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No.33966の一覧
[0] 【一発ネタ・習作】ほむらーめん AKEMI【まどマギ】※ハーメルンと重複投稿中[天木武](2013/02/20 18:43)
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[33966] 【一発ネタ・習作】ほむらーめん AKEMI【まどマギ】※ハーメルンと重複投稿中
Name: 天木武◆92288383 ID:d6215574 次を表示する
Date: 2013/02/20 18:43



 「魔法少女」と呼ばれる存在があった。それは絶望を振りまく存在である「魔女」と対極に位置する希望の存在。しかし魔法少女はいずれ魔女となる定めでもあった。
 そんな不条理を1人の少女の願いが打ち破った。その願いにより魔法少女も、魔女も存在しなくなり、そしてかつて魔法少女と呼ばれた少女達に普通の生活が帰ってきた。
 それから10年――。

「あーうんまかったー。やっぱさ、ファミレスのハンバーグって最高じゃん?」

 赤い髪の女性が満腹なお腹をさすりながらそう隣へと話しかける。

「なんでもいいけどあんた食いすぎ。昔っから変わらないよね、ほんと」

 青い髪の女性がそう返す。

「うっさいなさやか、ちゃんと自分の分は自分で金払ってんだから文句ないだろ?」
「はいはい、そうよね。杏子も今じゃ立派なOLだもんね」
「そういうお前もそうじゃんかよ」

 2人の名はそれぞれ佐倉杏子と美樹さやか。ともにかつては魔法少女と呼ばれた存在であった。

「そういやさ、ゆまって元気にしてる?」
「ああ。大学行って元気にやってるよ。あたしが学費出してやるって言ってるのにその分は借りだからいつか返すって、最近バイト始めたみたいでさ」
「いいことじゃん。『姉』思いのいい『妹』だね」
「……よせよ」

 照れくさそうに杏子はさやかから視線を逸らしてそっぽを向く。

「あはは。やっぱあんたってそういうところ素直じゃ……」
「……ど、どういうことだおい」

 と、突然杏子が立ち止まりそう呟く。そのいつもと違う雰囲気にさやかも足を止めた。

「杏子? どうした?」

 そう言って杏子の視線の先を追いかけたさやかが見たものは――。

「なっ……!?」

 真っ黒な地に赤ででかでかと書道家が書いた如き文字のその看板――「ほむらーめん AKEMI」。

「こいつ……ラーメン屋じゃねーか!」
「な、なによこれ……。ほむらーめんって……しかも『AKEMI』って……苗字じゃん!」
「こりゃどう考えてもあのほむらだよな……。さやか、お前学校とかクラスとか一緒って言ってなかったか? あいつラーメン屋にでもなったのか?」
「いや、知らない。ていうか、同窓会とかやっても全然顔出さないし。近々また同窓会あるって友達から連絡きたけど、相変わらず連絡先もわからないから来ないだろうとかって話してたし……」

 2人は呆然と立ち尽くし、そのラジカルでクリエイティブでオリジナリティ溢れる看板を見つめていた。中を見ようにも曇りガラスで様子が全くといっていいほど窺えない。

「……この店のラーメン、食うかい?」

 意を決したように杏子が呟く。しばらく黙っていたさやかだったが、怖いもの見たさが勝ったのだろうか、ゆっくりと頷いた。
 杏子の手が引き戸の取っ手にかかる。一つ唾を飲み込み、その戸を一気に開けた。

「へい! らっしゃ……。……美樹さやかに佐倉杏子、久しぶりね」

 最初の言葉から一気にテンションをトーンダウンした声でその女店主はそう言った。

「や、やっぱり! ほむら! お前、暁美ほむらだろ!」
「ええ、そうよ」
「な、なんであんたこんな……」
「悪いけどまず戸を閉めてもらえる? 気温と湿度が変わると麺の機嫌も変わってしまうの」
「え? あ、ああ……」

 おとなしくさやかが後ろ手に戸を閉めた。

「それで……」
「それから店内では静かにお願いできるかしら。他のお客様のご迷惑になるから」
「客って……え!?」

 がらりとした店内を見渡した杏子の顔に驚愕の色が浮かぶ。カウンター席の最も奥、微笑みながら2人を見つめる金髪の女性――。

「うふふ。佐倉さんに美樹さん。久しぶりね」
「と、巴マミ!?」
「え、ウソ!? マミさん!?」
「ええ、彼女は間違いなく巴マミよ。私の店の常連客でもあるの」
「じょ、常連……?」
「待て待て! まずい、頭の中が混乱してきた! お前今『私の店』って言ったか? じゃあやっぱここはお前のラーメン屋なのか?」
「ええ、そうよ。ここに私が立っているんだもの、それでわからないかしら」
「そ、それでマミさんはほむらの店の常連客……?」
「ええ。多い時だと週に10回は来てるかしら」
「「じゅ、10回~!?」」

 1週間は7日である。言うまでもなく毎日通うと7回である。

「じゃあマミさん1日に2回この店に来ることもあるってこと!?」
「そういうことになるわ。……暁美さんのラーメンは最高、まさに芸術よ。そう、言うなれば丼というオーケストラの中でスープという重厚な低音を響かせ、そこに麺という主旋律を奏でつつ、野菜、ニンニク、背脂という副旋律も溶け込ませ、さらにチャーシューという対旋律も纏め上げる……。その様子はさながら世界のマエストロ、とでも言うところかしら?」
「あなたにそこまで褒められるとは光栄だわ」

 互いに見つめあい微笑む様子を、さやかと杏子の2人は唖然とした様子で眺めていた。

「……それで、せっかく来たなら食べていく?」
「え!? いや、昼ご飯食べたばっかなんだけど……」
「……でもあたしは興味がある」
「杏子?」
「巴マミがそこまで絶賛するラーメン……。バカだと思うかもしれないけどさ、あたしはね、そのラーメンを諦めたくない」
「杏子……」
「付き合いきれないってんなら無理強いはしない……。腹いっぱいだから、結構危ない橋を渡るわけだしね」
「……わかった。でもあたしも付き合う」

 2人が意を決したように頷き合う。そこでほむらが話しかけてきた。

「お決まりでしたら、ご注文をどうぞ」
「えっと……じゃあ常連のマミさんと同じものを1つ……」

 さやかのその言葉にほむらとマミの表情が変わる。この女店主からは明らかに「やめておきなさい」というオーラが漂っていた。

「あまり関心できた話じゃないわ。美樹さん、あなたは私が食べるものを食べたいの? それとも暁美さんが作るラーメンを食べたいの? ……同じようでも全然違うことよ、これ」
「は? マミ、お前真顔で何言って……」
「その言い方は……ちょっと酷いと思う」
「お、おいさやか……」
「ごめんね。でも今のうちに言っておかないと。そこを履き違えたまま注文したら、あなたきっと後悔するから」
「……そうだね。私の考えが甘かった。ゴメン」
(……いや、たかがラーメンに考えすぎだろ、こいつら……)

 だが、杏子はこの時、自分のその考えは浅はかだったということを知る由もないのだった。

「それで、注文はどうするのかしら?」

 カウンターの2人と茹でている麺だろうか、その間をしきりに視線を動かしつつほむらが尋ねてくる。

「えーと……」
「ほむら、この店メニューとかないのか?」
「そんなものはないわ。ここはラーメンしかないもの」
「じゃあ悩みようねえじゃねえかよ!」

 思わず突っ込む杏子。

「それは違うわ。ここはトッピングとしてヤサイ、ニンニク、脂の量、麺の硬さ、味の濃さを調整できるの。あと100円追加でチャーシューも2枚ずつ増やせるわ。俗に『二郎インスパイア系』といわれる店に分類されているの。もっとも、味付けはインスパイア元と別物だけど」
「へえー」
「なん……だと……?」

 ただ関心するだけのさやかと対照的に、杏子は動揺したような声を上げた。

「何? 何か知ってるの、杏子?」
「……ああ。思い出すも恐ろしいが……。あれは……」
「杏子、悪いけど長話になりそうなら先にトッピングを聞いておきたいのだけれど」
「……ヤサイ少なめニンニク少なめの脂抜き、麺硬めで濃さ普通だ」
「ええ!? あたしら2人で1つ食べるんだよ? 普通とかでよくない? そんななんでも少なめとか……」
「ごめんなさい。当店は脂抜きは対応してないの」
「じゃあ少なめだ」

 注文を聞いたほむらが静かに息を吸い――。

「……ありがとうございます! ヤサイニンニクアブラ全少、メンカタ普通一丁入ります!」

 突如店内に、かつて聞いた事のなかったようなほむらの気合の入った声が響き渡る。思わずさやかと杏子は一瞬身を固くした後で互いに顔を見合わせ、マミはにっこりと微笑んでいた。一方ほむらは恥ずかしそうに背を向け、厨房で作業へと入る。
 虚を突かれて呆然としていた杏子だったが、数秒後にようやく我を取り戻し、咳払いをしてから口を開いた。

「……さやか、お前は『二郎系』をなめてる」
「な、なめてる……?」
「そうさ。……さっきの話の続きだ。あれはしばらく前、ゆまの奴と遊びに街に出たときのことだ。つい遊ぶのに夢中になって飯時を大きく外しちまってさ。適当に何か食べるかとゆまと話した、その時だった。目の前に列ができている店があった。見ればそこはラーメン屋って書いてある。こんな時間帯を外した時でさえ並ぶようなラーメン屋、きっとうまいに違いない、とあたしとゆまはそこで昼を食べることにした」

 さやかもマミも杏子の方を見つめ、その話を聞いている。唯一ほむらだけが厨房の中で忙しそうに手を動かしていた。

「そしていざ店内に入ると、そこは異様な空気に包まれていた。『一見さんお断り』『女子供が来ていいところじゃない』、そんな空気が満ちていたように感じた。……言うなれば、魔女空間に入り込んじまった、そんな緊張感まで覚えたさ。だがこっちももう店に入っちまった、今更後戻りは出来ない。あたし達は覚悟を決めて席に着いた。
 しばらくして店員があたし達と同じタイミングで座った隣の席の男に『どうします?』と聞いてきた。男は『全マシで』とすぐに返した。次に店員は『お次のお客様は?』と今度はあたし達に聞いていた。反射的にあたしは前の男と同じく『ぜ、全マシで!』と答え、ゆまも『お、同じく!』と答えてしまった」

 それを聞いていたマミとほむらが思わず苦笑する。さやかだけその意味がわからずに話の続きを待っていた。

「……しばらくしてあたし達の前に出てきた物はまさに『山』だった。それ以外の言葉じゃ言い表せない、野菜によってできた山……。圧倒されながらも、腹が減ってたあたし達は山を崩さぬように下の方から麺を探し出しで口に運ぶ。うまい、思わずゆまと顔を見合わせた。……だがうまいはうまいんだが、如何せんその量が半端じゃない。一向に山の標高が低くならないことに絶望感を覚えて魔女化しそうな錯覚を感じつつも、あたし達は無言でひたすらそのラーメンを食った。知ってるだろうが、あたしは食い物は粗末にしたくない。残すなんて選択肢はない。数十分の格闘の末、全てをなんとか食べきった。……とはいえ、さすがにその日は夜ももう他に何も食べれなかったけどな」
「杏子がそこまで言うほどの量なんて……」

 普段から杏子は何かを常に食べている。そうじゃなくても食事量はさやかの倍近く食べることもある。その杏子すらそういうほどの量だ、相当なものだろう。

「そこがそういうラーメン屋だって知ったのは、後からだったさ。……でもな、不思議な魅力があるんだよ。とんでもないラーメンだったが、また食ってみたい……そう思わせる魔力みたいなもんがある。もしここがそういう店だと知ってたら、あたしは昼を食わずにここでそういうラーメンを食ってもいい、って思うほどにね」
「じゃあさっきの少なめって注文は……」
「賢明ね」

 厨房で何か作業をしつつほむらがそう言った。

「……本当なら1人1つ頼んでもらいたかったところだけれど、今は他に客がいないし、あなたたちはもうお昼を食べたという話だし、顔見知りだから特別よ。この店の味を知ってもらえれば、それでいいわ。それでも私は自分の味もラーメンも曲げたくないから、頼まれたらそのまま出すつもりでいたけれど」
「ってことは多分あのままマミと同じって頼んだら大変なことになってたかもしれない……。最初はたかがラーメンに、とか思ったけどそういうことなら話は別だからな」
「マミさん、どんな風に頼んだんですか?」

 さやかの質問に答えず、マミは笑顔を返す。

「目に焼き付けておきなさい」

 代わりにほむらが口を開いた。――その問いに対する答えをマミの前に運びながら。

「なっ……!」
「うちのラーメンを食べるって、こういうことよ。……全マシマシ豚ダブルお待たせしました!」

 マミの眼前に運ばれたラーメンは、まさに山、あるいは霊峰と呼ぶがふさわしいか。それほどまでに高く積み上げられたのはもやしを中心とした野菜。そしてその山の麓は濃厚にしか見えない茶のスープによって隠れ、そこにチャーシューが6枚、さらにニンニクという魅惑のビーチが広がっている。

「うふふ。いつ見ても見事ね。暁美さんが作り出すこの芸術品は」
「あなたにそう言ってもらえるのは何よりも嬉しい褒め言葉よ」

 視線を合わせた2人が微笑む。

「……さあ! 伸びる前に食べるとしましょうか! 本当は今日はゆっくり食べようかとも思ったけれど、未来の後輩にあんまり格好悪いところ見せられないものね!」

 箸とレンゲを手に取り、ラーメンの前で両手を合わせて瞳を閉じる。

「いただきます」

 そしてカッと目が見開かれ――

「ティロッ……」

 口に半分咥えて割った割り箸とレンゲを麺の底へと差し込む。

「フィナーレ!!」 

 次の瞬間、スープの海の底に眠っていた麺が、そびえる白き霊峰とのコントラストも眩しく姿を現す。さらに流れるような、見ている者の視線を釘付けにするほどの箸とレンゲによる美麗な動きでその両方を絡み合わせて口元に運ぶと――。

 ズルズルズルズル!

 豪快な音と共に麺がすすられ、そして野菜がマミの口へと運ばれていく。
 その速さといったら見ている杏子とさやかの2人が絶句するほどで、先ほどまでは富士山と見間違えるほどであったヤサイの山が、今では槍ヶ岳という具合になっていた(なお富士山の標高は3776m、槍ヶ岳は3180mである)。

「いつ見ても美しいわね。巴マミの天地返し……いえ、ティロ・フィナーレは」

 作業の手を一時休め、ほむらはマミが食べる様子を伺う。

「私が作り上げたあのヤサイの山……俗に『クリームヒルト』の異名を持つあの山を、崩すことなくあれだけ華麗に食べてみせてくれる……。ひょっとしたら日本中を探しても彼女より美しく食べる人はいないかもしれないわね」

 そんな3人の視線の先、マミの前にあった山はまた一段と地盤を沈下させ、先ほどの富士山と比べれば今は浅間山といったところか(標高2568m、世界でも有数の活火山)。

「す、すげえ……あの山が崩れることなく消えていく……」
「そ、それもすごいけど……マミさんの食べるスピード……さっきから全然落ちてない……!」

 麺を発掘し雪の如き山のもやしをかすめつつスープをすすりさらにチャーシューも口に運ぶ。そのペースは崩れることなく、長い間時を刻み続ける時計のように一定のリズムを保っていた。

「人が食べてるのを見るのもいいけど、今度はあなた達の番よ」

 ほむらの言葉に杏子とさやかが現実に引き戻された。

「ど、どうすんの杏子! あんなの出てきたら……」
「大丈夫だ、多分……。少なめって言ったんだ、いくらなんでもマミぐらいの量のヤサイがあるはずが……」
「ヤサイニンニクアブラ少なめメンカタお待たせしました!」

 2人の運命を左右するラーメンがカウンターの上に出された。

「こ、これは……!」

 杏子が目を見開く。

「……思ったより普通じゃん」

 さやかがジト目でほむらを見つめる。が、既にこの空間、この空気、そしてこの雰囲気に飲み込まれていることにさやかは気づいていない。

「少なめコールならこのぐらいよ。マシマシ、と言われればマミぐらいにヤサイは盛らせてもらうけど」

 2人の前に出されたラーメンはそこらへんにある山、程度にヤサイが盛られており、マミのラーメンとは比べようがないほど普通のラーメンのように見えた。

「あー必要以上に身構えて損した。じゃあうまそうだし早速食べてみようかな」

 割り箸を割って食べようとするさやかだったが、

「待てさやか」
「待ちなさい、美樹さやか」

 2人に同時に呼び止められた。

「な、何よ……」

 ほむらが目で杏子に先を譲る。

「食い物にちゃんと感謝してから食え。感謝せずに食うなんてそんなの、あたしが許さない」
「杏子の言う通りよ。食事というのは他の命をいただくということ。だからちゃんと『いただきます』は言って頂戴」
「わ、わかってるわよ、今言おうとしてたんだって。……いただきます」
「どうぞ、召し上がれ。麺とスープをよく絡めて、その上でヤサイも一緒に食べるといいわ」

 言われた通りさやかはヤサイの下から麺を発掘し、スープとよく絡める。そしてレンゲにヤサイと一緒に乗せてそれを口に運んだ。

「……! お、おいしい……」
「ちょっ、さやか、あたしにも食べさせろよ!」

 器を奪うように自分の手元に寄せた杏子も一口その麺とヤサイを口に入れる。

「こ、これは……!」

 その時、杏子に雷に打たれたような衝撃が走る。

「うまい! がっしりとした太麺にしっかり濃厚スープが絡みついていて、さらにそこにニンニクのパンチが効いている……。そしてそこで一緒にヤサイを食べることによって第二のシャキシャキとした食感も味わえて飽きがこない……。何より太麺にヤサイ、まさに空腹を満たすのにうってつけ、これこそ腹が減ってるときに一気に掻きこみたいラーメン……!」

「ありがとう。いつも何か食べてるだけあってなかなか嬉しいこと言ってくれるわね」
「お世辞じゃなくうまい……。10年前のあのクールなあんたからは全く想像できないような魂のこもった味だ……」

 そう言われてほむらは喜びとも苦笑ともいえない、そんな表情を浮かべた。

「杏子、通ぶるのはいいけど、そうやって固まってるならあたしが食べちゃうからね」

 さやかが自分の手元に器を戻す。

「お、おい」
「あんたファミレスのハンバーグでお腹一杯とか言ってたでしょ? だからあたしが全部食べてあげるよ」
「ハァ!? あたしだってちょっとは食べたいっつーの!」
「残ったら食べてよ。だからそれまでは、このさやかちゃんがガンガン食べまくっちゃいますからねー!」

 マミに負けじとさやかも食べ始める。不満そうではあったがおそらく残すだろうと判断した杏子はその様子を眺めることにした。

 ズルズルズルズル!

「あー!ほんとおいしいわ、これ!」

 ズルズルズル!

「野菜もシャキシャキしてておいしいし!」

「……わかったから食うか喋るかどっちかにしろ」

 ズルズル!

 杏子の言葉を無視し、なおもさやかは麺をすする。

 ズル……。

 が、不意にさやかの手が止まった。

「……ねえ」
「あん?」
「確かにこれ、マミさんのと比べたら普通に見えるけど……。でも他のラーメン屋さんでいったら、十分大盛りじゃない……?」
「それはそうでしょうね。小といったけど、あくまでここでいうところの小だから」
「見た瞬間わかるだろうが。一応ヤサイは山になってたんだぞ?」
「杏子……気づいてたの……?」
「お前、マミのと比較するから気づかないんだよ。来た瞬間に他の店でいうところの大盛りサイズだってわかるだろ」
「じゃあ……あたしだけが気づいてなかったんだ……」

 ショックを受けたような、自嘲的な笑いを浮かべたような、そんな表情を浮かべてさやかは杏子を見つめた。

「……満腹になると美味しくても食べられない……。あたしたちのお腹って、そういう仕組みだったんだね……」
「さやか、あんたまさか……!」
「あたしって、ほんと小食」

 そう言って苦しそうにさやかは机に突っ伏し、

「さやかー!」

 杏子の叫び声が店に木霊した。

「……ってお前これ全然食ってねえじゃねえかよ」

 が、一応形式的にさやかを心配した素振りは見せたものの、自分の前に持ってきた器の中身を見るなり杏子はそう口にする。

「……だってお昼食べちゃったし。あたし小食だし」
「さっきの勢いはどこいったんだよ、ったく……」

 そう言いつつ、だが目の前のラーメンを一口食べると杏子の機嫌は少しよくなったようだった。

「やっぱうまいわ、これ」
「いや、おいしいのは認めるよ。でも量が多いのよ……」
「まあこれでも少なめなんだ、全マシマシとか言ったマミの奴の量は半端じゃないと思うぞ」

 杏子の声にもマミは答えない、というか、ここまで一言も発していない。

「彼女はとてもストイックな食べ方をするの。食べている間は神聖な時間として会話などという野暮なことはしない、自分のペースは乱さない、あくまで目の前のラーメンと1対1で向き合う……。そう言っていたわ。だから代わりに私が答えてあげると、あのヤサイの量はあなた達に盛り付けた量の、軽く見積もって3倍はあるわね」
「さん……!」

 さやかが固まる。

「その『マシマシ』とかってので量が決まるわけ?」
「そうよ。一応この店のヤサイコールは少なめ、普通、マシ、マシマシで対応させてもらってるわ」
「へー。じゃあ『チョイマシ』とか言ったらどうなるの?」

 さやかの質問にほむらが苦い表情を浮かべた。

「……それは『普通よりちょっと増してほしい』のか『マシよりちょっと多くしてほしい』のか判断に困るわね。そういうこちらで判断しかねるコールは遠慮してもらいたいわ。特にマミのようなストイックな客が多くいる場合の、その手の店でそういうよくわからないコールをすると客によって店を追い出されかねないわよ」

「そ、そんなに……?」
「言ったろ。魔女空間に迷い込んだような感覚を覚えた、って。その点ここは平和な店だ」

 杏子が食べる手を一旦休めて言葉を挟む。既に先ほどまではまだスープの上にあったヤサイがなくなりつつあり、ゴールは目前になっている。

「そうでもないわよ。今は昼時を外してるからこんなものだけれど、昼時はピリピリする時もあるから」
「ふーん……」

 相槌を打ちつつさやかはマミのほうへと視線を流した。

「いっ……!?」

 思わずさやかが変な声を上げる。それもそのはず、視線の先でマミが丼を持ち上げてスープを一気に飲み干しているところだった。

「……うん! 今日もおいしかったわ、ごちそうさま!」

 空になった器をカウンターへ置き、布巾で机を拭いて両手を合わせて再び「ごちそうさまでした」と呟く。そこまで流れるような一連の動きだった。

「マミ、せっかくこの2人も来てて久しぶりの同窓会というところだから……今日はもう少しゆっくりしていってくれるかしら?」
「あら、あなたがそう言うなんて珍しいわ。じゃあ遠慮なくそうさせてもらうわね」

 そう言い、マミは持ち込んだペットボトルのお茶を口へと運んだ。マミが食べ終えた器を流しへと運び、チラリとほむらは杏子の様子を伺う。まだ少し残っているようだ、と確認したところでカウンターを出て入り口を開ける。そこにあった「営業中」の札を「仕込み中」に切り替えると店内へと戻ってきた。

「あれ? 閉めちゃうならあたし達いたらまずいんじゃ……」
「それには及ばないわ。あなた達のために閉めるんですもの。……どの道そろそろ昼の部は終わりだし、この後スープを仕込みなおして夜の部の準備をしないといけないから、気にする必要はないわ」
「暁美さんも変わったわね」

 そう言って微笑むマミに、どこか照れくさそうに背を向けてほむらは巨大な寸胴を覗き込み、その様子を確認している。

「何それ?」
「ラーメンの命、スープよ。豚骨と魚介、それに野菜を数時間煮込んでるわ」
「す、数時間……!?」
「豚骨は長時間煮込まないとダシが出ないの。だから夜の部のスープは開店前に仕込んで、この準備時間にようやく出来上がってくるぐらいよ。……それでも自分で納得がいかなかったらその日の営業をやめるぐらいの覚悟で作っているけど」
「す、すごい……」
「まさに職人魂ね」

 さやかに続いてマミも感心したような声を上げた。

「あー!食った!うまかった、ごちそうさん!」

 麺とヤサイが綺麗さっぱりなくなった器を机に置き、杏子は満腹そうにお腹をさすった。

「……悪い、ほむら。そんな自慢のスープ残しちまった」
「いいえ、気にしなくていいわ。健康のことを考えたら本当は飲まない方がいいかと思うもの。もう魔法少女じゃないんだから健康には気を使った方がいいわ」
「あら、それは私が健康に気を使ってないと言いたいのかしら?」

 笑顔を浮かべたままマミがそう言ったが、しかしどこかその笑顔が逆に怖い。

「いえ……そんなつもりは……。飲んで美味しいと言ってもらえるのは嬉しいけど、無理してもらったら逆に申し訳ない、と言いたかったのよ」
(いや、ここに週10で来て濃厚スープを飲み干してる人間がそれで健康に気を使ってる、って言っても説得力全然ねえだろうよ……)

 そう思った杏子だったが、口に出したら「ティロ・フィナーレ!」なんて言われて殴られかねないと判断して心の内にとどめておくことにした。

「あたしが知ってるほむらと、なんか変わったなー……」

 と、机に頬杖をついてさやか。

「……どういう意味よ?」
「いや、悪い意味じゃなくてさ。なんかあたしの知ってるほむらって、良く言えばクール、悪く言えば無愛想、って感じだったし。でも今は昔より愛想よくなったし、言葉の棘もなくなったなーって」
「客商売をしているんだから、愛想悪くちゃ話にならないでしょう」
「じゃあその客商売、しかもラーメン屋になろうなんて思ったきっかけはなんなんだ?」

 ピクッ、とほむらの瞼が一瞬動いた気がした。

「あ、いや、悪い……。言いたくないなら……」
「いいえ。……少し長くなるけど、あなたたちの食休みには丁度いいかもね」

 杏子が食べ終えた食器を流しに移し、洗いながらほむらは話し始めた。

「そもそものきっかけは高校生の時、私が趣味でサバゲーをやっていた時のことよ」
「サバゲー?」
「サバイバルゲームのことね。エアガンを使って撃ち合う競技、といったところかしら」
「……なんでマミさんそういうことも詳しいの?」

 さやかの質問には答えず、マミはにっこり微笑みを返すだけだった。

(……まさかマスケットでサバゲやったことある、とか言うんじゃないんだろうな……?)

 そんな考えが杏子の頭をよぎったが、滅多なことを言うと「ティロ・フィナーレ!」なんて言われて殴られかねないと判断して心の内にとどめておくことにした。

「あ、でも私も銃はちょっと知ってるかも。この間ゾンビを片っ端から撃つゲームやってたら『ベレッタ』っていうの出てきたけど、それって実在するんでしょ?」
「……M9なんてアイドルハンドガンじゃない。知ってる、といううちに入らないわよ。まあ確かに15発装弾できるから使いやすかったし、アメリカ軍の正式サイドアームになって有名になったのも納得だったけれど」
「ああ、使いやすかったってサバゲーの話?」
「いえ、本物の話よ」
「ほ、本物……!?」
「驚くこともねーだろ、さやか。こいつハリウッドスターが出てる映画よろしく、魔法少女時代は随分派手に色んなもの使ってたじゃねえか」

 ほむらが苦笑を浮かべる。いくら手段を問わない魔法少女時代の話とはいえ、やはり胸を張って話すような内容ではない。

「……まあつまり、そんな風に私は銃器に詳しく『なってしまった』わけで、それでサバゲーにも興味を持ったのだけれど、いざゲームとして模造品ではあるけど扱ってみると……意外と楽しかったのよ。……ああ、でも本音をいうと模造品とはいえかつて使ったことのあるM249MINIMIを使いたかったわね。でも高いのよ。モデルガンといえども分隊支援火器扱いだし、高校生にはあれを買うお金なんてなかったわ。だから仕方なく昔使ったこともある89式5.56mm小銃を使っていたけど、いえ、別に89式をどうこういうつもりはないのよ。いい銃だったしさすがの純国産、豊和工業が技術の粋を結集して製作した自動小銃だということはことわっておこうとは思うわ。それでもアサルトライフルと軽機関銃を比べたらその装弾数はダンチよね。そろそろ買おうかしら、やはり弾幕はパワーなわけだし……」
「お、おい、ほむら……?」
「……さらに欲を言えばそんなややこしいことせずにグレネードや迫撃砲やC4を使えば全部吹っ飛ばせるから本当に楽よね。まあ無理だろうけれど、サバゲーにRPGが登場するのもきっと遠い話じゃないと……」
「あ、あの暁美さん? 自分の世界に入ってるところ悪いのだけれど、話進めてもらっていいかしら……?」

 ハッとした様子でほむらが我に返った。

「……ごめんなさい、時々発作みたいにこうなってしまうの。今も休止はしてないけど、昔よりはサバゲーに参加できる時間がめっきり減ったしまったせいで……」

「難儀だな……。それで、そのサバゲーとラーメンと、どう繋がるんだ?」

「私が参加していたチームの中に、ラーメン屋の店主の人がいたのよ。私がさっきみたいな具合で銃について話してたら意気投合して、そのうち自分の店のラーメンを食べてほしいって言われたの。……そこで出された一杯を食べて衝撃を受けたわ。この世の中にこれほどまでにおいしい食べ物があったのか、と。……私はその店主、つまり今では私の師匠だけれど、その人に頼み込んで高校卒業と同時に店に弟子入りした。それから5年の修行期間を経て、師匠のお墨付きをもらった私は自分の店を持つことが出来、今こうしてここでラーメンを作っている、ってわけよ」

 思わず3人が言葉を失う。予想以上に波乱万丈な人生だったからだろうか。

「……お前、苦労したんだな」
「そうかしら? やりたいことをやって生きている、今の私は幸せよ。……少なくとも、何かをやらなければならないという観念に押しつぶされそうになって……いえ、それを唯一の生きがいとして生きていたときよりは何倍も、ね」
「ほむら……」

 そこでさやかは気づいた。これまで己の目的のためだけに何度も限られた時間の中を遡行し、1人で苦悩し続けてきたほむらがそこから解放されれば、いや、ほむらだけでないだろう、人間であれば何人たりとも解放されれば、このように変わるに違いないのだと。

「だから私はまどかに感謝している。こんな私を……いいえ、私だけじゃない、全ての魔法少女を救ってくれたのだから」

 再び3人が黙り込む。中学まではさやか、ほむらと一緒のクラスだったまどかだったが、高校進学と同時に母の仕事の都合で一度見滝原を離れ、その後連絡がつかなくなっていた。

「……もっとも、私がまどかに感謝するのはそれだけはないのだけれどね」

 チラリ、とほむらが壁にかかった時計を見上げた。

「……そろそろかしら?」
「何がだ?」

 杏子の問いに答えずほむらは微笑む。

 と、その時、「仕込み中」という札を掲げておいたはずの入り口が開いた。

「ごめーん! 遅くなっちゃって……」

 入り口を開けたその人物の姿を見て――3人は「あっ!」と同時に声を上げた。

「えっ……? あ、あれ? ひょっとして……みんな、どうして……」
「な、なんであんたがここに……!」

 さやかにそう言われ、入り口を開けた人物は困ったような笑顔を浮かべてこう言ったのだった。

「……いきなり秘密がバレちゃったね……!」
「まどか!? あんたなんでここを……!」
「そういうさやかあちゃん達こそどうして……」
「皆客として食べに来たのよ。マミは常連だけど、杏子とさやかはたまたまここを店を見つけたみたい」
「私もほとんどたまたまよ。いつも時間帯はばらばらだから、今日は偶然この時間だったってだけだし。……つまり皆、円環の理に導かれて、この時間に集まった、ってわけね」

 「また始まったよ」という具合に3人が苦笑を浮かべる。が、まどかだけが素直に笑顔を浮かべていた。

「そうですね。まさに魔法少女の同窓会、ってところですね。ウェヒヒ」
「……それはそうとしてまどか、あんたも食べに来たの?」
「ううん。私はお仕事」
「仕事?」

 一度入り口からまどかが外に姿を消し、次いでトレイを数段両手で抱えて店の中へと戻ってきた。

「これだよ。……はい、ほむらちゃん」
「いつもありがとう、まどか」

 さやかが、いや、3人が立ち上がりそのトレイの中を覗き込んだ。

「これは……」
「麺……だと……?」
「ええ、そうよ。ラーメンにとってスープに次いで大切といってもいい麺よ。鹿目製麺所から朝と夕方前の2回、まどかが直々に持ってきてくれるの」
「ちょ、ちょっと待って! 今『鹿目製麺所』って言った!?」
「言ったわよ」
「ウェヒヒ、今私製麺所の社長なんだ」
「「な、なんだってー!?」」

 3人の叫びが店内に木霊する。

「ど、どういうことだおい……。確かさやかからは母親の仕事の都合で高校進学と同時に引っ越したって聞いたんだが……」
「うん、引っ越したよ。ママが異動になった地域の責任者になって、そこに引っ越したの。で、メーカーと取引してた時に製麺所の人と出会って、気が合っちゃったらしくて、会社を辞めてその人のところで製麺のノウハウを習ったの」
「……どっかで聞いたような展開だな」

 横目に杏子がほむらを見つめる。が、本人は全く気にしていない。

「それでその後パパと一緒に小麦粉の産地から配合から色々研究して会社を立ち上げた。元々主夫だったパパのアドバイスがかなり生きたみたい。業界の評判も良かったんだよ」
「鹿目製麺所の麺の素晴らしさは何と言ってもまずスープが絡む麺よ。食べてもらったからわかると思うけど、私の濃厚スープがよく絡むから、見た目のインパクトに負けない味を生み出している。そしてしっかりとしたコシ。ヤサイと合わさることで空腹が満たされる、最高の相性となるの」
「だよね、ほむらちゃん。まるで私とほむらちゃんみたいだよね、ウェヒヒ」

 まどかにそう微笑みかけられ思わず頬を染めるほむら。

「はいはいごちそうさま。……それで、引越し先遠かったと思うけど、まさかそこから運んでるわけじゃないわよね?」
「うん、今は前の家とは違うけど見滝原周辺だよ。まあ工場抱えてるから外れの方だけど」
「それで見かけなかったのね。いつこっちに?」
「2年前ですかね。大学卒業して母が会長になって私が社長になったときに戻ってきたんです」
「私とまどかが再会したのもその時よ。修行中だった私の店にまどかが自社の麺を売り込みに来て……。あそこはずっと得意先の麺を使ってたからと断ったんだけど、その時に私はまどかの麺に合うスープを、まどかの麺のためのラーメンを作るって決めたのよ」
「でもあの時のほむらちゃんすごく驚いてたよねー。久しぶりだったからって、はしゃいじゃって」
「だって……。本当に会ったのは久しぶりだったから……」

 互いに見つめあい、まどかは嬉しそうな、ほむらはうっとりした表情を浮かべる。

「はいはい、ごちそうさまって言ってんじゃん。……でもそっか、まどかがこんなことになってたとはねえ……」
「鹿目製麺所の麺は品質を保つために大量生産できない。だから使っている店舗こそそこまで多くないものの、使っている店は例外なく人気店にのし上がっているの。今じゃそのおかげで『麺神(めんがみ)まどか』とか『アルティメットまどか』とまで崇める人がいるほどよ」
「いや、ほむらちゃん……。最後のはちょっと……」
「でも、ま、あれから10年、なんだかんだで皆元気にやってたんじゃん」

 と、コップの水を飲み干して杏子。

「10年ね……。そうやって考えるとこの円環の理に導かれた魔法少女の同窓会も、なんだか久しぶりね」
「あの頃はマミの家だったけど、今じゃほむらの店だしな」
「……あ! 同窓会といえば」

 さやかが思い出したように口を開いた。

「まどか、ほむら、来月末の土曜日夜に同窓会あるんだけど、あんた達来ない?」

 話を振られた2人が考え込むような表情を見せる。

「……ごめんなさい。翌日の仕込みがあるから難しいわ。日曜日は来客数が多いから気合を入れないといけないし……」
「私もちょっと厳しいかな……。ほむらちゃんが言ったとおり日曜日は多く麺を出荷しないといけなくて、土曜夜はライン止めらんないんだ。だから私が抜けることは難しいし」
「そっか……。今回は珍しく仁美と恭介が両方来るから修羅場見れそうだったから、オススメだったんだけどなあ……」
「あれ? あの2人どうなったの?」
「結婚した後恭介の浮気がバレて今別居中。まったくプロのバイオリニストになっておきながらあいつは何やってんだか……」
「よかったなさやか、そんな男にひっかからないで」
「うっさい。あんたこそ1回ぐらい恋とかしてみなさいよ」
「ハァ!? あたしだってそんなのあるっつーの!」
「いつ? どこで? 誰と? どんな風に?」
「う……! そ、そういう話はマミの専門だ! おい、マミ、どうなんだ!?」
「え、ええ!? 私に振るわけ?」
(杏子にしては珍しい……。地雷踏んだわね、そんなに余裕なかったのかしら……?)
「そ、そうね! 浮気相手になったこともあるけど、今の彼で、えっと……ああ! 何人目だか忘れちゃったわ! まあ男なんてそんな掃いて捨てるほどいるんだもの、気にすることなんてないわ!」
「そ、そうですよね! さっすがマミさん!」
(……結局さやかも気づいてるんじゃないの)

 さやかが大きくため息をこぼす。

「……とにかく、2人とも元気だったって、皆に伝えておくわ」
「よろしくお願いするわ」
「ありがと、さやかちゃん。……あ、でも」
「ん?」
「私が……その、社長だ、ってことは……」

 少し恥ずかしそうに目を伏せて一瞬間を空けた後、まどかは口を開いた。

「……クラスの皆には、ナイショだよ!」






「あ……もうこんな時間」

 それから少しの間話が弾んだが、まどかが壁にかかった時計を見て、思ったより時間が過ぎていたことに気づいた。

「次の店にも麺を配達しないといけないから……そろそろ行かないと」
「そっか……。名残惜しいけど仕方ないよね」
「また今度、お酒でも飲みながら話そ。杏子ちゃん、その時はゆまちゃんも連れてきてよ」
「そうだな」
「じゃあ私はもう行くね。ほむらちゃん、さやかちゃん、杏子ちゃん、マミさん、またね!」

 4人に笑顔で手を振り、まどかが店を後にする。

「さてと……じゃああたしらもそろそろ帰るか」
「そうね。暁美さんの夜のための仕込みを邪魔しちゃ悪いものね」
「あたし小食だからあんまり食べられなかったけど……おいしかったよ、ほむら」
「ありがとう。……よかったらまた来て頂戴。それに……今日は話せて楽しかったわ」

 予想もしなかった一言にさやかと杏子が思わず顔を見合わせる。

「……ったく調子狂うよな、お前がそういうこと言うと」
「いけないかしら?」
「いいえ。いいことだと思うわよ。楽しいことは楽しい、嬉しいことは嬉しいって素直に言えることが一番だと思うし」
「マミさんの言う通り! もっとこのさやかちゃんのように素直に生きるといいのだ!」
「お前の場合素直って言うか……」
「……『馬鹿』正直と言ったところかしら」
「ちょっと、ほむら! あんた今『馬鹿』の部分だけ強調したでしょ!」
「さあ? どうかしら?」

 そんな2人のやり取りを見ていたマミから思わず笑いがこぼれた。

「マミさん! マミさんまで笑わないでくださいよ!」
「うふふ、ごめんなさい。ケンカするほど仲がいい、って言葉を思い出して」
「「誰と誰がよ(ですか)!」」
(やっぱ仲いいんじゃねえかよ……)

 そう思わず心の中で呟く杏子。

「フン! 帰るよ、杏子!」
「はいはい。……って危ねえ、タダ食いするところだった。いくらだい?」
「その必要はないわ。今日のラーメンは同窓会の差し入れ、とでも思って頂戴」
「なんだそりゃ? どういう意味だ?」
「私が奢る、と言ってるのよ。久しぶりの再開の祝いよ。それじゃ納得できない、というなら……また食べに来て頂戴。それだけで私は十分嬉しいわ」
「……じゃあ遠慮なくそうさせてもらうとするか」
「マミも今日はいいわ。いつも食べに来てもらってるお得意さんですものね」
「あら、本当? それじゃお言葉に甘えさせてもらうわ」

 3人が席を立つ。

「じゃあな、ほむら、ごちそうさま。また来るよ」
「あたしは来るかわからないけど……。まあ機会があったら来るよ」
「私はもしかしたら夜来るかもしれないから、その時はよろしくね。……じゃあ仕込み、頑張ってね」

 入り口を開け、かつて魔法少女だった3人が店を後にする。

「ありがとうございましたー!」

 その背を見送りながら、ほむらは他の客にかけるようないつも通りの元気な挨拶を返した。

「……さて、仕込みを始めないとね」

 1人店内に残されたほむらは夜のために準備を始める。
 かつては同じ魔法少女であったが、それぞれの道を歩んだ5人。久しぶりに全員と顔を合わせ、短い時間だったが、やはり楽しい時間だった。
 そして皆が自分が作ったラーメンを美味しいと言ってくれた。その笑顔を見れたことが、ほむらは何よりも嬉しかった。

(だから私は、作り続ける――)

 決意も新たに、ほむらはスープの入った寸胴と向かい合った。


 後に「ラーメン界伝説の女主人」としてその名を轟かせ、「AKEMI系」と呼ばれる新たなラーメンがラーメン界に一大旋風を巻き起こし、社会現象にまで発展することになる。しかしそれはまた別のお話――。


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