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No.33428の一覧
[0] 【チラ裏から移転】タツミーをヒロインにしてみるテスト【オリ主】[rikka](2018/03/23 03:15)
[1] Phase.1[rikka](2012/09/05 22:45)
[2] Phase.2[rikka](2012/09/06 22:26)
[3] Phase.3[rikka](2012/09/06 23:11)
[4] Phase.4[rikka](2012/09/06 23:06)
[5] Phase.5[rikka](2012/06/21 00:06)
[6] Phase.6[rikka](2012/06/24 18:30)
[7] Phase.7[rikka](2012/06/28 22:19)
[8] Phase.8[rikka](2012/06/25 22:15)
[9] Phase.9[rikka](2012/07/11 00:35)
[10] Phase.10[rikka](2012/08/26 11:19)
[11] Phase.11[rikka](2012/09/13 00:52)
[12] Phase.12[rikka](2012/07/16 17:42)
[13] Phase.13[rikka](2012/07/14 10:22)
[14] Phase.14[rikka](2012/08/26 20:18)
[15] Phase.15[rikka](2012/09/16 13:42)
[16] Phase.16[rikka](2012/09/29 23:57)
[17] Chapter 1 epilogue and next prologue[rikka](2012/10/08 21:27)
[18] 外伝1 彼と彼女の最初の事件―1[rikka](2012/10/11 00:08)
[19]      彼と彼女の最初の事件―2[rikka](2012/10/23 23:18)
[20]      彼と彼女の最初の事件―3[rikka](2012/10/27 00:13)
[21]      彼と彼女の最初の事件―4[rikka](2012/11/14 21:59)
[22]      彼と彼女の最初の事件―5[rikka](2013/04/21 11:18)
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[33428] Phase.7
Name: rikka◆1bdabaa2 ID:d675214d 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/06/28 22:19
 時刻は夜の8時前。龍宮との追いかけっこに勝利した葵は、とりあえずのご機嫌取りと、昨日の追いかけっこのおかげで、エヴァンジェリンに対処できたお礼も兼ねて、龍宮に餡蜜を奢った。
 その際に、龍宮に魔法使いに襲われたということはハッキリとバレたが、それが誰なのかはボカしておいた。
 葵としては、いくら龍宮が魔法に関わっている、しかも闘えそうな人物だとしても、後輩の、それも大切な友人である彼女を、うかつに関わらせたくなかった。
 後日、改めて相談すると龍宮には伝え、それからは寮の自室で休んでいた。いくつかの考察を重ねながら――

(今日の俺は……なんか変だった?)

 有利な場所で逃げ回る。これが葵が追いかけられる時の基本戦術だった。事実、今日の追いかけっこも罠を仕掛けて、有利な場所で待ち伏せていた。まぁ、初手からなんだか調子が狂いっぱなしではあったが……。
 基本姿勢が『逃げ』であるため、これまでの葵は、直感で警戒することはあっても、直感で『行動』すること等、決してなかった行動だったし、葵本人もそれが違和感となって残っている。
 なによりも、決して敵わないと分かっているはずの龍宮真名に、自分は一体何をした?

(ろくに勝算を考えずに、直感だけで前に出て、そのまま格闘戦? 俺が? ありえんありえん……って笑い飛ばしたい所だけど)

 それを葵は、やってしまった。自分でも理解していない動きを行い、運や偶然の要素が強かったとはいえ、最後には龍宮に競り勝った。

(……勝ったと思った直後に、まさかグーでぶん殴られるとは思わなかったけど。……やっぱり、女の子押し倒した上に、馬乗りになったのはまずかったか? 死ぬほど謝って餡蜜ご馳走したら、少しは機嫌よくなったみたいだけど……)

 ズキリと、未だに痛むコメカミに手を当てながら、更に葵は考えを続ける。

(ともかく、あの時の龍宮は何か変だった。いや、俺が奇妙奇天烈な行動始めたから警戒するのは分かるが、改めて距離を取るほどだったか?)

 分からないことが多すぎる。と葵は、グラスにジュースを注いで、一気に飲み干す。

(謎のいくつかを解きに、これから虎穴に入るっていうのに、関係ない所で意味不明な事が増えやがって、畜生)

 ふと、時計を見ると、ちょうど午後7時50分を指していた。その時、誰かが葵の部屋のドアを4回ノックする。そして、ドアの向こうから、聞いたことのない女性の声がした――

『失礼いたします。篠崎葵様ですね? マスター、『エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル』の使いで参りました、絡繰茶々丸と申します』


―― その時が来た。





『Phase.7 会談、開戦、開幕』





「よく来たな、篠崎葵。歓迎しよう」

 絡繰茶々丸と名乗る女性に案内されて、たどり着いたのは、ログハウス調の、中々にセンスのいい家だった。促されるままに家の中に入ると、そこには、今朝がた会ったばかりの吸血鬼が、ソファに踏ん反り返っていた。

「まずはよくやったと褒めておこうか。見ていたぞ、あの龍宮真名相手に、まさか格闘戦を挑んで一本取るとはな。まぁ、アイツも、今までのお前の動きやイメージが頭にこびりついて、咄嗟に判断できなかったせいもあるだろうがな?」
「偶然だと言いたいところだが……それ以上に、自分でもあの時、何が起こっていたのか分かっていないんだ。それを必要以上に褒められるとくすぐったいだけだよ、エヴァンジェリン。てか、覗いてやがったのかよ」

 まさか、称賛の言葉を掛けられるとは思っていなかった葵は、一瞬どう反応していいか分からず、咄嗟に本音を出してしまう。それに対して、エヴァンジェリンは分かっていると言いたげに笑い、

「あぁ、確かに今朝のお前は異常だったよ。余りに異常過ぎて、昨晩はまさか手を抜いたのではないかと、一瞬お前をくびり殺したくなった程だ」

 何気ない挨拶の中にサラッと殺気を混ぜるエヴァンジェリンに、昨夜のやり取りを思い出しながら、葵は平然と答える。――しっかりと、いざという時に逃げれるように、軸足にわずかに力を入れて、だが

「さすがにそんな命知らずじゃねーよ。まぁ、それはさておき、そろそろ本題に入ろう、エヴァンジェリン。聞きたいことが色々あるしな?」
「ほう、昨晩お前を襲った私だ。偽りを告げるかも知れんぞ?」

 そう言いながら、意地が悪そうな笑顔を浮かべるエヴァ。だが、葵は淡々と、

「そんなことはしないと、信用しているから尋ねている。龍宮に聞いてもよかったが、アイツがどれくらい魔法に関わっているかが分からなかったからな」

 それに、なんでも答えてくれると言ったろう? と、答える。それで対し、エヴァンジェリンは、軽く嘆息し、

「やはり、お前は変わっているな。いいだろう、本題に入るとしよう。茶々丸、軽い食事と飲み物を持ってこい。篠崎葵、そこのテーブルにつけ」

 口早にそう言うと、エヴァンジェリンはソファから立ち上がり、テーブルへと付く。

 そして、ようやく、吸血鬼との会談が始まった。



***************



「さて、篠崎葵。改めて、ようこそ魔法の世界へ。先日までは、ただの一般人だったかもしれんが、お前は今、こうして吸血鬼の住まう屋敷と分かっていて、臆せずに足を踏み入れた。お前は、もはや立派に『こちら側』の住人だ。歓迎しよう」

 軽い料理が盛られた皿を乗せたテーブルを挟んで、二人は席に着いている。中身の入ったワイングラスを軽く掲げて、彼女は嬉しそうに、

「乾杯」

 と、微笑みながら口にした。そんな彼女に対して、葵も軽くグラスを掲げる。

「乾杯」
「フッフッフ。勝手に尋ねてくる奴は多々あれど、誰かを招いたのは久しぶりだよ、篠崎葵」

 そう言って、グラスを傾ける彼女に対し、葵はさっそく言葉を切り出す。

「フルネームは堅苦しい上に呼びにくいだろ? 葵で構わないよ。しかし、なるほど。前々からこの学校はどこか異常だと思っていたが……。この町には結構な数の魔法使いがいるようだな」

 勝手に来る人間が多々いるという言葉から、推測を建てる葵に対して、エヴァンジェリンは、口の両端を吊り上げる。

「ふむ、気がついたか。いいぞ、ただ言葉を重ねるだけではなく、言葉の裏を読み取ろうとする人間は好感が持てる。あぁ、私の事もエヴァで構わん」

 そうだな……。と呟きながら何かを考えているエヴァは、葵に対して言葉をかける。

「お前の言うとおり、この学園には魔法使いや、その関係者が数多くいる。お前の友人でもある龍宮真名もそうだ」
「あぁ、知っている。その事実を切り出したうえで、俺に昨晩誰に襲われたのかを散々聞いてきてな」
「ほぅ、ならアイツにはもうバレていると見ていいか。それはそれで面白くなりそうだ」

 クックック、と静かに、闘争心から出てくる笑い声を漏らすエヴァ。少しの間、そうしてると、

「まぁ、いい。さて、まずは私の事から語ろうか……。少し、長い話になる。お前も思う所があるかもしれんが、とりあえずは、何も問わずに聞いてくれ」


 それから、エヴァは語り出した。自分が、『真祖の吸血鬼』という、吸血鬼としての弱点のいくつか――例えば、日光や流水等を克服した、不死の存在である事。600年に渡り『悪の魔法使い』として君臨していたが、15年前に、サウザンドマスター、『千の呪文の男』と呼ばれる魔法使いによって、魔法使いが運営しているこの学園に、登校地獄というふざけた呪いで封印されたということ。
 特に、自分が封印された時については、なにやら思うことが多々あったのか、殺気とも怒気ともつかない、異様な気配が全身から滲み出ていた。



「まぁ、これが私という存在だ。分かったか?」
「なるほど……なるほどなるほど」

 一通りの話を聞いて、葵は、とりあえずエヴァがなぜこの麻帆良学園という場所にいるかは理解した。だが、

「それがなぜ、人を襲うことを始めた? いくらなんでも唐突すぎるだろう?」

 と、葵が疑問を口にすると、エヴァは面白くなさそうに、フンっと軽く鼻を鳴らすと、

「私をここに閉じ込めた魔法使い、サウザンドマスターの息子が、この麻帆良に来ていてな。そして、そのガキは、予想通り膨大な魔力を身に宿している」

 軽く、料理をつまみ、一息ついてからエヴァは言葉を続ける。

「未熟とはいえ、膨大な魔力を持つ魔法使いを襲って、血を吸うにはリスクが高すぎる。そのために、少しでも魔力を戻しておく必要があるんだ。私は、吸血鬼だからな、血を吸うことで魔力を回復できる。とはいえ、呪いのせいか微々たるものでな……半年ほど吸い続けているが、あまり回復しておらん」
「そりゃまた難儀だな」

 葵がどうでもよさそうにボヤくと、エヴァは軽くため息をつく。

「てか、今理解したぞ。一人位見逃した所で本当に微々たるものだったからって理由もあったのか、俺たちを逃がしたのは」
「加えて、葵。お前からは凡人のそれよりも、遥かに魔力が低いのを感じ取ったからな」
「はっはは、なるほど、魔法に関しての俺の才能は落第レベルか」
「見てて哀しくなるほどにな」

 特に気にした様子を見せない葵に対し、エヴァはバッサリと言い切る。

「さて、ここからようやく本題だ。葵、今のお前を取り巻く状況について、ある程度教えてやろう」

 そういって、エヴァが取りだしたのは、一枚の布だった。葵にとっても見覚えのあるそれは、

「制服の破片? あぁ、あの時吹っ飛んだ所か。そういや無くなってたが、わざわざ拾って帰ってたのか?」
「ふん、気になることがあったからな。ほら、これを見てみろ」

 エヴァが制服の破片を裏返して、裏地の部分を葵に見せる。そこには、表の部分にはなかった、幾何学的な模様が刺繍されていた。

「これは……魔法陣っぽいけど?」
「その通りだ。簡単な追跡魔法と、外部からの魔法効力を軽減する魔法陣だ。一部がズタボロになったために、効果は既に消えているが……。クックック、さて、どうしてお前にこんなものが付けられていたのか、お前はどう思う?」
「『私には全て全て分かっているけどね』みたいな笑顔でこっち向くの止めてくれんか? 効果がないとは分かっていても、なんかぶん殴りたくなってくる」
「ほう、なんならさっそく、昨晩の仕切り直しと行くか?」
「こちらが指定するハンデを背負ってくれるっていうなら」
「ハッハッハッハッハ!!」

 エヴァは一しきり笑うと、ワイングラスに口を付けて、クッと一口、二口ほど飲み、

「やはり、最初から戦闘になる可能性も考慮していたか。まぁ、安心しろ、今はお前と戦うつもりはないさ」
「なるほど。『今は』……ね」

 やっぱり、いずれ戦うことは確定事項になっているのかと、内心ため息をつきながら、葵は、自分の制服の切れ端を摘み上げ、

「追跡魔法って事は……。常に、俺がどこにいるか、調べられていたって事だよな?」
「その通りだ。私には詳しくは分からんが、『はいてく』という物の中には、地図上でどこにいるかを指し示す物があるのだろう? それと同じようなものだと考えればいい」

 エヴァの補足説明に、葵は、GPSのようなものを埋め込まれていたのかと納得する。そして、それが意味することは――

「ん? おかしいな……」
「どうした?」
「なんで魔法側の人間は、俺に対して何もアクションをしてこない? 少なくとも追跡の魔法陣があったって事は、桜通りで急に反応が無くなった事を知っているはずだろう? 早ければ、それこそ昨晩の内に行動があってもおかしくなかったはずだ」

 そこまで話した後に、さらにある事に気がついた葵は質問を重ねる。

「それと……、エヴァ、お前に対して学園側は何か言ってきたか?」

 その追跡魔法陣が、どれほどの精度かは分からないが、少なくとも、昨日自分が桜通りまで行った事は間違いなく知られているだろう。そして、そこで反応が消えたのだとしたら、魔法側の人員が桜通りへと向かったはずだ。そこを調べられたら、ひょっとしたらエヴァにたどり着くのではないか? と、葵は考えたのだ。

「ふむ、なるほどそこに目を付けたか。いや、私には何も通達も警告も来ていない」

 エヴァは、顎に手をやり、何かを考えると、

「これは推測だが……、学園側はひょっとしたら、既に私が動いている事を知っているのかもしれん」
「? それなら、なぜ人員を動かさない? こういっちゃなんだが、動かさない理由なんてないだろう」
「一応私も、今作れる程度の物ではあるが、一定レベルを超える人間が入ってこれない様に結界を張ってはいたのだよ。もっとも、所詮は模造品のようなものだ。気がつかれていたとしても、つい最近の事だとは思うが……」
「すでにその結界とやらに対処出来ていて、分かっているうえで、魔法側が、あえて見逃している?」
「あるいは、気がついて、本来ならば即座に動く所に、イレギュラーが発生した……とかな」

 そこまで言ったエヴァは、ニヤニヤと笑いながら、こちらの目を覗きこんでいる。

「そこでまた、なんで俺が魔法使い達に警戒されているかって話に戻ってくる訳か。というか教えろよ。一番肝心な所を隠しやがって」
「ハッハッハ。まぁ待て、私もただお前の困る顔を見たくて黙っているわけじゃないぞ? まぁ、そういう気持ちがあるのも否定はせんがな」
「そこは否定してほしかったんだが……」

 そこで、エヴァは再び真面目な顔になり、葵を見据えなおす。

「まぁ、それはいい。大事なのは、お前が自らの意思で魔法の世界へと足を踏み入れ、自分の足で真実にたどり着くことだ。なにせ、私にもよく分からないことがあるのだからな。まずは自覚しろ、篠崎葵。貴様の存在は、まさしく『未知』という言葉が当てはまる存在なのだと」

 そう、エヴァは皮肉を込めた口調で語る。

「未知? 俺がか?」
「あぁ、未知の存在という意味では、お前は間違いなく、この学園において最大の存在だよ。今朝がた見せたあの成長率もそうだが……。脅威になるかどうかはともかく、警戒に値すると、学園側は認識しているはずだ。そんな男が、史上最悪の吸血鬼と遭遇し、しかもほぼ無傷と言っていい体で、帰って来た。血も吸われずにだ」
「おいこらちょっと待て」

 それが意味することに、葵は気が付き、苦々しい口調と目線をエヴァに向ける

「つまりあれか。最初からなんかの理由で、ある程度警戒されていた俺は、お前と出会ったのがトドメで、危険人物リストの上位に書き直されたとそういうことか!!?」
「まぁ、そういうことだな。先ほど言った通り、私には何の警告も来ていないが……」

 一旦区切った後、これまでになくドS全開な笑顔でエヴァは続ける。

「お前に関して、何人かの教師や魔法生徒が情報を集め直していたぞ」
「ちょ、おま」
 
 選択肢がなかったとはいえ、それなりに覚悟をして『魔法』という世界に足を踏み入れた葵だったが、まさかそのスタート時点で、自分が世話になっている学園そのものが敵に回りかねない状況になっているとは、さすがに想定の遥か外だった。

「さぁ、どうする葵? 貴様には、もはや逃げ場などないぞ?」
「偶然から生まれた現状を、さも自分が作り出したかのように言ってんじゃねぇ!!」

 思わず頭を抱えてしまう葵を尻目に見ながら、エヴァはさらに言いつのる。

「恐らく、今日の時点ではお前を泳がせる意味も兼ねて、監視、観察だけにしようと考えていたのだろうが……」

 そこから先は、エヴァに言われなくても、葵は理解できた。その観察されている状況の中、堂々と吸血鬼の家に乗り込んだ馬鹿がここにいるという事実が。

「絶望しか見えん」
「クックック。安心しろ、ある程度は手を打ってやろう。なに、学園側にも、話の通じる奴はいるしな」

 笑いながら、グラスに手を伸ばすエヴァに、怨みがましい視線を送りながら、葵は今の状況をまとめ直す。

(なんでかは知らんが、俺は魔法使いからしたら監視対象になるくらい警戒されている。コイツにあった事以外、心当たりがまったくない以上、記憶が戻らない限り、考えても無駄な訳で……。そんな状況で真祖の吸血鬼と対峙して、とくに何かをされた気配もなく抜け出してる事とか。更には、その吸血鬼から家に招待されてる事実とか……。わっはぁ、これまじでヤバいかも)

 事態が既に、自分自身の事にも関わらず、自分に出来ることが、現時点ではほとんどない事を悟った葵は、とりあえずは手立てがあるらしいエヴァに放り投げることにした。

「手を打ってくれるというなら、そこはエヴァを信じよう。ただし、無料で、という訳にはいかないんだろ? 昨日の時点で、質問に答えてくれるとは言ってくれたが、行動を起こすとは言っていなかったんだからな」
「クックック。分かっているじゃないか」

 そういうとエヴァンジェリンは、指を鳴らして茶々丸を呼び寄せた。即座にドアから姿を現した茶々丸の手には、布で綺麗に包まれた何かを、丁寧に持っていた。

「葵、貴様にはこれをくれてやろう。以前、私が使おうと思って作ったものだ」

 エヴァは、茶々丸の手からそれを受け取ると、そのまま、それを葵に手渡してきた。
 受け取った葵が、包みを開くと、

「これ……扇子? 鉄扇ってやつか。それにしちゃ、少し小振りだけど……」
「この学園に封じられてから、暇つぶしに作ったものだ。作ったのはいいが、結局使わずじまいだったからな。ちょうどいい、貴様にくれてやる。『三流役者』のお前にはピッタリの武器だろう?」

 エヴァが渡した鉄扇は、普通の扇子とほとんど変わらないサイズの物で、誰もが目を奪われずにはいられないほどの、美しい『純白』の扇子だった。

「そして、篠崎葵。それは私からお前への課題である」

 エヴァは、茶々丸を隣に立たせると、身を乗り出してこちらの目を、覗きこむようにして見てくる。

「魔法の世界は、弱肉強食の世界。お前に通したいものがあるというなら、それを成すだけの力を示して見せろ。言っている事は分かるな?」

 その目の中には、狂気とも喜びが交じり合った、――まさしく狂喜と呼べる感情が色濃く見える。

「私が、元の力を完全に取り戻したその時に、私はお前の記憶を奪う。どれだけ勇があろうと、力の無い者に守れるもの等、何もないからだ」

 エヴァが語る言葉は、葵にも納得できた。それこそ、昨晩の時点で、葵は、既に記憶を消されてしまっていても文句が言えなかったからだ。

「力を身につけろ、篠崎葵。それが私から課す、お前への課題だ。力を手にし、この忌々しい呪いを解こうとする、私を止めて見せろ」
「また随分とどえらい課題を……」
「クックッ。嫌というならば、今この場で記憶を弄ってやってもいいぞ?」
「完全に台詞が悪役のそれだぞ」
「あぁ、なんせ『悪の魔法使い』だからな」

 不敵な笑みを見せるエヴァの言葉に、全てとは言わないが、本気の部分を感じ取った葵には、昨晩と同じく、既に選択肢等なかった。

「あぁ、分かったよエヴァ。その課題受けさせてもらう。俺は俺が持ちうる全てを尽くして、お前を止めさせてもらう」

 葵は、エヴァが自分の事をたまに『役者』と呼ぶことから、それらしく、顔を隠すように、エヴァから与えられた扇子をバッと開いて見せる。それが、どうにもエヴァにはツボだったらしく、上機嫌に笑いだした。

「フ、フハハハハ! いいだろう、いいだろう!! いつか戦うその日まで、雑事は私が抑え込んでやろう。貴様は、力を身につけることに専念するがいい。個人で身につける方法を探ろうが、誰かに教えを乞うかは自由だ。篠崎葵、やはりお前は悪くない!」

 エヴァは、茶々丸が注ぎ直したグラス二つを両手に持ち、片方をこちらに渡してくる。

「そんなに時間は掛けん。来月辺りに私は行動を起こすつもりだ。その時に、私を失望させない程度には強くなれ。ただの凡人ならば不可能な時間だが、私は貴様ならやらかしてくれると期待している」

 葵も、グラスを受け取り、宣誓する。

「随分と過剰な期待な気もしなくはないけど……」
「ふん、今朝のあの異常成長をみていなければ、時間をくれてやってもよかったがな。お前に時間を与えるのは、甘やかし以外の何物にもならんと判断したまでだ」
「そう? ならば、昨晩宣言した通りに、足掻かせてもらうよ。俺の記憶を、誰かの好きにされるっていうのはゾッとしない」

 例え、力が及ばなくても、足掻き続け、記憶を守る事を。

 エヴァと葵は、それ以上語らず、静かにグラスは互いに向けて軽く掲げて、中身を一気に飲み干した。

 それは、純粋な約束であり、宣戦布告でもあった。

 誇りを重んじる『真祖の吸血鬼』エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルと、記憶にこだわる『役者』篠崎葵の対決は、この日、この場所から始まった。

 かくして、舞台に役者が全員揃い、劇の一幕は開いていく。



≪コメント≫
とりあえずエヴァ編突入しました。
本編中で、現在の所は3月始めという設定です。原作では、ちょうどネギ君が正式な教師になるために課題を出されるちょっと前くらいのつもりです。

皆さんの、感想・ご指摘には本当に助けられています。自分の無知から来るミスなどの場合は
死ぬほど恥ずかしかったですがww これからも『タツミーをヒロインに~』をよろしくお願いします!


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