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[0] 【一発ネタ】SAO《ソードアート・オンライン》風雲黙示録  [あまねぎ](2012/06/21 20:44)
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[33515] 【一発ネタ】SAO《ソードアート・オンライン》風雲黙示録 
Name: あまねぎ◆ce96a4b0 ID:b4a11d7e
Date: 2012/06/21 20:44
 最前線から一層下のアインクラッド第四十四層の北部フィールドを俺は歩いていた。
 第四十四層は三日前にクリアされたエリアだが、四十四層は外周フィールドがかなり広く、まだ多くのダンジョン、宝箱が残っている。
 そのため、俺―――キリトは誰も行ってなさそうな北部フィールドの最北端を目指して真紅の丘を歩いていると、遺跡を思わせるボロボロな建造物を見つけた。
 ダンジョン。ここにこんなダンジョンがあることは訊いたことがないから、おそらく、まだ誰も入ったことのないダンジョンだ。
 俺は自身の装備を確認し、入るか入らないか考えた。ここまでほとんどモンスターと遭遇しなかったから武器の損傷は全くない。脱出するにしても《転移結晶》は複数ある。
 しかし今から行くダンジョンは全くの情報がないことが問題だった。 第四十四層のモンスターの多くが状態異常を出す厄介な虫型モンスターだ。これがパーティを組んだ複数だったら一人が状態異常になっても仲間がサポートすれば問題ないが、俺はソロプレイヤーのため何らかの状態異常を食らい、死ぬかもしれない。ちょっとしたミスが死につながるのがここSAO(ソードアート・オンライン)だ。
 考えて数分。やはりダンジョンに入ることを決め、俺は耐毒POTを始めとした耐状態異常POTをありったけに飲んでダンジョンに入った。







 俺の入ったダンジョン《蜘蛛の巣城》は素直に帰っとけば良かったと思うほど悪質なダンジョンだった。
 足元に粘液のついた蜘蛛の巣が張り巡らされ、移動速度が落ちる遅延エリアで襲い掛かる六本の毒刀を持つ《スパイダーソルジャー》。地面から突如現れる《アーススパイダー》。足元に張られた糸を切ると周りの蜘蛛の卵が孵るトラップ。―――ちなみにトラップにかかる前に卵を攻撃しても孵る。上空から降り下り、襲い掛かる異常に固くて重い《アーマースパイダー》と、初見殺し盛りだくさんでなんでまだ《転移結晶》で脱出していのか不思議くらいきついダンジョンだった。
 そんなきついダンジョンもようやく最後のようで、回廊の突き当りにびっしりと蜘蛛の糸が張り巡らされた巨大な二枚扉があった。
 ―――おそらく、この先にダンジョンボスモンスターがいる。
 俺は装備の耐久度、HPを確認してから扉を開いた。
 扉を開いた先は円形闘技場(コロシアム)の観客席で、中央の壁にはびっしりと蜘蛛の糸がついていた。そしてそのコロシアム中央には、一人の男性とここのボスモンスターと思われる二メートル以上ある巨大な女性型の蜘蛛。SAOでは珍しい女性型モンスターだが、このモンスターには可愛いとか綺麗という感情が全く抱けなかった。下半身は女郎蜘蛛タイプの長い脚が特徴の蜘蛛の姿だが、上半身の人の体はブリッジの姿勢というありえない肉体構造にはSAO特有の原始的恐怖ではなく、ホラー映画で抱くような不気味な恐怖を呼び起こした。
 カーソルには《charm queen Arachne》の文字。チャームクイーン・アラクネ―――魅惑の女王・アラクネか。
 アラクネと対峙している男は赤いバンダナを着け、背中にはブーメランを思わせる剣――おそらく曲刀――を持つ曲刀使い。
 俺は曲刀使いに加勢するため、片手剣を抜き、コロシアム中央に走り出す。通常、モンスターの優先権は先に戦闘している人にあり、横取りはマナー違反であるが相手は基本、パーティで挑むダンジョンボスモンスター。そしてあの曲刀使いは今までのボス攻略会議で見たことのないことからおそらくは最近、最前線の攻略組入りしたソロプレイヤー。一人で挑むにはかなりの危険だ。
 全速力で走り、観客席から飛び降りようと脚に力を入れたとき、背後から声が響いた。

「待ちたまえ」

 ―――いつの間に!?
 振り返るとそこには全身を黒いローブに身を包んだ男がいた。
 ソロプレイヤーである俺の《索敵スキル》はかなり高い。それこそ自慢になるが、SAOにおいてトップクラスに入るほどだ。だが、目の前にいるこの男の存在は声をかけられるまで全く気が付かなった。そのことから、この男の着ている装備の隠蔽能力と男自身の《隠蔽スキル》がかなり高いことがわかる。

「あんた……何者だ?」

 睨みつけながら問うと男はふむ、と考えるように手を顎に当てた。

「何者か……強いて言うなら、彼――ハヤテ専属の情報屋。マネージャーみたいなものだと思ってくれ」

 情報屋と名乗る男は自身が何者か答えると中央にいる曲刀使いを指差した。

「悪いが、彼の邪魔をしないでほしい。あれは彼の獲物だ」
「だけど、あれはダンジョンボスモンスターだ。一人じゃ危険すぎる」

 男は軽く笑い、問題ないとばかりに答えた。

「大丈夫だ。彼は風雲拳の若き師範代だ」
「風雲拳?」

 何らかのエクストラスキル―――ではないな名前的に。おそらくはリアルでハヤテという男が習ってた何らかの武術だろう。SAOの戦闘において重要なのは、従来のMMORPGの戦闘技術よりもリアルでの戦闘技術だ。SAOは身体全体を使う。なんの武術も習っていない者のSAOでの体の動かし方は基本《ソードスキル》の動きの模倣である。いくら、数千種類もある《ソードスキル》と言っても、武器の振り回し方の知らない素人。武術を習っているものとの差は多少なりともある。
そう。あくまでも多少の差だ。この男言う、風雲拳がどれほどすさまじくても、このダンジョンのボス、チャームクイーン・アラクネを確実に倒せるというわけではないのだ。
 不満の顔が出ていたのか、情報屋の男はやれやれと手を振る。

「納得いかないという顔だね」
「あんたの言うその風雲拳の使い手が強いとしても、最近、最前線に来たであろう奴が一人で中ボスに挑むのは無茶だ」
「ふ、無茶かどうかはこれから分かることだ」

 負けるとは微塵にも思ってないのか、情報屋の男はハヤテに加勢せずに観客席に座りだした。
 俺はここまで情報屋の男が信頼する相手、ハヤテに多少興味が沸いた。それにモンスターの横取りはマナー違反であると自身に納得し、中央に佇むハヤテの戦いを観戦することにした。もちろん、いつでも加勢できるように剣は持ったままだ。
 隣に座る情報屋に先ほどから疑問に沸いたことを尋ねる。

「なぁ、風雲拳ってなんなんだ?」
「風雲拳――――それは実戦空手道とブーメランを組み合わせた全く新しい格闘技だ」
「―――は?」
「どうやら、始まるようだぞ」

 情報屋の男は視線を俺からハヤテに向けた。……いや、なんだよその謎格闘技。という俺の心のツッコミをよそに。


 先に仕掛けたのはアラクネ。アラクネはホラー映画よろしくな、ブリッジ体勢でハヤテに高速で突撃する。
 ハヤテはアラクネの突撃を大きく避ける。アラクネのモデルは脚の長い女郎蜘蛛、通常よりも大きく避ける必要がある。
 避けられたアラクネは体勢を立てなすため、振り向こうとした隙をハヤテは見逃さず、アラクネの腹部を曲刀……いや、ブーメランで斬り上げる。

「あれは……強烈斬。ダッシュで接近し、バットのようにブーメランを打ち上げる奥義。そのアッパースイングはフランクリンをも凌ぐといわれる。風雲拳におけるブーメランとはただ投げるだけの玩具ではないのだ」

 情報屋の男がなんか解説しているが、あれは曲刀スキルの中級突進技《クレセントスラッシュ》だ。決して強烈斬なんて名前じゃない。―――ていうか、フランクリンって誰だよ。
 早くも風雲拳という謎格闘技に不安を覚えるが、俺はあることに気が付いた。
 ハヤテが《クレセントスラッシュ》で突進するとき一瞬速度が落ちた。一度ソードスキルが発動すれば、システムアシストで自動的に動くため速度が落ちることはありえない。そして、速度が落ちた場所にはアラクネが通った跡には蜘蛛の網が敷かれていた。……俺はあの網に見覚えがあった。――遅延エリアに敷かれていた網と同じ形状……。つまり、アラクネが通ったところは遅延エリアになるってことか。
 普通、モンスターによるエリア侵略は一定時間立てば消えるが、あのスピードを考えるに消えるまでに結構な数の遅延エリアが敷かれることになる。そして、遅延エリアでアラクネの攻撃を避けるのは至難の技だ。さらに、このダンジョンのモンスターの特性を考えるにおそらくアラクネは状態異常の《拘束》と《麻痺毒》、《金属腐食毒》のどちらか……あるいは両方持っている。思った通り、このダンジョン同様ボスもかなり厄介なようだ。
 だが、アラクネの作りだした遅延エリアで動きを阻害さているにも関わらず、ハヤテは順調にアラクネの攻撃を裁き、攻撃を加えていた。
 アラクネが鉄のように固い外骨格の両前脚の連続攻撃を独楽のように回転しながら弾き防御(パリィ)で防ぎ、仄かな赤いライトエフェクトが走った右脚で、膝蹴りを繰り出す。

「あれは……飛天昇王脚。回転しながら接近し、上昇をしながらの膝蹴りを繰り出す飛天流空手流れの奥義。余計な回転さえなければ、空中を打つ敵に最適なのだが、そのような過去の常識に囚われてはならない。風雲拳とは全っっっっく新しい格闘技なのだ」

 ちげーよ。あれは《体術》スキル膝蹴り技の《ニーブランダ》だ。いや、あの弾き防御(パリィ)と《ソードスキル》含めての技なら問題ない……のか? とアホらしい疑問を持ちながら、早くも隣に座る男の解説がウザくなり始めた。
 《ニーブランダ》を決めたハヤテは危なげなく着地した。しかし、着地場所はアラクネによって張られた遅延エリアだった。当然、アラクネはソードスキル使用後による硬直と遅延エリアによる速度低下という大きな隙を見逃さず、ハヤテ向かって突進しだす。
 ハヤテは全力で避けるが間に合わず、右脚に当たってしまい大きく吹っ飛ばされる。

「ウオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオオオッ!!」

 飛ばされながらも、ハヤテは大きく叫ぶ。ただ叫んでいるのではなく、《威嚇(ハウル)》という派生スキルだ。モンスターの憎悪値(ヘイト)を上昇させ、自分に引きつけるスキルだ。威嚇で引きつけ、動きが止まったアラクネにハヤテが右手に持つブーメランを投げつける。緑色に光るブーメランは大きく弧を描きながら背後にいるアラクネを切り裂き、アラクネのHPが残り五割くらいになった。

「あれは……念動飛棍。ブーメランを投げたのだが、まるで見当違いのところに飛ばしている。しかし、この後、ブーメランは生物のように敵を追尾し、見事に命中するのだ。これぞまさしく、風雲拳の妙技。難易度の高い技だ。ブーメランが緑色に光っているのは念動だというのは言うまでもないだろう」
「いや、ただの《投剣》スキル、《ブーメランシュート》だからね! 緑色に光ってるのもソードスキルのライトエフェクトだから! 決して念動なんかじゃないから!」

 ついに限界を迎えツッコムが、男は聞こえなとばかりに平然と無視しやがった。……この野郎。
 戻ってきたブーメランを見事にキャッチしたハヤテは追撃とばかりに攻撃を加えようと走り出すが、突如アラクネが腹部から糸を真上に吐き出していた。糸が空高く舞い上がり天井に届き、アラクネはコロシアムの天井向かって上りだした。
 ハヤテはすぐさま糸を切ろうとブーメランを投げるが、糸は切れず「ガギィン!」という音とともに弾かれた。
 SAOは慣れてくると対象物の感触や音でどの程度の耐久度を備えているか解るようになる。あの音からアラクネが吐いた糸は《破壊不能〔イモータル〕》オブジェクトだ。ということは何かをする特殊モーション。 俺は何が来ても対応できるように《索敵》スキルを総動員する。
 《索敵スキル》に写るは光点には隣の情報屋の男、ハヤテ、頭上にいるアラクネの三つ。俺は自然と上を警戒する。上にいるアラクネの赤い光点は縦横無尽に動き回っていた。それと同時にハヤテの光点の周りにぽつぽつとアラクネの取り巻きモンスターと思える赤い光点が発生した。その数は十を超えていた。
 ハヤテはいつでも迎撃できるように天井を見上げていた。
 そこで俺はある違和感を感じた。天井から? 天井には今もアラクネが動き回っているのが《索敵スキル》で確認できる。そう。確認できるんだ。なのに、アラクネが天井に上るまで取り巻きモンスターが確認できないのはおかしい。そして動き回るアラクネの光点と取り巻きモンスターの光点が何事もなく重なっていることからこの二つが同じ場所にいない。ということは取り巻きモンスターが現れるのは天井からではなく――――。

「――――下だっ!」

 俺は反射的に叫んだ。
 その声が聞こえたのか、ハヤテはすぐさま飛び上がった。次の瞬間、ハヤテがさっきまでいた地面から《オオツチグモ》というモンスターが出てきた。
 《オオツチグモ》の凶暴な牙を避けたハヤテは再び飛び上がり、目にもとまらぬ速さの拳で《オオツチグモ》に叩きつける。

「ウオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオオオッ!!」

 その威力は絶大で周りの土が抉れる。威嚇スキルで引きつけられた《オオツチグモ》が次々と地面から顔をだし、ポリゴンの欠片となって飛び散る。三十連撃の大技。

「あれは……烈風殺。空中から急降下し、拳の連打を浴びせる奥義。その間、空中に静止しているように見えるが、これはおそらく、強烈な拳圧で身を浮かし、そしてまた、間発入れずに次の拳を打ち込んでいるからだと推測される。まさに、風雲拳のなせる技だ」

 絶対違う。名前はわからないがおそらく《体術スキル》の最上位技だ。しかし《体術スキル》の最上位技の名称、特性がわからないため、俺がツッコめないことをいいことに情報屋の男が振り向いてドヤ顔を決めだした。……この世界に来て初めてPK(プレイヤーキル)をしたいと思った。
 取り巻きモンスターが全滅し、残りはアラクネだけだと思い、再び頭上を見上げるとそこにはコロシアム全体を覆う巨大な蜘蛛の巣が作られ、それがズズズという音とともにゆっくりと降ってきた。

「「「……なっ!?」」」

 これにはさすがに全員が驚愕した。
 フィールド全体攻撃だと―――!?
 フロアボスでも持つものが滅多にいないフィールド全体攻撃。それをダンジョンボスモンスターが使い出したことに俺は一瞬思考が停止したが、こうして驚愕している今も巣が落ちているとことが俺を現実に戻らせた。
 避けられないと判断した俺はすぐさま、ストレージから何を受けても大丈夫なように解毒POTと回復POTを飲みほし、二人に注意を呼びかけようとしたが、二人ともすでにポーションを飲み干していた。それどころかハヤテはすでに大きく振りかぶって、ブーメランを三つ同時に投げ放して攻撃に移っていた。

「あれは……幻影飛棍。彼のかっこいいポーズに目が行きがちだが、よく見ると、ブーメランが三つに分裂している。幻影飛棍という名前から、一つだけ本物で後は幻だと推測するのは愚の極みだ。この三つは、全て本物である。きちんと当たるのが何よりの証。幻影という冠は、文字通り、相手を幻惑する言霊なのだ。この奥義から、風雲拳の奥の深さを理解していただきたい」
「少なくともあのポーズに目に行くのはあんただけだ。それとあれは武器を三つ同時に投げる《投剣スキル》トライ・ショットだ。てゆうかあんた余裕だな」

 今にも巣が落ちようとしているのにその場から一歩も動かず、戦いを見ていることにあきれを通り越して尊敬の念を抱きかけたが、この男を尊敬なんてしたくなかったからやめた。
 巣は先ほどの糸とは違って破壊可能オブジェクトのようで、ブーメランの当たったところどころが破けていた。ハヤテは巣から逃れるため破いた部分目指して走り出す。俺は距離的にハヤテが破いた所には届かないため片手剣を構え、《武器防御スキル》を発動しておく。情報屋の男もさすがに何もしないのはまずいと思ったのか左腕に着いている小盾を構えた。
 そして、巨大な蜘蛛の巣は落ちた。
 身体全体に纏わりつく糸の嫌な感覚を無視して俺は自身の状態を確認する。……HPはわずかしか減ってないが―――やはり《拘束状態》になっていた。
 《拘束状態》は一定時間速度低下とアイテム使用不可という状態異常だが、拘束帯を切れば効果が切れるため、剣使いにとってはそこまで厄介な状態異常ではない。しかし、先ほど片手剣で防御したことが悪手だった。
 武器までも《拘束状態》に――――!?
 見ると、俺の持つ片手剣までもが糸が纏わりついていた。武器の《拘束》状態は一定時間《鋭さ》《正確さ》が低下する。そして《鋭さ》が0まで低下したこの片手剣では拘束帯が切れない。

「武器までも《拘束状態》になるなんて運が悪いな。通常、剣などの斬撃属性の武器が《拘束状態》になることなんて滅多にないからな。これで君はハヤテに加勢できなくなった」
「ギャグ漫画みたいに全身糸に絡まれたあんたにはいわれたくない」

 見ると情報屋の男は全身が糸に包まれていた。それはもう頭から爪先まで。その状態で呼吸ができるのか不安になったが、平然としゃべっているあたり大丈夫なんだろう。
 しかし、問題は情報屋の男の言うとおり、俺の状態だ。拘束状態に加え武器拘束。さらに、見れば落ちた巣は消えず、残っているあたりコロシアム全体が遅延フィールドになったため今、ハヤテを加勢しても足手まといにしかならない。
 ハヤテは先ほどの巣落としを避けきれたのか、拘束状態になっていないがハヤテ以外の足場が遅延フィールドなっているため、まともに動けない。
 そして、ついに巣落としを行ったアラクネが降りてきた。……先ほどと違う姿で。

「アハハハハハハハハハハッ!!」

魅惑の女王は先ほどの上半身ブリッジ体勢とは全く違う姿。八足歩行から二足歩行で立ち上がっていた。残った六本の手にそれぞれ、二つの弓と矢、二本の剣を装備して戻ってきた。まるで、先ほどまでが遊びだとでもいうような笑い声とともに。
 アラクネは遅延フィールドをいいことにハヤテに向けて弓を引き、腹から糸を飛ばす。

「……っ!」

 ハヤテは遅延フィールドの中でパリィ、ステップでなんとか防御しているが完全に防ぎ切れておらず、いくつかの矢は刺さり、先ほど飲んだ回復POTの時間継続回復(ヒール・オーバー・タイム)を上回る速度でHPが削れてゆく。
 そんな中俺はただその場を突っ立ているだけだった。加勢しようにもまともに動けないこの状態では、アラクネのただの的にしかならない。今、俺ができることは一秒でも早く拘束状態が解けるように力いっぱいもがくだけだった。
 その時、全く動かず、ミイラ男とかしている情報屋の男が呟いた。

「どうやら、勝負に出たようだな」

 見れば、じり貧になり残りのHPが八割ほどになっていたハヤテは突如、真っ直ぐ走り出した。
 無茶だ―――!?

「おそらく、このままジリ貧になるよりも一気に仕掛けて倒すことに選択したようだな」

 情報屋の男は仲間の危機だというのになぜこうも平然としていられるのか。そして、未だ解けない糸の拘束への苛立ちが相まって情報屋の男を睨みつけるが、男はただ嘆息するだけだった。

「彼はこのようなところで死ぬ男ではない」

 ……その絶対的信頼の言葉に俺は何も言えなかった。
 再びハヤテを見てみると、なんと彼は残りHPが五割ほどになっていたが、あの弾幕とも呼べる遠距離攻撃を掻い潜って、アラクネの目の前にいた。
 そこからはハヤテの超高速の連続攻撃の嵐だった。アラクネの二本の剣と矢を槍と見立てた剣舞を、拳と脚、ブーメランで捌きながら連続攻撃。アラクネのHPが今までの戦闘とは比べ物にならない速度で減ってゆく。しかし、それはハヤテも同じで、ハヤテもHPも減って行く。

「あれは……奥義! 無双乱舞。で、出た。失礼。思わず興奮してしまった。これぞ、風雲拳究極奥義、無双乱舞である。一瞬で相手に接近し、着足払いで相手の動きを止め、無数の拳、脚、そしてブーメランを浴びせた後、全霊のブーメランアッパーで止めを刺す大迫力の奥義だ。最初の動きを止める小足が素人には一見小狡く見えるかも知れないが、この部分で足の小指を力強く踏み、相手の動きを封じることこそが、この奥義の要なのである。激痛に動を失った相手にこちらのすべての動をぶつける。風雲拳のすべてが集約された、まさに至高の奥義」
「わかってると思うが、このゲームに痛覚システムないからな。モンスターも痛みなんか感じないぞ」

 よく見るとハヤテの左足でアラクネの右足を捉えていた。……踏んづけるのではなく、先端に鉄針(ピック)がある仕込み靴でアラクネを刺していたが。しかもアラクネのHPバーの枠が点滅していることから麻痺毒が塗られている。なんかいろいろと汚ない。
 麻痺毒を食らったアラクネの動きがわずかに鈍ったのを見逃さず、《クレセントスラッシュ》を打ち込んだ。アラクネのHPが消滅し、悲鳴とともにポリゴンが砕け散った。同時にフィールド全体を包んだ糸と、俺を拘束していた糸が消滅した。

「どうやら、ボスを倒すと、糸も消滅するようだな。このまま解けなかったらどうしようかと不安に思ってたから助かったよ」

 先ほどまでミイラ男みたいに全身糸に包まれていた情報屋の男を見ると、糸が消滅し、全身をローブに包んだ怪しい風貌の男に戻っていた。
 
「さて、私はこれからハヤテのもとに行くが、良かったら君も来てくれないかい?」
「…………」

 俺は無言で頷き、男とともにハヤテのいるコロシアム中央に降りた。ハヤテは俺たちが向かっていることに気が付いたのか、ウインドウ――アラクネのドロップアイテムを確認していたんだろう――を閉じ、こちらに来た。
 情報屋の男は軽く手を上げてハヤテに話しかける。

「お疲れ。どうだった?」
「なかなか楽しかったぜっ! もっとも風雲拳は無敵だがな」

 その言葉とともに俺のある期待は砕けた。正直、情報屋の男が適当な技名とかを言っているだけなんじゃ……と思っていたが、本人から風雲拳という謎格闘技の名が出たことから、風雲拳という謎格闘技は実在し、ハヤテはその使い手なのだろう。

「ん、そいつは?」
「ああ、彼とは偶然知り合ってね。ハヤテと同じく、このダンジョン攻略者だ」

 それを聞いたハヤテは俺を見た後ウインドウを開き、血のように赤黒い剣を実体化させた。

「それはさっき倒したアラクネがドロップした剣だ。手出ししなかった礼と言っちゃなんだが、受け取ってくれ」
「あ、ああ」

 謎格闘技の使い手、ハヤテに戸惑いながらも赤黒い剣――《アラーニェ》を受け取る。受け取った途端、自身の持っている片手剣よりも重く、これが鍛冶師の作るプレイヤーメイドよりも上の《魔剣》だと分かった。
 受け取ったアラーニェを一通り振り回し、装備すると情報屋の男が口を開いた。
「さて、これからどうする?」
「もう少しここでレベル上げしたいな。ここのモンスターは厄介だが、経験値稼ぎにはうってつけだからな」
「しかし、あれだけ風雲拳の奥義を出したんだ。少し休んだほうがいいんじゃないか?」
「大丈夫だ。さっきのボスならともかく、雑魚蜘蛛どもなら風雲拳の奥義を出すまでもないぜ!」
「ふ、そうか。――というわけで、我々はもう少しここにいるが君はどうする?」
 
 情報屋の男が俺のほうに振り向く。

「お、俺は疲れたからアンフィスに戻るわ」
「そうか。ならこのダンジョンの出口まで送ろ―――」
「い、いや、転移結晶使うから」

 情報屋の男の言葉を遮る。正直、これ以上この変人どもと一緒にいたくなかった。一刻も早くここから離れたかった。それこそ、高価な転移結晶を使ってまで。
 
「……そうか。……ハヤテは次からフロアボス攻略にも参加する。ハヤテの実力は確かだが、ボス攻略は初めてだからいろいろと迷惑をかけるかもしれない。その時はよろしく頼む」

 ぜってー嫌だ。とは言えず、俺は―――。

「か、考えとくよ」

 としか言えなかった。俺はすぐさま転移結晶を取り出し叫んだ。

「転移! アンフィス!」

 手の中の結晶は砕けり、俺の体は青い光に包まれる。光が一際輝き、目を開くと転移した場所。第四十四層の主街区、アンフィスの中央にある転移門の目の前だった。

「…………」

 多くのプレイヤーとNPCが歩く喧騒の中、先ほどまで一緒にいたブーメラン使いを思い出す。
 威力が低く、一般的に補助スキルと認識されている体術スキルと投剣スキルを完璧に使いこなし、空中や、片足をモンスターに刺しながら不安定な体勢からソードスキルを使う技術。タイミングよく威嚇スキルで相手の動きを操る能力。初見でフィールド全体攻撃に対するとっさの判断力。彼は間違いなくこのソードアートオンラインの十指に入る実力者だ。
 しかし、俺はそんな実力者を考え、先ほどの戦いを見て思うことは一つだった。夕方で転移門近くにはまだ多くのプレイヤーがいるにもかかわらず力の限り叫んだ。

「そういうゲームじゃねえからこれ!」



















あとがき

SAOがアニメ化記念ととっさに思いついたネタでなんとなく書いてみましたが、なんで風雲拳にしたんだ。不破師範かブロントさんしとけばよかった。とか、もっと面白おかしくできたんじゃ……と書いて後悔しています。風雲拳が良くわからない人はyoutubeで風雲拳についての動画が出ますのでよかったら見てください。
それでは駄文失礼しました。


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