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No.33650の一覧
[0] ある男のガンダム戦記 八月下旬にこちらの作品を全部削除します[ヘイケバンザイ](2016/07/27 21:00)
[1] ある男のガンダム戦記 第二話「暗殺の余波」[ヘイケバンザイ](2012/07/10 11:59)
[2] ある男のガンダム戦記 第三話『地球の内情』[ヘイケバンザイ](2012/07/15 19:52)
[3] ある男のガンダム戦記 第四話『ジオンの決断』[ヘイケバンザイ](2012/07/14 10:24)
[5] ある男のガンダム戦記 第五話『開戦への序曲』[ヘイケバンザイ](2013/05/11 22:06)
[6] ある男のガンダム戦記 第六話「狼狽する虚像」[ヘイケバンザイ](2013/04/24 13:34)
[8] ある男のガンダム戦記 第七話「諸君、歴史を作れ」[ヘイケバンザイ](2012/08/02 01:59)
[9] ある男のガンダム戦記 第八話『謀多きこと、かくの如し』[ヘイケバンザイ](2012/08/02 09:55)
[10] ある男のガンダム戦記 第九話『舞台裏の喜劇』[ヘイケバンザイ](2012/08/04 12:21)
[11] ある男のガンダム戦記 第十話『伝説との邂逅』[ヘイケバンザイ](2012/08/06 09:58)
[12] ある男のガンダム戦記 第十一話『しばしの休息と準備』[ヘイケバンザイ](2012/08/07 15:41)
[13] ある男のガンダム戦機 第十二話『眠れる獅子の咆哮』[ヘイケバンザイ](2012/08/09 20:31)
[14] ある男のガンダム戦記 第十三話『暗い情熱の篝火』[ヘイケバンザイ](2012/08/14 13:28)
[15] ある男のガンダム戦記 第十四話『終戦へと続く航路』[ヘイケバンザイ](2012/08/18 10:41)
[17] ある男のガンダム戦記 第十五話『それぞれの決戦の地へ』[ヘイケバンザイ](2012/08/25 16:04)
[18] ある男のガンダム戦記 第十六話『一つの舞曲の終わり』 第一章最終話[ヘイケバンザイ](2013/04/24 22:22)
[19] ある男のガンダム戦記 第十七話『星屑の狭間で』 第二章開始[ヘイケバンザイ](2013/04/24 16:55)
[21] ある男のガンダム戦記 第十八話『狂った愛情、親と子と』[ヘイケバンザイ](2012/11/17 22:22)
[22] ある男のガンダム戦記 第十九話『主演俳優の裏事情』[ヘイケバンザイ](2013/01/02 22:40)
[23] ある男のガンダム戦記 第二十話『旅路と決断を背負う時』[ヘイケバンザイ](2013/04/06 18:29)
[24] ある男のガンダム戦記 第二十一話『水の一滴はやがて大河にならん』 第二章最終話[ヘイケバンザイ](2013/04/24 16:55)
[25] ある男のガンダム戦記 第二十二話『平穏と言われた日々』 第三章開始[ヘイケバンザイ](2013/04/25 16:39)
[26] ある男のガンダム戦記 第二十三話『終焉と言う名を持つ王手への一手』[ヘイケバンザイ](2013/04/30 22:39)
[27] ある男のガンダム戦記 第二十四話『過去を見る者、未来を目指す者、現在を生きる者』[ヘイケバンザイ](2013/05/06 16:20)
[28] ある男のガンダム戦記 第二十五話『手札は配られ、配役は揃う』[ヘイケバンザイ](2013/05/12 16:29)
[29] ある男のガンダム戦記 第二十六話『流血を伴う一手』[ヘイケバンザイ](2013/05/22 10:42)
[30] ある男のガンダム戦記 第二十七話『戦争と言う階段の踊り場にて』[ヘイケバンザイ](2013/05/22 20:23)
[31] ある男のガンダム戦記 第二十八話『姫君らの成長、ジオンの国章を懸けて』[ヘイケバンザイ](2013/05/26 13:31)
[32] ある男のガンダム戦記 第二十九話『冷酷なる神の無慈悲なる一撃』[ヘイケバンザイ](2013/06/02 15:59)
[33] ある男のガンダム戦記 第三十話『叛逆者達の宴、裏切りか忠誠か』[ヘイケバンザイ](2013/06/09 23:53)
[35] ある男のガンダム戦記 第三十一話『明けぬ夜は無くも、闇夜は全てを覆う』[ヘイケバンザイ](2015/07/10 19:15)
[36] ある男のガンダム戦記 最終話 『ある男のガンダム戦記』[ヘイケバンザイ](2013/12/23 18:19)
[37] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像01 』[ヘイケバンザイ](2014/02/12 19:18)
[38] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像02 』[ヘイケバンザイ](2014/02/12 19:16)
[39] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像03 』[ヘイケバンザイ](2015/06/29 13:54)
[40] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像04 』[ヘイケバンザイ](2015/07/11 10:54)
[41] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像05 』[ヘイケバンザイ](2015/07/13 13:52)
[42] ある女のガンダム奮闘記、ならび、この作品ついてご報告いたします[ヘイケバンザイ](2016/07/27 21:00)
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[33650] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像04 』
Name: ヘイケバンザイ◆7f1086f7 ID:a59978d0 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/07/11 10:54
ある男のガンダム戦記 外伝04



< 動乱と紛争により化石となった戦争(中編) >



地球連邦政府・北米州に春が来る。
そして今、旧世紀以来の盟友である極東州から友好の証として贈られた桜の木々が満開となっている。
酒の肴に宴会を開く多くの人々。
日本人から始まった、「花見」という名前の屋外パーティー。
人々は今ある平和を謳歌する。
それが当然の権利であり、あの大戦争を生き残った者達の義務であると信じて。
今を出来うる限り陽気に、前向きに生きようとする。
その実に素晴らしい世界。
軍人が、警察官が、政治家が、国家が守るべき人々の平和な日常だ。
が、その陽気も健気さも高速鉄道で2時間ほど郊外に進むと一気に無くなる。
いや、雰囲気が一変すると言い換えるのが適切だろう。

『六芒星』

絶対的な強権を握っている地球連邦という行政機関の中枢・中核。
地球連邦政府専用官庁街の一角であるD地区。
向かう先には、地球連邦軍地上軍を二分する南半球、北半球方面軍総司令部、宇宙艦隊総司令部らの出先機関、中央省庁の地球連邦警察を掌握している内務省、対テロ・マフィア対策の特殊部隊を保有する司法省検察庁、更に武装警察であり首相直轄のティターンズ、北米州軍総司令部ら軍事・警察関連のビルを群生させている。
加えて、カルフォルニアの地球連邦軍本部にある統合幕僚本部から出向する軍事参事官(一年戦争と水天の涙で地球連邦軍がその失態と責任を取り削減された。が、それでも政府に直接意見できる20名しかいない中将以上の階級を持つ軍政・軍令のトップエリート集団)という軍最高クラスの高官らの官庁街・宿舎もこの地区にある。
オーストラリアのアデレード市にある最高裁判所(司法)以外の、軍事と政治、経済界と立法の中枢部。
その中でも更に軍事・治安維持部門の行政関連に特化した地域である。
地球連邦軍の軍服姿に、戦争の結果急増された英雄たちが誇らしげに、いくら略式とはいえ、勲章を胸につけて闊歩する。
加えてである、合成風で地球連邦軍軍旗とティターンズ象徴旗を、駅や公共施設、多くのビル表玄関に掲げていれば良識派や今の世界秩序に反発や反感を持つ者がどう思うだろうか?
想像は簡単だろう。
実際にここに車で来ているこの男もそうなのだから。

「我が故郷、その名は地球。
あの国歌と同じく、だな。
これが北米州の傲慢さの象徴でなくて一体んなんだというのかねぇ・・・・全く」

自分は知らない。
だが、隣の女性も言った。

「私が子供の頃のサイド3もこんな感じでしたよ。
ただ、当時の事は怖い大人たちが銃を持って街を出歩いているのだけは今でも鮮明に覚えてます」

「それだけじゃないでしょうに?」

男は視線を横に向ける。
今もまた、警察と軍がいざこざを起こしていて、ティターンズが介入する。
幸いなのかどうかしらないが、それが軍とティターンズと警察だけの対立であり、今のところ地球連邦の市民らに対する対応は三者とも懇切丁寧という所だろうか?

「ええ。ジャーナリストさんの想像通りです。
貴方は非常に想像力豊かですから・・・・きっと0060年代のジオンも想像できると思います」

0060年代。
ムンゾ自治共和国、後のジオン共和国にして、現在のジオン公国。
その首都バンチ。

「傲慢な軍の将兵達。独善的な正義を掲げる大人たちの衝突。
組織や正義によって正当化される様々な行為、結果、悲劇ですね。
俺には詳しくは分からないが・・・・貴女にとっては単なる思い出ではなくそれ以上でしょう・・・・貴女にとっての生まれ故郷の幼少期とは」

ああ、そうだろうよ。
サイド7に捨てられたと子供心に思うほどあの当時の閉塞感はでかかった。
今でこそ様々な改革、様々な未来への展望と計画、そしてその計画の裏付けと実行による開放感とは違う。
澱みきった堤防の中の泥水。
そんな時代。
少なくとも俺にとっては。

「ええ、これ以上でした。だから分かるのよ」

「だから? ですか?」

オウム返しに彼女は答えた。
微笑みながら。
母親の顔をして。

「今はあの時に比べて遥かにマシなのよ。
少なくとも軍隊が戦車で人をひき殺そうとしないだけ、ね」

その言葉に、ジャーナリストの顔がひきつる。
知っている。
それは彼女と彼女の兄が体験した事、つまり、事実そのものなのだ。
決して5歳に満たない少女の経験として誇れるものではないし、周囲が認めて良いことではない。大人が身を削って、投げ出してでも救うべき、或いは抹消すべき事柄。
だが、それこそが彼女の歴史そのもの。
いいや、あの戦争の始まりだったのかもしれない。

「だから期待されているのよ・・・・あの方は。あれを知っているから。我が身の経験として」

地球連邦政府首都が置かれている大都市ニューヤーク市郊外外周部、官庁街にて一台の電気自動車が漸く許可を得て高速道路に入る。
周囲には首相直轄軍事力、或いはクーデター予備軍とも政敵に揶揄されるティターンズ所属のシム・クゥエル一個師団が展開していた。
これは電子新聞を読めば誰でもわかる。そうして威圧しているのだ。
砲艦外交の一種であり、予算獲得と消費の為のパフォーマンス。皆知っていて黙認している。

(これも必要費用であり国家安泰の為の儀式なのか・・・・理解は出来ても納得は出来ない奴は多いだろうに・・・・だからジオン独立戦争が起きた、なるほどねぇ。
地球連邦という人類統合国家存続の為という美辞麗句の下に行われた軍事的な威圧が長らく続いた。それこそラプラス事件からずっと半世紀以上も。
いいや、それ以前からだから数世紀、だろうか?
その反動が一気に噴出したのがあのサイド3独立闘争であり、これに付け入ったのが諸勢力・・・・ふーん、確かに一定の説得力はある。
今度それで一冊書いてみるか)

それにしても警護が凄い。
まあ理由は単純である。
0087から0088に発生した地球連邦軍ならびジオン公国軍の同時反乱、『水天の涙紛争』末期、赤い彗星の関与した作戦が原因だ。
ガンダム強奪から端を発する『水天の涙』の最終局面である『第13次地球軌道会戦(通称はダカール上空攻防戦)』の結果、ニューヤーク市街地近郊には3つの軍事基地が新設され、24時間体制で防衛体制を構築、軍事力を展開。
一年戦争の激戦において、地球連邦軍の五軍(宇宙軍、陸軍、海軍、空軍、地球連邦軍地上緊急展開複合軍=海兵隊)で最も戦力を温存した空軍。
実際にモビルスーツは空中ではそれほど驚異ではない。
一撃離脱が航空戦の主流である以上、戦車部隊に有効な近接戦闘は出来ない。
また、宇宙空間の三次元行動も一年戦争時代のジオン軍の技術では不可能。
せいぜいドダイYS重爆撃に載せて空を飛ばすくらいだったが、それは敵空軍の撃墜スコア更新にしか寄与しなかったとドズル・ザビ自らが自嘲している。
実際、第二次地球降下作戦以降の地球連邦空軍はモビルスーツ相手に対して非常に優位に立った。戦術と航空力学に重力という地の利を得て。
その現在の主力機であるコア・ファイター、コア・ブースター、コア・イージーらが中心となる一方で、新組織であり『一応』は警察であるティターンズのモビルスーツ隊が警戒態勢を敷いている。
二人の待ち人の前に止まっていた。

(やれやれ・・・・コロニー育ちは無音の自動車を何とも思わないだろうが・・・・戦争経験すると逆におどろかされる。
電気自動車は音がしないから誰かが接近しても分からない・・・・こういう時に困るな)

「お迎えにあがりました。どうぞ」

つまりだ、ジャーナリストは気がつかなかったのだ。思考の海に潜っていた為。
しかも妙齢の女性官僚が降りていたのに、である。
そんな彼らの内心は考慮せずに紺色のセダン車の後部座席ドアが開けられた。
白いスーツを着用している一人のジャーナリストはそのまま乗り込む。
続けて、青いブラウスと白のロングスカートの女性人権弁護士として有名な女性も。
助手席には地球連邦政府ティターンズ所属のラナフ・ギャリオット主任が、運転手にはティターンズ首都警護の第一師団所属のマイク・マクシミリアン大尉。

「ありがとうございます、ギャレオットさん。
それにお時間を頂いたようで申し訳ない、改めてお礼を申し上げます、セイラさん」

そう頭を下げるのはカイ・シデン。
地球連邦リベラル派最大の個人ジャーナリスト。
彼は先日にある記事を書き上げていた。

『現在進行しているティターンズ中心体制に独裁体制移行の疑惑を覚えた、よって全国民の前で異議を申す!!』

という題名で。
彼のツテを使い、多数のイエロージャーナリズムやビジネス週刊誌、ネット新聞に手当たり次第掲載、発行させてもらった。
これに怒りを覚えたのがニューヤーク市空襲被害者の会など一部の右翼や過激派。これらに嫌がらせ、脅迫、暴行を受ける。
で、近所の駆けつけた警察に何とか保護されてニューヤーク市の病院に入院していた。
夫のアムロ・レイ中佐経由で事情を知ったセイラ・マスが地球連邦中央警察にカイ・シデンの保護を要請。
ご丁寧かつ周到に『人権侵害』と『暴行傷害罪の被害者』であり、それ以上に『地球連邦憲章の言論の自由に関する重大な懸念事項』という付属書類を雇い主のウィリアム・ケンブリッジに書いてもらって。
これを見たウィリアムはあの日のルナツーを思い出して一言。

「どこいってもこれだ・・・・・馬鹿ばっか」

と、執務室で突っ伏して嘆いた。
で、流石は戦争経験者にしてホワイト・ベース隊の一員であるカイ・シデン。
これ幸いと、カイ・シデンはセイラの権限を利用して現在の国家権力の内部構造を更に暴くべく地球連邦現政府高官にアポイントを要求。
数日後、それは受け入れらえニューヤーク北部地区の日系警察署から護送された。
よって、彼女と彼はここにいる。

「ギャレオットさんは確かティターンズの法務部門の最高責任者のご息女でしたか?」

下調べは十分。
目の前の女性と男性がティターンズでも有数のケンブリッジ・ファミリー構成員であり尚且つ男の方は戦友ときた。
あのティターンズ長官の個人的な側近でもある。
上官であるホワイト・ディンゴ小隊小隊長に至っては警護最高責任者であり、軍との架け橋で有名。

(ラナフ・ギャレオットの方は最近になって登場してきた。
どちらかというとコスモ貴族主義者であり、ロナの部下でもある。
彼女自身も卒業論文ではティターンズの戦災復興を絶賛していた。
表面上はティターンズのケンブリッジ・ファミリーだな。確か父親も彼の支持者の一人)

そう思っている。
無論、そこまでは顔に出さないが。
相手も愛想笑い。
当然か。

「ええ、よくご存知ですね」

たわいのない会話。
運転中のマイクは日本語のアニメーション主題歌を口ずさむ。
もちろん、それは擬態であった。
実はずっとインカムに車のナビ画面を使って周囲の情報を収集・分析している。
現在の官庁街管制室室長になった元ホワイト・ディンゴ隊であり趣味が同じの戦友アニタと交信しながら。

「まあ、蛇の道は蛇ですから」

「そうですか」

互いに言質を取ろうと動く二人。
だが、彼女ギャレオットはエリートとは言え所詮は新人であり下っ端。
有用な情報は分からなかった。
まあいい。

「ところで良いかしら、お二人とも」

金髪のショートカットの女性、戦友であり地球連邦軍最大のエースパイロット、「白い悪魔」の配偶者セイラ・マスが尋ねる。

「あ、はい」

正直言おうか、俺は彼女が苦手だった。いいや、今も苦手だ。
あのサイド7で「それでも男ですか、軟弱者」と叩かれて以来、そしてミハルの弟と妹の未成年後見人になって貰って以来、ずっと。
彼にとっては彼女は恩人であり、保護者の一人にもあたった。
そんな彼女の憂いを帯びた声に身構える。

「すみません。ラナフ、マイク、今からの会話はできる限りオフレコでお願いします。
よろしくお願いします」

少しだけ頭を下げる。
バックミラーでそれを確認したマイクが窓を少し開け、高速道路を走る車のアクセルを踏み込みスピードを上げた。

「皆さん、今から法定速度120kmで自動運転になります、では何か御用がおありでしたら後ほど」

そのまま時速120kmで目的地へ。
すぐに到着するが、前部は大音量の音楽、後部座席は僅かな隙間から入る大音響の風の音。
これで盗聴は出来ないだろう。
窓もスモークガラス。二人は前を見ていて、バックミラーにもセイラの口元は反射してない。

「カイ、あの人は・・・・兄の行方はまだ分からないのですか?」

カイは知っていた。彼女の兄とは誰なのか、を。
ホワイト・ベース時代の経験から。
だからセイラの言う兄が誰を指すのか、違う、何を言いたい、聞きたいのか、も。
兄。
シャア・アズナブル。
赤い彗星。
ジオン公国ザビ家独裁体制打倒を掲げる、反地球連邦の指導者。
本名はキャスバル・レム・ダイクン。
ジオン共和国建国の父にして今は象徴となった歴史上の人物ジオン・ズム・ダイクンの息子。
セイラ、いいや、アルティシア・ソム・ダイクンの実兄にして地球連邦とジオン公国が抹殺したい人間の筆頭。

「申し訳ない、セイラさんにあれだけ大きな口を叩いておいて。
少なくとも地球の北部インドの山脈の麓、その寒村で生活していたまでは分かったのですが・・・・そこまでの裏付けはあります。
伊達に世界を飛び回ってないですから。
ただ・・・・その現地の村は武装組織に襲撃、強姦と虐殺が行われたようでして。
生存者の有無は不明、武装勢力のその後の足取りはおろか名前さえ分からずじまいで捜査終了。現地政府では寒村の住民全員が死亡か生死不明のままです。
現地にも直接赴きたかったのですが・・・・すみません!
第二次朝鮮戦争の政治亡命者や一年戦争、水天の涙紛争の反地球連邦勢力、ジオン地球攻撃軍の残党軍を現地政府が積極的に受け入れていきた過去がある。
それで北部インド連合に対しては今もなお民間人渡航禁止令が政府により出ており・・・・現地には殆ど滞在できず。
セイラさん、すんません!! 俺はお使いひとつ出来なかった」

頭を下げる。
下げるしかない。
カイは強く拳を握る。
悔しさのあまり。
尤も、これだけの情報はティターンズにも上がってきてないので彼の情報収集力は個人では地球連邦最高峰。
これ以上は望めないし、望まない。
故に頭を下げるカイとは裏腹にセイラは思う。

「カイ、ありがとう」

と。

(アムロに今度会ったら酒でも奢らないとな・・・・すまねぇ、アムロ、セイラさん)

そう。
溜息。
美人の溜息は絵になるとは誰の言葉だったか?
全く、あれは嘘だ。
絵にはなる、だが、全く感動しない。
彼女のこの憂いを帯びた表情を見て感動する奴とはお付き合いしたくないね。

「それで・・・・武装勢力・・・・でしたね、ジオン系統やエゥーゴ派ではなく、ですか?」

鋭いな。
流石はティターンズの才女だ。
と、感心ばかりはしてられない。

「どの勢力なのかは不明です。
麻薬組織なのかエゥーゴなのかカラバなのか、或いはジオンの特殊部隊かアクシズか。
とりあえず現物の証拠がこれです。
AK-47シリーズの銃弾。ただし、正規軍の刻印はなかった。
予想ですが十中八九は中華の地方軍閥が勝手に作っているやつの横流し品。
内乱状態の中央アジア州へ独自に輸出している自動小銃の弾痕と薬莢が散乱していたそうですね。おっと。これがその現場写真です。
残されていた死体は損傷が激しく閉鎖的な村であり戸籍も無いので身分照会が困難、北部インド連合の警察や検察、医者らもDNA鑑定しようとしたのは確かです。
ですが焼かれていたり、爆殺されていたりと、現地司法、医療機関の技術不足もあって難航。
というより、さっさと片付けられました。面倒だったのでしょう。
ですので、この事件は公式には全員死亡或いは誘拐され生死不明という形で終局しました。あくまで一部武装勢力の単なる集団強殺行為で幕引きです」

頷くセイラ。
ファイルに挟んである数枚の写真はぼやけていた。
或いは最初から判別できなかったのかもしれない。
とにかく、見た限りでは兄の死体はなかった、様な気がした。
だからまだ兄は・・・・・生きている気がする。
どこかで何かを企んでいる、そんな気がするのだ。
これは恐らく家族としての直感。
あのサイド3で父が死んでからずっと兄だけを頼っていた自分。
その時代の経験則。

「ありがとう・・・・兄は・・・・」

セイラは二人に聞こえない声でカイだけに言う。

「兄はまだ生きている。
生きてどこかで父の意思を継いだ気になって何かしようとしている、そんな気がするのよ。
カイ、ご迷惑でなければこれからもお仕事を頼みたいのだけれど・・・・良いかしら?」

頼みごと。
それも特大の厄介。
だが。

「・・・・・俺にセイラさんの頼みを充足させる事が出来ると思いますか?」

それは戦中にもっとも成長した彼らしくない言葉。
だが。
顔は笑っている。
軟弱な、と、皮肉めいたと軽蔑した顔ではなく、「漢」の自信に満ちた笑顔である。
だからこそ、だった。

「出来るわよ、貴方はカイ・シデンですもの」

そこまで言われては。
そこまで信頼されては。

「煽てないでくださいよ。
まあ乗りかかった船だ。出来る限り全力を尽くします」

そう言っているうちに、マイクが後部座席に言う。

「皆様、長らくのご乗車ありがとうございます。間もなく地球連邦官庁街に入ります。
シートベルトの確認と身分証明書の準備をお願いします~
俺もここまで来て留置所なり刑務所には行きたくないですから」

そして。
カイ・シデンは案内された。
コンドルハウスという不夜城を。
ラナフ・ギャレオットとセイラ・マスという二人のティターンズ中堅官僚の案内の元で応接室に入る。
そして緑茶を用意して二人は去った。
部屋を見る。
外には桜が咲いている。そう言えばもう春だという事を忘れていた。
しばし心を落ち着ける。

(さてと、誰が来るか・・・・うん、いい緑茶だ。
これはいいものだな。中華の、か?)

と、扉が開いた。
警備の警察官が二人後ろにいる。

(ティターンズの・・・・なんとも最早空いた口が塞がらんな、これは)

警備の二人に下がるように言った人物を見てカイ・シデンは立ち上がり、一礼する。
だが、空気が確かに変わる。
これは戦場の空気。
目の前の男が放つ、鋭い鷹の視線。

「前置きはしないで本題に入るが、いいね。
さて、君がケンブリッジ長官、いいや、ケンブリッジ家が独裁者にならんとしているという懸念がある、それを払拭すべきであり、その為に政府高官と会いたいと言った、そうだな?」

ええ。

「なるほど、ではその役目を私が受けようかと思うのだが・・・・どうかな、私では不足かね?」

目の前の衿シャツの男が笑う。
猛禽類だな、噂通りか。

「いえいえとんでもない。まさかそんな事はありません。
地球連邦政府序列第三位のジャミトフ・ハイマン氏から直接見解を聞き、それを公表する。
ジャーナリスト冥利に尽きますよ」

こうして歴史学、政治学などで宇宙世紀一世紀中の英雄として必ず取り上げられるウィリアム・ケンブリッジに関する地球連邦の懸念と評価、俗に言われる「ケンブリッジ評価論」の一幕が始まる。



宇宙世紀0090、春
サイド7 グリプス 地球連邦軍宇宙艦隊総司令部 司令部ビル



「クルムキン中将」

地球連邦軍宇宙軍総参謀長。
フョードル・クルムキン。

0079に勃発した対ジオンの緒戦である一週間戦争。大敗を続ける地球連邦軍。
この一連の戦い、『月軌道会戦』においてエギーユ・デラーズ指揮下のジオン軍相手に壊滅した司令部から権限を移譲され、軍事戦闘で最も困難とされる撤退戦を完遂させた、地球連邦軍でも優秀な宇宙軍の将校。
本来であればブレックス・フォーラーに代わって地球連邦軍月面方面軍総司令官職もあったが、生まれがロシア極東地区という事からスペース・ノイド寄りのブレックス少将(当時)に取って代わられた。
このあたりは政治的な配慮をするように時のマーセナス政権が連邦軍の人事に圧力を加えていた。
また旧レビル派閥ではないが、戦後直後は決してティターンズを積極的に支持していた訳でないという点も警戒されていたのだろう。
が、その代わり現司令長官とは性格面で馬が非常に合う。
結果、現宇宙艦隊司令長官であるブライアン・エイノー大将の懐刀に収まったのであった。
またレビル派閥を排除した上で残った、戦中時に中立派閥に属する数少ない宇宙軍の将官。
レビル派閥の影響下にない人間の大半は二つに別れたと言える。
ティターンズに合流した勢力=現主流派、レビル将軍の残党とされた人々共々、地方の閑職へと遠ざけられて0080年代の後半にエゥーゴの構成員になった者たち、だ。
その合間を掻い潜った筆頭がゴップ大将であり、クルムキン中将である。
よって、エゥーゴ派の決起、非主流派の反感、ティターンズの軍内への勢力浸透が内在し、混沌としていた0080末期。
なので、クルムキン中将という現在の地球連邦軍内部では中道派出身の穏健将校は貴重だ。
勿論、彼自身も有能(地球連邦軍という戦争を経験した現在の軍組織内部において無能と判断されればその昇進は精々准将止まり)でありロンド・ベル、ティターンズ所属の地球連邦軍第13艦隊、地球連邦軍宇宙軍のパイプとして期待され、それに見事答え続けていた。

「うん、何か?」

一人の将校が持ってきたのはAE社と北部インド連合政府から申請された一隻の大型輸送艦。
だが、サイズがおかしい。
コロンブス級、パゾグ級などの標準輸送艦にしては小さく、「Mシリーズ」に代表されるような小型・中型巡航宇宙船にしては大きすぎる。

「ほう・・・・まるで軍艦だな」

名前は「M87・星雲丸」という。
ふざけているのだな。間違いない。
極東州政府から特許権違反、知的財産権で訴えられる名前だ。

「名前のセンスはともかく・・・・これは」

色は灰色。しかし。
それに写真から見るに不自然な構造物がある。

「君はこの箱の中身はなんだと思う?」

そう言って一人の少佐に見せる。
艦政本部からグリプスに転属した男は断言した。

「艦砲を隠蔽する為の構造物ですね、恐らく内部の兵装は旋回型メガ粒子砲です。
こちらは太陽光発電兼用の熱エネルギー放射板、そして巧妙に偽装されていますが間違いなくこれはモビルスーツの発着カタパルトデッキ。
ああ、これはミサイルの発射管かな?
何がアンカーだ、結構舐めた書類ですね、これ。ああ、失礼しました。
多分・・・・ジオン系列と我が軍のアレキサンドリア級重巡洋艦の技術混合型でしょう」

だろうな。
しかし、水天の涙に関与したとは言え民間会社として依然存続できる程強力なのがAE社だった。
ビストという取締役の申請書と委任状もある。
それに準加盟国の一カ国の国籍として登録されている。
結果、地球連邦政府宇宙開拓省宇宙航路管理局はこの船の侵入を許可した。
これをどうこうすることは文民統制下の地球連邦軍には出来ない。
それに、してはならないし、やるバカを止めるストッパーとして期待されているのがクルムキン中将だ。

「とりあえず警戒するが強制臨検はしない。そのまま申請した航路を外れないなら問題視するな」

言外に泳がせろ、と言っている。

「よろしいので?」

件の少佐に今はまだ良いという。
そうだ、疑い出せば切りがなくなる。
たまには他人を信用するべきだ。
まあ、他人を信用するなど軍人としては最悪なのかもしれないが。

「仕方ない、この船が軍艦であるという証拠がない。この映像だけでは有罪にできん。
我々は民主国家の軍人だからな」

クルムキンは苦笑いだが、ほかの連中は爆笑だ。
全く、平時とは言え。
少しタガがゆるみすぎだ。
第一、何も間違ったことは言ってない。冗談で受け止めるには黒すぎただろうに。

「付け加えるに諸君、これら武装貨物船舶や民間軍事会社がのさばっているのは我々にも責任はあるぞ。
アクシズ、ジオン反乱軍、エゥーゴ派、地方軍閥、宇宙海賊、正規軍からの脱走者による傭兵崩れ、私設武装組織。
例を挙げればきりがないな・・・・言っておいて今更だが。
一年戦争前に比べて平穏とは到底言い難いのがこのご時勢。
それ故に民間船舶や船団、会社が自前で武装する事それ自体は罪ではない。
0080にジオンと締結したリーアの和約直後の新法律、地球連邦戦後復興特別法の防衛条項にもあるからな。
機動兵器の搭載、ビーム兵器の使用は緊急時に関しては一任する、また搭載・整備も許認可があれば認める、と」

だが彼の戦場経験が告げるのだ。
この船には裏の目的が何かある、そして好き勝手にさせてはならない、とも。

「少佐・・・・付近を哨戒中の部隊はあるか?」

命令を聞いた少佐は副官にデータを取らせる。
そしたら。

「あるにはあるのですが・・・・」

「?」

そう言ってコピーされた書類を見せる。
一隻の機動巡洋艦という地球連邦軍の識別表にはあるが、艦籍にはない名前。
ザンジバル級の改良型。テミス株式会社所属であり、軍艦の名前は「キマイラ」という。
つまり昨今流行りの民間軍事会社。ただし、ジオン公国のお墨付き。

「さて、どうしたものかな?」

搭載機はゲルググのみ、という。
本当かどうか怪しい。
だが、他に手持ちの使えるカードも無い。

「仕方ない、エイノー宇宙艦隊司令長官に上申するか。
謎の軍艦らしき存在が地球軌道に侵入しようとしている、と。
それを追うかの様に一隻のザンジバル級が航行中、とな。
明日の定時出勤までに上申書を作っておいてくれ」

そして舞台は数日あとの地球、パキスタン地方に移る。



『地球連邦軍が攻撃してきます!』

『上空にペガサス級強襲揚陸艦四隻展開中!!
東方150km、SFS搭載のモビルスーツ隊接近!!』

『機種識別中・・・・・出ました!!
数はネモタイプ24機、機種不明機6機!!』

『上空警戒中の高高度偵察機がガルダ級の接近を確認。
あ、ア、アッシマー12機が南方より接近との報告・・・・僧正様!! 偵察機より連絡途絶です!!』

『77より連絡。北方高速道路より南下中の部隊が展開!! 自走砲確認、数は40前後・・・・発砲しました!!』

『敵弾弾着まで10秒前後!!』

『弾着、今』

『被害報告!! 反撃せよ、反撃せよ!! 繰り返す、情け無用!!』

『全軍前進、我らの教えに従って殉教せよ!!』

『怨敵殲滅!! 怨敵殲滅!!』

『北方平原地域、北20km圏内ににジム・クゥエル、ジム改のモビルスーツ隊およそ3個師団が南下、敵の援護射撃あり!!
数百発の対地ロケット弾来ます!! 大僧正様!! どうかご指示を!! 助けて下さい!!!』

『緊急回避!! 敵弾、弾着・・・・今!!・・・・艦尾火災発生!!』

『第二中隊より連絡途絶!! 第三中隊殉教!!』

『第一中隊突撃を敢行します!!』

『第四中隊より入電、我、壊滅セリ』

『第六中隊を投入しろ』

『予備部隊全部隊投入します!!』

『さらに敵弾来ます!!』

『敵軍に新たなる動きあり・・・・両翼から敵モビルスーツ部隊接近・・・・それぞれ30機前後!!』

『対モビルスーツ散弾スタンバイ!! 大僧正様の敵を殲滅するのだ!!』

『了解!!』

『僧正様!! 対モビルスーツ散弾は既に撃ち尽くしております!!』

『だったら徹甲弾でもなんでも撃て!! 敵を近づけるな!!』

『無理です!』

『ダメです!!』

『敵艦隊からロックオンされました!!』

『なんだと!?』

南洋宗はあるだけの戦力をアラビア州軍にぶつける。
だが、先の作戦で更迭された指揮官の代わりはバラク・セル・スレイマン中将。
彼は友軍をインド・パキスタン国境紛争地域から自軍に有利な河川地帯に後退させた上で、敵を挑発。
彼らの地の利を彼ら自身に捨てさせる。

「流石は聖戦士と呼ばれたアラブの男達。その勇敢な血統は健在だな」

サウス・バニングは旗艦アルビオンで感嘆する。
中将は一年戦争中盤における地球連邦軍のスエズ運河奪還作戦に参戦し活躍した。
ノイエン・ビッター指揮下のジオン地球攻撃軍第2軍の猛攻にあい、指揮系統を短時間で失い壊乱していた地球連邦軍アラビア州方面軍。
これを何とか1時間程度で指揮権を掌握し、再編成。
全戦線で崩壊中だった自軍。
理由は先にも述べたが、北欧神話に出てくる幻獣フェンリルの紋章を付けたドム・トローペン二個小隊の迂回と挟撃によって司令部は戦闘序盤に壊滅したから。
が、彼はそれを敗北の決定打とは考えず反撃の狼煙と考え、即座に貴下の部隊を後退、機動防御を選択すべく一旦後方に下がりつつも連邦軍の残存部隊を纏めた。
それから数日、地元民の支援の元、ジオンの主戦線奥深くに兵力を潜伏。
司令官がビッター少将からロメオ少将に交代した事と部隊再編成のために主軸のドムがヨーロッパ方面に転進した事による混乱を現地のスパイから受け取る。
彼はこの時点でジオンが攻勢限界点に達したのを正確に読み取った。
61式戦車中心の正規軍の残存部隊、州軍や民兵ら中心で構成した義勇軍のラクダ騎兵隊、亡命ジオン軍人らから鹵獲したモビルスーツ、少数配備されていたヘリボーン部隊、旧世紀のさらに産業革命時代の遺産と迷走の遺物とでも言うべき装甲列車など、一体全体どう言う時代背景の部隊かと問い詰められるような編成でジオン軍の補給線を攪乱。
一時はヨルダン、レバノンの首都近郊にも迫る事にも成功。
ジオン軍の完勝という評価を覆す。
結果として敗退したとは言えモビルスーツや戦闘車両の砂漠における整備性の問題という現代も続く弱点を利用した遅滞防御+機動防御の反撃は現代戦史教本に記載される。
その猛将がロンド・ベルをも指揮下に組み入れ、巣穴からのこのこ出てきた子熊を四方八方から射止めるべく行動。
決定的に動きが止められた敵軍に止めを刺すのだ。
今、圧倒的な対地射撃と支援下のモビルスーツ戦が開始さる。
その渦中で。

「こいつで!」

百式のビームライフルが一機のザクⅡを貫通する。
爆散し、地上にいた歩兵を巻き添えにする。
120mmザクマシンガンが時限信管式でばらまかれるが当たるはずもない。
更に真上から頭部・コクピットにかけてビームを一閃。このグフを撃破。

「二機目。続いて!!」

ビームを持っているのはこちらだけ。
相手はザクマシンガンやザクバズーカ、それにジム改のマシンガン程度。
あたってもどうという事はないだろう。

(相棒(百式)はよくやる。
ハイザックとは大違い。
あのガンダムに初めて乗った時の高揚感を思い出させてくれた)

イオ・フレミングはそう思う。
あの女艦長はいけ好かないし、ガンダムを与えられたお坊ちゃん部隊は後方待機。
しかもお目付け役に二機のネロ。
俺はモルモット扱いだ。
だが、モビルスーツは最高だ。
最高に俺をハイテンションにしてくれぜ、全く。
と、後方からドップが機関砲を打っ放した。
それが直撃する。
まあ、30m機関砲数発で破壊される程軟弱な装甲板じゃない。
こいつは時速数百kmのデブリの中に強行突入する事も視野に入れた機体だった。

「ち」

だが、当たった事それ事態が気に入らない。
舌打ちする。
それも録音されるだろう、このハロという小型AIに。
こいつ経由で全ての戦闘データがアルビオンに齎されているのだ。
俺の戦闘を監視するスパイという言葉が当て嵌るだろうな、そんな気がする。
だが、それをどうこう出来る訳ではない。
後方から別のジムがマシンガンを撃つ。
緊急回避、そして捻り込みで後ろに回り込むフリをする。
俺の動きに乗せられたジムは横腹を晒してしまい、これを僚機のネロが狙撃、撃墜。
次から次へと。
現在の地球連邦にとって今回の作戦は良く有る小勢力の反乱ごっこ。
その過程で得るであろうイオ・フレミングの百式に関する戦闘データはどうしても欲しい、訳ではない。
が、あれば良いと言う事で出撃させたマオ・リャンの判断は正しかったようで、今、4機のモビルスーツと2機のフライマンタ戦闘爆撃機を撃墜した。
ついでにバルカンがドップを粉微塵にした。
確かにパイロットとしての腕は良い。だが。

「ガンダム・・・・・まだ俺を呪うのか!!」

そう、最近夢で見るのはソロモン攻略戦。
ジオンの要所であるソロモン要塞の攻略戦末期に起きた敵軍への追撃戦で捕虜になり、さらにガンダム一号機を喪失。
ジオンの格好のプロパガンダに利用された。

『我がジオンは確かにソロモンとソロモンを死守せんとした数千の英霊を失った。
これは我軍の精強さと武を示し、しかし武運拙く敗れた・・・・が、それは敗北を意味するのか!?
否、始まりなのだ!!
我がジオンの戦士諸君!! これをみよ!!
連邦の象徴であるガンダムの残骸である!!
我々は敵が軍神と崇めるガンダムを撃破!!
さらに言えば、これを成し遂げた英雄は今回が初陣という将兵であった!!
諸君、彼、バーナード・ワイズマン伍長に続け!!
諸君らの手で祖国ジオンを守り、地球連邦軍の象徴を撃破せよ!!』

ギレンはそう言って破壊され鹵獲され、更に戦意高揚の為、多くの儀仗兵に監視されたプロトタイプガンダムの映像と撃墜した新兵の受勲式を大々的に行う。
それはア・バオア・クー攻防戦開始の僅か2時間前。
これが地球連邦軍の士気を抉き、結果として敗因を作ったと地球連邦宇宙艦隊からムーア同胞団は責められる事になった。
故に上層部に行けば行くほど受けが悪く、更に姉が汚職の罪で一度起訴された事が拍車をかけた。

(まあいいさ、俺は今もムーア同胞団出身者からは敗北主義者に無能で敵前逃亡の卑怯な裏切り者扱いだ)

運が悪いという事だろう。
これらの一連の戦闘で地球連邦軍は数機のガンダムを同時に喪失しており、その失態を誤魔化す為にガンダムアレックス、つまり白い悪魔を持ち上げる。
それと相まって、「ガンダムをザク相手に失った」という悪名は大きい。

「なんで今になって思い出すんだよ!!」

空中で格闘戦という正気とは思えないグフを狙撃して撃墜。
気がつくとガルダ、スードリーのアッシマー部隊が反対側から。
地上は戦闘開始前に入念に増強されていた地球連邦軍アラビア州駐留軍が圧倒している。
所詮は勢いだけの少数の軍閥だったか。

『これより攻撃隊を入れ替える。
スパルタン、ペガサス、ホワイトベース、アルビオンの各艦艦載機は補給の為順次帰投、その後は後退する。
ただし、地上軍の上空支援と直掩は維持する、以上』

マオ・リャン大佐の言葉。
あれを、女の艦長という立場の声を聞くとクローディアを思い出す。
マオ・リャンを信頼しているビアンカには悪いが俺はあいつが嫌いだった。

(できるならもっとあそびたいんだが・・・・くそったれ)

が、命令は命令だ。アルビオンに帰還する。

「了解、第三小隊は第二小隊と交代して補給の為帰還する、シャンパン開けておけ、以上」

この言葉がきっかけかどうかは知らない。
だが、四隻のペガサス級の後退を利用して敵の攻勢が頓挫し、さらに戸惑いが見えた瞬間。
スレイマン中将は即座に決断。圧倒的な地球連邦軍は陸空から更なる攻勢に出るべくして一斉に行動する。

「全軍に伝達、総攻撃開始、以上」

司令官はそう簡潔に述べる。
頷く各部隊の部隊長。
初手は空から。
制空権を喪失していた南洋宗教側に対して大規模な空爆を開始。
後方から呼び寄せていたフライマンタ2個大隊。
更に海上からは地球連邦海軍所属の正規空母「クイーン・エリザベス1世」を中心とした西インド洋艦隊。
地球連邦海軍の中では最近漸く建艦を許され(財務省は未だに大反対であり、宇宙軍の軍縮問題にもリンクしている)竣工した通常動力式新型空母とその艦載機。
援護に来たコア・イージーとコア・ブースターの戦爆連合60機。
トドメに宇宙軍から提供されるのは高高度からの精密デジタル写真。
ミノフスキー粒子下でも有用な多数の高性能成層圏内通信偵察衛星や高高度偵察機、上空の戦略母艦ガルダ級らと連動するレーザー通信を多用し、ビッグ・トレー級『サラフ・アッディーン』のレーザー通信受信機器と搭載しているハイパー・コンピューターの演算処理速度ならば擬似的なリアルタイム戦闘もできた。
もう一年戦争の終戦から10年は経過しいている。
10年間の間に急激な変化があったのがこの世界。
その上で何もしない、何の対策もしないというのは単なる無能だ。
というよりも寧ろ積極的に有害を振りまく害悪・害虫だった。駆除した方が良い。積極的に。
そしてティターンズという地球連邦内部に軍とは非公式ながらも対立し予算を奪い合う組織を作られてしまい、止めにジオン独立を許した上での反地球連邦運動と旧レビル派の合流によるエゥーゴ派の反乱、水天の涙紛争。
これらの手前、地球連邦軍は無能では閑職に回される事になる。
仕方ないのだ。
地球連邦軍も決して順風満帆ではない。
むしろ、世間から見ればティターンズの方がよほどエリートであり、市民の味方であって頼りがいのある組織であった。
まあ、故に様々な軋轢を生み出しているが。

「マオ艦長より各艦、ならび艦載機小隊小隊長らへ伝達。
我が軍の地上軍は前進を開始。
本艦隊もメガ粒子砲一斉射撃に入ります。目標はダブデ級陸上戦艦。敵の左翼」

目標補足!
主砲連動。
レーザー連動射撃用意よし!!

「ロンド・ベル艦隊全艦、メガ粒子砲一斉射撃開始せよ!!」

刹那、ダブデに数条の光の刃が突き刺さり、弾薬庫に引火、大爆発を起こした。
文字通りの木っ端微塵に消し飛んだ。
動揺する敵部隊。
続いて、長距離からの制圧射撃をガンタンク量産型の自走砲部隊が開始。
これらの弾幕下でジム部隊が前進。
更にジム改やジム・クゥエルの師団に埋もれていたが、故に敵の注意を殆ど引かないように擬態していた戦車師団。
これらが的確な位置に配置され、攻勢開始とダブデ爆散と同時に61式主体の戦車師団も前に出る。
戦地がジャングルや湿地帯、密林であったり、砂漠であれば話は違っただろう。が、ここは起伏はあるとは言え河川の三角州、つまり平坦な地形。
敵は勢いに乗って渡河してしまった為か退路がない。
恐らくは内部の過激派が勢いをつけすぎて誰も抑えれなくなったのだ。
よって、地の利は地球連邦軍に移る。
止めは絶対多数の火砲とモビルスーツ部隊にそれを有機的に連絡・運用する巨大な軍司令部。
勝利は目前である。
戦況報告は我が地球連邦に天秤が傾いた事を明確に教えてくれている。
そうとしか思えない。

「どうやら勝ったようね?」

マオ・リャンは指揮官席で安堵の深呼吸をする。
それはバニングも同じ様だった。

「ウラキもタクナも無事のようだ・・・・被撃墜機ゼロ、俺のジンクスはまた更新だな」

「うん、そういえばそうだったな。貴官の一年戦争以来の不死身の異名は伊達じゃないか」

笑い声がアルビオンの艦橋の空気を震えさせる。


少し話を変えよう。
諸君らにとっては疑問でもあったかもしれず、更には唐突かもしれないが地球連邦軍にとって軍部の階級とはなんだろうか?

宇宙世紀0070年代、地球連邦宇宙軍に急追するジオン公国軍の軍備拡張に対抗する為、連邦政府は宇宙艦隊総司令部と宇宙艦隊に「正規艦隊」「偵察艦隊」「コロニー駐留艦隊」「月面方面艦隊」という役職を作った。
この時の正規艦隊司令官と駐留艦隊司令官の階級は歴史的背景から例外とされた北米州主体の「第1艦隊」と極東州主体の「第2艦隊」を除いて基本は少将。
各宇宙艦隊の参謀長は准将、参謀は佐官が担当する。
特務大尉が埋まる時もあるにはあるがそれは稀な例外である。
基本、宇宙軍の士官は専門職でなければならず、経験も殊更重要視される。
当然だ、宇宙空間は人間が生身で生きられる空間ではないのだ。
様々な形の技術者・専門家が重宝されるのは当然の事。そして専門家は時間と経験と教育を注ぎ込まなければ十分な育成・養成はできない。
これ(人間の技量の差)は一年戦争の後半の大反攻作戦で顕著に現れた。
緒戦での大敗北、つまりルウム戦役に至るまでの敗北の連続は地球連邦軍宇宙艦隊に対して絶対的な経験不足、知識不足、技量不足をもたらす。
何が言いたいのかというと、熟練兵士・将校の不足。
ハードウェアではジオン軍相手に互角以上だったビンソン計画艦艇とV作戦のモビルスーツ。
が、その技術の差はジオンの兵士の質によって埋められ、戦時下故できたジオン軍モビルスーツのなりふり構わない質の向上により再び引き離されてしまい、ア・バオア・クー攻防戦へと繋がっている。
結果、レビル、ティアンムはジオン宇宙軍を撃破する事は出来ずに失脚・戦死する。

で、話を軍隊の人事に戻す。
なるほど、各基地司令官や鎮守府司令官もだいたいが准将から少将が担っている。
下手をすると大佐や中佐もありえる。

ならば地球本土の各地上軍は?
鎮守府だの何だの色々言われるが軍事基地の最高責任者に関しては宇宙軍とも同様。
ではその実戦部隊なのだが、基本として地球連邦軍構成国家に引退後、昇進・栄転する者が多い。
そうしないと反発を招くし、何より構成国にとっても都合が良い。
一階級昇進という目に見える形で故郷の英雄にきちんと報いる、という意味でも。
後は宇宙世紀30年代までは寧ろ地球連邦軍より北米州軍の方が強かったという歴史的な皮肉もある。
彼等を宥める為に時の地球連邦軍と地球連邦中央政府は北米州のワシントンに頭を下げていた。
大株主(北米州)に頭を下げるサラリーマン社長(地球連邦中央政府)、とは当時の新聞の皮肉。

なのでこちらも宇宙軍同様に旧世紀の軍事大国に比較すると階級は低い。
階級が低い者が多い程、当然ながら階級が低い分だけ人件費が浮くという現実面の話もあるし、政治の話をすると地球連邦軍はあくまで地球連邦の下部組織であるという事だった。
軍の独走は絶対に避けるべき案件であり、これに失敗した為、一年戦争の政権=キングダム政権は地球連邦政界史上最大の無能扱いされている。
地球連邦の建前により、地球連邦政府ならび政治家は、その建前上は絶対に地球連邦軍に隷属してはならんのである。
地球連邦政府、財界、司法、立法府とて最初から軍部の権限拡大を容認するバカ正直な予算を議会では通してない。
一年戦争勃発までは。だが。
という理由から、陸軍の師団長に少将、参謀長に准将、参謀たちに佐官だ。
陸軍一個師団1万名を数個合わせて方面軍を設立。方面軍の司令官には中将を充てた。
なお、一年戦争の終戦で余った将校・将官を実態はない幽霊師団に赴任させたり、各々の故郷の州軍に一階級昇進させて正規軍を名誉除隊、州軍へ名誉入隊させるのが慣例。長い年月をかけて中央政府が地方政府に厄介事と厄介者を押し付けていった結果が実ったとも言えようか。
正規軍ではなく地方の州軍へ。
そうすれば財源は中央政府の責任と管轄ではなくなり、地方政府の責任と管轄になるのだ。
財政はその分健全になったと言える。一応は。
空軍も基地に航空師団を持ち、同じような編成・人的配置をする。

だからこそ、ティターンズ入隊とかは非常に厳しい審査がある。

これら少将を基準とした地球連邦の例外として海軍の海上艦隊である。
潜水艦主体の艦隊は更に複雑なので今回は省く。
北米州と極東州の第1艦隊から第7艦隊、第8艦隊、第9艦隊が所謂、超大型正規空母を保有する事から中将が担当。
海上艦隊の参謀は不思議な伝統が有り、各州、各構成国家の伝統に沿うので一概には言えない。が、残りの第10艦隊から第18艦隊までの海上艦隊は寄せ集めだのなんだのと散々に言われしまった。凡そ80年近くも。
結果的にレビル将軍による人事権の介入後、先に記載した超大型正規空母を維持・運営できる大海軍国家(或いは州)と表向きは同格になった。
因みに、『ジオンに兵なし』の演説後、レビル将軍は積極的に海軍艦隊再編成と艦隊人事にも介入している。
『陸軍出身が何様のつもりだ!』とか『宇宙軍に転向した男風情に、屈辱の極みだ!!』とか色々言われて忌避されてもいたが。
それでも地球連邦海軍では先任将官として北米州(アメリカ海軍)海上艦隊の政治的・軍事的な優位性は崩れず、これに極東州(というか日本海上自衛軍)が追随。
構成国家間の言語統一で戸惑った事とラプラス事件以降の第二次冷戦(中華地方の海軍に対抗するとも言っていた)の連邦軍の質的優位保持という名目から、件の二州は地球連邦創設時の海軍優位性を約1世紀も保っていた。
現在(0090年代)も変わらない。だが、この悪習がとんでもない大敗北を引き起こしたのでもあろう。

『地球連邦の主力海軍とは旧世紀より続く伝統と誇りある日米海軍である、明からさまに言うならば海軍とは日米英であり、残りはオマケ』

『そして、地球連邦海軍の敵は素人の宇宙人ではなく、精兵である大軍を要する中華地方の中華統一艦隊である』

『故に、我々は北米州(と、私たち太平洋経済圏の国々の艦隊)はジオン相手に兵も艦も出さない』

そもそもアジア州としては対中華の長大な国境線に展開させる陸軍とこれを援護する第三世代航空機による大量の空軍、これの維持に更新と四苦八苦していた。
地球連邦の非加盟国と対立していた太平洋諸国が負担した国境線は、東は朝鮮半島から始まり、台湾海峡、香港周辺、海南島周辺、それから南に下ったり北に上ったりする。
インドシナ半島の中越国境地帯から始まったASEAN加盟国と中華との内陸部国境線、更にはインパール方面に北部インド東方国境地域、そして何故かアジア州、極東州が財政的な負担を求められてしまった極東ロシア地域も、だった。
正直、アジア州の政治家とアジア州在住の地球連邦市民にとって、これに加えて地球連邦海軍内部での勢力争い介入など絶対に『無理』であり、『無駄』だった。
宇宙艦隊だって、一応は州の為に負担をしているが、出来れば面子をかなぐり捨てて実利を取り地球連邦軍の陸軍・空軍以外の軍事部門に参加したくないのだ。
過去も、現在も、将来も。
オセアニア州も民主国家主体であり、尚且つ白豪主義も依然として残るので、財政的な負担と空軍の提供はしたが海軍と陸軍はもうやる気が無い。

が、だ。
これに対抗して戦果を上げたかったのがアフリカ三州、南米州、中米州、統一ヨーロッパ州のロシア海軍、フランス海軍、イタリア海軍、南欧統一艦隊。
沿岸海軍だの、海上保安警察の強化部隊でお飾りだの、陸軍所属の海上武装警察だのなんだのと悪態・陰口を言われ続けていたフラットストレーション、というか不満と意地が爆発。
この様な個人的な感情が蓄積された為、地球連邦の海軍非主流派閥は戦後の発言権増大を目論んで積極的にレビル将軍に協力したという。
特に『ジオンに兵なし』という演説を陸海空軍は当初本気で信じていた。
まあ、それは仕方ない。
まさかミノフスキー粒子とモビルスーツを組み合わせて海中・海上・陸上で戦闘が可能な圧倒的な火力と機動性を小型潜水艦クラスの兵器に与え実戦で投入するなど誰も考えなかった。
宇宙軍と同様に。
結果は言うまでもない。
その苦難の歴史はここではもう言わないが、まあ、敗残処理はどんな世界でもいつの時代でも大変である、という事だろう。

そして舞台はまた北米州に移る。



「勝ったな?」

地球連邦軍本部の作戦部に一通の報告がもたらされる。
部屋の主であるイーサン・ライヤー中将はいつの間にか便利屋扱いできる副官にしたコジマ大佐に聞く。

「はい、ですが我が軍もこの戦いで多くの将兵を失いました。戦後にもかかわらず、です」

少し鼻の頭を抑える。
偏頭痛か?
まあ良い。

「ふむ。それは仕方ない。これが軍というものだ。
それで連中は何故こんな無謀な決起をしたのか、作戦部の判断はついたのか?」

椅子に腰掛けるコジマにイーサン・ライヤーは水を渡す。
自身も軍用カップにあるコーヒーを飲み干す。

「それが予想は出来ましたが確定はできずに敵の本音は不明です。
正直な所、敵の主張の意味がわかりません。
連中の大僧正が言うには真実の教えを広める為だった、と。
そこで最初に疑ったのは宗教戦争です。
実際に彼ら南洋宗は過激宗教集団でしたし、現実にアラビア州駐留軍ら相手に最後の一兵になるまで戦っていました。
よって警察とティターンズ、現地の連邦軍は宗派弾圧を疑い捜査を開始。
が、我々の予想が外れます。
宗教の暴走、それにしては何故かこういう事に付随する他宗教への改宗命令や反対者への見せしめ、それに組織的なジェノサイドがありませんでした。
ほとんど無視して良いレベルです。
ええ、先に報告したとおり占領された地域は半ばが無視されており、敵はその全軍を持って我が軍の対北部インド連合、対中央アジア方面の基点であるイスラマバードを狙っていたようです」

イスラマバードは戦場から数百kmは先だ。
絶対に到達できんだろうし、仮に視野に入れても陥落は不可能だったはず。
それだけの戦力を連邦軍は集めているのは公式見解で地球圏全土に知らしめていた。
解せんな。

(それはあの一年戦争時にも感じた。
彼らに地球連邦を打倒する戦力はない。
彼らにはムスリム諸国への統治能力もない。
経験だってないし、そもそも意思がないなだろう)

が、だ。
ライヤーは思う。
何か見落としてないか、とも。

(やはり妙だな・・・・・彼らには自分たちが軍閥である認識はある。
そして、積極攻勢に出れるほどの兵站もない。
一度勢いをどこかで止められればそこで終わり
あの指導者は元地球連邦の陸軍大佐であり、構成員にはジオン地球攻撃軍の佐官もかなりいた。なのにこの杜撰さは一体?)

本来であれば持久戦が最善のはず。
というか、そうしていたからこそ地球連邦軍は討伐できなかったのだ。
現地は完全に南洋宗派支配下であり、宗教テロが発生するのは確実だったから。
深入りは禁物であった。
地球連邦軍は軍縮の影響によって兵力削減の真っ最中。
余分な兵力、特に歩兵の絶対数が不足気味。
それ故に戦力集中による敵軍の一撃殲滅と戦線不拡大を基本方針として採用している。
これはティターンズも地球連邦州軍も同様。

(南洋宗教の支配下のゲリラ戦闘なら勝算はあるだろう。
だが支配領域外での全軍を投入した一大会戦を挑むなど明らかに愚の骨頂である。
それは歴史が証明している。
数倍の敵のいる真っ只中にのこのこ出ていてく。
どうなるか少しでも軍事を習えば子供でも分かるだろうに。
事実、今回は地球連邦陸軍屈指の名将が総合指揮を取った瞬間に一瞬で瓦解している上、敵の戦死者は9割に達した)

一体どういう事だ?
まるで最初から誰かに何かを仕組まれている様な嫌な違和感を感じる。

(まあいい、この紛争には完勝したのだ。これで良しとするか)

結局、戦線はこちらの地球連邦中央政府とアラビア州政府の要望通りに戦闘開始前に戻して進軍を停止。
後は地球連邦外務省経由で北部インド連合に内政問題として解決を依頼してる。

「そう言えば、現地で初めて越境した第4大隊の司令部はどうなった?」

紛争勃発の責任を解明すべく査問会にかける事で一致していた地球連邦の陸軍上層部。
陸軍は通常の手続きをとり、事実関係確認の為にアリス・ミラーら査察官を派遣していたのだが。

「半数が麻薬中毒で廃人、2割が戦死、2割がショック・シェル、残りは逃亡、です」

「ち、やはりか」

現在の地球連邦にはいくつかの弊害がある。
それは新興勢力ティターンズとそれを擁護する現政権に、経済成長著しいジオン公国と太平洋経済圏の派閥が絶対的なものになった事。
水天の涙紛争以降の宇宙においては特にそれが顕著である。
地上でもまだ許容範囲とは言え、各地の地方政府や軍部の腐敗はある程度進んでいた。
故に、この報告もわかる。

「よし、要点を整理するぞ。
コジマ大佐、件の大隊は戦果欲しさに独断専行と越境攻撃を実行。
それを後押ししたのは押収した麻薬プラントの利権保持と地球連邦軍からの予算増の為の方便。
本来は北部インド連合に潜伏しているカラバやエゥーゴ派の理解ある人々と物騒なサバイバルゲームのつもりだったのだろうな。少なくともこちらの大隊司令部側は。
だが、予想外の組織、南洋宗が実権を握っていた地域は完全に宗教国家の体裁を持っていた。
結果、進行した部隊は兵器の利を活かせずにあのベトナム戦争やアフガニスタン戦争、中東大動乱並みのゲリラ攻撃で混乱し、壊滅。
近代兵器で武装していた現地住民に大敗して、その損害規模もデカく、しかも敵が反撃に転じて越境。
この為に国境警備隊や損耗した現地軍だけでは事態を隠蔽できなくなった。
で、上に泣きついて正規軍に処理を任せる。
また麻薬問題で追求と処断を恐れた自分たちはその間にどこぞへ逃げた、尻尾を切り捨てた、という事だな?」

「ええ、中将閣下。
同感です。というか、それが真相でしょうなぁ」

二人だけの執務室で。
地球連邦軍の統合幕僚本部作戦部のライヤー中将は同僚の軍令部のホーキンス中将を呼ぶ事にした。
数十分後、隣のエリアから彼が来る。単身で。

「ご用件は何でしょうか?
軍令の件と南洋宗との戦闘に関してとは聞きましたが?」

士官学校で一期上の先輩に聞くホーキンス中将。
彼も察していたのか、手持ちに個人携帯用電子媒体ディスクを持っている。

「これにサインが欲しい」

一通の書類を綴ったファイル。
数枚のA4用紙には30名ほどの佐官、尉官の集団が名前と役職、それに軍籍番号に簡単な個人識別IDが記載。
最後の2ページは箇条書きに彼ら彼女らの罪状と現状、何故この告発が至ったのかその原因、理由を記載。

「なるほど、では吉報を期待しておりますよ」

そう言ってホーキンスはサインする。
この結果、先の戦いの撃鉄を引いて引き金も暴発させた第4大隊は「名誉の戦死」ではなくて、「軍規違反による軍法会議」行きが決定した。
これは覆すのは非常に困難であり、誰もしないだろう。
そもそも0090の地球連邦軍の統合幕僚本部には三つのエリート出世コースがある。
軍令部(将官以上の人事権掌握)、兵站部(後方における軍需全て担当)、作戦部(文字通り全軍の上位作戦立案・実行機関)であり、戦後の軍改革で担当者は中将。
これら三職の経験者に加えて、宇宙艦隊司令長官かその総参謀長、海上艦隊司令長官、北半球、南半球の軍総司令官から統合幕僚本部本部長を抜擢している。
だから、この三人は中堅にみえて実は出世争いの最前列にいるエリートなのだ。
軍内部への影響力も半端ではない。
更にティターンズ勢力台頭を嫌った人々の意見も組み入れ、これら三職の現役部長は必ず20名いる軍事参事官に任命される。自動であり絶対。
勿論、辞任や異動により解任されるが、地球連邦政府にも国策にも、立法府にもいつでも自分から意見を述べられる(決定はできないが)。
その二人が決定したのだ。
結果、当事者にとっては悲劇であり命懸けの、しかし、地球連邦市民の絶対多数にとっては地方ニュースにしか放送されない、出版されない一つの地域紛争として処理される。



その紛争の傍らでも謀略は進む。

「ケンブリッジ家の親子とはとても対照的ではありませんか、パラヤ大臣?」

マ・クベ首相はオクサナー国防大臣とともにジオン本国を表敬訪問している二人の地球連邦閣僚と会談。
全てが終わり、個人的な晩餐会で地球連邦内部に毒を流すべく反ケンブリッジ急先鋒に接触した。
大型スクリーンに星団の輝きをアレンジして映し出すプラネタリウム形式の直径15m前後の部屋にて。
ジオン産のワインや牧畜したものを出す。
スーツの上着もネクタイも脱いだラフな格好とは裏腹なジオン公国首相マ・クベ。
愛用の軍服と彼の白いスカーフ。
三者が雑談する事一時間程度。
だが、この時の雑談は先のカイ・シデンとジャミトフ・ハイマンとのやり取りを加えて、カイ・シデンレポートという個人著作により抜粋されて後世にも残った。

『というと?』

『ジン・ケンブリッジは天才です。これは疑いない。
彼が何故天才なのかはどうでも良いでしょう。しかし、彼の才能が開花するキッカケはやはり父親の政界進出、つまりティターンズ結成ですね』

『ふ、あの男の子供がそこまで重要かね?』

『パラヤ大臣、30にもならぬ男がMIP社を再建した。
恐るべき手腕です。何百年に一人出るかどうかの天才児だったのです。
彼は数字を暗記する。写真を撮るかのように。
そして、一度暗記した物事を絶対に忘れないという。虚実か真実か分かりませんが話半分でも驚異でしょう。
それに妹殿はサイコミュを動かせた。
という事はあのケンブリッジ家はニュータイプの可能性を持った家系にして天才を擁する英雄の血族。
まさに地球連邦や新しい人類の今後100年先の輝かしい可能性でしょうな』

『で?』

『大臣、せっかく優秀な後継者が地球連邦とティターンズ、それにあの救国の英雄に生まれ育ったのです。
その様な不愉快な表情になる事はありますまい。
私は単に事実を申し上げたまでです。
AにはAの、BにはBの役目がある。
お若いあの男性にはまだ分からなかったでしょう。
事実、彼はダカールの演説以前は凡人だ。彼の父親同様。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・しかし』

『しかし、なんだね、マ・クベ首相』

『しかし、父親がティターンズを率いる事で一変した。
ジン・ケンブリッジは現実面で政治家として大成する父親ウィリアム・ケンブリッジを見て、それに共感する人々や理想に燃える若き改革者や賛同者を知った。
そして、絶対的な賛同者と周囲の環境の激変で一気に変わった。
ただの地球連邦市民ケンブリッジ家の息子から、国家救国の英雄、その後継者へ、と。
周囲の環境の変化に適応する種族が生き残るのがダーウィン以来の進化論の基本概念。
そう考えれば彼は才能を開花するという形で、ケンブリッジ家の資産運用に興味を持ち行動したのは頷けます』

『確かに、彼らには実績があるな』

『国防大臣、その様な事を・・・・・まあ良い。だが、あれはインサイダー取引の疑いもあるのだぞ。
ルールを破ったという黒い噂が絶えぬが、それはどうかね?
規則を守れないものを英雄視するというのは如何なものではないか?』

『その点は同意します。彼、というか父親ウィリアムの援助もありましょうし、ケンブリッジ派閥の擁護もあったでしょうな。
・・・・例えば最近有名な黒衣のころもを着た人々に、黒い神話の巨人、もしくは禿鷹の紋章を掲げる大政庁とか。
或いは急落しているいくつかの財団や会社の横流しにスキャンダルなども・・・・ティターンズ創設時期と戦後復興期に集めていたのやもしれません。
それを親子揃って有効活用している。
ただ、息子の方がしたたかな気がしますが。
いずれにせよケンブリッジ家の息子の功績は絶対的なものとして記録されるでしょう』

『・・・・・・・・・』

『首相、私は君の言に賛成する。
父親のコネを活かすというのも立派に才能だ。私も軍人だからよくわかるよ。
そう言えば首相も軍人出身だったな。ウィリアム君も軍務経験が有りルウム戦役などで実戦を経験し、さらに勝ち星を上げた英雄。
ふむ、新興とは言え、歴史以外は問題ない優良株だ。
同盟国ジオンを支える君やギレン公国国家元首殿、サスロ総帥の様にな』

『恐縮です』

『で、息子の方の非凡さは分かりましたが父親の方はどうなのですか?
彼は臆病者で査問会にかけられた上、貴国の要人を殴りつけた分別のない男ではないですか?』

『はぁ・・・・確かにそういう側面はあります』

『でしょう』

『・・・・パラヤ大臣・・・・・それは何でも言い過ぎではないかね?』

『国防大臣、あれは高度に外交的な重要な懸念事項になりかねんのです、我が地球連邦にとって。
ティターンズ長官とは言え、爵位も持たなぬ成り上がりの有色人種が戦時下とはいえ公的な場で王族を殴りつける。
世が世なら不敬罪で死刑ですぞ。或いはそれを理由に戦争にさえなりかねん』

『まあ、一理ありますな・・・・』

『確かに・・・・』

『ふん、で、父親はどうなのです?』

『おや、そこまで言っておいて気になるのですか?』

『国防大臣、ティターンズ長官の人となりをジオンの首相がどう思っているかは立派な外交問題だ。
口出しはしないでもらいたい』

『これは失礼、マ・クベ首相、よろしければ後学の為に教えて頂けますか?』

『そうですな・・・・彼は貴族号を授与されたので既に男爵ですが。
まあ、息子が天才の極地にいるとすれば、父親のウィリアム・ケンブリッジは平凡の頂点を極めたと言えるでしょう。
ギボンが書いたローマ帝国興亡史のユリウス・カエサル、或いは初代中華の皇帝である始皇帝、数年で敗戦国ドイツを復興させ第二次世界大戦で一時的にヨーロッパ統一一歩手前まで進んだ元伍長などはある日突然にその才覚をしかるべき場所で発芽させて一気に大樹に育った。
これが私の考える『天才』であります。
そう言う意味で、この数年間で技術革新を利用して一気に成り上がったジン・ケンブリッジも『天才』でしょう。
時代の徒花かもしれない、しかし、確かに鮮麗に時代に名前を刻み、歴史を変えた人間である。そのキッカケは人それぞれであり、その者たちの幸不幸は別にして。
では彼の父親は? あの救国の英雄殿はどうだったのでしょうか?』

『く、首相もやつを高評価するのか・・・・あの男は単なる凡人だろうに。それ以下でもそれ以上でもない』

『ええ、パラヤ外務大臣の仰る通りです。
彼は凡人であり、貴方のような北米州の有名政治家の家系出身では無い。
彼の出発点は現在の政府閣僚の誰よりも低い。
まして北米州のWASPからは一番に弾かれる。
有色人種のカトリック教徒。
ムスリムや神道でない上、経済的にも余裕がある北米州カナダの中流階級出身で教育を十分な受けれただけ、他の被差別階級から見てまだマシという程度の事でしょう。
決して彼に後援組織や後援者がいたわけではない。政治的な地盤もゼロだった。
ギレン陛下の派閥の一員としてザビ家の方々に見込まれて幼少期からエリート扱いだった私、職業軍人の父親を持っていた軍人系統のオクサナー殿とも異なる。
故に彼の道は険しい。
にもかかわらず、です。
彼は誰もが挑戦できる試験、しかし数千万人に一人しか受からないという中華の科挙試験でさえ甘いと考える地球連邦の第一等高級官僚選抜の為の国家試験に上位で合格した。
しかも、飛び級すらできなかった落ちこぼれの汚名を返上し、大学院卒業と同時に現役合格。成績は上位。
でなければ独立前夜に地球連邦の全権代表としてこの国にはこれません。
そして、彼以外にそれを成した人物・・・・・これは今の連邦の歴史にはいない、そうでしょう?』

『・・・・・・・・』

『興味深い考察です、首相。とても参考になる。
そうですね、外務大臣?』

『・・・・・・・続きを』

『続けます。
彼は試験を通った。それも民間企業とは違い、落とす為の学歴選抜試験を上位で突破した。
地球連邦有数の有名大学の法学部に在学し、落第する事なく合格。
ここまでは誰でもできる。
ただし、努力なければ絶対にできず、その努力は並大抵では無い。
ティターンズ時代に入ってからも彼の努力は続いた。
彼自身がやった事は誰もがやりたがらない、しかし、誰かがやる必要があり、努力すれば誰でもできる仕事だ。
が、その努力する、という一点において彼は積み重ね続けたのでしょう。
己の目的の為に自己練磨を続けた。
ウィリアム・ケンブリッジは一見すると華やかな英雄だ。
しかし、これは私が書いてみた彼の履歴書です。ご覧下さい』

『ほう・・・・おもしろいな』

『ええ、オクサナー国防大臣。
彼の経歴は全て、国家選抜試験を上位で突破しないと就任できない役職ばかり。
しかし、一方で試験に合格して失敗をせずに努力を積み上げれば誰でもなれる可能性があった経歴です。
そう、今のウィリアム・ケンブリッジの様に』

『つまり、だ。マ・クベ首相。いい加減に何が言いたいのですか
そろそろ執務をしたいのですが?』

『焦らないでもらいたいですね、外務大臣。
まあ、結論をお願いしますか、マ・クベ首相』

『ええ、つまりです。
ウィリアム・ケンブリッジは努力を積み重ねた秀才型の頂点。
ジン・ケンブリッジは歴史に名前を残せるほどの天・人・刻の寵愛を受けた天才型の典型例。
そういう事です』

そう言って話は終了。
二人はホテルに帰る。
後日談がある。
彼、マ・クベは自らの策略の成功を見る事なく死去する。
だがその前にこう言っていたという噂話が流れていた。

『あの男、外務大臣もここまでの人だ。彼は部下の忠誠心を刺激する様な人間ではない。
さぞや、娘にも嫌われているだろう。
だが、AにはAの、BにはBの役割がある。それを果たせればそれで良い。
それもしても・・・・ギレン陛下もことケンブリッジ家に関しては甘いようだ。
覇者にその様な甘さは不要だと思うが・・・・態々宿敵に塩を送るなどと』

と、実に意味深な言葉を残してこの世を去っている。



「ジュドー・アーシタ中尉」

呼ばれた。
ティターンズの制服を着てないのに、と。
相手は誰だったのだろうか?

「あんたは?」

咄嗟に拳銃に手をかける。
ここは治安が良いとは言え、スペース・ノイドの彼にとってはそれだけで差別されて嫌がらせを受ける事もある場所。
何せいまシロッコ、ロナ、フェアント、セイラの四人に徹底的にシゴかれているとは言えども自分に教養がないのは自覚している。
そしてウィリアム・ケンブリッジを批判できない連中から見れば格好の批判材料だ。

『スラム街出身者に偽善的な手を差し伸べて洗脳している』

などと言うクズもいる。
偽善でもなんでも俺はそれで救われたのだ。
救われてない奴が言うならともかく、戦争の惨禍をテレビの画面越しにしか見てない連中にどうこう言われる筋合いはないね、そう本気で思う。
俺はティターンズでこう思って生きている。

『やらない正義よりも、やる偽善だ』

と。
だから警戒したが。

「ああ、そんなに身構えないでくれ。俺はカイ・シデン。
フリーのジャーナリストさ」

「うん、あれ? もしかしてブライト艦長の?」

頷いた。

「よく知っているな・・・・そうだ、ブライトさんの下にいた事もある」

なるほど。
でもジャーナリストは嫌いなんだ。
あの一年戦争の序盤で散々俺たちを煽った挙句、デモが発生して警察と正面衝突。
何人も死んだのに、そいつらは今は部局長とか専務とかに軒並み昇進している。

「ふーん、で、何か?」

この時カイ・シデンは過去の自分を見た。
大人を信じない、という一点で良く似た自分とジュドー・アーシタ。
だからこそ、彼に頼むのだ。

「俺は今一冊の本を出版する予定だ。
タイトルはまだ決まってないが、内容は宇宙世紀の独裁者比較論だ。
で、ここまで言えば緩衝材として有能な君なら分かるだろう?」

「!!」

「そうだ、ウィリアム・ケンブリッジに対する各々の意見を纏めた提言書だ」

協力すると?
するだろう。君なら。

そう無言で睨み合う二人。
折れたのはジュドー。

「わかった。30分だけ休憩時に俺の感想だけを述べる。
ただし、誰が言ったのかはオフレコだ、頼むよ。
あと、シロッコさんかロナさん、セイラさんかフェアントさんの許可はもらっておくからね。
あの四人の誰かがNOって言ったらこの話はなかった事にしてよ、OK?」

そうだな。
彼もティターンズだった。
身内を売るような真似はしない。
これだ、これだから。
今のところティターンズはトップらが正常な為にクリーンな組織として存続している。
だが、もしも上が腐敗したら?
誰が止められるのだろうか?
本当に権限縮小は上手くいくのか?
問題は山積みだった。

「ああ、それで良い」



宇宙世紀0090 春 GWという長期休暇。

「あれか、確かに見た事がない軍艦だ」

ジャコビアスはザンジバル改級機動巡洋艦「キマイラ」のCICルームでそれを見た。
ユーマ、イングリッドにエンマ・ライヒとダリル・ロレンツの四名がいる。

「で、ジャコビアスはどうするの? 仕掛ける?」

イングリッドが可愛らしげに言う。
冷凍睡眠の被検体だった為、まだ外見は10代中盤の子供だが実は既に20代後半。
戦争の犠牲者でもある。

「あの軍艦は何の目的で地球軌道に入ったのか、そして何を目指しているのか結局分からずじまい。
ならさ、さっさととっ捕まえて強引にあいつらの口を割らせようぜ」

ユーマの過激な意見。

「ライヒ中尉、ロレンツ中尉は?」

二人の意見も攻撃することには賛成。
ただし条件付き。
艦砲射撃で様子を見る。
それと周囲の艦隊を集めたい、とも。
もうすぐジョニー・ライデンらも演習と称してこちらと合流する。
地球連邦も中立地帯から暗礁宙域の間には有人部隊を展開してない。
表向きは、だが。だが、それで良い。
ならば仕掛けるか、そう判断した時だった。

『社長!!』

『何か!?』

『敵艦反転、航路を離脱!! 暗礁宙域に侵入します!!』

それはつまり、こちらをやり過ごす、か。

「或いは後ろから撃つ気かもしれません」

エンマ・ライヒ中尉は自分の独白を聞いていたようでそう答える。
そうだろう。
単純に逃げ込むほど可愛げがあると思えない。
ならば・・・・・やるか。

「よーし、CICのジャコビアスより各員へ。
総員、戦闘配置!!
目標は所属不明の重巡洋艦、砲撃戦用意!!」

『こちら艦橋、砲撃戦準備に入ります。30秒後に充電完了!!』

早いな。
流石は独立戦争時代の精兵部隊であるキマイラだ。
おっと、これは内緒だったか。
口元が自然と歪む。

「よろしい、ユーマ、イングリット、エンマ、ダリルはゲルググで待機。
砲撃戦で様子見をする。
お前たちの機体はガンダムMk2やマラサイのデータを元に改良してある外見こそゲルググの中身は別物。
だから一体一ではネモやガザD程度に遅れはとらん。
が、敵の艦載機総数は依然不明として砲撃戦にて様子を見る」

そして。
モビルスーツ隊を待機状態のままにして5分ほど。
先に撃ってきたのは武装貨物船の「M87」だった。
いいや、あれはもう既に重巡洋艦だ。武装が地球連邦軍アレキサンドリア級並にある。
かなりの火砲だ。
ただし、である。幸運か擬態なのかは分からないが腕は悪い。

『敵艦第三斉射、発砲しました!!』

『取舵一杯、左舷メインスラスター作動!!』

『敵艦航路変わらず。暗礁宙域奥深くに向かいます』

『通信妨害発生、ミノフスキー粒子戦闘濃度から危険濃度へ上昇中』

『外部との連絡遮断されつつあり』

なるほど、先手を取ったのは一目散に逃げる気だったからか。
敵の狙いは何かの輸送だな。
という事は戦うとしても全力の潰しあいはない。
一撃必殺か一撃離脱。
そして援軍の可能性と地球連邦軍の哨戒艦隊がある事を考えるに・・・・狙いは一撃離脱だった。

「フレデリック・ブラウン大尉」

何です?

「敵は賢い。俺たちを焦らしている。
奴は待っているのさ、俺たちが援軍を呼ぶために暗礁宙域外縁に向かうのを」

モビルスーツ隊の管制を頼まれていた大尉はすぐに俺の考えを見破った。
できる副官を用意してくれてという親衛隊への願いは今のところ叶っている。
後はこれが続く事を祈るか。

「砲撃戦をしてこちらの出鼻をくじく。
モビルスーツを出しては収容に時間がかかると判断し、砲撃戦に終始する。
で、所詮は旧式の民間人が扱うザンジバルだと思っているから深入りはしないだろう、その間に自分たちは暗礁宙域へ全力で逃げ込む、か。
何を運んでいるのか知らんが・・・・厄介な相手だ」

そう暗い顔をするなよ大尉。



「大尉、獲物は賢いほど仕留めがいがある。
この戦闘、楽しめそうだぞ?」



続く


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