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No.33893の一覧
[0] 【習作】桐の枝に止まる鷹(fate/zero二次、オリ主)[深海魚](2012/07/08 14:43)
[1] 間桐雁夜の一夜の過ち[深海魚](2012/07/08 15:05)
[2] 居候の雛[深海魚](2012/07/08 15:12)
[3] 裏話1・当主と父の狭間で[深海魚](2012/07/08 15:17)
[4] 合流[深海魚](2012/07/08 15:21)
[5] 推察と発覚[深海魚](2012/07/08 18:56)
[6] 出立か別れか[深海魚](2012/07/07 19:00)
[7] 分水嶺1if・もし、雁夜が桜を見捨てたら[深海魚](2012/07/07 19:03)
[8] 飛鷹の大冒険・朝[深海魚](2012/07/08 13:39)
[9] 飛鷹の大冒険・昼[深海魚](2012/07/08 14:35)
[10] 飛鷹の大冒険・夕[深海魚](2012/07/08 14:40)
[11] 裏話2・尋常ならざる帰省[深海魚](2012/07/09 21:22)
[12] 到着のすれ違い[深海魚](2012/07/09 22:48)
[13] 悪夢の邂逅[深海魚](2012/07/10 21:54)
[14] 恐怖[深海魚](2012/07/11 19:21)
[15] 選択[深海魚](2012/07/14 11:55)
[16] 分水嶺2if・飛鷹が雁夜を選んだら(前編)[深海魚](2012/07/15 20:07)
[17] 白昼夢の再会[深海魚](2012/09/04 21:13)
[18] 勢揃い[深海魚](2012/10/12 20:46)
[19] 昔語り・葵について[深海魚](2012/10/15 21:26)
[20] 飛べない鷹[深海魚](2012/10/18 21:18)
[21] 執着[深海魚](2012/10/22 23:05)
[22] 君が為に[深海魚](2012/11/26 22:43)
[23] 少しだけ違う日常[深海魚](2012/12/20 23:02)
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[33893] 選択
Name: 深海魚◆6f06f80a ID:fb12e672 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/07/14 11:55
 予想もしなかった悲劇から、五分後。

「雁夜の馬鹿者は、なぜ戻ってきたか、知りたいであろう?」
「……はぃ」

 飛鷹と臓硯は、応接間で向かい合って話をしていた。
 奇しくも、その前日に雁夜と臓硯が対面していた時と同じように。
 飛鷹は先程の動揺を欠片も表に出さず、冷静さを見せている。
 声は若干震えているものの、たった五分でパニックから回復したのは、七歳の子供であると考えれば称賛に値するだろう。

 これは、飛鷹の特殊性に由来する。
 彼の精神は二つある。“大人”と、“子供”だ。
 無論、心や人格が二つあるわけではない。だが、飛鷹の心は二人分が混ざってできている。つまり、単純計算で常人の倍の許容量があるのだ。
 “子供”の未熟な精神が“大人”の成熟した精神に引っ張られているため、子供の面の成長も早いことを考えれば、二倍以上だといえる。
 ゆえに、平常時へのリカバリーも単純計算で倍以上の速さ。
 ショックへの耐性も常人の二倍以上。
 体は一人分であるために、並列思考や筋力二倍などといった力はないのだが、倍の精神力というだけでも十分な強みである。

 ただし、それは逆も然りである。
 先程のように、“大人”であっても恐怖せざるを得ない事態が突発的に起こった場合、パニックも二倍になる可能性がある。
 心という深遠かつ複雑な分野のことであるため、はっきりとしたことは断言できないが。

 要するに、飛鷹の異常性は、ある一定のラインを超えると諸刃の剣となりうるのだ。

 そして、そんなことは全く知らない臓硯は、心の中で飛鷹への評価と警戒心をやや上向き修正する。
 修正して、飛鷹をその黒い眼でしっかと見る。
 見られた飛鷹は、居心地の悪さにも近いものを感じて身じろぎした。

「早く、お父さんの話を、お願いします」
「……よかろう」

 これだけの気骨が残っているとは――驚愕から僅かに瞠目した臓硯は、すぐさま醜悪なまでに邪悪な笑みを顔に張り付け、語り始めた。

「一から十まで説明しようなどと思えば、数百年分を語り尽くさねばならぬ。ゆえに、とりあえずは基本的なことだけを話しておこう。――雁夜は、聖杯戦争にて勝ち抜き、聖杯を手に入れるために舞い戻った」
「せいはい?」
「聖杯とは……そう、平たく言うてしまえば、願いを叶える杯じゃ。死者の復活、根源への到達、世界の改変……どれほど悪辣で、どれほど深遠で、どれほど非現実的な願いであっても、聖杯はくみ取り、そして叶える」
「……」

 あくらつだの、しんえんだの、小難しい言葉は理解できなかったものの、文章に込められた大よそのニュアンスは掴んだ飛鷹は、黙り込んだ。
 確かに魔術というものの存在は認知した。ついさっき自分を襲った羽虫や、木のアンティークを日本刀のようにすっぱり切り裂いた謎の虫が、よもや自然界の生物ということはあるまい。あんな虫がいれば、生態系のバランスなど、とうの昔に崩壊しているだろう。その点から考えれば、願いを叶えるというのも信じられないではない。
 ただし、文字通りありとあらゆる願いを叶えるというならば、やはり話は別である。

 ランプの精よろしく、こすったら出てきてなんでもしてくれるという類のモノならば、まだ納得もできただろう。しかし、死者の復活から世界の改変までなにもかも、となれば、疑わざるを得ない。

「信じられない……とでも言いたげな顔じゃの。しかし、信じぬならば、ここからの話は全て意味を持たぬ。まあ、無理に信じろとは言わぬがな」
「……続けてください」

 呟きながら飛鷹は、心の中で臓硯の評価を改めた。
 この老人は悪い人ではない。
 心の在り方も意地も、ついでにおそらく趣味も悪い人だ。

「さて……その聖杯を持ち帰るための戦争が聖杯戦争じゃ。詳しくは置くが、戦争を行うことによって聖杯は完成する仕組みとなっておる。周期は六十年に一度。その戦争に勝ち残り、聖杯を持ち帰るのが、間桐家の悲願。それだけを目指して数百年、繰り返すこと三度、しかし未だに叶っておらん。だというのに、今回の聖杯戦争は勝つ見込みのある魔術師すら用意できなんだ。仕方なく、次の六十年が巡り来るまで待つと決めた」

 臓硯の唇の両端が、歪に吊り上がる。

「が、そこに舞い戻ってきたのが雁夜であった。ワシは奴の言い分を聞き、取引を交わした。聖杯と遠坂の小娘一人、等価とは世辞であっても言えぬ交換だがな。その結果、あやつは魔術師としての己を高めるべく、あのような外法に手を出す仕儀となった。……ふむ、こんなものか」

 臓硯の使う言葉はやけに難しく、とうか、せじ、げほう、などなど、あまり理解できない部分も多々ある。
 ただし、それでも分かる言葉はある。

 ――遠坂?

 飛鷹の耳に、なにやら聞き捨てならない言葉が飛び込んだ。

「ちょ……ちょっと、待ってください」
「なんじゃ」
「遠坂の小娘って、どういうことですか? なんであの人たちが、こんな話に関係あるんですか?」
「む? ……ああ」


 飛鷹の疑問を、まるで虫を捕らえる食虫植物のように絡め捕り、臓硯は今度こそ、嗤った。
 自分は、途轍もなく巨大で深い墓穴を掘ったのかもしれない――飛鷹は、そう直感する。

「成程。そういえば、雁夜は遠坂に嫁入りした女と親交があったな。ならば飛鷹、おぬしが遠坂家を知っておっても不思議はない……」

 はたして、その直感は裏切られなかった。

「簡潔に言えばな、遠坂桜という小娘は、この間桐の家で、魔術師として育てられることになっておる。ただし、その育成に使われる手段は、ちと惨いものだがな」
「桜ちゃん……むごい?」

 言葉の意味は分からない。
 ただし、桜が関係していることと、その桜が目の前の老人の手に落ちようとしていることは理解できた。
 それが、確実な不幸しか呼ばないということも。

「応。蟲で満たされた蔵にて、骨の髄まで犯されぬくのよ。そうすることで、遠坂の血を薄め、間桐の魔術に染める。そうでもせねば、遠坂の血が間桐のそれをかき消してしまうのでな。――犯す、という言葉は分かるか?」
「……分かりません。でも、凄く嫌なことの気はします」

 この場面で、あれほど悪の権化のような性質を見せた老人が、あれほど嬉しそうに笑って口にした言葉である。碌な意味ではないという予感があった。

「ふむ、分かりやすく言えばな、先程の雁夜が受けておったのと同じ――いや、より酷いやり方で、しかもより長く、続けねばならんということだ」
「お父さんより……ひどい?」

 全身が震える。
 雁夜の受けていた責め苦が、頭の中に蘇る。
 それを見た臓硯はなにかを推し量るように飛鷹を改めて見た。

「頭では理解したか……が、古来より、百聞は一見に如かずと言う。どれ、蔵を見に行くとしよう。さすれば、桜がどれほどの地獄を味わうこととなっておるか、真の意味で分かろうものよ」

 臓硯は背を向け、またも歩き出す。
 その状況が、雁夜と会ったときのそれとダブって、飛鷹は追従することを躊躇した。

「来ぬのか? 見て見ぬふりをすると言うならば、止めはせ――」
「行きますっ! ……行くから、待って……」

 最後は泣き声だった。
 もう、耐えられなかった。
 どうして――自分の大切な人ばかり、こんな目に合うのか。

 追い詰められすぎて、悪い夢だと思い込むことすらできない。

(……桜ちゃん)

 儚げな微笑を浮かべる少女が、脳裏に浮かんだ。





◇◆◇◆





 結論から言えば、飛鷹は分かっていなかった。
 臓硯ほどの男が、地獄という形容を用いるに相応しい環境とは、どれほどおぞましい場所なのか。

「……ここ、に?」
「その通り」

 館を出て庭を横切った先に、入口から下を地下に埋めるようにして、その蔵はあった。
 壁に沿って作られた階段は底まで続いており、飛鷹には想像もつかない仕組みの灯りが、天から僅かな光を投げかけている。
 その光に、蔵の奈落は暴かれる。
 奈落の底、闇の中では、歪な形をした無数の蟲が、仄暗く湿った蔵の底で蠢いていた。
 うじょりぐじょりと、耳に入れるのも不愉快な音を立てて這いずる虫が、数万、数十万、一体、どれだけいるだろうか。先程の羽虫など、数でも質でも可愛いものだ。
 ここに、例えばか弱い少女を投げ込んだとすれば、どうなるかは想像に難くない。

(ここに、桜ちゃんが……)

 飛鷹は、頭の中で、ちらりとその光景を思い浮かべた。思い浮かべてしまった。

「~~~ッ!」

 想像ですら、正視に堪えない。
 こみ上げてきた強烈な吐き気を咄嗟に抑え込み、その場にうずくまる。

「……飛鷹よ。この光景を見た上で、おぬしに選択肢を与えてやろう」

 臓硯の声が、頭上から降ってくる。
 やけに不吉なものを含んでいた。

「桜を見捨て、父親を連れて去るか。それとも、父親の決意を尊重するか」

 その意味するところは、明白だった。
 飛鷹の声は、隠しようもなく震える。

「……桜ちゃんと、お父さん……どっちか選べってこと?」
「物分かりが良い。こちらとしても手間が省ける。しかし雁夜を選んだ場合は、あやつの記憶を弄らせてもらう。間桐の秘密を外に出すわけにはいかぬゆえ、遥か過去まで遡り、魔術に関する知識を根本的に消さねばならん。――むしろ、ここで逃げ出すというならば、そちらの方が幸福であろう」

 父親と、初恋の少女。
 天秤にかけて、どちらが重いか。
 それを臓硯は問うていた。
 桜を選べば、雁夜はこの地獄に留め置かれる。
 雁夜を選べば、桜が助からないのはもちろん、雁夜の人格を構成している記憶を少なからず奪われることになるだろう。

「そんなことっ、決められるわけ……!」

 そんなもの――答えようのない問いだ。
 飛鷹の目から、とめどなく涙が溢れた。
 あまりにも大きいストレスに、体が自衛反応を起こしたのだ。
 ぽろぽろと零れ続ける涙は石の階段に落ち、黒い点を作っていく。

「なにを気にすることがある? 知り合いの小娘一人、どのような目に合ったところで気にすることもあるまい」
「知り合いじゃない、友達だよ! 友達をこんなところに入れるなんて……」
「よく考えてみよ。雁夜とて、いまから処置をすれば十分に間に合う。これから先の長き時を、父親と共に過ごすことに比べれば――この年ごろにできた友を一人、たった一人だけ切り捨てたとて……」

 無茶苦茶だ――そう思いつつも、その提案に魅力を感じてしまう。
 飛鷹は思う。臓硯の声は、まるで昔に読んだ童話の、悪魔の囁きのようだと。

 桜ちゃんを見捨てるなんて、できるわけない――そう叫ぶ自分がいる。
 お父さんを見殺しにするなんて、できっこない――そう喚く自分がいる。

 桜ちゃんのことが好きだ。大好きなのに、こんなところに入れられるのを黙って見てるの?
 お父さんと一緒にいた時間、桜ちゃんと一緒にいた時間、どっちが長い? どっちが、いつまでも一緒にいる人?
 時間の多い少ないじゃない、好きなんだ!
 一緒にいた時間は大事だよ。お父さんは好きじゃないの?

 頭の中で、相反する心の声が浮かんでは消えていく。
 うずくまって、頭を抱えて、涙を流し続ける。

 飛鷹は、七歳の子供に戻ってしまっていた。
 それでも、時間は待ってくれない。
 泣いていても、なにも解決しない。
 望外の幸運は、絶対に起こらないと言っても過言ではないからこそ、奇跡と呼ばれるのだ。
 やがて。

「……ぼくは」

 飛鷹が選んだのは――


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