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No.33650の一覧
[0] ある男のガンダム戦記 八月下旬にこちらの作品を全部削除します[ヘイケバンザイ](2016/07/27 21:00)
[1] ある男のガンダム戦記 第二話「暗殺の余波」[ヘイケバンザイ](2012/07/10 11:59)
[2] ある男のガンダム戦記 第三話『地球の内情』[ヘイケバンザイ](2012/07/15 19:52)
[3] ある男のガンダム戦記 第四話『ジオンの決断』[ヘイケバンザイ](2012/07/14 10:24)
[5] ある男のガンダム戦記 第五話『開戦への序曲』[ヘイケバンザイ](2013/05/11 22:06)
[6] ある男のガンダム戦記 第六話「狼狽する虚像」[ヘイケバンザイ](2013/04/24 13:34)
[8] ある男のガンダム戦記 第七話「諸君、歴史を作れ」[ヘイケバンザイ](2012/08/02 01:59)
[9] ある男のガンダム戦記 第八話『謀多きこと、かくの如し』[ヘイケバンザイ](2012/08/02 09:55)
[10] ある男のガンダム戦記 第九話『舞台裏の喜劇』[ヘイケバンザイ](2012/08/04 12:21)
[11] ある男のガンダム戦記 第十話『伝説との邂逅』[ヘイケバンザイ](2012/08/06 09:58)
[12] ある男のガンダム戦記 第十一話『しばしの休息と準備』[ヘイケバンザイ](2012/08/07 15:41)
[13] ある男のガンダム戦機 第十二話『眠れる獅子の咆哮』[ヘイケバンザイ](2012/08/09 20:31)
[14] ある男のガンダム戦記 第十三話『暗い情熱の篝火』[ヘイケバンザイ](2012/08/14 13:28)
[15] ある男のガンダム戦記 第十四話『終戦へと続く航路』[ヘイケバンザイ](2012/08/18 10:41)
[17] ある男のガンダム戦記 第十五話『それぞれの決戦の地へ』[ヘイケバンザイ](2012/08/25 16:04)
[18] ある男のガンダム戦記 第十六話『一つの舞曲の終わり』 第一章最終話[ヘイケバンザイ](2013/04/24 22:22)
[19] ある男のガンダム戦記 第十七話『星屑の狭間で』 第二章開始[ヘイケバンザイ](2013/04/24 16:55)
[21] ある男のガンダム戦記 第十八話『狂った愛情、親と子と』[ヘイケバンザイ](2012/11/17 22:22)
[22] ある男のガンダム戦記 第十九話『主演俳優の裏事情』[ヘイケバンザイ](2013/01/02 22:40)
[23] ある男のガンダム戦記 第二十話『旅路と決断を背負う時』[ヘイケバンザイ](2013/04/06 18:29)
[24] ある男のガンダム戦記 第二十一話『水の一滴はやがて大河にならん』 第二章最終話[ヘイケバンザイ](2013/04/24 16:55)
[25] ある男のガンダム戦記 第二十二話『平穏と言われた日々』 第三章開始[ヘイケバンザイ](2013/04/25 16:39)
[26] ある男のガンダム戦記 第二十三話『終焉と言う名を持つ王手への一手』[ヘイケバンザイ](2013/04/30 22:39)
[27] ある男のガンダム戦記 第二十四話『過去を見る者、未来を目指す者、現在を生きる者』[ヘイケバンザイ](2013/05/06 16:20)
[28] ある男のガンダム戦記 第二十五話『手札は配られ、配役は揃う』[ヘイケバンザイ](2013/05/12 16:29)
[29] ある男のガンダム戦記 第二十六話『流血を伴う一手』[ヘイケバンザイ](2013/05/22 10:42)
[30] ある男のガンダム戦記 第二十七話『戦争と言う階段の踊り場にて』[ヘイケバンザイ](2013/05/22 20:23)
[31] ある男のガンダム戦記 第二十八話『姫君らの成長、ジオンの国章を懸けて』[ヘイケバンザイ](2013/05/26 13:31)
[32] ある男のガンダム戦記 第二十九話『冷酷なる神の無慈悲なる一撃』[ヘイケバンザイ](2013/06/02 15:59)
[33] ある男のガンダム戦記 第三十話『叛逆者達の宴、裏切りか忠誠か』[ヘイケバンザイ](2013/06/09 23:53)
[35] ある男のガンダム戦記 第三十一話『明けぬ夜は無くも、闇夜は全てを覆う』[ヘイケバンザイ](2015/07/10 19:15)
[36] ある男のガンダム戦記 最終話 『ある男のガンダム戦記』[ヘイケバンザイ](2013/12/23 18:19)
[37] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像01 』[ヘイケバンザイ](2014/02/12 19:18)
[38] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像02 』[ヘイケバンザイ](2014/02/12 19:16)
[39] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像03 』[ヘイケバンザイ](2015/06/29 13:54)
[40] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像04 』[ヘイケバンザイ](2015/07/11 10:54)
[41] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像05 』[ヘイケバンザイ](2015/07/13 13:52)
[42] ある女のガンダム奮闘記、ならび、この作品ついてご報告いたします[ヘイケバンザイ](2016/07/27 21:00)
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[33650] ある男のガンダム戦記 第十八話『狂った愛情、親と子と』
Name: ヘイケバンザイ◆7f1086f7 ID:8b963717 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/11/17 22:22
ある男のガンダム戦記18 (一部削除しました。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。これからも読んで頂けると幸いです。では第18話どうぞ。)

<狂った愛情、親と子と>





同時多発テロより時は遡り、宇宙世紀0085.06.03

ジオン公国首都ズムシティ。そこで一組のカップルの挙式が行われようとしていた。
見学者は多い。ジオニック放送や地球通信、連邦報道などの大手出版社、映像業界がこぞって参列する一大イベントだ。
その控え室。新婦側の控室。ここに紺のジオン軍准将の軍服を着た男がいた。
一か月前にアイナ・サハリンが頼んできた事を思い出す。


『じ、自分がアイナ様の親?』

『いけませんか? 私は親代わりのノリスに私とシローのヴァージン・ロードを歩んで欲しいのです』

『そ、それは・・・・・しかし・・・・・そ、その役目は本来兄君のギニアス様が受けるべきではないでしょうか?』

『兄は来ません。いえ、来てはくれるそうですがあくまでサハリン家再興をジオン本国の社交界の人々に知らせたいだけだと言っています。
ですから、兄に頼むわけにはいかないのです。兄はシローを撃った。それでも兄は兄です。
なのに私は戦時中、最も頼られていた時に兄を裏切った。だからこれ以上兄を頼る事はできない』

『・・・・・・・』

『ノリス、引き受けてもらえませんか?』

『光栄です。このノリス・パッカード、一命に代えてもその道を歩ませて頂きます』


そして彼は軍服では無くモーニングに着替える。時間だ。黄昏る時間は終わった。
これからはあの方は自分では無く別の男性と共に道を歩んでいくのだ。それを見届けられる。何という幸運だろうか。
戦争で何百人も殺しておいて自分に娘の様な存在に父親の代役を頼まれる。これに勝る幸福などあるまい。

「ふ、アイナ様がお父上に似てくださるとはなぁ。これも本望よ・・・・・良い人生だ」


そう言って彼は出て行った。アイナ・サハリンとシロー・アマダの結婚を見る為に。ヴァージン・ロードを共に歩む為に。
職業軍人の道を選んだ時に諦めた、娘の結婚式を挙げられる事の幸せを噛み締めながら。
そして向こう側にいるティターンズの軍服を着たシロー・アマダの姿を見据える。

「・・・・シロー・アマダ。アイナ様を不幸にしては私が許さんぞ」

呟きは誰にも聞かれず虚空に消えた。
そしてアイナ・サハリンが入ってきた。ノリスに向かって笑顔で言う。それは宝石より貴重な存在。

「ノリス、ありがとう。本当にありがとうございました。これでサハリン家の呪縛は終わりにしてください。
もう私たち兄妹の事は忘れて自分の為に生きてください。本当にありがとうございました・・・・御父様」




宇宙世紀0087.2.12 サイド7 「グリーン・ノア」

一人の少年が連邦軍の士官に殴り掛かった。周囲にいた人間に何事かと視線を向けられて、騒ぎになり、駆け付けた警備員に取り押さえられる。
60分後。ティターンズの制服を着た男が面会にやってきた。少年にとっては見ず知らずの知らない相手だ。無論警戒する。
そして弁護士バッチを付けた金髪の黒いスーツにスカートに身を包んだ女性も一緒だ。と、入室と同時に部屋が明るくなる。
二人からは差し入れなのか炭酸飲料水を渡してくれる。それを飲む。
トイレに行きたいと言ったら先に行って来いと言われたので遠慮なく行った。
そしてもう一度パイプ椅子に座る。
そして男の方が徐に口を開く。穏やかでいて、それでも自分よりもはるかに成熟した大人の男の様だ。
例の殴った連邦軍の中尉とは違い、ティターンズに所属するエリートコースの少佐の階級に相応しい気品と言うモノを感じる。

「君の父親のビダン技術大尉から頼まれたんだが・・・・何故捕まったか分かるかな?」

そのくせ毛の、少佐の階級を持った青年は少年に、カミーユ・ビダンという少年に聞いてきた。何故自分が拘留されているのか、と。
フランクリン・ビダン大尉。自分の父親。
タチアナ・デーアとかいう愛人を持っていた父親。母は母で愛想を尽かして実家に帰ってしまった。新しい男と一緒に。それがむしゃくしゃする原因なのだろうか?

「決まっています。連邦軍の将校をスペースノイドの自分が殴ったからでしょ?」

それを聞いて男は残念そうに顔を振る。それが不思議だった。何が違うのだろうか?
連邦兵を庇う為にこのティターンズの人間が来たと思ったのに何か雰囲気が違う。もっと根本的な所で自分が間違っているのだと言っている様な気がしてならない。

「いや、違う。セイラさん、彼に説明してあげてくれ」

そして女の方、どうやらセイラと言うらしいが、ノート型PCを広げて調書を取りながら話し出した。
黒いスーツに白い肌、白いシャツに柄にもなく戸惑うカミーユ。

「ええ、貴方の言う事は違うわ。確かに貴方が捕まったのは地球連邦軍の将校を殴った事であるけど、決してそれだけでは無いの。
人を殴った事それ自体が貴方を拘束している理由なの。刑法にもあるでしょ? 暴行罪、暴力行為という言葉が。
貴方がそれを自覚しない限りしばらく間はここで反省してもらわなければ困るわ・・・・あなた自身の為にもね。
貴方はまだ若いのに・・・・・それなのにそんな暴力に身を任せてはいけないわよ」

大きなお世話だ! そう叫んだが二人は苦笑いをするだけだった。
それが癪に障る。だから言ってやった。父親のおべっか使いで来たのか!? そんなに出世が大事か? と。
が、両方とも自分とは比べ物にならない位大人だった。

「何故そこまでお父さんを嫌うの? あなたの肉親でしょ?」


「父親と言っても彼は技術大尉だ。正直言って彼におべっかを使っても自分にはあまり効果は無いんだけどね。
一体何を怒っている? 親父さんの事をそう悪く言うと罰が当たる。君をここまで育ててくれた人だろう?」

その言葉にかっとなった。カミーユは目の前の男に対して右手の人差し指を指して叫んだ。
こいつらは何も知らない。何も知らないくせに知ったかぶりをする。それが許せないんだよ。そう言ったら言葉の濁流が止まらなくなった。

「俺の父さんはね、タチアナとかいう女を外に作って、外面だけ良くしているだけのクズなんですよ!!
それで母さんは母さんで仕事が楽しくて、しかもこっちまで新しい職場で男を作って。俺はね、僕はね、嫌だったんですよ。
両親が付けたカミーユって名前も、今の両親も。どっちも自分の事しか見てない。俺の事が見えてない。見る気もない!!
それが嫌で嫌で仕方なかった。なんであんなのが俺の親なんだ? なんで俺を見てくれない? どうして!? どうしてなんですか!! 答えてください!!!」


見ず知らずなのに。会ってまだ一時間も経過してないのに。そう言えば名前も知らない少佐と弁護士。
気が付いて見れば時計の針が二回りはしていた。いつの間にか、気が付けばずっと罵倒していた。実の両親を。片親である父の手先としてきたこの少佐を。
息が切れた。流石にもう喋れない。もう疲れた。椅子に座りなおす。

「すっきりした?」

全てが終わって、言いたい事を言い終えたという丁度良いタイミングで、女の弁護士が聞いてくる。これで満足したのか、と。
包容力のある女性とはこんな人を言うのだろうか? 
心の底に溜めていた何かがいま解放された気がする。自分に理想とした母親がいればこんな母親だったのだろうか?
そう思わせる何かがあった。だが、だからこそそれを認める訳にはいかない。それを認めてしまえば今までの自分が全て否定されてしまう気がした。

「セイラさん、でしたっけ。弁護士さんに分かりますか? 僕の気持ちが。ずっと放置されてきた気持ちが。親子の情が無い親子の気持ちが。
子供はね、親に無視されるのが一番嫌なんですよ、分かりますか!?」

それでも突っかかる。それが正しいのかどうかなどもう分からない。
この問いに答えたのは意外にも黙って聞いてくれていた男の方だった。

「分かるさ」

何故!?

そう反論する。だが、それを諭す様に少佐は言った。
この時の少佐は遠い目をして言った。

「自分の両親もそうだった。俺の父親もね、MSの、ガンダムの開発ばかりで俺の事も母さんの事も無視していた。仕事がおもしろかったんだろう。或いは他の何かがあったんだ。
そうして気が付けば死に別れた。酸素欠乏症が悪化してね。安楽死させてしまった。俺はね、この年で親殺しなんだよ。
でもね、悲しい事にそれが悲しいとは思えなかった。きっと君の父親や母親と同じように親子の時間を取る事が出来なかったのが原因だと思う。
だけど君はまだ間に合う。確かに碌でもない父親なのかもしれない。自分を見捨てた母親なのかもしれない。
だけどだ、君の両親はまだ生きている。ならば終わりだと言う事は無い筈だ」

そう言われた時の彼の目をカミーユ・ビダンという少年は一生忘れなかった。

「・・・・・・・・あ、あの・・・・あなた方の名前は?」

そう言えば名乗って無い。思わず笑う二人。まずは女性の方が名刺を出してきた。

「私の名前はセイラ・マス。今年から地球連邦の中央政府人権問題専門の弁護士になりました。マス家法律相談所の所長です」

その名前は地球圏でも有名である。
まてよ、セイラ・マス? と言う事はまさか!?
有名な名前だ。アングラ出版に何度も掲載されているカップルの名前。地球連邦最大級の英雄の一人の伴侶として有名な女性の名だ。
それを裏付けるかのように、男の方が頷いてカミーユに語りかける。

「俺の名前はアムロ、アムロ・レイ。階級は少佐だ。白い悪魔と呼ばれたパイロットと言う方が覚えは良いかな?」

自分の想像通りであった。そして翌朝、自分の父親が国家機密漏えい並びスパイ容疑で拘束されかけ、エゥーゴに逃亡した事を知った。
自分を置き去りにして。母親は自分とは関係ないと弁護士を雇い、カミーユ・ビダンという存在さえ忘れてしまったかのように振る舞った。
それはこの少年を絶望させるには仕方の無かった事なのかもしれない。そして、彼は昨日会った士官の宿舎に転がり込む。

アムロ・レイとカミーユ・ビダン、この二人の軌跡の始まりであった。




同時刻・「グリーン・ノア第3ドック」

アーガマ級機動巡洋艦一番艦、「アーガマ」。地球連邦軍とティターンズが共同で開発・建造した宇宙専用のペガサス級であり、ペガサス級第15番艦でもある。
が、巡航性能の強化と人工重力発生装置の搭載など長距離航行を可能としており、更にはグリーン・ノア2で開発されている、ジオン公国との技術協定で生み出された惑星間航行用ブースターの装着も可能である。

『惑星間航行巡洋艦』。

この為か、開発コンセプトが従来のペガサス級とは全く違う為、ペガサス級とは呼ばれなくなった。
その初代艦長にはロンド・ベル隊副司令官にして30手前で大佐に昇進した若きエリート、ブライト・ノアが就任した。
これはヤシマ・カンパニーへ恩を売りたいジャミトフ・ハイマンやマーセナス首相らと、ペガサス級2番艦ホワイトベースを民間人や新兵と言うお荷物といって良い人員で運営しきった、戦争を乗り切ったその手腕を買われているのだ。
そんな彼は黒いコートを着て艦長席に座り演習を見ていた。

「それで、これがガンダムMk2か」

ブリッジのモニターでガンダムMk2の宇宙戦を見物するブライト。
模擬専用に出力を抑えてあるとは言え、バスク・オム大佐の命令で実弾演習をさせているがどうやら問題はなさそうだ。
通信を繋ぐ。ミノフスキー粒子は戦闘濃度前なので会話も拾える。その為にテストパイロットらの声が聞こえる。

『なるほど、確かに機動性などは圧倒的だな。このギャンKが追い付けないとは』

その一人、三機の内一機はかつて東欧にて猛威を振るったギャンKであり、ジオン公国軍の第二艦隊司令官でもあるノリス・パッカード准将であった。
彼は現役パイロットを引退したモノの、こうしてテストパイロット相手にベテラン教官として活躍している。

『ふ、だが格闘戦であれば感や実力がものを言う。エマ中尉、惜しかったなぁ!』

そこでシールド越しにビームランサーをくらったガンダムMk2二号機が強制停止させられた。
オーバホール中のガンダムMk2三号機はアーガマ艦内にあるので宇宙にいるのは二機だけだ。これで演習内容も終わりだろう。
そう思った時である。閃光が走った。そして爆発。
次の瞬間、コロニー搭載の大型レーダーとミノフスキー粒子探知システムが警報を発生させた。耳障りでいて一年戦争中に何度も聞いた放送だ。

「緊急! 緊急!! 所属不明MSならび超大型MAがグリーン・ノアに向けて接近中。
繰り返す、所属不明MSならび超大型MAがグリーン・ノアに向けて接近中。
繰り返す所属不明MSならび超大型MAがグリーン・ノアに向けて接近中!!」

ガンダムMk2の奪取かそれともテロか? そう思ってとにかく実弾装備の一号機と二号機、ギャンKを回収し、迎撃のMS隊を出そうとした。

「動かないで・・・・でないと撃ちます」

そう言って一号機が発砲し、ノリス准将の乗っていたギャンK右腕と左足を撃ち抜いた。更にビームサーベルを二号機の、エマ・シーン中尉の乗る機体に押し付ける。

「な!?」

「貴様!」

エマ機とノリス准将の驚愕の言葉が宇宙に舞った。
続けて、『停止せよ』と警告を発しながら接近してくるジムの改良型であるジムⅡ9機、三個小隊が四方八方からのビーム攻撃を受けて爆散する。

「サイコミュ兵器!? ビットだと!?」

辛うじて生き残っていた左モニターでビットらしき移動砲台を捉えたギャンKが正体を暴く。これに驚く各員。

『ビット』兵器。ジオンの特殊部隊、いわゆるニュータイプ部隊でしか運用が出来ないミノフスキー粒子散布下での無線誘導式自立型誘導兵器。それがこれだ。

(ビットか、ならばこのビームの雨は理解できる。だが何故そんな高尚な兵器が地球連邦の勢力圏内部で運営されている?
これは国家機密に位置する機体だ。まさかジオン本国が宣戦を布告したのか? いやそれならさすがにこちらにも連絡を入れて来る筈。
ならばこれは一部部隊の独断? それにノリス准将も知らないらしい。と言う事は・・・・)

ビットは、いや、サイコミュは人を選ぶ上にジオン公国にとっても未だに最高機密の扱いの筈だ。ニュータイプ研究自体が極秘なのだから当然である。
幾らなんでもこんな所に、地球連邦軍とティターンズの勢力圏内のグリーン・ノア宙域に存在して良いものでは無い。
そもそもソロモン前哨戦で投入されて以降、地球連邦軍を恐怖のどん底に落とした存在であり、今も尚ジオン公国のトップシークレット技術で技術交流の協定ですら断固として断られた存在。
それが連邦最大の勢力圏内にて敵対行動を取る。明らかに裏がある。大掛かりな陰謀の匂いがする。
と、Mk2二号機のコクピットにビームサーベルをぶつける一号機。その音を合成したPCのサウンドから漸く我に返る。

『動かないで。エマ・シーン中尉とノリス・パッカード准将を殺されたくなければ攻撃を中止しなさい。そしてエマ中尉は機体から降りなさい』

一号機の国際救難チャンネルでの宣言その間もビームサーベルとビームライフルで二人を威嚇する事を忘れない。
一方、ビットらしき兵器でまた一機、ジムⅡが破壊される。
警備に出ていた15機中、13機がロスト(KIA)だ。これはキツイ。戦況は明らかに向こうが優位だ。しかも犯人のMSの位置は未だに不明。サイコミュ戦闘では最悪の状況である。
と、グリプスのレーダーが質量を探知。
ふと、緑色の独特の形状をしたMSがスクリーンに現れる。その機体は機体の尻にあたる部分に花弁の様なものがあった。
其処から更にビットらしき兵器が射出され、最後のジムⅡが撃墜される。これを見て自分は決断した。

「トーレス、艦長権限だ。一号機のシェリー・アリスン中尉に繋げ!
機関室、アーガマ出港準備。港にいる全艦は第一種戦闘態勢に移行だ。何? タチバナ中将の許可はあるのかだと? 死にたいならそこでそうしていろと伝えろ。
私が全責任を取る。各基地のMS隊は発進準備のまま待機だ。
それでMk2三号機は出せないのか? そうか、艦載機、搬入急がせろ。直接乗り付けさせるんだ!! コロニーにいるアムロにも直ぐに戻ってくるように伝えろ。
MS隊はコロニー内で待機。折を見て全機一斉出撃させ数で押し潰す。急がせろ!!


ブライトの指令を余所に、警戒態勢でしかなかったティターンズ所属のサラミス改が二隻、赤いMSに撃沈された。
このうちの一隻はミサイルの弾薬庫に誘爆して大量のデブリを撒き散らす。コロニーの外壁が傷つく。

(コロニーには1000万人は人が住んでいるんだぞ。それもお構いなしか、テロリストめ)

そもそもコロニー近辺での戦闘は地球連邦とジオン公国の『リーアの和約』で厳禁とされており、法的に見るとこのガンダムMk2の実弾演習事態が黒に近い灰色と言う事態である。
そんな中でのこの猛攻。明らかにジオン軍では無い別の存在である、それをブライトは感じた。
コロニー国家であり、地球連邦と言う超大国と唯一対等の同盟国の地位を何とか手に入れたジオンがこんな暴挙をする筈がない。
個人的には嫌いだがギレン・ザビの政治手腕はあのウィリアムさんも認める程の実力がある。だから、だ、これは違う。

「か、ブ、ブライト艦長!! カクリンコ・カクーラー、ジェリド・メサ、アジス・アジバの機体が出撃します」

その報告は驚愕である。
今なお、一方的に固定砲台やボールを改造した無人迎撃砲台を撃破しているテロリストの新型MSは明らかにガンダムMk2に匹敵する性能がある。
それだけでは無い、例の緑色の機体、どうやらコードネームは『キュベレイ』というらしいが、これは間違いなく尖がり帽子の系譜を受け継いだジオンのニュータイプ兵士用の兵器。
それを僅か三機で止められるものか。

「三機だけだと!? 止めさせろ!! 数を出さなければ撃墜されるぞ!!」

だが、その判断は虚しく三機のRMS-106 ハイザックが出撃した。

「バカが!! 直ぐに呼び戻せ!!!」

ブライトが珍しく罵倒した。そして、その悪い予感は即座に現実となった。三機とも赤い新型機と同系統の黒い二機の機体によって撃墜された。
どうやら敵の方が何倍も上手の様だ。良い様に手玉に取られている。そして、コロニーのベイやドッグを破壊されて出港が出来ないティターンズ艦隊。
タチバナ中将指揮下のΩ任務部隊は全て密閉型コロニーであるグリプス1から6までの専用ドッグに入港しており出港できる状態では無かった。
MS隊も平時で金曜日の午後8時半という時刻もあって最低限しか展開してない。その最低限の部隊もサイコミュと機体性能差の為か、一瞬で落とされてしまった。

『ブライト副司令』

声がする。女の声がした。それはガンダムMk2一号機のシェリー中尉の言葉であり、彼女の悲しそうな言葉が戦場に響いた。
そんな悲しそうな言葉を出すくらいなら最初から戦場に来るな。戦争をするなと言う罵声を辛うじて飲み込む。

『これ以上の犠牲は出したくありません。お互いに矛を収めましょう。もう充分です』

勝利者の余裕か? だが、この現状では仕方ない。受け入れないとコロニー本体を攻撃するとまで言ってくるかもしれない。そうなれば収拾はつかない。
現在、サイド7には密閉型コロニー6基、開放型コロニー4基の計10基が展開していて8000万人が居住している。
仮にコロニーに大穴を開けられたらそれらの人々に確実に犠牲が出る。それは軍人としてもティターンズの一員としても自分個人としても許せない。
よって、グリプスにいるタチバナ中将と連絡が取れない以上自分の責任でこの戦闘を幕引きするしか無いだろう。

「・・・・・条件は?」

これに加えてテロリストに、反乱勢力に屈服するのは屈辱だがこれ以上部下たちを無駄死にさせる訳にはいかない。
俺一人の首で1000人はいる部下を助けられるのなら助けたい。

『ガンダムMk2二機の譲渡、追撃の中止、それだけです』

そして・・・・・・ブライト・ノア大佐はそれを承諾した。




戦闘終了から約2時間。グリプス1にいる地球連邦軍所属のバスク・オム大佐とティターンズ所属のブライト・ノア大佐が会見している。
議題は無論、二時間前に発生したガンダムMk2強奪事件だ。しかも昼前にはトリントン基地でもガンダム試作二号機サイサリスが核弾頭ごと奪われている。
この事態に対してマーセナス首相は断固とし対応を取る事を宣言。地球連邦軍各方面軍に対して大規模な捜索追撃命令が下った。
が、ここで問題になったのはみすみすテロリストを見逃したブライト・ノア大佐の行為である。バスク・オム大佐はこれを機会に彼を、いや、ティターンズそのものを弾劾した。
何せ、入室したブライトをそうそうタチバナ中将ら参謀や司令官、副官たちの眼前で殴りつけたのだ。そして罵倒する。

「ジオニストめ、貴様の失態で連邦の象徴であるガンダムが奪われたのだ! 恥を知れ!!」

要約するとこうなる。そしてその後も彼は徹底的に怒り、更に三発、顔面に拳をめり込ませた。もっともブライトも思う所はあったのか黙ってこの修正を受け入れたが。
流石に見かねたタチバナ中将が止めに入る。
やがて、ティターンズはガンダムMk2強奪と言う失態から『アレキサンドリア』『ガウンランド』『ハリオ』の三隻をバスク・オム大佐に譲渡。
もともとアレキサンドリア級重巡洋艦はマゼラン級戦艦とサラミス改級巡洋艦の中間に位置する存在で基本的な艦内設計は一緒であった。
故に連邦兵士でも即座に対応できる。ティターンズ系列の兵士は下船させられ、ジャマイカン・ダニンガン少佐をお目付け役とした艦隊が急遽、サイド7を離れた。

「見ているが良い。軍事の事は軍隊であるわれら地球連邦軍が統括する。宇宙にいるエゥーゴなど簡単に掃討してくれる。
ブライト大佐、いいか? 貴様ら軍隊ごっこがしたいだけの素人集団であるティターンズは黙って我々地球連邦宇宙軍の活躍を横で見ていれば良い」

これを同格のブライトに言うのが彼なりの世渡りなのだろう。タチバナ中将も自らの権限を持ってしてこの『正論』を黙殺する訳にもいかず、艦隊の譲渡を認めた。
が、急造されたこの艦隊は母港に帰って来る事は決してなかった。
ジャマイカン・ダニンガン少佐らが最後に発信した映像は緑色の超大型MAに撃沈される『ハリオ』と迎撃に出たハイザックを撃ち落とす赤いMSの姿であった。




宇宙世紀0087.2.14

「ちくしょう!」

パミル・マクダミル中尉が病院のレセプトルームのロッカーに正拳突きをくらわせる。それをエレン・ロシュフィル少尉がオロオロする中、自分ことカムナ・タチバナ大尉とシャーリー・ラムゼイ中尉は医務室に横たわる自分達の上官の姿を見ていた。

「ジオンか!? エゥーゴか!? なんて卑劣な奴らだ!! よくも旦那を!!」

そう、たまたま演習と補給の為にエコール基地に停泊、半舷上陸していた自分たちはこの緊急事態を聞き、即座に駆け付けて、絶句した。
ホテル近辺はエコーズと北米州の州連邦警察、地球連邦中央警察、ティターンズ捜査部門、ジオン親衛隊が戦時下と見間違うほどの警備体制を敷く。
だが、何よりも驚いたのはあの子供の姿だった。あの旦那の娘の憔悴しきった顔。泣き出しそうな顔。それでいて復讐に燃える瞳。
一日前、面会が許された。そこに居たのは幽鬼の様な表情をした一人の女の子。
マナ・ケンブリッジだった。
彼女は友達だと言うミネバ・ラオ・ザビに詰め寄ったという。

『何故ミネバのお父さんは無事で、私のお父さんは死にかけてるの!? 答えて!!!』

そう言ってミネバ・ザビを、ドズル・ザビを、ゼナ・ザビを詰め寄った。
それは自分達と同時に到着したダグザ少佐にも同様だったと言う。曰く、『何故お父さんを守ってくれなかったのか?』と。
彼女はまだ10代前半でしかも誰よりも多感だった。あの時に一番にこう言ったと言う。お父さんが殺される。急いで。急いで。と。
ジオン・ズム・ダイクンが提唱したニュータイプなのかもしれない。場違いにもそう思わせるほどの直感力を持っていたのだ。
そして半信半疑で母親のリム・ケンブリッジが護衛のエコーズ12名と共に最上階のスィートルームについた時、正にこの時にドズル・ザビが潜入したテロリストの女を拘束していた。
そして、リム・ケンブリッジは見た。血だまりに伏せる伴侶の姿を。そして子供たちは見た。血だまりの中で、目を開かない父親の姿を。

「ウィリアム!」

必死に止血する母親。母が着ている白いスーツが真っ赤に染まっていくその姿をジンは、マナはただ目に焼き付けてしまった。
必死に心臓マッサージと人工呼吸を繰り返し蘇生作業行う母の姿は、あの欧州反攻作戦への出兵の日以上の恐怖を二人に与える。だが血が止まらない。血はいつの間にか母親の両手を真っ赤に染め上げてしまった。
それは一種の幻想さを持って二人の目に焼き付いた。兄のジンがしりもちをつく。黒のブレザーが折れ曲がる。
そして、父親から流れでた血は川となり、大理石の床を伝って、血がマナ・ケンブリッジの皮靴を濡らした。
そして失禁していたミネバ・ラオ・ザビが泣き出したとき、マナが動いた。

『お父さんをどうしたの!? ミネバ!!! 答えて!!!』




「彼の様態は?」

ゼナが聞いてくる。本来ならミネバを守るのは俺、ドズル・ザビの役目。その俺の代わりに撃たれた男。ウィリアム・ケンブリッジ。

(ゼナよ・・・・駄目だ・・・・無理を言うな・・・・その問いに答えられる訳がない)

心配するな、大丈夫だ。あの男は俺なんかとは比べ物にならないくらい強い。でなければ兄貴たちが認める筈がない。
そんな心配そうな顔をするな。あの男も浮かばれん。

そう言って俺はゼナを送り出したい。
だが出来ない。俺は嘘は嫌いだ。無能者にはなれるが嘘吐きに離れない。だから答えられなかった。
俺たちミネバの周囲にはジオン本国のサスロ兄貴から送られた親衛隊が護衛している。
俺たちも護衛の部隊とともにケネディ宇宙港からジオン本国に帰国しなければならない。
いつまでも此処に居てはあの女性にも迷惑がかかるだろう。それは避けたい。そして俺は昨日、地球を離れる最後の夜に集中治療室にいるあの男に礼を言った。



『ミネバを守ってくれてありがとう。次は俺がお前を助ける。だから死ぬな。生きろ』



と。



「お父様」

シャトルの座席に座るミネバが泣きそうな顔で俺を見上げる。
どうしたのだ? 無言でそう聞くとミネバは泣きながら言った。

「私・・・・・私・・・・・ジンお兄ちゃんとマナお姉ちゃんに嫌われちゃった。せっかくできたお友達なのに・・・・・お父様どうすればいいの?
どうしたら許してもらえる? お父様ならどうする? 私・・・・・いやな女なのかなぁ・・・・・ウィリアム様・・・・・死んじゃうの?
マナお姉ちゃんはもう私と会ってくれないのかなぁ・・・・どうすれば良かったの? 私が代わりうに死ねば良いのかな・・・・お父様・・・・助けて」

こいつは困った。まだルウム戦役やア・バオア・クー攻防戦の方が勝率があっただろう。それくらい追い詰められた。
娘の涙とはこれ程までに強力なのか? 柄にも無く笑顔でゼナが何かを言う前にミネバを安心させるように穏やかな声で伝えた。

「大丈夫だ。お父さんが一緒だ。それにミネバは何も悪くない。悪いのはエゥーゴとか言うテロリスト・・・・難しいかな?
悪い大人たちなんだ。この俺が、父さんが居る限りお前は安心だ・・・・・ジン君とマナちゃんにはウィリアムおじさんの体調が良くなってから謝ればすむさ。
お前たちは友達なんだから。大丈夫、ミネバとあの二人の間はこんな事では引き裂かれる事は無い。ずっと友達でいられるぞ」

本当?

本当だ。

ドズル・ザビは内心によぎった最悪の答え、ウィリアム・ケンブリッジの死という考えを無理やり押し殺して帰国する。
また、彼に、ティターンズ副長官としてではなく一人の大人として見てくれた男が死にかけているという事実に、ミナバ・ラオ・ザビもまた深い心の傷を負って帰国の途に着く。



地球連邦政府はティターンズ副長官ウィリアム・ケンブリッジ暗殺未遂事件発生と同日にガンダム試作二号機、ガンダムMk2が2機強奪された事を公表。
ジャミトフ・ハイマンは下手に隠蔽工作を行っても、どっかの誰かの馬鹿の選挙対策でリークされて明るみに出るであろうから、そうなるよりも先に自分達が抑えるべきだと感じた。
それは今のところ正しく機能しており、戦略核弾頭、戦術核弾頭が強奪された事も公表され、地球連邦軍は全力を挙げてジオン反乱軍(亡命軍と過激派双方が合流した事でこの名前が定着)を追討すると宣言する。
その一環として自分達ロンド・ベル隊、タチバナ小隊もアルビオンと共にエコーズ基地に寄港したのだった。
そして何も出来ない事に苛立つ。四人そろって宿舎のロビーで苛立つ。

「兄貴、兄貴はなんとも思わないんですか? 俺たち有色人種や姐さんらのような非主流派だった太平洋経済圏のみんながティターンズっていう超エリート部隊に入れたのは旦那のお蔭ですよ。
いわば俺たちの恩人です。それなのに・・・・しかも旦那は子供たちの前で撃たれたっていうじゃないですか!?
これじゃあ旦那や准将、あの子らが可哀想すぎますぜ!!」

そこで黙ってコーヒーを飲んでいたシャーリーがコーヒーを一気飲みして怒る。
ティターンズの士官用制服を着ていた為、飛び散ったコーヒーはあまり気にはならないがしっかりとクリーニングに出さないといけないな。
そう思いながら集中治療室に横たわっているティターンズ副長官を見続ける。

「うるさい! それくらいカムナ君だって分かってるわよ!!」

その剣幕に怯むパミル。そうだ。自分だって怒っている。だが、何ができる?
心臓の手前で止まった弾丸。ここにいる軍医やエコーズの医者では出来ないそうだ。
だから摘出手術をするのは医療の世界では最も有名な医者らしいが、それを監視する事か?
いくら世界最高峰の医者とはいえあの若さ。他に人材はいないのだろうか?
が、そもそも専門的な医療技術がある訳では無い自分に何かが出来る筈も無い。ならば成すべきことは少ない。

「祈ろう」

ふと、つぶやいた。それは全員に聞こえたらしく全員がこちらを見る。
そしてもう一度言った。今度は消えるような声では無く、しっかりとした凛とした声で。

「祈ろう。あの方は、副長官はこの時代に必要な方だ。だからきっと生きる、生きてくれる。そう信じよう」





一方、ジオン公国では激論が交わされていた。当然である。
今回のガンダム試作二号機強奪事件はジオンの交流団体が行ったいわば身内の反乱である。しかも連邦軍の横面を思い切り張り倒した行為だ。
ガンダムMk2を奪ったのもタチアナ・デーアという連邦に潜入させていたスパイ。即座に記録を抹消したがこういう諜報戦で一日の長がある連邦情報局であるCIAや連邦中央警察のFBIを騙せるとも思えない。
そして当然の事ながら、地球連邦軍も地球連邦政府もこの事態に対して、例の特殊部隊を派遣したジオン本国やジオン軍へ厳重なる抗議活動をかけている。
当たり前だ。ジオンの精鋭部隊がこんな事件を引き起こしたのだ。どう考えてもジオン側に責任の所在があろう。
彼らの派遣した部隊が地球に残ったジオン軍亡命軍と共同して地球連邦のトップシークレットだった機体を強奪した。
しかも戦略核兵器付きで。これで怒らない方がどうかしている。
この件はマ・クベ首相を経由してギレン・ザビ公王に直接知らされた。ウィリアム・ケンブリッジ負傷の報告と共に。
先に議題にあがったのはウィリアム・ケンブリッジの方だった。こちらは連邦軍の過激派、いやエゥーゴのメンバーが勝手に行った事だから対応がしやすい。
曰く、全責任はエゥーゴ支持者にある、ジオンは無関係である、と。

「それで、ウィリアム・ケンブリッジは死んだのか?」

今なおジオン公国の全権を担うと言って良いギレンは極めて冷徹に聞く。
ウィリアム・ケンブリッジは自分の親友のような間柄だがその間柄に、政治に私情を持ち込むほど落ちぶれてはいない。
晩年の父親は政治に私情を挟んで世界大戦の引き金を引いた。南極での講和条約締結をご破算にした。
さらには自分の息子たるガルマ・ザビの為だけに軍を動かそうとした。為政者として失格である。それだけは避けねばならない。
これを聞きマ・クベ首相は襟を正し、そこへ産休から復帰しているセシリア・アイリーンが紅茶を注ぐ。
デラーズはガトー大佐、シーマ准将と共に席に座り、その横には部隊を直轄していた事件当事者ノルド・ランゲル少将の姿もあった。
ジオン公国の上層部、その大会合である。そんな中でのギレン公王の発言にサスロ総帥を差し置いてマ・クベ首相が発言する。

「いえ、彼はどうやら無事なようです。辛うじて生きている事をジャミトフ・ハイマン長官からの直接通話で確認しました。
彼よりもむしろ問題は地球連邦のアースノイド市民の感情でしょう。彼らアースノイドは我らジオン公国が裏で糸を引いていると思っている。
このままいけばソロモンとグラナダの連邦軍の任務部隊の艦隊がジオン本国を攻撃する可能性があります。それだけは避けなければなりません」

現在の地球市民の反ジオン感情は悪化の一途を辿っている。それもそうだ。ガンダムを強奪したのだ悪化しない筈がない。
この点ではガンダム強奪事件を極秘扱いにしなかったジャミトフ・ハイマンの先見の明があったと言える。政府批判を巧妙にジオン批判へと動かし、尚且つ反ジオン暴動を抑えると言うのは並みの政治家では出来ない事だ。

(やはりあのウィリアムの上司達だけの事はあるな。マーセナスもゴールドマンもエッシェンバッハもハイマンも危険な男だ。
尤も、味方でいる間は非常に安心できる存在なのだがな。まあ良い。)

ここでアナベル・ガトー親衛隊第一戦隊司令にして大佐が発言を求める。
それを許可する議長役のエギーユ・デラーズ中将。伊達にギレン崇拝者と呼ばれてはおらず、その政務能力や統率力は侮れない。

「・・・・しかしマ・クベ首相、インビジブル・ナイツの様な救国の志、愛国の情熱を持った青年らを犠牲にするなど・・・・その点はどうお考えか?
我らの名誉や彼らの救国の志はどうでありましょうか?」

その言葉にシーマ・ガラハウ准将は内心で部下のガトーの評価を下げた。少なくとも第三戦隊司令官であるヴィッシュ・ドナヒュー中佐よりも遥かに劣る。
親衛隊は政治的な部隊でもある。それが地球連邦との関係を悪化させる発言をする様では困るのだが。
本人は武人なので仕方ない。仕方ないが仕方ないですませられない。だから注意しようとして手を上げ、それをマ・クベ首相が遮った。

「名誉? 大佐、今、貴官は名誉と言いましたな?」

確認する様に、いや、実際に確認するマ・クベ首相。
それに頷く事で答えるガトー大佐。

「ハ、首相」

その言葉には武人としての誇りと少数での奇襲作戦成功への感動があった。
それがマ・クベら文官やサスロ・ザビら官僚ら、シーマ・ガラハウを不快にさせた。当然だ。この事件でジオン公国の外交は大きく揺らいだ。
それだけでは無い。今回のガンダム強奪事件とエゥーゴへのジオン兵士の参加は別の意味でも問題を引き起こした。

つまり、『反乱』である。

これによってジオン政府のジオン軍全体への不信感も芽生えている。ジオンの反乱軍やアクシズがエゥーゴと手を組んでいるのは明白になり、ジオン国内もまた爆弾を抱える。
これを見ながらギレンは思う。

(エゥーゴは地球に残った北インドと北朝鮮の非連邦加盟国を利用して勢力を伸ばした。しかも我がジオンと異なり国家としてでは無く非合法組織としての勢力拡大である。
その為か、地球連邦警察の監視下に置かれており、今なお、危険視されている存在でもある。こんな厄介者と手を組むなど正気の沙汰では無い。
これが分からずにエゥーゴと組んだか。見誤るとはな。灯台下暗しとはよく言ったものよ。まさか子飼いの部隊に裏切られるとは・・・・・)

エゥーゴは現在のジオンにとって危険な劇薬。できれば処分したい。
それがマ・クベやサスロ・ザビの意見であり、珍しい事に過激派のエギーユ・デラーズもこの考えに賛同していた。
もっとも、政治的なバランスを取る為か表だっては中立を貫いているが。マ・クベの追及は続く。伊達に地球降下作戦でヨーロッパ全域に中近東を掌握してはいなかった。

「その名誉や独善的な志が我が国を窮地に陥らせている事はご存知か? そもそも何のための士官学校であり軍紀なのか?
彼らは一時の情熱とやらに浮かれて勝手に兵を動かして80億の人口を抱える超大国を再び敵に回す愚行を彼らは行ったのです。それがお分かりなりませんか?
大佐は親衛隊の第一戦隊と言う我が国最強の武力集団の頂点に立つ御仁。
政治的な面の強い私の事を嫌うのは結構ですが、大佐も政治の事についてもしっかりと対応して頂けないと迷惑極まりない。
ギレン公王陛下、私はこう考えます。兵士は個人的な感情で動いてはならない、と。
これは軍隊の大原則の筈。よって、敢えて私は諸兄らに提案する。彼らを、インビジブル・ナイツ、グラナダ特戦隊、さらにこれに同調する部隊を反乱軍として処断すべきである、と」

それはギレンの考えと一致する。
正直に言って今のジオン公国に地球連邦と事を構えるだけの余裕はない。そうである以上、地球連邦とは友好関係を維持するのが賢明。
また反乱軍がエゥーゴと手を組んでいる思われる以上、ザビ家の一族を暗殺未遂事件を起こした手前、それを処断しなければならないのだ。

「ですが、その・・・・・」

ガトー大佐はまだ何か言いたそうだったが、そこでシーマ准将が折衷案を出した。

『ならばガトー大佐が部隊を率いて彼らに投降を促せればよい。彼らが素直に取引に応じるならば銃殺刑は回避させよう。
それでどうか? これならばガトー大佐も納得しよう?』

と。あくまで処断はするが極刑は避ける。それでどうかと言ってくる。
ガトーとてこの事態がジオン本国を危機に晒しているのは分かっている。だからこそ、ガトーとしても無罪放免は主張しなかった。
ただ罪の減刑を求めたのだ。それが彼らの情熱に答える術だと信じて。が、政治の世界ではその情熱こそが危険である。
20世紀後半のアドルフ・ヒトラー、ヨシフ・スターリン、毛沢東、ポル・ポトらが一体全体何人殺したというのか?
まして奪ったのは核弾頭である。これがコロニーに使われたら一気に1000万人は死ぬ。
それは避けなければならない。ジオンの為にも、スペースノイドの為にも、地球圏全体の為にも。




宇宙世紀0087.02.25日

事件発生から約二週間。反乱軍とガンダムMk2強奪犯は声明を公表した。共同声明として現在の地球連邦の支配体制を批判。
地球は既に人類の住むべき星では無く、人類全体は宇宙に住むべきであると主張する。
更にだ、これに加えて反地球連邦運動の過激派閥「ヌーベル・エゥーゴ」とその指導者タウ・リンがジオン反乱軍と強奪犯を支援する事を正式に表明。
地球圏全土は嵐が巻き起ころうとしていた。
この情勢下で、首相官邸府であるヘキサゴンと呼ばれるビルにジャミトフ・ハイマンとブレックス・フォーラーが到着する。
戒厳令下のニューヤーク。首相だけでなく閣僚や軍上層部、更には財界の大物まで出来うる限りの連邦政府に影響力を持つ人間を守るべくエコーズは行動。
全エコーズ構成員が不眠不休体勢で彼らを守る。ジム・クゥエルが120機も展開する大規模な防衛線を構築した。マーセナス首相が入り、それを皆が迎える。その会議が始まる。

「ウィリアム君の件は残念だ」

それがマーセナス首相の最初の言葉であり、会議冒頭のあいさつであった。

「確かに彼は生きている。いや正確には生かされていると言った方が良い。辣腕家である彼の力を借りれられないのは痛いが、今はあのケンブリッジ家には関わらない方が無難であろう」

その言葉に頷く閣僚ら。忌々しい事だがまさかあそこまで厳重な警戒網を突破するとは思ってなかった。。
ここでゴップ大将が意見する。彼も統合幕僚本部長として8年間にも及んだ勤務からそろそろ解放しなければならない。
統合幕僚本部勤務は二期10年と相場が決まっているのだから。

「確かに。この2週間で面白いほどの情報が入ってきている。尋問こそ続けているが・・・・・幸い相手がテロリストであるから国内や軍内部の反発もない。
寧ろ同情票が集まっている。だが、この度の一件で未だに意識不明の重体である彼の現役復帰を望むのは非現実的であろう。
当面はティターンズの指揮権はジャミトフ君とブレックス君に任せようと思うが・・・・・どうかな?
ここで一極集中を行えばエゥーゴの再度のテロ行為を誘発するものと私は思うのだがね。身内の恥をさらすだけだが軍部だけでは彼らの、そして政府首脳部の安全を保障しかねる。」

ゴップ大将の意見にジャミトフ長官は思った。

(そう来たか。これは私への権力一極集中を嫌ったゴップ大将とマーセナス首相の行為だろう。特に次の地球連邦政府首相を極東州のオオバ首相かオセアニア州州議員のゴールドマンとしたいマーセナス首相としては番犬に首輪をつけたいと言う事か。
そしてこの提案に今まで軍の中立派であったゴップ大将の意見に乗ったか。彼も軍政家として辣腕を揮っている。しかも北半球方面軍総司令官であるグリーン・ワイアット大将とも仲が良い。
一方で南半球方面軍総司令官のジーン・コリニー大将は最近塞ぎ込むことが多くて表に出てこないがそれを良い事に代理のバスク・オムが勝手に動いている。
ガンダムMk2強奪犯追撃戦でアレキサンドリア級重巡洋艦を三隻、サラミス改級巡洋艦を5隻も失っておきながら、追撃戦失敗の責任をタチバナ中将に押し付けた。
もっとも、ノイエ・ジールと呼ばれている機体、大型MAはビーム兵器を無効にする上に対艦戦闘用に特化した兵器であったので仕方ないと言えば仕方ないのだろうが。
いや、前線で戦う将兵にとっては死活問題でも、後方にいる面々にとってはそれ程ではないのだから・・・・バスク・オムか。ウィリアムの言ったとおりの人物だったな)

そう思わざるを得ない。そこで次期首相候補の一人であるゴールドマン議員が発言した。

「ゴップ大将の件はそれでよろしいのでは無いでしょうか? ティターンズによる独裁政治化を最も恐れたのがケンブリッジ副長官です。
それならば彼の意思を継いで権力を分散すべきです。
また、これはエゥーゴやジオン反乱軍などの対テロ対策にもなる。理に適っていると私は思うのですが皆さんはどうでしょうか?」

レイニー・ゴールドマン(オセアニア州出身)の発言に靡く人々。分かってはいる。いつまでも一人の、自分ことジャミトフ・ハイマンの力だけでは動かない事を。
だが、だからこそ、自分と最も思想の近いウィリアム・ケンブリッジを副長官に任命したのだ。彼ならば融和政策のトップに、地球環境改善に相応しいと。
実際、この4年間の戦後復興は順調であったのは彼の、ウィリアム・ケンブリッジの活躍が大きい。自分から被災地に出向く行動力。物事の本質やいま最も必要とされる物資を見抜く力などは得難い能力だった。さらに何故か知らないが自分を初め多くの人々の希望になる。
しかも効率的に資金を運用してこの数年間でオーストラリア大陸の緑化政策は大成功を収めつつあった。また、水資源を利用した北アフリカのダカール周辺の緑化にも成功している。
本人は嫌々やったと否定するが今や彼は地球連邦でも最大クラスの政治家なのだ。既に一官僚では無い。
それが失われた。いや、失われつつある。そして意外な事に自分の心に大きな穴が開きつつあるのをジャミトフは感じた。

(失って初めて人はその価値の大きさに気が付くと言う。まさにその通りだ。まさにその通りだった。ウィリアム。お前は得難い人財だったんだぞ。
死ぬんじゃない。頼むから死ぬな。
私はお前の様な素晴らしい後輩に会えたことを誇りに思っている。だから私よりも先に死ぬな!)

ジャミトフが久しぶりに神に祈っている間にも議題は進む。ゴップ大将はこの機に乗じてティターンズの権限を従来の戦後復興にのみ集中するべきだと発言した。
強奪されたサイサリス(ガンサム試作二号機)、ガンダムMk2は地球連邦軍が奪還するべきであると。

(自身の復権? いや、どちらかというと保守派の穏健派のゴップ大将にしては露骨すぎる。これは別の意図があるな)

ウィリアムへの祈りの傍らで黒を基調としたスーツを着たジャミトフは思った。ゴップ大将は見かけによらず辣腕軍政家だ。
レビル将軍を支持する傍ら、戦争終結の為の独自の道筋を作り、ギレン=ウィリアム会談を成功に導いた。
そんな男が単に自己の権益を得る為だけにティターンズの権限縮小を望む筈がない。

「ゴップ大将、何故そこまでティターンズの勢力削減に取り組むのだ?」

レイニー・ゴールドマン国務大臣(地球連邦国務省=連邦政府内部の各州構成国の意見を調整する省庁)が聞く。
それはこの場の多く人間疑問だった。

「簡単ですよ、ティターンズ独裁を世に知らしめては、反政府組織であるヌーベル・エゥーゴや他のエゥーゴ派閥は団結する。
ならば地球連邦軍が代わりに彼らを鎮圧する。これは弾圧ではない。彼らは核兵器強奪と言う禁忌を犯している。
それに元々地球連邦軍は嫌われていますからな。それに実際問題としてエゥーゴは反ティターンズで纏まっている感じが強い。
ならば連邦軍が出る事でその旗頭を崩してしまうべきです」

言っている事は正論だろう。ティターンズの権限が強化されるにつれてエゥーゴの現政権に対する反発も強まった。
そしてそれが今回のガンダムMk2強奪事件に繋がっている。
しかし、それではジオン反乱軍についてはどうなるのか?それを聞かなければならない。

「ジオン反乱軍についてはどうお考えでしょうか?」

ブレックスがゴップ大将に質問する。それはこの場の大半の代弁になる。
黙って聞く。円卓会議室の各々の前に置かれた冷たい水とそれ専用の水のポットが結露して会議室の机の上に水たまりを作っていた。
軍服対スーツが3対7で連邦も民主主義、文民統制を復活させつつある現状で連邦軍に新たなる権限を与えたくないというのが政治家らのパフォーマンスだった。
しかし三機のガンダム強奪事件でそれは叶わない事象になってしまった。
サイド7で開発されていたガンダムMk2は奪われ、追撃に出た艦隊は壊滅。生き残りはサラミス改級巡洋艦『ボスニア』一隻のみ。
これでは連邦軍に出動を求めるしかない。ティターンズはあてにはならないと言う意見さえ上がっている。尤もその大半は反ティターンズ派の面々なので今さら感が強いが。

「ジオン反乱軍の拠点は分かっているのでないかな?」

逆にゴップ大将が聞いてくる。これに答えたのはパラヤ内務大臣(内務省=治安維持、国内航路整備など流通を主に手掛ける)だった。
因みにパラヤ議員。リベートを取るだけかと思ったらウィリアム・ケンブリッジと言うライバルが近くにいた為か精力的に行動しており、マーセナス首相やエッシェンバッハ議長、ブライアン大統領らから見ても及第点を与えられる活躍をしている。

「ここです、ニューデリー。北部インド連合の首都です。彼らはここにかくまわれています」


それを見てゴップ大将は言った。

「ならば簡単だ。外交筋から圧力をかければ良い。彼らが核兵器を使うと言うのならばこちらも核兵器で反撃するまでだ。
地球環境に与える被害を考えると心が痛いが・・・・・こればかりは仕方あるまい。そうではないですかな?」

反論は無かった。




「・・・・ジャミトフ・・・・貴様、大丈夫か?」


会議が終わった後で自分はブレックスに呼び止められる。連邦軍少将の軍服を着ている彼と私服のスーツを着ている自分。
思えば遠くに来たものだ。あのリニアカーで地球問題やジオン問題を議論していた頃が懐かしい。あの頃はまだ双方とも同じ准将だったのに。

「ああ、ありがとう。何ともないが・・・・それで一体何だ?」

書類を近場の机に置いてソファーに座る。
ブレックスもそれを見てソファーに座った。言いたい事があるのだろう。一体何を言いたいのやら。

「バスク・オムだ、あの男はやり過ぎではないのか?」

それか。
バスク・オムはティターンズの所属で無いにも拘らず、ティターンズの艦隊を自分の統制下において追撃戦を行った。
これで勝利すれば問題は無かっただろうが敗北した為に大問題が生じた。
Ω任務部隊司令官のニシナ・タチバナ中将が責任を取るのか、それともバスク・オム大佐が責任を取るのかで大揉めに揉めている。
これにガンダムMk2強奪事件のティターンズ側当事者だったブライト・ノア大佐の進退問題が加わってグリーン・ノアの人事は難航していた。
現在は第1艦隊司令官のクランシー中将が任務部隊司令官を代行している。

「それは思う。彼は過激すぎる。まるで誰かを・・・・・いや、この場合はティターンズそのものを排除したいのだと思う。
だが、少なくとも追撃戦を行った事に対しては問題は無い。敗れたのは将兵らの責任だと言う主張もあながち間違いでは無い。
敵艦は1隻、こちらはアレキサンドリア級重巡洋艦が3隻、サラミス改級巡洋艦が8隻居たのだ。
幾ら敵軍にノイエ・ジールやキュベレイ、リック・ディアスという様な映像で見た強力な機体が存在していたとしてもこの敗北は一方的すぎる。
これではバスク・オムよりも現場指揮官だった者の方を処断せざるをえないな」

ブレックスも同意見ではある。人情派の一人とはいえ、彼もまた地球連邦軍の軍人。何が良くて何が悪いかは分かっている。
が、それでもバスク・オムの態度はいただけない。
彼が数年前にア・バオア・クー要塞駐留艦隊司令官として勤務していた時の人事評価を見せてもらったが決して親スペースノイドでは無かった。
寧ろジオンやスペースノイドの反感を育て上げていたといっても良かった。それも当時のジオン将兵の発言を信じるなら故意に、である。
実はそれがインビジブル・ナイツとグラナダ特戦隊の決起に繋がり、ジオン亡命軍の軍事行動を誘発したのだが神ならぬ身の二人にはそこまでは分からない。
分かっているのはバスク・オム大佐が非常に有能でありながらも保身に長けており、止めに反ジオンと言う思想を持ってティターンズの足を引っ張る事に喜びを感じているのではないかという厄介極まりない事実である。

「そうだが・・・・・いっその事左遷してみてはどうだろうか?」

左遷か。考えた事も無かったがそれはありだ。が、問題もある。軍も企業と同じで露骨な左遷など出来ない。
まして軍人としてはそれなりに評価されている人物だ。だが方法論としては悪くない。左遷と言う考え自体は全く悪くない。寧ろ好都合だ。

「そうだな・・・・・コリニー大将は退役するのか?」

話を変えてみる。ふと一つの名案が思いついた。

「分からん。だが、往年の気迫はもう無いだろう。この8年間ですっかり痴呆の方も進行していると言う噂だ。
軍事参事官の職も解かれた。彼の影響力は無くなったと言って良い。問題は彼の派閥を事実上裏で操っている男、つまりバスクだ」

忌々しそうな声だ。珍しい。もっともサイド2の30バンチコロニーにG3ガスを注入してデモ隊の鎮圧を立案した大馬鹿野郎だ。
それを知った時のウィリアムの怒りは凄まじく、軍法会議に、いや刑事法廷に引きずり出せと言ったほどである。

「やはりバスク・オム大佐か。そうだブレックス、お前の所で飼い殺しには出来んか?」

Z任務部隊所属にして飼い殺しにする。だがこれには危険が伴う。仮にブレックスに何かあれば、いや、何かしてしまえば艦隊を掌握できるのだ。
Ω任務部隊とX任務部隊の二つしか充足を満たしてない以上、ここで予備兵力にして対ジオン抑止力のZ任務部隊を失う訳にはいかないであろう。

「出来ないとは言わないが、したくないと言うのが本音だな。あいつは生理的に好かん。
それに冗談抜きに寝首をかかれそうだ。そして任務部隊の指揮権をあの男に奪われる・・・・最悪の事態だな。
いっその事、前線に追いやってジオン反乱軍に殺されてしまえば気が楽なのだが・・・・・すまん、こんな愚痴に付きあわせてしまって」

珍しく気落ちしている。ああ、そうだった。今日は彼の両親の命日だ。ブレックス・フォーラーと言えども愚痴を言いたい事はあるだろう。

「何、気にするな。俺貴様の仲だろう・・・・・それにそうか。その手があるか・・・・・考えておく」

そう言って今日は二人で飲み明かした。昔のように。





エゥーゴ勢力と接触したシャア・アズナブルはエゥーゴ内部の徹底的な過激派である『ヌーベル・エゥーゴ』のタウ・リンと相互援助協定を結んだ。
地球経済圏の復興に取り残された感のあるルオ商会とAE社はキャスバル・レム・ダイクンに投資する事で地球圏全体の戦乱の発生を狙う。
方やシャアも思った以上に盤石なティターンズ体制、連邦=ジオン同盟を崩すべく暗躍を開始した。
この動きに同調するサイド1、サイド2、サイド4、サイド5の4つのコロニー群。総計20億の民が反地球連邦で動き出した。
また月面都市群の幾つかも地球連邦への反感を募らせており駐留艦隊のY任務部隊はこれの弾圧に乗る。
そして弾圧は更なる反発を招く。この反発が更に抵抗を呼ぶのだから人生ままならぬものであった。

「それで地球にいる同志たちにコンタクトを取れたのか?」

シャアがレコア・ロンド中尉(エゥーゴ支持の地球連邦軍士官)に聞く。傍らにはジオン軍の軍服を着たシグ・ウェドナー大尉とララァ・スン大尉の二人がいた。部屋にはこの四人しかいない。

「はい。これがジャブローの見取り図です。そして水天の涙作戦の方はこちらになります」

そう言って電子端末を見せる。赤い連邦軍の軍服を着たシャアことクワトロ・バジーナ大尉はそう言って確認する。
グワダン艦長のブラード・ファーレン大佐が入ってくる。姿勢を正す。後ろにはエゥーゴに潜入していたミアン・ファーレンの姿もあった。

「これは地球連邦議会が決議した報告書です。ご覧ください」

そう言いつつレコアはこれを出す。中には極秘と書かれた書類が入っていた。


『宇宙世紀0087.03.09 地球連邦首相は前線鼓舞の為に地球連邦軍南米基地ジャブローを視察する。
この際には国務大臣、副首相を除く全ての閣僚が参加する』


罠だな。赤い彗星は直感した。だが、罠にしては美味しすぎる。これに地上のジオン軍が乗らない保証はどこにもない。
まして彼らは核兵器を持っているのだ。これを使って地球連邦首脳陣を一網打尽にすればそれはそれで彼らの目的を達成した事になるのではないか?
だが、グワダン一隻だけでは援護は不可能。とりあえず今はエゥーゴの拠点である月面都市のアンマン市に逃げ込むのが先か。
グワダン艦内の水も食料も足りなくなっている現状ではこれ以上の放浪は自殺行為以外の何物でもない。
流石に火星圏から単独行動して、その後に戦闘まで繰り広げたのだ。物資も心ともなくなる。

「ブラード艦長、グワダンの経路変更。目標はアンマン市。太陽の陰に隠れながら補給に向かう」

ザビ家の体制は盤石。アクシズが動くまではまだ雌伏の時であろう。そう信じてシャアは漆黒の宇宙に消えた。




宇宙世紀0087、2月下旬。エリク・ブランケの父親が逮捕された。
彼はエゥーゴに内通した罪で治安維持法違反で懲役15年の判決をくらう。
それでもこの時の父親はエリク・ブランケの事をこう評した。

『ジオン公国の人間としては情けない限りだが、父親としてはあの子が自立した証と考える。
私は後悔してない。私が逮捕された事には。ただ後悔している事があるとしたらあの子ともう会えない事だけだ。
息子が、いや、エリク・ブランケ少佐に栄光あれ。ジーク・ジオン』




エコーズ市内。宇宙世紀0087.2.26

ティターンズは戒厳令を発していた。各地の部隊は第一種戦闘配置になり、ロンド・ベル隊は急遽招集される事になる。集結地点はエコーズ基地。
そのメンバーらの中には地球連邦情報局に移籍したレオン・リーフェイ二等警視やジオン公国から派遣されたレオポルド・フィーゼラー下院議員(ジオン側の捜査団代表)、レオンの妻レイチェル・リーフェイ(旧姓ミルスティーン)の三人がおり、全員スーツで話し込んでいる。
因みにスーツは全員がナポリの仕立服でネイビーのスーツだった。

「今のところ目立った情報は無し、か」

「そうね、ないわ」

地球連邦側のティターンズ捜査官でもあるレオンとレイチェルが言う。それを聞いたジオン公国下院議員の議員レオポルドは思った。
ジオン側はこの事件をミネバ、ドズルらのザビ家暗殺未遂事件としてジオン本国は調べているが、本当の狙いはウィリアム・ケンブリッジだったのではないのか、と?
その懸念を伝える。どうやら向こうの二人もそう思っていたらしくその件についてはすぐに同意した。

「あの時の状況を再現したメモリーディスクがある。もう一度見て見るか」

そういってレオンがノート型PCにディスクを差し込み、映像を流す。
まずはこうだ。第一に、扉が開く。開いた扉から警護担当だった中佐に化けた女、そう、この時点で誰からがメイクをして彼女を入れ替えていた。
本物の警護担当の人間はトイレで殺されていた。因みに現金2000万テラがその警護担当官Xの銀行口座に振り込まれていたがこれは恐らく擬態だろう。
そのまま扉を開き、銃口を向ける。使われたのは連邦軍の正式拳銃だ。サイレンサー付き。この時点で扉の前にいたSPは催眠ガスで眠らされた上で殺されていた。

(空調に設置されていた事を考えると、この暗殺計画は随分と前から用意されていたのだろうか?
だとしたたら重大な裏切り者がジオン、連邦上層部にいる事になる・・・・これは慎重に吟味する必要があるな。
誰が敵で誰が味方か分からない。これは独立戦争の方が余程気楽だ・・・・少なくともドズル閣下の怒りの方がまだましだ。)

レオポルドの思惑をよそに画像は進む。
そのまま発砲する女Y。三発の銃弾がケンブリッジ副長官の背中に、つまりミネバ・ラオ・ザビを庇った体勢の彼に着弾する。
鮮血が飛ぶ。その瞬間、ドズル・ザビが銃口をものともせずに突貫。Yを壁際に激突させる。この時に不幸中の幸いで火災警報装置が誤作動を起こしたため、警備兵や警護員全員が動き出した事が調査で分かった。
そして何故か父親の危険を察知したというマナ・ケンブリッジの声に導かれ、白いスーツと白いスラックスを着用したリム・ケンブリッジが到着。
即座に止血作業に入る。一方でYはドズル・ザビに一本背負い投げを受け、大理石に頭を強打。そのまま彼が関節技で羽交い絞めしている隙に警備の一人が銃を奪う。
舌を噛み切ろうとして、そこにジン・ケンブリッジが慌てて自分の手を入れてそれを防ぐ。
結果、暗殺者である女Yは確保できた。

「何度見ても嫌な映像ね」

レイチェルがそう言う。同感だと言う感じでレオポルド議員も頷いた。ドアがノックされる。
咄嗟に全員が拳銃を懐から引き抜き、安全装置を解除して構える。

「どうぞ開いています・・・・・ゆっくり・・・・ドアを開けなさい」

レイチェルがそう言う。懐からは拳銃を引き抜いている。
無言でドアの左右を固めるレオン捜査官とレオポルド議員。この点は双方とも従軍経験があるので、この手のものはお手の物だ。
そして入って来たのはジオン捜査団の秘書官の一人にしてギレン・ザビ時代の総帥府勤務だった女性。
例のジオン公国最後の反乱と呼ばれた『暁の蜂起』の情報を、アンリ・シュレッサーが首謀者だと突き止める切っ掛けの情報を一番初めに知ったと言う女性でレオポルドの幼馴染。

「ちょっとちょっと、レディにこれはないんじゃないですか?」

銃口が向けられても平然としているのは流石ザビ家、否、サイド3のエリートであろう。
伊達にレオポルドと一緒にジオン警察と共にアンリ・シュレッサー准将捕縛の為に首都防衛大隊本部にいった訳では無かった。

(尤もアンリ・シュレッサー当人は依然として行方知れずであり、今なお懸賞金付きでジオン警察が追っているが。
或いは今回のエゥーゴやドズル閣下、ミネバ閣下暗殺未遂事件と何か関係があるのかも知れないな)

トースターにバター、コーヒーにサラダ、卵焼きにベーコンという朝食を4人分持ってきた彼女、エリース・アン・フィネガン捜査官を見ていつの間にか朝が来た事を知る。

「はい、みなさん朝食です。少し休みましょう」

そう言って配膳するエリース。だが次の言葉にエリースを除いた全員の動作が止まった。

「そう言えばリム・ケンブリッジ准将が例の暗殺者との面会に向かったそうですけど・・・・知っていますか?」

愕然とする三人。食器を叩きつけるように机に置いて、駆け足で直ぐに部屋を出る。不味い。非常に不味い。
リム・ケンブリッジの焦燥は今でも思い出させる。
謝罪するドズル・ザビを睨み付け、彼の手を握っている女将官。ただひたすら願う。ただただ願い乞う。



『ウィリアム・・・・死ぬな・・・・死ぬな・・・・死ぬな・・・・死ぬな・・・・死ぬな・・・・死ぬな・・・・・お願い・・・・・お願いだから死なないで。
私を置いて逝かないで!! ウィリアム!! 目を開けなさい!!! 早く目を開けてよぉ・・・・耐えられない・・・・・こんな事・・・・・・こんな事って無い・・・・・私より先に死んだら許さない。
絶対に許さない。だから目を開けて・・・・・・お願いだから・・・・・何でもするから!!
だから子供たちを置いて死なないでよ!!! お願いだから目を開けてぇぇぇ!!!』



子供らが寝たのを確認した途端の狂乱。それだけ彼女は追い詰められた。戦後8年だ。紛争も身近には無く、退役した彼女にとって突然舞い降りた死神とその鎌。
それが彼女から理性を奪っていく。
手術は成功した。だが、彼の意識は出血多量により戻らない。それが恐ろしいのだ。
彼女は、いや、あの一家はずっと集中治療室の前で殆ど寝る事も食べる事もせずただ夫の、父親の、ウィリアム・ケンブリッジの回復を願っていた。
それは見ていて痛々しい程で、慌てて駆け付けてきたブッホ書記官やダグザ少佐が無理矢理睡眠薬を投薬して眠らせたほどだ。

(その女性が一人で面会? しかもこんな朝っぱらから? 誰にも相談せずに? 絶対に何かする筈だ!)

レオポルドが焦っている傍ら、ティターンズのロンド・ベルに配属された者に配られている特注の無線機で周囲の者に連絡を取るレオン捜査官。
そう言えば彼は情報部の出身だったな。ならばこういう事は慣れていて当然だな。

「こちらレオン、繰り返します、こちらレオンです。レイヤー隊長、カムナ隊長、ダグザ少佐、至急取調室に急行してください。
訳は後で伝えます!!急いでください!! はい、そうです、お願いします!!!
マイク、聞こえるか!? そうだ、俺だ、いいか、ガスバーナーか爆薬を持ってこい。何許可が下りないだと?
だったら近場の整備兵でも軍人でも警察でも捕まえてこう言え!! 地球連邦の北米州CIAを敵にしたくなかったらぐずぐずするな!!とな!!」




夢を見た。夫が死んでしまう夢だ。ウィリアムが私の手の届かない場所に行ってしまう夢だ。

夢を見た。子供たちが泣いている。今はもういないウィリアムと言う存在に対して泣いている姿だ。

夢を見た。喪服に身を固めた自分が墓石の前に立っている。泣き崩れる自分の姿だ。

夢を見た。墓石の前で高笑いする人間どもの、あの女の夢だ。

夢を見た。娘が笑いながら人を、あの暗殺者を殺している。そしてより多くの人を殺す光景だ。

夢を見た。息子が泣きながら娘の首を絞めて殺している姿だ。娘は達観した表情でそれを受け入れている。

夢を見た。きっとこれは未来なのだろう。ああ、そうか。きっと最初の分岐点はマナがあの女を殺すところ。

夢を見た。覚めない悪夢を見た。私の大切な大切な、愛しい愛しい存在たちを奪われる悪夢なのだ。



あの女を殺さなければならない。そうしなければマナとジンとウィリアムが殺される。



これは戦争だ。



だから私はあの女を殺す。



娘が道を外さない為に。兄が妹を殺すと言う最悪の災厄を回避する為に。



私は私の意思であの女を殺す。



そうしなければ私は私の家族を、私の大切なモノを奪われてしまう。




気が付けば私は警護官を部屋から追い出した。どうやって追い出した?
・・・・・思い出せない。
そもそも何故私はここにいる? 右手に持っている注射器はなんだ?
そして追求した。一体私は何をしているのだろうか? 
そう思うが、目の前で両手を後ろ手を拘束されたこの女の前ではそれさえもどうでも良い事に思える。

「久しぶりね、私を覚えている? ミスY?」

そう言う。この女を最初に見て思い出したのは雪の降るニューヤークのホテル街。
あの日、ウィリアムが私に婚約を決意したと言うあの日、私から元彼を奪った女。
地球連邦T=20の一人として副連隊長とてしてジオン公国に、当時のサイド3、ジオン共和国に赴任し、例の赤い彗星とザビ家の貴公子によって武装解除され、軍籍を剥奪された女。

「ええ、覚えているわ、クソアマ。で、何の様かしら?」

どうやら覚えている様だ。最早この女に理由などもう問うまい。
そんな必要はない。この女は全く持って反省してない。
そんな輩に慈悲など必要ない。
私は夫とは違ってカトリックじゃないのだから、右を殴られて、左も殴られる趣味は無い。

「別に・・・・・簡単よ。あなた・・・・私の夫を撃ったわね? それも最初から夫を殺す気で、ウィリアムをあの子たちから奪うつもりだったのね?


それがどうした? この女の目がそう言っている。
許せない。あの時も自分から男を奪った。その後も嫌がらせを続けた。
そして今まさに最愛の伴侶を奪おうとしている、自分の希望である娘と息子まで奪おうとしている。
少なくともリム・ケンブリッジはそう信じていた。

「そう、なら、私が貴女を殺しても問題は無いでしょ?」

そう言って一気に彼女を押し倒す。このやり取りの一瞬で、リムはYの首筋に即効性の麻酔薬を注射した。
流石の女もまさかいきなりの実力行使とは思わなかったのか唖然とした表情を見せた。

(気に入らない!)

Yの首に両腕を挟み込み全体重をかけてYの肺を押し潰す。窒息死させる気だ。それもかなり苦しませる。
気が付かずに笑みが出る。涙が出そうだ。いや、泣いているのかも知れない。だが、これで私の未来も終わりだろう。
理性がそう言うが感情が命令する。未来がどうした? 自分の子供らが人殺しになり、兄が妹を殺す未来などどんな価値がある。
命を賭けて私はあの子たちの未来を守らなければならない。だから私はそのきっかけを壊す。その可能性を否定する。
それが私に出来る最後の仕事。最愛の人たちを守る最後の仕事。

「死ね・・・・・死ね・・・・・・死ね・・・・・・・・死ね・・・・・・・・死ね」

ただ呟く。
ただただ呟く。

「あの子たちの為に死ね。私とウィリアムの為じゃない、あの子たちの為に!!」

力が強まった。女は、暗殺者は今にも死にそうで、必死に両手をリムの肩に当てる。が、先ほど注射した麻酔の影響なのか殆ど力が出ない。
そのまま意識が失われていく。

「ウィリアムの仇よ」

そこには狂った笑顔を見せながら泣いている女性の姿があった。涙がYの着ている囚人服の上に滴り落ちる。



死ぬ。



これであの夢の様にマナがこの女を殺す事も、ジンがマナを殺す事もない。



全ての罪は私が背負えば良い。



だから死ね。死んでしまえ。そう思った。心の底からそう思った。



正にその瞬間である。



『爆破しろ!』

爆音。そのまま私は誰かに突き飛ばされた。

『脈拍確認!! 生きてます! 失神しているだけです!!』

『よし、まずは准将閣下を隔離しろ、レオン、マイク、絶対にこの事を閣下の子供らに知られるな!!』

『パミル、エレン、Yを連れて行け。シャーリーはそのまま俺と一緒に准将を抑えろ。誰でも良い秘密裏に医者を呼んで来い』




何が起きたの? 何故私は床に押し付けられている? 

あの女はまだ死んでない!? 駄目!! 殺さないと!! 早く、絶対に殺さないと!!

あの女を殺さないと!!! 

マナが人を殺してしまう!! 

ジンがマナを殺してしまう!!! 

そんなの嫌ぁぁぁ!!




『あ、おい! 暴れさせるな!!』

『医者は・・・・くそったれ!! 医者はまだなのか!!』

『兄貴、医者ですぜ!!』

『遅くなりました・・・・こ、これは!?・・・・・さ、先に准将閣下を見ます』

『何か手伝う事は無いの!?』

『ならとにかく右手を抑えて!! そうです、中尉、そのまましっかりと!!』

『よし、注射は終わった。後は薬が効きだすのを待つだけだ・・・・誰が抑えつけろと言ったか!?
丁寧に扱え・・・・・退役されたとはいえ我々の勝利の女神だぞ・・・・・こんな事をしても何も変わりませんよ、艦長』

『と、とにかく彼女も病棟へ・・・・・で、誰がこの事態をあの子らに告げに行く?』

『・・・・・自分が行こう。俺が副長官の側を離れた時に起きた事件だ。
俺にも責任はある。それが俺の・・・・・歯車としての役割だ』

朦朧とする意識の中、私は思った。

(ウィリアム・・・・・マナ・・・・・ジン・・・・・お母さん・・・・・お父さん・・・・・ごめんさない・・・・・駄目な女で・・・・・・ごめんなさい・・・・・本当に・・・・・ごめんなさい)




宇宙世紀0087.04.30

地球連邦軍の目を掻い潜ったインビジブル・ナイツとジオン亡命軍、グラナダ特戦隊が行動を開始する。

「行くぞ、水天の涙作戦開始だ!」

マレットが命令を発する。

「全機、発進。各地の同胞達の決起とエゥーゴの協力に感謝を!!」

エリクが確認する。

彼らの目的は何か、それはまだ誰も知らない。
彼ら以外には。

戦場まで何マイルか? その戦火の先にある存在は何か? その答えを導き出すのは誰なのだろうか?

宇宙世紀0087、戦後8年。遂に新たなる火蓋が切って落とされる。


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