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No.33454の一覧
[0] 【チラ裏から】高町なのはの幼馴染(全裸)[全裸](2014/11/12 02:33)
[1] 新人二人と全裸先輩[全裸](2012/06/21 09:41)
[2] 機動六課と雑用担当全裸[全裸](2012/07/02 14:42)
[3] 聖王教会と全裸紳士[全裸](2012/07/15 23:22)
[4] 狂気の脱ぎ魔と稀代の全裸[全裸](2012/07/15 23:23)
[5] 機動六課と陸士108部隊[全裸](2012/08/15 02:00)
[6] ツインテール後輩の苦悩と全裸先輩の苦悩[全裸](2014/11/12 02:33)
[7] オークション前の談話[全裸](2012/10/21 03:18)
[8] オークション戦線[全裸](2012/12/06 04:50)
[9] 女装系変態青年の宣戦布告[全裸](2012/12/06 04:47)
[10] ナース服と心情吐露[全裸](2013/12/07 14:05)
[11] 閑話[全裸](2014/02/01 01:52)
[12] 全裸と砲撃手[全裸](2014/04/15 19:24)
[13] 全裸と幼女[全裸](2014/08/19 01:07)
[14] 全裸と幼女とツンデレと機動六課という魔窟[全裸](2014/11/12 02:42)
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[33454] 狂気の脱ぎ魔と稀代の全裸
Name: 全裸◆c31cb01b ID:ae743e2c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/07/15 23:23
 聖王教会の騎士団の報せによると、山岳リニアレールで輸送中のロストロギア“レリック”が発見されたらしい。
 八神がカリムから聞いていた新型のガジェットの姿も確認されており、列車は現在“暴走”とも呼べる速度で山岳を駆け巡っているようだ。
 まず、機動六課は部隊長補佐であるグリフィス・ロウランの指揮の元に、アルト・クラエッタやルキノ・リリエが列車の管制を取り戻そうと試みるも、列車の管制は既にガジェットに乗っ取られてしまっているようで、その作業は困難極まっていた。
 その報告を受けた八神は、すぐにスターズ分隊とライトニング分隊を現場に派遣することを決断する。
 高町は新人フォワード組を引き連れてヘリで現場ポイントまで移動、フェイトは市街地から飛行許可を貰って直接向かうらしい。
 機動六課の記念すべき初出動は、何とも慌ただしいものとなってしまった。

「それじゃ、私もそろそろ戻ることにするわ」
「残念ね。はやてとはもう少し話したかったのだけれど」

 眉尻を下げるカリムの言葉には八神も同意する。
 だが、そう悠長にしている場合ではなくなったのだから、八神も災害の種を刈り取りに赴かなければならない。
 そのための機動六課で、そのための部隊長である自分なのだ。
 自分が心に刻んだ決意から、そう易々と目を逸らすわけにいかない。

「私もや。せやけど、部隊長が有事の際にいないんじゃ締まるもんも締まらんやろ。――ほら、そこの全裸もさっさと帰るで」

 八神は振り返り、後ろで仰向けのまま寝転がっている全裸に命令する。
 八神がカリムと話をしている間、全裸はそこにそのまま存在していた。リインフォースⅡの攻撃で両脛を負傷した今の状態では、満足に奇行を展開する余裕も無かったようで、どことなく退屈そうだ。豪華な絨毯に身を委ねて、そのまま眠ってしまいそうですらある。
 全裸はシミ一つ無い天井を眺めたまま、気だるげな調子で答える。

「えー? でもさぁ、俺が帰っても特にすることないし。高町とフェイト、あとフォワード組のことなら特に問題ないだろうし。むしろ俺がここに残ることの方が、機動六課にとっては有益とする見方もあるんじゃないだろうか」
「それには大いに賛成なんやけど、君をここに残した結果、カリムがストレスで倒れでもしたらどないするんや? ストレスの原因が全裸の男だなんて、聖王教会始まって以来の事件になるやん」
「いいじゃないか、初めての事件。男のロマンでありながら、どことなくひと夏の過ちを思い起こさせるキーワードだ。それに俺がカリムさんと名を連ねることになるなら、俺にとっても本望だぜ。なあ、カリムさんもそう思うだろ?」

 そう他人事のようにのたまうと、全裸は仰向けのままカリムに問いかける。
 心優しく穏やかな彼女なら、万が一にでも肯いてくれる算段が全裸にはあったのかもしれないが、現実は全裸でうろつくことを生業とする変態には優しくない。
 カリムはその見た目麗しい外見から異性はもちろん同性であろうとも心奪われる、そんな満面の笑みを浮かべると、その表情には似つかわしくない棘のある声音で言った。

「ええ、さっさと帰ってください」
「うわっ、そんなヒマワリスマイルで退室を促す人初めて見た!? これはむしろ、是が非でもここに残りたくなってきたぞ!」
「ええから、はよせんかい」

 八神は辛辣に全裸の右脛を蹴りつけた。
 全裸は「ひぎぃっ!?」と呻くと、無邪気な子供のように無駄に澄みきっている瞳に涙を浮かべる。

「いってーな八神! あれだぞ、お前のツッコミには愛が無くなってきてるぞ! ツッコミがボケに優しくない漫才コンビは面白くないって、ミッドチルダでは相場が決まってるんだぜ!?」
「残念やけど、私と君との間には芸風に相違があったみたいやね。――それじゃ、カリム。また近いうちに伺うことにするわ、次回はこの全裸抜きでな。シスターシャッハも今度お茶でも飲みましょう」
「ええ、その日を楽しみにして待っているわ。そこの変態さん抜きでお願いね」
「騎士はやてもご苦労様です」

 八神は全裸をバインドで拘束してから、カリムに笑顔で別れの挨拶と再会を約束した。
 カリムも全裸に向ける笑顔とは違う本物の笑顔で、全裸一匹を雑に引き摺る親友を見送る。あの二人の漫才は扉が閉まっても部屋に聞こえてきており、その罵詈雑言と悲鳴に似た嬌声が聞こえなくなるまで数分を要した。
 カリムは普段慣れない騒ぎに疲れたのか、椅子の背に身体をもたれるようにして溜息を吐く。

「ふう……まるで、台風が過ぎ去った後のようね」
「確かに、あの変態……鳴海賢一は台風のようでしたね。たった一時間にも満たない時間だったのに、この有様です」

 カリムは呆然としたまま天井を見上げ、シャッハはあの全裸の存在感に呆れとも感嘆とも取れる態度だった。
 二人とも、管理局を代表する変態とのファーストコンタクトには、どうやら疲労困憊の様子である。

「噂には聞いていたけれど……まさか、本当に全裸で行動しているなんて、ね。正直、私とあの方が同じ人間だとは到底思えないわ」
「頭のネジが外れているというよりも、脳の構造からして違っている感じでしょうね」

 カリムは聖王教会から殆ど出ることは無く、それに付き従うシャッハも行動範囲自体は割と狭い。
 それでも、ここ数年に渡ってクラナガンを騒がせ続け、今では街の珍名物となっている人物がいることは、二人のいる聖王教会にも風の噂で届いている。

「機動六課の設立に関する最終的な取引も、あの方を“機動六課所属にすること”ってはやても言っていたし。――あれね、割と物事の中心にいるタイプなのかもしれないわね」
「そのようですね。それに加えて、本人も中心で騒ぎを起こしたがる典型的なお祭り脳といったところでしょうか。おそらく、彼は全裸で外を歩こうと考えてしまうぐらいに自我が強すぎるのだと思います」

 シャッハは全裸を初めて認識できた時のことを思い出す。
 あの全裸は高レベルのステルス魔法の使い手であり、彼がいつも股間にモザイクをかけているのはその力の一端に過ぎない。
 彼の全力全開のステルス魔法とは、自分の背後を仰向け前進で付け回す全裸がいたとしても、そのことに人間の持っている知覚能力では絶対に気付かせない領域にある。
 シャッハは彼がステルス魔法に才があることは理解した。
 だが、それと彼が全裸になることには何の共通点も無い。
 彼はステルス魔法を使えるから全裸になるのでもなければ、全裸になりたいからステルス魔法を使っているわけでもないのだろう。
 そこにあるのは彼の揺るぎ無い一つの信念だけで、それはつまり、変態ゆえの自己満足なのではないか、とシャッハは一つの結論を見つける。

「お祭りという言葉を借りると、あの方はキャンプファイヤーの周りで踊るのではなく、火の中に飛び込もうとする性質の悪さがある――そんなところかしらね。もちろん、そこには大した理由は無く、単純に“その方が面白そうだと思ったから”なんでしょうけれど」
「変態ですね」
「自分に正直すぎる変態よ。だから、あの方は性質が悪いのでしょうね」

 カリムとシャッハは全裸についての意見を交わし合う。
 その内容は“全裸=変態”という終始一貫したものとなっているが、その変態について意見を重ねる彼女たちの表情は、その容赦無い分析とは逆に何故か明るかった。

「はぁ……機動六課、これから大丈夫かしら」
「騎士はやてや六課のみなさんを信じましょう。きっと、あの変態を手懐けてくれるはずです」
「そうね、あの変態……鳴海さんの暴走を抑えきれれば、きっと大丈夫でしょう」

 そして、二人の関心がこの一瞬だけでも“レリック”よりも全裸に傾いている辺り、ミッドチルダをおかしくさせている全裸の“毒”は健在のようだった。
 自分たちに“毒”がまわっていることにも気付かぬまま、カリムとシャッハは談笑を続ける。
 二人の中で、鳴海賢一という全裸が“当たり前のモノ”として無意識のうちに認識されるまで、そう時間はかからなかった。



 高町とリインフォースⅡ、そして新人フォワード組はヴァイス・グランセニックのヘリに揺られ現場ポイントまで近づいていた。
 高町は落ち着いた様子で新人フォワード組を観察する。
 スバルやティアナに関しては特に問題はない、と高町は考えている。
 スバルはマッハキャリバーとのコミュニケーションを楽しんでいるようで、任務に対する下手な気負いを感じさせないリラックスした様子だ。当初は馬鹿みたいに一直線な戦闘スタイルで、最近ではその実直さにも磨きがかかっている点が心配だが、相方のティアナが上手くフォローするだろう。
 ティアナは浅い深呼吸を繰り返して緊張を落ち着けているようだが、高町はティアナの真骨頂を“本番に強い性格”だと考えている。普段から一見して激情型に思われる口調だが、その一方で冷静に状況を見極める鋭い観察眼も備えている。スバルとのコンビネーションではそれがいい方向に作用するだろう。
 ただ、エリオとキャロのライトニング分隊に関しては、そう上手くいかないようである。

「……な、なんだか少し緊張してきたね。キャロは大丈夫?」
「…………」

 エリオは普段より緊張している様子だが、キャロはそれ以上に緊張で固まってしまっていた。力なく顔を俯かせていて、隣に座るエリオの声も耳に届いていないようである。膝の上に座っているフリードも、そんなキャロの顔を心配そうに覗き込んでいる。
 どうやら、キャロの気弱な性格が悪い方向へと作用しているようだ。
 それは、言い換えれば優しくもある性格であり、キャロのフルバックというポジションには適切な特徴と言えるかもしれない。
 キャロのサポート魔法はフォワード組にとってかけがえのない戦力なのは確かで、それには高町も一目置いているほどだ。
 しかし、その優しさが弱さになってはいけない。後方からただ漠然とサポートしているだけでは駄目なのだ。他のメンバーと一緒に戦場に立ち、ともに戦っていくという強い意志を持たなければならない。
 キャロが未だにそのポテンシャルをフルに発揮できていないのも、そこら辺の意識が上手く整理できていないからなのだろう。
 ただ、こればかりは高町があれこれ言っても意味が無い。
 キャロ自身がそれに気付き、前を向く必要がある。他でもないキャロ自身が自分のことを認めなければ、心身ともに成長は見込めないだろう。
 それでも、少しぐらいなら手助けしてあげたいと思ってしまうのは、戦技教導官としては間違っているのだろうか。

 ――こんな感覚、初めてだなぁ……。

 基本的に短期を予定している戦技教導においては、基礎を教えるというよりも容赦なく叩きのめしてから反省点を認識させる、というやり方が当たり前に行われている。
 高町もその当たり前に漏れることなく、これまでの教導官人生では“対話”よりも“実戦”を重視してきた。
 そのため、今の高町のように教え子を“励ましたい”という気持ちに駆られる教導官は、実はそんなに多くない。むしろ圧倒的に少なかったりする。
 この珍しい感覚に突き動かされた高町は、キャロの前で片膝を着くと震えている小さな手を優しく握った。
 キャロは突然訪れた暖かさに顔を上げると、そこには自分と視線を合わせる高町の顔があった。
 その瞳は真っ直ぐにこちらを見つめており、キャロは視線を逸らしてしまいたくなる。

「キャロ、ちょっといいかな?」
「……なのはさん?」

 だが、その気持ちも高町の優しい声音に呼び止められる。

「キャロが不安になるのも分かるよ。だって、初めての任務がロストロギア関連だもんね」
「……はい」

 高町は優しい声音のまま、キャロをあやすかのように言葉を重ねる。
 キャロも耳を塞ぐことなく、真摯に耳を傾けていた。

「それでも、キャロは機動六課に必要なんだ。キャロの魔法はみんなを守ってあげられる、優しくて格好いい魔法なんだから。それは、絶対に弱さなんかじゃなくて、キャロがまだ気付いてない強さなんだと思う」
「……優しい、強さ」

 キャロは高町の言葉を噛み締めるように呟く。

「だから、ほんの少しだけでもいいから、勇気を出して前を向いてみよう。それだけで、きっと世界が変わったように飛べるはずだから」

 高町はすっと立ち上がる。
 自分が伝えたいことは十分に伝えたことを示すように、こちらを見上げるキャロに向けて笑顔を浮かべると、踵を返して操縦席のヴァイスに近づいていく。

「ヴァイス君、もう少しで到着かな?」
「そうですね。あと三分ぐらいじゃないっすか?」
「じゃあ、わたしはここらへんで降りようかな。なんだかね、フォワードの子たちにカッコイイところ見せたくなってきちゃった」
「ああ、そりゃあいい。きっと、あいつらも気合が入るでしょうよ」
『いい女は背中で語る、というシチュエーションですね』

 ヴァイスは気さくに笑い返すと、ヘリの側面ハッチを開けるボタンを押した。
 ヘリの管制を手伝っているヴァイスのインテリジェントデバイス“ストームレイダー”も高町を茶化すかのように後押しする。
 この似たもの同士コンビの期待に応えるように、高町はゆっくりと開いていくハッチの前で自分の相方を胸元から取り出した。
 紅い宝石は点滅していて、マスターからの言葉を待っているようだ。

「さてと、レイジングハートも準備いいかな?」
『そのようなこと、今さら聞くまでもないでしょう?』
「ふふっ、そういうと思った」

 頼りがいのある相棒に笑いかけると、高町は迷うことなく空に飛び出した。
 その背中に見えない翼を宿して、エースオブエースは空を往く。



 高町が空に飛び出したのを見送ってから、キャロは自分の気持ちが大きく揺れ動いているのに気付いた。
 おそらく、高町は自分を諭すために優しい言葉を選んでくれたのだろう。
 彼女の笑顔と頼りがいのある背中が、キャロの小さな胸を強く打つ。

 ――なのはさんは格好いいなぁ。

 それに比べて自分は何なんだろう、とキャロは内心で毒づく。
 あの日、初めて会ったフェイトに言われた言葉が脳裏をよぎった。

『キャロは、どこへ行って、何をしたい?』

 自分は機動六課に来て、フォワードの一員として任務に臨もうとしている。
 だが、それは自分が本当に望んだことなのだろうか、とキャロはリインフォースⅡが喋る作戦内容に耳を貸す傍ら考えていた。

 ――私はいったい、何がしたいんだろう?

 この問いに答えを出すことはとても難しいと分かっている。
 それでも、この問いに答えを出せなければ、おそらく自分は前に進めないということも理解していた。
 キャロははっきりしない自分自身の気持ちに苛立ちを覚え、悔しげに歯噛みをし、少しでも気を抜くと泣き出してしまいそうになっていた。
 そんな悪い雰囲気を払拭するかのように、ヘリ内に設置されたモニターに映像が映る。

『やっほー、みんな気合入っとるかー?』

 そのモニターに映し出されたのは、こちらに向けて手を振っている八神。
 そして、天井からバインドで逆さ吊りにされている全裸だった。重力に逆行する姿勢を取っている全裸だが、その表情は普段の変態スマイルと何ら遜色ないものとなっている。

「八神部隊長? どうしたんですか、わざわざ?」

 ティアナが明らかに悪目立ちしている筈の全裸を無視した。
 キャロはティアナの豪胆な性格に感心する。

『六課に到着するまで暇でなー。さっきまで煩かった全裸を吊るしたところやし、丁度いいから初任務前のみんなを激励しようと思ってな』
『おいこら八神テメー! 友達を逆さ吊りにするとか卑劣すぎるだろ! どうせやるならもう少し優しく吊るせよ、縛りがきつ過ぎて足首から鬱血するだろうが! Sには奉仕精神が最も重要なんだぞ!?』

 全裸は風に揺れるミノムシのように暴れ回っている。重力に逆行しているとは思えないぐらい元気がよく、逆さ吊りされること自体には強い拒否感はないらしい。よく見れば、口元が笑みで歪みそうになっているのが分かる。
 その全裸の姿は見る者に形容しがたい不快感を与えるもので、キャロは思わずモニターから視線を逸らしそうになった。フリードもミノムシスタイルの全裸を警戒するように、珍しく低い唸り声を上げている。
 全裸への対応を決めかねているフォワード組だったが、先陣を切ったのは全裸を見て驚愕の声を上げるリインフォースⅡだった。

「って、どうして賢一がそこにいるんですか!?」
『どうしてって、八神をストーカーしたからだけど』
「そこはもう少しオブラートに包んでください! いきなり気持ち悪すぎですよ!?」
『そうか? じゃあ、八神を仰向け前進でストーカーしたからだけど』
「そもそものオブラートの使い方が間違ってます!? 賢一の奇行の詳細を暴露してどうするんですか!? ほら、フォワードのみなさんがドン引きしてるじゃないですか!」

 リインフォースⅡの激しいツッコミがヘリ内に響き渡る。
 全裸とリインフォースⅡの漫才を眺めるフォワード組の視線は冷たく、操縦席のヴァイスだけが笑い声を上げていた。ヴァイスはツボに入ってしまったようでむせており、ストームレイダーの管制を振り切ってヘリが大きく揺れる。

「ヴァイス陸曹は笑いすぎです!」
「いやー。すみませんねぇ、リイン曹長。二人の漫才が面白すぎて……くくっ」
『大丈夫ですよ、リイン曹長。とても微笑ましい光景です』

 リインフォースに怒られてもヴァイスは飄々としており、ストームレイダーのフォローはどこか微妙にズレていた。
 先ほどまでは任務前の緊張感に包まれていたヘリ内だったのが、全裸の登場と同時に脱力系に近い感じになっている。
 それはキャロも同様で、さっきまでの泥沼に嵌っていく自問自答を忘れるように、小さく深呼吸して気持ちを落ち着ける。泣きそうになっていた感情も治まりを見せ、平静を取り戻すことが出来た。

『ふふっ。いい感じに力が抜けたみたいやね、キャロ』
「えっ……あ、はい!」
『うん、良い返事や。その他のみんなもあまり気負いすぎることなく、自分の力をしっかりと発揮してほしいんやけど……もちろん、出来ないとは言わせへんよ?』

 八神の意地の悪い笑顔に、フォワード組はしっかりと力強い返事をした。
 そんな部下の頼もしい姿に八神は満足したのか、さきほどの意地の悪い笑顔ではない、機動六課でよく見る本物の笑顔を浮かべる。
 フォワード組もそれに負けじと、各々が自分にできる最高の笑顔を浮かべていく。
 その光景は、任務前とは思えない雰囲気に満たされていた。

『みなさん、降下ポイントに到着しました』

 そして、ストームレイダーが降下ポイントに到着したことを報せる。

『おっ、それじゃ邪魔者は退散しよか』
『ちょっと待って! 俺も何か格好いいこと言ってみたいんだけど!』
『その格好じゃ何を言っても逆効果やから、そのまま大人しく吊るされとれ』
『なんだよ、俺の格好のどこに文句があ――』

 全裸の発言が途中で切れるように通信が終わる。
 最後の最後まで己を顧みない全裸に対して、キャロは呆れ以上にある種の感嘆を覚えた。
 自分の生き方に迷いの無い人間はあそこまで愚直に生きていられることを示す、おそらくミッドチルダでも最たる悪例だろう。
 うじうじと迷いすぎて行動に移せないのも問題だが、かえって迷いを振り切りすぎるのも考え物なのではないだろうか、とキャロは先ほどの自問自答への参考にする。

「おし、新人ども準備はいいかー? 今さらビビったなんて言わせねえぞ!」
「大丈夫です!」
「覚悟は出来ています」

 ヴァイスの叱咤激励に答えるように、まずはスバルとティアナがハッチ前に立つ。

「ティア、初めての任務だけど頑張ろう!」
「言われなくても分かってるわよ。あんたに心配されるほど、あたしは落ちぶれちゃいないわ」
「もー、素直じゃないんだから……っとぉ!」

 一見するとでこぼこコンビだが、その凹凸がしっかりと嵌っていることを見せつけるように、二人は同時に空に飛び出した。
年長組が先陣を切るように、年少組はその後をしっかりと付いて行かなければならない。
 しかも、誰かに手を引かれるのではなく、しっかりと自分の足で飛び出す必要がある。
 今の自分にそれが出来るのだろうか、中途半端のまま空に飛び出してもいいのだろうか。
 そんなキャロの心配を掻き消すように、隣に座るエリオが手を差し伸べる。

「……一緒に飛ぼうか?」
「……うん!」

 キャロはエリオの手を握り締めると、二人の年少組は駆けるようにして空に飛び出していく。
 それは、決して誰かに手を引かれるのではなく、誰かと手を繋いで一緒に歩いて行こうとする、キャロ・ル・ルシエの決意の表れだった。



 フォワード組が列車に飛び乗った頃、高町は既に空の上でガジェットと交戦していた。
 今まで見なかった飛行タイプとの空戦を繰り広げているものの、戦況は極めて高町寄りのものとなっている。
 高町がこの任務で担当している役目は単純にして熾烈。
 それは、列車に近寄ろうとするガジェットを片っぱしから撃墜していき、フォワード組の初任務の邪魔をさせないことである。
 高町は前から接近してくる二機を“ショートバスター”で撃墜しながら、同時にこの場を逃れるように飛行する三機をたった一つのシューターで三枚抜きにしていく。
 ガジェットの数は多いものの、数の差がそのまま不利になるような半端な経験を積んでいない高町にとって、緊迫している戦場の中でも優雅に空を舞うことは容易かった。フォワード組との模擬戦の方がより歯ごたえがあるといっていいだろう。

≪なのは≫
≪あ。やっと来たんだ、フェイトちゃん。もー、大遅刻だよ?≫

 エースオブエースの名に恥じない戦いぶりを存分に発揮する高町の元に、馴染み深い閃光が援軍として参上する。
 フェイト・T・ハラオウンは黒を基調としたバリアジャケットに身を包み、右手にはハーケンフォームを展開したバルディッシュを握っていた。バルディッシュの先端からは高密度の魔力刃が形成されており、初めて見る人間には“死神の鎌”と思わせる存在感を放っている。

≪じゃあ、遅れた分は取り返そうかな。バルディッシュ――いくよ≫
≪Haken Saber≫

 フェイトはバルディッシュを振りかぶると、群を成すガジェット目掛けて豪快に振り抜いた。
 先端から切り離された魔力刃はブーメランのように回転し、ガジェットの群れを一網打尽に切り裂いていく。

≪お見事!≫
≪なのはには負けるけどね≫

 対照的な白と黒のバリアジャケットを着た二人の魔導師は、空の上を我が物顔で飛行するガジェットを次々と蹂躙していく。
 そんな二人の間には戦術に関する会話は無い。
 お互いのことを他の誰よりも理解していると自負している、そんな二人だからこそ出来る最高のコンビネーションであると言えよう。
高町が後ろを取られればフェイトがすかさずフォローし、フェイトが敵に囲まれれば高町がすぐに退路を作り出す。
 そこに余計な言葉は無く、場の状況や相方のことを考えれば二人にとっては造作もないことだった。

≪そういえば、なのは≫
≪ん?≫
≪フォワードの子たちはどんな様子だった? 初任務で変に緊張してなかったかな?≫
≪うーん……スバルとティアナは特に問題は無いかな。エリオは緊張してるようだったけど、賢い子だから戦闘に入れば切り替えられると思う。……少し、心配なのはキャロかな≫

 高町の判断にフェイトは言葉を詰まらせる。
 そんなフェイトを励ますように、高町は言葉を続けた。

≪でも、わたしからもアドバイスはしておいたし、キャロなら大丈夫。自分が持て余していると思っちゃっている力に対して、キャロの中で整理がつくのはそう遠くないよ。早ければ、この任務がキッカケになると思う≫
≪……そっか≫
≪それにね、フォワードの子たちの初任務前に、はやてちゃんからも激励してもらおうと連絡したんだけど……ふふっ、何があったと思う?≫
≪えっ? うーん……はやてのことだから、何か寒いギャグでも言おうとしてたとか?≫

 フェイトの八神に対しての酷い推理は聞き流しておき、高町は八神と一緒にいた人物の名前を挙げる。

≪正解はなんと、はやてちゃんと一緒に賢一君がいたんだ≫
≪えっ……ちょっと待って、どうして賢一がはやてと一緒にいたの? はやては聖王教会に行った筈じゃ……≫
≪うん、賢一君が勝手について行っちゃったみたい。お得意のステルス魔法で気付かれないように、フェイトちゃんの車の後部座席にもいたらしいよ?≫

 高町の言葉にフェイトは絶句した。
 あの全裸のステルス魔法のチート具合は身に染みて分かっているが、まさか自分の車に乗っていたとは想像もしていなかったのだろう。
 八神と仲良く談笑している間、後部座席で全裸が息を潜めていたことを考えると、それはフェイトにとってギャグではなくホラーの領域だった。

 ――今度の休みに、新しい車でも買いに行こうかな。

 フェイトは高町との念話に流れないように、慎重に胸の中だけで休日の予定を立てる。
 しかし、フェイトの表情は全裸への潔癖な対応から考えると、何故か逆に明るくなっていた。キャロへの心配は何処へ行ったのか、非情に清々しい顔つきでガジェットを破壊している。

≪そっか、賢一がいたんだ。……それなら、大丈夫かな≫
≪空気を読まない賢一君だからこそ、出来ることがあるからね。今頃はみんな、いつもの調子で緊張なんて吹き飛んでるよ。もちろん、キャロだって≫
≪うん。だって、私たちがそうだったもんね≫

 フェイトはガジェットを破壊する傍ら、全裸と一緒に関わってきた今までの出来事を少しだけ思い出す。
 初めて会った時は、頭のおかしい子だと思った。
 再会した時も、やっぱり頭のおかしい子だと思った。
 付き合いが随分と長くなった今でも、きっと頭のおかしい人だと思っているんだろう。
 だけど、彼はいついかなる時も彼であり続けていた。
どんなに絶望的な状況でも、絶対に空気を読まないのが鳴海賢一という全裸趣味の男である――フェイトはそれが彼の短所でもあり、最大の長所だとも考えている。
 彼はいつでもあの調子でそこにあり続けていたし、その彼にとっての平静が絶望に変わったところなんて一度も見たことが無い。
 そんな彼を見て、自分を含む周りの人たちはどんなに緊迫した状況でも笑い合って、決して希望を見失わなかったのだから、きっと、キャロも前を向いて自分自身と向かい合っていけるだろう。――あの頃のフェイト・テスタロッサと同じように、自分を認めてあげられるだろう。

「――うん、賢一はやっぱり凄いかもしれない。ただ、どうしようもなく変態なのを直してほしいけど……まあ、それが賢一らしさなんだろうなぁ」

 フェイトは自分の独り言に苦笑すると、機械の群れで覆われた空を閃光のように駆け抜けていく。
 その閃光の後には、ガジェットなど形も残らない。



 結果から振り返れば、機動六課の初任務は大成功で終わったと言える。
 今回の目的としていた“レリック”の確保も滞りなく達成しただけではなく、フォワード組の懸念であった召喚士の少女がフルパフォーマンスを成し得たことも大きい。今後もあれだけのパフォーマンスを続けていけば、機動六課にとって優秀な戦力になるだろう。
 新型ガジェットと空戦を繰り広げていた高町なのはとフェイト・T・ハラオウンに至っては、被弾ゼロで全機撃墜といった圧倒的戦力差を披露している。あれだけの数の差をものともしないというのは、ある意味で感動よりも恐怖を覚えるほどだ。
 ガジェットに標準で搭載されているAMF――魔力結合・魔力効果発生を無効にするAAAランクに値する魔法防御をもってしてもなお、高町なのはとフェイト・T・ハラオウンには敵わない。二人にリミッターがかかっている状態であろうとも、ガジェットの相手など取るに足らないという事なのだろう。

「……ふむ。そう考えると、今回は彼女たちのデータが取れただけでも上々といったところか」

 先ほどの機動六課メンバーの戦いが映し出されている巨大なモニターを前にして、一人の男が愉快そうに笑いながら言った。
 その笑みは幸福を感じさせるというよりも、底知れない狂気を感じさせる歪んだ笑い方だ。
 現に、この男は何度も肯きながら、ガジェットが破壊されていく様を楽しそうに観賞している。

「それにしても、プロジェクトF――その残滓がこうして目の前にあるというのは、なかなか運命めいたモノを感じさせてくれる。忌まわしい過去を背負うテスタロッサの娘に、Fの遺産である少年……ああ、実に素晴らしいシチュエーションだ」

 フェイト・T・ハラオウンとエリオ・モンディアルを見て、男は再三に渡る歪んだ笑みを浮かべた。
 自分が関わった禁忌が、こうして敵という形をとって現れた。その変わった因果関係に、彼は極上の愉悦を感じている。
 男にとっては既に見限った禁忌だが、こうして新旧作品の比べ合いをする機会が訪れたというのだから、その喜劇を楽しまないつもりは更々ない。
 それどころか、自分が主催者となって劇を開く予定を立てている。
 そんな娯楽至上主義の性格をしているのが、この男――ジェイル・スカリエッティという人物だ。

「そういえば、私が心待ちにしていた彼がいないね。ウーノ、あの彼――鳴海賢一君は先ほどの戦場に顔を見せているかい?」
「……いえ、鳴海賢一の反応はありませんね。おそらく、機動六課で待機だったのではないでしょうか」

 スカリエッティの問いかけに、ウーノと呼ばれた長髪の女性が答える。
 彼女の指はキーボードを軽快に叩いており、どうやら先ほどのデータをまとめているようだ。機動六課の主要戦力をリスト形式でまとめ、それぞれの能力をデータから分かる範囲で解析している。

「ふむ、そうか。まあ、彼がもし先ほどの戦場に顔を見せていても、その姿を捉えることは叶わないのだろうが」

 スカリエッティは鳴海賢一のことをよく知っている。
 いや、興味深いから調べ上げた、と言った方がより正しいのだろう。
 スカリエッティにとって、鳴海賢一という全裸は興味深い人物として分類されている。

「管理局に鳴海賢一という人間がいる……そのことを知った時の私のはしゃぎようと言ったら、それは自分でもよく覚えているよ。ウーノはどうだい?」
「ええ。ドクターが興奮のあまり三日も寝つけなかったのは、あれから数年が経過した今でも覚えています」
「そう、その通りだ。私ともあろうものが、たった一人の人間に好奇心を全力で向けてしまった。しかし、今となってはジェイル・スカリエッティが経験した歴史で、最も楽しい三日間だったと断言できる。むしろ、次元世界中に誇らしげに宣言したいぐらいだ」

 まるで子供のようにはしゃいでいるスカリエッティは、鳴海賢一のことを想い崇めたてるかのように天井を仰いだ。

「くくっ……自分の意志を包み隠そうとせず、欲求にのみ従って行動することが出来る人間――ああ、私は早く君に会ってみたい。そして、話をしてみたい。君はどうやってそういった人間に至ったのかについて、多くの言葉を交えて検証してみたい!」

 そのチャンスがようやく訪れたことを喜びながら、スカリエッティは声高らかに鳴海賢一への想いを爆発させる。
 その狂気的な想いを支えているのは、スカリエッティが鳴海賢一のことを“同類”だと認識していることだ。
 鳴海賢一の特徴的な要素として、ただ一途に全裸を貫いていることが挙げられるだろう。
 どれだけ周囲から非難されようとも、鳴海賢一はその在り方を決して改めようとしない。友人に砲撃されようとも、斬られようとも、縛られようとも、彼は自分を象徴する在り方としての全裸を貫き続けている。
 そんな鳴海賢一の生き様を、スカリエッティは美しいものとして愛で、なおかつ憧れていた。
 極めて傲岸不遜な自信家で、生命を平気で実験台にするなど一般的な倫理感は持ち合わせていない、そんな狂気的な思考回路を持つスカリエッティが、鳴海賢一という人間に対してのみ憧憬の念を禁じ得ないのである。
 鳴海賢一の極めて自分至上主義で娯楽至上主義な在り方は、ジェイル・スカリエッティにとっては他にいない“同類”であり、同時に自分よりも格上として認識することが可能な初めての在り方だった。

「私が用意したこれから始まる長い劇。――それを君にも是非楽しんでもらいたいと、心から願っているよ。鳴海賢一君」

 スカリエッティは愛しい者の名前を呼ぶように呟くと、颯爽と白衣を翻して踵を返す。
 そして、スカリエッティは何を思ったのか、おもむろに白衣を脱いで放り投げると、窮屈そうなスーツを上から順番に、しかも歩きながら器用に脱いでいく。
 その光景を眺めているウーノにとっては、それは頭痛の種以外の何物でもなかった。
 そう、ジェイル・スカリエッティも鳴海賢一と同じように、自身の生き様として“変態”をその在り方にしているのである。
 それは、全裸に憧れた変態が見出してしまった、似て非なる在り方だと言えるだろう。
 稀代の全裸と狂気の脱ぎ魔――似て非なる“変態”が邂逅する日は近い。


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