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No.33454の一覧
[0] 【チラ裏から】高町なのはの幼馴染(全裸)[全裸](2014/11/12 02:33)
[1] 新人二人と全裸先輩[全裸](2012/06/21 09:41)
[2] 機動六課と雑用担当全裸[全裸](2012/07/02 14:42)
[3] 聖王教会と全裸紳士[全裸](2012/07/15 23:22)
[4] 狂気の脱ぎ魔と稀代の全裸[全裸](2012/07/15 23:23)
[5] 機動六課と陸士108部隊[全裸](2012/08/15 02:00)
[6] ツインテール後輩の苦悩と全裸先輩の苦悩[全裸](2014/11/12 02:33)
[7] オークション前の談話[全裸](2012/10/21 03:18)
[8] オークション戦線[全裸](2012/12/06 04:50)
[9] 女装系変態青年の宣戦布告[全裸](2012/12/06 04:47)
[10] ナース服と心情吐露[全裸](2013/12/07 14:05)
[11] 閑話[全裸](2014/02/01 01:52)
[12] 全裸と砲撃手[全裸](2014/04/15 19:24)
[13] 全裸と幼女[全裸](2014/08/19 01:07)
[14] 全裸と幼女とツンデレと機動六課という魔窟[全裸](2014/11/12 02:42)
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[33454] 新人二人と全裸先輩
Name: 全裸◆c31cb01b ID:ae743e2c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/06/21 09:41
 Bランク試験。
 一般的な管理局の魔導師ランクはD~Cランクが多いとされており、Bランク昇格試験が上を目指す魔導師人生を歩むにあたって初めての関門になるであろう、と言われている難易度の高い試験だ。Bランク試験を乗り越えた魔導師は、いわゆる“エリート候補生”と呼ばれる局員にカテゴライズされるようになる。管理局の“上”を目指すつもりなら、絶対に避けては通れぬ試験と言える。
 試験会場となった廃業都市区画。その一角のビルの屋上に、髪をツインテールに結わえた一人の少女がいた。気の強そうな眼光に、年齢以上に大人びた印象を相手に抱かせる、そんな顔つきをしている。少女は顎に手を当て、真剣な表情で何かを呟いているようだ。

「……ジャマーの突破……ターゲットの全破壊……ダミーを破壊した場合は減点……そして時間内にゴール」

 Bランク試験は半年に一回実施され、試験課題は複数用意された中からランダムで選択される。どうやら、少女の呟きから鑑みるに、この少女が引き当てた試験はタイムアタック的な内容を孕んでいるようだ。

「難易度的にはどうなんだろう……他の課題が知らされてないから、比べようがないけど……肝心なのはターゲットかな」

 試験課題には様々なものが用意されているが、Bランク試験に“ターゲット破壊”といった内容が含まれている場合、受験者の前に立ちはだかる“大きな壁”が存在している場合があるらしい。
 少女は実際に目にしたことはないが、一般的なBランク魔導師なら対処が非常に困難な代物で、コレに当たった場合は受験者の殆どが落ちるとされている。

「でも、逆に“対処出来れば”、相当なアピールになる……」

 もしも、一般的なBランク魔道師でも対処が困難なターゲットを、Cランクに過ぎない自分が突破出来たとしたら。――少女は表情を変えることなく、内心で密かに笑みを浮かべた。中途半端な難易度の試験を中途半端に突破したところで、それが試験官の目に適わなければ全てが無駄だ。ミスが無ければ大丈夫だろうが、ミスをしないとは言い切れない。
 仮に試験に落ちた場合には、また半年後まで待たなければならない。 それならいっそ、高難易度の試験を突破することで、試験官へのアピールを図った方が都合がいいのかもしれない。
 なにより、もしもそうなったとしたら、自分の相方好みの難易度になるのではないだろうか。

「おーい、ティアー!」

 その声を聞くだけで誰なのか分かってしまう、元気で快活な聞き慣れた声音。
 ティアと呼ばれた少女――ティアナ・ランスターは振り返り、Bランク試験をともに受験する相方の名前を呼ぶ。

「何よ、スバル?」
「えへへー、呼んでみただけー!」
「……ほんと、アンタって呑気よね」

 試験前だというのに、件の相方は実に無邪気だった。試験に関する想定を難しい顔で行っているティアナとは対照的に、スバル――スバル・ナカジマは笑みを浮かべながらシューティングアーツの型を確認している。その姿からは気負っている様子は見られず、むしろ試験を心待ちにしているかのような、そんな印象をティアナはスバルから感じた。
 ティアナの言葉を受けて、スバルは腰の入った正拳突きを宙に決めながら答える。

「呑気っていうか、割と自然体でいられてる……かも? そういうティアは、いつも以上に難しい顔してるよ?」
「あたしはアンタみたいに無鉄砲で能天気じゃないからね。時間までに出来ることは全部やっておきたいの」
「だいじょーぶ、だいしょーぶ! あたしとティアのコンビに突破できない試験は無い!」

 スバルの根拠の無い自信に、ティアナは溜息を吐くことで返事の代わりとした。
 二人一組枠。いわゆるツーマンセルの形式を取って、ティアナはスバルと一緒に試験を受けることになる。二人は陸士訓練校時代からのパートナーでもあり、気心の知れた親友でもあり、また同時に腐れ縁でもある。
 シューティングアーツと呼ばれる独特な格闘技術を用いて、前線に立つことを得意とするスバル。
 射撃と幻術を基礎に後方支援、さらに作戦を立案・組み立てることが得意なティアナ。
 陸士訓練校時代から“息の合ったパートナー”として周囲からも認識されており、二人とも主席で卒業するに至った実力派のコンビである。スバルもそのことを肌で感じているのだろうし、ティアナ自身もそのことを否定するつもりはない。

「……まあ、あたしもスバルとなら大丈夫だとは思ってるけど」
「あれ、今日のティアってばなんだか素直だね。どうしたの?」
「スバルうっさい」

 自分でも把握している“素直に慣れない性格”ゆえに、ずけずけと物を言ってくるスバルの性格を鬱陶しく思ったことも数えきれない。それでも、こうして二人でBランク試験に臨んでいるのだから、やはりこれは“腐れ縁”と言ってしまっていいのだろう。ティアナは言葉には出さずに、自分とスバルとの関係を内心で結論付けた。
 次の瞬間、試験開始が間近であることを告げる音が鳴った。ティアナは更に気を引き締め、スバルも真剣な表情を浮かべ、二人してその時を待つ。
 二人の未来の岐路まで、あともう少し。



 廃業都市区画の上空を旋回している一機のヘリがあった。
 そのヘリの中には、今回のBランク試験の観察を目的にした人物が二名いる。
 一人は、まもなく設立を迎える機動六課の部隊長となる八神はやて。
 もう一人は、執務官として機動六課の法務担当・広域捜査、そして分隊隊長としてスカウトされたフェイト・T・ハラオウンだ。
 二人は会場のサーチャーから送られてくる映像をモニターに通して、Bランク試験に臨んでいるツーマンセルの若手を観察している。その表情は真剣そのものでありながら、時折、昔の自分たちの姿を二人に重ねているのか、優しい微笑みを浮かべているのが伺える。
 スバルの突破力、ティアナの戦略を観察しながら、フェイトは隣の八神に問いかける。

「この二人、合格するかな?」
「どうやろなー。二人とも実力はあるし、ツーマンセルで長いことやってきた経験から、前衛と後衛のコンビネーションもバッチリや。それでも、二人の合否を決めるんはなのはちゃんやからね。私としてはもちろん合格してほしいところやけど、まあ、一筋縄ではいかんやろ」
「うん。私もそう思う」

 二人の親友でもある高町なのは。
 巷では管理局の“エースオブエース”としての評価が独り歩きしている節があるが、彼女の本質は指導者としての立場である教導官だ。その心づもりで高町がBランク試験の試験官に臨んでいるのだとしたら、合否の判定は厳しくなる可能性が高い。
 それに加えて、今回のBランク試験には一つの大きな壁が存在している。
 Bランク試験に極稀に登場するターゲット。コレに当たってしまった受験者は、一切の例外なく落とされ、ショックのあまりにしばらくの間は音信不通になり、忘れたい過去として試験の内容を誰にも話そうとしない。
 ゆえに、その情報もあまり出回っておらず、詳細を知っているのは八神やフェイトのようなごく一部の人間だけだ。
 八神がフェイトに問いかける。

「フェイトちゃんやったら、“アレ”にどうやって対応するん?」
「うーん……アウトレンジだと分が悪いから、クロスレンジで……かな。はやてはどうするの?」
「それなら、私はビルごと倒壊させたるわ」
「うわ、えげつないね……でも、それが一番有効かも」

 ただの冗談に笑顔で肯くフェイト。
 そんな親友を横目に、八神は本当にえげつないのは誰なのか再確認したと同時に、思わぬ藪蛇を突いてしまったことを軽く後悔していた。



 かなり調子がいい。――ティアナはそう思った。
 Bランク試験も中盤を迎えた頃、ティアナはターゲットであるオートスフィアを狙撃しながら、頭の片隅で今回の試験の途中過程を振り返るぐらいに心の余裕が生まれていた。
 いつものティアナなら、猪突猛進なスバルをコントロールしつつ、限られた手札から最善の選択をしていかなければならないことに疲れが見え始め、徐々に集中力が途切れ始める時間帯である。
 それにもかかわらず、今の自分は思考が冴えわたっており、射撃も乱れるどころか精度が増す一方だった。精密射撃と呼んでも何ら差支えない出来である。

「どうしたのかな、あたし……」

 まるで、自分の身体ではないかのような感覚に陥っている。Bランク試験という壁に挑むにあたって、否応なくのしかかるプレッシャーが、今回はいい方向に作用しているのかもしれない。脳内ではアドレナリンが大量に分泌されていることだろう。
 ビルの外からオートスフィアが狙撃してくるが、それをティアナは前転で回避し、起き上がりざまに魔力スフィアを一発撃ち込む。――命中。百発百中。一機の撃ち損じもないし、ダミーの撃ち間違えも無い。始まりからここまで振り返って、内容は一貫して完璧と言える。

「ティア、すごいじゃん! 今日はいつもより動きにキレがあるよ!」
「そういうスバルだって、いつも以上の突破力じゃない。普段なら狙撃の一発や二発食らってる頃でしょ?」
「うん、そうかもしれない。でも、なんだか今日は誰にも負ける気がしないんだ」

 両足にローラーブーツを履いているスバルの売りは、何と言ってもその縦横無尽なスピードを生かした突破力にある。後衛を生かすために前衛が身体を張るのがツーマンセルの基本だが、スバルは生来の猪突猛進ぶりで防御に関しては苦手な部分があった。
 そのため、前に突っ込み過ぎて集中砲火を浴びてしまい、度々ティアナを焦らせる事態を生んでいたのだが、今日のスバルは防御をおろそかにすることなく、ティアナに多くの思考時間を与えることが出来ている。
 結論から言えば、ここまでの二人の出来は過去に例が無いほどに最高レベルだった。
 だが、ちょっとした“予想外の展開”も、二人にとっては案外初めての体験だったりする。

「おー、やっと来たな受験生! 待ちくたびれて風邪ひいちまうところだったぜ!」

 ティアナとスバルは開けた空間に出た。元は会社のデスクワーク用に使っていた空間なのか、残骸となったデスクやパソコンがそこら中に散らばっている。瓦礫も合わせると、ちょっとした障害物のような感じだ。
 そんな空間の中央。天井に穴が開いているため、日光がスポットライトのように降り注いでいる。薄暗い周囲と比べると、まるでスターの登場を演出しているかのようだ。
 もっとも、そんなスポットライトを浴びているのは、ただ一人の全裸だったのだが。

「…………」
「…………」

 ティアナもスバルも言葉が出ない。先ほどまでの緊張感は何処に行ったのか、二人とも口をあんぐりと開けて目の前の全裸をぼんやりと眺めている。
 一方の全裸はといえば、二人の戸惑いを意にも解さず、むやみに決めポーズを取ったりスクワットなどをしていた。股間にモザイクがかかっているのが唯一の良心だろうが、年頃の少女二人にはそれでも刺激が強すぎる格好である。

「ティア、あれ……」

 スバルが全裸を指さす。ティアナも全裸を注意して見てみると、モザイクのかかっている股間にオートスフィアがぶら下がっていた。見間違いでなければ、これはBランク試験のターゲット扱いされている的であり、二人にとって最後のターゲットでもある。
 見間違いであってほしいと二度見するティアナだが、目の前の光景は一切変わることなく、ターゲットが青色の魔力光を放ちながら上下に緩やかに揺れていた。心なしか、そのターゲットからは悲壮な雰囲気が感じ取れる。――いや、悲壮な雰囲気に駆られているのはティアナも同様だった。おそらく、スバルもそうだろう。先ほどまでイケイケムードだった相方も、目の前の全裸相手にどのようなリアクションを取ればいいか分からず困惑しているようだった。

「うっし! 準備運動完了! さあ、どっからでもかかってきやがれ受験生ども!」

 そう言った全裸は、二人に対して若干内股気味になりながら構えを取った。

「いや、あの……」
「なんだなんだ、はやくしろよ! 時間がもったいないだろうが!」

 全裸の言うことはもっともなのだが、ティアナにしてみれば“全裸に向かっていく”、そんな行動なんて取りたくないのである。出来ることなら見なかったことにして、来た道を逆走したい気持ちで一杯だった。

「ティア、行こう」
「ちょ、スバル!?」

 だが、隣に立つ相方は違った。全裸に向かって一歩を踏み出し、前傾姿勢を取ったのだ。その姿には、全裸に立ち向かおうとするスバルの強い意志が込められており、その力強い眼差しには一切の迷いが無い。先ほどまで困惑していた相方は何処に行ったのか、つくづく切り替えの早い性格をしている。

「お、来るのかハチマキ娘! おっしゃ、どっからでもかかってこいやぁ!」

 何故かヒンズースクワットをして気合を入れている全裸。
 ティアナはそんな全裸の奇行を無視して、スバルに話しかける。

「スバル、あんた本気なの!?」
「うん、もちろん本気。だって、あの人を倒さないと試験に合格できないもん」

 スバルの言葉には揺るぎ無い意志が込められていた。
 全裸の股間にぶら下がっているオートスフィア。
 それはすなわち、あの全裸と対峙して打ち負かさなければならないということ。
 だからこそ、スバルは全裸との対峙を選択した。自分たちがBランク試験に合格するためには、絶対に避けては通れぬ障害であるからだ。

「で、でも、あの男、全裸なんだけど……」
「ティア、そればっかりは仕方ないよ。きっと戦ってるうちに慣れるんじゃないかな?」
「いや、仕方なくないでしょうが! それに絶対に慣れないから! 何よ全裸の変態に慣れるって、それじゃあ頭おかしいヤツみたいじゃない!」

 そもそも、どうしてあんな変態がBランク試験に紛れ込んでいるのだろうか。こんな変態に遭遇する羽目になるなら、噂になっていた大型オートスフィアが出てきた方がマシだった。――ティアナは本気で頭を抱えたくなっていた。本能が「あの全裸と関わると絶対にロクなことにならない」と警告している。

「陸上警備隊第386部隊所属。二等陸士。スバル・ナカジマ。――行きます!」
「だから、あんたちょっと待ちなさいってば!」

 ティアナの制止も聞かず、スバルは単身で全裸に向かって特攻していく。今まで見たスバルの加速の中でも、トップクラスに位置する勢いだ。ヒンズースクワットをしていた全裸との距離はあっという間に縮まり、スバルは構えも満足に取っていない全裸に向けて右拳を振りかぶり、加速の勢いそのままに振りぬく。

「よっと」

 しかし、その初撃は空を切った。全裸は何のことも無く、ただ軽いステップを踏んで左に避けたのだ。スバルは少しだけ驚いた表情を浮かべたが、すぐさま方向転換して、再度全裸に向かって突進を試みる。
 だが、その突進も全裸の軽やかなフットワークに躱されてしまう。さながら闘牛士と牛のやりとりを見ているようだ。スバルは素早く切り返し、今度は拳と蹴りを交えた連撃を叩き込もうとするが、身体速度向上の魔法でも使っているのか、全裸はスバルの連撃を事も無げにやり過ごしていく。スバルの渾身のストレートに対しても、全裸は上体を後方に逸らすスウェーで回避するなど、こちらを小馬鹿にした動きが多々見られるのが非常に癪に障る。
 それに加えて、全裸のモザイクに覆われた股間が想像以上に目障りだった。

「……ああ、もう!」

 ティアナは苛立ち気味にアンカーガンを全裸に向けて構えると、魔力スフィアを一つ形成して股間のターゲットに向けて撃ち込んだ。
 スバルとのコンビネーションや全裸の隙を突こうといった思惑ではなく、単純に全裸への不快感から来る射撃である。
 そんな射撃が命中するわけも無く、全裸はスバルとの距離を取ることも合わせて大きく回避して、二人の射程範囲外へと逃げていった。

「逃がすか!」
「スバル! 待ちなさいってば!」

 全裸を追おうとするスバルを制止するティアナ。スバルはローラーブーツを止め、ティアナに振り返る。

「どうしたの、ティア!?」
「いいから集合! こんなんじゃコンビネーションもへったくれもないわよ! あんた一人で前に出過ぎ!」
「えー、だってティアが……」
「スバルうっさい!」

 不満げなスバルがティアナの横に戻ってきた。
 一方の全裸はといえば、ティアナの視界の隅で呑気に口笛を吹いている。スバルの連撃を回避したことによる疲れは見られず、余裕の表情を浮かべている。股間のターゲットが左右に大きく揺れていた。

「もー、ティアってばどうしたの?」
「……少しだけイラついてるだけよ。そんなことより、どうだったの、あの変態は?」
「うん。攻撃が全然当たらなかった。あんな簡単に避けられたのってギン姉以来かも」

 スバルは感心したようにあの全裸を評価した。
 スバルの姉であるギンガ・ナカジマ。スバルの目標でもあり、同時に尊敬の対象でもある姉を引き合いに出したということは、スバルにとってはそれだけの回避力を持った全裸ということなのだろうか。ギンガにとっては不愉快な比較対象かもしれないが、ティアナにとってはこれ以上なく分かりやすい例えだった。
 少なくとも、回避スキルに関して言えば、あの全裸は一筋縄でいかない相手ということだろう。何とも頭の痛いことだと言いたげに、ティアナは悩ましげに眉間にしわを寄せる。

「あの……えっと、全裸男から攻撃してくる気配はあった?」
「ううん。何だか遊んでるみたいだった」
「舐められてるのか、攻撃出来ないのか……時間稼ぎか」

 可能性としては時間稼ぎが妥当だろうか。――残り時間を確認すると、タイムリミットまで三十分弱。ゴールまでかかる時間を引けば二十五分弱ぐらい。スバルの“ウイングロード”でショートカットすれば、もう少し時間は短縮出来るかもしれない。時間的な余裕は十分にある。これも、ここまでの道程が想像以上にスムーズだったからだろう。
 ならば、まずは落ち着いて観察に徹するべきか。

「…………うえぇ」

 全裸を観察する。そう考えただけで、ティアナのテンションはガタ落ちした。股間にモザイクがかけられているとはいえ、あそこにいるのはやはり紛れもない全裸なのである。あんな変態を打倒するために観察に徹するなんて、自分が志す魔道師としての人生には存在してほしくなかった。
 しかし、やらなければならない。こうやって全裸に拒否反応を示している間にも、残り時間は刻一刻と経過していく。自分たちには成し遂げなければならない夢があるのだ。それをあんな全裸に邪魔されるわけにはいかない。――なにより、あんな全裸に邪魔される自分が許せるわけがなかった。

「……よし。気合入った」
「ティア、なんだか顔色悪いけど大丈夫?」
「うっさい。あたしは覚悟を決めた。やるからにはあの全裸に勝つわよ」
「うん、もちろん!」

 スバルを前に配置し、ティアナは後方から観察に徹する。あの全裸の行動パターンや隙を見つけ次第、全裸の打倒に全神経を傾ける。全てはBランク試験に合格し、自分の夢に一歩近づくため。先は長く、壁は高い。だからこそ、こんなところで、あんな全裸相手に立ち止っている訳にはいかない。

「いくわよ!」

 ティアナの掛け声と同時に、スバル雄叫びを上げながらローラーブーツを走らせた。



 廃業都市区画の上空を飛ぶヘリ。その中の空気は、操縦桿を握るヴァイス・グランセニックにも如何ともしがたい雰囲気に塗れていた。

『いや、仕方なくないでしょうが! それに絶対に慣れないから! 何よ全裸の変態に慣れるって、それじゃあ頭おかしいヤツみたいじゃない!』

 八神とフェイトの脳裏には、先ほどのティアナの魂の慟哭がこびり付いていた。
 あの全裸趣味の友人と初めて遭遇したのは、今からおよそ十年前の出来事である。
 最初のインパクトがあまりにも強烈すぎた彼に対し、八神もフェイトも散々苦言を呈してきたつもりだ。それこそ、一般的なモラルを盾にした説教からはじまり、なぜかこちらが下手に出てしまうような説得に移り、最終的には全てを諦めて実力行使に及んだことも度々ある。
 だが、そのありとあらゆる妨害工作を彼は跳ね除け、なんと成人を間近にした今でも全裸という主義主張を貫いている。八神やフェイトも、今となってはそんな彼にわざわざ苦言を呈することも無くなり、あの高町なのはですら“クラナガン対全裸緊急警報”で鎮圧に向かう以外には、あの全裸と友好な友人関係を続けてしまっている。
 それはつまり、彼が全裸でいるという事実に、三人とも慣れてしまっているからではないだろうか。
 そして、先ほどのティアナの台詞に戻ると、彼が全裸でいるということに慣れてしまった人間は、皆総じて頭がおかしい部類に入るとのこと。これは良く考えなくても当たり前のことで、常識ある人間ならば誰もが思うことである。常日頃から全裸で街中を闊歩している人間と、誰が進んでコンタクトを取ろうなどと考えるのか。
 だからこそ、八神とフェイトは落ち込んでいた。それはもう、操縦席にいるヴァイスが見たことも無いレベルで落ち込んでしまっていた。

「フェイトちゃん、私らって……」
「それ以上は言わないで、はやて。……私だって泣きたいのを我慢してるんだから」
「こうなったら、どんなことがあってもティアナをスカウトしたる……。ティアナには“機動六課対全裸最終兵器”として成長してもらわんと……!」
「うん、私たちで鍛えてあげよう……!」

 この部隊は果たして大丈夫なのか、一人疑問に思うヴァイスであった。



 ティアナは瓦礫を壁代わりに移動しながら、全裸の観察にひとまずの結論を見出した。
 先ほどまでのダウナー状態は脱し、今では無理やり集中力を高めて全裸の一挙手一投足を視線で追っている。相変わらず全裸を捉えることは叶わないが、全裸の異常な回避スキルの源がどこにあるのかは突き止めた。

「あのモザイク……単なる最低限のモラルを守るための物かと思いきや、高レベルのステルス補助も兼ね備えていたのね」

 スバルの蹴りが空を切る。一見すると、あの全裸がスバルの動きを完璧に見切れるほどの動体視力を持っているように思うが、そこを誤解するとあの全裸には絶対に一撃が届かない。
 ティアナは全裸に対する結論の最後の決め手として、カートリッジを二発ロードし、空中に合計八発の魔力スフィアを形成する。

「クロスファイアー……シュート!」

 ティアナの掛け声と同時に、一斉に全裸目掛けて飛び立つ魔力スフィア。一発一発が誘導弾であり、空間制圧を目標に組んだ魔法だが、今のティアナの実力では全てを誘導制御することは叶わず、数発は直線に進むだけの直射型の射撃となってしまっている。今までの全裸男の驚異的な回避スキルを目の当たりにしたティアナには、確実に命中しないであろうことが分かっていた。

「うお!? こなくそ! ほっ! はっ!」

 ティアナの予想通り、全裸は魔力スフィアを回避していく。誘導制御した魔力スフィアも当たることなく、壁に激突して消滅してしまった。――だが、ティアナの狙いは全裸男に攻撃を命中させることではなく、全裸男の避け方に注目するための手段だった。

(やっぱり、避け方が雑だ……!)

 スバルの直線的な打撃を回避していく様とは違い、空間制圧を目的に放った魔力スフィアに対して、全裸は慌てたように回避していった。ティアナが“意図的”に作った抜け道が多数あるにも関わらず、全裸はみっともなく転がり、地べたを這いずり回った。――見ているだけで殺意が湧く避け方であるが、その気持ちは最後の一手までとっておくことにする。
 全裸の解析が完了したティアナは、スバルに念話を飛ばした。

≪スバル、あの全裸の実力が大体分かったわよ≫
≪え、ホント!? やっぱり相当な実力者なのかな!?≫
≪実力者どころか、あいつ素人よ。ただ、身体能力向上の魔法とステルス魔法の合わせ技で、こっちからの攻撃が異常に当たり辛いだけで。たぶんあれ、私の幻術よりレベルが高いわ≫
≪……へ? で、でも、さっきスウェーで避けるとかいう高等技術やられたんだけど≫
≪わざわざスウェーで避ける必要がどこにあるのよ。それはあの変態がふざけてるか、無理やり避けたのをこっちが凄いと勘違いしているだけ≫
≪そ、そうなのかな?≫

 スバルから間の抜けた返事が飛んできた。
 それもそのはず、現に一度も攻撃を当てられていないスバルにしてみれば、あの全裸が自分たちより遥か上の実力者だと誤解してしまうのも無理はない。
 それに加えて、スバルは典型的な猪突猛進タイプ。相手の観察なんて二の次に攻めてしまうため、より一層の誤解が生じているのだろう。

≪で、でも、攻撃が当たらないんならどうしようもないよ!?≫
≪それをどうにかするのがあたしの仕事。あんたはその時が来るまで、あの変態を適当に追い掛け回しといて≫
≪……? う、うん、なんとなく分かった!≫

 本当に分かっているのか怪しいが、スバルはあれでいいとティアナは思う。
 ティアナはスバルの大事な局面における決定力に関しては、訓練校時代から全幅の信頼を寄せている。後は、自分がしっかりと舞台を整えてあげればいいだけ。それだけすれば、スバルは最大のポテンシャルを発揮できるはずだ。
 ティアナは大きく深呼吸した。全裸を追い詰めるための戦略を構築し、今度は一切の逃げ道を許さない展開を生み出す。スバルに関しては心配していない。最後の局面に全力を込められるだけの力を残していてくれれば、ティアナはそれで構わないと思っている。肝心なのは、そこに繋げるまでの自分の役割だ。自分が失敗すればあの全裸を捉えることは叶わず、自分たちのBランク試験も同時に終わりを告げる。
 ティアナは自分の夢を思い描く。絶対に譲れない夢を胸に、大きく息を吐いて、誰にも聞こえないような小さな声で呟いた。

「――さて、始めましょうか」

 新人二人の逆襲劇が幕を開ける。



 全裸こと鳴海賢一は涼しい表情とは裏腹に、新人二人からの攻撃に成す術がなかった。
 ハチマキ娘のストレートを面白半分のスウェーで回避したときには冷や汗が流れたし、ツインテール娘の一斉射撃に関しては、もう無我夢中で恥も外聞も捨てて床を転げまわり、なんとか回避することが出来た。股間のオートスフィアは未だに無傷でいられているが、それでも二対一という状況はやはり厳しいものがある。

≪マスター。珍しくお疲れのようですが、そろそろ負けたらどうでしょうか≫
≪お前は本当にマスター相手に厳しいなぁ! もうちょっと健闘を称えるとかしたらどうよ!?≫
≪生憎ですが、股間にオートスフィアをぶら下げている人間を、私のマスターだとは認識したくありません。この呼称はあくまで形式的なものですのであしからず≫
≪……本当にお前は可愛いデバイスだね≫

 首にかけている青い宝石が明滅しながら念話で毒舌を吐いてきたが、いつものノリということもあって全裸は特に気にした素振りを見せなかった。
 そんなことよりも、今はこのスリルに全神経を注いでいたい。たまにえげつない性格を見せる金髪娘から伝授してもらった“ブリッツアクション”と、自前のステルス魔法でどこまで抗えるのか。目の前の才能あふれる新人二人組相手に、いつまで手に汗を握る展開に身をやつすことが出来るのか。ともすればマゾ気質とも取れる性格だが、この全裸は常にこんな状況を楽しむことが出来る生粋の変態だった。
 絶望的な戦力差に諦観したことなんて一度も無ければ、こちらから勝とうとする意志を見せたことも無い。この全裸が望んでいることはただ一つ。――スリルを楽しみたい、それに尽きる。
 だから、鳴海賢一は笑っている。

「はあぁぁぁぁぁぁっ!」

 ハチマキ娘の拳は速く、蹴りは鋭い。
 ツインテール娘の射撃は正確で、いつか追い詰められる時が来ることは分かりきっている。
 それでも、その時が来るまで起こり続けるスリルを楽しめればそれでいい。究極の自己満足がそこにはあった。

「――さあ、もっと楽しもうぜ!」



 あの全裸を追い詰めている。
 瓦礫の陰で幻術魔法を使いながら、ティアナは実感していた。
 現在、スバルの後方で射撃魔法を使っているのはティアナの幻術魔法“フェイク・シルエット”によって発生させた幻であり、魔力スフィアも同様に幻で攻撃能力は一切持たない。
 しかし、こと攪乱においては絶大な効果を発揮しており、あの全裸もそれが幻だと気づかずにわざわざ回避している。

「カートリッジ、ロード」

 四つ目のカートリッジをロードする。
 幻術魔法で自分の幻を発生させるのには魔力を非常に消耗し、集中を切らさないために身動きすることも出来ない。
 それでも、あの素人相手になら十分な効果を期待できる。防御という手段を取らず、ひたすら回避に専念する全裸相手だからこそ、誤魔化しきれる作戦だ。

≪スバル、今!≫
≪了解!≫

 瓦礫の陰からスバルが飛び出し、魔力スフィアに追われていた全裸に特攻する。
 しかし、最初と同じように全裸は事も無げに回避する。
ティアナは追撃の手を緩めることなく、空中に幻の魔力スフィアを八発形成、全裸に向かって一斉に撃ち放つ。これも攻撃能力をもたない幻であるがゆえに、多少の誘導制御は効くようになっており、全ての魔力スフィアを全裸目掛けて誘導することに成功した。
 だが、全裸はしぶとく逃げ回り、外壁が壊れている場所を背に一息吐いた。残り時間が十分を切っていることに安堵したのか、全裸は忙しなく動かしていた足を止め、スバルとティアナの動きを見つめている。

「――かかった」

 ティアナは笑みを浮かべる。――全裸の遥か後方、綺麗な青空に紛れて水色の魔力が輝いている。ここまでは完璧だ、後は自分が最後の力を振り絞り、舞台を完成させるだけ。
 ティアナは残ったカートリッジを全て取り出し、最後の一手に全神経を注ぐ。



「さ……さすがに、ぜえ、ぜえ、キツイ……な」

 壁が壊れ崖となっているビルの淵に立ち、全裸は呼吸を落ち着けている。――流石は、高町が「油断してると足元すくわれちゃうかもよ?」と言った相手だ。知り合いの化け物達みたいな威圧感は無いが、各自が持ちうる最大の戦略を以て自分を追いつめてくる。
 例えば、高町を相手にすると大抵は強引にケリを付けられてしまうのだが、こういった詰将棋のように緻密に追い掛け回されるのに慣れていない全裸にとって、ある意味では高町以上にやりづらい相手であると言える。
 それでも、ここまでただの一度も攻撃を負っていないことに関しては、流石の回避スキルと言えよう。身体能力向上に加えて、ステルス補正がかかっている全裸を捉えるには、やはり決め手に欠けるのが新人たちだった。
 だが、目の前の“新人二人”が幻であることに気が付いていない時点で、全裸の敗北は決まっていたのかもしれない。

「――っ!?」

 不意に感じた寒気。――これは、あの化け物達が垣間見せる威圧感そのものではないか。
 振り返る。背後には崖があるだけ。仮に、誰か遠距離狙撃に才がある人物が自分を狙っていようとも、ステルス補正で狙いは完璧にはいかない。
 だが、現実はどうだろうか。

「はあぁぁぁぁぁぁっ!」

 そこにいたのは、全裸の後ろにいたはずのスバル・ナカジマだった。
力強い打撃とスピードで再三に渡って全裸に冷や汗をかかせた、高町期待の新人が空に架かった水色の“道”を走り、こちらに向かって爆走する光景がそこにある。――先ほど、スバルが瓦礫に身を隠した一瞬、ティアナの“フェイク・シルエット”により生まれた自分の幻と入れ替わり、スバルが天高く飛翔していたことに全裸はこの時になっても気づいていない。
 スバルは左拳で前方に形成した高密度の魔力スフィアを保持し、右拳を今にも振り抜こうとしているのを必死に我慢しているようだった。
 このままではやられる。そう直感した全裸は回避を試みるが、空を駆けるスバルに気を取られたことで、一瞬の隙を与えてしまった全裸を囲むように、橙色の魔力スフィアが逃がさないとばかりに周囲に展開していた。
 全裸が先ほどまで相手にしていたはずの幻のスバルはおらず、代わりに立っていたのはアンカーガンを構えるティアナの姿。魔力スフィアの形成にかなり無理をしているのか、額には大量の汗が流れ、乱れた呼吸を落ち着けるように肩で息をしている。

「……これで、カートリッジは全部使い切りました。残念ながら、今の私にはこの魔力スフィアを空中に留めておくことで精一杯です。――ただ、この全てが“反応炸裂弾”ですけれど」
「な……、なんて恐ろしいことを考えやがるんだ、このツインテール娘! あれだろ、どれか一つにでも掠ったら“誘爆”して大変なことになるんだろ!?」
「ちなみに、抜け道は無いですからね。全部で五十発、一切の隙間なく配置させてもらいました」

 ティアナは満面の笑みを浮かべ、丁寧な言葉を並べながら恐ろしいことを言ってのけた。
 今のティアナの実力では、相当な無理をしなければ形成不可能な魔力スフィアの数だ。
 それに加えて、大量のカートリッジのロードによる疲労の極限状態に襲われており、すぐにでも気を失って倒れてしまいそうになっている。――それでも、ティアナは意識を途絶えさせない。自分の用いた戦略が、今、ここに実を結んだことを嬉しく思い、同時に獲物を追い詰めたという快感に身を震わせていたからだ。
 ティアナ・ランスター。
 ここに来て、魔導師として、人として、間違った方向に一皮むけたようである。

「そ、その笑顔……お前もあいつらと同じ属性持ちかよ!?」
「……? 何を言っているのか分かりませんが、そろそろ振り返った方がいいですよ」

 ティアナの優しい声音に促され、全裸は振り返る。――そこには、リボルバーナックルをこれでもかと言わんばかりに唸らせ、見るだけで分かる膨大な魔力スフィアを運んでくるスバルがいた。おそらく、スバルは振りかぶっている右拳で魔力スフィアを叩き打ち、加速を加えて全裸に撃ち放つのだろう。

「――――」

 全裸は悟った。――自分に逃げ場はないということを。
 ならば、全てを受け入れることが美徳だということを。

「ディバイィィィィィン――」

 ああ、聞き慣れた単語が聞こえる。
 全裸は両手を広げ、その時を待った。

「バスタァァァァァァァッ!」

 その砲撃魔法は全裸を呑み込み、ティアナの展開していた魔力スフィアをも巻き込んで、極めて大きな爆発を引き起こした。結果を確認するまでもなく、自分たちの勝利を確信したティアナは爆発に背を向け、誰にも聞こえないように呟いた。

「――チェック・メイト」



「…………」
「…………」

 試験場のサーチャーから送られてくる映像を見ていた八神とフェイトは、全裸の友人を襲った結末に言葉を発することが出来なかった。
 先ほどまで自分たちが話のネタにしていた、「鳴海賢一を相手取る際にはどうするか」という事について、八神は「ビルごと倒壊」、フェイトは「クロスレンジ」という結論を冗談交じりに出したのだが、新人二人が見せた光景はそれ以上のえげつなさであった。

「私のビルごと倒壊も相当な案やと思っとったけど……」
「あれ、賢一大丈夫かな……?」
「あー……、まあ、常日頃からなのはちゃんの全力全開を受けとるし、大丈夫なんやないかな……」

 自信なさげに答える八神。
 それに、今頃は八神家の末っ子が治療に向かっているだろう、という期待も込めた大丈夫という結論である。

「でも、あれだね。賢一が諦めるって、相当なことだよね」
「そうやねー……私もアレは諦めるわ、流石に無理ゲーすぎるし」

 真に恐ろしきは、あの作戦を立案、実行したティアナなのだろう。
 実際、新人二人が楽に勝つ手段はもっと多くあった。単純にスバルが追い込みをかけ、ティアナが隙を狙うように射撃を挟んでいけば、いかに“ブリッツアクション”を使いこなしステルス補正のある全裸といえども、そう時間はかからずに股間のオートスフィアを破壊するに至っていたはずである。
 それにもかかわらず、ティアナは遠回りに幻術魔法を巧みに駆使して全裸を惑わし、彼の逃げ道をビルの崖側に誘導した。そして、全裸の持ち前の直感によってスバルに気を取られている一瞬の隙の内に大量の魔力スフィアを展開し、全裸の逃げ道を完璧に塞いだところにスバルの近距離砲撃魔法である。これをえげつないと言わずして、何をえげつないと言えるのだろうか。
 最終的には、最後の瞬間までスリルを感じることに全神経を注ぐ全裸に対して、どうしようもない手詰まりを自覚させて諦めさせてしまった。
 もっとも、これが並みのCランク魔道師だったなら、全裸が逃げ勝ってしまうのだろう。
 そう考えると、スバル・ナカジマとティアナ・ランスターの二人組の実力は少なくとも、現時点においてBランク以上、Aランクにあとわずかというところにいたのかもしれない。

「なんちゅーか、将棋で相手側の駒を玉将以外全部取ってから、嫌味ったらしく自陣側に配置して玉将の逃げ道を無くして、そっからわざわざ王将で詰みに行くって感じやったね。もちろん投了は許さない心づもりで」
「……それって、かなり性格悪いよね」
「……機動六課設立を間近にして、期待の新人候補がサドに目覚めたっちゅーことやな」

 八神は「あの全裸と関わると絶対にロクなことにならない」とでも言いたげに、深いため息を吐いた。


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