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No.33468の一覧
[0] 【習作】 我が魔導を、鉄槌の騎士にささぐ。 【リリカルなのは】[はじっこ](2012/08/05 10:55)
[1] 【1】太郎「タイトルからして、作者はおそらく厨二だ。」[はじっこ](2012/08/04 22:45)
[2] 【2】太郎「甘いお茶には気をつけろ。」[はじっこ](2012/08/05 10:46)
[3] 【3】太郎「魔法戦闘?ムリ、ゼッタイ。」[はじっこ](2012/08/04 22:44)
[4] 【4】太郎「こちら古代遺物管理部遺失物保管室管財課」[はじっこ](2012/07/08 15:41)
[5] 【5】太郎「こちら古代遺物管理部遺失物保管室管財課」その2[はじっこ](2012/07/15 10:53)
[6] 【6】フェイト「休日の悩み相談」[はじっこ](2012/08/05 10:54)
[7] 【7】ヴィータ「私の罪」[はじっこ](2012/08/18 18:49)
[8] 【8】ヴィータ「私の罪」その2[はじっこ](2012/09/15 16:14)
[9] 【9】ヴィータ「私の罪」その3[はじっこ](2012/10/14 12:23)
[10] 【10】太郎「ただいま土下座の練習中」[はじっこ](2012/12/09 16:33)
[11] 【11】スーさん「あなたはどうしたいの?タロくん」[はじっこ](2013/01/27 13:00)
[12] 【12】ヴィータ「色のない空」[はじっこ](2013/01/27 12:55)
[13] 【13】はやて「かえして」[はじっこ](2013/03/03 18:50)
[14] 【14】シャマル「偽善者と最悪の手段」[はじっこ](2013/03/25 16:40)
[15] 【15】太郎「俺の“魂(すべて)”を紅の少女に…」[はじっこ](2013/03/31 13:55)
[16] 【16】太郎「俺の“魂(すべて)”を紅の少女に…」その2[はじっこ](2013/09/08 08:43)
[17] 【17】太郎「色のない心」[はじっこ](2013/11/08 18:50)
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[33468] 【17】太郎「色のない心」
Name: はじっこ◆1601988e ID:c3273a9a 前を表示する
Date: 2013/11/08 18:50









――――――――………………


――――……こ――…こ、は?




闇。




――……ど、こ?


どこまでも続く、闇。


――――…………なんで?


もう、どれくらいになるのだろうか?

あたりから溢れるように渦巻くこの闇に囚われてから、どれくらいの時間がたったのだろうか?




―――――…………わからない




――…もう、どれほどここにいたのかも




気がついた時には、自分の周りを取り巻いていたのは果てのない暗闇だった。

最初の頃は混乱のあまり、当たり散らすように声を荒げ、いるかどうかも分からない誰かに呼びかけた。

その声に返答もなく、気配もなく、それが恐ろしくて、さらに声を上げ、

気づけば、自分の喉は潰れていた。

もう、鉄が擦れ合うような声しか出なかった。そして、ようやく理解したのだ。




なにもないんだ。




ここは、いや、この闇はそういうものなのだ。

ここには何がいても、何がいようと、何もない。


“何も残らない”


誰が居ても、誰かがいたという痕跡も、なにもかも。

今、ここにいる、存在する自分も、いずれは―――――



叫。



気づけば、かすれるようなか細い声が辺りに響く。

その声はまるで親を探す子供のような泣き喚く声。

誰かいるの?

誰か泣いているの?

しかしそれが、自分の声だと気づいた時、胸の奥が握り潰さるような孤独と絶望が心と体を満たす。





―――……なんで、だれもいないの?




壊。




どれほどの時が過ぎたのだろうか?

まるで寒さに耐えるかのように体を丸め、縮こまるように膝を抱き抱える。

この場所に温度の概念はない。寒いわけでも、暑いわけでもない。

しかし、時間を経るごとに体中の感覚が希薄になっていく。少しづつ、自分は闇に溶けはじめている。

なのに、自分にできるのはうずくまって耐えることだけ。


後は、静かに闇の中に消えていくのを待つだけ。


闇。


闇闇。





―――――………もう、いい




狂。


ここにはいたくない。ここでないならどこだっていい。

自分という存在が少しづつ腐敗しただれ崩れ落ちていく。精神をゆっくりヤスリで削られていく。


狂狂。




―――――………ダ、レか………



闇。


気泡のような呟きも、闇に溶け消える。


闇。


闇。


闇。





























































突如、終わりなき暗闇に変化が生じた。




闇の遥か彼方、あたりの暗闇に埋もれなお、それは一筋の『光』となってかすれはじめた視界にうつる。

本当に、瞬くようなわずかな変化だった。

しかし気づけば、無意識に体は光のある方向へ進もうと動いていた。

歩いているのか、はたまた泳いでいるのか、もう感覚のない手足を動かし進み続ける。

光は、徐々にその存在を大きくし、気づけば無数の光の柱があたりを照らしていた。


そして、ひときは巨大な光の柱が自分の目の前にあった。


それはもはや柱ではなく壁であった。

天より降り注ぐ光が収束し、一本の巨大な大木のように闇の中に堂々とたたずんでいる。




―――…………すごい




光の降り注ぐ天上を見上げれば、そこは水面のように光の向こう側を映し出している。

そして、その水面の向こう側に広がる光景に言葉を失う。




そこには、『空』が広がっていた。




澄み渡るような「蒼」がどこまでも広がり、果てしなく続く大空に心を奪われる。

その空を流れる雲も、まるで生き物のようにゆっくりと形を変え、空を泳いでいる。




―――……きれい




ふと言葉がこぼれ、涙が流れる。

悲しみと孤独から流れた涙ではなく、胸の内からあふれる、あたたかな涙。

知らず自分は、無限に広がるこの空に心を奪われていた。

もっと見たい。もっと近づきたい。まるで子供のように気持が浮き始めた時、




突然、それは姿をあらわす。




光の中に射す、わずかな影。

驚き、見上げた先には光に揺らめく水面と、




その上から自分を見下ろす『少年』の姿。



















     *****




「―――いや、誰やねん」


唐突な覚醒とともにツッコミ。

いや、何いきなりツッコんでんの俺。

「…ん、ん?」

何か、さっきまですごいトコにいたような………夢、だったよな?

つか、そもそもココは?

「…おれ、なんで」

視野に入るのは無機質な天井。俗に言う知らない天……これ前にもやったし。

「病院?」

そう、ここはまさしく病院の病室だった。

個室らしい病室は病院特有の薬品の匂いと、白の一色で満たされていた。

俺はというと、白い病院着でベッドに横になっている。

窓は閉めきられており、薄いカーテンから漏れる光が、まだ太陽の昇る時間帯であることを告げている。


イヤマテ、なんで俺は病院に?

馬鹿は風邪をひかないとか俗説はともかくとして、少なくとも俺は病気らしい病気は今までしたことない。戦闘訓練で馬鹿やってとかはノーカウントとして。

「……なんか、あったっけ」

ふと、過去の記憶を呼び起こす。


保管課の仕事をして、仕事が終わって、なんか瑠璃とソゥちゃんがデートがうんたら言ってたけど断って、そんで―――――







………



…………………



「………そっか」


ああ、よーやく記憶が追いついた。


俺は、ヴィータを救うためにシャマルさんにリンカーコア移植の方法を持ちかけて、ユーノも巻き込んで―――

ってことは時間帯的にはヴィータの施術はもう終わったのかな。

「う゛ぅ、だりぃ……」

体を起こすのもおっくうになりながらも上体を起こす。

「…」

まだ寝起きのせいか眠気が完全に抜けきれない。そんな状態でしばらくぼんやりと病室の壁を見る。


ふと、俺は自分の胸に手をあてた。

手のひらから伝わる、人肌ほどの熱。心臓の鼓動が規則正しくその振動を響かせている。

それでいい。それで正常なんだ。それが普通なんだ。


でも、ほんの少し前まで、そこにはたしかにあったのだ。


俺とともに存在した『力の鼓動』が。


「………ぃてっ」

うあととっ、いかん。無意識に爪が立ってたみたいだ。

オチケツオチケツ。

「つつ……跡は、大丈夫か」

いかんなぁ。ちゃんと踏ん切りつけたつもりだったんだけどなー。

「…はぁ」

深呼吸なのかはたまた溜息か、そんな吐息が漏れる。―――と、


「―――タローくん」


ふと、声に反応すれば視線の先に金髪の女性―――シャマルさんが扉を開けたところで病室に入るのをためらいがちにこちらを見ていた。




     *****




「体調の方はどうかしら?」

「はい。とりあえずはなんともないっす」

俺は今シャマルさんから簡単な問診と検査を受けている。

俺自身は別に大丈夫だとは思うんだけど、あの前代未聞の大手術だ。心配もする。

一応俺の体には異常は見られないとのことだ。

というか、今はそれよりも……

「焦らなくても順を追って説明するから、そんな顔しないで」

「……顔に出てました?」

おおう。落ち着け俺。あせりすぎ。

シャマルさんが「ふふっ」と微笑む。そんな大人な雰囲気に照れてしまう。

とりあえずシャマルさんの話を聞くことにする。シャマルさんは椅子に座り、静かに説明を始めた。

「とりあえず、結論から言うわ」

「……っ」

知らず、俺は息を飲む。









「ヴィータちゃんの施術は――――――――――無事、成功したわ」









俺は思わず身を乗り出す。

「……ほ、ほ、本当なんですねっ。成功…うまくいったって―――」

「ええ」

俺はその言葉に体中から重みが消えたかのようだった。

安堵のあまりそのままベッドに倒れこみそうになるが、とりあえずシャマルさんの説明を一通り聞いてからにする。


「―――……一応今のところは拒絶反応の心配は無いわ。今後そういう兆候が出始めたらヴィータちゃんの身体と一緒に調整するという方法で問題ないわ。それよりも、貴方のリンカーコアが思う以上にヴィータちゃんに適合していたのは驚いたけど」

「へ?」

いや、それ初耳。

「ほんとに驚いたのよ?魔力錬度から生成質までこんなに近いのは。おかげで調整に時間が掛からなくてすんだもの」

―――……マジか。案外、俺ら似たもの同士だったんかなぁ。……なんて。


まあでも、全てがいいことばかり、と言うわけどもなかったみたいだ。


移植されたのは俺のリンカーコアだからな。どのみちヴィータの元の魔力量よりもかなり下がってしまった。

ヴィータのリンカーコアの残骸と俺のリンカーコアを「芯」としてよりあわせる形で移植を行った。

結果、彼女の保有魔力量は半分ほどに落ち込んでしまったそうだ。

こればっかりはどうしょうもないけど、やっぱり俺としては複雑な思いだ。

いや、贅沢は言わない。ヴィータが助かっただけでも奇跡みたいなものなのだ。


「ねぇ、タローくん」

「はい?」

シャマルさんは神妙な顔で俺に問いかけた。

「……本当に、これでよかったの?」

うん?

「―――貴方の事」




今回の、ヴィータのリンカーコア移植。

彼女の命を救ったそれが世間に知れることはない。

いや、世間に知れてはいけない。


なんせ、かつて誰も成しえなかった『リンカーコア移植』を成功させた、させてしまったからだ。


というのも、管理局、次元世界の歴史を紐解いてもコア移植をここまで完成した形で実現させた例が存在しないのだ。

不可能を可能にさせた方法と技術。そんなものが世間に広まればどうなるか?


簡単だ、かつての歴史をたどるように狂人(バカ)共がそれを欲する。


それは、過去の犠牲など瑣末ごとのように思えてしまうほど、想像もできない規模の被害が広がる。下手したら次元世界を巻き込んだ事態になる。


だが、その前に不幸の降りかかるであろう被害者は――――――ヴィータだ。


彼女は、リンカーコア移植に成功した貴重な存在だからだ。

彼女がプログラム生命体だろうと関係ない。それを知られたが最後、彼女は―――

……

正直、胸糞悪い。

せっかく救うことができた命が、名も知らん馬鹿どもの玩具にされるなど、想像もしたくない。

…だからこそ、俺とシャマルさんは話し合いの末に防止策を講じた。


ぶちゃけると、隠蔽(いんぺい)だ。


公式では「リンカーコア複合再生施術」ってことになってる。結構無理ありそうだけど…。

このことを知るのは俺、シャマルさん、ユーノ、医療スタッフ数人。

そして、はやて達に説明したのは―――複合再生施術(ダミー)の方だ。

これは、俺がシャマルさんに無理言って頼んだのだ。




「……施術のこと、本当にはやてちゃん達に話さなくてもいいの?」

「はい」

「でも、それじゃあ貴方は……」

「いいんです。これで」

そう、これでいいんだ。

これが俺の望んだ『結果』なんだ。


ヴィータを救おうとした施術において俺という存在はない。

俺が、リンカーコアを失ったことも。

俺が、魔法を失ったことも。

決意も、犠牲も。


―――そんなもん、絶対に知られたくないじゃんか。

そんなこと知られたら、あの子は……かつてない後悔と自責の念に駆られる。

これ以上あの子を苦しめて何になるんだ?

はやてに、ヴィータに、そんな重荷背負わせるつもりはない。

せっかくヴィータの命も助かってのハッピーエンドだ。水を差すなんて真似はしない。


「…そう。貴方が、そう言うなら」

「すんません。無茶言って」

ホント、シャマルさんには心から感謝している。

なにより俺の提案した話に真摯に向き合ってくれたこと。

もしあの時、子供の戯言と一蹴されていたかもしれないのに、シャマルさんはそれを現実にしてくれたこと。

本当に、この人には感謝してもしきれない。


「……タローくん」

そんなシャマルさんは俺に向き直り、

「―――………へ?」

俺の手をとり両手で包むように握った。

彼女の手は触った瞬間、わずかにひんやりとした感覚とすべすべの手触りが伝わってきた。

「…え?え??」

何とも情けないくらいあたふたしてると、シャマルさんは――――




「―――――ヴィータちゃんの命を救ってくれて、本当に……本当にありがとう」




涙を流し、笑顔を俺に向けた。

「貴方のおかげで、ヴィータちゃんを救うことができた。貴方がいなければ、私は何もできなかった……」

「そんな、大げさな―――」

「大げさなんかじゃないわ」

シャマルさんの握る手に力がこもる。

「私はね、あの時……一瞬でも思ってしまったの。『もうなにもできない』って。でも、貴方があの子を救う方法を見つけ出してくれた。そして―――」




そして何より、貴方は諦めなかった。迷いも曇りもない瞳を私に見せてくれた。




「確かに貴方だけでは何もできなかった。でもそれは私も同じ。貴方や、ユーノくん、いろんな人達の協力でできたことなの。だから私は貴方に、この結果を導いてくれた貴方に、心からお礼を言いたかった」

俺の視界に涙が頬を伝うシャマルさんの顔が綺麗に映った。

「だから改めて言わせて。ヴィータちゃんを―――家族を救ってくれて、ありがとう」




     *****




「……ありがとう、か」

もうすっかり夕方になりました。うん。


俺はあの後病院を出て帰路に就こうと歩き始めたはずなのに、なぜに中庭のベンチにぼ~っと座ってんだろうか。

「………」

思い起こされるのは、シャマルさんの言葉。

「―――俺は」

俺は、お礼を言われるような出来た人間じゃないんだが…。

基本は自分を中心に置く立場で、「困ってる人がいるなら助けようかな?」程度の善意しか無い。

危険なことは御法度。命をかける?馬鹿言うんじゃないよ。

俺が第二の人生で決意したのは「いのちをだいじに」だ。


―――でも、俺は……





…………って、ナニ鬱になっとんじゃ俺は!キャラじゃないでしょ!

あーもーやめやめ!こんなとこでウジウジする理由なんてないじゃんか。

「あー……さっさと帰って寝んべ」

これからの身の振り方とか考えることは色々あるけど、それはいったん余所にやる。

つーか疲れた。

「―――……さて」

そんじゃ帰りに晩飯の材料でも買いながら献立でも―――

そもそも俺ってレパートリーそんな無いし。


―――――なんて考えながらベンチから立ち上がった時、


中庭の向こう、病院の入口。

「―――ッ!?」

息を飲む声。

夕日を浴びた輪郭は少女の姿だ。

肩にかかる程度の長さに揃えた、こげ茶色の髪。

「………」





少女―――八神はやてが俺を驚きの表情で見つめる。






うんまあ、考えれば予想は出来てたんだけどね。すっかり忘れてました。

「…なんで」

はやてはわずかに震える声を俺に向ける。

「なんで、ここにおるんや」

その声と瞳には俺に対する敵意が見えていた。

「ヴィータに、会いに来た。会えなかったけど」

あらかじめ用意したように出る言い訳。

張り詰めたような場の空気の中、何故か不思議と俺は落ち着いていた。

はやてはこちらを睨んだまま。俺はそんなはやてを観察してるかのような気分だった。

そして意を決したように、はやては口火を切る。

「―――……ヴィータは、もう大丈夫や」

「……」

「…あの子は、助かったで。手術して」

「……うん」

「だからもう、心配はいらへん」

「…ああ」

俺とはやての間に漂う空気ははっきり言って良いものではない。

まるで亀裂から漏れ出る冷気のように冷めきっている。

普通なら、俺は今頃この空気の中で戦々恐々としているはずだ。はやてという少女の存在にすらビビっているはずなのに………。

「あなたが、ヴィータに何を言うたかは、この際もうええ。あの時八つ当たりしたんも謝る」

でも、だからこそ彼女が何を伝えたいのかも、想像できた。




「―――――でもヴィータには、もう会わんといて」




    *****




時計を見ると、もう0時だった。


晩御飯は昨日作り置きにしていたおでんだ。後は温めなおすだけだ。

「いただきマス~」

おでんをおかずにコンビニで買ったSATOなご飯とともに遅めの食事だ。

「はふ、はふ、ん、んまい」

ちょっとダイコンが硬かったかもしれん。

つか、疲労感がハンパない。この短いスパンで修羅場の連続って……。ホント寿命縮むわ。

「ハァ…」

今後のことを考えると本気で頭が痛い。

「これからどーすっかねぇ?」

昆布を口に放り込んで今後の事を考える。

もう魔法使えないし飛行魔法はもう諦めるしかないし……。

でも研修ももう少しで終わるから、このまま保管課に入るか?

別に魔法に凝ることもないし、保管課なら魔法つかうこともないし。

あ、デバイスマイスターの資格取るのもいいかもしれんな。

オリジナルデバイスの開発……ロマンが溢れるな。

うん、他にもやりようはあるじゃないか。


「…」


なんだよ。


なんだよそれ。


俺は、


俺は理由がないとここにいることもできないのか?


ふざけんな……。


ここには俺の居場所がないのか?


保管課は?


スーさんやソゥちゃんや瑠璃は?


「…っ」


……何バカなこと考えてんだよ俺。


もう、決めたんじゃないか。









『ヴィータには、もう会わんといて』


なんでだ?


『あの子は、後悔しとった。自分のしたこと、あなたにしたことに』


俺のせいだっていうのか?


『あなたに会うたび、あの子は自分のしたことに思い悩んどったんや』


俺に、どうしろってんだ?


『わたしは、…………』




わたしはあなたが嫌いや。




『なんで、自分は無関係みたいにあの子を遠ざけたん?』


『あなたに迷惑が掛かるんはわかってた。でも、ほんの少しヴィータの思いを聞いてほしかった』


『わたしたちのことを許せとは言わん。ただ、あの子の気持ちを汲んでほしかった』


『なのに、なのにあんたは…………!』


……。


『あなたは、あの子が傷ついたのに何もしなかった!』


『あの子はあの日から部屋から出んようになって、何日もたって、やっと顔を見せてくれたんに………』


『ヴィータは泣いとったんや。ずっと、部屋ん中で。あんなひどい顔、わたしは見たことなかった』


……っ。


『あなたは…………』




あなたはヴィータを苦しめてるだけなんや。




わたしは、あの子にこれ以上辛い思いをしてほしくないんや……!!




「―――………」

んなもん、十分理解してるさ。

俺だってヴィータを苦しめたいわけじゃない。

でも、俺がそう望んでいてもそれは俺がいる限り変わらない。

俺は彼女の『罪』の証だから。

俺の姿が、存在が、ヴィータの中に潜む罪悪感(きずあと)に苦痛を与え続ける。

だったら、

だったらもう、どうするかなんてわかりきってるじゃあないか。


「…ん?」


食器を流しに片付け、ふと頬に冷たいものを感じる。

頬に触れてみるとわずかに濡れた感覚が掌に伝わった。

「…」

特に気にすることなく袖で拭う。

「―――歯磨いてさっさと寝るか」

洗面台に向かう俺には、先ほど頬を流れたモノを大して気にかけることもなかった。




     *****










鼻孔をくすぐる水と風の香り。


まぶたの上から感じる柔らかな光。


ふわりと風が肌をなでる感覚。


恐る恐る目を開く。


わずかに震える瞼が上がり、視界は光に満たされる。


目に映るのは、言葉では言い尽くせない光景。




青空が支配する『蒼穹』がそこにはあった。




そこは世界の果てまで続くのではないかという青空が広がっていた。

深い青は手を伸ばすだけで吸い込まれてしまうのではないかというほど澄み渡り、空を悠々と泳ぐ雲は広大な空に白のコントラストを彩る。

天の境界線より広がる大地は、まるで鏡のように空を映し出す湖のようだ。

陸地は存在せず、湖は波ひとつないおかげか鏡のように青空の姿を映し出し、天も地もまるでひとつの空となったような幻想的な幻想的な光景であった。




……………。




「どこやねんここ」




なんだ???

なにがどーして俺はこんなところにいるのか……。

なんと言いますか、不思議なトンネルをくぐりり抜けたわけでもないのに気づけばこのありさまさ!

……アカン。ちっと落ち着こう。こういうときは奇数を数えるのか羊を数えるのか………。

「でも、すごいとこだなここ」

ホント、世界の絶景シリーズにこんな場所ありそうだよな。

こんな絶景、現実ではありえないんじゃないかなぁ。

「ん?」


現実じゃない?


現実じゃあないっつーと。


非現実?


夢?


「―――夢……おお!なるほど!」


ここって夢の中か!


「なるへそ。つーことはだ、これは俺が今見ている夢ってことか」

まさか俺の夢の中でこんな絶景に出会うことになるとは……。俺グッジョブ!

「でも、ある意味納得だ」

俺って空飛ぶことしか頭にないみたいだなぁ…。

「あ!もしかしなくても空飛べるかもじゃん!」

そうと決まれば即実行。夢の中だし飛行訓練ではできない縦横無尽の飛行ができるかもしれん。

「うっしゃあ!いくぞおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

両足を曲げ、腰を低く沈め、体中をバネのように縮める。


「どっせえええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいッ!!」


体を一気に垂直に伸ばす。その反動により足は地面から離れ――――




ふたたび着地。




「………………なぬ?」

もう一度ジャンプ。――――着地。

「……」

ジャンプ。着地。ジャンプ。

「…」







………



…………………



「………な………な…………………」




なんでやじゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!




そのあと、体感で30分ほど頑張ってみたけどダメですた。




     *****




「…明晰夢(めいせきむ)ってやつかねぇ」


絶景級の空を眺めつつ、テクテクと散歩気分で歩き続ける。うん、贅沢だな。

なんだかこの場所を独り占めしてるみたいだなぁ。いや、俺の夢なんだし当り前か。

「…にしても、どこまで続いているのか」

夢に突っ込んでも仕方ないけど、ホントどこまでいっても広大な空と形を変える雲が続いている。


かと思いきや、しばらく歩いていたら少しづつ空に変化が起こる。


空が徐々に赤く染まりはじめ、美しい夕焼け空へ。


そして空が藍色の暗闇に包まれると、そこはまるで砂金をばら撒いたかのような星々が煌めいていた。


そして、輝く星達が空に吸い込まれていくと今度は地平線より光が差し込みはじめ、夜明けの光が夜の藍色を昼の蒼へと染め上げていく。


ちなみにこれももう二週目だが、まったく飽きない。


うん。いい夢じゃん。


「そういや、下のこれって湖なんかな?」

平然と上を歩いていたけど、別に沈むとか溺れるとかいうのはないな。

でも、俺が足を踏みしめて歩くたび水面に波紋が広がっていくから水ではあるみたいだし。

俺は足元をのぞき込むが、鏡のように反射する水面は下をのぞく俺の姿と空だけを映していた。

「……んう?」

しばらく見ていたが特に変化はない―――と思っていたら水面はわずかに揺らぎ、水面の中が少しだけ透けてきた。

俺はしゃがみこんで水面に目を凝らす。




湖の底に―――――少女の姿があった。




「へぶーーーーーー!!?」

思わずその場からゴロゴロと転がり距離をとる。


なななななななナンダ!?幽霊?怨霊?自縛霊?ひえぇぇぇぇぇぇ!くわばらくわばら!


と、長いこと混乱していたが、しばらくして「いや、夢の中で幽霊はないだろ(笑)」と冷静になる。

とりあえずさっきの水面をそ~っとのぞき込む。

「……いるな」

先ほどと変わらず、少女はそこにいた。―――つか、誰っすか?

水の中なのでよく見えるわけじゃないが、腰まで伸びた髪、細身の体、異様に白く見える肌、あとなんか裸。

…………うん、女の子だね。

「お、親方!水中に女の子が!?」

いや、ネタに走ってる場合じゃないし。

少し様子を見てみたが、少女はピクリとも動かず、しかし苦しそうにしているわけでもなく、先ほどからふわふわと静かにまばたきをしているので、死んでるわけでもなさそうだ。

「……」

だが、俺はそれよりも彼女の眼に興味を引く。


彼女の蒼い瞳には、―――――光も色も意思も何もかもが抜け落ちていた。


そう、それは水面の底に沈殿した濃厚な闇のように。


『闇』そのもの。


「―――っ」


なんだ。


落ち着け。


…………いいや。落ち着けるもんか。


ああ、そうか。


「俺は…」


さっきから胸の奥から火種がくすぶるように感情が沸く。


彼女の眼を見るたび、脳味噌の中心がビリビリする。


そうだ、俺は―――――




「―――――あの“眼”が気に入らないんだ」




すべてを諦めた眼。


すべてを手放した眼。


すべてを背けた眼。


すべてに―――『世界』に絶望した眼。


世界のすべてが悪意に見えて、誰も味方がいなくて、ただただ孤独で、一人で、さびしくて、悲しくて―――――


…許せなかった。


そんな眼をする少女が。


少女を絶望させた世界が。


なによりも、―――――いつかの自分自身を見ているようで。


「……」


俺は水面に触れる。

触ってみると水で少し濡れた感じと、ガラスのような硬い感触。

「…よし」

その気になれば、壊せるかもしれない。漠然とだが『できる』という自信があった。

「―――……」

俺は静かに息を整え、拳をゆっくりと振りかぶる。


だが、俺の頭の中でそれを『してはいけない』という警笛がガンガン鳴っていた。


その声に、振り上げた腕が停止する。



―――お前は、自分が何をしようとしているのかわかっているのか?


―――もし、『これ』を壊せば、お前の居場所はなくなる。


―――『これ』は蒼穹(お前)と闇(少女)を隔てル『境界線』。


―――『境界線』が消エた時、お前はこの女ニ世界(すべて)ヲ奪ワれる。


―――そうナレバ、お前(俺)ハ………



「んなこと知るか」



俺は、その声を一蹴する。

「俺は随分とこの世界に執着してるんだな」

まあ、そうだよな。

誰だって自分の世界を奪われるなんて知ったら、耐えられるはずがない。

「―――――でもな」




………―――ピシッ!!



拳は振り下ろされ、乾いた音が世界に響く。

地面に伝う衝撃とともに、そこから亀裂が一気に広がっていく。


「俺の、この世界で、この手で、この思いで、あの子を助けることができるんだ。それって―――――」




最高にカッコいいじゃんか。



亀裂がはじけ、ガラスのような破片があたりに飛び散っていく。

地の底から闇があふれてくるが、俺はそれを無視して思いっきり手を伸ばす。

そして、闇の中に沈む少女の手を取り、力の限り引っ張り上げる。


「―――――」


『赤髪』の少女は目を見開き、驚いているのがわかった。

不謹慎だが、なんだかいたずらが成功したような感じがして悪くない。


なんだか気分がいい、な……なん、だろう…?


安心したとたんに、眠気が襲ってくる……。


「―――っ!―っ!」


広大な青空を背景に、少女が俺に向かって何かを叫んでいる。んん、聞こえん。

顔が影ってよく見えないが、なぜだかその顔は泣いてるように見えてしまった。


「……ったく、なんて顔してんだよ?」


彼女に…名前もわからない少女に笑ってほしくて、俺はニカリ笑ってやった。


身が、視界が、体温が、音が、声が、心が、静かに闇の中に吸い込まれていくようなおぞましい感覚に支配されはじめているのに、俺は―――――









「上見てみろよ。綺麗だろ?」









なんせ、俺がこの世で一番好きな―――――『青空』なんだからな。





























少年は闇に溶ける…………………――――――――――ひとりの少女を残して。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





うまくいかねぇまとまらねぇ作者でぇ。

読者様、熱い応援と感想ありがとうごぜぇます。がんばりますぜぇ。

シリアスは鬱な曲聴きながら書きすすめてます。そうしないとギャグ方面に行きそうでぇ。


……次回です。





【次回】


太郎「色のない心」その2





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