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No.33650の一覧
[0] ある男のガンダム戦記 八月下旬にこちらの作品を全部削除します[ヘイケバンザイ](2016/07/27 21:00)
[1] ある男のガンダム戦記 第二話「暗殺の余波」[ヘイケバンザイ](2012/07/10 11:59)
[2] ある男のガンダム戦記 第三話『地球の内情』[ヘイケバンザイ](2012/07/15 19:52)
[3] ある男のガンダム戦記 第四話『ジオンの決断』[ヘイケバンザイ](2012/07/14 10:24)
[5] ある男のガンダム戦記 第五話『開戦への序曲』[ヘイケバンザイ](2013/05/11 22:06)
[6] ある男のガンダム戦記 第六話「狼狽する虚像」[ヘイケバンザイ](2013/04/24 13:34)
[8] ある男のガンダム戦記 第七話「諸君、歴史を作れ」[ヘイケバンザイ](2012/08/02 01:59)
[9] ある男のガンダム戦記 第八話『謀多きこと、かくの如し』[ヘイケバンザイ](2012/08/02 09:55)
[10] ある男のガンダム戦記 第九話『舞台裏の喜劇』[ヘイケバンザイ](2012/08/04 12:21)
[11] ある男のガンダム戦記 第十話『伝説との邂逅』[ヘイケバンザイ](2012/08/06 09:58)
[12] ある男のガンダム戦記 第十一話『しばしの休息と準備』[ヘイケバンザイ](2012/08/07 15:41)
[13] ある男のガンダム戦機 第十二話『眠れる獅子の咆哮』[ヘイケバンザイ](2012/08/09 20:31)
[14] ある男のガンダム戦記 第十三話『暗い情熱の篝火』[ヘイケバンザイ](2012/08/14 13:28)
[15] ある男のガンダム戦記 第十四話『終戦へと続く航路』[ヘイケバンザイ](2012/08/18 10:41)
[17] ある男のガンダム戦記 第十五話『それぞれの決戦の地へ』[ヘイケバンザイ](2012/08/25 16:04)
[18] ある男のガンダム戦記 第十六話『一つの舞曲の終わり』 第一章最終話[ヘイケバンザイ](2013/04/24 22:22)
[19] ある男のガンダム戦記 第十七話『星屑の狭間で』 第二章開始[ヘイケバンザイ](2013/04/24 16:55)
[21] ある男のガンダム戦記 第十八話『狂った愛情、親と子と』[ヘイケバンザイ](2012/11/17 22:22)
[22] ある男のガンダム戦記 第十九話『主演俳優の裏事情』[ヘイケバンザイ](2013/01/02 22:40)
[23] ある男のガンダム戦記 第二十話『旅路と決断を背負う時』[ヘイケバンザイ](2013/04/06 18:29)
[24] ある男のガンダム戦記 第二十一話『水の一滴はやがて大河にならん』 第二章最終話[ヘイケバンザイ](2013/04/24 16:55)
[25] ある男のガンダム戦記 第二十二話『平穏と言われた日々』 第三章開始[ヘイケバンザイ](2013/04/25 16:39)
[26] ある男のガンダム戦記 第二十三話『終焉と言う名を持つ王手への一手』[ヘイケバンザイ](2013/04/30 22:39)
[27] ある男のガンダム戦記 第二十四話『過去を見る者、未来を目指す者、現在を生きる者』[ヘイケバンザイ](2013/05/06 16:20)
[28] ある男のガンダム戦記 第二十五話『手札は配られ、配役は揃う』[ヘイケバンザイ](2013/05/12 16:29)
[29] ある男のガンダム戦記 第二十六話『流血を伴う一手』[ヘイケバンザイ](2013/05/22 10:42)
[30] ある男のガンダム戦記 第二十七話『戦争と言う階段の踊り場にて』[ヘイケバンザイ](2013/05/22 20:23)
[31] ある男のガンダム戦記 第二十八話『姫君らの成長、ジオンの国章を懸けて』[ヘイケバンザイ](2013/05/26 13:31)
[32] ある男のガンダム戦記 第二十九話『冷酷なる神の無慈悲なる一撃』[ヘイケバンザイ](2013/06/02 15:59)
[33] ある男のガンダム戦記 第三十話『叛逆者達の宴、裏切りか忠誠か』[ヘイケバンザイ](2013/06/09 23:53)
[35] ある男のガンダム戦記 第三十一話『明けぬ夜は無くも、闇夜は全てを覆う』[ヘイケバンザイ](2015/07/10 19:15)
[36] ある男のガンダム戦記 最終話 『ある男のガンダム戦記』[ヘイケバンザイ](2013/12/23 18:19)
[37] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像01 』[ヘイケバンザイ](2014/02/12 19:18)
[38] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像02 』[ヘイケバンザイ](2014/02/12 19:16)
[39] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像03 』[ヘイケバンザイ](2015/06/29 13:54)
[40] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像04 』[ヘイケバンザイ](2015/07/11 10:54)
[41] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像05 』[ヘイケバンザイ](2015/07/13 13:52)
[42] ある女のガンダム奮闘記、ならび、この作品ついてご報告いたします[ヘイケバンザイ](2016/07/27 21:00)
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[33650] ある男のガンダム戦記 第二十五話『手札は配られ、配役は揃う』
Name: ヘイケバンザイ◆7f1086f7 ID:b7ea7015 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/05/12 16:29
ある男のガンダム戦記25

<手札は配られ、配役は揃う>





宇宙世紀0093.10.11.

あの『ダカールの日』から4年が経過した。地球連邦救国の英雄として祭り上げられ、二度と引き返す事の出来ない道を歩む事となったウィリアム・ケンブリッジ。
彼が久方振りの休暇で、家族そろってティターンズ政庁の迎賓室で中華料理を食している。

(仕事場で食事するっていうのも・・・・・何か物凄く悲しいな。要人護衛リストのトップから早くおりたいけど・・・・無理かなぁ)

食事の場にいるのは、オーダーメイドのネイビーのストライプスーツに薄紫のシャツと無地赤色のネクタイに黒皮ベルト、黒靴の長男ジン、薄い水色のマーメイド式のドレス、同じ色のハイヒールを着た長女マナ、白いスカートとスーツに地球連邦軍名誉勲章と十字勲章の簡易バッジを胸元に付けた妻のリム、そして黒い無地のダブルボタンのスーツに青いYシャツと紺のネクタイをした自分事、ウィリアム・ケンブリッジ。
全員が仕事帰りである。特に妻は北米州情報局(CIA)と地球連邦情報局(FIA)の橋渡しなんてやっているからかなりの事情通だ。
で、問題はあまりにも爛れた生活を送って下さっている長男夫婦(妻二人)だろう。しかも世界中のカジノから出入り禁止と来ている。

(バカ息子。放蕩息子になるとは思わなかった。というか、カトリックの信仰も何もあったもんじゃないな。
もう60代か・・・・・今年は息子のダブル結婚式と言う悪夢も見れたし・・・・なんかやる気がでない。
辞表出して引退したいけど・・・・まだアクシズが残っている以上下手に責任は投げだせないよ。俺が起こしてしまった戦争なんだから)

とは、彼の正直な感想。
まさか30年以上前、リム・キムラへの求婚時には息子が二人も妻を連れて両手に花状態でヴァージン・ロードを歩むとは思いもしなかった。
というか、思える方が可笑しいだろう。とにかく、今は目の前の事を集中するべきだ。そう、息子への詰問だ。
アクシズ軍とエゥーゴ残党軍の件はまたゴップ官房長官やジャミトフ先輩、バウアー内務大臣らとドロドロとした魑魅魍魎の駆け引きで話し合えば良い。

(・・・・・本当は政治の話なんてもうウンザリでしたくないが。最近はシロッコ准将とアイギス技官とロナ君の対立を治めるのに必死だ。
彼らの対立の緩和剤にジュドー・アーシタ中尉と娘のマナを使っているのだから・・・・・なんか人生良い事無いかなぁ)

かなり重体である。
既に現実放棄も甚だしい。

「ところでだ、ジン。お前に問い詰めた事がある。」

北京ダッグを頬張るジンを尻目に私は中華産のお酒を飲む。きつすぎるので水割りである。
よくもまぁこんなものを毎日毎日飲んでいて倒れないなと感心するくらい度数が高いお酒ばかりだった。

「はい、なにか?」

息子は答える。その息子に聞いておく必要がある。
中華地域のマカオ自治州の自治州の州政府運営カジノから60億テラほど稼いで出入り禁止を喰らい、その帰り道の豪華クルージングでも40億テラ程稼いで、極東州の台北で15億テラの手付金と共に降ろされた、まるで旧世紀から続くMI6所属の某有名スパイ映画の主人公の様な強運ギャンブラーである。
いや、正確には強運では無い。全部計算しているのだ。実際、ゲーム開始直後は300万ほどを捨てて手札の流れを確認している。
更にはバカラやスロット、ルーレットなど運の要素が強いゲームには絶対に手を出さない事で有名だった。

『魔王ジン・ケンブリッジ』

ある意味で、戦略を立てられるポーカーとブラックジャック以外しかしない。彼の、息子の最後の大賭けで一気に大勝利した為か、既にケンブリッジ家の総資産額が350億テラになっている。
この事から裏社会からもそれなりに警戒されており、いや、かなり警戒されていた。
しかしながら、あの英雄の息子である事、賭博場は全て国営カジノであった事、身内にブッホ・コンツッェル戦闘部門・民間軍事警備子会社である『クロスボーン・バンガード』と地球連邦軍特殊作戦部隊エコーズ、地球連邦北米州のCIAが厳重な護衛をしている事から手を出す事は無い。
だいたい、いくら稼いだとはいえ、本当の資産家に比べれば玩具で遊んでいる子供なのだ。ヤシマ・カンパニーなどの大資産家に比べれば大したことは無い。

「・・・・・・お前が恨まれているのは知っているな?」

肩を竦める長男。父親の懸念はそこだ。いくら国営カジノであっても準加盟国の中華地方で出入り禁止をもらったのはその筋で有名。
だが実際はそれ程ではなかった。統一ヨーロッパ州のモナコ共和国は国営カジノで100億テラ、ジオン公国50億テラの損失を出したがそれでも地球連邦最大の名家と言う事で必要経費と割り切る。

(父さんには内緒だけど、あの後一気にカジノの難易度が上がったらしいからな。
それに金を使っているならユダヤ・ロビーやロスチャイルド、中華の華僑、オイル・マネー、スペース・マネーの面々の方が派手で警戒されている。
たかだか500億テラ位彼らにしてはかわいいモノだろう)

言うまでもないが、この間の新婚旅行で言ったリーア自治共和国とアジア州セブ島でも国営カジノで荒稼ぎしていたが、闇社会のカジノゲームには一切合財手を出さないと言う一線を越えないという意味で彼は恨まれてない。
寧ろ、国営や公営のカジノ、そのライバル店であるマフィアやヤクザといった裏組織の運営する賭博業界は巧妙に避ける事で要らぬ摩擦を回避していた。
あるマフィアはこう述べている。あそこまで商売仇を叩いてくれる存在はありがたい、と。

「知っています。それでも許容範囲でしょう?」

(こいつ・・・・分かっていてやっていたのか・・・・余計性質が悪いぞ!!)

そう、許容範囲なのだ。このケンブリッジ家で最も稼いでいる男は。
因みに本業もきちんとある。彼の頭の回転力の速さ、計算高さ、更には記憶力の良さが彼を支える原動力となった。

「まあ、カジノの件はこれ以上やるな。十分元金を稼いだはずだ。
それ以上やるならお前の資産を凍結する様、連邦法で定められた寄託預金保全法最大額で分散預金してあるお前の口座、その全てに圧力をかけ、各地の銀行から引き出し額を最低限にするからな。
それで・・・・これが地球連邦中央公認会計士試験、地球連邦中央税理士試験の同時合格の認定書と暇つぶしに行っていた社会人専用のオクスフォード大学大学院経営学科を第7位で合格、卒業の卒業証明書か。
この点は良くやった。自慢の息子だ」

ありがとうございます、父さん。
その表裏の無い褒め言葉にしっかりと答える息子。だが疑問も残る。

(たしかジンの選んだエコール大学の学部は経済・歴史学が専攻。経営論は選んでなかった筈では?)

ふと気になる父親のウィリアム・ケンブリッジ。
それに答える息子のジン・ケンブリッジ。残りの女性陣は我関せずと中華料理を食べ続けている。
麻婆豆腐に手を出すリムとフカヒレスープを飲むマナが見える。

「お前は歴史学が好きだと思っていたが・・・・違うのか?」

その言葉に思った。ああ、一番自分を見てきた父親だからきっと分からないのだな、と。
父親だからこそ、実の息子の本当の願いと現実にある選択肢をどう選ぶかと言う事がこの聡明な父親にも分かって無い。

(お父さんがお兄ちゃんの選択を分らないのは他人じゃないから・・・・・やっぱり身内だからかな?
昔の自分、お祖父ちゃんたちや若い頃の、私たちが子供のころのケンブリッジ家を知っているから尚更お父さんには分からないのかも)

マナがショートの薄い茶髪に染めた髪を掻き揚げながら思う。
そうだろう。もうあの日々に、友人らと笑って過ごした幼き日々には帰る事など出来ないのだ。それが分かっている。
既に小市民、一市民、地球連邦の単なる国民であるケンブリッジ家は存在しない。
あるのは『ダカールの日』 の英雄で、アースノイドとスペースノイド、ルナリアンにジュピトリアン融和の象徴、連邦政府最大級の英雄にして、随一の政治家の名家、『ケンブリッジ家』の初代。
そしてそれを一番分かっているのは情報部にいる母のリム・ケンブリッジであり、その薫陶と命令を受けたのが兄のジン・ケンブリッジだった。
どこか抜けているところのある父親はそれがまだ理解できてない。だから息子のジンもため息交じりで話しかけるのだ。

「父さん、現実を見てよ。今のケンブリッジ家は地球連邦最大の名家なんだ。もうお爺さん達の一市民時代のケンブリッジ家では無い。
政財界に加えティターンズ、軍部への多大な影響力を持ち、次期地球連邦首相も夢では無い家系。それがお父さんの築いてきたケンブリッジ家なんだよ。
そして・・・・・ユウキはともかく、メイはその加護を得る為に親族一同から道具扱いされて生贄として俺に捧げられた。違う?」

言葉に詰まる。その通りだからだ。

(それは・・・・返答が出来ない。あのメイ・カーウェイは息子に捧げられた奴隷のような存在。
仮に自分やケンブリッジ家が没落したらあの女性の運命は・・・・いや止そう、こんな事を考えるのは良くない傾向だ。私は・・・・・ただの一市民でありたいのだ)

そう。息子の言は正しい。
ジンが言う通り、ロナ君が嗾ける通り、シロッコ准将が期待する通り、更にはブライト提督やシナプス宇宙艦隊司令長官、タチバナ統合幕僚本部長、ジャミトフ先輩ら政府閣僚が望む通り、もうウィリアム・ケンブリッジは簡単に職を辞する事など出来はしない。
あるのは只々先に進む事。いつ転落死するか分からない細い崖の様な道を歩み続ける事。一年戦争開戦前からギレン=ウィリアム会談、水天の涙紛争とダカールの演説までずっとがむしゃらに駆け抜けた。
そして気が付けばティターンズ第二代目長官と言う安定した職に就いた。
まあ暗殺劇も一つや二つで済んでいる訳ではないから決して安定、安全、安寧としているとは言えないのだが。
そんな中、ジオン政界の一人にしてジオン技術陣のトップシステムエンジニアであるメイ・カーウェイを手に入れたケンブリッジ家。
この事実は宇宙市民と地球市民の第二の融和政策(第一はガルマ・ザビとイセリナ・エッシェンバッハの婚約、結婚)になる。
と、連邦の報道機関によって宣伝されている。ジオンはもっと露骨である。何せ政府が公認したのだから。

「お前は自分が政略結婚の道具された事を知っていて・・・・あの娘を選んだ・・・・違うか、そうじゃない、選んだのではなくあの娘たちを受け止めたのか?」

無言だがしっかりと頷き肯定する。
息子は続けて言った。

「あの二人とはいろいろありました。頬を何度ぶたれたかなんて記憶にないですよ。数が多すぎて。
脛も蹴られたし、罵倒もされた。何度も泣かれたし、会話を拒絶された事も100や200では聞かない。
それ以外にもたくさんの修羅場を掻い潜りました。
因みにメイとユウキと自分が一週間ほど全員そろって精神科で寝込んだ事は、知っています?」

当たり前だ。あの時は執務を全部ロナ君とブライト君らに任せてお前の見舞いに行っただろ。
ウィリアム・ケンブリッジも政治家である前に、官僚である前に、一人の父親だった証左だ。

「それでも俺は二人を愛してますよ。きちんと平等に。ユウキの事を第二婦人とか愛人とかいうくそ野郎の奴とは二度とお付き合いしないと公言するくらいには。
色々あったけど、メイとユウキの二人は俺の嫁です。そして・・・・言いたくないけど次期ケンブリッジ家の当主夫人らだ。
地球連邦財界、政界、軍部、ジオン公国宮廷の中でも一位、二位を争う運命がある。
例え俺たち全員が嫌だ、引退したいと言っても・・・・父さんの孫、つまりマナや俺の子供たちは絶対にその運命から抗えない。絶対に。そうですね?」

なんともいつの間にかこんな真剣な目をして、こんな真剣な目で自分の将来を考えるようになったのか?

(これが子供成長だと言うのなら私は悲しむべきか、それとも喜ぶべきか? 或いは息子の選択肢を奪った事を嘆くべきか?
過去は変える事が出来ないと言うが・・・・まさにその通りだ。あの一年戦争からの決算を息子たちに、マナとジンに押し付けたのか?)

黄昏れる父親に息子は告げた。少し厳しめに。どこかまだ小市民に戻れると思っている甘い幻想を抱いている父親に。

「ケンブリッジ家はもう一市民の家では無い。だからこそ、それなりの資産とそれを運営する知識と実績を持つ必要がある。
もちろん、趣味と実益を兼ねてカジノで遊んでいたのは弁解しません。
ですが、そこから得た資金の大半は最も安定している極東州の財閥4つに分散して預けてあります。
ウェリトン、ハービック、ジオニック、ヤシマ、ブッホの5つの宇宙開発事業部門とMS開発を持つ企業の株式に変更もしました。
それに・・・・・本業の方もしっかりとしております」

そう言えば本業は税理士と公認会計士だったな。

「え、本業?
遊び人でカジノに行く度に億単位の荒稼ぎして・・・・お蔭で各国のカジノから、タキシード来たお兄ちゃんがホテルの前に来た瞬間、入館を丁寧に拒絶される魔王。
しかも5000万テラプリペイドカード貰って。そんな門前払いされて追い返されるお兄ちゃんに本業なんてあるの?」

マナがメロンアイスシャーベットを食べながら聞く。
そちらは初耳だ。この遊び人の兄貴が本業なんて言う言葉を使うなどあり得ないと思っていたのに。そう思うマナ。

「マナ。お前も何気に酷いな。そんな博徒みたいな生活基盤が続くわけない。あれは餌だよ。ここに天才的な数学と数字を扱える人物がいると言う事を地球圏全域に知らしめるための、な。
だいたい何のために有名大学であるオクスフォード大学大学院の経営学部と税理士、公認会計士をほぼ同時に取ったと思っている?」

あ!?

驚いた顔をする妹。何気にこの長男、その抜群の、というか、異常な記憶力と計算力で地球連邦中央税理士試験と地球連邦中央公認会計士試験の二つを突破している。
しかも税理士と公認会計士の合格は同時に、だ。
これは地球連邦建国から約一世紀、スペースノイド、アースノイド、ルナリアン、木星圏を含めて総人口120億人達する人類の中でわずか50人(しかも総計、歴代)しかいない快挙であった。
この事を知った各地の財閥や地球連邦の財務省はジン・ケンブリッジの引き抜きに躍起になっている。

「そう、俺は税務と経理のエキスパートとして動く。実際、オーシャン・スペース・カンパニー(OSC)を立ち上げた。
水陸両用MS開発の有力企業だったが戦争終結と同時に赤字に転落していたMIP社の財務をこの3年間で何とか黒字に戻した。
その為に地球連邦海上保安庁と地球連邦海軍と各地の沿岸警備隊に、土木作業器機として水陸両用MSアッガイと護衛のズッゴクEを売る為に営業をした。
ちょっと財務と経理とは違うが実績もある。まあ、父さんのコネを最大限に使ったからなんだけどね」

この言葉に頭を悩ます父親。父親のコネを使うなとは言えないが、それでも使いすぎではないかと思う。実際に思い出す。
ティターンズ長官の息子として父親に合わせる代わりに極東州とアジア州、北米州の財界と州軍軍部上層部との面談が一気に5倍に倍増したのは息子が何枚も噛んでいたからか。

(そうだった。この間確かに妙な嘆願書と謝礼のプリントがMIPとジオン本国、地球連邦政府や地球連邦海軍らから送られてきていたのは知っていたが・・・・・目の前の妻を二人も持った人物の・・・・バカ息子の所為だったとは。
まさかそう言った裏事情があったとはな。こいつ、本当にチキン野郎の俺の息子か? なんかギレン氏の息子に思えてきたぞ?)

因みにこの嘆願書と言うか礼状のお蔭で彼の仕事は大幅に増大し、しかも中華地域を敵視している地域から地球連邦領域防衛の国防に寄与したとして名声まで得てしまった。
本人のあずかり知らぬところで。である。
まったく、塞翁が馬と言うか有難迷惑というか判断に困る息子の先走りであった。

(あのジオンMS製造三大企業のMIP社らからの赤字解消についての感謝状と謝礼、それに伴う株式の相場を操った息子。
地球連邦海軍の質的強化政策に加え、太平洋沿岸地域の工事作業効率の向上にこのバカ息子が関与していたとは・・・・・だが本当に大丈夫なのか?
過信のし過ぎや若者にありがちな夢見な考えがこの子を、マナとジンを破滅に導くのではないだろうか?)

だが父、ウィリアムの懸念を余所にジン・ケンブリッジは本当の天才だった。
彼は一年戦争で開発されたが緒戦以降使用されなかった水陸両用MSらを作業機械として極東州、統一ヨーロッパ州、オセアニア州、アジア州、南米州へと輸出。
特に一年戦争で件の赤い彗星の奇襲攻撃で壊滅的打撃を受けていた旧地球連邦海軍本拠地ベルファスト軍港、アムステルダム軍港の座礁艦や崩壊した港の撤去作業に大いに役立つ。
MIPは新しい地球の各企業とのコネを最大限に活用。
作業用MSとしての性質を持つジオニックも巻き込んで、ザク・マリナーやアッガイを重点的に輸出し、軍事力としては安定した性能を誇るズッゴクEを極東州、アジア州、北米州三州の大企業合同のPTC(パシフィック・トライアングル・コンツッェル)とMIP、半ば取り潰しを受けたビスト財団、AE社のデータを流用した対水陸両用MS用航空対潜魚雷の開発促進。
その開発チームのプロジェクトリーダーには、妻のメイ・カーウェイ・ケンブリッジが、調整役には実戦経験があり各部隊間のオペレーターを戦時中に行っていた同じく妻のユウキ・ナカサト・ケンブリッジが、会計全般のサブリーダーに自分、ジン・ケンブリッジが就任。
結果、地球連邦海軍が対中華政策で求めていた海軍力再建を16ヶ月で成功させ、地球全土の制海権の奪還・拮抗に成功した。
これがケンブリッジ家が資産家になった最大の理由である。

(だが、それ故に中華地域からは敵を作り、それ以上に極東州とオセアニア州、アジア州と祖国アメリカ、北米州と南米州、統一ヨーロッパ州の支援と支持を受ける結果となる。
できれば一市民として静かに平穏に暮らして欲しい。
それだけが願いだ。政治家など面白くもなんともない。書類の山に殺されるだけで、後は間接的に人を不幸にする罪深い存在だ。
それがまだ若いマナとジンには分からないのだろうな・・・・・どうしてこうなった? いや、全ては俺のせいか?
あの一年戦争以前のムンゾ自治共和国時代にザビ家と交流を持ってしまった・・・・それが原因。要因なのだろうか?
まあ、愛する・・・・・恐らくは愛そうとしている二人の女性の幸せと次の世代の為に努力しているのは分かる。
これが単なる放蕩のバカ息子だったら怒鳴りつけて殴りつけて、そのまま絶縁も考えたが・・・・本業として会社を立ち上げ、経理・財務専門の職種に就くなら何とかなろうな)

そう、ケンブリッジ家は資産家となる。そうしなければ守れないモノが出てきた。
認めたくないがそれは現実。ケンブリッジ家は既に地球連邦の名家であり、息子と娘の結婚は連邦のマスゴミどもの、イエロージャーナリズムの格好の餌だ。
それにもうすぐ60代後半で政界から引退する。それまでに息子夫妻と娘を守る基盤を作ると言うのは基本方針としては間違ってない。

「父さん、父さんたちが若かった頃、或はおばあさんやおじいさんらが現役だった時代はケンブリッジ家も小さく、どこの誰が継いで、誰が絶やそうが誰も気にしなかった。
どんな人が結婚して、どんな子供が生まれて、どんな生き方をして、どんな孫を見せても誰も問題にしなかった、そうですね?」

いつの間に、知らぬ間にこんなに意志の強い目をするようになったのだ?我が息子は? それとも、これはあの日の、『ダカールの日』の自分を見たからから?
そして何も言えない。そうだ、名家と呼ばれる存在には名家なりの重圧と義務が与えられる。ロナ君が大好きな『高貴なる者の義務』という訳だ。
それに復興支援の功績と水天の涙紛争時の勇敢な行動をたたえ、イギリス王室が『地球連邦王室・皇室評議会』に提案。そこから爵位をもらう話も出ている。まあどうせ『男爵』位だろうが。
それを理解したくないのがウィリアム・ケンブリッジであり、もしかしたら最も理解しているのがリム・ケンブリッジであり、それの責任を果たそうとしているのがジン・ケンブリッジであるのかも知れない。マナ・ケンブリッジはまだ考えたくないと言うのが本音だ。
彼女はエコール大学大学院の法学部に進学する学生なのだから。

「だから・・・・カジノ遊びを続けたのか? 敢えてその計算高さを世界中に知らしめるために? ヘッドハンティングの対象となる為に?
ケンブリッジの次期当主は放蕩息子では無い、敏腕の計算高い男だと世に知らしめたかったのか?」

半分は正解です。

「ほう? ならばジン、残りの半分は趣味か?」

それにつられて漸く笑う事が出来た。
ああ、会話は、家族会話はこうでなければ。せっかくの一家団らに無粋な真似はしたくない。

「ええ、父さんの思う通り、カジノめぐりとブラックジャックで大金巻き上げるのは単に個人的な趣味です。
とりあえず度胸試しとマナには勝てない直感を経験で補うための練習です。尤も、ニュータイプと噂されるマナとやるといつも負けますが」

頭痛がしてきた。マナもそうなのか?
まさか本当に遊びで数百億テラも稼ぐ博徒が出て来るとは。冗談抜きにMI6の有名映画のスパイではないか!
そう叫びそうになる。それを見かねて悲しそうな声で息子は言った。それが言葉の剣となり自分の心臓を突き刺す。

「父さん、もう・・・・・あの小さなカナダのケンブリッジ家には戻れないのは父さんだって分かるでしょう?」

それは嘆願だった。
それは悔恨だった。
それは憧憬だった。
それは達観だった。

故に分かった。本当は分かっていた。目を逸らしたかっただけなのかもしれない。
だが、目を逸らす事は誰にも出来なくなった。少なくともウィリアム・ケンブリッジと言う男の責任感では出来ない。

「ああ、そうだな。良くも悪くもケンブリッジ家は地球連邦の政界、財界、軍部、ジオン公国宮廷、各国王族、皇室から注目の的だ。
これを今さら無かった事など出来はしない。だから・・・・お前たちが選ぶ道を狭めてしまったのは父さんらの失敗だった・・・・すまなかった」

頭を下げる父親。
だが、それを受け止める三人。リム、ジン、マナの三人の家族。
マナが言う。

「そんなに深刻にならないで。何とかなるわよ。それに・・・・今までだって何とかなってきたでしょ?
お父さんの悪運の強さは私たちが知っているの。
大丈夫、今度も何とかなる、今度も成功する。あとは孫の顔さえ楽しみに書類に埋もれていれば良いから!」

書類に埋もれる。何気にマナはリムに似てきた。
或いは学友のマリーダ・クルス・ザビに、か?
全く毒舌家で困る。本当に困る。だがそれが普通の家庭だろう。
ギレン氏には悪いが兄妹の誰かがテロ行為で爆殺される様な権力者の家庭など頼まれても嫌だった。
しかし、現実は今や地球連邦最大級の権力者として自分は存在している。まったく、どうにもこうにもならない事とはこの事かな?

「父さん、母さん、マナ。俺はユウキとメイを守ります。
特に知りもしない好きでもない面識もない、しかも両親を初め一族の都合で戦友の恋人を奪うよう命令されたメイ・カーウェイはもう心のどこかで血の繋がった実の家族と言う者は信じてない。
それは彼女を何度も抱いたから分かる。分かるつもりです。うぬぼれかも知れないけど、彼女の泣いている姿も何度も見た」

何度も見た光景。
本人は悟られまいとしたが涙で、嗚咽で枕を濡らしたあの勝気な女性。

『どうして・・・・どうして・・・・どうして叔母さんと叔父さんたちは私を道具としかみないの?
どうして・・・・私を・・・・なんでお父さんとお母さんは私を売ったの? メイはカーウェイ家にとって都合の良い商売女なの?
私は・・・・・・私は嫌だった。ユウキと仲違いするのも・・・・ジンなんていうまるで知らない人間に初めてを一方的に捧げさせられるのもいやだったのに!!』

二人だけの夜。それを聞いて・・・・この慟哭を知って、自分はただメイを抱きしめる事しか出来なかった。
それはもう一人のユウキも同様。彼女は言った。嘲笑った。もう帰る場所は貴方の元にしかない。貴方に切られたらそれで終わりだ、と。

「ユウキも帰る場所はジオンの決戦兵器であるコロニーレーザーに改造され、親族は一年戦争と水天の涙紛争で全員死亡。
友人らも散り散りになり、ミノフスキー粒子による電波攪乱の為にどこに誰がいるかも分からない。それでも必死に生きてきた。
俺はそれを受け止める自信があるとは言えない。でも、受け止めると覚悟した。
だから・・・・・俺は守ります。あの0089で母さんが身を挺してテロリストの襲撃からマナと俺を助けてくれたように」

そう言いきった長男のジン・ケンブリッジ。

(ああ、どういう事だ? ついこの間まで自分の後ろにおっかなびっくりで歩いていた筈の男だと思ったのに。
こんなに強くなった。いつの間にここまで成長したのだろう?)

本当に、知らない間に息子も娘も成長するモノだ。
実感するリムとウィリアム。もう子供たちは子供では無い。立派な大人だった。

「・・・・・そう。ウィリアム、これからは寂しくなるわね」

リムが言う。どうやら同じ思いのようだ。
あの泣き虫で甘ったれてで、生きるくらいなら一緒に死ぬ事を選んだ臆病者と言っても良い子供が、気が付けば二人の妻の為に生きる事を選んだ。

(まあ、やり方には問題があるけど・・・・・それは人それぞれだから仕方ないか)

そう思う事にしよう。
こうして、ケンブリッジ家30か月ぶりの家族団欒は深まっていく。

「近いうちに孫の顔を見せるから楽しみにして下さいね、父さん、母さん。そして叔母さんになるぞ、肌のつやには気を付けろ、マナ」

マナ・ケンブリッジはこの失礼な冗談を聞いて、無言でバニラアイスを兄貴の顔面に投げつけた。




宇宙世紀0094.04.19

極東州、太平洋ベルト工業地域。
地球連邦の製造業の拠点は大きく分けて地球のジャブロー地域、北米州、極東州、宇宙のグリプスの四つである。
まあ、ジャブロー地域は左遷先と言う事と森林保護の名目でジャブロー基地以外の工業作業が中止されているのだが。
さて、かつてアヴァロン・キングダムを輩出した政治組織、三大経済圏の二つを牛耳っていた統一ヨーロッパ州はどうしたのかと言う質問があるかも知れない。
が、最大の工業基盤を持っていた中欧地域(ドイツのルール工業地帯、ドナウ工業地帯)とオデッサ地域が戦場となったために相対的に地位を落としている。
特にアウステルリッツ作戦の後遺症は巨大であり、今も尚、地球連邦政府は統一ヨーロッパ州の戦前までの復興を完遂してない。
というか、北米州はせっかく凋落したライバルを復帰させる、復興を完遂する気が無い。マーセナス首相は思った。

(北米州主導の政治体制に、旧大陸人の介入は不要を通り越して害悪だ。お荷物にならない程度には復興させるが、かつてのような発言権を持つ状態にはできん。
宇宙艦隊の生産維持能力は盟友である極東州と我ら直轄のグリプス工廠、そしてここステーツにあればそれでよい)

そう考えた。これはブライアン前大統領やエッシェンバッハ議長の考えとも一致しており、統一ヨーロッパ州の権限は大きく制約されている。
それでも暴動が発生しないのはフランス、スペイン、イタリア、ポルトガル、ベルギー、ルクセンブルグ、イギリス、アイルランド、ロシア、北欧諸国らが無傷で残り、中欧地域の復興もティターンズ副長官だったウィリアム・ケンブリッジが中心となって一番に行われたからだ。

『統一ヨーロッパ州を放置しておけば新たなる火種となる。第一に復興させて置く義務が我々にはあるのです』

ティターンズ副長官に就任したばかりの最初の演説でウィリアム・ケンブリッジはそう断言し、一月もたたないうちに大量の支援物資と雇用創設の為の大規模公共事業や地雷原の、瓦礫の撤去作業、難民キャンプの創設(これは大規模な電気・水道・ガス・ベッド・トイレ・シャワー付きアパート建設で乗り切った)を開始。
更には戦災孤児を同じく戦場で家族を失った人々との受け入れ政策も慎重に行う。
これらの事業に各州が独自に開発した地雷除去専用車両や地球連邦軍とティターンズ独自の戦災復興部隊が役立ったのは言うまでもない。

『口先だけでは無い頼りになる男、それがウィリアム・ケンブリッジ』

という要らぬ評判が地球圏全域に広まりだす契機だったが・・・・まあ、しかたないだろう。
彼としては目の前の仕事を片付けるので精一杯であっただけなのだが。
一般人には見える、『最も頼りになる地球連邦の官僚』という事実に基づいた、本人は認めたくない認識だけが独り歩きしだしたのはこの頃だと、後世の歴史家は一致した見解を見せている。

更に工業化の別の理由として、宇宙の無重力空間の利用法が確立されて既に150年以上であるという事が挙げられる。
スペースコロニー国家サイド3、つまりジオン公国が地球連邦軍と対等に渡り合うだけの軍備を用意できた事も考えて、現在の工業力基盤は上記の4点に絞られた。
そんな中、デルタゼータのデータを元に、大気圏内外両用の可変MS、MSZ-006C1『ZプラスC型』が続々と生産されていた。
アッシマー、ギャプラン、ガンダムMk2、ガンダムMk4のデータを受け継いだこれらの機体は将来的に来年5月完成予定の超弩級空母『ベクトラ』とその護衛艦である『ラー・カイラム』級大型惑星間航行可能戦艦らに配備される。
また『ラー・カイラム』の簡易量産型(ただし、惑星間航行可能能力は付けられた)『クラップ』級機動巡洋艦も量産体制に入った。

「最後の大軍拡、か。まあ外惑星開拓時には木星連盟に対しても圧力と安全を保障する事を考えれば強ち間違えでは無いか」

黒いコートを着た黒いスーツの男が貴賓席からクラップ級巡洋艦を日本製品の通常双眼鏡で見る。艦橋には地球連邦軍の軍旗がはためいていた。
BOX席にSPと共にいるのはジャミトフ・ハイマン国務大臣とアマチ・ミナ極東州首相、統合幕僚本部本部長のニシナ・タチバナ大将の三名、そして遅れてロンド・ベル艦隊司令官のブライト・ノア少将が入室する。

「すごいものですね」

アマチ首相が建造中の各艦隊を見て思う。
初期生産型で、ラー・カイラム級5隻、クラップ級20隻にRGM-89の改良型であるRGM-96Xジェスタも全艦に配備される。

「宇宙世紀・・・・・最後の軍拡。これで地球連邦は全てに蹴りを付けるつもりですよ」

ジャミトフの説明。
ジェスタはまもなく開発中と言う『X』が外される。そして、『UC』計画と『N』計画、『Z』計画が本格化=実戦配備化する。
特に『Z』計画は馬鹿みたいな予算を食いまくった対艦攻撃機である『ZZガンダム』以外は、常識的な予算で何とか収めた。
そして敵対勢力が明らかに強化人間を大量配備していると言う極秘情報をゴップ内閣官房長官が伝えて来たので、対NT戦術確立を目的にした特殊研究がグリプスで行われている。
これは一年戦争末期に入手できたジオンの第300独立戦隊所属のエルメスタイプから凡そ15年の月日をかけて完成したデータを元にしている。

『サイコミュ搭載機のファンネルと呼ばれている機体が危険なのは、どこからビーム攻撃が来るか分からない事だ。
ならば、こちらは速度で敵の懐に侵入し、そのままファンネルを使う、つまり敵の思考にダイレクトに圧力を加えて撃破すれば良い』

その為に『Z』計画の機体は耐ビーム・コーティングを三重に行われており、第13次地球軌道会戦時のノイエ・ジールⅡのファンネル攻撃に5秒間は耐えきれるだけの重防御力を与えられている。
サイコミュ兵器がアクシズ・エゥーゴ連合軍の切り札である以上、これに対抗する為の演習とそれらの装備を整える事は指揮官の義務だった。
と、アマチ首相が配備されつつあるジェスタを見て、傍らのオレンジジュースを飲むと尋ねる。

「そうですか。それでこのクラップ級が完成、訓練終了が来年の11月、ラー・カイラム級も同様。
となると、ジェスタの生産は追い付きませんが?」

流石は地球本土の国力の30%を持ち、治安維持能力では地球連邦最高の国家、日本を含む極東州の代表だ。
大したものだと思う。というか、日本人が変態なだけかもしれない。伊達にあのギニアス・サハリンを受け入れられる土壌を持ってない。

「ジェスタはネームシップのラー・カイラムとクラップ四隻で編成されるロンド・ベル第二戦隊に渡します。第一戦隊は・・・・」

タチバナ大将が言う。

「第一戦隊は全ての機体をRGM-89Sスターク・ジェガンに切り替えます。
ロンド・ベル部隊は中将に昇進させる予定のブライト・ノア少将を中心とした空母ベクトラと護衛艦隊の第一任務部隊を、第一戦隊にはマオ・リャン准将を、第二戦隊にはオットー・ペデルセン准将を当てましょう。
彼らなら暴走もありません。まあ、ベクトラ、ネェル・アーガマ、ラー・カイラムには緊急事態対応の為に地球連邦軍宇宙軍特殊部隊にいざとなったら全火器の凍結を可能とする権限を持った地球連邦内務省と軍情報局、連邦情報局、連邦安全保障会議補佐官、ティターンズ査察官を配備します。
一応・・・・・エゥーゴ派の乗っ取りやクーデターの可能性があるとはいけませんので」

タチバナ大将の言葉を国務大臣のジャミトフが引き継ぐ。

「エゥーゴ派の決起の二の舞いは避ける、そう言う事です」

そう言って、パネルを切り替える。
一番艦のクラップの進水式だ。
続けて、二番艦、三番艦、四番艦が3日連続で進水式を迎える。
ラー・カイラム級も1週間後に一番艦のラー・カイラムが建艦終了、ティターンズのロンド・ベル第二戦隊に譲られる事になる。
この大規模な軍拡による好景気は北朝鮮というお荷物を抱え込んだ極東州への飴であり、経済対策であった。

(ふーん、政府は軍部もティターンズにも良い感情を持ってない訳か。これではクーデター対策ね。まあベクトラの性能を見れば分かるけど。
ハイパー・メガ粒子砲二門、旋回型大型連装メガ粒子砲4基、固定式小型単装メガ粒子砲8門にカタパルトデッキが6つ。
一隻で一個艦隊を相手取れると言うのは間違いない、か。
これ、他州の面々は知っているのかしら? 知らなければ我が州の優位性をアピールするチャンスとなる。知っていたらそれの確認が出来る。
早い段階で各州首脳会談を行う必要があるわね。特にティターンズが勢力を失う前に・・・情報も魚も鮮度が命なのだから)

ベクトラは強力すぎる艦として誕生した。それは強大な権限を持つある組織に対抗する為でもあり、叛乱を恐れている為に多数の文官と命令系統が別個の特殊部隊を乗せている。
標的は艦の主要メンバーだ。つまり、クーデターを防止する為の部隊。

(なるほどな、皮肉な事だ。カウンタークーデター部隊に対するクーデター対策だな。それだけ地球連邦軍内部の反ティターンズ感情は強いと言う訳か。
宇宙世紀100年を節目にティターンズの権限縮小が行われると決定して無かったら一体全体どうなっていたのやら。まあ、その点は幸運であったと言うべき・・・・という事だろうか?)

ニシナ・タチバナ大将のその安全策に二人は思った。
地球連邦政府は外敵がいなくなった今、明らかにクーデターを恐れている。
確かにこれだけの艦隊が敵に寝返ったら危険すぎる。まあエゥーゴ対策と言うのも嘘ではあるまいが。
事実、先の水天の涙紛争でのジオン反乱軍によるペズン要塞の制圧は内部の不平不満分子の扇動に兵士たちが踊らされた結果である。
だいだい、件のアクシズ要塞だってそうだ。ギレン・ザビの失政と兵士らの不満が直結した結果だ。
単に規模が違うだけ。現在は殆どの機能を北米州西海岸のキャルフォルニア基地に移転した為、無人区画が多いジャブローにも同様の理由から多数の査察官が送り込まれている。
文民統制、絶対民主共和政治を掲げて地球圏最大の国力を持ち、既に敵対勢力など存在しないと考えられている地球連邦政府と言えども一枚岩では無いという事だ。
いや、あの一年戦争から一つに纏まっていた事など無かったかもしれない。

「ジャミトフ国務大臣」

タチバナ宇宙艦隊司令長官が尋ねる。
軍帽を被り、宇宙艦隊司令長官のエンブレムを付けた男が、5期下の後輩が、だ。

「ん? 何か?」

BOX席のメインモニターは次にジェスタ、ジェガン、スターク・ジェガンの模擬戦闘を写し出す。
当然場所は最重要の軍事拠点である「ゼタンの門」。
ルナツー要塞とジオン公国から割譲されたア・バオア・クー要塞を保有し、ジオン公国と共同管理してある『コロニーレーザー』である『ソーラ・レイ』がある場所だ。
ジオン第二艦隊も共同駐留している。主にソーラ・レイ監視の為に。

「第1艦隊、第2艦隊、第12艦隊、第13艦隊、ロンド・ベル艦隊だけでもMS隊は500機に達するでしょう。
これに加えて、ソロモン要塞の第10艦隊とサイド6の第11艦隊も動かすと聞いております。各地の偵察艦隊も過半数が動員されるとも。
政府は本気でアクシズを制圧する気なのですな?」

軍人としての直感。
そして疑問。
一体全体どこまで政府は行くのか。アクシズの宇宙戦力を完全に殲滅する事で終わりとするのか、犠牲の多いアクシズ要塞内部の攻略作戦そのものを発令するのか、そのどちらを取るのか。
それで自分の仕事も変わる。だからこそ、宇宙艦隊司令部が置かれているグリプス鎮守府(ティターンズと地球連邦宇宙軍の癒着とも言われているが)から地球に降りてきたのだ。

「ええ、それに予備兵力として月面方面軍にジオン第一艦隊とジオン親衛隊艦隊、そしてジオン第五艦隊と我が軍のサラミス改級巡洋艦30隻とハイザックで編成された各地の傭兵会社の義勇傭兵部隊が動員されます。
特にジオン艦隊はゼク・アイン、クインマンサとサイコミュシステムのデータとバーター取引で輸出したORX-013ガンダムMk5が数機、それに教導大隊から前線のエースパイロット部隊に引き渡されたゼク・ツヴァイがあります。
何も地球連邦だけが戦う訳では無い。むしろ・・・・・戦場が我々の予想通りならジオン公国が戦う事になりますな」

そういって手元のカーソルを動かす。
地球軌道にあるペタン要塞(拡大ISSの再建版、地球と各スペースコロニー、月面都市間の中継拠点)と絶対防衛戦を形成する地球軌道艦隊(ただし、名前だけ。実質は核兵器投射無人兵器群)を映す。

「連中はここを突破する事は出来ません。
阻止限界点を突破してもこちらにはソーラ・システムと核兵器、更にはソーラ・レイ、つまりコロニーレーザーと高出力隕石破砕用レーザー砲がグリーン・ノアⅠとグリーン・ノアⅡに配備されており、これを同時に破壊する事は不可能でしょう。
更に、地球軌道に侵入すると言う事は各地の無人偵察艦の偵察網に引っかかります。そうなれば・・・・」

それを引き継ぐタチバナ大将。
これには首相も理解した。

「そうなれば地球連邦宇宙軍の総力を挙げて圧倒的大軍で敵を押し潰せる、か。確かに理にかなう。
それで・・・・ジオン公国軍は使えるのですか?」

疑問。現在のジオン公国軍に一年戦争時の精強さが無ければ不要である、言外にそう言い含めるがジャミトフの考えは肯定だった。

「使えますな。例のゼク・ツヴァイは我が軍の『Z』計画に匹敵しますし、数こそ圧倒的に少ないですがゼク・アインはジェガンに対抗する機体です。
宇宙艦隊も現在増産しておりますので0095には30隻程、連中の名称では全てをゼク・ツヴァイで統一したデラーズ・フリートとやらが完成する筈です」

そう言って携帯端末からジオン軍の公表データを見せる。
見やる二人。見終えて、ジャミトフに未だティターンズ時代から使っている黒い端末を返す。

(・・・・・地球も宇宙も最後の準備に入った、そう言う事か。これもケンブリッジの思惑通りなのだろうか?
彼の考えで行けばこのまま戦えば、惑星環境改善の為のシステム、最終的に例のラーフ・システムは完成するだろう。
ロンド・ベル艦隊は木星圏でも火星圏でも活躍できる艦隊として木星連盟や反地球連邦政権が現れた場合にその存在へ圧力を加えられる。
更には地球圏の番人としての連邦軍もティターンズの台頭で相対的に弱体化している。
やはり・・・・これがあの男の・・・・・カムナの認めた男の狙い。地球連邦軍の弱体化とティターンズの権限縮小に加え、ロンド・ベルの外惑星戦闘能力の付与。
これによるラーフ・システムの護衛と火星の地球化政策の促進。見事だな。その為にアクシズとエゥーゴ派を生け贄にするのか)

と、ジャミトフが口を開いた。

「それとアクシズには冷凍冬眠技術のノウハウと技術の蓄積がある筈です。是非とも手に入れたい。この意味、閣下ならお分かりの筈ですね?」

無言で頷く二人。
冷凍睡眠技術。それは惑星間航行技術にも恒星間航行技術にも必要不可欠な存在。
光の壁を突破できないでいる地球連邦政府にとって、いや、全人類にとっては紛れもなく必要な技術だ。
が、現在はジャブローでその新型エンジン開発が行われているが。
BOX席に座る三人の前でシャンパンが割られ、一番艦クラップのミノフスキー式核融合炉に火が入った。

『それではご来賓の皆様、拍手でご歓迎ください。一番艦、クラップ級惑星間航行巡洋艦、クラップ、出港します!!』

その司会の言葉と共に、クラップが浮上する。
ミノフスキークラフトと追加ブースターによる大気圏外への打ち上げ作業が行われるのは慣熟訓練が終わり、戦隊が編成される6か月後。
しかし、これで連邦軍は新たなるステージに入った。
外惑星軌道艦隊の設立、それを支援する外惑星・内惑星開発公社の整備、ラーフ・システムの連邦議会承認と翌日の発動。
過去に囚われた赤い彗星やアクシズ・エゥーゴ連合軍を後ろに、地球連邦とジオン公国は前を向いて歩きだした。
黙っているブライトに漸く話しかける。

「それでブライト少将、君にも活躍してもらうぞ。
恐らくこれがジオン独立に・・・・いや、ジオン・ズム・ダイクンに端を発するコロニー独立戦乱期の一つの終焉となる。
期待しているよ、ブライト・ノア少将・・・・いや、ロンド・ベル艦隊司令官、ブライト・ノア中将殿」

ジャミトフが背中を見せたまま、ブライトにそう語りかけた。
そしてブライトはそれに敬礼で答える。

「謹んでお受けします」

と。
宇宙世紀0094のある一幕である。




ジオン公国公王府。

ザビ家主催のパーティに呼ばれたウィリアム・ケンブリッジと月面方面軍総司令官のブレックス・フォーラー中将ら連邦政府と軍部高官。
完全ある宮廷となったジオン公国での最大級のもてなしである。
蛇足だが、月面方面軍のグラナダ駐留艦隊の四個艦隊の司令官はティターンズ派や水天の涙紛争で活躍した艦隊に比べて装備で劣る。
実際に、主力機体はジムⅢであり、ブレックス中将座乗艦であるアイリッシュ級戦艦とその影武者3隻だけがスターク・ジェガン配備艦である。
故に、艦隊司令官は全員が少将。よって、四個艦隊を統括する身でありながら、第1艦隊と第2艦隊、第12艦隊、第13艦隊、ロンド・ベル艦隊の各艦隊司令官と同格の中将閣下である。

「ザビ家のパーティに招かれるとは・・・・・これも時代の流れなのか」

ブレックスは人知れずため息をついた。民主共和制とニュータイプ論にひかれていた(現代では諦めた)ブレックスにとって唯一のスペースノイド国家が単なる独裁国であると言う事実は耐えられるが耐えたくない事実であった。
因みに、かつてスペースノイド独立の機運を最も高まったこのサイド3、スペースノイド急進派、過激派は独立戦争に勝利した事で今やザビ家以外は最も保守派である。
それもジャブローのモグラどもと言われた地球連邦保守派以上の保守政党であり、先の総選挙では遂にマ・クベ首相が退任に追い込まれた。
後任となったのはMS開発企業としては地球圏有数=世界有数の企業、ジオニック社創設メンバーを血縁者に持つ、レオポルド・フィーゼラー議員。
彼は開明派であり、冷や飯食いから一転してアンリ・シュレッサー捕縛の契機をつくった事からジオン政界では有望視されていた。
しかも好都合な事に、例の水天の涙紛争でもティターンズ長官の一家と交流がある事から裏の人脈として使えるとギレン・ザビらは判断。
まあ、選挙もそれなりに公平公正に行われていたので上出来と言える。
そんな裏事情を知っているからこそ、ブレックスは忸怩たる思いに囚われているのかも知れなかった。

「あれか、ギレン公王。何とも・・・・皮肉だな。
民主共和制のサイド独立論者だったジオン・ズム・ダイクンよりも独裁政治を敷くギレン・ザビの方が人気があり、統治が巧みであるとはな」

ブレックスの愚痴。
思わず、隣で聞いていたウィリアムが咳をして止める。
小声でブレックス中将に言う。

「中将閣下、あまりギレン公王らを露骨に敵視しないで下さい。頼みます。ジオン公国は盟友であり、宇宙経済になくてはならない存在です。
仮にジオン公国構成するコロニーが何基か完全に崩壊すれば宇宙経済も崩壊し、コロニー破砕によって生じたデブリが全てのコロニーサイドの航路を封鎖し、月面都市グラナダ周辺にも隕石落としが起きます。
そうなれば・・・・あとは言うまでも無く宇宙世紀以前に逆戻りです。第二次世界大戦以前の大恐慌や、16世紀で発生したオランダのチューリップ球根の暴落に、旧世紀のリーマン・ショックなどの比では無い。
最低最悪の大恐慌が地球圏全域を襲い、人類は木星圏を見捨て、コロニーを見限り、月を捨てざるをえなくなる可能性が極めて高いのですから」

ケンブリッジ長官の言う事は分かる。伊達に月育ちでは無い。地球連邦宇宙開拓省やコロニー公社が恐れるのがまさにそれ。
ジオン公国崩壊による経済崩壊が引き金となる地球圏全域の混乱。
だからこそ、そうならない様に地球連邦軍は存在を許され、更にはジオン公国軍も、各コロニー駐留艦隊も存続している。

「・・・・・・分かっていますよ、ティターンズ長官殿」

少し言葉に棘があるな。仕方ないか。

(いつのまにか自分より年下で格下だった存在が自分の上官であり、しかも同期のジャミトフ先輩は彼を差し置いて既に連邦政府の国務大臣と言う主要閣僚。
一方で、ブレックス中将は軍人であると言う事から、先の連邦議会の中間選挙で落選。フォーラ家全員が政界からいなくなった。
しかもその切っ掛けがジオン公国との不仲であり、そのジオン公国と最も仲の良い地球連邦閣僚が自分・・・・・・ああ、本気で入院したい。
シロッコ准将やロナ君や、ラーフ・システム監督のアイギス技官はこの立場をしっているのだろうか?
いや、あの三人は全員一癖も二癖もあるから結構気にしないかもしれないな・・・・ええい、ままならない人生に乾杯!!)

そう思って手に持っていたシャンパンを一気飲みする。
黒いダブルボタンスーツとティターンズのバッチに地球連邦の国旗。そしてブレックス中将は普通の軍服。
と、ここでこちらを見つけたのか、2mを超した巨漢が来る。

「おお、ここにいたか。兄貴らと一緒に政治屋どもの相手をするのは疲れるし嫌いだが・・・・ケンブリッジ殿は別だ。随分と探したぞ!!」

相手はジオン公国軍上級大将の階級をつけたジオン軍の緑を基調とする軍服を着たドズル・ザビ。
流石に相手を威圧するような棘を肩パットに着ける事はしなくなったが、それでもこの巨漢が来ると会場の目が来る。視線が注がれる。注目の的だ。
特にジオンのMS業界や軍関係者の視線が鋭い。
ああ、そうだな。当たり前か、救国の英雄、ルウム戦役とア・バオア・クー攻防戦で二度もジオンを勝利に導いたジオン最大の英雄である。

(こっちで言うと・・・・アムロ君が一番近いのかな? いや、シナプス提督かな?)

そう思いつつも、次はジンジャーエールとライムを割ったノンアルコールカクテルをウェイターに頼む。
ジオン本国であり、ジオン公国の真の支配者ザビ家主催の政治パーティ。
しかもブレックス中将やソロモン要塞駐留艦隊の第10艦隊司令官であるヘンケン・ベッケナー少将らを初めとした連邦宇宙軍の軍幹部もいる。
これを好機と見ない政治家は政治家では無い。ただの政治業者・・・・しかも五流だ。三流にさえなれないだろう。

「ああ、ドズル上級大将。お久しぶりです。こちらは・・・・」

隣にいるブレックス中将を紹介しようとしたが遮られる。
ブレックス中将自らが敬礼した。

「ブレックス・フォーラー中将。月面方面軍総司令官を務めております。
この様な平和な場で上級大将閣下にお会いできて光栄の極みです。ですが・・・・申し訳ありませんが所要を思い出しましたので・・・・・これにて」

そう言って副官と共に去る。これは非礼では無いが決して礼節を守ったともいえない。まるで子供の様な対応だ。

(ザビ家嫌いもここまで来ると清々しいな)

代わりに挨拶に来たのはヘンケン・ベッケナー少将だった。
水天の涙紛争ではエゥーゴを支持していたらしいが、公然と支持したと言うよりも酒場で愚痴る程度あり、それに部下の中からエゥーゴ派に鞍替えしようとした面子を拘禁した事実からエゥーゴ派では無いと軍上層部は判断。
流石にティターンズには入らなかった(故郷がサイド1)が、地球連邦軍の一員としてそのまま勤務。

「現在はソロモン要塞駐留艦隊司令官、第10艦隊司令官を務めております、ヘンケン・ベッケナー少将です。
実は私もあの一年戦争の従軍者なのです。
何を隠そう、閣下がジオン軍を指揮された件の大決戦、ルウム戦役とア・バオア・クー要塞攻防戦に参加。武運虚しく敗れましたが、生き残り、こういう場でお会いできて光栄です」

おおらかな軍人。故に引き摺らない性格の持ち主。そう生きるように諭してくれたのはガンダムMk2のパイロットであった女性パイロット。
水天の涙紛争でのガンダムMk2強奪という失態でティターンズからの除隊を余儀なくされ、行き場を失った現在の第10艦隊のMS隊隊長にして部下、そして自分の彼女であるエマ・シーン大尉だった。
確かにあの一年戦争で部下を殺され、敵を殺したし、上官を失い、同僚を亡くした。だが、それは戦争と言う特殊な状況下での事。平和な日常では違う。

『ヘンケン少将、私も同僚を亡くしました。それもスパイであった人物です。悲しくないと言えばうそになりますね。憎い、何故と言う気持ちもあります。
それでも彼ら彼女らエゥーゴ派やアクシズ軍、ジオン反乱軍をいつまでも憎んではいけないと思います。
ケンブリッジ長官の言う事も分かりますが・・・・・長官も右翼的な面があるのは事実。それを覚えておく必要があるのではないでしょうか?
あの方も決して成人君主では無いのですし。間違いを犯す、単なる人間だと思うのです。偉そうな事を言えば・・・・・私と同じ』

そうだ、あの戦争はすでに過去の事である。ならばそれをいつまでも悔やんでは仕方ない。それにもうすぐ終戦20年目を迎える。
水天の涙紛争の様な事件を起こさない為にも、過去を忘れてはならないが、過去に縛られてもならない。
縛られれば紛争となり、紛争は戦争となり、戦争は新たなる対立の芽だけを発芽させるのだから。

「私も、ドズル閣下もこうして生きている。だからとりあえず・・・・このビールで乾杯といきませんかな?
特にアルコールがいつ来るか分からない前線勤務では何よりの娯楽ではありませんか」

そう言って、地球でも有名なアイルランド産の黒ビールをジョッキごとわたす。
貴族趣味的な面があるキシリア・ザビが生きていたらこんな光景は絶対になかっただろうが、生憎実利優先のギレン、サスロ、ドズルが主催するのだ。
だからこの様なビールジョッキで乾杯と言う豪快な事もやれる。

「そうか、貴官は勇者だな・・・・・散って逝った全ての戦士たちに黙祷・・・・・乾杯」

ドズルはしばし目をつむり、そして静かに乾杯した。
ヘンケン少将も自分も傍らにいた護衛のガトー大佐も無言で乾杯する。

「さて、それでは貴官の戦術論を聞きたいモノだ。見ろ、あそこのテーブルが空いている。
酒はウェイターらに持って来させるとして・・・・ガトー大佐、貴官も来い。
現在の世界情勢とMS戦術に、艦隊戦とは何かという事、ルウム戦役で地球連邦軍が勝つにはどうするべきだったか、そして対テロ戦争の今後を論議せねばな。実は兄貴らの宿題なのだよ」

トレイごと、牛肉を持って数本の瓶ビールと栓抜きと共にテーブルに移るドズル・ザビ。
ついていく二人。
こうしてみると本当に戦争が終わったのだと思わされる。ジオンの将官と連邦の提督が肩を並べて同じテーブルで談話するのだから。

(違う、まだだ。まだ終わって無いんだ・・・・・アクシズが健在な限りまだ地球圏全体の平穏は遠いんだ)

意識を切り替える。
そのまま、ジオン政界のメンバーや新首相であるレオポルド・フィーゼラー氏に会いに行く。
彼もまたジオン公国の重要な人物。決して疎かにしてはならない。特にジオン外務省と打ち合わせの為に来れないアデナウワー・パラヤ外務大臣の事を考えると。

(ここで・・・・ザビ家主催のパーティで自分が失態を見せればパラヤ大臣の足を引っ張る事になる・・・・気を付けないとな。
今回の訪問には珍しい事にロナ君もシロッコ准将もアイギス技官も家族の誰もついて来てないからな。
同行者は・・・・・ダグザ中佐と護衛役見習いのジュドー君だけか。
しかも書類もいつもの7割で良いから平均睡眠時間が5時間に増えた。シャトルでは久々に1日休みもらえた・・・・ああ平和だ)

だが、ウィリアム・ケンブリッジは気が付いているだろうか?
此処にいるザビ家の誰かが『否』と言えばジオンの外交は覆る。
現在行われているジオン公国外務省と地球連邦外務省の外交交渉など簡単に吹き飛ぶ。
一官僚らと交渉する、それよりも独裁者や専制君主の家系と親密になる方がこういう国家体制内部ではよほど大きな利益を生むのは歴史が証明してきた。
だが、小市民出身のウィリアム・ケンブリッジには分からない。
凡人であり、あくまで一般人からスタートした野心が無い出世頭には、出世欲や連邦政府内部での勢力争いに全力を投入する、所謂、政治屋の心が分からなかった。

ウィリアム・ケンブリッジと言う個人にはどうしても理解できなかったのだ。

なまじ、ギレン・ザビ、ジャミトフ・ハイマン、ローナン・マーセナスなど、稀代の名政治家や、エイパー・シナプスら現場からの叩き上げ軍人達に、マイッツァー・ロナら信望者ら に囲まれているが故に。
だからこそ、この流れが理解できない・・・・・・・・・・形骸化した交渉をやらされ、本当の交渉の場から外された政治屋と言う人間の怨念とでもいうべき感情の波を

「さて・・・・おや、君は?」

そこにはロングヘアーで黒いスーツに白いシャツを着た、全てがイギリス製品のオーダーメイドの女性がいた。ダガーのピアスもしている。
銀色のピアスに女物の赤い皮ベルトに白い文字盤のオーダーメイドの自動巻き時計。

(高級品で一流のモノだが下品さは感じられない。上品さがある・・・・それにしてもどこかで会った気がするのだが・・・・・誰だ?)

この女性はどこかで見た事がある気がする。そう思っていると、彼女が口を開く。

「お久しぶりです、マリーダ・クルス・ザビです。
覚えてお出でですか、ウィリアム様?」

思い出した。あのポーカーゲーム以来、娘の友人になってくれているギレン氏の長女だ。

「ああ、あの時のお嬢さんだね。久しぶりだ。マナとジンから近況は聞いていたが・・・・美しくなられたね。
これでは男どもをあしらうのに大変だろう。或いは既に意中の男性でもできたのかい?」

少しお節介だったかな?
そう思う。それが破滅への道筋を歩む契機とは思わなかったとは本人の談である。

「あ、ありがとうございます。意中の男性はいます。こんな男勝りの軍人女ですが・・・・それでも女の子ですから」

笑顔を見せる。
白い歯が綺麗だった。それが妙に印象に残る。

「それは良かった。ところでギレン公王陛下・・・・お父さんは息災かい?」

頷く。
父親を亡くして意気消沈していると思ったが乗り越えられたようで何よりだ。

「ええ、元気です。お爺様の死を乗り越えられたようです」

デギンの死からもう数か月だ。
あの日の慟哭は死ぬまで黙っていよう。墓場まで持って行こうと思う。

(友人としての礼儀として・・・・あれは最期まで黙っていよう)

そう考えるウィリアム・ケンブリッジ。

「そうか・・・・・それは何よりだ。そういえば・・・・・そのバッチはジオン軍の佐官の軍章だと思うが違うか?」

無言でマリーダは頷いて、ジオン軍全軍に支給されているスマート・フォンで自身のプロフィールを公開する。ただし、ウィリアム・ケンブリッジだけに見えるように。
そこにはこう書いてあった。

『マリーダ・クルス・ザビ』『ジオン公国軍大佐』『ジオン親衛隊艦隊総司令官』、と。

(お飾りとはいえ・・・・・まだ20歳前後の少女を軍の大佐にするとは・・・・・やはりジオンの軍組織は出来上がってはいないのだな
まだまだジオン公国軍は地球連邦軍に比べて付け込む隙も、付け入る隙も多々ある。
マリーダお嬢さんの技能はともかく、実績や経験は皆無だろうに・・・・まあ、その為にお目付け役があのカスペン中将とガラハウ中将か)

彼女は先週漸く完成したギニアス・サハリン中将の渾身の作品にして、恐らく遺作となるであろうNZ-000『クインマンサ』のパイロット。
ザビ家棟梁の長女もまた戦場に出て敵を葬ると言う事で戦意向上と士気高揚を目論むジオン政界。
一説ではザビ家独裁に反発するジオン民主連盟がザビ家を合法的に始末する為に用意したと言う。

「ああ、数年前まではあんなに小さかったのに・・・・見間違えたよ。若いのに大佐とは苦労するだろう・・・・何かあれば力になろう」

そう言って別のお酒を手に取る。
マリーダも新しいマティーニを頼み、摘みのチーズを食べる。

「成長期ですから・・・・・ところで何でも相談に乗ってくれますか? ウィリアム様?」

そうやって微笑んだ顔は十中八九の男が振り向くだろう可愛らしい笑顔だった。

「いいよ、私の力の及ぶ範囲であれば力を貸そう。
それにしても大佐・・・・軍隊ね。そればかりは流石に驚いたが・・・・君の独断では無い・・・・ようだな。
そうか、なるほど。父君が良く許したな・・・・ああ見えて君のお父さんは冷徹だが冷酷では無い。良く間違える人が多いが『冷酷』と『冷徹』、この差は歴然としている。だから君のお父さんは皆が思っている程薄情では無いよ」

冷酷と冷徹、似ているようで違う。
そうだ、あのポーカーゲーム以来の付き合いの二人。もうマリーダもカクテルグラスにマティーニを入れている。もちろん、オリーブ入り。
ジン・トニックと言う酒を飲んでいる自分とは違いどうやらこの大人の女性は酒には強いらしい。
父親と言うより、あそこでヘンケン少将相手に酒盛りしている叔父のドズル上級大将閣下に似ているのではないかと思うくらいに良く飲む。

「父上を、そんな簡単に、『お父さん』とか『父君』とかそう呼ぶのはウィリアム様くらいですよ。他の方は絶対にそんな呼び方をしませんから。
だからでしょうね・・・・ウィリアム様がいたからこそ、父上が、ギレン公王陛下がダイクン派とキシリア派に最後の恭順を呼びかける事にしたのは」

何? 聞き捨てならないな。
マリーダは小声でウィリアムの耳元でささやいた。それもこのパーティの一環。
政治ショーの一つ。

「ウィリアム様、貴方はティターンズ第二代目長官の閣下ですから、ザビ家の一員として公人としてお伝えします。
父上からの言伝です。これを利用して連邦内部での勢力基盤を盤石なものにしてください。
翌年5月20日に、我がジオン公国はアクシズに対して最後通牒を出します。アクシズ在留軍は即座に降伏、武装解除する事。そうするなら兵士らの責任は問わない、と。
が、これに反発するならば討伐も覚悟せよ、回答期限は3か月以内。返答、投降する場合はサイド6のリボーコロニーに使節を派遣すべし。
ただし、将官らはサイド1のロンデ二オンに集合せよ、との事です。連邦政府にお伝えするならばお早目に。これはパラヤ外務大臣にはお伝えしません」

小声で言うマリーダ。
自分も小声で聞き返す。

「・・・・・なるほど、有益な情報だね。他に・・・・・この事を知っているのは?」

「レオポルド・フィーゼラー首相、サスロ・ザビ総帥、ギレン・ザビ公王陛下、エギーユ・デラーズ軍総司令官と母上の五名だけです。連邦政府では長官が最初です」

極秘情報だな。まあ、どこで誰が聞いているか分からないこんなパーティ会場で伝える以上は聞かれても問題は無い、成功すれば儲けもの、失敗しても対して影響はないと考えている証拠だ。
そう結論付ける。一口、グラスを口に含み中のジン・トニックを飲む。口の中に辛味が広がる。

「それと・・・・・これはお願いなのですが・・・・・さっき仰いましたね、頼みごとを聞いてくれる、と。
出来うる限りの頼みごとであれば問題は無い、そうですね?」

いきなり両手をもじもじとするマリーダ。
一体なんだろう? もうすぐ60代前半も終わる男にそんな照れた顔をするのか?
嫌な予感がしてきたが取り敢えず頷いた。そして、彼は悟った。自分が特大の地雷、いや戦術核地雷を踏んでしまったと言う事に。

「ウィリアム様・・・・今夜暇でしょうか? 迎賓館のスィート・ルームを取ってあります」

え?

思わず固まる。そしてそれを肯定と受け取ったのかザビ家の長女、マリーダ・クルス・ザビはとんでもない事を、突拍子もない事を言ってきた。
追撃戦。撤退戦。掃討戦。後退戦。まさにそれ。マリーダは伝える。恥ずかしながらも。

「私にウィリアム様の子種を頂きたい・・・・その、私の初めてをもらっていただく」

沈黙。目が合う。視線が逸らせない。
それでいてまるで肉食獣に、蛇に睨まれたカエル状態だ。逃げなければならない事は分かっているのに体が動かない。
体が釘付けになるとはこのことを指すのだなと場違いにもウィリアム・ケンブリッジは思った。尤も、もう遅いかも知れないが。

(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?)

必死で考えるウィリアム・ケンブリッジ。必死で言い訳を、ここから逃れる術を探さんとするティターンズの、いや、地球圏有数の権力者。
だが残念である。現実は非情であった。
いつもいる頼りになる味方、リム・ケンブリッジは地球だ。ジンは会社の運営があるとか言ってニューヤーク市だ。
マナだけは一番近いが、それでも大学院卒業論文を書く為に北米州のエコールで籠もっている。つまり味方はいない。孤立無援の状態。

(いやまて、冷静になれ。これは罠だ。罠に違いない。
ギレン氏の巧妙な政治的駆け引きだ。そうに違いない。そうであってくれ!!! 頼む!!!)

最近礼拝に行って無いから全然守ってくれない神様にわりと本気で頼むカトリック教徒のウィリアム・ケンブリッジ。

(は!? もしや息子が重婚したのが神の怒りに触れたのだろうか?)

そんな現実逃避もつかの間。さっさと答えを出さないとわりと『本気』で襲われかねない。
しかも仮にマリーダ・クルス・ザビとホテルのスィート・ルームで夜を共にしてそこで情死なんて事態になったら笑えない。絶対に笑えない。
ここで彼女に、最低でも時計の針が三周する位は年下の相手に手を出したら冗談抜きに殺される。
政治的にでは無く、身体的に、そして実行犯は身内、つまり、妻のリム・ケンブリッジにだ。あの一年戦争での飲み会時の騒ぎでは無いだろう。

(しかもだ、仮に子供が出来たとしよう、で、養育もしなくて良いとして・・・・だが、そうなればあのギレン氏を義父と呼ぶ?
冗談では無い!!! 絶対にごめんだ!!! 絶対に、絶対に、絶対に。逃げなきゃ・・・・逃げなきゃ!!)

何とか冷静にジン・トニックを飲み切り、思考を落ち着かせる。
ポケットから絹の薄紫のハンカチを使って額の汗を拭きとる。
それを見たダグザ中佐が何事かと、SP数名と共にこちらに向かう。ナイスタイミングだ。こうやって呼ぶことを考えた自分を褒めてやりたい。
だが、女豹は逃がしてくれない。そう簡単にこのニュータイプの女性から逃れられないのだ。

「あの・・・・お返事を下さい・・・・お早く・・・・・まさか・・・・・女にここまで言わせて逃げる気ではないな?」

そう言って両手でウィリアムの右手を掴む。目の色が完全に変わった。口調も変わった。
獲物を捕らえた鷲や虎、豹の目だ。肉食獣の視線だ。

(不味い!!)

そう、不味い。
だがこの修羅場を乗り越える策が無い。どうすれば良い? どうしたら良かった? 
何とかしてこの手を振り解かないと思ったが、軍人として訓練を受けているマリーダの握力は想像以上に強く全く振り解けない。

「あ・・・・その・・・・」

「その・・・・なんです?」

二人の妻を持っている息子を笑えない。
このままだとギレン・ザビをパパと呼ぶ羽目になる。それだけは絶対に嫌だ。

(中佐!! 早く来てくれ!!!)

そして先に到着したのは水色の髪をした少女。予想外の乱入者。そして予想外の嬉しい救世主・・・・では無かった。

「ウィリアム小父様・・・・・この失礼な女は誰ですか?」

「あたし? あたしはクェス・パラヤ。アンタこそ誰よ?」

そう言ってマリーダから見て反対の左腕に自分の腕をからませる。
少女はどこで習ったのか、ご丁寧に胸まで押しつけて。

「ほう? このジオン公国で私の顔を知らないとは随分と世間知らずのお嬢様ですね・・・・軽蔑に値するな」

その言葉に激昂するクェス。でも手は離さない。

「な!?」

そして板挟みにあう自分、ウィリアム・ケンブリッジ。
誰が好き好んで自分の娘と同世代の人間と性交渉したいか!!

(畜生め!! 神様・・・・死んでしまえ。
もう一度、丘の上で磔になってしまえ!!
銀貨30枚で弟子に売られろ!!! この役立たず!!!)

そうクェス・パラヤが思いっきりマリーダ・クルス・ザビを睨み付けたのだ。
この後どうなったかは誰も語らないので謎である。




以下、とある家庭の会話。

『これ・・・・知っている?』

『なんだ・・・え?』

『この女の子、確かマリーダちゃんとクェスちゃんよね。随分と仲が良い事。それも両手に花の状態』

『そ、それには深い訳が・・・・・』

『そう、深い訳が、海よりも深い訳があるのね? 私と見捨てるなと以前に何度も言った筈でしょ?』

『違う!! 何もない。何もしてない!! そもそも誰からその写真を手に入れたんだ!?』

『ああ、貴方の盟友である宇宙の独裁国家の陛下からよ』

『あの男が!? いつのまに・・・・いや裏切った? まて、言葉のあやだ、そのベレッタを片付けてくれ!!』

『大丈夫よ、ゴム弾だから最悪でも骨折位で済むわ。それで・・・・若い女の子二人は美味しかった?』

『本当に何にもない。本当です。本当に本当です』

『信じる証拠は?』

『証人ならいるダグザ中佐だ。あの後すぐにクェス・パラヤとマリーダ・クルス・ザビを引き離した・・・・・もう50年以上の付き合いなんだから信じてください。お願いします!!!』

『ふーん、まあ、今さら裏切るとも浮気に走るとも思えないし・・・・信じましょう。でも次からは気を付けてね』

そう言って銃口を外し、銃を机に片付ける。
これを見て思いだした。あの日、第14独立艦隊結成式の時の妻の暴走を。




宇宙世紀0095.01.10

ジオン公国と地球連邦は着々と軍備を再編していた。
『Z計画』は完遂され、MS隊として既に実戦配備が開始されている。
『UC計画』はパイロットに一号機にユウ・カジマ大佐、二号機にゼロ・ムラサメが内定。
特にニュータイプ能力の無いがあのアムロ・レイ中佐と互角に戦えるベテランパイロットのユウ・カジマ大佐は、アムロ・レイ中佐とカミーユ・ビダン大尉の力作サポートOS「ハロ」を搭載する事で補う。

『Z計画』は順次履行され、『ニュー・ディサイズ計画』の方は完遂。第1艦隊、第2艦隊、第12艦隊、第13艦隊、ロンド・ベル艦隊のジェガン配備は終了。
偵察艦隊にも従来のジムではなく、ハイザックを配備し終えた。更に各地の鎮守府防衛隊や無人偵察衛星、無人迎撃衛星も配備されている。
隕石や宇宙ゴミ迎撃の為のシステムが徹底してきた。
またコロニー駐留艦隊もジムⅡを配備されており、コロニー本体にはジム・クゥエルの白い連邦軍カラーで根拠地守備隊が組織され、コロニー圏内の守備力強化を完遂した。

その中で、ティターンズ最重要拠点であり、ロンド・ベル艦隊の宇宙の拠点でもあるグリプス工廠では。

「ようやくZガンダムの初号機、二号機、三号機のロールアウトか。
長かった・・・・それにしても・・・・いくらコクピット周りのサイコ・フレーム開発が遅れているからって試作機よりも先に量産型が出て実戦配備とかおかしいだろうに」

そう思うのは白衣に軍服を着るティターンズ所属の大尉。カミーユ・ビダン技術大尉だ。
サイコ・フレーム開発メンバーの一員であり、極東で例の大型MAを完成させたギニアス・サハリンの弟子のひとりである。
まあ、本人らは通信越しと論文越しでしか会った事が無いが。

「あら、カミーユ・・・・お疲れ? 紅茶飲むの止める?」

そう言って。ティターンズ中尉の制服を着たショートヘアーの紫の口紅をした女性が紅茶を注ぐ。
正式に付き合ってかれこれ6年だ。相手の名前はフォウ・ムラサメ。ムラサメ研究所の被検体とされた悲劇の女性。

「いや・・・・・ううん、フォウに嘘を言っても仕方ないな。疲れたよ。結構ハードワークだった。
でも遣り甲斐はある。サイコ・フレーム搭載のZガンダムが三機完成するし、アムロさんの計らいでパイロットの人選も一任されているからね」

そう。
こういう仕事に熱中するカミーユも好きだな。ファさんには悪かったけど・・・・ごめんなさいね。略奪愛で。

「で、パイロットは誰? もちろん初号機はカミーユでしょ?」

頷く。
そしてPCを起動させるとプリンターから数枚のA4用紙を白黒印刷で印刷して渡す。

「二号機はフォウに任せようと思う。それで・・・・三号機なんだけど」

若干、映りの悪い写真を見る。そこには自分と同世代の女性パイロットが印刷されていた。
元エゥーゴパイロット。母親の解放を条件にエゥーゴに参加した為、情緒酌量、事情判決の結果、ティターンズのパイロットとして10年勤務する事で罪状を抹消する事になる。
ただし、予想以上の収穫であると言うのが軍部の思惑であった。
そう、なんとあのカミーユ・ビダンの戦闘機動訓練に遅れずについて来れたのだ。
模擬戦では不死身の第四小隊(今ではコウ・ウラキ大尉とチャック・キース中尉を加えて不死身の第四中隊と呼ばれた)を、ベイト少佐、モンシア大尉(素行の悪さから少佐になれてない)、退役したアデル大尉を3対1の劣勢でかつ同型機であるにも拘らず制限時間逃げ延び、更にベイト機とモンシア機を撃墜判定した。

『評価 ニュータイプランク A+』

そう軍部は判断し、サイコ・フレーム搭載機のパイロット候補生としてあげる。

因みにアムロ・レイ、カミーユ・ビダン、ジュドー・アーシタ、パプテマス・シロッコは『SSS』、フォウ・ムラサメ『SS』、ゼロ・ムラサメ『S+』。
地球連邦にはデータが無いが、ララァ・スンが『SSS』 、クスコ・アルは『SS』か下手をすれば『SSS』 評価だったろう。
シャア・アズナブルは『A+』、ハマーン・カーンは『SS』 と言うのがアングラ出版の裏情報だ。

「この子? アスナ、か。カミーユ、まさか顔で選んだ?」

若干拗ねた声で彼氏のカミーユに聞くフォウ。
首を振るボーイフレンド、いや、もうそんな歳ではないか。彼氏? 或いは婚約者?

「そんな邪推しないでくれ。ちょっと罪悪感を感じるな。
純粋にパイロット技能だよ。フォウも知っているだろうけど・・・・・見てくれ、このパイロット、アスナ・エルマリートとサイコ・フレームの共振だ。
共感と言い換えても良いかも知れない。
アムロ中佐がクシロ研究所で行った実験の結果、軍事定義上のニュータイプ能力を持つ者とこのサイコ・フレームを形成する素粒子は大きく共感する。
その結果がビーム兵器の直撃さえ跳ね返す、ミノフスキー粒子を応用した即席のIフィールドを生み出すみたいなんだ。
他にも信じられない事象・・・・魔法みたいな事が出来るのではないかと予想するチームも存在する。
だからこの機体とZZガンダム、そしてUC計画の機体とアムロ中佐の機体は・・・・・」

そこで一旦周りを見る。自室だ。誰もいる筈はないし、毎日自分がランニングしている最中にフォウの監視の下で地球連邦情報局(FIA)がしっかりと警戒と盗撮・盗聴のクリーニングを行っている。
しかもここはグリプス技術開発局と言う地球連邦軍内部でもTOP10に入る重要拠点であり、対テロ、対サイバーテロ対策が常に行われている場所だ。
故に大丈夫だとカミーユは判断して喋っている。

「だからパイロットは軍事定義上のニュータイプを当てる。もしくは、余程の玄人パイロットを当てる事にしたんだ」

そう、既に地球連邦軍は対ニュータイプ部隊として、自軍のニュータイプ部隊を当てる事を想定していた。
当然ながらコロニー落としなどが無く、戦災復興も完了し、非加盟国との冷戦状態も終わりを告げ、税収も一年戦争以前よりもある現在の地球連邦政府の対応はそれだけでは無い。
Zプラス隊によるサイコミュ兵器に対応する為の高速突破と一撃離脱戦法、ファンネルと呼ばれる小型移動ビーム兵器の攻撃に耐えきれるだけの装甲をZシリーズには与えられた。
そしてその可変MSの特徴を利用した一撃離脱方法で敵艦隊を撃滅、その後は徹底した物量で敵残存兵力を壊滅に追いやると言うのが地球連邦の対ニュータイプ部隊戦術論である。
その実現のために外交圧力を加えて、一年戦争を生き残ったエルメスとクスコ・アル大尉を借りた模擬戦をグリプス近郊で200回はやっている。
何故ならティターンズや連邦軍はもう強化人間は作れない、使えない。製造できないからだ。
敢えてもう一度言おう、地球連邦政府のリベラル派閥のレイニー・ゴールドマン政権にとって強化人間製造、それは政治的なアキレス腱であるからだ。
そしてその強化人間の絶対数でアクシズ・エゥーゴ連合軍に劣る事は自明の理。
彼ら、後先考えないアクシズ陣営とはそこが違う。(カイ・シデンレポートと呼ばれるムラサメ研究所の内部告発が尾を引いている形でもある)

「それでこの子を選んだ、か。ところでコウ・ウラキ大尉にはあれが渡されると聞いたけどほんとかしら?」

女性のお茶くみネットワークの恐ろしさ。
AE社から接取したデータを元に、地球連邦軍はガンダム試作三号機の本体を設計、開発する。その名前は『デンドロビウム』、通称、GP03である。
アクシズ要塞攻略時には大規模な火力が必要になる。それは艦隊主砲で補えるが、それでも足りないと軍上層部は判断。
或いは水天の涙紛争で投入されたノイエ・ジールの後継機であろう大型MA対策にも使えるように0091の時点の最新技術を採用。
ガンダムを乗せたビグザム、或はノイエ・ジールと言うコンセプトで同じくグリプス工廠で開発が行われており、こちらは既にマオ・リャン准将を司令官とするロンド・ベル第一戦隊ネェル・アーガマに指揮下に配属(専用コロンブスが配備された)される事となった。

「良く知ってるな。あんまり喋るとスパイ容疑で警察に捕まるんじゃない?」

それを聞いて笑う。

「あら? 私は最初からスパイだったのよ? 
捕まるなんて今さらだわ。それよりも・・・・せっかくの休日なんだから仕事は止めてデートしましょう?」

PCに向き直る。
フォウの両手が肩に置かれるが取り敢えずは先に仕事だ。
尤も、両親の事を考えると待たせすぎるのもあれだ、アムロさんとセイラさんにあんな事をした癖に、あれだけ言ったくせに両親と同じ過ちを繰り返す事は出来ない。

(フォウの言う通りか・・・・・それもそうだな。よし・・・・これでパスワードは打ち込んで、終了、と。
第一、考えてみればブライト総司令官は、アムロさんと一緒に地球のキャルフォルニア基地で超弩級空母ベクトラの建艦状況の視察とアクシズ攻略作戦の戦闘シミュレーションの真っ最中だ。
ならば多少サボっても怒られないだろう。それにジュドーも訓練と一緒にこのグリプスで政策担当官業務をやらされているし)

因みにジュドー・アーシタが政策担当官の業務をやらされているのはウィリアム・ケンブリッジの意向が強く働いた。
彼はニュータイプと思われる上に、孤児であり、家族を大切にしている。
これが現在のティターンズ三大厄介児であるパプテマス・シロッコ、マイッツァー・ロナ、フェアトン・ラーフ・アルギス全員に気に入れられた。

パプテマス・シロッコは調停者としてのニュータイプ能力の将来性に。

マイッツァー・ロナはシャトルを守るためにアクシズ軍相手に戦った高貴なる義務を果たした姿勢に。

フェアトン・ラーフ・アルギスは家族を守るためにひたむきに働く姿に。

しかもその性格ゆえに三人全員から邪険に扱われる事は無く、寧ろ歓迎されていた。
そう言う意味で不幸な人物かもしれない。
同様の理由で、マナ・ケンブリッジも彼ら三人に認められている。
そしPCの電源を切るカミーユ。

「それじゃあ、出かけようか。どっちの部屋で着替える?」

「あら、このスケベ。私の部屋にしか私服置いてないくせに」

笑いながら出かける二人。
もしかしたら殺しあったかもしれない二人が歩んでいるのは何故なのだろうか?
それは誰にもわからない。そして人が全て不幸では無いという証拠でもある。そう、全員が幸福になる事は無い。
しかし、全ての人間が纏めて不幸になる事もその必然性も無い筈だ。

同時刻。グリプス工廠第1軍港、第1係留所。
ドゴス・ギア級大型戦艦一番艦にして、恐らく最後のドゴス・ギア級であるネームシップのドゴス・ギアが入港、整備を受けている。
そんな中、青色のノーマルスーツを着用した男が宇宙港から入ってきた。
機体はスターク・ジェガン。グリプス防衛用に配備された機体の一機だが、直ぐに着艦する。見事なものだった。
そして、そのまま気密が保たれるのを確認するとヘルメットをとる。特徴的な紙に獣の様な瞳。金髪のリーゼントで浅黒い肌の色の風貌をした人物。
ヤザン・ゲーブル中佐である。このドゴス・ギアのMS隊隊長にして実戦部隊の切り込み部隊も兼任するトップエース。
そのままパイロット専用の士官室から出てきたシロッコ准将に敬礼する。MSデッキから目の前の機体を見る。
自分用に特別チェーンされた機体だと言うこの機体に。

「で、俺のMSはこれかい? シロッコ准将閣下?」

ところで宇宙艦隊司令長官に昇進したエイパー・シナプス大将の後任として第13艦隊司令官に選ばれたのは一年戦争以来敗北知らずのワッケイン中将だ。
彼もまたティターンズ派閥に吸収された旧レビル派だが、有能で優秀である。何せあのルウム戦役でMSが無い状態で有効なMS戦術を編み出したのだ。
仮に彼の派閥が健在であれば恐らく彼がエイパー・シナプス宇宙艦隊司令長官に代わり、宇宙艦隊司令長官になっていただろう。
健康面でも、士官学校の席次でも、実績でも、実戦経験でも彼もまた地球連邦有数の将官である。
そして何故副司令官パプテマス・シロッコ自身が昇格しなかったのか、それは彼が自ら語る。

「そうだ。これが君の機体だ」

そう言ってハンガーにある重MS、極東州の伝統文化の一つ、スモウのリキシとやらに見えなくもない機体を見せられる。
そのデータをシロッコの副官であるサラ・ザビアロフ曹長が携帯タブレットを表示させながら渡す。
若干、そのシロッコ准将の目にクマのような跡があり、声が疲れている気がするがまあ気にしないでおこうとヤザンとサラは思った。

「ほー、見た目に反して木星の重力圏内での戦闘に耐えられるように各種バーニアがあるのか。機動性はかなりのモノだな。
で、名前は・・・・・短いね・・・・・うん、ごちゃごちゃした名前を付けるよりも余程よいな」

目頭を抑え、眠気覚ましの為に用意されたインスタントコーヒーを飲む三人。
特にシロッコ准将は一瞬で飲みきった。それが無重力ブロック故に宙に浮かぶ。

「ヤザン中佐はこういう機体は嫌かね? 実際の性能はかなりのモノがあると私は確信しているよ。何せ木星圏での戦闘や作業を考慮した機体だ。
地球圏では可変MS並みの機動性を持つ。少なくとも、君が今乗ってきたスターク・ジェガンよりは遥かに良い機動性だ。
武器もビームサーベルと大型ビームライフル、それに要望があった特殊電磁ワイヤーと予備のビームライフルも用意させた」

見上げる。電磁ブーツを使い、甲板を蹴って、そのままコクピットハッチに移動式ワイヤーガンで移動。
そのまま、機体に入る。
コクピットはどうやらUC計画のモノを採用したようだ。

「いや、こいつは良い機体だ。お前さんの力作だってのは分かるが・・・・で、これが例のサポート用OSかい?」

黄色の、青いサメのマークが記載された丸い球体を見る。これには一年戦争で蓄積された白い悪魔の全戦闘データを入れてあるのだ。
しかも丸いため、一度固定すれば余程の衝撃(それこそMSのコクピットブロックを完全に破壊する様な)が無ければ凶器となってコクピット内部の人間を殺傷する危険性も少ない。

「ああ、名前は・・・・・知りたければアムロ・レイ中佐に聞く事だ。彼が作ったのだからな。そこまで言う義理は無い」

確かにそうだ。役立てば名前なんてどうでも良い。勿論、戦友たちの名前は別だが。

「分かった、後で聞いておこう。こいつも俺の戦友になるだろうしな。で、だ。
こいつの基本性能はそこのお嬢さんの持っているスマート・タブレットで見せてもらった。確かにあんたの、准将閣下の最高傑作と言える。
だが、この資金は誰が出した? お前さんの木星船団かい? それとも木星連盟か? どっちにしろ、これとあれを作るだけの資金を用意できるのは並大抵の苦労じゃない筈だ。
そして『Z』、『UC』、『N』と『ニュー・ディサイズ』四計画を並行している以上、こんなMSを作る余裕はない位俺にだって分かるんだがな?」

答えたのはサラ・ザビアロフと名乗った女性下士官だ。

「准将を支援したのはブッホ・コンツッェルのマイッツァー・ロナ首席補佐官とジン・ケンブリッジ氏の個人資産80億テラほどです」

ああ、既に総資産が300億を超したと言う、ジン・ケンブリッジか。
ハービック社、ジオニック社、ヤシマ・カンパニーという三社の財務顧問グループの若手筆頭の一人で、傾きかけたMIP社から2000億テラの報酬を得たと言う、いけ好かない相場師の小僧か。

(父親と違い、中々嫌な事をすると思った奴だったな)

その手段は、予め各地の出入り禁止を喰らったカジノで稼いだ金を元手に、株式相場で暴落中だったMIPの株を購入。
その後、自分でMIPを地球連邦海軍や中華と国境を接する海軍国家との最大の取引先にしたてあげる。
その結果、MIP社の株価はかつてのスマート・フォンやPCのOSを作った会社の様に急上昇、そして独自の損得計算で全てを売り払う事で荒稼ぎをしてジン・ケンブリッジは多額の資産を儲けた。
完全に博徒である。因みにこれを知ったウィリアムは流石に怒り、息子の財産を各地の大手銀行に分散して預金させると、資金を凍結させた。
それでも150億テラが元手に残り、ケンブリッジ家に50億(父母、妹と妻二人)、自分個人に20億、残りをシロッコ准将に寄付した。それが彼女の説明。

「はん、金持ちの道楽で造ったのかい?」

思わず怒りをあらわにするヤザン。当然だ。
『ダカールの英雄』であり、ルウム戦役の戦友でもあるウィリアム・ケンブリッジは尊敬に値するが、それでは息子の方はただの遊び人、爛れた女好きじゃないのか?
言動、実績からそうとしか思えない。が、シロッコ准将の意見は違う。

「そうかね? 彼は、ジン・ケンブリッジはジオン三大MS会社で唯一大赤字を出していたMIPを再建すると言う大仕事をやった。
それに彼の元手となった資金は競馬やスロット、ルーレットと言う運で勝利するゲームに参加し手に入れたのではなかった。
彼は全て、そう、元金の100億近くを実力で、数学の才能が必要な計算力と記憶力がものを言うブラックジャックで勝利して手に入れた。
そしてその金を躊躇する事無く自分に投資している。
MIP再建を行う、暴落中の、下手をすればこのまま紙くずとなる、或は電子の海に消えるであろう株券に切り替えて」

この傾きつぶれる寸前だったMIPの不死鳥の様な再建劇はジオン本土だけでなく地球連邦政府内部や海洋に面する各州でも話題になる。
戦略の違いと戦場の限定さからか、ジオン公国と違い、地球連邦軍は有効な水陸両用MSを保有してない。
それを提供するパイプを作り、更にそこから大胆なリストラと地球に本社を置く軍産複合体産業の筆頭であるウェリントン社との事業・企業統合を行った。
この結果、中華に制海権を拮抗させられた極東州とアジア州、危機感を抱いていた北米州の三つの州政府を巻き込み、MIPは地球連邦海軍、アジア、極東、北米の三州からも継続的なMS輸入協定と作業用のアッガイなどのライセンス生産をジオニックに認めさせて息を吹き返す事になる。
それがケンブリッジ家を一躍有名にした出来事である。ある故事にならって「ケンブリッジの一夜城」と呼ばれる大躍進であった。

「MIP再建に成功すれば完全なる資産家に、失敗すれば自らの資産、これの全てを失う。だが彼はそのリスクを恐れずに打って出た。
そう言う意味では彼もまた戦士であったのではないかね?
或いはその潔さはサムライに通じるものがあるとも思う。
第一だ、父親を監視する様に命令されている、私の様な木星帰りの若い准将と言う、何を考えているか分からぬ人間に80億テラ、ジェガン8機分の資産など提供しないと思うが?」

ふーん、そう言われたらそうだな。
そう思ったヤザン。とりあえずその件は置くとして、乗っているMSのメインモニターを起動させる。
周囲の作業員がジェガン隊の整備に追われている姿が見える。そして目の前にあるもう一機の重MSの存在も。

「まあ、鼻持ちならない坊主の金遊びかどうかは俺には関係ない。いいか、俺が譲歩するのはそこまでだ。
ジン・ケンブリッジとかいう小僧がうちの親方の直系の小僧である以上、それなりに扱うし、小僧の資産をどう扱おうが関係ない。
シロッコ准将、それでジン・ケンブリッジの80億テラの寄付金の件はOKだな?」

頷くシロッコ。

「さて、それで、この機体・・・・・名前は・・・・」

「ジ・オ、PMX-003が形式番号になる。そして・・・・君には不要かもしれんがサイコ・フレームも搭載してある」

サイコ・フレームか。胡散臭いのは嫌いだが仕方ない。
それに戦友のユウ・カジマの乗る機体もサイコ・フレーム搭載機だと聞いた。ならば我慢しよう。
モノアイカメラの映像を前面の機体に集約する。

「よーし、わかった。で、あんた専用機があれか?」

地球に残った最後の非連邦加盟国である北部インド連合の親地球連邦勢力が、準加盟国への格上げ交渉時の為に引き渡したAMX-004キュベレイを渡したのは宇宙世紀0090の秋。
そのデータを元に、既に地球連邦の最高技術研究所だったムラサメ研究所で開発に成功したファンネル。
それを地球連邦軍で初めてファンネルを装備した機体、PMX-004タイタニア。

「ああ、私の愛機だ。タイタニアと名付けた。あの男が協力してくれたのが不愉快だが、仕方あるまい」

そして少しだけ思い出す。
あの時の忌まわしいが認めるしかない借りを作った過程とその日を。


『資金が足りんな』

そう呟いたシロッコ。場所はドゴス・ギアの副司令官用執務室。ティターンズの黒い軍服に将官の階級を付けた状態で唸る。

(パプテマス様が唸っている・・・・・・非常に珍しい光景ね)

とは同席して書類整理していたサラの思った事。
この時期、パプテマス・シロッコが予算と言う現実に敗れ去った時、時の地球連邦財務大臣のロベルタ女史は徹底した予算削減を行っていた。

『無駄は徹底的に排除します』

そう言って各省庁や軍の予算を削減していく女史。
これはシロッコの個人MS開発計画にも当てはまった。物凄い勢いで削られる軍事予算。

(ええい、これでは旧世紀の世界大戦の様に、重機関銃陣地の十字砲火の中に生身の歩兵が銃剣で突撃する様なモノだな)

ただでさえ外惑星・内惑星開拓公社設立やその護衛艦隊の配備、新造艦の新規設計に量産という一年戦争前夜の軍備拡張計画もかくやと言う事態。
止めにMS隊の更新と来た。彼女の相手をさせられたウィリアム・ケンブリッジは過労で倒れる位に徹底した予算削減を要請、実行させられる。
結果、シロッコの独自案である『J計画』は流れる・・・・・筈だった。
其処に待ったをかけた人物がいる。
それはジン・ケンブリッジである。彼は次の作戦でシロッコ准将が死ぬ可能性を減らしたかった。
ジン・ケンブリッジはマイッツァー・ロナとパプテマス・シロッコとフェアトン・ラーフ・アルギスの三人が拮抗しているからこそティターンズは安定すると考えている。
これは父親も母親も同様だ。
だからこそ、パイロットでもあるジュドー・アーシタを生け贄、もとい、政策担当官として配置しており、更にはある人物を次期長官にするべく策動している。
それに新型機開発と木星圏の重力を振り切れるデータは今後のMS開発にぜひとも必要になるだろう。そう考えた。

『ロナ首席補佐官、どうかここはシロッコ准将と協力してください』

そう言ってマイッツァー・ロナ首席補佐官にジン・ケンブリッジは土下座した。
勿論、土下座だけでは無く、ファンネル搭載機の実戦データの採取の有効性や、木星開拓の為の先行投資の必要性、ティターンズ内部の結束(ここは特に強調し、アイギス技官も加えて三人相手に頼み込んだ)をしっかりとしたデータを元に、説得。

『そこまで言うならば一機分だけ、ロナ家の力を借りて300億テラほど動かしましょう。
ああ、これは長官にでも貴方にでもない、シロッコ准将への貸しですが』

という言葉でPMX-003とPMX-004は完成する。
その予備パーツは父親のウィリアム・ケンブリッジが財務大臣と先輩のジャミトフ・ハイマン国務大臣を拝み倒して用意させた。
親子揃ってティターンズ内部の内部対立を宥めた結果である。
これを知ったシロッコはロナにこう言った。

『借りはいつか返す』

と。
それに反論と言うか、提案するロナ。

『一時休戦、と言う事にしておきましょう。ジン君の顔を立ててね。木星帰りの准将閣下。
精々、良い戦果を挙げる事を期待させてもらいましょう。
ああ、心配なんてしてませんから。少なくとも戦場では貴方は頼りになる。部下の掌握も可能でしょうし』

『ああ、そう取って貰って結構だ。私がアクシズ討伐の功績でティターンズ副長官になったら精々こき使わせてもらおう。
何せ、首席補佐官の持つ政財界へのパイプと実務能力は誰よりも貴重だと認識だけはしている。だけは、な』

相変らず仲が良いのか悪いのか分からない関係だと思う。
少なくとも互いの実力は認めあっているし、謀殺し合う事も無い。やれば真っ先に疑われてしまう立場に双方がいるからだ。
そう言った会話をあろう事かジン・ケンブリッジとたまたま査察に来ていたリム・ケンブリッジの前でやった。
因みにその場にいたフェアトン・ラーフ・アルギスは含み笑いをするだけで言質を与えなかったという。

(これが父さんの仕事か・・・・今度、メイとユウキと一緒に行く予定だったニュージランドの温泉旅行に母さんと父さんも招待しよう。
マナは・・・・・・論文が出来上がって内定があるなら呼ぼうか)

とは、息子が固く誓った誓いの印である。


語り終えるシロッコ。それを聞いたヤザンの感想は簡単だった。

「シロッコ准将閣下、無礼を承知で言うが・・・・あんた、面白い奴だな」

そう言って右手を出す。
握り返すシロッコ。

「こちらこそ、『戦地の野獣』と怖れたトップガンと知り合えてよかったよ」

こうして新型機ジ・オとタイタニアは実戦配備が完了する。
エースクラスのパイロットを乗せて。




一方で、宇宙世紀0096の1月下旬。
地球連邦のゴップ官房長官は潜入させていたアクシズ・エゥーゴ連合の上層部にいるスパイからある情報を受けた。

『アクシズ・エゥーゴ連合軍はネオ・ジオンを名乗り、遂に軍事行動を開始する』

『ジオン公国からの投降要請を黙殺、軍事行動に出るべく準備開始』

この情報を元に地球連邦政府はついに決断を下す。
最後の大動員令の発令。
稼働可能艦隊の全軍を持ってアクシズ、いや、自らを正統なるジオンと名乗ったネオ・ジオン軍を一隻一機たりとも逃す事無く完全に殲滅する事。
その為には一年戦争以来の大動員も覚悟する。更には大規模な陸戦隊を揚陸させ、アクシズの持つ様々な人体実験データを確保する。
冷凍睡眠技術、強化人間技術などは垂涎の的である。そういう経済的、宇宙開発的な側面が多々あるのだ。正規軍による略奪行為。
第二次世界大戦終戦時のソビエト連邦とアメリカ合衆国がナチス・ドイツからあるだけの技術を持ちだした事を今度は地球連邦政府がネオ・ジオン相手にやるつもりだ。
それでも予備役こそ動員しないし、戦時国債も出さない。使用するのは正面戦力と民間軍事会社の傭兵部隊のみ。
だが紛れも無い、戦争目的が明確な以上、地球連邦政府にとっては国家間の、そして地球全土と全てのスペースコロニーを掌握する人類史上最大の国家、地球連邦の全軍を上げた戦争の幕開けだった。


地球連邦軍第一級極秘文章・『あ一号作戦』参加予定機
サイコ・フレーム搭載機、並び、パイロット。

MSΖ-006-01『Zガンダム』 カミーユ・ビダン大尉。
MSΖ-006-02『Zガンダム』 フォウ・ムラサメ中尉。
MSΖ-006-03『Zガンダム』 アスナ・エルマート少尉。

MSΖ-010『ZZガンダム』  ジュドー・アーシタ中尉。

RX-0-01『ガンダムユニコーン』 ユウ・カジマ大佐。
RX-0-02『ガンダムバンシィ』  ゼロ・ムラサメ中尉。

PMX-003『ジ・オ』      ヤザン・ゲーブル中佐。
PMX-004『タイタニア』    パプテマス・シロッコ准将。

RX-93『ニュー・ガンダム』   アムロ・レイ中佐。

他数機のバイオ・センサー搭載機あり。


『あ一号作戦』 参加予定艦隊七個艦隊。


第1艦隊  旗艦『リンカーン』 ライアン・フォード中将(男性提督)、戦闘艦艇50隻。
バーミンガム級戦艦1隻、クラップ級巡洋艦4隻、マゼラン改級戦艦5隻、サラミス改級巡洋艦40隻。


第2艦隊  旗艦『ミカサ』 ナンジョウ・ユウ中将(女性提督)、戦闘艦艇50隻。
バーミンガム級戦艦1隻、クラップ級巡洋艦4隻、マゼラン改級戦艦5隻、サラミス改級巡洋艦40隻。


第10艦隊 旗艦『ラーディッシュ』 ヘンケン・ベッケナー少将(男性提督)、戦闘艦艇50隻。
アイリッシュ級戦艦1隻、クラップ級巡洋艦4隻、マゼラン改級戦艦5隻、サラミス改級巡洋艦40隻。


第12艦隊 旗艦『ユーラシア』 艦隊司令官 ラーレ・アリー中将(女性提督)、戦闘艦艇50隻。
バーミンガム級戦艦1隻、クラップ級巡洋艦4隻、マゼラン改級戦艦5隻、サラミス改級巡洋艦40隻。


第13艦隊 旗艦『ドゴス・ギア』 艦隊司令官 ヴォルフガング・ワッケイン中将(男性提督)、戦闘艦艇60隻。
ドゴス・ギア級戦艦1隻、アレキサンドリア級重巡洋艦9隻、サラミス改級巡洋艦50隻。


ロンド・ベル艦隊 旗艦『ベクトラ』 艦隊司令官ブライト・ノア中将(男性提督、0095.10.01昇進) 戦闘艦艇31隻。
超弩級空母『ベクトラ』。
ネェル・アーガマ級大型戦艦1隻(ネェル・アーガマ)。
ラー・.カイラム級大型戦艦5隻(ラー・カイラム、リヴァイアサン、シンリュウ、ユピテル、アマテラス)。
アーガマ級巡洋艦4隻(アーガマ、ブランリヴァル、ペガサスⅢ、ホワイトベースⅡ)。
クラップ級巡洋艦20隻。


第一連合艦隊(ロンド・ベル艦隊、第13艦隊)合計91隻 主力MS『Zプラス』『ジェガン』。
第二連合艦隊(第1艦隊、第2艦隊) 合計100隻 主力MS『ジェガン』。
第三連合艦隊(第10艦隊、第12艦隊) 合計100隻 主力MS『ジェガン』『ジムⅢ』。
第四連合艦隊(第11艦隊・5つの独立戦隊、予備兵力)合計70隻 主力MS『ハイザック』『ジムⅢ』。


総旗艦『ベクトラ』 総司令官、宇宙艦隊司令長官エイパー・シナプス大将(男性提督)。


随伴補給艦隊180隻。改装空母70隻。


予備兵力。
第11艦隊 旗艦『アイリッシュ』 ステファン・ヘボン中将(男性提督)、戦闘艦艇50隻。
アイリッシュ級戦艦1隻、クラップ級巡洋艦4隻、マゼラン改級戦艦5隻、サラミス改級巡洋艦40隻。

動員艦艇総数611隻。
動員MS隊総数850機以上。




『発・地球連邦安全保障会議

宛・地球連邦軍統合作戦本部長ニシナ・タチバナ大将。

地球連邦首相レイニー・ゴールドマンより本作戦、『あ一号作戦』の発令を承諾する。

今後一世紀の地球圏の未来はこの一戦にあり、総員の奮闘と、全将兵の無事の帰還を切に願う。以上。』




同時刻、ズムシティでも似たようなことが決定した。
『あ一号作戦』発令と言う命令発令の決定の連絡をレイニー・ゴールドマン首相直々に受け、古風な19世紀の電話型ホットラインを切るギレン・ザビ。
そして彼は居並ぶ高官らに対して以下の命令を発した。


『発・公王府並びジオン軍総司令部
ジオン軍特例命令・アクシズ残党討伐勅令・第二次ブリティッシュ作戦発令セヨ』

参加艦隊

ジオン軍特務艦隊『デラーズ・フリート』 旗艦『ジーク・ジオン』 艦隊司令官エギーユ・デラーズ大将 戦闘艦艇30隻。
グワンバン級戦艦1隻(ジーク・ジオン)、ムサイ級軽巡洋艦後期生産型27隻、ティベ級重巡洋艦2隻。


第一艦隊 旗艦『グワンバン』 グレミー・トト・ザビ中将(ただし、実際の艦隊指揮はウォルター・カーティス中将が取る) 戦闘艦艇数40隻。
グワンバン級戦艦1隻、ティベ級重巡洋艦9隻、ムサイ改級軽巡洋艦30隻。


第五艦隊 旗艦『グワレン』 ノルド・ランゲル中将 戦闘艦艇40隻。
グワジン級戦艦1隻、ティベ級重巡洋艦9隻、ムサイ改級軽巡洋艦30隻。


ジオン親衛隊艦隊 旗艦『グワジン』 マリーダ・クルス・ザビ大佐(ただし実際の艦隊指揮はダグラス・ローデン准将(特例措置)が取る) 戦闘艦艇数20隻。
グワジン級戦艦1隻 ザンジバル改級機動巡洋艦19隻。


第一艦隊 主力MS RMS-141ゼク・アイン
第五艦隊 主力MS RMS-141ゼク・アイン
ジオン親衛隊 主力MS RMS-142ゼク・ツヴァイ
デラーズ・フリート 主力MS RMS-142ゼク・ツヴァイ
補給艦隊40隻

艦隊総司令官、エギーユ・デラーズ大将。総兵力170隻、MS隊380機以上。




そして・・・・宇宙世紀0096.02.14

「ん? レーダーに反応上がるぞ?」

一隻の哨戒艇がレーダーを確認する。

「なんだと?」

問い詰める艇長。

「隕石じゃないか?」

楽観論が出る。
デブリが珍しくない世界だ。それもありそうなことだろう。
そう思っていたが反応がおかしい気がする。

「隕石・・・・・いや、月面の宇宙隕石管理局からの通達も非常用レーダーにも作動してない」

と、別の艦橋要員が異常に気が付いた。
彼は一年戦争で予備役として動員された経験を持っていたので直ぐに気が付いた。

「ちょっと待て・・・大変だ!!」

「どうした!? これは? まさか!?」

慌てて覗き込む。データは最悪の数値を示している。

「ミノフシキー粒子が・・・・戦闘濃度だと?」

「ありえない・・・・いえ、そんなはず」

ここはコロニーの、サイド1の近郊だぞ? リーアの和約違反だ。
そう口ごもるがそれで異常が解消される訳が無かった。
そしてこれだけ急激なミノフスキー粒子の散布は決して海賊規模では無い。
もっと大がかりな組織が動いている証拠。

「艇長、しっかりしてください。とりあえず・・・・」

サイド1の駐留艦隊司令部に連絡を入れようとした女性通信士と女性監視員は見た。
明らかに人工物の物体が一斉に、エネルギー粒子と共にサイド1の艦隊駐留コロニーへ向けて殺到するのを。

「て!! 敵襲!! 空襲警報を発令します!!! 総員第一種戦闘態勢に移行せよ!!!
繰り返す、全艦隊、全砲座、全MS隊を初め、総員は直ちに第一種戦闘態勢に移行せよ!!!
繰り返す、全艦隊、全砲座、全MS隊を初め、総員は直ちに第一種戦闘態勢に移行せよ!!!」

「提督!! 直ぐにソロモン要塞か周辺の部隊に応援要請を!!」

緊急事態を告げるアラートがジオン、地球連邦両軍の司令部に木霊する。
だが、遅い。何もかも遅すぎた。

「全艦隊、全MS隊発進だ。これは演習では無い!! 繰り返す、これは演習では無い!!!」

が、敢えて言うがやはり遅い。
MS隊が漸く発進した頃には見た事が無い新型のMS隊が急襲を仕かける。
そのあまりの高性能ぶりに二世代機であるジムⅡやそれ以前の機体であるジム改、リック・ドムⅡが撃墜される。
数でも質でも負け、更には敵の奇襲を受けて浮き足立つサイド1の駐留艦隊。
ミサイルの雨がサイド1駐留艦隊に降り注ぐ。出港もままならず軍港内で擱座するマゼラン改級戦艦。
かたやパトロール中に轟沈するサラミス改。
迎撃するべく砲門を回すが、メガ粒子砲のエネルギーの充電が間に合わずドムの改良機に艦橋とエンジンを破壊されるムサイ級軽巡洋艦。
エンドラ級の砲撃で軍港で搭載MSのペズン・ドワッジごと沈むチベ級重巡洋艦。
辛うじて迎撃に出たジムⅡとジム改とザクⅡ改の混成部隊は、性能差と熟練度からかギラ・ドーガ大隊に簡単に蹴散らされる。
青いギラ・ドーガが更に一機のジムⅡを落とした。
初期型コロニーを改造したサイド1駐留艦隊用コロニーは半壊する。軍港はつぶされ、MS隊は壊滅に追いやられる。

「他愛のない。こちらレズン大隊。目標の撃破に成功、これより帰還する。シャンパン冷やして待ってろ。いいな?」

そう言いつつも、ビームマシンガンで一機のリック・ドムⅡを撃破する。
それを見て逃げ出すもう一機のリック・ドムⅡも後ろから容赦なく撃ち落とす。

(落とせるときに落とさないとね。あたしらにはあとがないんだから)

そう思っていると副隊長機がワイヤーで通信を送ってきた。

「レズン大隊長、任務完了と思われます。第一中隊はMS隊を撃破、第二中隊の連中が軍港を破壊、第三中隊は太陽光発電ミラーを破壊。
これにて作戦完了です撤退の発行信号、あげます! 敵艦隊は混乱していて追撃どころでは無いでしょう」 

と、追ってきた馬鹿なジムⅡ三機を自分と同じ青いカラーリングのヤクト・ドーガが血祭りに上げる。
さらに一隻のサラミス改級が沈んだ。やったのはあの強化人間の様だ。

(ギュネイ・ガス・・・・例の強化人間部隊か・・・・使えるならそれに越したことはない。ムラサメ研究所の女どもが作った兵器。
伊達に金をかけてはいないか・・・・まあ艦隊の足を止められたからとりあえずは良しとしよう)

ムサカ級重巡洋艦8隻で編成された急襲艦隊からの一斉射撃。
MS隊撤退の為の援護射撃によって仕留められる数隻のムサイ級軽巡洋艦。轟沈だ。
流石はAE社の設計の下、パラオ要塞で建造した新造艦のムサカ級重巡洋艦だけのことはある。
その緑色の塗装をした艦隊旗艦のムサカ4番艦からもギラ・ドーガ隊へ撤退の発行信号が上がり、ネオ・ジオン軍は即座に後退した。
多数の地球連邦軍、ジオン軍サイド1駐留艦隊と防衛隊の残骸を残して。
この奇襲でサイド1の防衛能力は30%以下まで低下。他のサイドらや月面都市群、ソロモン要塞、ゼタンの門、グリプス要塞は第一警戒体制に移行した。
そして、彼らの総帥が深淵の彼方から現れる。




『我々は宇宙の力を手に入れた。我らアクシズは・・・・いや、ジオン・ズム・ダイクンの遺志を継ぐ正統なるジオン、ネオ・ジオンはここに宣言する。
地球連邦政府という俗物と、ザビ家に支配された故郷を力で奪還する、と。
その為にありとあらゆる手段を持って卑劣で邪悪なる者どもに対抗する。
紹介しよう、我々の真の指導者、あのティターンズの愚か者ウィリアム・ケンブリッジの様なオールドタイプとは違うお方。
宇宙の民を導くジオンの英雄、赤い彗星シャア・アズナブル、いいや、全てのスペースノイドの理想、スペースノイドの救世主たるジオン・ズム・ダイクンの正統なる後継者、キャスバル・レム・ダイクンである』

女は、黒とジオン将官服と仮面をつけたハマーン・カーンはそう言って下がる。
影から赤い軍服を着たオールバックの男が現れた。

『私、シャア・アズナブルはここに宣言する。地球連邦政府は過去の過ちを認め、我々ネオ・ジオンの自治と独立を承認し、ザビ家を断罪するべきである。
それができないなら私はあえて言おう。
地球に残った人類は自分達の事しか考えてない。そして故郷であるサイド3はザビ家の軍靴によって踏みにじられている。と。
その様な現状を座視する事などはジオン・ズム・ダイクンの遺児としてもジオンの英雄である赤い彗星としても出来はしない!』

衛星ジャックによってこの放送だが、地球圏は勿論の事、木星圏まで流れる。
面白そうに見るクラックス・ドゥガチ、忌々しそうに見るのはジャミトフ・ハイマン。面白そうに見るのはギレン・ザビ。
更には興味津々で見るパプテマス・シロッコと憂鬱な表情で見やるロンド・ベルのブライト・ノア中将に、覚悟を決めた顔のアムロ・レイ中佐。
多くの人々の思惑と視線と不安を乗せて、演説は佳境に入った。

『よって私は、アクシズ、エゥーゴの支持者、宇宙に巣立った真の民、スペースノイドとニュータイプの支持のもと、ここにネオ・ジオンの結成と地球連邦政府並びジオン公国解放の為の武力闘争の開始を宣言する。
そしてこの闘争の勝利と地球連邦の打倒、ジオン本国解放の暁には・・・・・私、シャア・アズナブルは父ジオンのもとに召されるであろう!!!
繰り返し聞こえる、スペースノイドの真の解放と自由を勝ち取る為に。ジーク・ジオン!!!』

『ジーク・ジオン!!!』

『ジーク・ジオン!!!』

『ジーク・ジオン!!!』

『ジーク・ジオン!!!』

『ジーク・ジオン!!!』

『ジーク・ジオン!!!』

『ジーク・ジオン!!!』

『ジーク・ジオン!!!』




地球・地球連邦官邸街・ティターンズ政庁地上5階にて。
一人の男が家族と共にこの放送を聞く。
妻は初孫であるメイ・カーウェイ・ケンブリッジの娘、メアリー・カーウェイ・ケンブリッジをあやしている。
父親であり、息子のジンが咳を切らせて駆け込んできた。
どうやらあの放送を見ていたようだ。娘のマナも心配そうにメールを携帯端末からグレミー・トト・ザビに送っている。
と、父親ジンが娘メアリーを抱く。孫は可愛いとは本当だったなと思いながら妻のリムはメアリーを父親に返す。

「・・・・・・・・・リム」

妻に声をかける。

「・・・・・・・・・何?」

言葉少なく聞く。

「遂に・・・・・・始まったな」

頷く。

「ええ。貴方と私の・・・・最後の戦争よ」

断言する妻。強い口調だ。頼もしい。

「・・・・・・・・ああ、そうだ。その通りだ。これで最後にしなければならない」

そして家族の前で私は断言する。

「私たちケンブリッジ家最後の戦争の始まりだ」




宇宙世紀0096.02.15

地球連邦軍は「あ一号作戦」を、ジオン公国は「第二次ブリティッシュ作戦」をそれぞれ発令する。
歴史の歯車は遂に一つの終局へと動き出した。


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