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No.33454の一覧
[0] 【チラ裏から】高町なのはの幼馴染(全裸)[全裸](2014/11/12 02:33)
[1] 新人二人と全裸先輩[全裸](2012/06/21 09:41)
[2] 機動六課と雑用担当全裸[全裸](2012/07/02 14:42)
[3] 聖王教会と全裸紳士[全裸](2012/07/15 23:22)
[4] 狂気の脱ぎ魔と稀代の全裸[全裸](2012/07/15 23:23)
[5] 機動六課と陸士108部隊[全裸](2012/08/15 02:00)
[6] ツインテール後輩の苦悩と全裸先輩の苦悩[全裸](2014/11/12 02:33)
[7] オークション前の談話[全裸](2012/10/21 03:18)
[8] オークション戦線[全裸](2012/12/06 04:50)
[9] 女装系変態青年の宣戦布告[全裸](2012/12/06 04:47)
[10] ナース服と心情吐露[全裸](2013/12/07 14:05)
[11] 閑話[全裸](2014/02/01 01:52)
[12] 全裸と砲撃手[全裸](2014/04/15 19:24)
[13] 全裸と幼女[全裸](2014/08/19 01:07)
[14] 全裸と幼女とツンデレと機動六課という魔窟[全裸](2014/11/12 02:42)
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[33454] 女装系変態青年の宣戦布告
Name: 全裸◆c31cb01b ID:ae743e2c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/12/06 04:47
 時刻は既に夜の十一時を回っていた。夜空には雲一つなく、月明かりが地上に爛々と降り注いでいる。
 そんな中、ティアナは一人で隊舎裏にある森で訓練を行っていた。額には汗が流れ、疲労からか呼吸も荒い。だが、瞳には強い意志が宿っており、まだまだいける、と自分に言い聞かせているようにも見える。
 ティアナはふらつく足で四方にターゲットを設置すると、その中央でクロスミラージュを構える。間もなくターゲットが発射されると、ティアナはそのターゲットを捉えるようにクロスミラージュの銃口を合わせていく。ターゲットの数は一つから二つ、二つから三つと増えていき、その速度も時間と共に段々と増して行く。
 この訓練の目的は、絶えず動き続けるターゲットに対して、正確なフォームで素早く銃口を合わせることで、命中精度そのものを高めることにある。他の射撃訓練とは違って、魔力やカートリッジを消耗しないため、自身の納得がいくまで、あるいは体力が続く限り行うことが出来る。

「――――っ!」

 しかし、いくら体力が続く限り行える訓練とはいえ、何事にも限度がある。
 ティアナの場合、その限度は軽く超えていると言ってもいいだろう。
 よほど長い間やっていたのか、蓄積する疲労でフォームはバラバラ、ターゲットに向ける銃口は安定せずにあらぬ方向を向いてしまっている。
 このまま続けていれば、高町が教え込んだフォームが崩れてしまう可能性もある。銃を扱う人間として、それは致命的だ。ほんのわずかな銃身の狂いが、どうしようもない重大なミスを生むこともある。
 そのことは、もちろんティアナも分かっていた。
 それでも、ティアナは動きを止めようとしない。彼女を動かし続けているのは、先日のホテル・アグスタでの警備任務の際にやらかした、スバルへのミスショットが原因だった。ギリギリのタイミングでヴィータのカバーが入ったとはいえ、ミスショットはミスショットである。それに加えて、そうなってしまった原因を作ったのが、他ならぬ自分のスタンドプレーだったのだから、もう自分にも周囲にも言い訳をする気になれなかった。
 ただひたすら、自分がミスをしたという現実を、厳粛に受け止めなければならない。
 そして、そのミスを取り返さなければならない。

 ――きっと、私は弱い。

 それは、ティアナが機動六課に配属される以前から繰り返してきた、自分にとって馴染み深い自問自答だ。

 ――なら、少しでも強くなれるように努力しなければならない。

 凡人である自分には、悠長にしている時間は無い。
 この世界には、自分のような凡人が倒れるまで訓練しても、決して超えることの出来ない才能という名の“壁”が存在している。
 しかし、ティアナはその“壁”を超えてやると、越えなければならないと、幼い頃から自分に課し続けてきた。どれだけ“壁”に心を折られても、どれだけ“壁”に嫉妬しても、そんな弱い自分を嫌いになりながら、ひたすらに“夢”を想ってここまで歩いてきたのだ。
 今になって退けるわけも無い。

「――兄さんの魔法が役立たずだなんて、そんなことあるわけないっ!」

 夜の帳が下りきっている中に、ティアナの悲痛な叫びが木霊した。



 現在、鳴海賢一の基本スタイルは全裸から女装へとシフトしている。
 先日の任務の際に、何をトチ狂ったのかドレスを見事着こなしてしまったことで、変態の琴線に触れるものがあったのかもしれない。機動六課の隊員たちも、全裸に股間ステルスでうろつかれるよりかは、まだ女装の方が精神的にも楽という事も相まって、鳴海の女装に関してあれこれと言うような人は特に現れなかった。

「――でも、これはこれで狂ってるよねぇ……」

 フェイト・T・ハラオウンは廊下を歩きながら、機動六課が抱える問題について率直な感想を独りごちた。
 その声が聞こえたのか、フェイトの数歩前を歩いていた女性陸士の制服を着た変態が、セミロングのブロンドヘアーを浮かせながら振り向いた。

「ん? フェイト、何か言ったか?」
「う、ううん。別に、何も言ってないよ……」
「そうか? あ、そういえば、今日はサンキューなフェイト。俺一人だったら流石に緊張してヤバかったと思うし、オメエがいてくれて本当に助かったぜ。とりあえず、これから食堂で昼飯でもどうよ?」
「まあ、それはいいけど……。女装してる知り合いがブティックの前で挙動不審な振る舞いをしてたら、流石に見過ごすことは出来ないもんなあ……」

 満面の笑みを浮かべて感謝してくる鳴海とは対照的に、フェイトは自分の身に降りかかった不幸を嘆くあまりに、その表情は酷く暗いものとなっていた。
 まさか、自前の車での外回りの帰りに、自分もよく利用する高級ブティックの前で、傍目から見ても挙動不審な振る舞いをしている、そんな変態の知り合いを見つけることになるとは思いもしなかったのだろう。
 最初に女装系変態男を見つけたときには、何も見なかったことにして全力でスルーしようと思ったフェイトだった。
 しかし、もし仮にどこぞの誰かに「何か挙動不審な管理局員がいるんですけどー」と通報でもされれば、機動六課が抱える“致命的な急所”が女装に目覚めたことが、そのまま公に知られてしまう可能性がある。
 それだけは、何としても避けたかった。機動六課で働いている者として、周囲からこれ以上の奇異の視線を向けられることの巻き添えにはなりたくなかったし、エリオやキャロの情操教育の為にも、災厄の芽は自身の身を呈してでも摘み取らなければならない。
 その結果が、鳴海の両手を塞いでいる大きな紙袋である。
 鳴海とフェイトは横並びになりながら、機動六課の廊下をのんびりと歩くのを再開した。

「だってよお、アリサとすずかから服を貰ってきたのは良かったけど、やっぱり自分で買った服も来てみたいじゃん?」
「あっ。そのことだけど、二人ともすっごく驚いてたでしょ? ミッドチルダの特殊回線を使って、私となのは、はやてのところに一斉にメールが届いたみたいだし」
「んー……まあ、すずかは“はえっ!?”とか素っ頓狂なリアクションをした後は、いつもみたいに静かになったけどな。ただ、アリサはずっと口喧しかったぜ? アリサが口を開けば“はあ!? 全裸の次は女装とか、アンタ本当に頭おかしいんじゃないの!?”とか、“何でアンタに服をあげなきゃいけないのよ!?とか、“下着まであげるわけないでしょ!? アンタ本当に頭狂ってんじゃないの!?”とか、そりゃもう散々だったぜ」
「……賢一は一度、自分の発言を振り返ってみた方がいいんじゃないかな。アレだからね? 普通の感性を持った人は、みんなアリサの意見に同意するからね?」

 フェイトは二人から送られてきたメールの内容を思い出した。
 二人から送られてきたメールの文章は同様に一文で構成されていて、すずかからは「賢一君がもう末期過ぎるよ」との一文が、アリサからは「あの変態マジでどうにかしなさいよあんたたち!」との一文が送られてきた。
 まあ、久しぶりに会った変態が女装趣味に目覚めていたのだから、二人とも相当驚いていたことは想像に難くない。
 ホテル・アグスタでの警備任務の前に、地球でロストロギア反応が出たという事で、地球に縁がある人間が多く配属されていた機動六課にそのお鉢が回ってきたことがあったのだが、その際には鳴海は出張任務に帯同していなかった。
 なんでも、鳴海待望のエロゲが発売されるとのことで、彼は事前に有給休暇を申請していたらしい。
 それも、申請理由に堂々と“エロゲプレイの為”と書いていたようで、それを八神から伝えられたフェイトは頭痛を覚えた記憶がある。
 そんな事情もあって、前回は鳴海と再会出来なかったすずかとアリサの二人である。その時の二人の表情が寂しいというか物足りないというか、何とも言えない複雑な表情をしていた二人にしてみれば、折角の再開が女装で台無しにされてしまったのだ。二人に縁を切られなかっただけでも、鳴海にとってはかなりの幸運だろう。
 だが、当の本人は自身の幸運体質に感謝している素振りは微塵も見せることなく、フェイトの苦言に対して首を傾げていた。女装姿の影響か、その姿がかなり可愛いらしいことにフェイトは頭痛を覚える。

 ――ああ、今すぐ逃げ出して自室で寝たい。後始末とかはなのは辺りに押し付ける方向で、全部を放り投げて爆睡したい。

 鳴海がどれだけ苦労人風に語ったところで、その意見に同意・同調するような人間はきっとゼロだろう。ゼロに決まっている。ゼロでなければ困る。ゼロでいて下さいお願いします。――そんな風に、フェイトは勢いを増した頭痛に負けないように、胸の内で強く願いを込め続けた。
 それはまるで、自分の言葉に自信を持てていないことの裏返し、とも取られかねない程の懇願だった。
 鳴海の交友関係を改めて観察してみると、フェイトを含めてそれは多岐に渡っていると言える。
 年齢。性別。社会的な立場。
 そういったハードルを、鳴海はまるでどうでもいい障害物のように軽々と飛び越え、対象の間合いにすんなりと割り込みをかけ、いつの間にかとても奇妙な人間関係を構築してしまう。
 今のところ、鳴海の前に彼と“同類”の人間は現れていないはずだが、もし仮に、今後そんな人物が現れるとしたら、もう機動六課の目的云々ではなくなってしまうだろう。瞬く間に混乱が満ち溢れ、全ての人間を巻き込むような厄介事を引き起こす可能性が高い。
 だからこそ、フェイトは神に祈る修道女のような気持ちで願った。

――本当に、本当にどうか、私の人生に変態は一人だけでお願いします……っ!

 フェイトが内心でそう願っていると、背後から聞き慣れた声で呼び止められる。

「あれ、フェイトさんと…………えっと、女装した鳴海さんですか?」

 フェイトが振り返った先にいたのは、赤毛が特徴的なエリオ・モンディアルと、その隣を飛んでいるフリードだった。
 エリオの視線は隣に立っている変態に向けられており、変態の女装姿に段々と慣れてきたエリオにとっても、どうやら変態の女装スキルには自信が持てないようだった。ともすれば、鳴海賢一である事実を忘れて、思わず見惚れてしまいそうになっているのだろう(ちなみに、フリードは低い唸り声をあげながら、鳴海の事を思いっきり威嚇していたりする)。
 フェイトには分かる。
 なんせ、自分も初めて見たときにはそうだったのだから。
 だからこそ、エリオにはそんな過ちを犯してほしくない。変態に見惚れるだなんて、そんなことは真人間にあってはならない事なのだ。
 フェイトはエリオの傍まで近づくと、目線を合わせるためにしゃがみ込んでから、エリオの小さな両肩を両腕でガシッと掴む。

「うん。そうだよ、これは賢一だよ。外見だけだとただの美女にしか見えないけど、それでも中身は変態で全裸脳の鳴海賢一だよ。だからエリオ、間違っても見惚れちゃ駄目なんだからね?」
「そ、そうですよね……というかあの、ちょ、フェイトさん? 何か、あの、少し怖いんですけど」
「キュー……」

 エリオとフリードが若干引いているのにも関わらず、フェイトは謎の凄みを止めようとしない。

「大丈夫、怖くないから。エリオは私の言う事を信じていればいいの」
「なんつーか、オメエのその発言ってかなりヤンデレっぽくねえ?」

 フェイトはエリオに言いたいことを言い切ったのか、鳴海の発言を華麗にスルーしながら立ち上がった。

「あっ。そういえば、もう訓練は終わったの?」
「えっと、終わったというか中止って感じです」
「中止? 珍しいね、なのはが訓練を途中で止めるなんて」

 フェイトは素で驚いた。
 高町の性格を考えれば、機動六課という期間限定の性質を抱えた部隊において、その限られた時間を無駄にする事は極めて珍しい。フォワード組の体力が続く限り、その限界までスパルタ教育をして勢い余って砲撃でズドンしそうなものなのだが、何かあったのだろうか。
 そんな事を考えていると、エリオが頭をかきながら言った。

「ティアナさんの体調が悪いみたいで……それを見かねたなのはさんが、今日は訓練を中止しようってことに」
「へえ……あのなのはが温情を見せるなんて、やっぱりあれが影響してるのかな」
「なあ、オメエも最近になって毒舌多くなってねえ?」

 誰のせいだ誰の、とは口には出さずに心に留めておく。変態に構うと無駄につけあがるため、出来る事ならスルーすることが望ましい。出来る事なら、であるが。
 そんなことよりもフェイトが考えていることは、先日のホテル・アグスタでの警備任務の際に起きた、ティアナのスバルへのミスショットの件だ。
 フェイトは後で聞いた話だが、どうやらティアナがスタンドプレーに走った挙句、無理が祟ってそのような事になってしまったらしい。普段は冷静なティアナにしては珍しいミスだと思ったが、未だにそれが尾を引いているようだった。
 高町も、その辺のことを考えているのかもしれない。

「それじゃあ、ティアナは今どこにいるのかな?」
「たぶん、スバルさんとキャロと一緒に食堂にいると思います。シャワーを浴び終わった
後、外で待っていてくれたフリードが教えてくれたので」
「キュイ!」

 エリオもだいぶフォワード組に馴染んだようだ。フリードとも意志の疎通を取れているようだし、案外そっち方面の素質があるのかもしれない。将来的には、キャロと二人で自然保護体に配属、といった方向性も視野に入れていいだろう。
 フェイトはエリオの可能性を嬉しく思いながら、背後からの全身を舐め回すような嫌すぎる気配に根負けしたのか、実にめんどくさそうに振り返った。

「……何か用かな?」
「ちょっと待って、その反応って割とひどくねえ? 俺が何かしたか?」
「本人に自覚が無いのって相当な罪だよね」
「まあ、俺ってば罪な男だから。いや、この場合は罪な女だから、か?」
「確かに、賢一は罪な人間だよね。……主に犯罪的な意味でだけど」

 フェイトは溜息を吐くと、改めてエリオに向き直ってから言った。

「それじゃ、私たちと一緒に食堂に行こうか? 私もお仕事は終わったし、最近はエリオとの時間を取れてなかったしね」
「あっ、はい」

 フェイトの笑顔を浮かべながらの言葉に、エリオは少し顔を赤らめながら肯いた。

「くっそ、流石のショタ枠だな。かなりのダメージだぜ……っ!」

 変態の発言は聞き流しながら、フェイトはエリオを連れて歩き出した。変態もその横に並び、現在は左にフェイト、中央にエリオとフリード、右に変態といった並びになっている。
 この並びだと一説には親子とペットみたいな感じになるはずなのだが、女装している変態が一名程混ざっているためそれも難しい。仲の良い三人姉弟とペットがギリギリ妥当なラインだろうか。変態が普通に男物の服を着ていればなんとかなったかもしれないが、変態の気紛れに期待するのはかなり分が悪い――と、そこまで考えて、フェイトは首を横に振った。
 この考えは不味い。自分から地雷を踏みに行っている。不幸に酔いすぎるあまり、思考回路がおかしくなってしまったのかもしれない。
フェイトが自分の思考回路に驚愕していると、不意に変態が声をかけてきた。

「なあ、ティアナのやつどうかしたのか?」
「え? ああ、うん。この前の任務中にミスしちゃったみたいで、それがまだ尾を引いてる感じなのかな」
「へえ。まあ、アイツってけっこうメンタル弱そうだしなあ」
「……賢一が言うと妙な説得力があるよね、そのセリフ。――エリオはどう思う? いつものティアナと比べて、やっぱり様子がおかしかった?」

 エリオは少しだけ言い淀んだが、なんとか語句を捻り出すように言葉にする。

「……そう、ですね。いつものティアナさんと比べると、こう……焦ってる、みたいなところはあったと思います」
「やっぱり……か」

 フェイトは嘆息する。
 それだけ、ティアナにとってはショックなミスだったのだろう。単なる仕事上のミスではなく、パートナーである親友へのミスショット。
 しかも、それが自分のスタンドプレーがもたらした結果であるのだから、責任感が強いティアナが落ち込まないわけがない。
 むしろ、そういった自責の念に駆られるケースにおいて、ティアナは人一倍追い詰められるタイプだろう。普段から、どこか自分を卑下しているようなティアナにとって、今回のミスは格好の的になりかねない。
 このまま放っておけば、ティアナにとっても機動六課にとっても良くないだろう。

 ――でもなあ……。こう、タイミングを間違えると、エライことになりそうなんだよねえ……。

 ティアナは頭が優れている子だ。
 だからこそ、自分自身の事は自分が一番分かっている、そんなつもりになっているだろう。そんなティアナが自分を追い詰めるといった選択をしたのだから、ここで下手なフォローをしてしまえば、それは火に油を注ぐことと同義になってしまう。
 高町が先に動くかもしれないが、このままただ遠巻きから見ているだけというのも、なんだか落ち着かないものがある。
 フェイトがどうしたものかと悩んでいると、いつの間にか食堂の前に辿り着いてしまったようだ。念のために、ティアナの件に関しては変態の口を噤んでおくことにする。

「賢一。念のために言っておくけど、ティアナに余計な事を言わないでね?」
「はあ? 余計な事って何だよ?」
「えっと……こう、無神経に逆撫でしちゃうような言葉、かな? 賢一がいつも口走ってるような感じのヤツ。今のティアナのコンディションだと、そのままの流れで大変な事になりそうだし。ね?」
「オメエの発言ってかなり失礼じゃねえ?」
「賢一にはこれぐらいの方がいいの。それより、ちゃんと分かった?」
「あー、ハイハイ。分かりましたよっと」

 鳴海はそう言うと、一人先に食堂へと入っていった。フリードもその後に続いていく。
 その後ろ姿は女性局員にしか見えず、その特異的な変態性がフェイトに不安を覚えさせる。エリオもフェイトと同じ気持ちにさせられたのか、どことなく不安げな表情を浮かべながらフェイトに問いかけた。

「……鳴海さん、本当に大丈夫でしょうか? あの後ろ姿を見てると、どうにも不安になってしまうんですけど」
「……まあ、エリオがそう思うのも無理はないかな。――でもね? あんな風に変態な賢一でも、極々稀には凄いことをやってのけるんだよ?」
「え?」
「賢一って普段からあんなだから誤解されやすいけど――ああ、変態っていうのはもちろん間違ってないんだけど、そういうのも含めて普通の人には出来ない事を、まるで何でもない事のようにやっちゃうんだ。確か、エリオも体験したことがあるんじゃないかな? ほら、初任務の時にさ」
「――ああ、そういえば」

 エリオは思い出す。
 初任務の時、自分の隣に座っていたキャロが不安に呑み込まれそうになっているのを、高町からバトンを受け取るように解決した(本人にその気が合ったのかは定かではないが)のが、あの鳴海賢一だったという事を。
 あの時の鳴海は八神にバインドで芋虫状に吊るされていて、見ているだけでも気が滅入ってしまいそうになる絵面だったが、良い意味で空気を読まないその在り方に、ヘリ内の空気が一変したことは今でも思い出せる。

「賢一ってさ、ほんっとーに諦めが悪いんだ。だから自分の在り方にも頑固で、諦めが悪いから自分を絶対に見失わない。――そんな賢一を見る度に、私たちも諦めないって気持ちにさせられてきたんだ」
「……はい。なんとなくですけど、僕にも分かります」

 おそらく、鳴海賢一と言う男は良くも悪くも生粋のムードメーカーなのだろう――と、エリオは考えた。
 周囲のムードを自分勝手に変更させてしまえる、その圧倒的な個性の前に相対できる人間は殆どいないに違いない。フェイトも、高町も、八神も、その他にも多くの人間たちが、彼の個性に流されるように前向きな気持ちにさせられてきたのだろう。
 そこにいるだけで、周囲に大きな影響を与える存在感。
 戦うための力は無いが、それを補って余りある特異的な個性。
 いつだって自分らしく在ろうとする彼の生き方は、他の誰にも真似することの出来ないしっかりとした強さだ。

「……もしかして、ああ言っていましたけど、実は鳴海さんに期待してますか?」
「……まあ、一割ぐらいはね。さっきも言ったけど、賢一って良くも悪くも普通の人には出来ない事をやるから。セクハラとか奇行とかの悪い事が九割で、その他の良い事が一割ぐらいかな?」
「なんというか……鳴海さんらしい比率ですよね、ソレ」
「ホントにね。でも、私は――ううん、私たちはその一割に助けられてきちゃったから、あんな変態にでも期待しちゃうんだ。これは、運が良いというよりも悪いんだろうねえ」

 鳴海賢一と出会ってしまったのが、自分にとっての運の尽きだったのだろう。
 それでも、彼との出会いを心の底から後悔しているというわけではなく、むしろ出会えて良かったとも思っているのだから、本当に色々と評価が難しい人物だと言える。

「やっぱり、癖……みたいになっちゃってるんだろうね。普段がアレだから、稀にしか起きない奇跡が心に残っちゃってるのかな」
「それが、いわゆる鳴海さんの“毒”ってやつですか?」
「ふふっ。……私たちはもう色々と手遅れだけど、エリオたちはまだなんとかなるんじゃないかな?」

 フェイトは笑みを浮かべながら言った。
 その言葉に、エリオも笑みを返しながら言う。

「たぶん、もう手遅れなんじゃないかと思います。機動六課にいる限り、鳴海さんの影響を受けずにはいられないでしょうから」
「……でも、エリオはそれでいいの?」
「正直、よく分かりません。でも、鳴海さんは僕みたいな子供相手にも対等に接してくれているというか、その感情には“裏”が無いって感じなんです」

 フェイトはエリオの言葉に静かに肯いた。
 鳴海賢一はいつだって自分に正直に生きている、そのことを自分の身を以て知っているフェイトには、今のエリオの気持ちが手に取るように分かっていた。

「僕の運命を変えた“あの日”から、フェイトさんに引き取られるまで人間不信に陥っていた僕ですけど……もし、その時に鳴海さんと出会っていたら、たぶんそんなことにはならなかったんじゃないかなって、最近は良く考えるんですよ。根拠とかは別に無いんですけど、自然にそう思っちゃうんです」
「だから、エリオも期待してるのかな?」
「あっ、やっぱり分かりますか?」
「そりゃあね。だって、今のエリオの表情って、なのはとかはやてがよく浮かべてる表情に似てるから」

 ――それに、私もきっとこんな表情を浮かべてるんだろうな。

「……不思議ですよね、鳴海さんって」
「うん。ホントに不思議なんだよ、賢一って」

 フェイトとエリオはお互いに笑みを見せあうと、並んで食堂へと足を踏み入れる。
 二人の胸の内には、鳴海への同じ感情が渦巻いていた。
 それは、ティアナの件に対する、鳴海への根拠が一切無い期待の感情だ。彼の良くも悪くも空気を読まない行動方針が、あわよくば何かのキッカケに成り得るかもしれない、そんな雲を掴むような話が起きることに期待している。
 二人は歩幅を合わせながら食堂を歩いていると、丁度そのまま正面に鳴海とフォワード組が一同に会しているテーブルを見つけた。遠目から見ていると女子四人がテーブルを囲んでいるように見えるが、その内の一人は女装している変態である。

「あっ、フェイトさん。僕は先に昼食貰ってきますけど、ついでに何かいりますか?」
「そう? それじゃあ、サンドイッチでもお願いしていいかな? 賢一たちの隣のテーブルに座ってるから」
「はい、分かりました」

 エリオはそう言うと、駆け足気味にカウンターへと走って行った。
 フェイトはその後ろ姿を見送りながら、エリオが礼儀正しい良い子に育ってくれたことを嬉しく思い、つい涙を流してしまいそうになるのをグッと堪える。

 ――ああ、こういうのを母性っていうのかなあ……。

 不意に、フェイトは自分の母親の事を思い出した。
 結局、あの人は自分の事を嫌っていたのかもしれない。
 それでも、自分はあの人に好きだと言う気持ちを伝えることが出来た。
 母親と本当の意味で向き合うことから逃げていた自分だったが、そんな自分が最後に向き合うことが出来たのは、高町との出会いはもちろん、鳴海とも出会えたことが大きいのだろう。

「オメエがかーちゃんと向き合うのが怖いっつーんなら、俺がその気持ちを預かってやるよ。だからさ、オメエはもっと気楽な気持ちでかーちゃんとぶつかれって。オメエの笑顔って結構可愛いし、きっとかーちゃんもメロメロになると思うぜ?」

 そう言って、彼は自分の背中を力強く押し出してくれた。
 そんなことがあったのだから、自分がこうして鳴海に期待を抱いてしまうのも、それはもう仕方のない事なのだろう。これはきっと感謝の気持ちから来る期待の現れであって、決してそれ以外の感情から来るものではない。決してそんなことは無いのである。

「……なんだかちょっと、言い訳がましいかなあ」

 フェイトは自分の気持ちに苦笑しながら、後ろ姿の鳴海に歩み寄っていく。
 そして、ちょうど鳴海の声が聞こえる範囲にまで近づくと、彼がいつもの軽い口調で言ったのを聞いた。

「そういえば、ティアナってこの前の仕事でミスしてテンション下がってんだろ?」

 フェイトは一足飛びに鳴海の背後まで駆け寄ると、ウィッグを付けている頭を掴み、そのままの勢いでテーブルに思いっきり叩きつけた。



 高町は自室で一人デスクに突っ伏していた。
 いつもは暇さえあれば仕事に精を出すほどのワーカーホリックな彼女だが、今はその素振りも見せず微動だにしていない。突っ伏しているが寝ている訳でもなく、意識はぼんやりとだがあるが、やはりいつもの高町には遠く及ばない状態である。

「……はあ」

 高町は小さく溜息を零す。
 その姿は明らかに意気消沈としており、普段の彼女を知る人から見れば別人かと勘違いしてしまう、そんな落ち込み具合だった。

『……マスター、どうかしたのですか?』

 その姿が見るに堪えなかったのか、デスク上のレイジングハートが声をかける。
 高町は顔だけを起こすようにして、眉尻を下げながら言葉を返した。

「……ねえ、レイジングハート。わたしって、もしかしてコミュ障の疑いがあるのかな?」
『…………』
「うっ、その沈黙が痛い……」
『……マスターは、言葉よりも行動で示すことを得意としている方ですから』
「そのフォローも地味にキツイんだけど……」

 レイジングハートが露骨に気遣ってくれているのは分かるが、今の高町にはその気遣いが酷く心に突き刺さる。
 高町がこのようにヘタレ状態になってしまったのは、午前の訓練を中断させたことにある。ティアナがいつもの調子でない事を見抜いていた高町は、このまま訓練を続けてティアナが怪我でもしたら大変だと思い、時間が勿体無いと理解しつつも訓練の中止を選択した。
 ただ、高町も後で気付いた事なのだが、その中止を告げる際の言い方に多少の問題があったのかもしれない。

「ティアナ、今日は調子悪そうだね。このまま訓練を続けても無駄になりそうだし、今日は中止にしよっか」

 先ほどの自分の発言を思い出して、高町は頭を抱えて身悶える。
 この言い方は酷い、フォローの欠片も無い、しかも笑みを浮かべながら言ってしまったのがさらに鬼畜度を上げている――高町は身悶えながら、自分が犯したやり取りを自己採点していく。その度に、自分のコミュ障振りを再認識してしまい、さらに気を落とすといった悪循環に嵌ってしまう。

「ううっ……。だって、教導ではこういうのやってこなかったんだもん……」

 高町は誰宛てでもない言い訳を口にする。
 戦技教導官としても名を馳せる高町は、教導隊の理念である“細かい事で叱ったり怒鳴り付けてる暇があったら、 模擬戦で徹底的にきっちり打ちのめしてあげる方が、教えられる側も学ぶことが多い”といった方針に従って、今まで教導というものを行ってきた。
 だが、今の高町はどちらかといえば訓練校の教官寄りであるべきであって、戦技教導官のように“とりあえず生徒をぶちのめせば勝手に反省するし、それでも分からないようならもっとぶちのめして分からせる”といった方針は自重するべきなのである。
 だが、今回のケースにおいては、戦技教導官のように言葉を交わす必要があまり無い立場に長くいたことが、そもそもの原因となってしまったのだろう。端的に言えば、生徒に対してのフォローに慣れていなかったのだ。
 それに加えて、あの変態の対応に日々追われていることもあってか、ついキツイ感じの言葉が口をついて出てしまったのもある。アレのメンタルは非常に厄介なことに、どれだけ辛辣な言葉を投げかけても大して影響が出ないので、自分でも気付かない内に辛辣なキーワードが癖になっていたのかもしれない。

「あー……やっぱり、ティアナには謝らないと駄目だよねえ」

 そうは思うものの、高町の重い腰は一向に椅子から持ち上がらなかった。
 今すぐにティアナに会いに行くのは、なんだかとても気まずい。自分が悪いことをしたというのは分かっているが、それを面と向かって謝罪するのはけっこう勇気がいる。自分自身の非を認めるのは、大人になるにつれて難しくなっていくというのが通説だ。
 だが、今回のケースはそれだけが理由ではない。
 高町には、ティアナがホテル・アグスタの警備任務において、ああなるまで無茶した理由が分からなかった。スタンドプレーに走った挙句、安定しない体勢からの仲間へのミスショット。このミスが原因となって、今のティアナのコンディションに繋がっているのだとすれば、そもそもの“スタンドプレーに走ろうと思った理由”を明らかにしておく必要がある。

「……よし、まずは話そう」

 今にして思えば、子供の頃は相手との話をしようというところから、いつも物語が始まっていた。“PT事件”ではフェイト、“闇の書事件”ではヴィータ、管理局に入局してからも様々な人と話を繰り広げてきた。
 まあ、大抵は話を聞いてもらえずに話を“聞かせる”といった状況まで持ち込む必要があり、鳴海には「オメエの“お話”ってイコール砲撃でズドンだよな」と散々にからかわれてきたが、今回は事件の最中にあるわけでもないのでその心配も無いだろう。
 そうと決めてしまえば、高町の行動は早い。重かった腰をすんなりと上げると、レイジングハートを首にかけ、気合注入の意味を込めてサイドテールを結わえ直し、制服の上着を着ると準備は完了。暗かった表情は一転して、訓練で見せるような真剣な表情を浮かべている。
 高町は自室を後にすると、胸元のレイジングハートに話しかけた。

「そういえば、ティアナ達ってどこにいるのかな?」
『昼過ぎですから、食堂あたりにいるのではないでしょうか』
「あっ、もう昼過ぎなんだ……。ちょっと、ぼーっとしすぎてたかな」
『たまには、それでもいいでしょう。むしろ、マスターにはそういった時間が少なすぎるように思われます』
「みんなにもよく言われてるけど、わたしの勤務状態ってそこまでかなあ? 個人的には、無理が無いようにしてるつもりなんだけど」

 高町は廊下を歩きながら、レイジングハートの言葉に首を傾げた。周囲からは常々ワーカーホリックなことを指摘されている高町だが、本人にはその自覚はないどころか、自発的に否定している始末である。

『鳴海さんレベルで怠けろとはいいませんが、マスターはもう少しだけ余暇を持つようにした方がいいかもしれません。マスターもまだ十九歳の女性、仕事に生きがいを見出すのは早過ぎではないでしょうか?』
「め、珍しいね。レイジングハートがそこまで言うなんて」
『マスターの帰省の際に、お母さまから“あの子、放っといたら〝年齢=彼氏なしロード〟を突っ走るだろうから、レイジングハートさんからも女を磨くように言っておいてくださいね”と念入りに言われてますから』
「え、何それ!? 初耳なんだけど!?」
『ええ、今初めて言いましたから』

 しれっとした口調で言ったレイジングハートに、高町は軽い頭痛を覚える。
 母親との密約があったことは百歩譲っていいとしても、最近のレイジングハートは明らかにあの変態が所持しているデバイスの影響を受けているとしか思えない、そんな言動がちらほらと出てくるようになった。

「……レイジングハートって、何だかラファールに似てきたよね」
『……ええ、自分でもそう思います』

 二人は同じように声のトーンを落とした。
 ミッドチルダの変態である鳴海が所持しているデバイス、ラファールはマスターとは似ても似つかぬ真面目な性格をしている。
 ラファールを製作したのは、現在機動六課のデバイスマイスター担当のシャリオだが、彼女曰く「鳴海さんの変態性に相対出来る、そんな子に仕上げてみたんですよ」とのことだが、実際にはボケの鳴海とツッコミのラファールになっているのは周知の事実である。

「そういえば、最近ラファール見ないよね? 賢一君がエロゲの達成率コンプするためにラファール任せにしてるらしいけど、まだ拘束されてるのかな?」
『いえ、それが堪えかねたラファールの告発により、現在はシャリオさんの元に身を寄せているとか』
「夫と別居してる妻じゃないんだから……」

 ともあれ、ラファールは無事のようだ。
 いまいちインテリジェントデバイスとしての扱いに恵まれていない、そんなラファールに黙祷を捧げながら廊下を歩いていると、何やら食堂の方が騒がしくなっていることに気付いた高町。
 この騒ぎに反射的に嫌な予感を覚える高町だが、探しているティアナは食堂にいるはず。どれだけ変態的な悪寒に苛まれても、ここでUターン出来るほど高町は人間が出来ていないらしい。

「……はぁ」
『マスター、判断が早すぎませんか。もしかしたら、鳴海さん関連の騒動ではないかもしれませんよ』
「いやいや、レイジングハートも分かって言ってるよね。これ、絶対に賢一君関連の騒ぎだってば。だって、もう既に嫌な予感しかしないもん」

 鳴海関連の騒動に限ってのみ現れる、今ではすっかり付き合いの長くなってしまった直感的な予感を頼りに、高町はレイジングハートの言葉を否定する。
 その口ぶりは自信に満ち溢れており、この先には確実に鳴海がいると信じてやまない、そんな高町だった。自分でも身についてほしくなかった感覚と思っているが、一方で身についてしまったのは仕方がないとも思っている。事前に察知できるという事は、変態の不意打ちを受ける危険が無いという事でもある。ミッドチルダで生活するにあたって、このスキルはもはや必須となってしまっていた。
 高町は自分の不幸に関して恒例となっているフォローを終えると、いざ食堂に足を踏み入れる。

「あっ! なのは!」

 すると、高町に呼び掛ける慣れ親しんだ声が聞こえた。
 その声の持ち主、フェイト・T・ハラオウンは長い金髪を振り乱しながら高町の元まで走ってくる。その様子は明らかに焦っており、機動六課に来てから初めて見る親友の姿に、高町は警戒心を一段階引き上げる。

「フェイトちゃん。そんなに慌ててどうしたの?」
「賢一とティアナが喧嘩してて、私じゃ止められないの!」
「……はい?」

 高町は思考を停止させてしまいそうになったが、なんとか踏ん張ってフェイトの言葉を反芻する。
 この騒ぎに鳴海が関わっているのは、高町の予想通りの展開だ。今さら驚くことでもない。
 だが、そこにティアナまで関わっているというのは、何がどう転んでそうなってしまったのか、高町には理解出来なかった。

「……喧嘩するほど仲が良い?」
「ボケてる場合じゃないよなのは!」
「ああ、うん。そうだね。……なんだか、あの二人が喧嘩してるっていうのが現実感無くて」
「私もそう思ってるから焦ってるの! ほら、早く来て!」

 先を走るフェイトを追いかけながら、高町は鳴海とティアナの事を考える。
 あの二人は、傍目から見ている限りでは仲が良いというわけではない。かといって、仲が悪いというわけでもない。ただ単純に、お互いに関わりを持とうとしていない、と考えるのが妥当なところだろうか。
 それに積極的なのがティアナの方で、他のフォワード組が鳴海と仲良く談笑している傍らで、ティアナだけは一歩距離を置くようにしている。変態とは関わりたくない、そう考えるのは普通の人間だ。ティアナは何も間違っていない。
 だが、ここ機動六課がかなり変態色に染まってきているのもあってか、ティアナは逆に浮いてしまっていた。
 一方、鳴海はティアナの事は特に気にしていない様子だった。鳴海は自分の興味、関心にのみ素直に行動するため、そう言った意味では、鳴海はティアナに対して関心を抱いていないのだろう。鳴海が興味を抱いていないが故に、ティアナもここまで普通でいられていたのかもしれない。
 だが、今日この時に、二人の距離を保っていた壁が崩れた。
 高町は思う。――その壁を崩したのは、鳴海に違いない。

「だから! どうして、私が、そんなことを、しなければならないんですか!?」

 ティアナの怒りを伴った声。
 その怒りを止めるべく、高町は彼の名前を呼ぶ。

「賢一君!」
「んあ? おお、高町じゃねえか。ナイスタイミングで来てくれたな」

 彼――鳴海賢一は、陸士の女性制服に身を纏いながら、いつものように飄々とした様子で振り返った。
この場の雰囲気にそぐわない在り方に、高町は拍子抜けしたように言葉を詰まらせる。
 すると、鳴海は椅子から立ち上がり、テーブルの周りを半周してティアナの隣に立つと、彼女の頭に右手を乗せながら、高町に左手の人差し指を突き付けて言い放った。

「俺とティアナの黄金タッグが、今からオメエに模擬戦を申し込む!」
「誰と誰が黄金タッグですか!」

ティアナは鬱陶しげに鳴海の右手を払いのける。
鳴海はいつもの得体の知れない笑みを浮かべていた。

「――――はい?」

 いきなりの宣戦布告をされた高町は状況を呑み込めないまま、ただひたすらに呆然と立ち尽くしていた。


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