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No.33428の一覧
[0] 【チラ裏から移転】タツミーをヒロインにしてみるテスト【オリ主】[rikka](2018/03/23 03:15)
[1] Phase.1[rikka](2012/09/05 22:45)
[2] Phase.2[rikka](2012/09/06 22:26)
[3] Phase.3[rikka](2012/09/06 23:11)
[4] Phase.4[rikka](2012/09/06 23:06)
[5] Phase.5[rikka](2012/06/21 00:06)
[6] Phase.6[rikka](2012/06/24 18:30)
[7] Phase.7[rikka](2012/06/28 22:19)
[8] Phase.8[rikka](2012/06/25 22:15)
[9] Phase.9[rikka](2012/07/11 00:35)
[10] Phase.10[rikka](2012/08/26 11:19)
[11] Phase.11[rikka](2012/09/13 00:52)
[12] Phase.12[rikka](2012/07/16 17:42)
[13] Phase.13[rikka](2012/07/14 10:22)
[14] Phase.14[rikka](2012/08/26 20:18)
[15] Phase.15[rikka](2012/09/16 13:42)
[16] Phase.16[rikka](2012/09/29 23:57)
[17] Chapter 1 epilogue and next prologue[rikka](2012/10/08 21:27)
[18] 外伝1 彼と彼女の最初の事件―1[rikka](2012/10/11 00:08)
[19]      彼と彼女の最初の事件―2[rikka](2012/10/23 23:18)
[20]      彼と彼女の最初の事件―3[rikka](2012/10/27 00:13)
[21]      彼と彼女の最初の事件―4[rikka](2012/11/14 21:59)
[22]      彼と彼女の最初の事件―5[rikka](2013/04/21 11:18)
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[33428] Phase.12
Name: rikka◆1bdabaa2 ID:d675214d 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/07/16 17:42
―― 自分は一体、何をしているのだろうか……



 ある教師から、自分が守護すべき少女――近衛木乃香を狙っている、関西呪術協会強硬派の息がかかっている可能性のある人間がいる。そう聞かされた神鳴流剣士―― 桜咲刹那は、その日からずっとその男―― 篠崎葵を見張っていた。どうやらルームメイトの龍宮真名は、それこそ彼に対して多大な信頼を置いているようで、彼を尾行・監視すると言った時には軽く口論にもなったが、それでも刹那は自分を止められなかった。
 自分でも、冷静さを欠いているとは感じている。だが、もしここで動かなかったら、自分は近衛木乃香を守るという役割を放棄したようなものだ。少なくとも彼女には、その様に感じられた。

 だがそれから数日、彼を監視していくうちに刹那は、自分のしている事が本当に守る事につながるのか分からなくなってしまった。事情は知らないが、ひたすらに己を鍛えようとしている彼と、それを厳しく監視しながら導いている龍宮の姿を見ていると、どうしても彼が危険人物には思えなくなってきた。むしろ、たまに意見を言う事はあっても、自分より年下の龍宮や、途中から加わった古や長瀬の言葉を素直に聞き入れ、更に自分の体を苛め抜く姿は、神鳴流剣術を覚えようと必死だった頃の自分を思い出させ、親近感すら覚えていた。
 刹那に彼の事を教えた教師は、彼が高度な洗脳を受けている可能性があると言っていたが、どうやっても戻らない記憶喪失だという一点以外は、彼からそれを匂わす雰囲気は一切見つからない。
 自分の記憶がない事に、苦悩しながらもそれを表に出そうとせず、苦悩しているただの少年の姿しか見えなかった。
 
(ひょっとしたら自分は……ただ単に、お嬢様の傍から離れる理由が欲しかっただけではないのか?)

 昔、大切な幼馴染『だった』近衛木乃香と約束した、守るという言葉。でも、刹那はそれを守れなかった事を悔いている。

 守りたい。友達としてまた傍にいたい。でも守れない。また守れない。距離を置かなきゃ。離れなきゃ。でも傍にいないと守れない。だけど――


 ただ純粋に、大切な人を守りたいと願い続けた少女が、ずっと繰り返してきた終わりのない思考は、少しずつ……確実に……彼女の心を蝕んでいた。







『Phase.12 準備完了』




 修了式も無事に終え、春休みへと入った学生生活。葵と龍宮は、私用があるためにという理由で、バイアスロン部に春休みの間の休暇を申し出ていた。
 これまでの、日常生活を兼ねながらの訓練ではなく、自由に一日を使えるようになったからには、これまで以上に効率よく時間を使うべきだという龍宮の意見により、葵達4人は、かつて龍宮との逃走劇にも使ったあの山に籠っていた。
 
「やはり、いつもと違う環境で訓練すると効率が上がるな。大した成長だ……」
「そうアルナ。今日のご飯は豪勢アルヨ」

 既に、春休みに入ってから一週間と三日ほど経過している。その間、葵に課している事は、山の走り込みに、長時間に渡る鉄扇を使った演武に型の練習、それが終わればまた山を一周走り込ませ、その後は3人の内の誰か一人と戦うという事を繰り返していた。食料調達の際には、場合によっては獣を狩らせたりなどしていた。
 そして今、龍宮と古の目の前には、長瀬の援護があったとはいえ、少々大きめの熊を倒してみせた葵の姿があった。さすがに疲れているのか少々息が荒いが、身体のバランスは全く揺らいでおらず、走り込みの成果がここに出ていた。

「お見事でござる。投擲術に鉄扇を用いた打撃術、加えて一部とはいえ自らの拳を用いた打撃も大幅に上達したでござるな。拙者も驚いたでござるよ」
「俺は、いきなり熊叩き起して『戦って来い』とか言い出したお前らにびっくりしたよ!」
「はっはっは。今の葵殿ならば、必ずや出来ると思ったからでござるよ。それにこういう機会でもなければ、文字通りの意味で命を掛けた戦いというのは実感できんでござる」
「ぐ……っ」

 葵が狩りを始めた当初は、やはり傷つける事をためらってしまい、中々上手くいかなかった。そもそも、龍宮達が狩りをさせる理由も、そこらの意識改革のためだった。いざという時に、攻撃をためらう様では戦う以前の問題だと考えたからだ。
 結果、投擲術の訓練も兼ねて鳥や魚を、長瀬が貸したクナイを使って仕留められるようになり、少々素早い、小型の野生動物も軽く狩れるようになった。
 葵は、殺すことに慣れていく自分に少し違和感を覚えたようだが、戦場育ちの龍宮からすれば、寧ろ慣れていくのが早い葵の柔軟性は、好ましいものだった。
 そして今、命をかけた戦いに、恐怖を表に出さずに相手に飛び込んでいく葵の姿に、龍宮は準備が整いつつある事を実感していた。

「はぁ……まぁいいさ。とりあえず血抜きするぞ。今日はどうする?」
「そうでござるなぁ。真名、何か夕餉に希望は?」

 今日の食事はどうするのか、楓が真名に尋ねると、真名は何やら少し考え

「ふむ……今日は少し肌寒くなりそうだ。鍋でどうだろう、先輩?」
「ん。二人もそれでいいか?」
「問題ないでござるよ。ならば拙者と真名で、山菜でも取ってくるか」
「ワタシもいいアルヨ! 捌くの手伝うアル!」

 龍宮の提案に、二人も肯定したのを見ながら、葵はナイフを構えて、自分の手で殺した熊へと足を進めた。




◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




 あれからしばらく経って、龍宮と長瀬は、それぞれが持って行ったカゴに山菜を詰めて戻ってきた。葵と古が、既に準備を整えていた事もあって、そのまま鍋を囲んで食事をしながらの報告会となった。

「さて、とりあえず今日までで、葵先輩の下地は完璧に揃ったと見ていいかな?」
 
 龍宮の言葉に、古が頷きながら肯定する。

「少なくとも、今のセンパイと戦うのは楽しいアルヨ。春休み前に比べたら段違いアル」
「そうでござるな。ここまで来たら、後は反復して身体を馴染ませていくしかないと思うでござるよ。問題は、相手が指定した時が一体いつなのか」

 長瀬もまた、肯定の言葉を返すが、そこには少し不安が交じっていた。

「四月には動き出す。そう言ってはいたが……実際にいつ頃になるのかは……」
「私もそこは聞いていないな。一応、この春休み中に1%でも勝ち目が出るように鍛え上げたつもりだが……」

 葵と龍宮は、二人して首をひねる。葵の予想では、正直そろそろ何らかの通達があると思っていたし、龍宮もまた、彼女の性格からして、宣戦布告は必ずあるものだと考えていた。

「分からない事を考えていても仕方がないアルヨ。それよりは一回でも多くセンパイは経験を積んだ方がいいアル」
「……まぁ、その通りなんだがね」

 葵が気にしているのは、あのエヴァンジェリンが、4月目前にしてこちらにコンタクトを取らないのが気になっていた。準備が出来たらいつでも襲って来いと言う意味かとも思ったが、それにしては最後に会った会談の時の別れ方は呆気なさすぎる。そのつもりならば、恐らく彼女から告げていたはずだと。

(なんらかの理由でまだ動けない? 血が足りないとかか? いやいや、それくらいの逆算でエヴァが間違いを犯すはずがない。となると他の要因……子供先生か、あるいは他の要因が?)

「……話は変わるが、そっちの担任の子供先生って最近どんな感じなんだい? 図書館島の地下に閉じ込められた時の話までは聞いたけど?」
「どう……と言われても……いつもと変わらないでござるな」

 少し何かを思い出すように頭を捻る長瀬だが、やはりこれといって思いつくことはなかったのか、そう答える。

「へぇ、変わりはないか。最近、金髪の……えぇと10歳くらいの女の子が訪ねてきたりしなかったかい? 身長は多分……これくらいかな?」

 身振り手振りで、エヴァンジェリンの様子を表す葵に、3人は揃って首を傾げる。


「それって……エヴァのことアルカ?」
「そう、エヴァの…………なんとな?」


 あっさりと出てきた言葉に、一瞬思考がフリーズする葵。その様子に、長瀬も不自然なものを見る目で、

「多分でござるが、葵殿が言っている少女と言うのは、エヴァンジェリン殿の事では?」
「……えぇと……。その、エヴァンジェリンっていう娘は……」
「ワタシ達のクラスメートアル!」

 ギ……ギ……ギ……。という擬音が聞こえてきそうな、ゆっくりとした動作で龍宮を見る葵。
 龍宮は、顎に手を当てて何やら一生懸命考えて、というより思い返して、




―― こっそり静かに、パンッと顔の前で手を合わせて、頭を軽く下げた。




(このヤロ……いっっちばん大事な事を伝えるの忘れてやがったな!!)

 思わずジト目で龍宮を睨みそうになるが、今の会話を怪訝に思われたらまずい。咄嗟に、葵は場をごまかすために口を開く

「クラスメートって言うんなら、違う人だね。イギリスの方から、ネギ先生を探しに来たっていう人がいてさ?」

 頭の中に入っている、子供先生のデータをひっくり返しながら、その場でカバーストーリーをでっち上げる。

「前に女子中等部の場所を教えてあったんだけど、会えたかどうか気になってね。いや、気にしなくていいよ」
「……なるほど、そういう事でござったか」

 なにやら納得してくれた……のかは分からないが、引きさがってくれた長瀬達を見て、密かに安堵する葵。それと同時に、頭の中に疑問が浮かび上がってくる。

(あからさまに敵対しそうな因縁のある吸血鬼がいるクラスに、なぜ子供先生を担任として放り込んだ?)

 まだまだ、自分の知らない何かがある事を、葵ははっきりと感じた。
 だが、それについて考える前に、葵にはやらねばならない事があった。

「よし、飯も終わったし、長瀬と古は風呂の用意してもらってていいか? 俺はちょっと腹ごなしの運動に模擬戦をやろうと思うんだが……なぁ、龍宮?」

 人の記憶が掛かっている一大事に、素で大ポカをやらかしてくれた女への制裁という仕事が残っていた。

「ハ、ハハ……ちょっと待ってくれないか先輩――」
「む、そうでござるな。あいわかった、準備は拙者と古でしておくでござるよ」
「しっかり動いて汗を流すといいアル」

 龍宮が弁明しようとしている内に、長瀬と古は風呂の準備に行ってしまう。残されたのは、少し引きつった笑みを浮かべている龍宮と、目が据わった葵だけだった。

「待ってくれ先輩。決してふざけていた訳じゃなくてだな」
「いやいや、大丈夫。分かっているから。信じてるから」
「欠片も私を信じていない目だよ。鏡を見てきたらどうかな?」
「ハッハッハ」

 これまでにも、何度か模擬戦を行ってきた二人だが、龍宮がそこはかとなく及び腰になったのは、これが初めてである。
 最も、今回は龍宮が自分の非を強く感じており、強気に出れないという事も多々あるのだが……。



「さて、龍宮。俺は命に代えてでも、今のお前に一発くれてやらにゃならん。わかるな? わかったな? よし、覚悟しろやぁぁぁぁ――――っ!!!」
「ちょっと…ま、先輩!?」

 かくして、特訓を初めて以来、何度も戦ってきた二人の渾身にして最大の戦いが幕を開けた。
 この戦い、実に一時間近くに渡る激戦の末、結局は龍宮が勝ったが、それでも無傷では済まなかった。彼女は先に風呂に入っていた二人に、何があったのか問われた際に、ポツリとこう答えた。

「先輩を相手にして、敗北を覚悟したのは、初めてだった」

 なお、この話を聞いた古菲と長瀬が、後に葵がボロボロになるまで模擬戦を強要するのは、完全に余談である。




◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「そうか、龍宮君が彼に訓練を……」
 
 麻帆良本校女子中等部の一室 ―― 学園長室では、一人の老人が、メガネをかけた長身の男からの報告に耳を傾けている。

「どうやら、彼女が彼をこちら側に呼び込んだようです。詳細は分かりませんが、彼女は彼と戦う事を決めているようでして……」
「ふむ……あのエヴァンジェリンが珍しく儂に取引など持ちかけるから、なにかあるとは思っていたが……そこまで彼に固執する理由は一体―― いや、恐らくは好奇心か」

 老人―― この麻帆良学園の学園長、近衛近右衛門は、深いため息をつくやいなや手元に置いてある書類を開く。その書類の表紙には『特別調査資料(帯出禁止) 麻帆良国際大学付属高等学校1-C 出席番号18番 篠崎 葵』と書かれていた。

「……僕には、分かりません。彼をこちら側に引きこむ必要などないでしょう? 彼は既にこちら側の事情に巻き込まれて、かけがえのないものを失くしています。それをどうして彼女は……エヴァは――!」
「巻き込まれて、なおかつ失っているからこそ、彼には立ち向かう必要があると思ったのかもしれん。なんにせよ、もはや事態は動き出しておるよ、タカミチ君」

 その言葉に、先ほどまでどこか感情めいていた若い男――タカミチ=T=高畑は、冷静さを取り戻す。
 手に持っていた手帳をパラパラとめくり、自分が調べ上げた事、部下や同僚が調べて、確認を取った事項を報告していく。

「一部の教師が、既に篠崎君に対して監視を……同時に2-Aの一部生徒にも張りついているようです。その、特に……」
「分かっておる。木乃香は、儂にとっても急所でもある。手は打ってあるとはいえ、監視はかなり厳しいものになっておるじゃろうて」

 学園長は、机に置いてある少女の写真――自分の孫娘の写真に目をやる。写真の中の彼女は、和服に身を包んで微笑んでいる。彼にとっては、それこそ文字通り宝物に等しいものだ。

「お見合いだのなんだのにかこつけて、少しでもあの子を手元に置いておきたいのじゃが……。返ってこのかには嫌われておるようじゃのう」
「その必要はもうすぐ無くなりますよ、学園長。この一件には、エヴァもかなり精力的に動いているようです」
「ふむ……。彼女の周りをうろつく者まで現れておるらしいからのう。馬鹿者どもめ、封印されておるからといって、彼女が我々の手に負える存在になった訳ではあるまいに」

 学園長は軽く笑うと、写真の中で、木乃香の横に一緒に写っている少女の方に目をやる。

「しかし、一つだけ上手く出し抜かれてしまったのぅ。刹那君を木乃香から切り離すとは……」
「篠崎君に張り付いているようですね。これで、彼らからしたら厄介な生徒は全て一塊りに集められてしまった。一応、刀子先生が、密かに木乃香君の護衛についていますが……」

 それを聞いた学園長は、どこか不機嫌な声になりながらボヤく。

「婿殿も、このような肝心な問題をなぜ放っておいたのか。刹那君が木乃香に対して負い目を感じているのは一目瞭然。向こうにいる間に、多少強引にでも、それを正してやるべきじゃった」

 木乃香の父であり、義理の息子でもある男の顔を思い浮かべながら、近右衛門は何度目になるか分からないため息をつく。

「タカミチ君。刹那君の説得と、木乃香との橋渡しを頼んでもいいかのう? 今は大丈夫とはいえ、このままではいざという時に刹那君が動けなくなる可能性がある。既に、利用されているような状況じゃからの」

 学園長の依頼に、タカミチは頷きはするが、その顔には不安といら立ちが隠せない。

「僕に出来るでしょうか。彼女は少々意固地な所がありますし……」
「ネギ君を挟んでもいい。とにかく、あの二人のすれ違いは、けして放置できる問題ではない。いずれは関西の一角を担う二人じゃ」
「わかりました。最善を尽くします。……篠崎君の方はどうしますか?」
「今は放っておいて構わん」

 学園長は、篠崎葵の書類の上に、3枚の写真を――龍宮真名、長瀬楓、古菲の顔写真を重ねる。彼らにとっては、敵対している可能性もある教師達よりは、よっぽど信頼できる人間だった。

「龍宮真名という強力なガードが着いている上に、くの一の楓君と、表側とはいえ侮れん菲君が彼と共にいる。加えて、寮から出て行動を共にしているのが幸いしたわい。もし、篠崎君が未だに寮住まいであったら、一人でいる所を襲われていたかもしれん」

 タカミチは、学園長の疲れたような、安堵したような声に肯定を返す。
 今、彼の頭の中にあるのは、学園内で起こっている無駄な争いを、如何に一般人を巻き込まずに解決するか。この一つだけだった――

(さて……エヴァに篠崎君、それに反学園長派閥に僕達……一体これからどうなることやら……)





◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇





「本当にすまなかった先輩。てっきり既に伝えていたとばかり思っていたんだ」
 
 全員入浴を済ませ、古と長瀬は既にテントの中で眠りについていた。龍宮と葵は、テント前のたき火の前で、学園に戻ってからの話をしている。

「町に戻った時に昼飯一回奢れ。それで勘弁してやる」
「ふぅ……。分かったよ、先輩。それで許してもらえるなら安いものだ」
「とにかく確認するが、エヴァンジェリンはお前のクラスメートで、つまりは例の子供先生はアイツの担任って事でいいんだな?」

 葵の確認の言葉に龍宮は頷く。それを見た葵は、今までの情報と照らし合わせ、おかしい所がないか確認していく。

「学園側がエヴァとネギ先生……じゃない、スプリングフィールドの間に因縁がない事を知らないなんてありえない。つまり、エヴァの存在は学園公認ってことか」
「あぁ、実際、彼女は学園結界ともリンクしている。そのため、学園への侵入者に対しては学園長と同じくらい察知が早いんだ」

 そこまで聞いて、葵は再び考えを巡らす。エヴァとの会談の時から、彼女が学園との間に太いパイプがあることは匂わせていたが、ネギ先生――英雄の息子に担任を受け持たせる程とは思っていなかった。恐らくは、この学園の主流派に属しているとみて間違いないだろう。
 その主流派に属している――ある意味で保護下に置かれている彼女が、主流派にとって大事なゲストである英雄の息子を襲う。その事実が、どうにも葵の中で引っかかっていた。

(エヴァの話からすると、学園側は、エヴァの行動をあの時点ではまだ知らなかったはずだ。少なくともその時までは、学園側からは一定の信頼を受けていたってことになる。力を取り戻せる可能性が出てきたから、裏切ってでもチャンスを物にしようってことか?)

 それは、なんというか彼女らしくない。と、葵は考える。

(エヴァが、万が一失敗した時のサブプランを用意していないはずがない。気まぐれな所はあるが、少なくともアイツは常に自分に利が出るように動くはずだ。そのエヴァが最強の吸血鬼とはいえ、呪いを破ってすぐに学園と敵対なんて道を考えるか? 力があるからこそ、無駄な争いは避けるはずだ。それでも動きを見せているということは、つまり……血を吸って、呪いを解く事は学園にとっても既定路線? あるいは、血を吸っても呪いが解けないと確信している?)

「駄目だ。考える事が多すぎて思考があちこちに飛んでしまう」

 目の前で揺れる炎を見つめながら、ため息をつく葵に、龍宮が声をかける。

「今考えているのは、エヴァンジェリンと学園の関係かい?」
「あぁ、龍宮は何か知らないか?」

 僅かに期待を込めて、葵が尋ねるが、龍宮は首を横に振り、

「残念だけど、私の立場は学園所属ではなく、依頼を受けてここにいる外部の傭兵だからね。詳しい話は聞いていないんだ」
「そうか……。普段のエヴァの様子とかは分かるか?」
「普段か……。そうだね、四葉五月とはそこそこに交友があるかな? ほら、先月末だが、私が連れて行った中華料理の店があっただろう? あそこの料理人だよ」
「あぁ、あの肉まんがやけに美味かった」

 龍宮の説明に、以前彼女に紹介された店を思い出した。あれから色々あって、結局一度も行けていないが、機会があったらまた行こうと思える店だった。

「しかし料理人か……。食い意地とかで友人選ぶタイプでは訳ないし。純粋に人柄かな? 街に戻ったら一度訪ねてみるか。他には?」
「他には……あぁ。仕事の報告に、何度か学園長室に寄った事があるんだが、その時に彼女が学園長と囲碁や将棋を指している所を見た事があるな」

 その情報に、葵は、エヴァがやはり学園の主流派に属している事を確信する。

「将棋の腕前は? クセは?」
「残念ながらそこまでは……。あぁ、そうか、貴方は一応将棋が打てるんだったか」
「今でこそ行ってないが、元の篠崎葵は掛け持ちで囲碁・将棋クラブにも所属していたからね」

 葵は、懐に差していた鉄扇を抜き放ち、バッと開いて見せる。その時に起こった風で、たき火が大きく揺らめいた。

「しかし、将棋が打てると知ってれば、前の会談の時に一局指しておけばよかったな」
「? ……あぁ、なるほど。思考をある程度読むためかい?」
「うん、最もアイツの場合、平然と思考を切り替えてきそうだからどこまで役に立つかは分からないけど……」

 むしろ、こちらの手の内を晒すだけになるかもなぁ……。とぼやきながら、葵は手の平で、器用に鉄扇をクルクル回して見せる。最近、彼は考えを深める際に、鉄扇を手で玩ぶのが癖になっていた。鉄扇を持ち直し、それで軽く扇ぎながら、葵は思考を更に深い所へとダイブさせる。

(エヴァが学園の主流派に属していることは間違いない。学園のトップと気軽に遊んでいる事から、恐らくそれなりに発言力もある。それは、エヴァがこの学園にいる際には大きなメリットになっているはずだ。呪いを解くにしても、それを安々と手放すか? 賞金が取り下げられているとはいえ、学園との間に波風を立てればまた賞金が戻るのだって容易い筈。いくらエヴァでも、一々厄介事を引き連れるのはごめんこうむる筈だ)

(アイツ曰く、呪いを解くには、掛けた本人が解くか、魔力で無理矢理ぶち破るしかない……少なくともエヴァはそう考えている。それを信じるなら、ネギ先生の血を吸うしか今は方法がないということになる。もし、学園がエヴァの呪いを解く事を容認していたんなら、それはネギ先生が襲われる事も容認している事になる。そこまでするメリットがあるか?)

(てか、それならネギ先生に協力させればいい。子供だから大量にとはいかないだろうが、何回かに分けていけば確保できるだろう。ネギ先生の血だけでは解けない? あるいは、学園側は、やはりエヴァを縛りつけたままにしておきたいのか? あー、だめだ、どうしても推測ばかりが立っちまう)

 煮詰まった頭を冷やすために、鉄扇を扇いで風を起こす。同時に軽い筋トレにもなるから、葵はこうして扇いでいる時間は結構好きだった。
 そうしている内に、ふと思いついたことがあって、小声で龍宮に尋ねる。

「龍宮、今俺達を付けている奴らがいないか分かるか?」
「!? あ、あぁ、3人程こちらを覗きこんでいるのがいるよ。よく分かったね?」
「いや、前に一人、お前と同じ制服の女子に尾行されてたのに気がついちまったからな。多分、今も付いてるんだろうなっていうのは予測していた」

 葵がそういうと、龍宮は頭を抱えて「あのバカ……どこまで冷静さを失っているんだ」と小さく呟いた。葵には、その呟きは耳に入らなかったが、同じ制服だった事から、知り合いなのだろうと推察する。

「まぁ、いいや。とにかく、尾行している奴らの顔は分かるか? 多分一人は、あの女の子だと思うけど……」
「……先輩の言うとおり、一人は私達の制服を来ている少女だ。そして残りは、恐らく彼女の事も一緒に監視しているのだろう。一人は覚えがある気配だ。傭兵と言う存在が学校に入っているのが嫌いだという男でね。私を毛嫌いしている奴だ。もう一人は覚えがない。恐らくそれほど重要なポジションにはいないんだろう」

 この時、龍宮は魔眼を発動させて覗き見るが、その一人には本当に見覚えがなかった。

「なるほど。傭兵を呼び込んだ学園に、その傭兵を毛嫌いする教師か……。学園は一枚岩じゃない。そゆことか」

 葵は、鉄扇をパタンと閉めると、再び龍宮に向き合った。

「一応明後日には山を降りる。そういう予定だったな?」
「あぁ、学校の準備もあるしね。先輩は、後は自分で伸ばしていくしかないさ。正直な話ね? この春休みで、基礎は可能な限り仕上げた。後は楓が言っていたように、反復させて身体に染み込ませるしかない」

 龍宮は静かに立ちあがって、その長い髪を軽く掻き上げる。

「もうすぐ4月だ。どういう形になるかは分からないが……決戦だな」
「そうなるな。やれやれ……どうにか勝ちを拾うためにも、学園に戻ったら情報収集だな」

 葵も静かに立ち上がり、たき火の始末に入る。
 約束の4月は、もう目前に迫っていた。








≪コメント≫
 
大変お待たせいたしました。Phase.12です。
最近になって、自分がきちんと物語を書けているのか不安に思う時があります。

元々、書きたい話を形にしていくのが楽しかったのですが、最近ではただ更新のためだけにワードを開いており、当初あった良作にしていこうという気持ちが薄れてしまったような気がしています。

これからは、心機一転、初心に戻って、物語を書いていくつもりで頑張りたいと思います。

少々厳しくとも、ここが足りない。ここをこうした方がいいなどの御意見、ご指摘がございましたら、是非是非よろしくお願いいたします。

 それでは、また次回。これからも皆さん、よろしくお願いいたします。


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