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No.33428の一覧
[0] 【チラ裏から移転】タツミーをヒロインにしてみるテスト【オリ主】[rikka](2018/03/23 03:15)
[1] Phase.1[rikka](2012/09/05 22:45)
[2] Phase.2[rikka](2012/09/06 22:26)
[3] Phase.3[rikka](2012/09/06 23:11)
[4] Phase.4[rikka](2012/09/06 23:06)
[5] Phase.5[rikka](2012/06/21 00:06)
[6] Phase.6[rikka](2012/06/24 18:30)
[7] Phase.7[rikka](2012/06/28 22:19)
[8] Phase.8[rikka](2012/06/25 22:15)
[9] Phase.9[rikka](2012/07/11 00:35)
[10] Phase.10[rikka](2012/08/26 11:19)
[11] Phase.11[rikka](2012/09/13 00:52)
[12] Phase.12[rikka](2012/07/16 17:42)
[13] Phase.13[rikka](2012/07/14 10:22)
[14] Phase.14[rikka](2012/08/26 20:18)
[15] Phase.15[rikka](2012/09/16 13:42)
[16] Phase.16[rikka](2012/09/29 23:57)
[17] Chapter 1 epilogue and next prologue[rikka](2012/10/08 21:27)
[18] 外伝1 彼と彼女の最初の事件―1[rikka](2012/10/11 00:08)
[19]      彼と彼女の最初の事件―2[rikka](2012/10/23 23:18)
[20]      彼と彼女の最初の事件―3[rikka](2012/10/27 00:13)
[21]      彼と彼女の最初の事件―4[rikka](2012/11/14 21:59)
[22]      彼と彼女の最初の事件―5[rikka](2013/04/21 11:18)
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[33428] Phase.13
Name: rikka◆1bdabaa2 ID:d675214d 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/07/14 10:22
 4月に入ってからあっという間に一週間が過ぎ、気が付いたら新学期が始まっていた。龍宮達は中学三年生に、葵は高校二年生へと進級して、日常を過ごしている。
 始業式に参加した後、時間が空いた葵は、とりあえず龍宮を迎えに本校女子中等部へと足を運んでいた。
 広い麻帆良学園の奥にある本校女子中等部は、数ある中等部の中では最も広い敷地を有しており、その自由な校風から、おそらく学園の中で最も活気がある学校の一つである。
 やはり女子校の中に男が入るのは気まずかったのか、――ついでに言えば、今日が身体測定の日だったということもある―― 少し中に入るのを躊躇っていた葵だが、ちょうど彼に声をかける人間がいた。

「あの……ここは女子中等部なんですが、何か御用ですか?」

 横から聞こえてきた警戒心を含んだ幼い声に「ん?」と思い、葵が声のしてきた方を向くと、そこには10歳くらいの、何やら背中に杖のような物を背負ってスーツを着こんでいる赤毛の少年が、首をかしげながら立っていた。






『Phase.13 始動』




「そうですか、龍宮さんとは一緒の部活で……そういえば、朝倉さんが龍宮さんには面白い相方がいるって言ってましたっけ。あれ、篠崎さんの事だったんですね?」

 子供先生―ネギ=スプリングフィールドに声をかけられた葵は彼に、龍宮を待っている旨を伝えた。するとネギは、自分の受け持っている生徒の話と言う事もあって、その話題に食い付いてきた。今では年相応の少年の笑顔を向けて、葵との会話を楽しんでいる。

(話には聞いていたけど、こうして目の前にするとやっぱり違和感が強いな。スーツが似合っているっていうのだけがある意味で救いか……)

 一方葵は、実際にネギ=スプリングフィールドと会ってみて、やはり『子供先生』が実在しているのだという事を再確認させられていた。正直、ここが麻帆良だという事を差し置いても、『労働基準法仕事しろ!』と叫びたい気持ちになっていた。

「朝倉の野郎、色々言いふらしてやがるな……。あっと、ネギ先生は龍宮とはあまり話した事が?」
「そうなんですよ。クラス内では静かな人ですし、中々話す機会もなくて……」

 確かに、ペラペラと喋りまくる龍宮というのは想像しにくい。だが同時に、そこまで寡黙な龍宮と言うのも、葵には想像出来なかった。
 葵から見た彼女は、なんだかんだで悪巧みにも付き合ってくれるノリの良い友人というイメージが強かった。

「いやいや、ネギ先生。龍宮はあれで結構話せる女ですよ? まぁ、もう少し大人しくなってくれたらもっと良いんですけど……」
「え、そうなんですか? 静かで大人しい人だと思ってたんですけど……」

 心の底からそう思っていたのだろう、ネギは何度かパチクリと瞬きをして、意外そうな顔を見せる。

「いやいや、今度機会があったら自分と龍宮の追いかけっこを見ておくといいですよ。アイツ全力で俺を捕まえにじゃなくて、全力で仕留めに来てますから」
「しとめ――?!!」
「以前に聞いた話だと、先生の2-A……今は3-Aか。そこの武道派四天王の一人に入ってるって聞いてますけど? ほら、古菲さんとか長瀬さんとかの」
「えぇっ!? あの人達と同じなんですか!?」
「えぇ、まぁ……。あ、でも一応――」
「あ、篠崎さん後ろ――」

 少々怯えさせてしまったネギに悪い気がして、『基本的には良い奴なんですよ』とフォローを続けるつもりだった葵の耳に入って来たのは、目の前のネギ先生が発した怯え声と、

「おや先輩。いい年して、先生とはいえ10歳の子供に一体何を吹き込んでいるのかな?」

 この場においては、死刑宣告にも等しい聞きなれた女の声だった。
 額に汗をにじませながら葵が振り向くと、そこには笑顔を張りつけている鬼がいた。

「あうあうあう……」

 傍目に見るといつも通りの龍宮なのだが、今の彼女から感じる圧迫感は凄まじいものがあった。ネギは、いつの間にか葵の後ろに隠れている。
 なんとなく、ネギの頭に手を置きながら葵は弁明を開始しようとする。

「まぁ待て、龍宮落ちついてくれ。とりあえず最後まで人の話を聞いてみる気はないか?」
「はっはっは。そういえば最近は弾ばっかりで、先輩も五百円玉が恋しくなってもおかしくなかったね。いやいや、気が利かない後輩ですまないね?」

 が、どうやら今の彼女は聞く耳は持っていないようだった。すでに彼女は、右手に隠すようにして500円玉を弄っている。
 
「まぁ、冗談はさておき――」

 そういって500円玉を一度袖に戻す龍宮だが、付き合いの深い葵からすれば、冗談で済ます気がないのは丸分かりであった。
 後で処刑される事を半ば覚悟しながら、葵はとりあえず真面目な話になりそうな事を雰囲気から察し、ネギの頭から手をどける。
 龍宮は、葵に意味ありげに目配せをしてから話を始める。

「先生、まき絵の様子はどうだった?」
「え、あ、はい。ただの……はい、ただの貧血だったそうです」
「? 具合の悪い生徒でも出たのか?」

 なにせ女子だ。身体測定の結果が気になって、食事を抜いてくる子もいるだろう。怪訝そうなネギの態度が少し気にはなったものの、そう考えた葵だったが、

「あぁ、すまない先輩。説明が抜けていたね。まき絵っていうのは私のクラスメートでね。どうやら、昨夜から『桜通り』で倒れていたらしい」
「……桜通りで?」

 葵にとっては、馴染みがあるどころの場所ではない。エヴァと初めて出会い、そして襲われた場所そのものである。そこで女子生徒が襲われたという事は――

(やはり動いているのか、エヴァの奴。昨晩動いたって事は、やっぱりまだ準備が整っていないのか……?)

 とりあえず、彼女と戦うのはもう少し先になりそうだという事を確信した葵は、この期にネギと親交を深めておくことに決める。ここでネギと接触したことにより、恐らく学園側は自分に対して警戒を強めるだろう。となると、エヴァとの戦いの前に学園側が自分に対して行動を起こす場合を考えなくてはならないと葵は考えた。その時に打てる手を増やさなければならないと……。それには、学園側の大事なゲストである彼と友好関係を持って置いて損はないだろう、と。
エヴァとの戦いにおいてもそうだ。彼女の狙いは、葵の目の前にいるこの少年の血。どこかで必ず、この少年とは関わることになる。利用させてもらうか、あるいは共闘する形になるだろう。やはり、ネギとの友好関係は必須だと葵は判断する
頭の中で打算を走らせ、それに対する自分への嫌悪感に折り合いをつけながら、彼はネギに気軽に話しかける。

「大変ですね、ネギ先生。特に女子だと、見かけを気にして食事を抜いたり減らしたりする子が多いですからね」
「え? あ、はい、そうですね!」

 何やら難しい顔で考え事をしていたネギだったが、葵が話しかけると少々戸惑い、その後すぐに、年相応の笑顔をニコッと浮かべて返事をしてきた。


―― この時点で葵は、良く分からない心の何かがへし折れそうになっていた。


(笑顔が……まぶしい……っ!)

 つい先ほどまで、目の前で笑顔を浮かべる少年の利用法やら、あるいは戦力・陽動としてどれくらい使えるかを考えていた葵は、その笑顔の前にたじたじになってしまった。

「じ、自分にはそういった知識がないので詳しい事は分かりませんが、保健医に一人知り合いがいるのでよかったら紹介しましょうか? 貧血についてでなくても、その保健医の方も女性ですから、女生徒についてなにか困った事があったら相談できると思いますけど?」

 気が付いたら、ネギに対して今自分が言えそうな事・役に立てそうな事が、口からペラペラと出ていた。

「本当ですか! 是非よろしくお願いします。僕もたまに、どう生徒と接していいか分からない時があるんです!!」

 一瞬、一気にまくしたててしまって警戒させたかと思った葵だったが、ネギはこちらが打算で近づいている等と微塵も思っていない様子であっさり葵の提案に乗って来た。
 どうやら、生徒の一人である龍宮の友人であるという事も手伝ってか、当初は感じていた葵に対しての警戒心は完全にどこかへ行ってしまったようだ。

「……………」
「どうしたんだい先輩? 今にも首を吊りそうな顔をして……ロープなら購買部で売っているよ?」
「た、龍宮さん何言ってるんですか!!? 篠崎さんもしっかりしてください。なんで頭抱えてうずくまってるんですか!!?」


(俺……子供って苦手かもしんない……)

 篠崎葵は、その日初めて自分の最大の弱点に気がついた。
 この男、褒められることもそうだったが、純粋な好意にもとことん弱かった。





◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇





 その後、ネギは用事があると言って葵達と別れた。龍宮は葵と二人っきりになった瞬間、先ほど袖に戻した500円玉を即座に嵐のごとく葵に叩きこみ、先ほどの制裁を完了させた。
 葵が回復するまでにしばしの時がかかったが、その後の葵の謝罪と弁明により和解した二人は近くのベンチに腰を下ろし、先ほどの件について話し合うことになった。

「やはりエヴァンジェリンは動いているみたいだね、先輩」
「多分、休みの間にもそこそこの数を襲ってるんだろう。まじでそろそろ来るか?」

 葵は、これまでの間に可能な限りエヴァンジェリンの情報を集めていたが、決定打となり得る情報は未だに手に入れていなかった。それが葵の中で焦りとなっている。先ほど頭の中で考えていたネギとの共闘というのも、その焦りから出た苦し紛れの案だった。確実性からはほど遠い、悪あがきのようなものだ。

「龍宮、学園側の動きは?」
「彼女に関してはまだなんとも……。あぁ、しかしここ最近は主流派―― 学園長派の先生達が会議を開いているようだよ?」
「ん? 学園長派だけなのか?」
「無論、全体での集まりが主にはなっているけど、数回彼らだけで集まっているね。多分全体の集まりの方は、大停電の日についての事だと思うけど……学園長派の動きはよく分からないな」

 大停電とは、年に2回行われる学園全体のメンテナンスのために行われるもので、その日の20:00~24:00までの間は、サブ電源を置いてある重要施設以外の全てがその機能を停止する事になる。
 龍宮の話によれば、学園を守護する結界も電力を使っているとのこと。サブ電源があるとはいえ所詮はサブ。その出力は僅かとはいえ低下し、そのために麻帆良防衛に、普段よりも多くの人員が割かれるということだが――

「いつもなら、この時期には既に私の方にも話が来ているはずなんだが……どういうわけか、今回はその依頼がなくてね」
「んー。魔法生徒、あるいは教師の数が増えたとか?」
「いや、そんな話は聞いていない。学園長のツテで、外部から人間を雇うんじゃないかって噂が流れている」
「……その噂は、誰から?」
「ある魔法生徒二人組でね。一応、情報源としては信頼できるんだが……」
「だが? ……あぁ、なるほど。二人とも主流派って事か?」

 葵の推理に、龍宮は首を縦に振って答える。

(ふむ、龍宮を動かさないのか、それとも動かせないのか……)

 葵が真っ先に考えついたのは、学園が龍宮を自分の護衛として残しているという可能性だった。実際、自分が尾行されているという事は龍宮の魔眼のお墨付きであるし、長瀬や古菲も薄々気づいていた。仮にも生徒を守るのが仕事の教師のトップである学園長が、それを放置するはずはない。
 だが、たった一人の学生のために大勢を危険にさらす可能性を選ぶとは思えない。龍宮はただの傭兵ではなく『凄腕』の傭兵、十分主力として数えられる戦力のはずだ。
 仮に先ほどの理由があったとしても、それ以外にもう一個何かないと理由としては弱い筈だ。

(主流派だけで集まっているってのも気になるな。そして、そのタイミングで外部の人間を呼び寄せる? それは味方だけでは学園を守る戦力には成りえないって言っているような……ん?)


 そこまで考えて、葵の中に一つの仮説が生まれた。


英雄の息子をあえて危機に陥るかもしれないような状況を作った意図。それが、派閥争いを激化させるための餌だとしたら? そしてその英雄の息子を危機に追いやる人間が学園長派と――学園長と繋がっている。さらに、人手不足を宣言するかのような噂に一派閥での集まりを隠していない。

 頭の中で自分になりに答えを出し、まとめあげた葵は……




――その顔に凄絶な笑みを浮かべた。




「龍宮」
「ん? どうしたんだい、ものすごく悪い顔になっているよ?」
「そうか? まぁ、いいや。今お前に一つ……ひょっとしたら後で更にもう一つ仕事を頼みたいんだが、報酬の方ってのはどれくらい用意すればいい?」

 仕事を頼みたい。そう言った葵に、龍宮は面白い玩具を見つけたというような笑みを浮かべる。
 彼女は、勿体ぶるように顎に手を当てて考える素振りを見せ、

「ふむ、仕事の内容にもよるがそうだな……今なら初回という事で、特別に必要経費に加えて食堂棟の餡蜜一杯というのはどうだい? 良心的だろう?」
「なるほど、確かに……。OK、それで頼むよ」
「あぁ、これで契約成立だね。それで先輩。まず最初の仕事は?」
「なに、最初はただ付いてきてくれるだけでいいさ。それだけで十分」

 そう言うと葵はベンチから立ち上がり、静かに上を――麻帆良本校の校舎を見上げる。



「今晩、虎児を得るために虎穴に入る。力を貸してくれ」





◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇





 エヴァンジェリンはその日の夜、少し疲れた体をとある校舎の屋上で冷やしながら、上機嫌と不機嫌が半々交じった様な複雑な感情を持て余していた。
 彼女は、ここ最近裏での色々とした工作に昼夜を問わず動いていたせいで、肝心の魔力回復が少々遅れ気味になっていた。その遅れを取り戻すためにも、二夜連続で桜通りを通ろうとする魔力の豊富な女子生徒を襲う事を彼女は計画したのだ。
 彼女が待ち伏せていた所を通りかかったのは、同じクラスの女子生徒――宮崎のどかという、図書委員会に所属する大人しい女子生徒だった。いずれネギには、こちらの行動に気付いてもらわないと悪いために、あえて二夜連続でクラスメイトを襲っていたのだが……。

 結論から言えば、ネギ=スプリングフィールドが気付くのはとても早かった。宮崎のどかの襲撃に成功し、気を失っている彼女から血を吸おうとしていた矢先にエヴァは彼に妨害された。
自分を捕まえるつもりで放ったのであろうネギの『魔法の矢(サギタ・マギカ)』を、軽く払いのけてやるつもりだったがレジストしきれず、自分が負傷してしまった。
 まさか自分の血を見る事になるとは、彼女自身思ってみなかった。10歳にして恐ろしい程の魔力を実感したし、凄まじい才能も感じる。十分に評価できる逸材だったことが、彼女の気分を高揚させる。
だが、未だ自分を倒すほどではないという事も同時に確信できた。

 事実その後、彼は従者である茶々丸にいいようにしてやられ、エヴァンジェリンはその血を僅かとはいえ飲む事が出来た。その直後に、なぜかその場に来たクラスメート――神楽坂明日菜という女子生徒に、やはりなぜか魔法障壁を破られて蹴り倒されたというオチこそつくが……。

(やはり、膨大な魔力を秘めているだけはある……。ほんの少量で魔力も随分と回復した、が――)

 どうしても、彼女には不安に思う事があった。すなわち、『ネギ=スプリングフィールドの血だけで呪いが本当に解けるのか?』ということだ。

(息子というからには、他人の血が混じっているのは当然だが……。一体誰の血が混じった? どうにもナギの感じがせん)

 血から強い魔力は感じるのだが、それからスプリングフィールドの血筋というものを――この身を縛る呪いと、その感覚が近くなくてはならないはずのそれをほとんど感じなかった。
 仮に解けるとしても、これでは先ほど脅しに使った『干からびるまで啜ってやる』という言葉を、恐らくは本当に実行しなければならないだろう。

(あるいは、血を飲むのではなく保存してそれを解析するか? いずれにせよ、計画はやはりじじぃの言う方に変更か……。くそっ! あのじじぃめ、薄々分かっていたな!!?)

 内心歯噛みしながら、これからの計画の方に考えを移す。今の彼女にとって、己の身を縛る呪いの事はもはや二の次、三の次だった。
 今考えるべきは、自らが進めていたもう一つの計画。そして――

「――篠崎葵」

 ネギ=スプリングフィールドとは別に、自分が戦う様に仕向けた一人の男。恐らくは今も、自分を相手に戦うために己を鍛えるか、あるいは策を練っているであろう男を思い浮かべた。
 次は何を見せてくれるのか。今何をしているのか。どれほど強くなったのか。果たして自分を止める事が―― 打ち破る事が出来るのか。

 呪いが解けないかもしれないという不安でささくれ立った彼女の心を静めたのは、篠崎葵という男へ好奇心だった。
 間違いなく自分はおろか、魔法生徒の大半には及ばない――本人もそれを理解しているはずなのに、自分と戦う事を決めた男。彼と戦うであろうその日の事を考えると、自然と笑みが浮かんでくる。そして――

「お前という男は……桜通りで初めて会った時と言い、狙い澄ましたかのような時に現れるな――葵」
「おっと、お邪魔だったかな? てか、なんで下着だけなんだよ服着ろ」

 エヴァの後ろ――その校舎の屋上の入り口には、ちょうど彼女が思い浮かべていた男が静かに立っていた。

「ふん、坊やに少々してやられたのさ。それに、少々思う事があってな……こうしてここで身体を休めている。なんだ、ここで決着を付ける気か?」
「はっは、今はまだその時じゃないよ。待ちくたびれてるっていうのは確かにあったけどね」

 葵は何事もないようにエヴァが腰掛けている所まで歩き、同じように腰を降ろした。

「しかし、ネギ先生とやりあったのか。あの子は強かった?」
「ふん、才能も魔力も確かに一級品だが……。私には及ばんな」
「10歳児に勝った事を自信満々に言うなよ600歳児」
「貴様、くびり殺すぞっ?!」
「あっはっは!」

 彼女は軽い殺意を葵に対して向けたが、彼はそれを軽く受け流した。その後も何か言いたそうに葵を睨むエヴァだったが、途中で疲れたように溜息を一つ付くと、再び彼女は視線を夜景に向ける。

「ったく、どうも調子が狂うな……。たった一か月でよくもまぁここまで変わったものだ」
「変わったか?」
「少なくとも、私の殺意を軽く受け流すなど一月前に貴様には出来なかっただろうさ。耐えるだけで精一杯だった」
「それでも、今のはかなり軽い方だったろ? 桜通りの時の方が怖かったさ」

 実の所、桜通りの時よりも重い殺意を放っていたのだが、どうやら葵はそれには気がつかなかったようだ。よほど桜通りの印象が強かったのだろうか。

「……強くなったな、篠崎葵。だが、まだまだ私にはどう背伸びをしても届かんぞ?」
「ならば、どうにかして届かせるのが俺だよ。で、肝心の魔力は回復したのか?」
「……あぁ、随分と回復した。最も、呪いをかけられる前には遠く及ばんがな」

 葵は、エヴァの言葉に「なるほど」とうなずくと、いつの間にか抜いていた鉄扇を手元で置いて、独り言を紡ぐかのように口を開いた。

「ついさっき、とある人達の会議を『たまたま』聞いてしまったんだがな?」

 彼はエヴァの方を見ずに、『たまたま』を強調して言葉を紡ぐ。

「この学校の結界には、どうやら通常の結界とは違う物が一緒に組み込まれているらしくてな、そのおかげで管理が無茶苦茶大変らしい」

 エヴァは、急に語りだした葵に眉を顰めるが、その話題に感じるものがあったのか黙って聞いている。

「さて、その結界だけどな。元々は高位魔族の結界内での行動を制限する物らしいんだが、15年前に大改修を行ったらしいって話なんだけど――どう思う?」
「……貴様」

 ここで初めて、葵はエヴァの方を向いた。その顔には、まるで悪戯が成功して喜んでいる少年のような笑顔が浮かんでいた。
 15年前というのは、エヴァがこの学園に来たちょうどその時だった。その時に結界に改修が行われたのだとしたら、それはどう考えても彼女に対応するためとしか思えなかった。
 
「なぜ、それを私に教えた? その話が本当だとしたら、お前はますます勝ちから遠ざかるのだぞ?」
「さぁ、どうかな? 単純に全力で戦いと思っているだけかもしれないし、策を張り巡らせているかもしれない。ひょっとしたら、何も考えていないかもしれない。エヴァはどれだと思う?」

 さぁ、正解にたどり着いて見せろと言わんばかりにおどけて見せる葵に見て、エヴァは確信する。
 何が狙いかは分からない。だが、恐らく目の前の男がもたらした情報は本当の事なのだと。

そして篠崎葵は自分に――この『闇の福音』に勝つつもりなのだと、




「ク……。クック……クッハッハッハ! いいだろう、いいだろう! まさかこちらから突きつけたはずの挑戦を改めて突きつけられるとは思わなかったが……貴様のその挑戦! 宣戦布告! 確かに受け取ったぞ!!」

 エヴァは軽く魔力を込めて一気に飛び上がり、近場のフェンスの上に降り立ち彼を見下ろす。
 そのエヴァに対して葵は、戦う誓いを――純白の鉄扇を広げ、掲げて見せる。

「戦う日は、一週間後の大停電。お前はそう言いたいのだな?」

 もし、結界が自分の魔力を抑えているとなると、それを破るには全体的に警備が甘くなる大停電の時以外にない。先ほどの情報は、同時に決戦の日時を指し示しているとエヴァは推測した。それに葵は頷いて答える。

「ついでに言うなら、俺以外にゲストが来るかもしれんよ?」
「ほう? お前が巻き込む人間……まさか、ネギ=スプリングフィールドか? クックック、むしろ望むところだと言わせてもらおう。あの坊やの血と、貴様の記憶! 全て頂かせてもらうとしよう!!」

 
 実の所、今の彼女にネギへの興味はあっても、血に対する興味は大分薄れているのだが、葵はそれを知らない。彼女は、葵への挑発のために、まだ血を狙っているかのような素振りを見せる。

 そのままエヴァは静かに浮かび上がり、踵を返す。
「言っておくが、私には茶々丸と言う従者がいるぞ? なんならさっきから隠れて私を狙っている奴にも協力を頼むといい! 例え貴様がネギ=スプリングフィールドと共に戦うとしても、私の……私たちの有利は揺らがんぞ!!」

 そう叫び終えると同時に、彼女は空を飛んで夜の闇の中に消えていった。
 葵はそれを見送り、彼女の姿が見えなくなったのを確認してから静かにため息をつく。

「まったく、『先ほどの件』といい今の事といい……貴方の依頼は中々に怖いな」

 それと同時に、物陰から銃を構えていた龍宮が姿を現す。

「まさか、さっきの今で闇の福音に相対するなんて……先輩も肝が太いね」
「今じゃないと意味がなかったからさ。最も、既にネギ先生が襲われて血を吸われていたっていうのが予想外だったけど」

 もう少し早く動けばよかったかな? と呟きながら、葵は手元の鉄扇を閉じて腰に差し、再びその場に座り込む。龍宮もその横に座り込み。

「一週間後か……長いようで短いね」
「とりあえず、エヴァとの戦いについては打てる手は全て打った。――あ、でもまだネギ先生ともう一回接触しなきゃいけないな。龍宮、適当なタイミング見つけたら携帯で呼び出してくれ。そうだな……戦う日の前日でいい」
「前日? もっと早くなくて大丈夫かい?」
「前日でいい。長く考えられると、こちらの予想外の行動をとられる可能性がある」

 葵がそう言うと、龍宮は複雑な表情で何事かを考え始める。葵は、それが予想の範囲内だったのだろう。申し訳なさそうな顔で、彼女に謝る。

「すまない龍宮。結局、俺は子供を利用することになった」

 葵は、彼女と行動を共にしている内に、彼女が子供をとても大事にしていると言う事を理解していた。

「いや……。それに今回は、結果としてネギ先生の安全を確保するための行動でもある。納得できない所があるというのは否定しないが、理解できない程じゃない。こちらこそすまない、先輩。先輩がどういう思いでこの策を取ったかは理解しているつもりだったんだが……」

 龍宮は、軽く彼に頭を下げた後に、頭の中から何かを追いだすように軽く首を振る。長く綺麗な黒髪が軽く左右に揺れ、それが治まるころには既にいつもの笑みだった。

「さて、神社に戻ろうか。明日からはまた訓練だ。古や楓も、先輩と戦いたがっている」
「それは構わんが、3人同時はもう勘弁してくれ。あ、最悪エヴァと茶々丸さんを同時に相手して戦う場面が出るかもしれんから、やっぱやってもいいぞ。むしろお願いします」
「……先輩、本気で人間を止める気かい?」




◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 そして日は瞬く間に流れ、一週間が経過した。


2003年 4月15日   ――待ちに待った決戦の幕が開く。









≪コメント≫

 な、難産な上にスランプ気味というか……当初の予定でしたらこの話、春休み最後の日に当る、近衛木乃香と一緒に逃走しているネギ先生と葵が遭遇するという話だったのですが、エヴァ編までが長くなる上に、木乃香が思った以上に書くのが難しいキャラだったために書き直しをしました。期間がだいぶ空いてしまい、皆さん大変申し訳ございませんでした。
 木乃香は喋り方も含めてもう一度コミックスで復習しておかないといけないキャラですねorz

 また、この回から独自解釈が増えていきます。どうか御注意の程を……
 てか、エヴァってなんだかんだでかなりネギの血を吸ってましたよね? いくら魔力を消費したとはいえ、その気になればすぐに呪い解けたんじゃなかろうかと思うのは作者だけでしょうか?


 皆さん、誤字の報告から提案、ご指摘まで本当にありがとうございます。
 これからもございましたら、厳しいお言葉であろうと真摯に受け止め、より良作に近づくために努力したいと思います。
それでは、まだ次回もよろしくお願いいたします!!


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