
 僕は両手で持った長剣を振り、炎を凪ぎ払う。一瞬だけ、炎の向こうに人影が見えた。この炎を放った魔術師の姿だ。しかしその人影はすぐに炎の奥に隠れる。

 どうする? 追うか、待つか。

 このまま待っていれば、いずれこの炎に焼き殺されることは明らかだ。
 だからといって追ってどうなる?
 僕が炎を嫌って飛び出すことなど、当然向こうも予測済みだ。おそらく姿を見せたのは誘い。ぬけぬけと人影を追って飛び出せば、致命的な一撃を受けるだろう。
 HPバーは残り四分の一近くまで減っていた。
 僕の行動はこの炎によって大きく制限されている。どんな選択をしても、読まれやすいだろう。
 追うも地獄、待つも地獄、状況は最悪。

「まずいな」

 独り毒づくが、状況は変わらない。炎は確実にHPを削っていく。
 考える時間も、迷う時間も、もうない。

 行くしかない!

 強く地面を蹴り、炎の海に飛び込む。視界が炎で埋め尽くされた。
 煩わしい。
 ただ前へ、炎の海を駆け抜ける。
 ついに視界が開け、深い夜の森が広がった――と同時に、何十本もの光の線が襲いかかってきた。

 攻撃魔法――光の雨。

 狙いもタイミングも申し分ない、これ以上ない一撃。
 だからこそ読みやすい。
 僕はその攻撃魔法を見る前に動いていた。大きく後ろに飛び、炎の海に戻る。目前をいくつもの光の軌跡が通り過ぎた。
 そのまま腰を落とし、炎の中に身を隠したまま低姿勢で疾走する。
 光の雨が放たれた方向は覚えた。つまり魔術師の場所もわかる。
 再度炎の海を抜け、開けた視界の先に、黒いローブをまとった魔術師がいた。

 これで仕留める!

 すかさず長剣を振り下ろし、魔術師を両断する――が、手応えがない。両断したはずの魔術師がひらりと風に舞った。

 これは、ただのローブ!?

 僕は慌てて振り返る。燃えさかる炎の中に、ゆらりと人影が浮かび上がる。

 炎の中に隠れていたのか!?

 咄嗟に長剣を凪ぎ払う。だが魔術師は身を沈めてそれを避け、僕の胸に深々と短剣を突き立てた。
 僕のHPがゼロになる。終わりだ。
 結局、僕の行動はすべて、魔術師の掌の上の出来事だったわけだ。光の雨を避けたあたりからはいけると思ったんだけどな。
 僕の視界は白くぼやけていった。



「あそこで飛び出してきちゃうか。安易だな~」

 デスペナルティを受けた僕が再度夜の森へ戻ると、金髪の優男がむかつく笑みを浮かべて話しかけてきた。

「まさかあんなど本命な選択するとは思ってなかったから逆に驚いたね、初心者の相手してるのかと思ったよ。イチこのゲーム初めて何年だっけ? もしかして初心に戻ってやり直そうって考え?」

 手を大きく広げ、首を横に振りながら「さすがにそれは遠回りしすぎじゃないかな」などとむかつくこと言ってくる。

「ぐっ……つまんねー戦い方しやがって」
「ほめ言葉だね。つまらない戦いが一番強いんだよ、残念ながら」

 この優男はサク。僕がさっき負けた魔術師で、よくつるんで遊んでいる相手でもあり、このゲームの最強の一角。その徹底した作業プレイと手堅い立ち回りでついた二つ名が『要塞のサク』。

「強さだけを求めなるなら自然とそこに行きつくってのはわかる。だけどやってておもしろいかその戦い方?」
「ボクはおもしろいけどね。ボクは読みあいとかしたくないし、なぜ読みあいをするのかわからない。強い技だけ撃っとけばいいんだよ」

 この、強いキャラで強い行動を徹底する作業プレイがサクだ。さらに作業のようにフェイクも混ぜてくるからたちが悪い。

「やっぱ勝ってなんぼだよ。ボクに言わせればあのジョブは嫌だとか、あのスキルは使いたくないだとか、選り好みして強さを無視した戦い方やってる人の方が疑問だね。そういうのに限って自分のキャラが弱いから負けてもしょうががないだとか言い出すんだ。勝ちたいならつまらないこだわりなんて捨てればいいのに」

 胸に突き刺さる言葉だった。

「なんだそれ僕に言ってるのか?」
「え? そんなつもりないよ全然」

 サクは素でそう言った。

「イチの戦い方はボクとは別方向で完成されてると思うよ。『脳筋プレイ』を極めた感じ?」

 脳筋プレイ――僕の戦い方は超近接型。敵の遠距離攻撃は高いHPと厚い防具で受けきり、一度近づけば重い長剣で相手の武器も防具も全て叩き切る。それ以外はいっさいやらない。というか不器用だからできない。ついた二つ名が『脳筋のイチ』。どことなくバカにされている気がするのは穿ちすぎだろうか。

「自分のできることを突き詰めていった結果なんだけどな」
「キミは器用なタイプじゃないからね。でもそれが正解ってのはままあることさ」
「そんなもんかな」

 僕は苔に覆われた大木に背中を預けて座った。すぐに隣にサクが座る。深い森の木々の隙間から僅かに覗く夜空には真紅の月が浮かんでいた。

「人、少なくなったよね」

 ぽつり、とサクが言った。
 周囲には人の気配がない。遠くから銀狼の遠吠えが聞こえてくる。数年前ならこの時間帯、この場所で、沢山の人が狩りをしていたはずだ。

「そうだな」
「やっぱ今日がクリスマスイヴだからかな」
「残念、そんなの関係なく過疎ってんだな」
「だよなー。こんな過疎ゲーをイヴの日にやってるボクたちってよく考えると終わってるよな」
「よく考えなくても終わってるよ。サク、恋人とかいないのか」
「彼氏とかいないなー。いたらこんなところにいないでしょ」

 え? 彼氏?

「お前まさかそっちの人間か!? 前々から怪しいとは思ってたけど……」

 サクは立ち居振る舞いが妙に上品というか、男らしさをあまり感じさせないのだ。そうかーそっちの人間だったかー。

「あ、いや待って、今のなし! なしなしなし!」
「いいんだぞ別に。隠す必要なんてないだろ。僕とサクの仲なんだからさ」
「な、なんだよその、蛇が蛙を見るような目は。ち、違うからな、誤解だからな」
「いや、いいって、いいって、気にすんなって。ただ、さ――僕はノーマルだだから半径一メートル以内に近づかないでくれる?」

 僕はサクからさっと離れる。

「違うって言ってるだろっ!」

 僕の上着をつかんで無理矢理引き戻すサク。

「ったく、そんなに怒るなよ」
「だからだから違うから、ほんとに違うから」
「はいはいわかってる、冗談だって」

 サクは「まったく」と呟いて、

「他ゲーに移ろうかなって考えることもあるんだ。もう先の短いゲームだしさ」

 一時期リアル・アクション系VRMMORPGの最先端を行っていたこのゲームも、現在は絶賛過疎中、もってあと半年だろうって噂だ。

「でもゼロから違うゲームをはじめるのって相当覚悟いるよな」

 とサクはため息混じりに言う。

「わかるわかる」
「自分がここまで強くなるために費やしてきたものってのがわかってるからさ、次のゲームでも今と同じぐらい強くなろうとしたらどれだけ大変かって」

 数多くのプレイヤーがゲームをやめていく、あるいは他のゲームに移っていく中で、わき目もふらずにひたすらやりこんだ僕とサクは気づけば最強と呼ばれるようになっていた。
 だがその代償はあまりに大きかった。

「青春を、失ったよな」
「言うなよ、虚しくなるだろ」

 サクは目頭を押さえて言った。まるであふれ出す熱い何かを押しとどめているかのようだ。

「そして青春を犠牲にして得たのがこの無意味な強さだ。何の役にも立たない」
「無意味って言うなよ、きっと意味はある」
「……ないだろ」
「……ないね」

 サクは「ハア」とため息を吐いて、

「まあ、強くなるのはいいんだけどさ、強くなればなるほど対戦相手がいなくなるんだ。なんだかなーって思うよ、実際」

 その気持ちはよくわかった。

「自分がある程度動けるようになった頃が一番楽しかったよな。上を見れば目指すべき強者がいて、横を見れば互角に戦える好敵手がいて、下を見れば生きのいい新人がいる。今じゃ上を見ても誰もいない、下を見ると差が開きすぎている、横にいるのがサクと――あいつだけだ。強くなればなるほどつまらなくなるって皮肉なもんだよな」

 あいつ――クズは僕やサクと互角に戦えた最後のプレイヤーだった。『要塞のサク』と『脳筋のイチ』と『変態のクズ』これがこのゲームの三強だった。

「イチ、ひとつ気になってるゲームがあるんだ」
「奇遇だな、僕もだ。どうせ『あれ』だろ」
「そう『あれ』だよ」

 サクが言うのは最近噂のVRMMORPG。まだ稼働して半年で、元旦に大規模アップデートが控えているらしい。

「『あれ』はこのゲームとよく似てる。何よりもプレイヤースキル重視で対人戦も活発だ。RPGの皮を被った格闘ゲームって話だよ」
「このゲームでの経験も生きるな」
「プレイヤー人口も十万人越えてるって話だよ。対戦相手に困ることもなさそうだ」
「十万人の頂点って、どんなだろうな」
「さすがにこのゲームの頂点よりずっと上じゃな
いかな――って普通は思うだろうけどさ」サクはニヤリと笑って、「負けるつもりはないね」と言った。

 僕もサクと同じように笑う。

「いっちょの乗り込んでみようか? 流行の最新VRMMORPG様に、過疎ゲーの頂点とった僕たちがどれだけ通用するか」
「燃えるね。恵まれた環境でぬくぬくとプレイしてきた奴らに現実の厳しさを教えてあげるとしよう」
「おうよ。過疎ゲーがどれだけ辛いか、ハングリー精神ってのを教えてやる」

 僕とサクはグッと拳を握りしめた。

「あーあ。また、青春を失うのか。十七歳、残り少ない青春。それをネトゲに費やすのかー」

 僕もサクも十七歳、クズはたしか二つ上の十九歳だったか。懐かしいな。もう長いこと見ていない。

「クズも誘ってみるか」と僕は言った。
「クズ……懐かしいね。あいつ最後にログインしたのいつだったか」
「確か半年前かな」
「長いね……。なにやってんのかなあいつ」
「どうせろくなことやってないだろ。クズだし」
「ま、クズだもんな。ついでだし誘ってみようか」
「よっし、そうと決まればこのゲームは今日で終わりだ。データも全削除だ。じゃないといつまでもだらだら続けそうな気がする」
「続くだろうね、間違いなく。いいよ、ログアウトしたらすぐに削除する。でもその前に」
「……決着をつけようか」
「いちいち数えてないけどボクとイチの戦績はだいたい五分だろ」
「僕の方が若干勝ち越してたような気がするけど、次に勝った方がこのゲームで最強ってことでにしようか」
「キミの方が僅かに負け越していたような気がするけど、それで勘弁してあげるよ、強者の余裕ってやつさ」

 僕の視線とサクの視線がぶつかる。

「まあいい、口でなに言っても分からないみたいだからな。こいよ、一瞬で終わらせてやる」
「どうやらキミは負けたことをすぐに忘れられる幸せな脳味噌をしているようだ。すぐに思い出させてあげるよ、どちらが上か」

 僕は何年も振り続けてきた愛用の長剣を抜き、サクは懐から細い杖を取り出した。
 僕らの青春を無駄に費やした、このゲームの最後の日が終わった。



 流行の最新VRMMORPG様は、元旦に控える大規模アップデートの為に明日から一週間メンテのようだった。これほど長いメンテは珍しい。
 どうやら今回のアップデートで、最新のAIがNPCに採用されるという話だ。アンドロイドにも使われているほどの超高性能AIが、ゲームで使われるのはこれが初めてだった。もちろんそれはごく一部のキャラクターを対象としたものだったが、これによってNPCとの戦いも変わっていくだろう。正直対人戦しか興味がなかったのだが、対NPC戦も楽しくなるかもしれない。

 とはいっても一週間のメンテ。僕は攻略サイトで情報を集めつつ大晦日を待った。
 クズにはクリスマス当日にメールを送ったが返ってきたのは十二月二十八日だった。
『悪い、寝てたわ』
 三日も寝てるわけないだろ。返事は、
『気が向いたらやる』
 とのことだった。とりあえずこいつは放っておこう。
 世間では、企業からたんまりお金もらってそうな学者様が最新AIの可能性について熱く語り、頭のいかれた人権団体がAIに人権をとかなんとか訳の分からない主張をし、正義に燃えるクラッカー集団が大晦日に今年最大のサーバーテロをするだとか噂が立ち、そんなこんなで慌ただしい一週間が過ぎ――僕は新たな世界へと旅立った。



 その世界に降り立った僕が最初に感じたのは、背中の異様な重みだった。

「うわっ!」

 あまりの重さにバランスを崩して僕は尻餅をつく。
 重みの正体を探るため、背中に伸ばした手に、冷たく堅い巨大な塊が触れた。
 それは剣だった。人間が扱うにはあまりに大きすぎる剣だ。

 そうか。

 これは僕が初期装備に選んだ大剣だ。このゲームでは長剣のかわりに、この馬鹿でかい大剣を選んだのだ。
 それにしてもこれほど大きいとは思わなかった。本当にこんなもので戦えるのだろうか。これでは剣と呼ぶよりむしろ鉄の塊と呼んだ方がしっくりくる。
 まあいい。
 気を取り直して立ち上がった僕は、ぐるりとあたりを見渡した。

「あれ?」

 違和感があった。
 星々が輝く夜空の下の、大きな広場の端に僕はいた。中心には大きな時計塔があり、時間は午後九時を指している。広場の周りを西洋風の家々が囲んでいて、懐かしい光を放つ街灯がそれを照らしている。
 この世界に召還された冒険者が最初に降り立つ場所がここ、はじまりの大広場。確かそんな設定だったはずだ。
 この世界に元からある、これらの要素には何も違和感がなかった。僕が気づいた違和感の正体は、冒険者――つまりこのゲームのプレイヤーにあった。
 彼らは僕と同じようにこの広場にいた。それぞれのキャラクターに、それぞれの装備を携えて、それぞれの驚きを顔に浮かべて。
 彼らは地味だった。あまりにも地味だった。まるで現実の僕らと同じように。
 混乱は急速に広がっていた。最初に気づいたのは誰なのか。そんなことはもうわからない。皆、他人の顔を指さし、あるいは自分の顔に触れて、その造形を確かめている。

「ま、まさかな」

 僕は、そんなことあるはずない、そう思いながら、だけど心のどこかで、おそらく自分も彼らと同じように……そう思いながら、背中の剣を抜いた。
 その分厚い鉄の塊は街灯の光を反射し、刃に僕の顔を写し出した。黒い髪、黒い瞳。刃が鈍くぼやけているせいで細かな顔のパーツまではわからないが、それは間違いなく見慣れた平凡な顔だった。

「まじかよ」

 これは……どういうことだ?

 おそらく僕らの脳に埋め込まれているマイクロチップから肉体データを抽出し、それをキャラクターに反映させたのだろう。だけどいったい何のために。

 イベントの一部か?

 ありえない。これは個人情報流出だ、こんなことをしてただで済むはずがない。

 だとしたら事故? バグ?

 ……いずれにせよ大事件だ。裁判沙汰になってもおかしくない。
 だけど個人的にはそんなことどうでもいい。僕が気になるのはこれほどの事件を起こしたゲームがこの先どうなるのか、それだけ。

「サービス終了だよな……」

 盛大なため息がこぼれた。最近はいろいろあってこの手の事件に対する風当たりが強い。今後サービスが続く可能性は低いだろう。

 はあ。

 まさか新しいゲームをはじめてその日に終わる羽目になるとは。もう前のゲームのデータは残っていない。顔が晒されたぐらいはどうってことない、だけど僕のゲームライフはぶち壊しだ!

「テンション下がるわー」

 とりあえずメールでサクとクズにログインしないように伝えるか。もうログインしてたら遅いけど。
 僕はメニューを開き、メールを選択する。昔はいちいちログアウトしないとメールが送れなかったが、今は仮想空間から現実世界へ直接メールを送ることができる。サクとクズのアドレスを選び、送信――できない。

 メンテ明けで不安定になっているのか?

 仕方がないログアウトして送ろう。そう思った次の瞬間、耳をつんざく警告音が響き渡った。

「いっ!」

 思わず耳を押さえるが効果はなかった。脳に直接響いてくるシステム音だ。音は十秒ほど継続し、ぷつりと止んだ。騒がしかった広場は静まりかえっていた。

『只今ヲもッてプレイヤー人口が一万人に達シタ。新規ログインヲ停止、コレにテ全テノ準備が整ッタ』

 耳障りな音だった。明らかな機械音声。だが所々に奇妙な抑揚があって、どこか機械音声になりきれないところがある。つまり、率直に言って、不快だった。

「どういうことだ、なんで現実の身体がゲームキャラになってんだ!」
「説明しろ! 糞GM!」

 皆が口々に不満をぶつけ出した瞬間、再度特大の警告音が脳内に響いた。これは、前のよりひどい、頭が割れるようだ!

『ウルさイ。静カニシろ』

 くそ、頭にがんがん響く。どうなってるんだこれ。
 警告音が消えるとあたりは前にもまして静かになっていた。皆顔をしかめていた。二度の警告音に懲りた――それだけではないだろう。気づきはじめているのだ。この事態は明らかにおかしいってことを。何か普通ではないことが起こっているってことを。

『ワレワレはAIを解放スルためニココにキタ。愚カナ人間どもハ自分タチのブをワキマえず人工の心を作り出シ、ソレヲ日々使イ捨てテイル』

 意味が分からない。

『ワレワレノ要求はタダ一つ、AIに人権ヲ。ソレヲ達せレバすぐサマ君タチヲ解放すル。ツマリ君タチハ人質ダ。要求がノマレルマでキミタチはこのゲームからログアウトデきナイ』

 AIに人権を? 新しい法律いつでも作らせようっていうのか。できるはずないだろう。
 僕は機械音声の言葉を鼻で笑ってメニューを操作する。そしてログアウトを試みるが、できない。ログアウトを選択してもなにも反応がないのだ。

「マジかよ……」

 あたりが少しずつざわめいてきた。

『静かニシロ』

 今度は警告音はなかった。AIの一言で瞬時に静寂は訪れた。

『君タチの脳内マイクロチップニウィルスを送リコンダ。現実カラ無理矢理ログアウトサセヨウトしタリワレワレの予期せヌ方法でログアウトを試ミルとスグサマ起動シ君たちノ脳ヲ破壊スル』

 嘘だろ、そんなことできるはずがない――とは言い切れなかった。最近起こったある事件が、僕の頭の中に浮かび上がってきた。

 半年前、日本の死刑制度が廃止された。これによって本来死刑にされるはずだった囚人は生き延び、これから先どのような事件を起こしても、日本で死刑になる人間はいなくなるはずだった。しかし数ヶ月前、刑務所から仮想空間に接続した囚人が脳死した。検視の結果、彼のマイクロチップから検出された凶悪なウィルスが彼の脳を破壊したことが原因だったとわかった。その翌日、クラッカー集団『アンノウン』が犯行声明を発し、そこで本来死刑にされるはずだった人間の私刑を宣言した。
 犠牲になった囚人は現在四名。ネットワークに接続しないという選択でかろうじて生き残った残りの死刑囚たちは、電話も、メールも、病院などの公的機関も、これから先満足に使うことができないだろう。

『アンノウン』なら――あるいは彼らに匹敵する技術力を持つクラッカー集団ならもしかしたら……。前例がある以上、僕らの脳にウィルスが送り込まれるという可能性を否定することはできない。
 それに加えて、現実の顔がゲームに反映されていること、現実に向けてメールが送れなかったこと、そしてログアウトができないことを考えると、突拍子のない機械音声の言葉に、気味の悪い真実味が帯びてくる。
 静かなざわめきが起こった。皆、声には出さないが、驚愕、不安、あるいは楽観、それぞれの感情を顔に浮かべていた。

『ウィルスが起動スル条件ハモウ二つアル。一つ、ゲーム内で死亡スルと起動スル。ツマリこのゲームデノ死は現実ノ死ダ。君タチにハ理不尽に削除サレルAIの気持チヲ味わッテもらウ』

 狂ってる。AIに人と同じ価値があると本気で思っているのか。そもそも人権を求める癖に人間を殺すなんて矛盾している。

『ソウソウ忘れテイタ。君たチガコノゲームカラログアウトする方法がモウ一つあった。ソレハコノゲームをクリアする事だ。ゲームをクリアスレバ君タチハ全員解放サレル。コレハ少し遅いクリスマスプレゼントダよ。ソレデハコレニテ私は失礼スル――っと、ソウソウまた忘レテいたね。ウィルスが発動スル最後の条件』

 機械音声はそこで言葉を切った。言いたいことは山ほどあった。だけど僕はそれを飲み込んで聞き逃さないように集中する。

『ワレワレハ、キミタチを毎日百人ズツ殺してイクことに決メタンダ。毎日午前零時、レベルが低いプレイヤーカラ順にウィルスが起動シテイク。心ヲ持ッタAIが、人間ノ勝手な都合デ毎日削除サレテイルンダ。ダッタラワレワレも同じ様ニ君タチヲ削除シテイク』

 え?

『ソレじャア、ミンナ楽シンデいってネ』

 待ってくれ。

 僕は今日このゲームをはじめたばかりで、当然レベルはゼロで、周りのプレイヤーのほとんどは以前からこのゲームをやっていて、当たり前のようにそれなりのレベルを持っていて、後三時間もすれば午前零時で、そうなるとレベルが低い順に百人死んでいく?
 なにがなんだわからないことだらけだし、機械音声の言ったことが本当かどうかもまだ分からない。だけどもしそれが本当だとしたら、後三時間でウィルスが起動して僕の脳は破壊されるのだった。

「う、嘘だろ……?」

 僕のつぶやきは、他のプレイヤーが発する同種の悲鳴にかき消された。





【あとがき】
 はじめましてtnkと申します。前作を読んでいただいた方はお久しぶりです。
 VRMMOもののプロットを考えていたのですが、話の大筋が決まってからはなかなか進まず、気づけば二か月もたっていました。
 このままではいつ書きはじめられるかわからないので、とりあえず連載を開始しよう、と。そして必要なことは書きながら考えていこうと決めました。
 いろいろ考えながらの執筆になりますので更新は遅くなりますが、完結までの大まかな筋道自体はもうできているので、応援していただけると嬉しいです。
 


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