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No.33893の一覧
[0] 【習作】桐の枝に止まる鷹(fate/zero二次、オリ主)[深海魚](2012/07/08 14:43)
[1] 間桐雁夜の一夜の過ち[深海魚](2012/07/08 15:05)
[2] 居候の雛[深海魚](2012/07/08 15:12)
[3] 裏話1・当主と父の狭間で[深海魚](2012/07/08 15:17)
[4] 合流[深海魚](2012/07/08 15:21)
[5] 推察と発覚[深海魚](2012/07/08 18:56)
[6] 出立か別れか[深海魚](2012/07/07 19:00)
[7] 分水嶺1if・もし、雁夜が桜を見捨てたら[深海魚](2012/07/07 19:03)
[8] 飛鷹の大冒険・朝[深海魚](2012/07/08 13:39)
[9] 飛鷹の大冒険・昼[深海魚](2012/07/08 14:35)
[10] 飛鷹の大冒険・夕[深海魚](2012/07/08 14:40)
[11] 裏話2・尋常ならざる帰省[深海魚](2012/07/09 21:22)
[12] 到着のすれ違い[深海魚](2012/07/09 22:48)
[13] 悪夢の邂逅[深海魚](2012/07/10 21:54)
[14] 恐怖[深海魚](2012/07/11 19:21)
[15] 選択[深海魚](2012/07/14 11:55)
[16] 分水嶺2if・飛鷹が雁夜を選んだら(前編)[深海魚](2012/07/15 20:07)
[17] 白昼夢の再会[深海魚](2012/09/04 21:13)
[18] 勢揃い[深海魚](2012/10/12 20:46)
[19] 昔語り・葵について[深海魚](2012/10/15 21:26)
[20] 飛べない鷹[深海魚](2012/10/18 21:18)
[21] 執着[深海魚](2012/10/22 23:05)
[22] 君が為に[深海魚](2012/11/26 22:43)
[23] 少しだけ違う日常[深海魚](2012/12/20 23:02)
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[33893] 恐怖
Name: 深海魚◆6f06f80a ID:fb12e672 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/07/11 19:21
 飛鷹は一瞬、目の前のものがなんなのか分からなかった。
 行動らしい行動といえば、血走った目で虚空を見つめ、見ている側まで辛くなるほど体を痙攣させ、口からはただ叫び声を上げるだけ。
 血を流し、汗をかき、涙を零し、大小便を漏らし、それら全てが混ざり合った異臭を纏っている。
 視覚、聴覚、嗅覚、どれを取っても、その無残な姿は自分の父親とどうしても重ならない。
 それでも、飛鷹が雁夜の顔を見間違えるはずはない。
 紛れもなく、あれは――

「……おとう、さん……?」

 おそるおそる、かけた声。
 しかし男はその声に反応して飛鷹を見据え、

「ひだ、が、うあああああっ!」

 ひだかと、確かににその名を呼んだ。
 間違いなく、これは雁夜だった。
 自分が探し求めた、最愛の父だった。

「お父さん、お父さんっ! しっかりして、死なないで! お父さん!」

 泣きながら駆けより、その手を握る。暴れる体に抱きついて抑える。
 だが、雁夜にはその声も、その動作も、もう認識する力が残っていなかった。

「……それが、魔術」

 飛鷹の後ろで、臓硯が愉快気に語る。

「魔術の目的は根源に至ること、とワシは言ったな。だが、それは一代で成せるほど安い業ではない。何代にも渡って交配による改良を繰り返し、少しずつ進んでいく類のもの。雁夜の安い信念や薄い血では、死ぬ確率のほうが高いであろうな」
「……るさい」
「事実を言うておるだけのこと。ああ……そういえば、ひとつ言い忘れておったな。あの不動産におぬしを迎えにいったのは、全てこの瞬間のためでしかない」
「うるさい」
「なぜか知りたいであろう? 意味などない。強いて言えば、ワシの趣味じゃ」
「うるさいッ!」

 飛鷹の中で、なにかが引きちぎれる音がした。
 飛鷹は、生まれて初めて、誰かを憎んだ。
 存在すら許されない仇敵と化した老人を黙らせ、雁夜を救う手段を聞き出すべく、飛鷹は臓硯に飛びかかり――空中で静止した。

「な、なんで……!?」

 その瞬間、飛鷹は燃え盛る怒りすらも忘れて驚愕していた。
 なぜ、自分は、空に浮いているのだ?
 その答えは、突然鳴り響きだした羽音に反応して、後ろを振り返ったときに与えられた。

「あ――」

 絶句する。
 最初はそれがなにか分からず、一拍置いてから理解が追いつく。
 自分の拳ほどもある羽虫が、パジャマの襟を掴んで飛行していたのだ。
 しかも一匹や二匹ではない。見えない範囲も含めれば、背中や肩の後ろにも引っ付いているらしく、数えるのが馬鹿らしくなるレベルだ。

 非現実的にも程があるそれに、飛鷹は口を開くことを忘れていた。

「悪童には、灸をすえてやらねばならん」

 臓硯が、指をくるりと回す。
それに呼応して、天井の通風口から無数の羽虫が新たに飛来し、飛鷹に襲いかかった。
 顔に、腕に、足に、服の中に、至る所に虫がいる。

「うわああぁあああああっ!」

 思わず飛鷹は悲鳴を上げ、がむしゃらに腕を、足を、体全体をバタつかせた。
 生理的な嫌悪が、根源的な恐怖が蘇っていた。人間を食い殺せるだろう虫が、何百匹も自分の体に纏わり付いているというのに、誰が冷静に振る舞えようか。まして、飛鷹はまだ七歳である。“大人”の精神が混ざった異端児とはいえ、耐えられないものはある。

 いくら暴れても、羽虫の拘束は揺らがない。襲撃は終わらない。小学二年生でしかない飛鷹の力は弱い。なおかつ空中に浮いていて踏ん張りは聞かず、羽虫の数は異常に多い。
 この状況下で、飛鷹が勝つ要素はなかった。
 恐慌状態に陥った飛鷹を見てご満悦の表情を浮かべる臓硯は、満足したのか腕を振り上げた。

「ワシに害を加えようなど、百年早い。調子に乗るな、小童」

 そういった臓硯が指を一振りすると、飛鷹はゆっくりと地面に降り立った。無論、自分の意思によるものではない。羽虫が羽ばたきを少しずつ弱めて器用に着地させたのである。
 襲いかかっていた羽虫は天井の通風口に消え、残りはパジャマを離してすぐに飛び立った。

「や、いやだ、やめて、ごめ、ごめんなさい、ごめんなさい……」

 飛鷹はガチガチと歯を鳴らし、背中を盛んに触り、叩き、羽虫がいなくなったことを確かめてほっと息をついた。
 しかし、恐怖はたしかに残っている。
 耳元に、あの羽音が残っている。
 背筋がまだ寒い。

「……魔術とは、並大抵の努力で継げるものではない。また、身に付くものでもない」

 そんな飛鷹を見下しつつ、臓硯の話が再開する。

「かつての雁夜は、その業を継ぐことを拒んだ。そこでなにもかも諦めればよいものを、いまになって戻ってきた報いが、その苦しみじゃ。ワシの虫に耐えられるはずもないことを分かっていながら、それでも自己満足を求めてワシに縋った、愚か者の末路よ」

 臓硯が杖を床に打ちつける。
 それに呼応して、雁夜の刻印虫が活動を停止したことを見届けると、臓硯は背中を向けた。

「おぬしには全てを話す。おぬしもそれを聞いた上で、どうするか決めるがよい」

 臓硯の言葉の大半は、飛鷹の耳に入っていなかった。
ただし、ある部分だけはしっかりと聴き取っている。

 ――ワシの虫――

 瞳に力を取り戻し、臓硯を睨みながら、ゆっくりと飛鷹は顔を上げる。
 その手には、脇の机に置かれていた注射器が握られている。雁夜の体内に刻印虫の卵を植え付ける際に使用したものだ。
 飛鷹は、映画で見て知っていた。
 人間の血管に空気を注射すれば、心臓になにかが起きて死ぬということを。
 この老人ならば、それは確実に致命傷となるであろうことを。

 怖い。恐い。目の前のちっぽけな老人が、恐ろしくてたまらない。あんな異能を発揮された後では尚更だ。
 でも――

 飛鷹の目は、臓硯をしっかりと見据えている。
 扉を開き、たったいま、まさに部屋から出ようとしている、その刹那。
 飛鷹は駈け出した。
 全力で、躊躇わず、一メートルもない距離を全速力で詰める。

「な、がっ!?」

 振り返った臓硯をタックルで押し倒し、間髪入れず注射針を首筋に突き刺す。
 臓硯の焦ったような声が聞こえたが、飛鷹は構わず親指でピストンを押し込んでいく。
 時間を与えれば、あの虫が天井から戻ってくるだろう。そうなれば飛鷹の負けだ。
 そして、天は味方したのかどうなのか――ともあれ、ピストンが全て押し込まれた。

「おまえを、殺せば――お父さんは助かるんだよね」

 飛鷹の言葉を聞いて、苦しみ始めた臓硯に理解の色が浮かび――次の瞬間、その体から力が抜けた。
 恐怖することと、その恐怖に屈することは、イコールではない。
 そして、飛鷹にとって、雁夜の命は自分のそれよりも重い。
 臓硯はそのことを知っていながら、その点を見誤った。
 子供にすぎない飛鷹が、それほどの勇気を持つとは思っていなかった。
 だからこそ、飛鷹の不意打ちは成功した。

「……やってくれる」

 ――途中までは。

「え……なん、で……?」

 茫然とした飛鷹の下で、臓硯の体が蠢く。
 大慌てで飛びのいた飛鷹の眼前で、臓硯は何事もなかったかのように立ち上がった。
 落とした杖を拾い上げ、服の埃を軽く払う。

「……ワシの体は、特別製でな。ワシは不老不死を研究し続けておるのだ。その過程で――生命力だけは虫並みに向上しつつある。血中の酸素濃度を弄られた程度では、とてもとても、死にはせぬ」

 一歩。
 臓硯が一歩、飛鷹に近づく。

「あ、あ……あああああああっ!」

 それだけなのに、飛鷹は雁夜の横たわるベッドまで下がり、手当たり次第に物を投げつけた。
 しかし、その全てが切り裂かれて地に落ちる。
 臓硯の周囲に突如として出現した、先程とは別の羽虫が飛び回ったかと思うと、なにもかも切断されていたのだ。

「飛鷹よ、これ以上はワシとて看過できぬ――分かるな?」

 頷くことすら忘れて、飛鷹は怯えていた。

 ――こんなの、悪い夢、夢だ――

 必死で、自分の心にそう言い聞かせながら。


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