星の光も消え失せた夜、私は夜の闇を切り裂くように飛行魔法を駆使し、空を駆ける。
焦りで弾みそうになる息を、なんとか落ち着かせながら、わずかに感じる魔力をたどる。
こんなことしてるなんて、はやてに知られたらきっと………
『蒐集』
魔導士・魔力を持つ生命体が保有する魔力生成器官、『リンカーコア』を『闇の書』と呼ばれるデバイスによって吸収することによって。主に大いなる力をもたらすことができる。
しかし、リンカーコアを奪われた者は、魔法が一時期使えなくなったり、最悪の場合、死んでしまう。
現・闇の書の主、八神はやては見知らぬ他人が苦しむことも、大いなる力も望まなかった。
彼女は穏やかな暮らしを望み、騎士たちを家族として向かい入れた。
暖かく、幸せな日々が続いた。永遠に続いてほしいと願った。
けれど―――――――――――――――――――――
(ちくしょうっ……このあたりのはずなのに!)
この街に入ってサーチにかかった反応は『3』つ
ひとつは瞬間的な魔力量は大きいが、ついたり消えたりしてる、魔力を隠蔽する方法を知っていることから、おそらくは『魔導士』。しかも魔力からして「アタリ」かもしれない。
けれど、どうにも反応がとぎれとぎれで、うまく見つけられない。後回しにするほかない。
ふたつめは―――正直言ってバカ魔力だ。隠しもせずに魔力だだ漏れだ。罠なのか、それとも単なるバカなのか。
いいカモかとも思ったが、慎重に様子を見てみると案の定。
『時空管理局』
遠目だがそれらしい人物と接触しているところを見た。
となるとアイツは時空管理局の魔導士ということになる。
さすがに管理局の相手はしたくない。面倒になるどころの話じゃない、最悪はやてが捕まってしまう。
それならひとりめを地道に探したほうが、何倍もマシだ。
みっつめは……………何だろう?
正直、最初の2人よりも魔力は少ないほうだろう。良くて1ページ埋まるか埋まらないかぐらいだ。
この世界は魔法文明は皆無だと思ったが、はやてのような資質を持つ人間はちらほらいるようだ。
コイツに関してはよくわからない。
魔力の質からして、おそらくは素人。それかまだ魔力が覚醒しきっていないのかもしれない。
(っ!!)
するとサーチが反応した。
この魔力の反応は……………………
「―――――――――――――見つけた」
*****
第一印象は――――――変なやつ。
10代半ばの背格好、身長は高め、黒髪黒瞳の少年。
私が突然出てきたのを皮切りに右往左往しだす少年。眼には、怯えと驚愕に染まっており。なにかブツブツと言い始めた。
(渋るようなら、さっさと気絶させて―――――――)
と思っていたら、彼のほうからとんでもない提案が来た。
――――――魔力を差し出す代わりに、命を取らないでほしい。
私は正直、耳を疑った。
魔導士、いや蒐集の実態を知っているであろう管理局員ならリンカーコアという器官がどれほど重要な存在なのか知らないはずはない。
リンカーコアを奪われるということは、すなわち己の魔法を奪われるということ。
鳥にとって、翼をもがれ地に落とさたも同然なのだ。
ミッドにおいてもベルカにおいても、魔法を持たない人間の立場は弱い。
それほどに、管理局にとって・魔導士にとって魔法はもっとも重要なステータスなのだ。
今一度、彼の言葉に驚愕の表情が出そうになる。思わず彼の顔をじっとみるが彼の顔からは「覚悟」の二文字が読み取れる。まだ若干脅えの色が見えるが、その力強いまなざしに、しばし見とれてしまった。
(ッ!)
自分の行為に若干戸惑いつつも、本来の目的を思い出し、闇の書を取り出す。
たとえわずかでも、労せずに魔力を手に入れられるのだ。こちらとしては願ったりかなったりだ。
(悪ぃな………これもはやてのためだ!)
空中で闇の書が開き、パラパラとページがめくれる。
『蒐集』
闇の書が鳴動し、そのページを埋めるべく彼の魔力を奪い始める。
彼は苦痛に声を漏らすが、それと比例して胸の輝きがだんだん強くなる。
(!!っ――これは!?)
思わず驚愕に顔が染まる。それは、思いのほか彼の魔力が少なかった――――――――――――――――――――――わけではない。
『多すぎる』のだ。
本来見積もっていた量とは明らかに違う。おそらく魔力覚醒前で気付かなかったのか。それとも魔力が漏れにくい体質なのか。
このとき、魔が差したのであろう。
(っ――――もう少し…!)
こんなチャンスは、おそらく二度と来ない。 そんな彼女の眼にはやさしい主の姿が見えた。
(これで―――――あと少し!)
すでに闇の書は5ページほど埋まった。まだ蒐集は続いている。彼女は、やさしい主のことを思いながらも、今現在収集の餌食となっている彼のほうに目が行き―――――――
「――――ぅ―――――ぁ」
「――――――――――っ!!!?」
ついに、その口から驚愕の声が漏れた。
彼は、まるで拷問に耐えるかのような顔で筋肉が引きちぎれるのではないかというくらい表情がゆがみ、目は焦点が合っておらず涙と、歯が折れるくらい食いしばった口からのヨダレとでぐしゃぐしゃだった。
あわてて蒐集をやめ、彼に駆け寄る。
彼は、糸の切れた人形のようにその場に崩れおちる。
うつぶせに倒れた彼の顔は血の気がなく、小刻みに痙攣している。
「おい!!しっかりしろ!!」
「―――――」
あわてて仰向けにし、心音と呼吸を確かめる。
「…………」
胸に耳を当てると、不規則だが心臓の音が聞こえる。呼吸もちゃんとしている。
「………ふぅ」
とりあえず命に別状はないと安心するが、冷静になった頭が先ほどの己の愚行を思い出させる。
「っあ…あたしっ―――――!?」
一歩間違えれば彼の命を奪っていたやも知れない失態。それは主であるはやてに殺人の濡れ衣を着せてしまうも同然だ。だが、それよりも――――――――
―――――――――命を取らないでほしい。
「―――――――っ!?」
彼との約束を、願いを踏みにじったのだ。
騎士である、自分が、『鉄槌の騎士』が。
後悔…………なんてものではなかった。
かつて、数え切れぬほどの命を奪い。数え切れぬほどの敵を砕き。数え切れぬほどの血を浴びた。恨まれても、蔑まれ罵られても文句はないと思っている。己を犠牲にする覚悟だってある。
けれど、誇りはあった。
騎士として、主のために、仲間のために、強大な敵と対峙した時も、己が主に罵倒されても、『鉄槌の騎士』の名を誇りに思っていた。
―――――自分はいったい何をした?
「―――あたし…は」
―――――これが『騎士』のやることか?
「ちっちがう!!」
――――――――じゃあ…………
―――――――――カレノイノチヲウバオウトシタオマエハ
―――――――――『ダレ』ダ?
「――――――――――!!??」
遠くからのサイレンの音にはっとなり、あたりを見渡す。
(結界が!?)
あらかじめ張っておいた結界が消えていた。どうやらあまりに動揺したせいで結界の魔力が切れてしまったようだ。
ここにいてはまずい。
「っく!?」
正直、彼をここに置き去りにしたくなかった。せめて病院の前まで運ぶくらいはしたかったが――――
サイレンの音が徐々にこちらに近づいてくるとともに、先ほどの動揺と合わせて焦りが彼女の心を埋めていく。
とっさに彼女は飛行魔法を行使し、ふわりと浮きあがる。
「…………っ」
不意に仰向けになっている彼が視界に入り、口から声が出かかったが、彼女の声帯はまともに働かず、何も言えずに彼女は闇の支配する空へ消えていった。
『彼』と『騎士の誇り』を置き去りにして―――――――――――――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
どうも、作者です。
前回同様、今回もいろいろとスイマセン(;- -)
本当は、ここから主人公視点いれたかったけど体力的に無理でした。
次は主人公視点からです。また見てくれるとうれしいでっす!!
【次回】
太郎「甘いお茶には気をつけろ。」
緑髪のべっぴんさんの正体が明らかに!?
【修正しました。】
魔法至上主義の管理局において、魔法を持たない人間は蔑まれる傾向にある。
↓
ミッドにおいてもベルカにおいても、魔法を持たない人間の立場は弱い。