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No.33893の一覧
[0] 【習作】桐の枝に止まる鷹(fate/zero二次、オリ主)[深海魚](2012/07/08 14:43)
[1] 間桐雁夜の一夜の過ち[深海魚](2012/07/08 15:05)
[2] 居候の雛[深海魚](2012/07/08 15:12)
[3] 裏話1・当主と父の狭間で[深海魚](2012/07/08 15:17)
[4] 合流[深海魚](2012/07/08 15:21)
[5] 推察と発覚[深海魚](2012/07/08 18:56)
[6] 出立か別れか[深海魚](2012/07/07 19:00)
[7] 分水嶺1if・もし、雁夜が桜を見捨てたら[深海魚](2012/07/07 19:03)
[8] 飛鷹の大冒険・朝[深海魚](2012/07/08 13:39)
[9] 飛鷹の大冒険・昼[深海魚](2012/07/08 14:35)
[10] 飛鷹の大冒険・夕[深海魚](2012/07/08 14:40)
[11] 裏話2・尋常ならざる帰省[深海魚](2012/07/09 21:22)
[12] 到着のすれ違い[深海魚](2012/07/09 22:48)
[13] 悪夢の邂逅[深海魚](2012/07/10 21:54)
[14] 恐怖[深海魚](2012/07/11 19:21)
[15] 選択[深海魚](2012/07/14 11:55)
[16] 分水嶺2if・飛鷹が雁夜を選んだら(前編)[深海魚](2012/07/15 20:07)
[17] 白昼夢の再会[深海魚](2012/09/04 21:13)
[18] 勢揃い[深海魚](2012/10/12 20:46)
[19] 昔語り・葵について[深海魚](2012/10/15 21:26)
[20] 飛べない鷹[深海魚](2012/10/18 21:18)
[21] 執着[深海魚](2012/10/22 23:05)
[22] 君が為に[深海魚](2012/11/26 22:43)
[23] 少しだけ違う日常[深海魚](2012/12/20 23:02)
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[33893] 推察と発覚
Name: 深海魚◆6f06f80a ID:fb12e672 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/07/08 18:56
 飛鷹と雁夜は墓地にいた。
 冬木霊園。捻りのない安直な名前のついたそれは、冬木市の郊外に位置している。

「お客さん、ここでいいかい?」
「はい。二十分ほどで戻ってきますから、少し待っていてください。さ、行くぞ飛鷹」
「うん」

 タクシーの運転手に指示を残し、あらかじめ購入しておいた花束と一本の白百合を持った雁夜は、飛鷹と連れ立って墓の間を歩いて行った。

「ねえ、お父さん。そういえば、今回はどこに行ったの?」
「ああ、アメリカは知ってるだろ? そこのワシントンDCっていうところ」
「わしんとん? それって人の名前?」
「お、飛鷹は賢いなぁ。飛鷹のいう通り、元々はワシントンさんっていう人にちなんで付いた名前なんだ。こんなに賢いなら、飛鷹は凄い人になれるな」
「え、そうかな? へへ……」

 照れ笑いをする飛鷹を見ているだけで、雁夜は胸の中が熱くなるのを感じた。
 静との間に愛があったか、と問われれば答えに詰まる。そんなことを考える間もなく彼女は消えてしまったから。
 しかし、飛鷹に対して愛情を抱いているかと聞かれたなら即答できるだろう。
 この世の誰よりも、比べられるものではないが、おそらく葵と同じくらい、この子を愛していると。
 葵への感情が恋慕であり、飛鷹への感情は親愛という違いはある。だが、この二人のためなら雁夜は命を投げ出せるだろう。

 やがて二人はある墓の前で立ち止まる。結城静と刻まれたその墓には、枯れてしまった花が寂しく残っていた。去年に雁夜が置いていったものだ。
 雁夜はその花を全て取り除き、新たに持参した花束を差した。

「ああ、着いたな。飛鷹、ロウソクに火をつけておいてくれ。お父さんは水を汲むから」
「はーい」

 飛鷹にロウソクと線香の箱、ライターを持たせ、雁夜はすぐ傍にあるバケツに水道水を溜める。
 程なくしてバケツは水で満たされ、飛鷹も火のついたロウソクを立てた。

 まず飛鷹が線香に火をつけて手を合わせ、次いで雁夜が墓の前に膝をつける。

(静……)

 脳裏に浮かぶのは静の顔。普段は意地悪く笑った顔ばかりしていたが、あの夜だけは違った。
 あの夜――たった一度だけ、交わった夜。
 なぜ静があのような行動に出たのか、いまでも雁夜には分からない。
 彼女が自分を愛していたということ。雁夜はその思いに応えられないと知っていたこと。それでもあの夜、一度限りの関係を結ぶと決めたこと。雁夜に分かるのは精々この程度だ。

(飛鷹は元気だよ。たまに子供とは思えないくらい賢いところを見せる)

 雁夜は思い出す。
 静は自分が妊娠していたことを隠し、冬木から去ったことを。
 間桐の魔術を雁夜から伝え聞いていた彼女が、妊娠期間中の改造を防ぐために臓硯の手の届かぬところに逃げたことを。

(見かけも中身も、俺じゃなくてお前にそっくりだ。喜ぶべきなのか、分からないけどな)

 雁夜は思い出す。
 出産の直前、唐突に入った知らせを。
 自分の子供が産まれるということを知ったときの衝撃を。

(もうすぐ聖杯戦争が始まる。でも、大丈夫。俺が守ってみせる。だから、お前は安心して見てろよ)

 雁夜は思い出す。
 出産を終えた後、糸が切れたようにこの世を去った静の笑顔を。
 その笑顔で遺された、最後の言葉を。

(俺は地獄に堕ちたとしても、この子は絶対に守りきってやる)





「すぅ……すぅ……」

 疲れたのか、タクシーの中で眠ってしまった飛鷹を腕の中に抱きながら、そっとその頭を撫でる雁夜。
 こうして眠っている姿は年相応である。雁夜にとって、飛鷹は全ての部分が愛おしい。しかし、とりわけ愛らしいのは、このギャップだった。大人顔負けの論理を持ち合わせているかと思わせるときがあるからこそ、子供の部分の愛くるしさが際立つ。
 見ているだけで、そこにいてくれるだけで、幸せに胸が熱くなる。
 飛鷹のためなら何でもできる。雁夜は心からそう思っていた。

 そしてだからこそ、頭の一部分と背筋に寒気を感じざるを得なかった。

(聖杯戦争……誰がこの子を近づけさせるか)

 そう改めて決意しつつも、やはり一抹の不安を抱かざるを得ない。
 現在、間桐の家には碌な魔術師がいない。自分は出奔した身であり、魔術師としての才能も凡才と非才の中間地点を出ない。兄の鶴野はそれ以下、はっきりいって非才である。しかし、だからといって臓硯が聖杯を諦めるなど有り得ない。
 ならば、ここで考えられる手段は三つ。

 一つ目は、自分――間桐雁夜をマスターに仕立て上げ、参戦するというもの。
 兄である鶴野の息子、慎二にも魔術回路がないことは鶴野本人から確認済みだ。そして、自分の息子たる飛鷹にも魔術回路はない。ならば鶴野と比べてまだマシな雁夜の他に出せるマスターがいない。
 ただし、雁夜は修業をしていない一般人だ。魔術回路を持っていようとも、それを眠らせたままならば錆ついていくのは必定。まして、自分は十年以上の長きに渡ってロクな魔術を行使したことがない。使われない筋肉が痩せ細っていくように、回路は使い物にならない可能性が高い。
 時間をかければ魔術師としての復帰も可能だろうが、戦争は一年後に迫っている。そんな悠長なことをしている場合ではない。
 まあ、雁夜の知る間桐の魔術はそれだけではない。人に寄生し、その肉と生命力を食いつぶすものの、魔術回路の代用品として使える虫、魔術回路に潜り込み、発狂は避けられないとまで言われている痛みと引き換えに、その太さを拡張する虫……どうとでもできる。
 ただ、そんなことをするくらいなら、もっと前に雁夜を連れ戻し、飛鷹を人質にして修行に励ませれば良い。それをしていないということは、この手段を取る可能性は低い。

 二つ目は、臓硯がマスターとなり、自ら聖杯を手に入れんとする可能性。
 だが、これも可能性は低いと雁夜は見ていた。兄の鶴野とは違い、自分は臓硯に臆することなく正面切って向かい合ってきた。その経験からくる確信にも近い推測だ。
 あの臓硯が、自分の延命のために後継者の肉を貪り、一般人の体を奪い取るあの妖怪が、直々に戦場に出るという危険を冒すとは思えなかった。それをするくらいなら雁夜を育て上げることを選ぶだろう。
 あくまで延命、不老不死を目的とする臓硯が最優先にしているのは、まずリスクの軽減。ハイリスクハイリターンなど、あの老人には似合わない選択肢だった。

 三つ目は、今回の聖杯戦争を放棄するというもの。
 戦っても勝ち目がないなら、戦わなければいい。戦争は六十年の周期で行われるのだから、今回だけに懸けるものでもない。
 ただし、これはなんの意味もない行為だ。臓硯の他にまともな数の魔術回路を持ち合わせた人間はおらず、その次にマシな雁夜は出奔しているいま、間桐の家に再び優秀な魔術師が生まれることは、まず有り得ないと見ていい。
 尤も、雁夜は間桐の魔術から離れて久しい。ゆえに飛鷹に関しては未知数である。知り合いの魔術師は、よもや間桐伝統の蟲による開発を行った場合の想定までして回路の検査を行ったわけではない。

 これらのことをざっと頭の中で整理し、雁夜は臓硯の思考、行動を読もうとする。

(不安要素は多いけど、俺たちが巻き込まれることはない、そう考えて問題ないだろうな。となると、あの爺ぃの執念はどこに目をつける……?)

 奇策や小細工を弄したところで、サーヴァントを持たない部外者が聖杯を手に入れることはできない。聖杯に選ばれた者のみが、その願望機に祈りを届けることを許されるのだ。これは、始まりの御三家たる間桐にとって知っていて当たり前のこと。外部から招かれた他四人の魔術師であっても知っていることだ。

(いや……そうか、外部から魔術師を招く可能性もあるのか)

 雁夜からすれば、この推測が最も妥当に思えた。
 ただし、臓硯がそれほどの人材を用意できるか? その一点において、この推測はあっという間に瓦解する。
 間桐の人脈は決して広くない。
 詳しくは知らないが、かつて魔法の実現を成し遂げた錬金術師の一族、アインツベルン。
 歴代でも指折りの優秀な当主を頂点とする、ここ冬木市の管理者、遠坂。
 それら二家に比べ、はっきりいって間桐は貧弱だ。かつてはロシアのどこかで権勢をふるっていたらしいが、それもここ日本に移住してからは過去の栄光、滅びた威光である。
 そして、それなりの腕を持つ魔術師は、それぞれ信念や信条がある。金を積めば動くような魔術師は一握り……否、雁夜が魔術師見習いであった十数年の期間、一度も聞いたことがない。そういった連中は、魔術使いという蔑称で呼ばれる者たちだ。
 また、金で動く凄腕の魔術使いを用意できたところで、その魔術使いが聖杯を独り占めしないとは限らない。いかなる願いをも叶え、根源への到達をも可能とする願望機である。どれだけの金を積もうと、聖杯はその数百倍を用意できる。どれほどの名誉を約束しようとも、聖杯ならばそれに勝る栄光を与えられる。なにかと引き換えに結んだ契約ならば、それを順守する理由がなくなってしまうのだ。
 ゆえに、臓硯が聖杯戦争を勝ち抜くに足り、なおかつ契約を裏切らないと信頼できるマスターを用意できるかというと、首を傾げるしかない。

「あの野郎……一体、なにを考えてるんだかな」

 つい、心の声が口に乗る。
 自分が最も憎み、そして最も恐れる存在。それがどう動くか読めないというのは、実に恐ろしいものだった。
 だからこそ、雁夜は思考をやめない。
 なにがあろうとも、飛鷹を守ると決めたのだから。

(考えろ、考えろ。あの爺ぃは聖杯がほしい。寿命は人がいる限り伸ばせるだろうから、そこまで焦る必要はない。だが、それもあと百年くらいが限度だろう)

 雁夜は魔術師として独り立ちする前に逃げ出したが、それでも魔術でできる限界というのはなんとなく見極められる。
 まして、あの老体が劣化し、その都度誰かを犠牲にして取り換えられるのを見てきた身である。どれくらいの間隔で交換するのか、どのような素材を必要とするのかについて、雁夜は臓硯の次に詳しい存在だといっていい。
 ゆえに、百年という予想はあながち間違ってもいないだろうという自信があった。

(今回の戦争には、おそらくだが出ないだろうな。他人は信用に値せず、家族は無能だらけで論外、今から俺を仕立て上げるのは非効率的だ)

 となれば、どうするか。
 雁夜の頭脳は、さらに高速回転を始める。
 ルポライターとして養った、限られた情報による推測と、情報の整理能力を十二分に活かしながら。

(となれば、あいつの狙いは第五次。ただし、どこから有能な魔術師を調達するかがネックになる。外来の魔術師は信用できないんだから無理、魔術師を作ろうにも残ってるのが俺や鶴野じゃどうにもならない。となると、どこかからまだ子供の、魔術師の卵を養子にもらい、蟲蔵に放り込んで、間桐に染めた後に孕ませるしかないな。だが、そんな都合のいい魔術師をどこから調達する?)

 まず、間桐と繋がりのある家から調達することになるだろう。全く関わりのない家から養子がくるほど、間桐は強くも有名でもない。また、魔術師の家の子供を誘拐するほど臓硯は無謀ではないので、正式な養子縁組を経ることになる。
 また、子供が二人以上いる家に限定される。魔術師の家において、二人目の子供――というより、魔術師としての才覚が劣る方の子供――は養子に出され、家同士の付き合いに利用されるのが普通だ。

(つまり、間桐と家同士の付き合いがあり、二人ないしはそれ以上の子供を産んでいて、しかもその子供が……まだ幼い家!)

 その瞬間、ある可能性に気付いた雁夜は、背筋に氷柱を差し込まれたかのような怖気に襲われる。
 それらの条件を全て満たす家が、たった一つだけあった。

 恐ろしい才能を有する娘を二人産んでおり、
 間桐とは数百年来の盟約を結んでいて、
 しかも、その家の当主は魔術師としての義務を守るためなら、娘を差し出すことを躊躇しない。

「時臣……まさか、お前……!」

 雁夜は、自分の中に生じた恐ろしい考えを、否定できずにいた。


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