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No.33468の一覧
[0] 【習作】 我が魔導を、鉄槌の騎士にささぐ。 【リリカルなのは】[はじっこ](2012/08/05 10:55)
[1] 【1】太郎「タイトルからして、作者はおそらく厨二だ。」[はじっこ](2012/08/04 22:45)
[2] 【2】太郎「甘いお茶には気をつけろ。」[はじっこ](2012/08/05 10:46)
[3] 【3】太郎「魔法戦闘?ムリ、ゼッタイ。」[はじっこ](2012/08/04 22:44)
[4] 【4】太郎「こちら古代遺物管理部遺失物保管室管財課」[はじっこ](2012/07/08 15:41)
[5] 【5】太郎「こちら古代遺物管理部遺失物保管室管財課」その2[はじっこ](2012/07/15 10:53)
[6] 【6】フェイト「休日の悩み相談」[はじっこ](2012/08/05 10:54)
[7] 【7】ヴィータ「私の罪」[はじっこ](2012/08/18 18:49)
[8] 【8】ヴィータ「私の罪」その2[はじっこ](2012/09/15 16:14)
[9] 【9】ヴィータ「私の罪」その3[はじっこ](2012/10/14 12:23)
[10] 【10】太郎「ただいま土下座の練習中」[はじっこ](2012/12/09 16:33)
[11] 【11】スーさん「あなたはどうしたいの?タロくん」[はじっこ](2013/01/27 13:00)
[12] 【12】ヴィータ「色のない空」[はじっこ](2013/01/27 12:55)
[13] 【13】はやて「かえして」[はじっこ](2013/03/03 18:50)
[14] 【14】シャマル「偽善者と最悪の手段」[はじっこ](2013/03/25 16:40)
[15] 【15】太郎「俺の“魂(すべて)”を紅の少女に…」[はじっこ](2013/03/31 13:55)
[16] 【16】太郎「俺の“魂(すべて)”を紅の少女に…」その2[はじっこ](2013/09/08 08:43)
[17] 【17】太郎「色のない心」[はじっこ](2013/11/08 18:50)
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[33468] 【13】はやて「かえして」
Name: はじっこ◆1601988e ID:0b58e5a9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/03/03 18:50










―――23時52分―――




クラナガン総合医療施設。


その近くの道路に一台のタクシーが止まる。

俺は運転手に料金を払い、飛び出すようにタクシーから降りる。

いつの間にかあたりは雪が降っていた。積もりかかった雪で湿った道を俺は走る。

この先にある建物―――クラナガン総合医療施設は遠くで見ても、病院特有の近寄りがたい雰囲気を感じる。

マンションからココまで急いで来たから今の俺は薄着のシャツとジーンズの上にコートを羽織っただけだ。寒すぎる。

けど、今の俺にとっては寒さなど「その程度」ぐらいにしか思わなかった。そう思えてしまうほど今の俺は切迫していた。




一時間ほど前、フェイトから通信があった。


取り乱すフェイトをなんとか落ち着かせながら、俺はなんとか現在起こっている状況を把握する事ができた。




―――――なのはとヴィータが無人世界で事故に遭い、重傷を負った。




それは、俺を混乱と絶望の海に叩き落とすには十分な内容だった。




     *****




病棟に入った俺はフェイトから聞いた場所へ向かっていた。走ってたら看護士さんに起こられたので今は早歩きだ。

廊下は足元を照らす照明のみで薄暗い。転ぶ心配は無いが、正直迷子になったら目的地以前に最初の入り口に戻れるかも怪しい。

「案内図はちゃんと見たけど……こっちだよな?……」

俺って始めて来る場所は迷子になりやすいクチだからな…。まあだから地図はちゃんと見る方なんだけど。


「――――!!っ、タロー!!」


廊下のむこう、わずかに光が漏れるT字路の先から聞きなれた声。それとともに曲がり角から少女と思われる人影。

知らず、早足だった歩調を早め、さっき注意された事も忘れて走った。

茶色いコートを着た人影―――フェイトは不安に歪む顔で俺に駆け寄った。かなり息を切らしている様子からついさっきココについたのだろう。

「タロー!なのはがっ!ヴィータも、すごい怪我して、いま、しゃ、シャマルが治療室で、それで――」

「お、おい落ち着けっ」

俺は彼女をなだめようとするが、フェイトは尚も不安そうに顔をゆがめる。

「落ち着けないよッ!だって、だって……」

「フェイト…」

「ねぇタロー、だぃ、大丈夫、だよね?なのはも、ヴィータも怪我、すぐ治るよねっ?」

フェイトは俺の両腕をつかみ体をグイグイと引く。体を揺さぶられ、何も抵抗できずにいたが、

「よすんだフェイト。タローが困ってる」

「!、クロノ…」


フェイトの手をほどくように引く少年、クロノがいた。


「っ……ごめんなさい」

「いや、俺は気にしてないから」

かすれてしまいそうなフェイトの声に俺はそう返す。そして、クロノは「すまないな」と静かに言う。

「タロー、話はフェイトからか?」

「…ああ、まあ一通りは」


角を曲がった先、突き当りにある曇りガラスの扉。中の様子はわからないが、ガラス越しに漏れる照明が小さな廊下を照らす。

曇りガラスの扉には液晶表示のように『集中治療室』という文字が浮かんでいた。

その扉の両サイドに設けられたベンチ。

そこにいた白のコートを着た女性、シグナムだ。その傍らには青い狼、おそらくザフィーラだろう。


そして、毛布を頭からかぶり、ベンチに座っている人影。


うつむいた状態に毛布もかぶっているため顔はわからないが、毛布から見える茶色い髪、小さい輪郭の顎は女性特有のもの。

毛布が動きうつむいていた顔が、瞳が、俺の方に向く。


少女―――八神はやてが俺の存在に気付く。


「―――――ッ!?……な、なんで、太郎さんが…?」


はやての顔が先程とは打って変わり、困惑の色に染まる。おそらく今の俺も同じ顔をしているかもしれない。

「な、んで、…ここに……」

「その…フェイトから、聞いて……それで…」

搾り出すように答えるが俺は気が気じゃない。はやての瞳が真っ直ぐに俺を射抜いている。


フェイト経由なのだが、なのは達を最初に見つけたのははやてなのだそうだ。フレイヤが緊急通信を受けた時、真っ先に転送ポートから向かっていったのだ。

しかし、現場に着いたときには2人はすでに重症だった。今まさに二人を襲おうとしていたアンノウンはその場で倒す事ができたものの、彼女からすれば間に合わなかったも同然だった。

なのは達が搬送され、フレイヤからココまで、はやてはずっとこんな状態だったそうだ。


毛布を被ったまま、はやては言葉を選ぶかのように口をもごもご動かし、けれどその瞳は俺の姿を捉え続ける。俺は目をそらす事ができなかった。


俺は……気付いてしまった。はやての瞳に、ほんのわずかだが仄暗いものが混じり始めていたのを。


しかし、一瞬凍りついたかのような空気は一変する。


光が透ける曇りガラスの扉が左右に開く。扉の向こうから緑の手術着を着た女性―――シャマルが出てきた。


「――!!シャマルっ」

はやては被っていた毛布をはねのけ、シャマルの元に駆け寄る。

「シャマル、なのはちゃんは…ヴィータはどないなん?大丈夫なんか?」

「……っ」

はやては詰め寄るようにシャマルに問いかける。その傍らにフェイトもいて、シャマルの言葉を待っている。

シャマルはしばらく何も言わなかったが、二人の声に押されるように言葉を紡いだ。


「…落ち着いて、聞いてね」


シグナムとザフィーラは、ただ静かにシャマルの言葉を待つ。俺も裏返りそうな心臓に「おちつけおちつけ」といい聞かせながらシャマルさんの言葉を待った。

「まず、なのはちゃんは――――失血量は多かったけど、命に別状は無いわ」

その言葉に、わずかな安堵の空気が広がる。―――――しかし、

「でも……」

「でも?……なのはは、どうしたの?」

フェイトが不安げにシャマルに問う。




「…もう、あの子は―――――飛ぶことはできないかもしれない」




シャマルの口から告げられる、宣告。フェイトも、はやても、言葉を失う。

「――――リンカーコアは過剰使用による損傷。体も、疲労と大量出血の上に腹部の傷、かろうじて内臓は無事だったけど……これからは立って歩く事も困難になるわ」

静まりかえる廊下に、シャマルの声が通る。

「リンカーコアも、体も、リハビリが上手くいったとしても――――もう、前のように魔法を使う事は…」


とすん。と、フェイトは糸が切れたようにその場にへたりこむ。


「――!?フェイト!!」

クロノはフェイトの体を支えているが、彼女はもう自力で立つこともできなかった。

「――ぅ、うあ…っああ、…ぁぁ」

フェイトは泣いていた。まるで涙を押さえつけるかのように両手で顔を覆い、けれど涙を止めることはできなかった。

彼女の嗚咽だけが廊下に反響する。しかし、その中で―――――はやての声が響いた。


「………ヴィータ、は?……」


「――………っ」

はやての言葉に、シャマルは一層苦しげに表情を歪める。

「シャマルッ!ヴィータは…あの子は、どうなったん……?」

シャマルは手を強く握り締める。ギリ…という音が聞こえるほど。

「シャマル」

「っ…シグナム」

「どの道、言わなければならないだろう」

「……」

シグナムの言葉に、シャマルは目を瞑る。ここにいる全員が彼女の反応を待った。

そして、彼女の口は開かれる。

「―――……ヴィータ、ちゃんは、胸部を貫通するほどの傷で、表面上は、傷はふさぐことはできた。けど、胸部を貫通したとき、あの子のリンカーコアは……」

「…しゃ、まる?」

ここでシャマルは言葉はとまってしまう。


事実を知らないのではない。現実を直視できないのではない。事実を知り、現実を目の当たりにしたからこそ、彼女がこれから告げることは相応の覚悟が必要なのだ。


俺はもう気付いてしまった。シャマルさんが知り、そしてこれから話す事実は避けることができない――――“絶望”。


そして、それは俺の想像どおり―――いや、想像以上のものだった。


「なのはが二度と飛べなくなる」という現実が、マシに思えてしまうほどに。



















「―――……ヴィータちゃんは、もう助からない」



















絶望という名の弾丸が装填され、引き金が引かれた。



シグナムは苦虫を噛み潰すように歯を鳴らす。


ザフィーラは静かに、悔やむように目を伏せる。


フェイトはさっきまで泣いていたことも忘れ、目を見開く。


クロノは悲痛そうに顔を歪める。


はやてはシャマルの言葉が理解しきれず、呆けている。


俺は皆の反応を見て、ようやくシャマルの言葉の意味を理解した。



「……??、え?…な、何、言うとるんシャマル???」

静寂の中、まず聞こえた言葉は、疑問。はやては苦笑している。

「助からんて……何言うとん。ヴィータが、そんな、そんなことあらへんやないか」

「はやてちゃん。ヴィータちゃんはも―――」


「そんなことないッ!!!!!ありえへんッ!!!!!」


少女は突きつけられた事実も、現実も、受け入れなかった。


「ヴィータが助からん?そんなことあるわけない!!ヴィータは居なくなったりせえへん!!こんなん…こんなん、なんかの間違いや!!」


「はやてちゃんっ!!!!!」


「!!?」

シャマルの怒気をはらんだような叫びに、はやては固まってしまう。

「シャマル……もう、手は無いのか…?」

シグナムの問い。だがシグナムはこの疑問をぶつけても現実は変わらないと薄々感じていた。

「――…わたし、だって……私だって!!できる手はすべて尽くした!すべて調べた!……でも、ヴィータちゃんのリンカーコアは、原型を留めてないくらいボロボロなの…」

血のにじむような、シャマルの声。

「…今、いったんラインを切断して、間に合わせで魔力供給ラインを複数繋げることで肉体の消滅は防いでいる。……でも、これも時間稼ぎでしか、自己崩壊の進行を遅らせる程度にしかならない」

しかし、はやては納得できず、声を上げる。

「でっ、でも!まだ時間はある!その間にヴィータのリンカーコアを治―――」

「それが、できないの。リンカーコアはもう原形を留めてない。治癒をかけても、受け止めきれず垂れ流すだけ。穴の開いたバケツでは水を貯められないのと同じ」

あっさりと、希望は潰える。

「な、ならこのまま魔力を供給したまま―――」

「それも、だめなの」

「――…え」

「魔力を流し続けても、コアの崩壊は止まらない。いいえ、魔力を供給する行為自体が、その進行を早めているといっていいわ。魔力を流せば流すほど「穴」は広がる」


それはつまり、ヴィータの命を維持するための行為が、彼女を死に追いやっているというのだ。


普通の人間であれば、リンカーコアが損傷したからといって死ぬわけじゃない。


でも、ヴィータは人間ではない。その体はリンカーコアを核としている『プログラム生命体』。


彼女にとってリンカーコアを失う事は、心臓を失うのと同義。


「あと、どれ程残っている?」

低いところから聞こえる声、狼の姿のザフィーラが問うのは、ヴィータの『残された時間』。

「…シャマル」

「…」

はやても、シャマルの答えを待つ。









「―――――――――――……………“23時間”……それが、ヴィータちゃんの体を維持できる…時間」








それは、あまりにも短い、彼女に残された命の期限。


ヴィータは一日と経つことなく、その生涯を永遠に閉じる。


その場にいる皆が皆、シャマルの言葉に衝撃を受ける。


「…う、そや…そんなん」

「はやてちゃん…」

「……いやや……――いやああぁぁぁぁ!!」

彼女は頭を抱え、その場にうずくまる。くぐもったような押し殺すような声を漏らしながら、ただ目の前の現実が受け入れられず。

そんな彼女の姿を呆然と見ていたが、それは俺にも言えることだった。

何よりも誰よりも俺自身が目の前の現実を信じられなかった。「多分コレは夢なんだ」なんてバカなことを何度も思った。

でも、夢は覚めない。否、現実は変わらない。


―――なんだよ、なんなんだよこれは。


―――なのはは、主人公なんだろ? 何でヴィータが死ぬんだよ。


―――こんな話、アニメであったのか? どうして……なのはが、怪我しなきゃなんないんだ…?


―――なんで、なんでヴィータが死ななきゃなんねぇんだよっ!!


「な、なんで、こんな…」

俺は知らず、そんな言葉が漏れた。吐息のような俺のつぶやきは小さく、まわりの人間には聞き取ることはできなかった。


ただ、一人を除いて。



















「―――――――――――……………んたの、せいで…」



















その声が聞こえた、次の瞬間、俺は背中から床に叩きつけられた。

「――ッが?!ぐぅ…!」

肺の空気をしぼり出される苦痛の中、その原因は俺の上に覆いかぶさるようにつかみかかる少女。


怒り悲しみなどないまぜな感情で歪む、はやての顔が至近距離にあった。


「はやて!?」

「はやてちゃん!?」


フェイトとシャマルの声が驚愕に染まる。クロノ達も突然の出来事に対応できずにいた。

そんな中、胸倉を乱暴につかむはやては叩きつけるように声を発する。


「あん時、ヴィータに…ヴィータに何を言うたんやッ!」

その叫びに、俺はただ萎縮するしかなかった。

「ヴィータは…あの後、あれからずっと、部屋に閉じもって、ずっと泣いてて、苦しいのに、辛いのに…あの子は―――あの子はなぁ!自分のしたことだからって、自分の…罪だから、私が償うべきだから、言うて…あの子は、ひとりで……なのに―――」

はやての後ろから誰かが―――多分シグナムがはやて腕を取り俺から引き剥がすように立たされるが、はやてはそれでもなお俺に掴み掛ろうとしている。

「こんなん、こんなんないよっ!あんまりやろ!!私が悪かったいうんならいくらでも謝る!あんたが望むならなんだってするッ!――――だから、だからヴィータを、あの子をかえして…かえしてよッ!!!」


「―――っ!?」


「なんで、なんであの子なん!?あの子はずっと苦しんできたんに、やっとたくさん笑えるようになったんに…どうして、こんなこと――ひどぃ…ひどいやんかぁ…」


彼女の言葉は要領を得ない支離滅裂な内容だ。でも、そんなのは何の言い訳にも理由にも気休めにもならない。なぜなら彼女が吐き出してるのは感情そのものだからだ。

彼女の幼い精神(キャパシティ)は限界を振り切ったのだ。


「かえしてよぉ……ぅ、あ…うぐっ…ひぅ―――うぅうぅぅあああぁ……!あ゛ぅうううあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」


俺の耳に、鼓膜を突き刺すような少女の声がこびり付いた。




     *****




―――00時40分―――




治療室の前は先程の騒ぎとは打って変わり、静寂に包まれていた。

今は俺とクロノ以外は誰もいない。泣き叫び疲れたはやてはあの後シグナムに抱き上げられ、多分今は待合室みたいなところで寝かされているのだろう。フェイトも、はやて同様。ザフィーラが人型になっておぶっていった。シャマルさんはいつの間にかいなかった。

「…タロー」

「…」

クロノはどう声をかけたらいいものか迷っているようだ。―――ま、下手に慰めるような言葉を出さないようにしてるトコはなんとなくわかる。

――ったく…。

「クロノ。今は俺のことはいいからフェイト達の様子を見に行ってやれ」

「いや、しかし…」

「まあ、俺はしばらく一人になりたいってコトで」

「……わかった」

クロノはそう言い迷うようなそぶりは見せたが、ゆっくりと待合室のある方へと歩みを進めた。

そして、治療室の前にいるのは俺一人だけとなった。


「…」


目の前の扉は、堅く閉ざされている。―――今、俺の中である衝動がくすぶり渦巻いている。




―――ヴィータに………会いたい。




この先に彼女がいる。この扉を叩き割ってでも中に入って、話せなくてもせめて顔を一目見るだけでも……!

でも、そんなことしたら多分ただじゃすまないだろう。最悪、はやてやシグナム達にボコボコにされるやもしれない。―――でも、それでもヴィータの顔が見れるならそれでも構わないと思った。


―――でも、


「……バカか、俺は」

第一、会えたからといって、会うことができたとして、




「……何ができんだよ」




ヴィータに何かできるとでも思ってるのか?……YES/NO。


この絶望的な状況を覆す奇跡の力を持ってるのか?……YES/NO。


俺は、彼女を助けられるのか?……YES/NO。


答えは、全部「NO」だ。


クソッタレ。身の程をわきまえるのも限度があるだろうが。


「……なんもできねーじゃん」


もう、


もう、いいじゃないか。


これ以上、かかわっても彼女達に不快な思いをさせるだけだ。


だいたい俺はなんの力も、レアスキルも無い。魔力もEランクのなんちゃって魔導士だ。自分の身ひとつで精一杯なのに誰かの命を背負い込めるほどの覚悟も信念も思いも無い。


誰も彼もが何でもできる「ヒーロー」じゃないんだ。俺は、そんなご立派なモノにはなれないんだ。せいぜいが怪人に逃げ惑う一般市民がお似合いだろう。


「…」


俺は治療室に背を向け歩き出す。




しばらくして、集中治療室の前には人気が無くなった静けさに包まれた。




     *****




―――01時12分―――




クラナガン総合医療施設の一室。


「―――…これも、だめ……これじゃぁ…」


ブリーフィングルームの室内にはに明りが灯り、そこに一人の女性の存在を認識させた。


女性は複数のモニターを操作しながら片手に持つ書類に目を通していた。彼女の目線がめまぐるしくモニターと書類を交互に見やる。

普通はこんな事では内容を理解できず逆に情報が混乱してしまうのだが、彼女の頭の中では複数の思考が同時並行して情報の収集と検討が行われていた。

『マルチタスク』を駆使して彼女は自分の求める情報を模索する中で、その幾分かを焦燥と苛立ちに塗りつぶされようとしていた。

「―――消滅の危険性を覚悟して無事なコア断片を収束…?―――コアの周囲を覆うように魔力の膜を張って漏洩を防ぐ…?」

彼女の中で様々な方法が浮かび上がり、そして現実と確率論に照らし合わされた結果、実現は不可能と判断し落胆する。


彼女は―――シャマルは自分の行いがただの悪あがきだとわかっていながら、それを諦めきれずにいた。


ブリーフィングルームに備えられたテーブルの上には書類が散乱し、床にも何枚か落ちていた。

焦りから手が震え始め、手に持った書類が何枚か落ちるがそれを気に留める余裕はなかった。

「―――っ…ヴィータちゃん……!」

ついに、動いていた手が止まってしまった。

時間が、無かった。あまりにも足りない。

こうして、ただ時間が過ぎていくだけでもシャマルの心はおろし金に当てられたような心的負担に囚われる。


「―――………ッ!!」


苛立ちのあまり、テーブルに拳を打ち付ける。「―――ドンッ!」という衝撃音とともに書類は舞い散り、座っていた椅子は蹴り倒されてしまう。

右手から伝わる鈍い痛覚がわずかに脳をクリアにする。ふいに壁にかけられた時計に視線を向ける。


ヴィータに残された時間は……………あと22時間弱。


(……)


シャマル自身、騎士として戦い続けた現在に至るまで仲間の誰かが欠ける可能性は常に覚悟はしていた。しかしそれは参謀としての打算と彼女自身の気持ちとはまったく別だ。

もうヴィータ達はシャマルにとって失う事を許容できない存在―――家族だった。

もう誰一人、何一つ失いたくない。

今、それだけが、今の彼女を突き動かしている。だが、それでも―――


彼女の意思は折れる寸前だった。


手探りに近い治療法の模索、治療方針も定まらない、準備も、情報も、資料も、―――何よりも、時間が無かった。


こうして頭を抱えている間にも時間の針は進み続ける。こんなことをしている猶予など無いのに、もうシャマルは限界を感じ始めていた。




(――――――も、う……)




視界がかすんでいくような錯覚とともに、強く握っていた拳から静かに力が抜けていく……………。



























































「――――――――――っだあぁぁ……!はぁ、やっと見つかった~……」




突如背後から響く声。

シャマルの思考は驚愕に染まる中、ブリーフィングルームの扉から聞こえた声に振り返る。

「はぁ…道迷ったときはマジで焦った…」

そこにいたのは日本人特有の黒髪と黒い瞳の少年。あまり特徴の見られない顔立ちは疲労に歪んでいる。

だが、彼女が気になったのはそんなことではなかった。

「探しましたよ。シャマルさん」









その少年の眼は、―――――強い光を宿していた。









――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





さ、作者です。カメ更新でゴメンサイ……ぐふぅ。

読者のみなさまの感想と意見を糧にまだまだガンバリマス!!


さて、次回。

少年、山田太郎の物語が動き出す。







【次回】


シャマル「偽善者と最悪の手段」





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