――ニューイの月・エオローの週、ダエグの曜日(6月第3週24日)。 夏の日差しを避け、木陰のベンチで涼を取りながら、ギーシュがひとつの提案をした。「明日は夏期休暇に入る前の、最後の休日だ。せっかく仲間が増えたのだから、みんなで集まって、どこかで歓迎会をしようじゃないか」「歓迎会だって? ぼくたちのために!?」「あら。それは素敵な考えだわ、ギーシュ」 新たに『水精霊団』の仲間として加わったレイナールと、ギーシュと正式に付き合い始めたばかりのモンモランシーは、その提案を諸手を挙げて歓迎した。喜んだのは彼らだけではない、その他の仲間たちも同様だった。「あ、それいいな! みんなでどっか行こうぜ」「わたしも賛成!」「わしも参加するぞ」「あたしも!」「わたしも参加したい」 ギーシュは、気障ったらしい仕草で髪を掻き上げながら、満足げに言った。「全員参加で決まりだね。では、明日はトリスタニアの街に出て……」 と、ここでキュルケがギーシュを遮った。「確かに王都へ出るのも悪くないんだけど、もっといい場所があるわ」「それは、どこだね? ミス・ツェルプストー」「『ラグドリアン湖』よ。厨房で何か用意してもらって、あそこでピクニックなんてどうかしら? 今の季節なら過ごしやすいし、眺めもいいと思うんだけど。それに……」 キュルケはモンモランシーを見て、こう言った。「チーム『水精霊団(オンディーヌ)』結成祝いには、ぴったりだと思わない?」 その意見に反対する者は、誰もいなかった――。「じゃあ、厨房へはあたしが頼みに行ってくるわ」「わたしも行く」 そう言ってキュルケとタバサが席を立つ。「それじゃあ、俺は厩舎に行って、明日の馬車予約してくるよ」 厩舎へ向かおうと、立ち上がって歩き出しかけた才人を太公望が止めた。「いや、それには及ばない」「なんでだよ? 馬車がないと、あんなに遠くまで行けないだろ?」「馬車で行くのではなく、もうそろそろおぬしが考えた『あれ』の試運転をしてみようと思うのだが、どうだ?」 その発言に、驚いたのはルイズと才人だ。他のメンバーは、なんの話をしているのかさっぱりわからないので、ぽかんとした表情で彼らを眺めている。「で、でも、まだわたし、浮かせることしかできないわ」「そうだよ。おまけに結構人数いるし、荷物だってあるだろ!?」 彼らの答えを聞いて、してやったりとばかりに太公望は笑った。「浮かせることができるのなら、もう充分だよ。わしに、いい考えがあるのだ。それを試してみて、もしも駄目なようであれば、改めて馬車を借りに行けばよい」 ――それから30分後。誰の目にもつかない裏庭、その奥に位置する場所へ、問題の『ブツ』は設置された。「これ……ベッド?」「ベッド……よね? おかしな形をしてるけど」 そう。これは以前才人が太公望とコルベールにひとつのアイディアを披露し、それを元に検討を重ねて作成された、題して 『空飛ぶベッド』(折りたたみ式、バラして持ち運び可能) である。ちなみにこれは当初のものから改良を重ねた『弐号機』(才人命名)で、試作品である『初号機』は現在、ルイズの部屋で才人が寝起きをするために使われている。「これで、なにをするの?」 不思議そうな顔をして訊ねるタバサに、太公望は答えた。「全員でこれに乗って、空を飛ぶのだよ」「ええええぇぇぇぇえぇえええ―――――――ッ!!」 その答えに、全員が驚愕の叫びをあげた。それはそうだろう、一見、なんの変哲もない――いや、前後と両脇におかしな手すりのようなものが取り付けられているから、珍しい形ではあるのだが――ベッドに乗って、空を飛べるというのだから。しかも、これだけの人数を乗せて飛行可能とは、それだけで充分驚くに価する。「これ、もしかして東方の<マジック・アイテム>なのかい?」 思わず眼鏡に手をやりながら、まじまじと問題のベッドを見遣るレイナールと、その発言に目を輝かせた一同。しかし、才人の答えはあっさりとしたものだった。「これは、コルベール先生が作ってくれた特別製なんだ。けど、魔法は<固定化>以外かかってないぜ」「そうなの? だったら、どうやって……」 モンモランシーの質問を途中で遮った太公望は、実際にやってみせるから……と、ルイズと才人のふたりを手招きし、耳元に何かをゴニョゴニョ、ゴニョリ、ゴニョリータ……と囁いた。この提案に、目を見開いて驚いたふたりは、思わず顔を見合わせると……直後、同時に太公望へと向き直って、こう答えた。「なるほどな、それならいけそうだ!」「ええ、やってみるわ!」 ――そして『試運転』は始まった。 まずは、ベッドの中央にルイズが座る。前方には太公望。そして後ろ側に才人がつく。「では、ルイズよ。まずは、30サントほど浮き上がらせてみるのだ!」「まかせて!」 ルイズはマントの内ポケットから杖を取り出すと、早速<念力>でベッドを浮き上がらせた。少し重さがあるためか、最初は少しふらついたが、それでも何とか指定通りの高さまで持ち上げることができた。「では、ルイズはそのまま浮き上がらせ続けてくれ。次は、わしの番だ!!」 その言葉の後、太公望が『打神鞭』を取り出して、軽く一振りした。すると……なんと、ベッドが<風>に乗り、ゆっくりと前進し始めたではないか。見守っていた全員が驚いた。「ルイズ、まだ大丈夫か?」「ええ、ぜんぜん問題ないわ」「よし、ならばもう少しスピードを上げるぞ!」 太公望の言葉と共に、ぐんと速度を上げた『空飛ぶベッド』は、中庭をぐるぐると飛び回り始めた。最初は徒歩程度の速さだったそれは、すぐに駆け足よりも速くなり――ついには、馬車並の速度まで到達した。「すげえ! 閣下の言った通りだ!!」 大声をあげながら興奮する才人に、太公望は大笑いしながら答えた。「かかかか、そうであろう? 何も全部をひとりでやる必要はないのだ。このように『浮かせる』者と『動かす』者を別々に分担してやれば、単独ではできなかったことを可能とするのだよ」 そして「ワハハハハハ……」と、毎度おなじみの得意げな高笑いを上げながら、しばらく裏庭を低空遊覧飛行していた太公望たちは、呆然とそれを見守っていた残りのメンバーの前に降り立つと、それはそれはもう得意げな笑みを浮かべ、こう言った。「どう?」「これが俺のアイディアだ」「それをわしがアレンジし、コルベール殿が実現したのだ」 見たか! と、ばかりに胸を張るルイズ、才人、太公望の3人の前へ、全員が一斉に駆け寄ってきた。「ちょっと何これ!」「着想が面白いね!」「すごいな! きみたちは」「これ、みんな一緒に乗れるの!?」「たしかに、これなら馬車で行くよりずっといいわね!!」 ワイワイと盛り上がる一同。だが、唯一心配そうな顔をしたのはタバサだ。彼女は、自分の考えた案が実現可能であるかどうか、太公望へ聞いてみることにした。「今のままでは、ルイズとタイコーボーへの負担が大きすぎるように思う。そこで、サイトを除く乗員全てが<レビテーション>や<フライ>などを唱え、少しだけ浮いた状態でベッドに掴まることを提案する」 それを聞いた太公望は、にんまりとした。「実はそれを前提とした乗り物なのだよ。だから、このように手すりがついているのだ」「なるほど」 全員は、改めて『ベッド』に注目する。確かに、ベッドの周囲にはぐるりと柵のような手すりが取り付けられている。太すぎず、細すぎずで掴みやすそうだ。「みんながほんの少しだけ身体を浮かせてくれれば、ルイズやわしにはほどんど負担がかからない。もしも誰かが途中で疲れたら、交代しながら進めばよい。移動に関しては、ルイズがもっと操作に慣れるまでは、わしが全て担当する」 早く乗ってみたくてたまらないキュルケが、きらきらと顔を輝かせて言った。「ね、ね、早速試してみましょうよ」「賛成!」 と、いうわけで早速全員が乗り込んだわけだが。「……スピードを上げすぎると、向かい風がきついね。これ」 レイナールが、風でぼさぼさになってしまった髪を、手櫛でかるく直しながらぼやいた。馬程度の速さならば問題ないが、それ以上に速度を上げると、向かい風でベッドの上から転げ落ちそうになるのだ。「ふむ……では、ここで問題を出そう。誰か、解決案はないか?」 その太公望の問いに、レイナールが確認を取る。「問題……ということは、解答があるという意味だよね?」「その通り。当然、解決策が存在する。さあ、全員で考えてみるのだ」 と、この答えにすぐに気付いたらしいタバサが、ちらりと太公望に視線を合わせる。「む、タバサはもう気が付いたようだな。まあ、ある意味当然ではあるな。すまんが、おぬしは発言を控えていてくれ。これは他の者に、自力で答えを出してもらいたいのだ」「わかった」 タバサは、コクリと首を縦に振った。「向かい風で問題になるのはなんだろう、まずはそこから考えないと」「髪が乱れるわ」「そんなことはどうでもいい」「え~」「振り落とされるのはまずいよね、メイジのぼくたちはともかく、サイトが落っこちたらたいへんだよ」「ベッドにしがみつくしかないか?」「ベッドだけに寝ころんでみるとか」「なるほど。そうすれば、向かい風の負担はだいぶ軽減されそうだね」「いや、それ根本的な解決になってないんじゃないか?」 様々な意見が飛び交うが、なかなかよい解答を出すには至らない。と……ここで、キュルケがふと、あることに気が付いた。「ヴァリエールの『盾』が使えれば解決しそうなんだけど、あの子には『浮かせる』役目があるし……」「いや、ちょっと待ってくれないか」 このキュルケの言葉に反応したのはレイナールだ。「そうだ『盾』だよ! 誰かひとりが『風』を受け止めるのではなくて、うまく受け流すことができる『盾』を、ベッドの前に出すことができれば……」 彼の発言に、一瞬反論をしかけたのはギーシュだ。「しかし、それほどの『盾』を作れるとしたら『トライアングル』以上の……あッ!」 会議に加わっていた全員が、いっせいにタバサのほうに向き直る。「そうか! 風の『スクウェア』のタバサに『盾』を担当してもらえばいいのか!」「えっ! 彼女、いつのまにランクアップしていたんだい!?」 隣のクラス所属のレイナールにとって、当然そんなことは初耳だ。「あ……ええ、つ、つい最近ね……」 例の惚れ薬事件のことを思い出して、冷や汗を流すモンモランシー。そして、彼らの答えに満足したらしき太公望とタバサは、揃って拍手した。「その通り、それが彼の考えていた計画」「よし、それでは答えが出たところでだな……全員にまだ<精神力>に余裕があるのなら、どのくらいの速度が出せるのか、限界に挑戦してみようではないか!」「お――ッ!!」 ――結果。竜とまではいかないが、相当な速度が出せることが判明し、全員が興奮した。もっとみんなの息が合ってきたら、さらに『上』を目指せるのではなかろうか――と。 こののち、才人の出身世界風に表現するならば、まるでモータースポーツ――フォーミュラ・カーのセットアップが如く、効率のよい『盾』の展開方法やら、加速について。さらには技術開発担当者としてコルベール氏が招聘され、ベッドに使用されているパーツ各種の軽量化や取り付け位置の調節を行うなど、どんどんと改造と工夫が続けられていくのだが……それについては、また別の話――。○●○●○●○● ――そして翌日、虚無の曜日。 雲ひとつない晴天の中『空とぶベッド』でゆうゆうと――他人の目につくとさすがにまずいので、かなりの上空を飛行して――ラグドリアン湖に到着した一行は、静かに波打つ湖畔の側で、大きな布製の敷物を広げ、バスケットいっぱいに詰め込まれたお弁当に舌鼓をうちながら、実に楽しい時間を過ごしていた。 いよいよ、来週からは念願の夏期休暇。そして『胸躍る冒険』と題した実戦演習が待ちかまえている。レイナールにも当然その話は伝えられていて、彼は喜んで参加を希望した。 『畑』の運営についても順調で、明後日には最初の『薬草』が収穫できるまでに成長していた。モンモランシー曰く、新規加入メンバー分の『傷薬』を作ってもまだかなりの余裕があるため、少し多めにストックしておいた上で、残りの薬を売り払い、そのお金で新しい種を購入する予定だそうだ。 ちなみに、夏休み中の畑の世話は、魔法学院の庭師に依頼することになっていた。これについての代金は、学院側が『実習費用』ということで負担してくれるらしい。よって、この期間中に植えるのは、それほど育成に手間がかからない、香水用の『花』にしておこうということで、全員の意見が一致している。「俺、こんなに楽しくっていいのかな……」 才人は仲間たちの顔を見ながら、誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた。彼がこのハルケギニアに<召喚>されて来てから、もう3ヶ月以上が経過している。突然自分が姿を消したせいで、両親も、学校の先生や友人たちも、きっと心配しているだろう。 才人自身も、地球に残してきた家族や友達に会いたくないといったら嘘になる。だが……今こうして自分の目の前にいるのも、やっぱり大切な仲間で。しかも、過ぎゆく日々をごくごく普通の、どこにでもいる高校生として、ただ漠然と過ごしていたあの頃とは違い――毎日が、本当に充実している。 輝く湖面を見つめながら、才人は心の内で謝罪した。「父さん、母さん……ごめん。俺、まだもうしばらくこっちにいたい。いつか必ず帰るけど……もう少しだけ、わがままを許してほしいんだ。戻ったら、土下座なんてもんじゃないくらい、とにかく謝るから」 と、そんな彼の様子に気が付いたのか、ルイズが声をかけてきた。「どうしたの? サイト。なんだか、元気がないみたいだけど」「あ、いや……なんでもないって! ほら! 俺こんなに元気いっぱい!!」 さっきまでうっすらと感じていた望郷の念をルイズに悟らせまいと、無理にポーズをつけようとした才人は、指ぬきグローブ着用効果による<ガンダールヴ>の<力>を派手に無駄遣いし、連続でバック宙を繰り返した。が、いつもの如く調子に乗りすぎた彼は、目測を誤り、思いっきり湖の中へ飛び込んでしまった。ばっしゃーん! という激しい水音が、周辺に響き渡る。「ちょ、ちょっと何やってんのよあんた!」「ぶはっ……湖が近すぎたッ……この俺としたことが、失敗したッ!」 ルイズを除くその場にいた全員が、湖面から顔を出した才人を指差しゲラゲラと笑った。それからすぐに、ずぶ濡れになってしまった彼の側に<風>の使い手たちが集まり、服を乾かした。そして<火>のメイジが小さな焚き火を作って、風邪をひかないように早く身体を温めるよう、才人を促す。そんな友人たちの姿を顧みて、才人はつくづく思った。 ――やっぱいいなあ、こいつら。みんなで馬鹿やって、楽しくて。俺、この世界に呼ばれて本当に良かった。最初のうちは、どうなることかと思ったけど……。 才人がひとり思いに耽っていると、すぐ側にいたキュルケがぽつりと呟いた。「例の『空とぶベッド』もそうだけど、こうやって、みんなで<力>を出し合うことで、本当に色々なことができるのね。『水精霊団』に入るまでは、こんなこと……考えてもみなかったわ」 みんなで<力>を出し合う。この言葉に大きな反応を見せたのはタバサであった。これまで彼女は、ずっとひとりで戦い続けてきた。母の心を取り戻すために、自分の身を守るために、そして――父の無念を晴らすために。ただ、孤独な『道』を歩み続けていた。「わたしも……こんなふうに過ごせるなんて、思ってなかった」 それがどうだろう。ほんの数ヶ月で、自分を取り巻く環境は劇的に変わってしまった――もちろん、思いも寄らぬ良い方向へ。まもなく、母を助けるための準備も整う。そのための手はずも、ほぼ揃った。今日は、その緊張をまぎらわすための大切な『心の休日』だ。昨夜自分のパートナーが、1日だけでも全てを忘れ、楽しく過ごせと言ってくれた。 この湖を挟んだ向こう側――対岸に建つ屋敷で、母さまと……忠実な老僕が待っている。もうすぐわたしが助けに行きます、心を許せる仲間たちと共に。そんな思いを抱きながら、タバサは親友の呟きに賛同した。 そして、そのタバサの声で気付かされたのはルイズだった。ずっと魔法の才能『ゼロ』と馬鹿にされ、誰からも期待されず、ただひとり殻に閉じこもっていた自分。それが、今ではこんなに大勢の気を許せる友人たちと共に、ピクニックを楽しんでいる。 しかも、彼らを運ぶための乗り物は、彼女が魔法で浮かせたものだ。それを見たみんなが「きみはすごいんだなあ」そう褒めてくれた。他人から認められることのなかった自分が、今――みんなを支えている。その喜びが、溢れ出る感情が、ルイズに無限の<力>を与えてくれているのを感じた。だから、彼女はタバサの言葉に心から同意した。「わたしだってそうよ。もしも、みんなと出会えなかったら……そんなこと、考えたくもないわ」 一同の間に、なんとなくしんみりとした空気が流れた。 まあ、その気持ちは俺もわからなくはないけどな。そんな風に思いながら、才人は陽の光を反射してきらきらと輝く湖へ視線を移した。「そういえば、前にここへ来たときは、色々と大変だったっけな」 他の者たちに聞こえぬほどの小声でそう呟いた才人は、ふと、ラグドリアン湖に住む水の精霊のことを思い出した。そして、彼らが別名でなんと呼ばれていたのかを。「確か誓約の精霊、だったよな」 才人の脳裏には、今――ひとつの言葉が浮かんでいた。それは、子供のころ母親に読んでとせがんだ絵本に書かれていたもの。高校に上がってから、その物語が童話などではなく、海外の有名な作家が書いた、ロマン溢れる冒険活劇が元であることを知った。才人はいつか翻訳版を読んでみようと思ってはいたものの、今まで手にする機会がなかった。 その物語には、とある有名な言葉が存在する。それは、スポーツなどでもたびたび登場するほど有名なものだ。才人はその名台詞を、仲間たちに教えたくなった。「あのさ、みんな……ちょっといいかな?」 才人の言葉に、一斉に振り向く『水精霊団』の面々。彼がいったい何を言い出すのか期待しているといった表情が、ありありと見て取れた。「みんなと、この湖を見てて思い出したんだ。俺が住んでいた国の、ずっと西にある王国で――伝説になった、ひとりの騎士の話なんだけどさ」 本当は物語の中のことなんだけど、それは黙っておこう。そう思いながら、才人は語る。「まだ田舎から出てきたばっかりで、世間知らずだったその男が――色々な偶然が重なったせいで、いきなり三人の近衛騎士と決闘する羽目になったんだ」 異国の――それも、決闘の話。そういった話題に目がないギーシュとキュルケが、揃って瞳を輝かせた。「そ、それで?」「うん。で、いざ決闘――ってところで、騎士団と対立してた枢機卿の護衛士たちが出てきてな、騎士たちをさんざん侮辱したんだ。でも、護衛士たちは10人以上、騎士たちはたったの3人。どんなに悔しくても戦力差がありすぎてどうしようもない、と! そこで男が騎士たちの味方をするって大声で宣言してな。勇気と加勢をもらった騎士たちは、自分たちの倍いた護衛士たちを、こてんぱんにやっつけた!」 おおーッ! と、歓声を上げた一同。その反応に気を良くした才人は、さらに続けた。「それが、その男が伝説の騎士が名を上げる始まりだった。それから男と、彼と決闘するはずだった三人の騎士たちは、すごく仲良くなって――全員で酒を酌み交わした後に、永遠の友情を誓うために、天に向かって剣を掲げ、交差させながら、こう言ったんだ」 才人は、背負っていたデルフリンガーを鞘から引き抜くと、空に掲げてその『名台詞』を声高らかに叫んだ。「みんなは、ひとりのために! ひとりは、みんなのために!!」 その才人の叫びに呼応したかのように、一筋の陽光がデルフリンガーの刃を照らし、反射した。まるで後光が差したような才人の姿は、宣誓を行う『勇者』そのものであった。「4人の騎士たちは、その固い友情を武器にして、次々と襲いかかってくる困難を<力>を合わせて乗り越え続けた。そして、男と仲間たちは『伝説』になったんだ」 その言葉を聞いて、まず立ち上がったのは太公望であった。「みんなで<力>を合わせる……いい言葉だのう」 続いて立ち上がったのは、タバサ。「みんなで困難を乗り越え『伝説』になった……」 次に立ち上がったのは、ルイズだ。「みんなは、ひとりのために……ひとりは、みんなのために。いい言葉ね」 その後に立ち上がったのは、ギーシュ。「そういえば、ここは『誓約の精霊』が住まう場所……だったと思うんだがね」 彼の言葉に、全員が頷く。そして、まだ座っていた者たちも立ち上がり、才人の側へ集まると――杖を抜いて、天に掲げ、交差させた。デルフリンガー自身も、そこに加わる。 そして、彼らは大きな声で誓約を行った。『水精霊団』のメンバーとして。「みんなは、ひとりのために! ひとりは、みんなのために!!」 輝く湖畔は、そんな彼らの姿を、ただ静かにその水面へ映し出していた――。