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No.33608の一覧
[0] 【一発ネタ】ゼロミン【ゼロの使い魔】[しらが](2014/07/13 13:05)
[1] 後日談[しらが](2012/07/02 13:16)
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[33608] 後日談
Name: しらが◆08de7a47 ID:88f41ce1 前を表示する
Date: 2012/07/02 13:16

反響が予想外だったので急いで書き上げました
タイトル通り、後日談的な話

ーーーーーーー

 ルイズがピクミンを召喚して、十一日目。
 光陰矢の如しというが、召喚してから今までとは時間の流れ方が少し違っていた。
 それまでのルイズの生活といえば、魔法実践以外から成績を維持するため、空いた時間のほとんどを予復習に時間につぎ込んでいた。暇さえあればルーンのおさらいを行い、杖の振り方を工夫し、精神力を扱うための簡単な練習を行なう。
 だがどれも成果を挙げなかった上、学校では孤立。唯一話しかけてくるものといえば、仇敵である国境隣のツェプルストーのみ。
 緩やかに心は削られ、人目を忍んで涙を浮かべた数は数え切れない。
 
 だが、サモン・サーヴァントを成功してから、ルイズの生活は一変した。
 ピクミンという初めて見る生物の世話をするため、その対処は手探り状態。判らないことがある度、シエスタに泣きつき助言を請う。
 最初の一週間はまさに怒涛の日々。気を抜いてうたた寝すると、ピクミンにオニヨンへと運ばれそうになり、一度はあの謎の光線の一歩手前まで来ていたこともあった。
 ピクミンとともに過ごした生活は、一人で過ごした時間より、数倍の密度で時は流れていた。

 また今まで一度たりとも成功したことのなかった魔法、それを成功したということは、ルイズの精神に僅かな余裕を与えた。
 張り詰めた糸のような雰囲気はガラリと変わり、ルイズ本来の鷹揚で貴族然とした態度へと戻っていた。
 貴族らしいといっても、そこいらにいる凡俗な貴族ではなく、凛々しく毅然とした、他を圧倒し魅了する『貴さ』だ。
 奇しくも、その佇まいは『烈風』と恐れられた母譲りのもの。

 変わったのは、何も彼女の雰囲気だけではない。
 平民、主にメイドたちを筆頭に人気が高騰したのだ。
 ルイズはもともと人形のように美しい容姿をしている。体型の分を差し引いても、彼女が学年五指に入る美少女であるのは明確。
 同学年の男たちは嫌煙する気の強い眼差しも、心に余裕のできたためだろうか、いつもより柔らかになっていた。
 そしてシエスタと交流を交わしていくうちに、彼女の人となりが平民たちに噂として流れ、それはまわりまわって学院の生徒たちへと伝わる。
 時折物珍しいピクミンについて話を聞いてくる生徒も現れ出し、気がつけば、彼女は笑っていることが増えていた。
 そのせいでなのか何なのか、仇敵ツェプルストーは異様に余計に元気になり、喧嘩をする数もうなぎのぼりで増えていく。そのことにルイズは首を傾げ、そしてより鬱陶しくなった旨をシエスタへと愚痴ったが、シエスタはそれをくすりと笑うだけ。

 一番大変だったことといえば、やはりピクミンの世話だ。

 彼らは日が沈むと慌ててオニヨンに逃げ込む。何かに怯えるように、何かから逃げ出すように、オニヨン目掛けて走りだすのだ。
 一度、四匹の赤ピクミンを学院の中に引き連れて散歩していたことがあった。その時、窓から差し込む夕日を見たピクミンは尻に火がついたように暴れだすと、一直線に窓から飛び降りオニヨンへと帰っていったことがあった。
 慌てたのはルイズも一緒だった。
 すぐにシエスタの元へと駆け込むと、彼女は笑いながらピクミンは夜を怖がると教えてくれた。
 その理由はシエスタも分からないらしいが、村ではピクミンを見つけることが出来るのは決まって昼間だと話してくれた。
 近くにいたコルベールはその理由について、おそらく夜行性の動物から身を守るためだろうと語った。得意げに、誰も頼んでいないのに滔々と語りだすコルベールには、ルイズとシエスタの二人も辟易としていた。

 そんな体験の中でも、一番の大事といえば他のピクミンを引きぬいた時だった。
 赤ピクミンの時同様、ルイズは爆発を利用して青と黄色のオニヨンからもピクミンを引きぬいた。
 出てきたのは、口のついたピクミンと、長い耳を持ったピクミンだった。
 事情を知らない生徒は耳を持ったピクミンを見ると、叫び声を上げて逃げ出していった。騒動は連鎖し、噂には尾ひれがつき、あっという間に広場に『エルフがいる』という誤解が広がった。
 ハルキゲニアにおいて、エルフとは恐怖の象徴。そして同時に打倒すべきブリミルの敵とされている。サハラの奥地に住んでいる彼らは、人がちょっかいを出さない限りは常に引きこもっている鎖国的な一族だ。
 そんな彼らが敵視され恐怖されるのは、ブリミル教の敵でありブリミル教の聖地を占領しているということと、先住魔法という非常に強力な魔法を使うためだ。

 その討伐を行うため格属性を代表する教師に加え、オスマンまで出てくる羽目になったこの騒動だったが、結局美味しそうに黄色のピクミンを食べるシエスタの姿によって無事解決した。

 ルイズにとって針の筵だった学院生活は、ピクミンの召喚を切っ掛けに着々と変わっていた。

00000

 それは、よく晴れた日のことだ。
 日差しが降り注ぐ広場に、長机と椅子を2つ並べてある。

 座っているのは、ルイズとコルベール。
 そして二人の前にはシエスタがメイド服で、やや緊張した面持ちで立っていた。傍らにはコルベールから借りたと思われる黒板とチョーク。足元には並々と水の入ったバケツが複数個。
 机の上には赤、青、黄色の三色のピクミン。行儀よく座っているが、ときおり楽しそうに歌を歌っている。
 がっちがっちに固まったシエスタとは対極的に、こんな状況でも楽しそうに歌う彼ら。鼻歌のような歌声は、心地良いそよ風に乗って広場全体へと運ばれていく。

 一小節の区切りがついた頃だろうか、シエスタがとうとう動き出した。
 いつも浮かべている優しげな笑は鳴りを潜め、代わりに無理やり作り上げられたらしき、引きつった笑みが浮かぶ。

「で、では、はじめさせて頂きます」
『お願いします』

 ペコリと頭を下げたシエスタに続き、ルイズとコルベールが軽く頭を下げた。
 ほぼ九十度で頭を下げたためか、垂れ下がった前髪を軽く整えると、深呼吸をして口を開いた。

「本日僭越ながら教鞭をとらせて頂きます、シエスタと申します。な、何かわからないことがあれば、どうぞ、どうぞきにせずに仰ってください!浅学非才のみでありますが、鋭意努力させて頂きますっ!!」
「・・・とりあえず、そのぐだぐだな敬語やめなさいよ」

 呆れた表情でそう告げたルイズに、シエスタはその一言で泣きそうな顔になった。
 普段ルイズと楽しそうに談笑するというのに、一体何が不安でそうなるのか、ルイズには甚だ疑問だった。

「で、ですが!貴族様相手に教鞭をとるなんて、わたし、わたしぃ・・・!」
「別に不敬罪で罰したりしないわよ。この学院の中で一番ピクミンに詳しいのはあんた。それでそのあんたに教えを請いたのは私。だったらあんたはもっと堂々としなさい」
「そうですよ。タルブの辺境に住むという魔法生物ピクミン。学院の書庫をひっくり返してもなかった時は本当に驚きましたよ。少なくとも数万エキュー。あなたの知識にはそれだけの価値があるのですよ」

 方や面倒くさそうに、方や仰々しく。
 純正平民のシエスタにとって、畏怖の象徴である貴族に教鞭をとるなど、自分が魔法を使うぐらいあり得ない自体だった。
 おまけに公爵家子女と学院一の火の教師。
 通常ならば平民であるシエスタに対し、優しげな言葉をかけてくるなど滅多にありえない。おまけに、こうして『教鞭をとる』と言うことは、一時的にではあるが彼らより優位に立つということだ。
 位が上がれば上がるほど、歴史があればあるほど、貴族というものは体面を非常に重視する。そしてルイズは貴族の中でも最高位の『公爵』。
 彼女でなくとも、たじろぎ混乱するのはしかたのないことだった。

 いつまでもうじうじあわあわとするシエスタに、いい加減我慢の限界だったルイズが卓上の赤ピクミンを投げつける。
 べちっといい音を鳴らし、ピクミンがシエスタの顔に張り付いた。
 あわや窒息、焦ったシエスタはぱたぱたと手足を振り回し、べりっとピクミンを引き剥がした。

「ひ、ひどいですよ、ミス・ヴァリエール!苦しいじゃないですかっ」
「そうそう、その調子でいいから、さっさとやりましょう」

 にこり、笑いかけてきたルイズを見て、シエスタは自分がはめられたことに気がついた。
 結局暫くはもじもじと抵抗してきたが、ルイズの鋭い眼光に決意を固め、ようやく講義を開始した。

 まず手に取ったのは、先ほどルイズが投げつけてきた赤ピクミン。
 ぐっと頭部から花に至る茎?の部分を掴むと机に乗せた。

「えーっと、これが御存知の通り、赤ピクミンです。仄かな甘味が特徴で、ついでに燃えません。ですがーーーー」

 普通『ついで』が逆だろ、心のなかで突っ込んだルイズだったが、ようやく話しだしたシエスタに水を指すのもあれだったので、そのツッコミはグッと飲み込んだ。

 一度喋りだしてエンジンが入ったのか、先ほどの姿からは想像付かないぐらいに、滑らかにそして素早く動いた。
 取り出したのは、包丁。
 何をするのかは想像するに易かったが、それを言葉にする前にシエスタはそれを実行。
 振り上げられた包丁は、まるで何かに導かれるように、ピクミンの首を綺麗に両断した。
 跳ね飛んだ体液がルイズの頬とコルベールの頭部に跳ねる。
 さすがのコルベールも何が起きたかわからなかったのか、頭部についた液体を触って呆然としていた。

「ーーーーこのように簡単に切れます」
「あ、あ、あ、あんた何やってんのよ!?」
「えっ!あ、す、すみません!丸かじりのほうが良かったですか!?」
「っー!!そういうことじゃーーーー」

 と、そこまで叫んだルイズだったが、シエスタの表情を見て停止。
 彼女の表情が、まるでこの世の終わりのような顔をしていたからだ。

 平民にとって、貴族を怒らせるということは死を意味する。不敬を働いたという名目で、王都トリスタニアでは毎年多くの平民が切り捨てられているのだ。
 魔法学院に務める彼女たちにとってもそれは同義であり、また女性であれば適当な理由で手篭めにされることもある。
 それだけの差が、ルイズとシエスタの間に横たわっているのだ。
 よく思い出してみれば、シエスタはルイズと普段談笑する時も丁寧に言葉を選んでいた。例え親密になったとしても、その間にある溝というものは決して埋まらないものなのだ。

 泣きそうな、いや、半分泣いているシエスタを前に、ルイズは喉元までせり上がってきた罵声を飲み込んだ。

「ーーーー、な、なんでもないわ。急に起こって悪かったわね。続けて」
「は、は、はい・・・。あ、そ、そうだ。これ、どうぞ・・・」

 いつの間にか、細かく切りそろえられてスティック状になったピクミン。
 震える手で差し出してきたシエスタに、ルイズの思考は罵声を上げた。

 いや何故切った、というか何で食べるんだ!

 叫びたかったが、当然出来ない。やったら泣かれる。
 それをずいっと目の前に持ってこられた時、ルイズは平民と貴族の間にある理不尽を感じ取った気がした。
 おまけに、引きつった表情、それをシエスタは感じ取っている。
 過去に聞いた話しだったが、平民にとって貴族の機嫌を察知するのは必須技能だという。ちょっとした事で、無礼討ちに合わないため、双方気分を害さないためメイドや貴族に仕えるものは、まず最初に覚えさせられるという。
 その時はそのような慣習があったのかと感心したものだったが、今では何でそんなもの作ったんだと全力で詰りたかった。

 全精神力を持って、顔面の筋肉を制御。石像と化す顔をイメージ。表情が一ミリも動かないようにして、ゆっくりとシエスタの方を向く。
 彼女は既に泣き顔。泣くまでの秒読み、つまり詰み。
 無理して笑顔を作り出すと、震える手を根性で押さえつけ、切りそろえられたスティックに手を伸ばした。

「あ、ありがとう。気が利くわね!」
「そ、そんな!とんでもありませんっ!あ、コルベール先生もどうぞ」
「え、ちょ、え?」

 甘いですよ、そう付け加えたシエスタの顔が、悪魔に見えた。
 さすがに躊躇い断ろうとしたコルベールだが、主に右方向から飛んでくる殺気によってそれを行うことは出来なかった。
 もっといえば、その殺気が、雰囲気が、先日会いに行ってきた『烈風』殿にそっくりだったということもある。さしもの火のスペシャリスト、コルベールと言えども『烈風』の相手は無理だったということだ。

 震える手で、それを一本掴んだコルベールを見届けると、ルイズは自身の手にある赤いスティックを見つめた。
 何とかならないものかと、一旦視線をシエスタの方へと向けるがーーーーその後、全力で後悔した。
 どうやらスティックにされたのは、頭部のようだった。その証拠にシエスタの手元には、首のない赤ピクミン、そして切り落とされた葉っぱ。

 正直、吐かなかった自分を褒めてやりたかったルイズだった。

 改めてシエスタを見る。絶対に、間違っても、視線を下に落とさないようにして。
 ニコニコ笑顔の彼女は、きっとルイズがピクミンを食べて絶賛する姿を想像しているに違いなかった。
 だってピクミンを丸齧りするときの彼女の顔と言ったら、それはもう本当に『美味しい』という顔をしているのだから。全員引いていたが。

 自然に喉が鳴る。
 この感覚を最近味わったような気もしたが、それとは全く原因であることは確かだった。

 意を決して、赤いスティックを口に運ぶ。
 まず、最初に感じ取ったのはしゃきっとした食感。みずみずしいと言っていたが、本当にそうだった。最も近いものといえば、採れたての梨だ。
 次に、口腔全体にふんわりと広がった優しい甘み。すっきりとした甘みだが、それは果実というより冬野菜を食べた時の甘みに近かった。飲み込んでしまえば、口の中に全く残らない不思議な甘み。

 最後に口に残ったものを綺麗に飲み込んむと、ルイズの口から偽りのない言葉が漏れた。

「・・・納得いかないわ・・・」
「・・・私もです・・・」

 実に、実に、納得がいかなかった。
 欠片でも『美味しい』思ってしまった自分がいることに、二人は本当に悔しがった。
 小首を傾げ、クエスチョンマークを浮かべるシエスタ。きっと彼女は絶賛の声が聞きたかったのだろうが、残念ながらどれだけ美味しかろうと、二人がそのような声を上げることはないと断言できる。

 とりあえず、手元にあったスティックをすべて食べきると、二人はシエスタに対し説明を続けるように要求した。

 次、シエスタが手にとったのは、黄ピクミンだ。
 件のエルフ騒動の下手人であり、学院生徒が最も警戒するピクミンの一種。
 ルイズもこいつには散々な目に合わされているため、正直なところ首を切られるのはこいつのほうが良かったと思っていた。ちょこっとだけだが。

「この子は、黄ピクミンといいます。特徴はレモンのような酸味です。あと、他のピクミンより器用で、時々武器を使ったりもします。今は手元に何もないので、実践はできませんけどね」

 ちなみに包丁はルイズがちゃんと回収していた。
 これ以上惨殺死体を生産するのは彼女も望んではいないからだ。
 心なしか、彼女の手元にいるピクミンも、安堵の表情を浮かべているようにも見えた。

 しかし、シエスタはルイズの斜め上を行く。

 もう一匹、いつの間にか青ピクミンを手に取っていたシエスタ。
 茎を掴まれ持ち上げられた彼らは、抵抗できずにぷらぷら宙に浮いている。

「で、この子は青ピクミン。特徴はハーブのような香りと苦味です。あと、他のピクミンと違って水の中で呼吸できます」

 ほら

 そういって、シエスタは二匹のピクミンを別々のバケツの中へと突っ込んだ。
 ぱしゃんと水が二人のところまで跳ねる。青ピクミンの方は特に問題無さげに、むしろ気持ちよさそうに水の中に浸かっている。そのうち歌まで歌いそうだ。

 しかし、黄ピクミンの方は違った。
 暴れている。
 全力で抵抗している。
 手足をばたつかせ、シエスタの手を振りほどこうとしているが、さすがに学院の雑事で鍛えあげられた彼女の膂力からは逃げられないようだ。
 抵抗するピクミンをよそに、シエスタは説明を続ける。

ーーーーわーわーわー

「このように、青ピクミンは大丈夫なのですが、他のピクミンは溺れてしまうのです」

ーーーーわーわー・・・

「青ピクミンは、ほら、顔にあるエラの部分で呼吸します。ぱくぱくしているところです」

ーーーーわー・・・・・

「気をつけないといけないのが、青以外のピクミンは長時間水に浸かっていると溺れてしまうんです」

 こんな風に。

 そして、遂に抵抗をやめ、水面に浮いたピクミンをにこりと指さした。
 指の先までピクリとも動かないピクミンを見て、二人は固まっていた。
 ルイズには何が起こったかがわからなかった。先ほどの斬首と違い、一瞬の出来事ではなかったため止めれたはずだった。だが、その分余計に苦しむピクミンの姿と、そしてそれを躊躇なく行うシエスタの姿に思考が停止してしまっていた。

 固まる二人を見て、シエスタは「さすが貴族、静かに聞いていらっしゃる」と勘違い。
 にこりと微笑むと、再び説明を開始。
 というより、調理を開始。

「黄ピクミンを美味しく食べる時のコツは」

 首を掴んだ。
 ピクミンをつかむ彼女の健康的な腕は、よくよく見ればうっすら筋肉が見える。適度に鍛えられた彼女の腕が、その力を発揮せんと血流を流し込まれ、陶磁の肌に青く筋が浮かぶ。
 そして、1.2倍ほどに膨れ上がった時、彼女の腕が拗られた。ぱきっと、何かが折れる音がしたかと思うと、机の上に黄色い汁が飛び散る。
 勢いが強すぎたためか、シエスタの顔と服にもその汁が跳ね、黄色いシミを作り出していた。
 煩わしそうに表情をゆがめたが、唇に飛び跳ねていた汁を舌で舐めとると、嬉しそうに、そして美味しそうに、純真無垢な笑顔を浮かべた。

「こうやって、溺死させたあと、今は包丁がないからこうやって捻じ切りますが、首を落とします。で、切り口を整えた後、こうやってキュウリの灰汁取りみたいに切り口同士を」
「ストップストップストップストーーーーップ!!」

 意識が現世に戻ってきたルイズは、まず真っ先にシエスタの手からピクミンを取り上げた。二つに分かれたピクミンを視界に入れないようにしつつ、とにかくシエスタからピクミンを遠ざけた。
 同じく意識が戻ったコルベールも、水に入っていた青ピクミンを避難させる。

 荒ぶる呼吸を整えると、ルイズは静かに、そして力強くシエスタへと言い聞かせた。

「と、とにかく、今日は調理法じゃなくて、ピクミンの生態に、生態について教えてちょうだい。いい、生態についてよ」
「は、はぁ・・・わかりました」

 名残惜しげにピクミンをみるシエスタ。
 ルイズはとにかく彼女の視界にそれを入れてはいけないと思い、自分の体の後ろへと隠した。それをみて、一体何をどう勘違いしたのか知らないが、シエスタはくすりと笑った。

「大丈夫ですよ。美味しく調理しますし、元々ピクミンはミス・ヴァリエールの使い魔なんですから」
「・・・ええ、またの今度にお願いするわ」

 いろいろと言いたいことがあったが、今それは放置。心の奥底に鍵をかけて封印する。
 今激高してしまえば、シエスタはきっとショックでまたうじうじ状態に逆戻り。そうなれば貴重なピクミンについての話が聞けなくなるし、今のシエスタとの良好な関係を崩したくないという気持ちもあった。

 手に持ったピクミンを一体どうしようかと、迷っていると、シエスタがあわてて声をかけてきた。

「ミス・ヴァリエール!早くしないと痛んじゃいますよ!」
「え、何が?」
「ピクミンです!あー!」

 シエスタの叫び声が響く。
 それとほぼ同時に、ルイズが両手で持っていたピクミンの感触がかわった。先ほどまでは瑞々しい大根のような感触だったのだが、叫び声を契機に一気に萎びて行くのを感じ取った。

「ひぃっ!?」

 思わず投げ捨ててしまったが、それが視界に入ったとき衝撃のあまり言葉を失った。
 二つに分かれた黄ピクミン。その体は色あせ、萎み、瞬く間に朽ちていく。
 死体が高速で朽ちていく様は、思春期の少女には厳しかったのだろう。尻餅をついて、半ば茫然自失としている。
 それをみていたコルベールもルイズと同じく、目を見開いて驚いている。
 が、凄惨な光景に言葉を発せずにいるルイズに対し、シエスタはというと実に残念そうな表情でそれをみていた。
 最も近い物で言えばスーパーの安売りを逃した主婦のような。

 地面に両手をつき、頭部を項垂れさせるシエスタ。
 すべてを絞り出したかのような呟きは、風に乗ってルイズの耳元まで届いた。

「あ・・・あ・・・勿体、ない・・・」
「・・・あんたそれ以外にないの?」

 もはや驚きを通り越して呆れしか出てこないルイズ。
 もうこの際、ピクミンの謎生態よりも彼女の脳内がどうなっているかが本気で不安になってきた。

「・・・とにかく、講義を再開しましょうよ」
「あ、はい」

 立ち直りが早いこと、すぐに立ち上がったシエスタはエプロンにつした誇りを払うと、軽く咳払い。
 学院生活で培った凛とした佇まいは、貴族であるルイズから見ても素晴らしいものだった。
 引き締められた表情には、自身が今二人に対して教鞭をとるという誇りが宿っている。
 真剣な表情で口を開いたシエスタに、ルイズでさえ自然と背筋が伸びた。

「では、気を取り直しまして。青ピクミンの調理法ですが」
「違うわよ!!」

 溜まりに溜まった鬱憤は、とうとう破裂したのであった。

00000

 ルイズは昼食を取るため一旦講義を中断していた。
 色々ためになる部分もあったが、9割ほどはピクミンの調理法だった。解説のたびに首をもがれるピクミン達に、ルイズのSAN値はガリガリと削られる。
 自分の使い魔をそのように扱われることに、彼女も思う所はあったのだが、それが食用であり正しい用途で使用されているためなかなか強く言えなかった。

 おまけに。

 抗議すると「何を言っているんだろうか」と真剣に悩まれる。
 ピクミンを取り上げると「わかってますよ」と笑われる。
 そしてブチ切れると泣いて土下座してくる。

「・・・疲れたわ・・・」

 彼女の心からの一言だった。

 疲れた。精神的疲労が半端ない講義。だが、講義を進め、知識を深めていくと、彼女の中に一つのある確信が出来上がった。
 後ろを向くと、今も健気に自分についてくる小さな使い魔。
 歌いながら楽しそうについてくるその様子からは、先程仲間を惨殺されていたとは思えないほどだ。
 とてとてと規則的に動くピクミン。軍隊さながらの行軍。ガラス玉のような眼。

 誰が見ても、彼らに感情があるとは思えないだろう。
 コルベールでさえも、彼らには感情がないだろうと推測していた。
 動物であればなんであれ、死への恐怖というものが存在する。それが見えないピクミンは、恐らく意識がないのかそれとも彼らがオニヨンの子球の亜種である可能性が高いという。
 子球であるとするならば、彼らが死を恐れない理由もある。いくらでも変えの効く、身代わりのようなものだ。
 意識がないのならば更に簡単だ。単純にオニヨンが餌を確保するための触腕のようなものと考えれば良い。
 コルベールはそう語り、あまり気にする必要なはないと言っていた。
 歌の類は仲間同士の位置確認。所々見られる人間臭い動作は体の動作確認。餌を求めて走り回るのは、それが彼ら本来の仕事だから。

 しかし。

「・・・あんたら、違うわよね」

 ピクミンを召喚してから、時折ルイズは不思議な夢をみるようになった。
 それは、ピクミンが生存競争における最底辺であった頃の記憶。ただただ食べられ、日々怯え、ひたすら種の存続だけを願っていた時代。
 とうとう限界まで狩り尽くされ、絶滅が目の前まで迫っていた時、彼らの前に現れた『彼』。

 『彼』はピクミンを巧みに操り、敵を狩り、数を増やし、彼らに生存するすべを教えてくれた。
 個では呆れるほどに脆い彼らに、群という力の形態を授け、ピクミン達に星の覇を与えてくれた。
 『彼』が故郷へ帰る時、ピクミン一匹一匹は心のそこから感謝し、そして決意していた。自分たちをここまで育ててくれた『彼』に、自分たち栄華を授けてくれた『彼』に、次会う機会があるとするならば、再び『彼』に力を貸そうと。
 返しきれぬ恩を、僅かばかり返そうと。

 彼らの瞳がガラス玉のようなのは、決して感情がないからではない。どこまでも純粋無垢だからだ。
 彼らが死を恐れないのは、その死が無駄でないことを知り、その死が主に必要だと確信しているからだ。
 歌を歌うのは位置確認のためではなく、光を喜び、風と戯れ、水に感謝を捧げ、そして死にゆく仲間に弔いを上げるためだ。

「力強く、美しく、生命力にあふれた、ね・・・」

 確かに、サモン・サーヴァントはルイズに答えたようだ。
 この世のどこを探しても、彼らほど力強いものはいない。
 彼らほど美しいものはいない。

 それがわかっていたが故に、ルイズにとってはとてつもない負担だった。
 きっと彼らは重ねているのだ。『彼』とルイズを。
 『彼』はピクミン達に星の覇という最高の褒美を与えた。ピクミンを指揮する『彼』が、百%の善意でやったとは思えない。それでもその働きに見合う報酬を与えたのだ。
 だが、ルイズにはいったい何ができる。
 再び戦争の起こりそうな時代になったとはいえ、ルイズが彼らにできることはあまりにも少ない。
 貴族である自身が戦争に行くのには何の躊躇いもないが、ただ使い魔であるピクミンはルイズが行くとすれば強制的に来ることに成る。そしてピクミンは都合のいい死兵として大量に消費されるだろう。
 減った分は死体によって、数は増やせる。むしろ減った時よりも増えるだろう。だが彼らがただ数を増やすために、召喚に応じたとはとても思えないのだ。
 きっと、何かを感じて召喚に応じたのだ。自身が『彼』に並び立つような英傑のたぐいであるとは思っていない。だが、そうでなければ、一体何で召喚に応じたのかルイズにはわからなかった。

 彼らは喋らず、ただ見つめてくる。
 沈黙を保ったまま、雄弁に語りかけてくる。
 だが、ルイズには彼らの望みがわからない。わからないまま、彼らから全幅の信頼をおかれているのだ。死すらも恐れないぐらいの。

 時折、無性に叫びたくなる。
 重すぎる信頼、純真な思い、それらすべてを思春期の少女が背負うのは無理があるというもの。
 余人であるならば悩みすらしないだろうし、そもそも、ピクミンの本質にすら気が付かない。

 しかしルイズはそれに気が付き、知ってしまっている。そして彼女はそれを無下には出来ない。
 良くも悪くも、心の優しい彼女は自身にすがる存在を無下には出来ない。期待には応えるべく努力し、嘆願は真摯に聞き届け、心のなかにある彼女の律を決して曲げようとはしない。
 それ故に、限界まで悩み、努力し、奔走する。力の及ぶ限り諦めようとしないし、幾千の民を守るためならば彼女は命すら捧げる。

 ルイズは今も背中を追いかけてくる使い魔を見た。
 いつもどおり歌を歌っている。その表情からは何も読み取れない。

 彼らは何を望んでいるのだろうか。彼らは何を待っているのだろうか。
 一体自分に何ができるのだろうか。彼らに応えることは出来るのだろうか。
 自分では決して及び付かぬであろう『彼』のように、ピクミン達に感謝される存在になれるのだろうか。

 戦争は近い。
 きっとピクミンは大勢死ぬだろう。
 その時彼らは何を思うのだろう。
 憎しみ、恨み、後悔。
 その何れかに違いない。

「・・・いつでも、逃げていいんだからね」

 返事が帰ってくるとは思えない。だがそれでも言わずにはいられなかった。
 『ゼロ』と罵られる自身の召喚に応じてくれただけで、もう十分。
 そっと、頭部についた白の大輪を撫ぜる。柔らかく、芳しい香りを放つそれは、ルイズに撫でられると嬉しそうにぴょんと跳ねた。

ーーーーよぉー!
「あいたっ!!」

 突然、大きく声を上げたピクミンは、ルイズの足を払った。
 勢い良く尻餅をついてしまい、衝撃が背骨から頭部まで走り抜ける。痛みと驚きで痺れる体を無理やり起こすと、おもいっきりピクミンを睨みつけてやった。
 帰ってきたのは、無言の圧力。初めて明確に感じ取ったのは彼らの感情。その迫力に気圧されたじろいでいると、急に近くの茂みがわさわさとなりだした。

「えっ!?ちょ、何やってんのよ!?」

 すると、どこから湧いてきたのだろうか。
 わらわらとピクミンの大群が押し寄せてきた。赤、青、黄色の群れ。召喚してからいつの間にここまで増えたのだろうか。思わずルイズの表情が引きつった。
 彼らは我よ我よとルイズを掴みにかかる。そして、普段からは想像できない勢いで、走りだした。
 手足をばたつかせ抵抗するルイズだったが、十を超えるピクミンの前には無駄な抵抗だった。

 突如抵抗するルイズに、やわらかな光が降り注いだ。
 赤みがかったその光に見覚えがあったルイズは、反射で上空を見上げた。
 そこにあったのは、いつも少し離れたところから見ていたオニヨン。初めて下から見上げるその光景に圧倒されるも、それがもたらす事実に彼女は凍りついた。

「ちょ、だめ!お願い!食べないで!!」

 本気で叫んでも、ルイズの願いは届かなかった。
 全身を光が覆うと、彼女の体がふわりと浮かぶ。
 もはや、死ぬまで秒読みだろう。病に苦しむ姉より先に死ぬことになるとは思わなかった。

 どんどん近づいてくるオニヨン。
 光が次第に強くなり、浮遊感はまして行く。

 近づき近づき、そして完全に彼女の体が入ろうとした時、ルイズは故郷に住まう家族に謝った。
 厳しいが実は優しい姉に、常に厳しかった母に、子煩悩で鬱陶しかった父に、いつもやわらかな笑みを浮かべていた姉に。

「皆!先立つ不幸をお許しくださ、い”!?」

 がんっと、凄まじい衝撃が頭部に響いた。
 ついで、浮遊感が消え去り、背中から盛大に地面にたたきつけられた。
 肺の空気を根こそぎ吐き出し、背骨に走った激痛に体を丸める。突然の出来事に思考は混迷、とにかく今はただこの痛みをどうにかして欲しかった。

 痛みと衝撃からもがき苦しんでいるルイズ。すると、いきなり右腕が誰かに引っ張られた。
 見るまでもない。ピクミンだ。
 口のある青ピクミンの表情は、どこか喜色に染まっており、他のピクミンも今までの無表情が嘘のように笑っているのが感じられた。
 痛みのあまり抵抗できない自身を引きずり、オニヨンの外まで連れてこられた。

「あ、あんたら一体」

 文句の一つも言ってやろうと思った時、ピクミンの花による一撃が彼女を襲った。
 淑女にあるまじき声を上げ、こんどこそはとっちめてやろうと思い攻撃態勢をとったが、そのとき漸く彼女は異変に気がついた。
 ピクミンが全てオニヨンの上を見上げている。
 釣られてルイズも見上げた時、オニヨンの花が唸りを上げて回り始めた。

 周囲に光の鱗粉をまき散らしながら、種を吹く時とは違い、どこか意気込んでいるような。
 そして、数秒たった時、それは起こった。

 小さな種がオニヨンから吹き出したかと思うと、それは地面に落ちることなく空へと駆け上がっていく。重力に逆らい、何かを目指すその種は上空数メイルほど上がると、唐突に爆ぜた。

 空に光の大輪が咲く。色鮮やかな複数種類の鱗粉は幻想的な光景を描く。降り注ぐ光の欠片はルイズを祝福するように明滅し、それを浴びるピクミンも楽しそうに動き回っている。
 世界のどの様な花が、今この光景に勝てるというのだろうか。それほどの美しさが、この光景にはあった。
 オニヨンを囲むピクミン達は子供のようにはしゃぎ、皆が声を揃えて歌を歌っている。
 呆然としていたルイズの右手を、ピクミンが優しく掴んだ。

「・・・何よあんたら、励ましてんの?」
ーーーーひょーい
「・・・もしかして、最初の時もこれを見せようとして?」
ーーーーひゃーい
「・・・ばっかじゃないの」
ーーーーひゃっほーい

 思い思いに踊り歌うピクミン達。
 ルイズの心に立ち込めていた暗雲はいつの間にか晴れ、広場には清々しいほど気持ちのよい風が吹いていた。
 騒ぎを聞きつけた生徒たちが、広場へと集結してきた。その尽くはピクミンに捕まると、先ほどのルイズのようにオニヨンへと連れて行かれる。

 連続的にあげられる光の花。
 その花は暫く消えることなく空へと上がり続け、ピクミン達の歌声は絶えることなく響き続けた。





 後の世に、伝説が生まれる

 『虚無』のルイズとガンダールブの軍勢

 戦場において無敵を誇り、世を平和へと導いた者たち

 エルフとの講和をも成し遂げ、ハルキゲニアの破滅を回避した英雄

 彼女の死後、彼女に仕えていたピクミンは、どこかへと消えてしまったという

 彼女の墓は彼女きっての希望でタルブの森の中に立てられた

 そしていまでも、タルブの森の中では、時折楽しそうな歌声が響くという


終わり


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